タイトル:Jrの特殊部隊マスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/16 03:37

●オープニング本文


 父のウッドラムに似なかったのか、ジュニアは同年代の子供達の中でも小さい。大概、一つ二つ年下に見られる。
 けれども、運動能力は同年代の子供達の中でも高く、所謂すばしっこいって奴だ。それから行動力があるので、友人達を組織して、近所の年上の子供に売られた喧嘩を買いに行ける程度には慕われていた。
 で、何故かモテる。2月14日にはジュニアの元に大量のキャンディボックスが届けられた。けれど、ジュニアからはあげない。気恥ずかしいのか、俺には関係無い! と言い張る。
 ところが実は、一つだけ、キャンディボックスを用意してある。
 お隣のベティに渡そうと思って用意していたものだ。
 けれど、14日に当のベティから、手作りのチョコチップ入りスコーンを差し出された時に、数人の友人の前でもあったジュニアは張らなくていい意地を張り、「お前から貰っても嬉しくない!」と高らかに宣言してしまい、仲をこじらせて、今に至る。

 そんな事はすっかり忘れて、何時ものように公園で走り回っていた時。
「ジュニア!」
 数人の女子に、呼び止められた。何だか酷く慌てている。
「ベティが落ちたの! 助けてあげて!」
「どこに?!」
 慌てているどころか、どうしていいか分からず、泣いている。
「お屋敷‥‥」
「何かぬるぬるのが落ちてきて、それからベティも落ちたの!」
 お屋敷とは、歩いて5分程の所にある大きな邸宅である。老朽化から、取り壊しが決まっていて。立ち入り禁止になっていた。
 外観はありがちな洋館で、中央の扉を入ってすぐエントランスに階段があり、左右に続く廊下には5部屋くらいづつ、部屋が並んでいる。この3階建ての建物は、彼らの冒険心をくすぐるのか、よく遊び場として選ばれている。
「よし、お屋敷の入り口に集合な!」
 ジュニアの一言で、遊んでいた男子グループ3人は解散し、どこかに思い思いに走る。ジュニアも走った。助けを求めに来た女子は、ほったらかしである。

 家に帰ったジュニアは、お気に入りの左サイドハーフの選手の名前が入った地元フットボールチームのレプリカシャツに着替え、トリガーを引くと小さなプラスチックの弾がふわりと飛び出る子供向けのエアーガンをジーンズに挿して、それからバレンタインに貰った大量のキャンディボックスから、小さい缶を選んで背中のザックに幾つか入れた。父が現役の頃、基地で買ってもらった「S.R.P 33rd Reg」の刺繍入りのタオルも詰め込んだ。それから父に貰ったヘルメット。ジュニアの頭には大きくてふらふらする。けど、顎紐をしっかり締め、どこで覚えたのか、シガーチョコをヘルメットに挿した。あとは、父の工具の中から懐中電灯を取り出した。大きめの乾電池が4本入っていて、そのまま殴れるが、ジュニアには少しばかり重たいらしく、両手で抱えている。
 そのまま自分の部屋の扉を開けっ放して、階段を下る。玄関のドアに手をかけたところで、奥から声。
「どこ行くの? 危ない所に行っちゃダメよ?」
「俺は危なくない!」
 危ないのはベティなんだ。でもそれを言うとママは羽交い絞めで止めるから、内緒にした。
「パパ!」
 何か思いついたらしく、居間に居るであろう父親を大声で呼ぶ。
「なんだー?」
 声だけ返ってきた。
「ぬるぬるしたのと戦ったことある?」
「スライムか? あるぞ」
「勝った?」
「引き分けだな。銃の弾は効かないぞ」
「わかった」
 それだけ、玄関と居間で遣り取りをした後、ジュニアは乱暴にドアを閉めて出て行った。

 お屋敷の正面の門は閉まっていた。けれど、鍵は閉まっていないのを知っている。
 一番最初に門の前に着いたのは、ジュニアだった。
 それから間を置かず、他の3人も集まる。思い思いに武装をしていた。
「よし、行くぞ」
 ジュニアを先頭に、門を潜る。
 ジュニア大尉の特殊部隊は、ベティ救出のため、お屋敷への潜入任務に就いた。

