●オープニング本文

　残暑。
　夏という季節は世界中どこでも暑いのだ、とアニーは思う。
　汗をかいたグラスと、一抱えあるダンボール箱を交互に見比べて、溜息を吐く。
　原因はダンボール箱にある。
　恐らく誰かの差し入れの類だろう。よくあることだが、よくある事だけに、事務官は何時も通り受け取りのサインをして、何時も通り内容物の確認をするため、その他の手紙やら郵便物やらと一纏めにして、何時も通り検査官が幾つかの作業をこなした後、郵便物やらのチェックを始めたのだ。
　この時点で、受け取ってから二時間は経過していたらしい。
　そして今、アニーの目の前のダンボール箱は、受け取ってから四時間は経過している。
　もっと端的に言えば、冷凍庫から出して四時間だ。
　箱の中身はアイスキャンディーである。
　何故箱の外に内容物を書いておかないのか、或いは何故受け取った時に冷凍庫に入れなかったのか、もしくは配送してくれた運送会社のおにーさんは何故要冷凍だと伝えなかったのか、今更後の祭りな疑問が浮かんでは消える。
　全部溶けているのだ。
　アニーは幾つあるか一応数えた。五十本入っていた。一応個々の包装も確認して、ソーダ味とコーラ味があるのを確認して、それから一応、全部溶けているのか確認した。
　個包装の中身は、ソーダ味のぬるい液、もしくはコーラ味のぬるい液と、木で出来たスティックで構成されていた。ひとつ残らず。
　ソーダ味だとかコーラ味と云えば聞こえはいいよな、とアニーは思う。
　何故かって、これらに炭酸なんか入っていないのだ。ただの甘い水だ。
　また汗をかいたグラスと、一抱えあるダンボール箱を交互に見比べる。
　あらかじめ断っておくと、アニーは事務官でないので、このダンボール箱をどうにかする業務だったり責任だったりは何も無い。それから、マヘリア・エルマーナも事務官ではないので、このダンボール箱を抱えてアニーの所へやって来る理由は無い。
　けれど来るのだ、マヘリアは。
　具体的には半年に一度くらい、連隊本部の内外問わず、何やら妙なモノを見つけて、彼女の褐色の肌によく似合う、いたずらっ子みたいな笑顔で、アニーにとっての厄介事を持ち込む。
　このダンボール箱もそうだ。
　にやにやしながらアニーの元へ持ってきて、「面白そうじゃん」「どうにかなるって」のたった二言を残して、どこかに出ていった。
　この後の展開は大方想像が付く。「暑いしアイスでも作ろうぜ」的なアレに決まっている。
　汗をかいたグラスと、一抱えあるダンボール箱を交互に見比べる。窓の外、陽はまだ高い。

●参加者一覧

/ 大泰司　慈海（ga0173） / 柚井　ソラ（ga0187） / ドクター・ウェスト（ga0241） / 鯨井昼寝（ga0488） / ロジー・ビィ（ga1031） / 叢雲（ga2494） / 終夜・無月（ga3084） / 北柴　航三郎（ga4410） / アルヴァイム（ga5051） / リゼット・ランドルフ（ga5171） / アンドレアス・ラーセン（ga6523） / クラウディア・マリウス（ga6559） / 不知火真琴（ga7201） / 百地・悠季（ga8270） / ヴァレス・デュノフガリオ（ga8280） / リュドレイク（ga8720） / ユーリ・ヴェルトライゼン（ga8751） / 白虎（ga9191） / 神撫（gb0167） / 遠倉　雨音（gb0338） / 美崎　瑠璃（gb0339） / 澄野・絣（gb3855） / 橘川　海（gb4179） / ソフィリア・エクセル（gb4220） / 萩野　　樹（gb4907） / フェイト・グラスベル（gb5417） / 流叶・デュノフガリオ（gb6275） / 亜守羅（gb9719） / ソウマ（gc0505） / 和泉　恭也（gc3978） / 泉（gc4069） / ヴィヴィアン（gc4610） / 緋本　かざね（gc4670） / 結城　桜乃（gc4675） / 矢幡麗佳（gc4795） / ちゃっぴぃ（gc4798） / ベルマリア（gc4815） / リズレット・Ｂ・九道（gc4816）

