●オープニング本文

「さ、さんびゃくまん？！」
「馬鹿、声がデカイって！」
「あ、ああ‥‥すまん。‥‥その話、中尉は知ってんのか？」
「あのボンボンに言う訳ないだろうが」
「見つかったらどうすんだよ？」
「だぁから‥‥あのボンボンが気にする訳ないだろ？！　むしろ勝手に戦死報告でも送って貰ったほうが国に帰れて丸儲けだ」
「そ、そうか‥‥でもあれだ、強盗じゃないのか、それ」
「バグアの占領した町にある銀行はバグアの銀行だろ。宇宙人の金を盗んじゃいけません、なんて法律はねぇよ」
「おお、なるほどな。何か納得してきたぜ。‥‥でも、キメラ居るぞ。あれどうすんだよ」
「それだけどな‥‥ヘリが１機付く。６６６ＳＱのオッド少尉が乗り気だ」
「ヘリだけか？」
「いいや、俺らだけじゃ無理なのは知れてる。だから傭兵を呼んだ」
「マジかよ？！」
「マジもマジ、オオマジだ」
「‥‥ちょっと待て、１人頭幾らになる？」
「ボンボン以外乗り気で傭兵も呼んで山分けだから‥‥多くて５万か？」
「３００万あって１人５万？　少なくないか？」
「お前はあのキメラウヨウヨの中から３００万根こそぎかっぱらって来る気かよ？　そりゃあ、かっぱらって来ればもうちょい増えそうだが」
「よし、どうせなら根こそぎやろう。どうする？」
「夜だ。外にあるＡＰＣ２両とジーザリオを拝借する。それからヘリ」
「俺らはヘリか？」
「逆だ逆。ヘリと、傭兵連中に派手に暴れてもらう。その隙に、俺らがＡＰＣとジーザリオで乗り着ける」
「‥‥派手に暴れたら中尉にバレるんじゃ？」
「あのボンボンは耳元で銃声がしても起きてこねーよ」

●参加者一覧

●リプレイ本文

　さて、これを読んでいる諸君に、悲しい報告をしなければならない。
　一つだけ、言えるのは、戦友は信じる事だ。それから、抜け駆けをする奴は後ろから誤射されても文句を言えない、と肝に銘じる事だ。
　それでは、心して読んで欲しい。

●お金に目が眩んだ人集まれ

　さて、この私利私欲に塗れた、呆れる依頼に集まった面々を見てみよう。
　まずは翠の肥満（ga2348）。マジックハンドマイスター。サングラスの奥が牛乳に怪しく反射する。
　それからゴールドラッシュ（ga3170）。自称賞金稼ぎ。こんな大味な作戦で銀行強盗のノウハウなんて得られるのか。
　ＯＺ（ga4015）。最悪なこいつには、金稼いで銃ぶっ放せるとかお誂え向きすぎる。
　次に空閑　ハバキ（ga5172）。気のいいあんちゃんがこんなしょーもない作戦に食いつくとは夢にも思わなかった。
　続いてクロスフィールド（ga7029）。多分この面子唯一の良心。けれど作戦に参加している時点でもうアレ。
　さらに不知火真琴（ga7201）。この陽気は娘っ子はきっとこの依頼の問題点だとか犯罪っぽい所にまで思い至っていない。
　水流　薫（ga8626）。このミリオタは昔見た映画との何かを感じ取ったらしい。
　最後にテト・シュタイナー（gb5138）。貴重なサイエンティストの姐御は金庫破り担当。
　この８人と、中尉を除く数十名。現金の救出に燃える一行、どうなるやら。