●参加者一覧

アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
黒桐白夜(gb1936
26歳・♂・ST
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
黒羽 空(gb4248
13歳・♀・FC
琥金(gb4314
16歳・♂・FC
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

●内緒の遊び場
 そこを最初に見つけたのはジュニアで、彼の一回り小柄な体がそれに一役買った。
 そこ、とは門扉に続く外壁にあった、小さな穴である。
 小柄なジュニアは目敏くそこを見つけ、ごそごそと潜り込み、内側から門扉に掛けられた閂を抜いて、彼とその一味が入れるようにしたものだ。
 ジュニアの見つけた「秘密基地」は、彼の友人にあっという間に広まり、定期的に探検を繰り返し、またあっという間に1階から3階まで、彼らは掌握してしまった。
「女子には内緒だぞ!」
 と声高に宣言したのはジュニアだったのだが、事もあろうにジュニアがベティに漏らしている。
 バレンタイン前の事である。
 KVごっこをしつつ、ちょくちょく公園から姿を消すジュニア一味を不審に思ったベティが、彼らを追跡したのだ。
「危ない事してるならジュニアのお父さんに言うからね!」
 という一言にあっさりと負け、実は外壁に穴があること、それから門扉を開けられるようにしている事を自白した。
 こうして、女子にも「秘密基地」の存在は露見し、また女子の間にも、探検が流行る結果となる。
 秘密基地の存在をバラしたのは自分ではない、とジュニアは言い張っている。当然嘘なのだが、ベティに何度誘われても頑なに、一緒に探検に行くのを拒んでいるのが、彼なりのけじめであったりする。

 ジュニア大尉一行は、まず3階まで昇り、虱潰しに部屋の探索を始めた。
 ベティの居場所を女子に聞きだしてから来れば、真っ直ぐ彼女の元まで辿り着けたのだが、彼ら4人はそこまで頭が回っていない。
 掌握しているとは云え、どうにも怖い。1部屋づつ見て回る勇気はある癖に、大声で呼びかけたりする勇気は無いらしい。もう少し時間が経過して夕方になって、さらに陽が沈めば、光が射し込まず真っ暗になるのを知っていたりして、その辺の恐怖と、ベティ救出に賭ける意気込みが、微妙なラインでせめぎ合っていたりする。
 恐る恐る、でも精一杯虚勢を張って、軋んだ扉をバタンバタンとしながら、各部屋を見て回る彼らには、ずるずると何かが這い回る音は聞こえていない。

●3階
「おー雰囲気あるなー。こりゃ確かに遊びたくもなるかな」
 まだ陽が射し込む。黒羽 空(gb4248)は手の中の懐中電灯を弄びつつ、建物を見回す。
 こつこつと廊下を歩く足音だけが響く。
 天井がいやに高い。
 壁の塗りが経年劣化でぼろぼろになっているのだが、現役当時はだいぶ豪奢な作りだったのだろう。
 バロックだかゴシックだか知らないが、堅牢そうな石の床は、黒羽が心配していた「踏み抜く」心配は無さそうだ。
 それでも、ミイラ取りがミイラになっては元も子もない。階段を昇って来た時と同じように、一歩づつ、確認しながら進む。
「おーい、誰かいないかー」
「返事は‥‥ありませんね」
 部屋のドアを閉めつつ、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が代わりに答える。
 カメラの映像には、自分達2人以外は映っていない。
 シンは弟が襲われ、大怪我をした時の事を思い出し、それと重ねていた。
 ここで手を拱いている時間は無い。一刻も早く、ベティもジュニア達も助け出さなくてはならない。

