タイトル:【DR】フライトプランマスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/04/19 23:14

●オープニング本文


 単純な任務である筈であった。
 プルコヴォから、旅客機の合間を縫って離陸し、プレセツク宇宙基地を目標にフライトする。
 二手に別れ、片方が空軍の飛行隊から任務を引き継ぎ、AWAC機の護衛に就く。
 もう片方が、アルハンゲリスク北東に侵出したバグア勢力と接する空域をパトロールする。
 引継ぎを受けてから、もう一度空軍の航空隊に任務を引き渡すまで3時間。
 何も無ければ、飛んでいるだけで終わる任務であった。

 レーダーに幾つもの輝点が明滅する。それは戦況の変化に伴って動く、幾つもの友軍機。
 刻々と変化する輝点の動きを追って、矢継ぎ早に指示が送られる。それは目標の位置であったり、ウェイポイントの指示であったり。
「ワイルドキャット、間もなく目標空域に進入します。高度5000を維持、FAC管制へハンドオフ」
 監視員が友軍機に指示を送る。背中の巨大なロートドームからの強力なレーダー波は、ジャミング下であっても、重要な航空警戒管制の一部として機能している。
『ワイルドキャット了解』
「スカルライダーへ、方位125へ転進、ウェイポイント6まで高度22000を――」
 突如、レーダーに激しいノイズが乗り、監視員席が色めき立つ。
「ジャミング!」
「輝点10、ヘルメットワーム!」
 前線後方に低空侵入した機体。グラウンド・クラッターに阻まれ、接近されるまでその存在を探知できなかった。
「くそっ! 目標をロスト!」
 レーダーが沈黙する。この空域を飛び交う数十の友軍機が全て、その「目」を失った。



 アニー・シリングの弟、ステファン・シリングはこの日、前線で交戦中の友軍に対するCAS機誘導のため、僚機と共にFAC任務に就いていた。
 同空域に侵入したCASチーム、コールサイン「ワイルドキャット」のコントロールを、広域管制を行っていたAWAC機「ブルードレッド」から引き継いだ直後、それは起こる。
 ステファンはこれが実戦2回目のフライトで、僚機の指示を受けFAC訓練飛行中であった。ブルードレッドが攻撃を受けたのは、丁度ワイルドキャットをコントロール下に置いたばかりであり、状況の変化を把握できていない。
 ワイルドキャットが更に高度を下げ、予定通りのコースを飛行し、攻撃目標へのアプローチに入った時、彼の僚機が火球へと変わる。
 低空で地上目標を中心に観測を行っていたステファンの機体と、同じく対地攻撃の為に低空侵入するワイルドキャット隊4機の目には、高高度から降下する6機のヘルメットワームが映っていなかった。
 この時、ステファンがマニュアルに従い指示を仰ぐため、ブルードレッドにコンタクトした事により、彼らは、自分達が強力なジャミング下にあるか、もしくはAWAC機に何かあったか、いずれにしても最悪な状況である事を理解する。
 こうして、ステファンの乗機とワイルドキャット隊は、目隠しのままワームの前に放り出された。



 コールサイン「スカルライダー」と呼ばれる飛行隊は、プルコヴォからアルハンゲリスク北東へと発った、二手のうち片方である。
 AWAC機より前方、最前線に展開し、防空識別圏をパトロール、侵入する敵機を殲滅する。
 ステファンとワイルドキャット隊の飛行するエリアとは僅か数十キロで接するが、後方に展開するブルードレッドへの接敵は、距離が遠いこと、展開箇所とは別方向から侵入されたことにより、探知できなかった。
 ブルードレッドとの交信が途絶えた事により、事態の急変が伝わるが、それと同時に、彼らもジャミング下に置かれる。
 空域に侵入するヘルメットワームは12機。ブルードレッドに発生している危機については、詳細が伝わらないまま。
 目を失ったまま、彼らのフライトプランは変更を余儀なくされた。

●参加者一覧

ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ステラ・レインウォータ(ga6643
19歳・♀・SF
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
九頭龍・聖華(gb4305
14歳・♀・FC