●現金救出作戦始動

　誰もが寝静まる夜に、その拠点だけは煌々と明りが点り、中尉と呼ばれた指揮官を除く全員が、出撃の時を待っている。
　目標は５ｋｍ先の銀行。不知火と水流はそれっぽく強盗の格好をしている。格好から入る、というやつだろうか。
　その不知火と、ＯＺ、それから空閑の仲良しトリオは、不知火のジーザリオに乗り込み、ヘリと共に先行。
　運転席にＯＺ、助手席に空閑、幌を外した荷台に不知火。
　戦闘によって悪路になった道をぴょこんぴょこん飛び跳ね、左右にぐねんぐねんステアリングを切りつつ、街中を右へ左へと走る。。
　にぱにぱとマスクの下に笑顔を浮かべながら、空閑の用意した大口径ガトリングを無差別に銃撃しつつ、拠点から掻っ攫って来た手榴弾をポイポイ投げる、もとい、撒く不知火の姿は実に楽しそうである。
　不知火に楽しげなおもちゃを提供した空閑は助手席から、ショットガンを乱射している。運転席に居るのに身を乗り出して、これまた掻っ攫って来たＲＰＧをぶっ放すＯＺのサポートのためにステアリングを握ったりして、器用なもの。
　ところで、この空閑は出発前に、翠と小賢しい事を考え、実行に移している。
　翠の、まるで飛行機乗りか、それともどこかの映画で見たアーマー兵士のようなヘルメットの脇に付いた丸っこい小さなカメラで、ブリーフィング後の燃える味方に妙な質問をする様をばっちり録画した。
　妙な質問とは、金を何に使うかだとか、中尉は流石にそんなに馬鹿じゃないんじゃだとか、或いは空閑は何の為か中尉の経歴やらを根掘り葉掘り聞きだし、要するに山分けの際に取り分を多くするための交渉材料、悪い言い方をすると脅迫の為の弱みを握ろうとしているのだが、実はこの時から、悲しい結末への歩みを始めていたりする。
　疑心暗鬼に陥るにはちょっとした事が切欠で、あっという間にその信頼はぼろぼろと崩れる。今回も当然、この妙な質問がトリガーとなり、「何でそんな事を聞くんだ？」と疑念が生じ、流石にそれを材料に脅迫なんて所までは思い至らなかったものの、もしや中尉と繋がっているのでは？　程度の疑念を抱かせるには十分だった。
　そんな一般兵の疑念は露知らず、盛大にショットガンを撃ちまくる空閑の横で、ＯＺは好き勝手にＲＰＧとライフルを交互に撃っている。
　よく見るとステアリングは握っていない。アクセルを踏んだまま、まさしく頭を空っぽにしていて、頭上を飛び回るヘリとの連携だとか、徘徊するキメラ共の誘導だとかは、横から体を捻ってステアリングを操作する空閑に任せっきりである。
　ところが案外この役割分担は巧く回っていて、運転席から派手に暴れるＯＺが全くアクセルを放さない事が、空閑のステアリング操作から迷いを無くして、さらに荷台から派手に火器を、まさにばら撒いている不知火のお陰で、そこらをうろつくキメラを器用に引き付け、銀行から遠ざけた。
　さてさて。