●2階
「ベティちゃん〜」
 夢姫(gb5094)の声が室内に通る。返事は無い。
 階段を昇って2部屋目。アズメリア・カンス(ga8233)がぐるりと見回すが、誰かが来た気配は無かった。
「‥‥居ませんね〜」
 ちょっと溜息を吐いた夢姫が零す。
「焦らず、だけど素早く行きましょう」
 隣の部屋に移動しようと、アズメリアが廊下に出る。と。
「お」
「やべ! 見つかった!」
 階段の踊り場を挟んで向こう側の部屋から丁度出てきた、ジュニア達一行と目が合った。
 どうやら「悪い事をしている」という自覚はあるのか、アズメリアと夢姫の2人が何か反応するより早く、チビ達は階段に向かって猛然とダッシュを始める。
「あ! 待って!」
 思わず夢姫が声を上げるが、彼らは止まる様子も無く階段へ向かう。
「ベティを!」
 アズメリアも声を掛ける。ベティの名前を出したのは効果的だったのか、ジュニアの足が止まった。
「ねーちゃん達も、ベティ探してるのか?」
 くるりと振り向いたジュニアが訊く。
「そう、私達も探してるの。手伝わせてもらえる?」
 優しい表情を作るアズメリアに、ジュニア達の顔が明るくなる。
「一緒に協力して探しましょう」
「よし、ねーちゃん達も仲間に入れてやる! 着いて来い!」

●公園にて
 ジュニア達が、泣き止まないベティの友達を残して去った後の公園は、ちょっとした騒ぎになっていた。
 赤と青の回転灯の光がちかちかと、公園を照らし出していて、たくさんの大人が集まってきた光景は、ベティの友達にはひどく大事件に見えて、さらに彼女らをうろたえさせる。
「大丈夫だから、もう安心して」
 浅川 聖次(gb4658)が優しい目で宥めるが、ひっくひっくとしゃくり上げる声は止まらない。
 これでも、大分マシになったと言える。ハミル・ジャウザール(gb4773)と共に、この公園に着いた直後は、それこそ泣きじゃくって話にならなかった。
「ベティの落ちた場所、教えてくれますか?」
 膝を落として、視線を合わせてハミルが訊く。
「あ、あのね‥‥ひっく‥‥うぅ」
「ひっく‥‥えっと‥‥2階はね、行くなって、ジュニアが」
「お、奥の部屋はね‥‥崩れてて‥‥う‥‥ひっく」
 要領を得ない。
 これでも、大分マシになったのだ。
 制服を着込んだ警官が取り囲んで話を聞きだそうとした時には、彼女達にはそれが威圧的に見えて、何かを話すどころではなかったのが、浅川が宥め、ハミルが賺して、ようやくここまで漕ぎ着けている。
「状況は、あまり良くなさそうですね」
「我々も急ぎますか」
 2人が子供たちからようやっと聞き出した情報は、纏めるとこうだ。
 彼女らは何度目かの、屋敷探索の旅に出かける。
 入って正面の階段を昇り、2階の廊下を左にずんずん進んで行った一番奥の部屋に入った。
 入った所で、天井がみしみし言い始め、轟音と共に何か降ってくる。
 降ってきたぬるぬるの物体は、1人窓際に立っていたベティを巻き込んで、さらに下の階へと、轟音と共に落ちた。
 ベティも一緒に落ちたのを確認すると、早く誰かに知らせなくてはと考え、公園まで飛んで帰ってくる。
 と言うことは、ベティは1階の左一番奥の部屋。
「しっかり掴まっていてくださいね」
 浅川がスロットルを捻る。タンデムに座ったハミルが、屋敷に先行したチームに連絡を入れた。

●1階
「‥‥まぁ、勇敢なのは、良い事だけどなぁ」
「ベティというコも、おてんばさんみたいだね。男の子ならわかる話だけども」
 黒桐白夜(gb1936)と琥金(gb4314)が玄関へと戻る。
 2階を探索していたアズメリアと夢姫から連絡があったのはついさっき。そして、ベティの友達から情報収集をした浅川とハミルからも連絡があった。
「いいか! 俺の指示無しで動くなよ!」
 1階探索担当であった2人が階段を見上げると、ジュニアが威勢良く声を上げながら、アズメリアと夢姫を先導して降りてくる。
「君がジュニアだね」
「‥‥お前達、ねーちゃん達の仲間か?」
「そう、俺らもベティを探しに来たんだ。部下にしてもらえるかな? ジュニア大尉殿」
「危ないから、洋館から離れていてもらうことはできるかい?」
 ジュニアが何か言う前に、一行は階段を駆け下りるシンと黒羽に気づく。
 彼の部下はこれで6人増えた。浅川とハミルも程なく到着し、8人がジュニア大尉の指揮下に入る。