●リプレイ本文

 神経を逆撫でするロックオンアラートを聞いて、自分に当たらなければいい、と誰もが思うだろう。
 アラートが鳴り止み、一呼吸してレーダーとHUDに目を遣る余裕が出来た時、全部の味方が無事ならいい、と誰もが思うだろう。
「有能な兵士」である条件には、敵のエースを向こうに回して遣りあう力は、必ずしも必要とはされない。
 求められるのは、状況を瞬時に判断し、最適な解を導き出せる能力である。
 例えその解が、手を伸ばせば届く所で悲鳴を上げている、味方を見捨てる事だとしても。

 ブルードレッドを見失い、ジャミングの影響下に置かれた直後の8機は、素早く態勢を立て直しにかかった。
 ステラ・レインウォータ(ga6643)が真っ先に反応し、指示を飛ばす。
「交信途絶‥‥何かあったのでしょうか」
 空域に接近する敵部隊が複数。それから、見失う直前に接敵した味方機が、20km先に。
「‥‥まずいな」
 自機をリュドレイク(ga8720)の斜め前に付け、ファファル(ga0729)が零す。突破口を開くにも、どこから手をつけるべきか。
「まったくうまい具合に奇襲されたな」
 神撫(gb0167)も機体を九頭龍・聖華(gb4305)の横に付け、侵入しつつあるヘルメットワームの編隊と正対する。残りの4機は機首を落とし、ワイルドキャット隊を見失ったエリアへとブーストをかける。
 20km先。17,000フィート下。
 KVの足なら、そう遠くない。

●20km先の味方
 一足早く機首を廻らした4機は、速度を上げて、ワイルドキャット隊をロストした空域に近づく。
 高度計が表示を読む隙もないほどに動き、シートに押し付けられるGを感じながら、鷲羽・栗花落(gb4249)は、その両目でHUDを睨み付けていた。
 雲の中なのか、それとも地表に紛れているのか、時折何かがちらちらと太陽光を反射するだけで、味方の姿も敵の姿も、まだ確認できない。
(「無事でいて、お願い!」)
 トリガーに指を掛け、前に目を凝らす。
 ステラ機は、まだワイルドキャット隊とコンタクトを取れていない。
『――ですが、おそらく交戦状態です』
 報告を聞きながら、翠の肥満(ga2348)も、鷲羽と同じ、反射する太陽光を見ていた。光はくるくると動き、空戦機動を取っているように見える。
 高速で下降を続け、その光が、鷲羽と翠の見るHUDのシーカーを慌しく反応させ始めた時には、後続のステラと、遠倉 雨音(gb0338)の肉眼でも、それが交戦中の機体であると、はっきり確認できた。
「行くよアジュール、皆の命を守るために!」
 鷲羽機のコンテナから、無数のミサイルが白煙を残して飛んでゆく。同時に彼女は、「アジュール」を右に一度捻り、シーカーが捉えた目標に高度を合わせる。
 目標は6。ステラ機が捉えていた機影も6。シーカーは5つまで捉え、けれどまだ、飛んでゆくミサイル達に、「アジュール」が目標の姿を覚えさせるまでは少し時間が足りなかった。
 第一波はそれでいい。飛んできた幾つものミサイルを見て、敵機が回避機動を取ってくれれば。それが狙い。
 キャノピーの上に伸びる白線を見ながら、彼女は再び動き回るシーカーと「アジュール」に、今度は少し時間を与えた。
『第二波を!』
 間髪を入れないステラの声と被るように、翠も無線を開く。
「ワイルドキャット、こちらスカルライダー、貴隊の姿を確認した。これより支援に入る――というわけで早く逃げてくれい、おケツは任されたっ!」
 後半は無線に乗ったかわからない。鷲羽機と同じ右方向に機をブレイクさせつつ、トリガーを引き続ける。
「慌てろ慌てろ落ちろ落ちろ‥‥!」
 弾道を目で追いながら呟く。
 こちらも目的は鷲羽機の第一波と同じだった。敵機が散ってくれればいい。そしてあわよくば、撃墜できればいい。
 翠がロケット弾を戦闘空域の真ん中に撃ち込んだ直後に、ステラと遠倉も自機をブレイクさせた。それとほぼ同時に、ワイルドキャット隊も動く。
「ブレイク!」
 アラートを聞きながら、ステフはCAS機に指示を送る。
 自分も逃げつつ、けれどレーダーから目を離してはいけない。高度を更に落として、地表を這うように飛行する。
 教練通り、マニュアル通りに対処する。けれど、マニュアルに無い事態が訪れた。
『スカルライダー、ステラよりワイルドキャットへ。当空域の管制を一時的に当機が掌握します』
 ただ、付近を飛んでいたパトロール機が支援に来てくれただけだと思っていた。ところが。
 地の性格のまま「何を言ってやがるんだ」と、インカムに叫びそうになり、思い留まる。訳がわからない。
『ステフ! どういう事だ?』
 CAS機のフライトリーダーも、事態を把握できなかったのか、呼びかけたステラに対して復唱もせず、怒鳴りつけてくる。
 無理も無い。
 爆弾だけを山ほど抱えて、対空装備は一つも無く、ただ逃げるしかない状況で、自分を安全な所まで誘導するガイドが2人立候補したのだ。
『繰り返します。こちらスカルライダー、ステラより――』
 復唱が無いので、ステラからもう一度声が届く。
 キャノピーの上を、影が二つ通り過ぎた。高度を違えて、ステラ機と、その直衛に付いている遠倉機とすれ違う。
「ステフよりワイルドキャット、ユーアーアンダーマイコントロール」
『どういう事だ? 明確にしてくれ!』
 遠倉機が攻撃を引き付けるように動き、さらに翠と鷲羽がワームを散らした後、戦闘エリアの中心に飛び込んだ事によって、攻撃の目はこちらから逸れた。
 それでも、まだ散発的に続くプロトン砲の攻撃から逃れるように、機体を引き起こす。
 鷲羽が撃墜した敵機の火球を見ながら、ステフは再び無線に呼びかけた。
「ステフよりスカルライダー、承服できない。ワイルドキャット隊はこちらのコントロール下にある!」
 何だってんだ。いきなり横から出てきて指揮系統混乱させるくらいなら、大人しくしていればいい。
 苛立ちをそのまま声に乗せて、ステフはもう一度無線に叫ぶ。
「繰り返す、承服できない!」
 ワームは鷲羽と翠の、最初の一撃で半分に減り、更に残りも彼らに追い駆けられている。