●いざ銀行へ

　さして大きくない町の、さして大きくない支店だったこの銀行にとって不運だったのは、バグアの襲撃を受ける直前に現金が運び込まれた事である。
　そしてこの８人と、兵士達にとって幸運だったのは、この小さな支店に、バグア襲来直前に現金が運び込まれた事である。
　空閑達３人とヘリが盛大に火柱を上げて、廃墟となった町に蠢く魔物共を引き付けている間に、いよいよ銀行へと救出本隊が動き出す。
　こんな時にジーザリオは役に立つらしい。
　クロスフィールドの運転で、横にゴールドラッシュを乗せて、この２人は突入チームの援護をする。
　さらにＡＰＣ１両と、軍が所有していたジーザリオも合わせて、歩兵一個分隊６人と乗員４人、総勢で１２人のチームが、今度は銀行前で派手に暴れた。
　つまるところ、後続の金庫破りチームの露払いである訳で、彼らの侵入、それから撤退まで、銀行の周囲を、ＯＺ、空閑、不知火の陽動チームが派手に飛び回るのを横目に、確保し続ける事が目的である。
　この、いかにも大所帯で重装備で、ともすれば街中の平和な銀行を襲うよりリスキーな計画を実行している強盗団に苦笑いなのは、クロスフィールドである。けれど、彼もここに居る時点で同類だったりして、それを本人も自覚していた。
　彼の特注である得物を片手で操り、運転席側の窓からマズルフラッシュを光らせながら、銀行へのルートを切り開いてゆく。
　そのクロスフィールドの運転するジーザリオのすぐ後ろを、ミニガンを荷台に背負ったジーザリオが続き、さらにＡＰＣが後続する。１個分隊６名しかＡＰＣに搭乗していないのは、ガンポートから銃口を覗かせるためだったりする。
　で。
　クロスフィールドの横のゴールドラッシュというシスターは、ここでもう一度言うが、どうやら銀行強盗のノウハウを得たいらしい。
　運転席から纏わり付くキメラを蹴散らしながらノリノリなのだが、もう一度言う。こんな大味な作戦でどんなノウハウが得られるのか、正直よく分からない。
　銀行の前まで辿り着くと、彼女は車を停めて、クロスフィールドの制止も聞かずに、飛び降りて銀行内へ向かった。

●金庫を破れ

　飛び降りたゴールドラッシュを先頭に、翠と、水流と、それからテトの姐御が銀行に入る。
　金庫室へと続く階段を降りると、外の喧騒とは打って変わって静かなもので、キメラの姿も無く、翠と水流の仕事はさし当たって無さそうに見えた。
　テトの出番である。
　難なく金庫の前まで辿り着くと、テトが張り付く。
　本当なら銀行のセキュリティだとかが生きていると想定していたのだが、全部死んでいて、身構えていたテトは肩透かしを食らった所だった。
　さて。
　どこから持ってきたのか、聴診器を貼り付けてダイヤルをぐるぐるする実に古風なやり方で、彼女は開錠を試みた。
　しんとした室内に、ダイヤルの回るかちかちと云う音だけが響く。
　右に左に、数回づつぐるぐるダイヤルを回した後、中央のハンドルを握り、力を加える。
　‥‥。
　‥‥。
　ハンドルは回らなかった。
　ちょっとバツの悪そうな顔を翠と水流に見せた後、きょろきょろし、大きな扉の脇にある小さなパネルに張り付く。
　どこから持ってきたのか、妙なノートＰＣを妙な方法で接続し、忙しげにキーボードを叩いている。
　数分、カチャカチャキーボードを叩いた後、中央のハンドルを握り、力を加える。
　‥‥。
　‥‥。

　ここで、彼女ら３人と一緒に金庫室に潜り込んだ歩兵チーム６人の動きを説明しておく。
　元々彼らは「開錠」などする気はさらさら無く、金庫の前に陣取る３人とは別行動で、金庫の横、壁にあたる部分に、キメラ相手に使うような爆薬を幾つも幾つも仕掛け、しかも戦火で脆くなった箇所に器用に仕掛けるものだから、爆破すると綺麗に吹き飛んで穴が開いたりした。

　テト曰く、「俺様の辞書に不可能の文字は無い」らしい。
　ハンドルを握る手にぐっと力を込めたが、ぴくりとも動かない。
　よくある、瓶の蓋の右ねじと左ねじを間違えた時のように、逆方向に動かしてみるが、ぴくりともしない。
　で、翠と水流が何か声を掛ける前に、短く爆発音が響くのだ。
　本来ならここで、扉が丸ごと、ごろごろと転がったりするものだが、流石にそれはやりすぎなので止めておく。
　ともあれ、一行はまんまと金庫内に入る事に成功した。