●奥の部屋
 ドアの前に真っ先にジュニア達が張り付いたのを、「隊長は後ろから指示を出すものだ」と、黒桐もハミルも夢姫も一斉に引き剥がした。
 シンと浅川が子供達に付き、それからアズメリアと琥金と黒羽が、ジュニア達に代わってドアに張り付く。
 中からは何かの気配。
「行きますよ、大尉殿」
 アズメリアが促す。視線がジュニアに集まり、一度、ごくりと息を飲んだ。

 部屋の真ん中に鎮座する「ぬるぬるした奴」を無視して、上の階から落ちてきたと思しき瓦礫を乗り越え、ハミルと夢姫が回りこむ。
 部屋の奥にベティが倒れている。足を痛めているのか、うずくまって抱えていた。
「あ、ちょっと!」
 浅川の制止を振り切って、ジュニアはベティの元に駆け寄る。
 そのジュニアを目掛けて、体を震わせて攻撃を仕掛ける「ぬるぬるした奴」との間に黒羽が入り、攻撃を受け止めた。
「犠牲者が出てしまう前に、倒させてもらうわよ」
 アズメリアの振るった切っ先が、「ぬるぬるした奴」を捉える。キメラは一度体を振るわせた後、目標を切り替える。
 泣くだけ泣いて、体力を使い果たしたベティを、夢姫は抱きしめていた。
「怖かったよね?」
「うぅ‥‥」
 そこをキメラは狙う。ずるずると体を動かし、二度、三度とぶつけてくる。
「危ない!」
 ベティを抱きしめたままの夢姫と、それをかばうハミルは、ぬるぬるした奴の攻撃を正面から受けた。
「こっちも、ベティのほうへ回りこむ」
 黒桐が回り込む。その動きを妨害するように、キメラがその体を足元に纏わり付かせるが、琥金の振り上げた槍がくるんと、キメラを薙ぎ払う。
 間を置かず、シンの放った援護射撃がキメラを直撃する。
 射撃を受け、「ぬるぬるした奴」が怯んだのを見逃さず、ジュニアが両手に抱えた懐中電灯を振りかぶり、意を決したように「ぬるぬるした奴」に走った。
「おっと!」
 ジュニアに付いていた黒羽は、走り出した彼を止めずに、自身の剣を振り上げ、一緒に走る。
 シンも黒羽が一緒に走っているのに気づいたのか、再びエネルギーガンを放つ。
「てやっ!」
 掛け声とともにぐにょん、と、ジュニアの両手の懐中電灯が「ぬるぬるした奴」に当たったのと同時に、黒羽とシンの攻撃によって、キメラは息絶えた。

●仲直り
「お疲れ様でした、大尉殿」
 ハミルが持ってきたチョコは、子供らに一斉に奪われ、彼らの緊張と空腹を解消させるのに一役買った。
 けれどジュニアだけ、受け取らなかった。
 浅川の背で、体力を使い果たして寝息を立てているベティを、ジュニアは横で見ている。
 ジュニアの手から、あの重たい懐中電灯は無くなっていて、代わりに小さな箱が抱えられていた。
「それは?」
「‥‥ベティにあげるやつ」
 浅川が聞くと、ジュニアは少しバツが悪そうに答える。
 その箱を、ジュニアは浅川に黙って突き出した。
「自分で渡せばいいのに」
「隊長の命令が聞けないのか!」
 また隊長風を吹かせるジュニアに、浅川は苦笑いで、もう一度付き合ってやる事にした。
「わかりました、ジュニア大尉殿」
 キャンディボックスを浅川に押し付けると、ジュニアは振り返りもせず真っ直ぐ走ってゆく。
 後姿と、押し付けられたキャンディボックスを交互に見比べて、浅川は妹へのお返しを考えていた。