●前門と後門
 後続組として残った4機は、先行した4機を追いつつ、深追いしない程度に殲滅を図るという、実に器用な行動を取る羽目になった。
 丁度付近を飛行中だったユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は、兄の居る飛行隊が急に慌しく散ったのを見て、即座にロックオンキャンセラーを作動させる。
 アラートが何度も反応を繰り返す中、防空識別圏に侵入する敵機に牽制を加えつつ、先行した4機と、それからワイルドキャット隊と合流を図るのだが。
 プロトン砲の火線が数条、彼らの横を掠めたきり、ワームからの攻撃は止んだ。
「‥‥どういう事だ?」
 ファファルが不審を口にする。
 神撫のウーフーが捉えている敵影は、こちらに向かってはいなかった。
 侵入方向から真っ直ぐ、こちらには目もくれず飛んでいる。飛行予想ルートの150km先には、ブルードレッドが居る。
「神撫さん!」
 状況を察したリュドレイクが、後続組のコントロールを担当していた神撫に声を掛けた。
「これは‥‥一杯食わされたかの」
 九頭龍が機首を廻らせ、後を追う。ファファルの機体もそれに続く。
 要するに、ヘルメットワーム共の目標は最初からブルードレッドであって、他は捨て置いてもいい障害でしかない、という事だ。
『ステラさん! 敵の目標はブルードレッドです!』
 ワイルドキャット隊のコントロールを掌握できないまま、ステラは判断を迫られた。
 ここで地図を広げて、時間を掛けてブリーフィングできるならどんなにいいか、と思う。が、状況の変化は、そんな暇を与えてはくれない。
「迎撃します!」
 先行チームがワイルドキャット隊を確保し、後続チームが追い縋る敵機を牽制、合流後にAWACの復帰まで後退しつつ迎撃、というフライトプランは崩れた。