●運び出せ！

　どうやら３００万というのは眉唾だったらしく、１００万強の現金がそこにあるだけだった。
　この強盗もとい救出作戦で、いや、救出作戦と云うのは、無事救出された時に皆が祝福の笑顔を向けるものであって、今回もご多聞に漏れず、強盗様ご一行は笑顔で現金を金庫から助け出した。
　その殆どはＡＰＣに。
　一部はクロスフィールドの乗りつけたジーザリオに。
　今思えば、この一部が、彼ら傭兵８人衆の報酬に繋がったと言っていいだろう。
　ＯＺがふと、「車ごと頂いていけばいいんじゃね？」と漏らしたのが切欠で、悪知恵の働く翠が何かピンと来たらしく、現金を運び出すのに忙しい兵士に隠れて、こっそり、貸し金庫に打ち捨てられた分を全て、運び出した。当然、こっそり内緒に、である。
　さらに、ゴールドラッシュの行動も功を奏した。
　彼女は現金というより金目の物の救出にご執心で、手近な金目の物、ここで云う「金目の物」とは、捨て値でフリーマーケットに流すしか無い程度の物も含まれるが、金目の物を片っ端からポケットと云うポケット、バッグと云うバッグに突っ込み、銀行を出た。
　一行は実に幸せそうな笑顔で、銀行から戻る。

●悪夢の交渉

　金の亡者、とは良く言ったもので。
　戦利品分配の最中に突然交渉の席を、と言い出した翠に、傭兵８人衆以外の全員は呆気に取られた。
　と同時に、救出作戦開始前からむずむずしていた、疑心暗鬼がむくむくと顔を出した。
　空気が変わったのを、翠も気づかないではなかったが、それよりも報酬のほうが魅力的だったようで。
　本当なら１人２５万と言いたかったらしいが、そもそも足りない。なにより当初の話通り３００万あったとしても、８人で２５万づつ持って行けば、残り１００万である。飲む筈が無い。
　その保険として、例のヘルメットのカメラと、出発前の妙ちくりんな質問らしい。
　姑息だ。
　２５万を要求するには根本的に足りないので、１５万に減らして翠は交渉を始めた。ところが、これが最低の妥協点らしい。
　１００万強で、８人で１５万持って行っては、何も残らない。飲める筈が無い。
　そこで、満を持して例のカメラの記録を持ち出すのである。
　確かに脅されても仕方ないような、上官侮辱などが記録されている。おまけに、いろいろ聞き出していた空閑の証言まである。言い逃れは出来ない。
　姑息である。
　ところが、兵士達は「姑息だ」とは思わなかったらしい。この場合、「火に油」と表現すると正しいだろうか。ただでさえ重く嫌な空気が、一気に殺気立った。
　実際に戦場に出ていた兵士は、歩兵一個小隊にヘリ、車両の乗員合わせて２０名程度だが、実は計画に一枚咬んでいた裏方はもっと沢山居て、具体的には派手にやらかすのを見逃して貰う為に他部隊への根回しだとか、武器を調達したり車両を準備したり、一見するとザルな計画にも実に軍隊らしい数の人間が動いていて、その数十人の殺意の篭った視線に射竦められ‥‥。

　山分けでいい、と妥協を示したのは水流である。
　この場合、水流に感謝するべきだろう。
　あの状況で強硬に１５万を主張などすれば、どうなっていたのやら。
　それでも、ＯＺの漏らした一言と、ゴールドラッシュの機転、と言うか執念によって、一定の額は得られた。
　不知火あたりは終始楽しそうであったし、結局開錠できなかったテトも、クロスフィールドも満足げであったので、救出作戦は恙無く成功、と言えるかも知れない。
　ただ姑息な事を考えて、取り分が目減りしたのは言うまでも無い。
　一時停戦をしていた翠と空閑が、また犬猿の仲に戻った事も付記しておく。
　但しこの２人は、仲良くカメラの記録と証言を軍に提出している。