●リプレイ本文

●暑いけど甘い水を片付けよう
　アニー・シリング（gz0157）は、抱えている「ただの甘い水」をどうしようかと考えると、かき氷を食べ、こめかみがキーンとなったかのように頭が痛くなった。
「暑いのは苦手です‥‥」
　そう呟きながら廊下を歩いているリズレット・ベイヤール（gc4816）と外に遊びに行こうとする結城　桜乃（gc4675）が困っているアニーを発見した。
「アニー様‥‥その‥‥何かお困りでしょうか‥‥」
　甘い水を見たリズレットは、これで困っているのだと理解すると処理を手伝うことに。
「えー‥‥溶けたアイスー？　うーん‥‥」
　桜乃は遊びに行くのをやめ、これをどうしようかと考える。
「‥‥なー、冷凍庫の中に何かあるかな？　中にある物によって、何を作るか、考えないか？」
「そうしましょう‥‥」
　何事かと見に来た和泉　恭也（gc3978）は、アニーから事のあらましを確認すると、急いで材料を取りに家に走った。

「アニーさん、こんにちはっ。えへ、ひょっとしてまた『マヘリアさん』ですかっ？」
　橘川　海（gb4179）は澄野・絣（gb3855）、百地・悠季（ga8270）といった仲間とやって来た。
「ふー‥‥残暑が厳しいわよねー。これは参加しない手は無いわね」
　涼を求めに本部へ顔出ししたら丁度良い具合にこの依頼があった、というのが悠季の参加動機だが、ここ最近の残暑で半分死にかけた状態の叢雲（ga2494）も似たような理由だった。彼の場合、全身黒ずくめなので余計暑い。
「仕事じゃない時のアニーに関わると、大抵、何か起きるよな。また何かやったんだって？」
「みたいだね。やっぱり、マヘリアさんに遊ばれてるのかなぁ」
　とりあえず甘い水と棒を何とかしなきゃならない気がする、とアイスが食べられるらしいと聞きやって来たアンドレアス・ラーセン（ga6523）と遊びに来た神撫（gb0167）は箱を運んだりと手伝いを。
　甘いものはそんなに好きではないが、出されれば拒否はしない。そんなアンドレアスだが、実はアイスは別格で好物だったりする。

「はじめまして。カップル撲滅集団『しっと団』総帥」の白虎（ga9191）と申しますにゃー。色々様子を見に来ました。アニーさんとか、アニーさんとか、神撫さんとかの」
　カップルはいねーがー、桃色はいねーがー、リア充は爆発しろにゃー♪　と、しっ闘士活動という名の支援が必要かどうか確認するために参加したのだった。

　アニーが愉快な在庫を抱えていると聞いたユーリ・ヴェルトライゼン（ga8751）は手伝いをしながら「てかこれさ、届いた時点で受け取った人、持ってみて冷たいとか思わなかった訳？」と疑問を口にするが、アニーは何も答えなかった。
「ココですか、アイスがタダで食べられるって言うところは‥‥」
　ソウマ（gc0505）は事情を理解すると「コレを何とかする代わり、ということですか」と呆れたがこれも何かの縁、と協力することに。
　アニーに対しては『良い人過ぎて他人の苦労を背負い込むタイプ』と見た、天からのお告げがあったこともあり、何かあったら優しくしてあげようと思う。

「相談って、ただの甘い水の処理ですか？」
　アニーから相談があると言われたので、例の件でまた何かあったのかと思い急いで駆けつけた遠倉　雨音（gb0338）だったが、ダンボールに入っているアイスの成れの果てを見て唖然。
「これはまた‥‥ある種、圧巻ですね。瑠璃に相談してみましょうか。あの子ならいい知恵を出してくれるかもしれませんし」
　雨音から連絡を受けた美崎　瑠璃（gb0339）は、アイスだった甘い水再利用の相談を持ちかけられると「段ボール１箱分のアイス全溶？　それはまた派手にやったねー」と率直な感想を。
「面白そうだし手伝いに行こっかな♪　いい機会だからお店の新メニューも一緒に考えちゃおう！」
　兵舎『虹待亭』新メニュー考案にはもってこいかも、と手伝うことに。なし崩し的に、雨音は瑠璃の手伝いをすることになるが。

「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜。アイスキャンディー作りかね〜？　ふむ、我輩に任せたまえ〜！」
　研究対象は多岐にわたる私設研究グループのウェスト（異種生物対策）研究所所長、ドクター・ウェスト（ga0241）はアイスを作る気マンマンのようだ。
「とりあえず‥‥この甘い水を何とかしませんと‥‥」
　ソフィリア・エクセル（gb4220）に促され、その場にいる全員で片付けることに。
「ああ、何だか見知った顔がたくさん‥‥。皆さん、乗り気ですねぇ‥‥」
　この季節に考えることは皆同じなんだなと思いつつ、リュドレイク（ga8720）と「ただでスウィーツ食べ放題ですって？」とやって来たヴィヴィアン（gc4610）は暑さを堪えて手伝う。