 ブルードレッドへの進路を取るワームを追い駆けるように、4機は飛ぶ。
 迎撃と言いつつ、まるで追撃を加えるかのように、ワームの後姿を拝んでいる。
「たとえ何があろうと食い破るまでだ‥‥」
 ファファルの見るHUDには、12機のワームが悠然と飛ぶ姿が映っていた。
「‥‥今だ」
 彼女の声を合図に、リュドレイクと神撫がトリガーを引く。丁度、翠と鷲羽がやったように、敵の群れの中心にロケット弾を撃ち込み、回避行動を取らせるため。
 無数のロケット弾がヘルメットワームの編隊に飛び込むと、3つほどが爆散し、残りはそれぞればらばらの方向に散開した。
「止めを頼むぞ!」
 九頭龍が、ロケット弾によって散った1機をロックする。
 シーカーの色が変わった所で、トリガーを引く。その弾丸はヘルメットワームを一度よろめかせ、ふらふらと編隊に復帰しようと動くそれを、今度はリュドレイクが捉えた。
 リュドレイクの放ったレーザーが、ヘルメットワームを四散させた直後に、ファファル機からのミサイルが、そのすぐ横を飛行していたワームも大破させる。
「これで5機!」
 撃墜数をカウントしつつ、神撫も手近な1機をHUDの正面に入れた。これで6機。
「有象無象が‥‥」
「敵増援を後方に確認! ブレイク!」
 苛立たしげなファファルの声を受け取るように、レーダーを確認した神撫が叫ぶ。丁度、九頭龍の攻撃で7機目が落ちた。
 真後ろから飛んでくるプロトン砲を避け、機首を上げつつ左に捻る。そのまま操縦桿を引き続け、機体が垂直になった辺りで、光の束が翼端を掠める。
 そのまま射線に入るのを嫌い、操縦桿をニュートラルに戻した所で、今度は直撃を受けた。
 コンソールがダメージ箇所を知らせる。見ると、神撫だけでなく、他の3機も、プロトン砲の中でダメージを受けている。
「っ‥‥まだだ」
 ファファルが自機をリュドレイクの機体と交錯させる。向きを180度変えるだけだと言うのに、前後を敵に挟まれこの有様である。
「させんよ‥‥まだ、やれるが、どうするかの?」
 上昇を続け、増援のワームより高度を取りながら、九頭龍が訊く。
 数的不利を作られ、状況は良くない。まだAWACは復帰しない。ワイルドキャット隊のコントロールは掌握できていない。
 翠と鷲羽は撤退を進言した。フライトプランは破綻している。ブルードレッドへ向かう敵機に対しても、完全に後手に回った。追いつける望みも薄い。
 選択肢は、そう沢山は用意されていなかった。

●指揮権
 ワイルドキャット隊を襲っていたワームの最後の1機を、翠と鷲羽が2機がかりで追い回している。撃墜は時間の問題であった。
 空域から離脱するワイルドキャット隊と、ステラ機を先導するように、遠倉が位置する。
 彼女の良く知るシリングの弟というのは、よくよく強情であるらしい。或いは任務に忠実である、と言うべきか。
 結局今に至るまで、彼はステラに対して、コントロールのハンドオフを許していない。
 考えて見れば当然だ、と遠倉は思った。
 二つ同時に、違う指示が来れば、誰だって困る。
 最初から任せておいても良かったかも知れない、と思い、そして自分が直掩に付いていた、ステラの事が気になった。
 任せておいて、つまりワイルドキャット隊などほおっておけば、彼女のプランは作戦を成功させたに違いない。
 けれど、ブルードレッドをロストした時点での、8人の判断は「ワイルドキャット隊の支援に入る」であったのだ。
 もし気に病んでいるようなら、謝らないとならないな、と遠倉は思った。

『弟シリング、君になんかあったら、僕が姉シリングにとっちめられちまわァ!』
『何かあっても、とっちめませんよ。軍人だってのに』
 軽い調子で翠が声を掛けるが、まだ混乱を招いた事を根に持っているのか、どうもむくれている。それとも、元々こういう奴なのだろうかと、姉の顔を知っている何人かは、それを思い浮かべてみる。
『堕ちてお姉さんを悲しませるような事には、なるなよ』
『それはそっくりそのまま、姉に言ってくださいよ。あいつだって飛んでるだろうに』
 レシーバーからの神撫との遣り取りに、ファファルは少し可笑しくなった。
 けれど、それより疲労のほうが勝るのか、2、3度頭を振ると、溜息を吐いた。
「疲れた‥‥」