●甘い水再利用開始
「ここか‥‥」
　刀剣袋を背負い食堂に現れた終夜・無月（ga3084）の姿は、やけに歴戦の威圧感を纏ったコックのようである。
「アニー、よろしくお願いしますね‥‥」
「よ、よろしくお願いします‥‥」
　先程までの威圧感はどこへやら、一変して穏やかな笑みに。
「ああ、懐かしいなぁこの包装‥‥。夏休みに生徒達にたかられ、もとい、おごってやった思い出があります。‥‥やっぱり値上がりしてるんだね」
　甘い水が入っていた袋を見た北柴　航三郎（ga4410）は、勿体無いと甘い水の再利用法を考えている。
「こんなに大きい冷蔵庫だといろいろなものが入っているんでしょうねー。‥‥これは何でしょうか？」
　大急ぎで戻ってきたので息切れ状態の恭也だったが、普段できないお菓子作りが楽しみで仕方が無い様子で冷蔵庫の中身をチェック。

　消化器系の胃薬（特に下痢止め）を多めに持参したアルヴァイム（ga5051）は、最寄の調理器具販売の専門店を調査して必要なものを持ち込み、アイスの基本的なレシピを調査してメモに編纂したものをアイスを作る仲間に手渡す。
「作業場所が不足しているようだな」
　冷蔵庫、据え置き式の調理器具の位置やそれに伴う作業動線を勘案しつつ長机を設置し、電源も不足気味なので、先の作業動線の密集地を避けるように携帯発電機を設置。
　緋本　かざね（gc4670）は、アイスが大好きなので早く食べたいとウキウキするがボウルや泡立て器、材料となる果物等を準備し、瑠璃が来るまで、雨音は小隊本部食堂キッチンの設備、冷蔵庫と冷凍庫の中身をチェック。
「料理は得意分野のひとつですので‥‥実際、自分の兵舎で腕を揮っています‥‥。今日はここで‥‥思う存分揮います‥‥」
　何を作ろうか、というと泉（gc4069）が手を上げ、おずおずと拙い大阪弁で話し始める。
「凍らせて、ジュースに、入れる、とか‥‥どない、やろか‥‥？」
「それならシェイクはどう？　牛乳の代わりにその溶けたアイスでやるというのは？　あとスムージーはどう？　野菜やフルーツを凍らして、その溶けたアイスと一緒にミキサーをかけて作るのは？　これなら、冷凍庫の中身を消費できるし。どう？」
　と付け加え、意見を述べる桜乃。
「カキ氷はいかがですかっ。溶けたアイスを凍らせて削っても良いですし、氷に甘い水をかけても美味しいですよっ」
　恭也の意見に「それいいかも」と賛成したのが何人か。
　結局どうなったかというと、アイスやお菓子も作れるという意見もあったので、アイスとデザート、ドリンクを各々作成することに。

「まぁ、まずはこの「甘い水with棒」たちを片付けっかね。とりあえずは買出し行くか？」
　アルヴァイムが買い出しに行くと言うので、神撫は買ってきてほしいものをメモして買い物をお願い。
　買い出しの間、雨音はアニーと話を。
「最近は例の仕事の絡みでしかお会いできていないので、プライベートな時間で会うのは本当に久しぶりですね。‥‥折角ですし、サーにも何かお土産を買っていってあげましょう。老犬用のジャーキーとか、確かあったはずですし‥‥」

●仲良く作りましょう
「しっかりお手伝いしますから、美味しいアイスを作ってくださいね。力仕事、雑用何でもしますよ」
　困ったことがあれば【OR】特殊ＮＰＣでインターネットに繋ぎ検索できるようスタンバイするソウマ。
「はわ、アイス？　あ、ジェラートのことですねっ！　私、ママとお友達と一緒に良く作ってましたよ！」
　クラウディア・マリウス（ga6559）は、ミキサーと材料を用意すると「一緒に作りましょう」と柚井　ソラ（ga0187）を誘う。
「アイス作り、なんだか楽しそうですね。最近暑いから、冷たいアイスは嬉しいですよねっ」
「そうですよね。アイス作り、実は、意外と簡単なんですよっ。牛乳と、お砂糖、生クリーム。あとは、好きな果物とか入れてミキサーでガガガって混ぜるだけ！　お砂糖と生クリームは、ちょっと控えめにするとさっぱりかも。作るのはチョコ、バニラ、あとは桃とかですねっ」
　そう説明しながらミキサーで材料を混ぜるが、ソラが不思議そうに見ているので「クラウだって、普通のものをちゃんと作れるんです！」と強調。
「はわ、えっと、この溶けたアイス‥‥どうしよう？　あ、型にいれて凍らせたら楽しいかも」
　幾つか袋を開けるとボールに入れ、ソラと星型やハート型の型に流し込む。
「ほわっ！　混ざっちゃった！　‥‥うーん、ま、大丈夫かな？　同じアイスだし」
　うっかり違う種類を混ぜてしまったが、気にすることなくそのまま冷凍庫へ。普通に作ったつもりが、カオスな方向になったようで‥‥。
　クラウディアだが、もうひとつアイスを作ろうとしている。
「‥‥ヘリングアイスですか‥‥。アスさん、ヘリング好きらしいから、いいのかなぁ？」
　ソラは気にしているが、止める気はないので手伝うことに。ヘリング（ニシン）アイスは、どのように仕上がるのだろうか？

「甘いだけの水、そして氷。無駄に色々ある冷蔵庫。何をどうやって作ろう♪」
「そうだね‥‥。流石にこうも暑いと‥‥ね。何もやる気が起きなくなるというものだ。‥‥そういう意味では、丁度良かったのかな？」
　アニーには言えないけどね、と無警戒に胸の谷間が見えるノースリーブシャツの胸元に指を入れ、扇子でパタパタ扇ぎながらサングラス越しに周りを見渡し、ヴァレス・デュノフガリオ（ga8280）を見上げて少しでも涼しくしようとする流叶・デュノフガリオ（gb6275）。
（流叶、暑そうだなぁ。俺も暑いけど。そんな扇ぎ方してると‥‥見えちゃいそうだ）
　見たい気持ちを暑さと共に堪えるヴァレス。そんな２人の側にいたソウマは、チラリとだが流叶の胸が見えたので内心ラッキー♪　と喜んだ。
「‥‥さて、何を作ろうか‥‥」
　調理器材のボール、塩、氷水を準備しつつ、簡易的なシャーベットアイスなんてのも面白そうだと提案。
「チョコで耳や目みたいに削って、雪兎とかを作ってみるのも良いかも」
「それ、いいね。シャーベットは流叶にお任せで♪　俺は‥‥まずは氷像を作ろうかな。ケータイ程度の大きさのから、指を広げたくらいのサイズのを。削って残ったやつで作って♪」
　何を作るのか楽しみだと微笑む流叶だったが、変なものだったらどうしよう‥‥？　と心配になり、それを如何するのかと悪戯っぽい笑みで問い詰めた。
「作ったもの？　お茶会をするっていうから差し入れに。そういう流叶は、作ったシャーベットをどうするの？」
「そりゃ‥‥上手く出来たらヴァレスに食べさせてあげたいが‥‥」
　少し迷いながら、あーん、とかで食べさせたら嫌がるだろうか、嫌がられないなら、してみたいかも‥‥と悩む流叶だった。
　ヴァレスが作るのは兎、猫、キツネ、ヤギ。そして流叶。流叶に関しては、いつも見ているから細部まで凝ったものが作れるだろう。
「‥‥作っても28度じゃ、すぐ溶けちゃうけどね。ちょくちょく冷蔵庫に入れて維持しないとダメそうだ。よし。本気出すか！」
　と覚醒し、持参した熱したナイフで削る。細かい部分はパン切りナイフで整える。
　氷像が完成すると、集めた削りカスを使い流叶はシャーベットを。

「甘い水は‥‥バタービールもどき、作れないかな？　コーラ水かソーダ水にバニラアイスを混ぜて、冷やしたグラスに注いでホイップクリーム添えてみよっと。あとはカキ氷かなー。雨ちゃん、手伝ってね」
　瑠璃は凍らせたコーラ水をカキ氷機にかけ、あとは、台湾のカキ氷に倣ってミルク味の氷を作る。氷ができたら２色のカキ氷にフルーツを飾り付け、ミルク味のカキ氷の方に雨音が練乳をかければ出来上がり。

「何か手伝いましょうか？」
「それじゃ、これお願い」
　海は冷凍庫から氷を取り出し、大きなボウルに空けると氷に食塩を加えるとそのひとつを絣に手渡した。
「こうすると溶解熱と吸熱反応で、どんどん温度が下がってくの。あ、直接触ると凍傷おこすからねっ！」
　ミトンをはめてから大きなボウルに小さいものをつけ込み、冷やして、アイスの水を１袋空けて棒で撹拌する。
「こうやるとほら、室温下でも、ボウルに接している部分から結晶し始めるの」
　なるほどね、と悠季は海に教わった通りに倣い、その途中で分量を三分割に。それぞれにソーダ味水、コーラ味水、ミックスジュースを入れ込んで攪拌する。
「こんな感じかしら？」
　味見をして微妙に調整しつつ、ほど良く空気を練りこめばアイスの出来上がり。それに一口サイズに切り揃えたウェファースを添え最後の仕上げに。
「海さん凄いですわねー。頑張るねー。百地さんの盛り付け綺麗ですねー。‥‥見習わなきゃ‥‥」
　メモを取りながら亜守羅（gb9719）が感心する。必死でメモっているが、内容が的外れなのは内緒。
「もう食べられますよっ？」
　ジェラートっぽい感じに仕上がったものの食べ方はいろいろ、と持ってきたビスケットの上にスプーンで盛って一口サイズにして亜守羅に差し出した。
「はい、どうぞっ。召し上がれっ」
「いただきまーす。‥‥美味しいですー」
　ほっぺたが落ちそうな表情で喜び、食べ終わると「絣隊長のはどうかなー？」と見に行った。
　手伝いの合間、絣は甘さほんのり、苺の酸味を活かした甘さがきつくないストロベリーアイスを作っていた。
「絣隊長、そっちも一口貰えますか？」
　亜守羅はそう言うが、許可が出る前にスプーンで一口パクリ。
「いかがですか？　お腹壊しちゃうので、あまり食べすぎちゃダメですよー」
　忠告通り少しずつ食べるたび「美味しいー」とご満悦。
「さあ、できたわ。お好きな味わいを召し上がれ♪　食べたいリクエストがあれば言ってね」
　出来上がったばかりの悠季のアイスを、横目で高見の見物と洒落込むヴィヴィアンがつまみ食い、もとい、味見を。
「あぁら、美味しそうじゃなぁい、どれどれ？　ん、美味し♪　アナタ、パティシエになれるんじゃない？」
「そう？　ありがとう」

　暑さで脳みそがとろけ気味になりそうだけど真面目にアイス作りを、というが、涼みたいがために超マジでアイスを作る叢雲。
　本人曰く「依頼でもここまでマジになることは早々ないだろうレベル」だとか。
「種類？　そんな些細な問題はどうでもいい、知りうる限りのアイスを作る‥‥！」
　自前で各種用意したものを揃えると、黙々と作り始めた。
「真夏のアイス作り、楽しそうです！」
　叢雲とやって来た不知火真琴（ga7201）は、ロジーの芸術作品に感化され、自分も何か‥‥と考えた結果、溶けたアイスを固め直して氷柱を作って一本削りとかしたら楽しそうかも、という結論に。
「デザインはやっぱアイスだし、氷の華とかかな？　ありがちだけど綺麗だし」
　ということで薔薇とか雪を作ることに。良くあるネタは細工や技巧で勝負、ということで。負けず嫌いと凝り性が相まって脅威の集中力を発揮し、精密ドライバーや細工道具を持ち出し、才能の無駄遣いといわんばかりに繊細で大胆な大作を仕上げた。
　キャッキャと創作活動をしていたのはいいが、気がつけばアイスや冷房で体が随分冷えた。
（これはちょっと、暖を取らねば‥‥）
　ぶるりと身震いし、人波の中でもすぐにわかる真っ黒い背中へぽてぽて近づくと、徐に服の裾から冷えた手突っ込んで熱源を確保。
「っひぁぅん！？」
　叢雲は製作に没頭していたが、唐突な感触に思わず奇声をあげかけて咄嗟に口を押さえて周囲を見る。
　誰かに聞かれていないかとチラリと後ろを見ると、そこには見慣れた白い頭が。
「ん〜あったか〜い♪」
「‥‥何ですか、真琴さん」
　完全に油断していた、と反省しつつ「で、何でこんなことを？」と問うと、真琴はぷくーっと頬を膨らませ「だって寒かったんだもん」と言い訳。
（‥‥イラっときた私は間違ってないですね）
「‥‥天が許しても私が許さん！　伝統のお仕置きです、人誅！」
　と真琴のこめかみをグーで挟んでグリグリ。
　お仕置きが終わると、真琴が作ったものについて訊ねた。
「料理を何だと思ってるのか、というか、真琴さんはわかってやってますね？」
「これ、凄いでしょー！　存分に褒めてくれても良くってよ！」
　自信満々で胸を張りどう？　と見せるが「食べ物で遊んじゃいけません！」とくどくとお説教された。
「遊びじゃないよ！　芸術だよ！」
　と反論すると、お説教は更に質量を増した。
（うーん、今日は機嫌が悪いのかな？）
　お説教される理由が皆目見当つかない真琴だった。

●お菓子を作りましょう
　ユーリが作るのはロールケーキ。
　甘い水に持参したゼラチンを足してゼリーにし、固まると小さめに切りバニラクリームにまぶしてロールケーキの生地に巻き込んだ。
「ソーダフロートとかコーラフロートっぽい味になるんじゃないかな、と思ってね。バニラケーキの味がベースになるから、配分はフロートとは逆になるけど」
　ロールケーキが出来上がると、ミルクコーラとかミルクソーダとか美味しそうな気がする、とミルクババロアとゼリーを２層にし冷やして固めたものを作り始めた。
　その他には、皮を剥いたバナナを割り箸に刺したものとミカンを凍らせたアイスを。冷凍ミカンはお約束、と誰かに聞いたからやってみたようだ。

「行きます‥‥」
　無月が刀剣袋の中の愛器具を手にすると背後にオーラが見え、伝説の料理人のように見える。
　作るのはアイスケーキ。平らで深底な皿状にしたスコーンの外殻を作り、バニラ、ストロベリー、チョコ、バニラの順でケーキのスポンジ部のようにスコーンの中へアイスを平らに重ねる。
　両手の二刀流の包丁は、正確無比な形と厚さで苺、バナナのスライスを達人の域の早業で斬るとケーキに万遍なく乗せ、その上にブルーベリーを。
　ケーキが完成すると鍋でチョコ、蜂蜜、ラズベリージャムのシロップを作る。鍋の中のシロップは、流麗なおたまの攪拌動作で焦げ付かず、かつ、思い通りの温度に仕上がった。
　ケーキを食べる時は、好みでどれもトロトロで甘く適度な熱さで温かい（普通に食べるのに問題無いアイスを溶かし過ぎない温度）３種類のシロップから好きなものをかけて。
　アイスとの温度差が、逆にアイスの旨さを引き出している。

「何だか呼ばれたような気がするの。今回もアグレッシヴでアバンギャルド、デコラティブなお菓子を作ってみせましてよ！」
　ぐっと拳を握って張り切るロジー・ビィ（ga1031）は、甘い水を砂糖と牛乳代わりにしてシフォンケーキを４つ作成。周囲を生クリームで仕上げたシフォンケーキの穴の中にコーラ味のムースを詰め込み、その上にアイス製作者から少しずつ分けてもらったアイスを揚げアイスにしたものと果物を使いデコレーション。
「ケーキはラフレシアの花の上に、３つを台座に１つをその上に乗せてアクティヴ感を出しましてよ！」
　シフォンケーキができると、お次はムースの上に刺す、甘い水とヘリングのすり身を入れて凍らせ作ったヘリング形の彫像を。
「ヘリングの彫像、作るのか‥‥。その‥‥醤油は入れねぇんじゃねぇかな。一般的には。‥‥多分。きっと？」
「そう？　ヘリングの彫像はアンドレアスのためですもの、モチのロンですわッ☆」
　彫像を刺すと、花火を刺して更にデコレーション。
「皆さん、差し入れをどうぞ。金髪イケメンさん、ロジーさんの邪魔してないでこっち来て食べましょうよぅ」
　ロジーを止めようとするアンドレアスを引っ張り込む海。
　その後アイス作りを再開するが、大尉さんにも差し入れしたいなあ‥‥と考えている間にアイスがハート型になっていた。
「今回は、前よりも楽しくやれそうです」
　萩野　樹（gb4907）は、以前のチョコ作りも楽しかったが、アイス作りも楽しそうだとロジーの手伝いを。
　その傍ら、事前に様々な動物の型に融けたアイスを流し込み、棒を突き立て動物アイスを作る。アイスはそのままのものもあれば、白熊はミルクアイス、カバは唐辛子とミルクを微妙にミックスさせた色合いといった創作的な色彩に。
「さぁ、皆さん‥‥ご注目なのですっ☆」
　煮詰めた甘い水で作ったカラメルを、熱いうちに上からかけショーのように魅せる。
　ソーダ水を青、コーラ水を赤に食紅等で色着けして両方の甘さの濃度を調整、オレンジジュース等も使用し、濃度に因り色鮮やかな層を成してジュースを。グラスにハイビスカスを刺し、トロピカルドリンク風に仕上げた。
（食い物を扱う場に、ロジーとクラウが揃うとか危険過ぎる。その素敵に無敵とかいうのがヤバいんだっての‥‥）
　手伝う振りをしてやんわりマトモな方向へ誘導したいアンドレアスだが、悪気が無いのが良くわかっているので傷つけるようなことは言えず、アルヴァイムのメモには「コレが正しいからこうしろ」とびっしり書かれているのでそれもどうもなぁ‥‥とため息をつく。
　そんなアンドレアスを横目に、ヴィヴィアンがシフォンケーキを味見。
（ちょ‥‥これは料理への冒涜だわよ‥‥）
　面と向かって言えないので、心の中で「不味い」とぼやく。
　酒が入ってりゃ何だって美味しくなるわよ、と、作成者達の目が他に向いている隙に、作りかけのアイスやお菓子にテキーラとタバスコを混ぜた。
　入れた本人的にはテキーラ入りは当たり、タバスコ入りははずれのつもりだが、どう考えてもどっちも外れとしか思えない。このことは、全部できあがるまで秘密である。

●冷たいものを作りましょう
　神撫は牛乳、卵黄、生クリームを混ぜ、塩を振った氷で冷やして甘い水入りとそうでないものに分け、アイスがある程度固まったら混ぜ、コーラの黒白マーブルとソーダの青白マーブルの２種類を作った。
「コーラは‥‥洋酒とあわせてカクテルにするか。ラムとコーラなんて定番だよね」
　ソーダもブルーキュラソーと合わせ、煮詰めてアイスクリームのソースに。その間、アルコールの飛ばしすぎには注意。
　カクテルが完成すると、フルーツ缶詰と甘い水を煮詰めて作ったジャムを、小麦粉で普通に作った焼き菓子に乗せる。
「このくらいやれば十分かな？」

「ガス入りのミネラルウォーター入れて、ソーダ＆コーラっぽくできないかな？　バニラアイスとかあったら浮かべてフロートにできるね」
　航三郎は買ってきたバニラアイスをソーダに乗せ、色的にいい涼感が漂うクリームソーダに。ホワイトマシュマロはかき氷やアイスの飾りに。こめかみがキーンとなった時にも良いかもと。
「甘い水、ガス入りミネラルウォーター、ウォッカで『なんちゃってカクテル』なんてのも良いですね」
　昼間なのであまり強くしないため物足りという人はいるかもしれないと、コーラ味の甘い水カクテルにアイス、ソーダ味の甘い水カクテルにマシュマロと、科学の実験のような雰囲気で材料を注ぐ。

「抹茶、生クリーム、砂糖‥‥あと何が必要でしたっけ？」
　リュドレイクは抹茶アイスを作るのだが、初めて作るのでメモを見てレシピ通りに作ることに。
　まずはメモどおりの分量で材料を混ぜ、それらを攪拌して空気を含ませる。
「書いてあるとおりにやっていけば、少なくともひどい失敗はしないはずです‥‥よね？」
　ソーダ味とコーラ味の甘い水は凍らせ、リュドレイク持参の白くま君かき氷機でかき氷に。

　恭也はミントの葉、牛乳、卵、グラニュー糖、蜂蜜、生クリーム、チョコチップでミントアイスを作る。
「よし、準備完了！　こちらは終わりましたのでお手伝いしますよー」
　ミントアイスだが、完成にかなり時間がかかるので改めて皆に配ることに。
「かき氷なら、味はミルク宇治金時で‥‥。お手伝い、しよん、け‥‥？」
　ミントアイスを作り終え、かき氷を作る恭也を手伝い、アイスの作り方を教えてもらう泉。

　ソフィリアはバケツに氷を大量に入れ、これまた大量の塩を放り込むと鍋に冷やしてあった甘い水を注ぎ、バケツに埋め込んで木ヘラで根気良くかき混ぜる。
「さ〜て、理科のお時間ですわよ〜。氷に塩を入れれば‥‥ほら、これで一気に温度が下がりますわ〜♪」
　シャーベット状になったら冷凍してあった甘い水を砕いて混ぜ込みバットに流し込む。冷蔵庫で少しで固めたら、適当な大きさに割ってアイスバー風カキ氷シャーベットに。
「こんな機会でもないとお菓子なんて作れませんしね〜♪」

　リゼット・ランドルフ（ga5171）は、小玉スイカとレモン汁、砂糖を用意するとスイカを切り、ミキサーにかけてジュースにするとガーゼでこす。それにレモン汁と砂糖を混ぜて星型とハート型の製氷型に流し込んで冷凍庫で固めた。
「夏も終盤ですけど、まだまだ暑いですし。アイスも恋しいのです〜。作るアイスは夏らしく、スイカシャーベットで決まりです」

●変り種を作りましょう
　以前『私をた・べ・て♪』なオリムんチョコを作った大泰司　慈海（ga0173）は、オリムん氷像を作って「化粧がとけるぅぅぅ〜！」なネタは「二番煎じなんてつまらない！」ということで、今回は別のネタで挑むようだ。
　棒を回収すると『アタリ』と『ハズレ』に分類し、それにバナナを突き刺すと湯煎で溶かしたチョコにバナナをくぐらせる。『ハズレ』スティックのバナナにはアメリカナイズされた毒々しい色のカラースプレーでチョコトッピングを施し、『アタリ』スティックのバナナには、ハズレのチョコトッピングの他に、七味唐辛子を大量に散りばめ、それらの作業が終わると、アイスの包装に入れ冷凍庫で凍らせておく。
「さて、次を作るか」
　ソーダ味のぬるい液、もしくはコーラ味のぬるい液を少量もらうと外に出て蟻の巣にばら撒き、待機。
「出てきた、出てきた」
　巣から出てきた蟻を数匹捕獲すると透明の瓶に砂と蟻を詰め込み、以前いっとき流行ったアントリウムもどきに。どのようなものになるのやら‥‥。

「材料がないから用意する、というのではあまりに普通。逆に考えるんだ。材料がないなら、別になくても良い、と。そんな感じで私はソーダ味、コーラ味に続く『水味』を作る！」
　堂々と宣言した鯨井昼寝（ga0488）は、水道水を型に流し込むと割り箸を半分くらい突っ込んで凍らせた。
「まさに新感覚氷菓の名に相応しい、さっぱり系アイスの出来上がりだ。極限まで余計なものを削ぎ落とした、まさに通好みの一品。カロリーゼロでダイエット中の人にもオススメの水味。いつから人はアイスに余計なものを求めるようになってしまったのだろうか。やれ梨だ、やれホワイトヨーグルトだと騒ぎ立てるから品切れが起こるのだ。ここをすべてのガリガリの終着点とする！」
　そう力説しつつ、鼻息を荒くして冷凍庫で孤軍奮闘。
（１本を60Ｃで販売するとして、１日に１万本売れれば60万Ｃ丸儲けだね）
　ビッグビジネスの予感に全身を激しく震わせつつ、大量生産体制に。

「ふむ、保存用の液体窒素だけで足りるかね〜‥‥」
　ウェストは細胞サンプル保存用の液体窒素のタンクを持ち込むとマイナス２００度の冷却曹を作り、分厚い防御手袋や金属製の容器バサミ等を用意。甘い水を金属容器に入れる姿は、実験の様相そのものだった。
　木製へらを突き刺すと、換気に気を使い結構な時間をかけ凍らせ続けるがわざとである。
　
　白虎は、甘い水を少し薄めた後にもう一度凍らせ、カキ氷を作ることに。
「これで、削るだけでソーダ味とコーラ味のアイスが作れる。溶けても味が薄くならない、これは意外にも良好なポイントね☆」
　多くのレシピやアイスが集まるということは、各自のアイスを持ち寄り、料理人としての誇りと名誉を賭けて戦え！　ということと勝手に解釈。
「いいだろう。ならば存分に死力を尽くし、真に最強を名乗るアイスを決めるにふさわしい決戦を繰り広げるがいい！　審査員はっ、僕がっ、やるのですっ♪　だからっ、早くっ、持ってっ、来るにゃー♪」
　早く持って来いと言われても、皆、作成中なんですが。
　皆のアイスができるまで、普通のアイスではつまらんと『しっとアイス』と命名したアイスを作ることに。
「まずは、唐辛子で真っ赤に染めた激辛アイスを作るのです。見た目はイチゴ味と同じ赤なのにゃー。続いては見た目はメロンか抹茶っぽいワサビ＆青唐辛子アイスも作るのにゃ。コイツを使えば、リア充や桃色カップルをの舌を、アイスという名の地獄の業火で焼き尽くせるのだー♪」
　おそろしや、しっとアイス‥‥。
「楽しいものが撮れましたね」
　その様子を、ソウマは【OR】ＤＶＣ「猫の目」で撮影し、微笑ましい一日を記録に残す。

　数時間後。暑さに苦戦しながら、皆が作ったデザートが完成したので食べることに。

●さあ、召し上がれ♪
　すべてのアイスが完成したところで、ヴィヴィアンは仕掛けた悪戯を告白。
「このアイスたちの中に、当たりとはずれを混ぜてみたわよ♪　アイスロシアンルーレットね。当たりを引いた人にはささやかながら景品を用意したわぁ」
　そう宣言する本人はつまみ食いで満腹、はずれも混じってることを知っているので手出しせず。はずれを引いた人には思わず爆笑した後に謝ろうとしたが、
「うん！　いけるね！　これは！」
　早速一口パクついた桜乃、早くアイスが食べたいです♪　と待ちきれない様子のかざねが美味しそうに食べるのを見て「どうして！？」と驚く。
「にゃっ♪　あいすっ、おっいしー♪　むぐ、むぐ‥‥」
　アイスとかき氷を食べている泉も平気なようだ。
「にゃっ！？　あたま、きーん‥‥えぅー‥‥」
　頭がキーンとなるまで食べた後は、余ったアイスを家族のために持って帰ることに。その間に融けないよう、工夫して持って帰る必要アリだが。
「しっかりと働いた後のアイスは‥‥格‥‥別ですね」
　目を閉じじっくりと味わうソウマだったが、口元に手を当て不味そうな表情に。
「こ、これは‥‥苦いとか辛いじゃない、苦しく、つらい味です」
　残しては失礼と最後まで食べきった後、力尽きたのかへたり込む。
「ごめんなさいねぇ♪」
　失敗してなかったのねぇ、と悪戯成功に喜ぶヴィヴィアン。
　フェイト・グラスベル（gb5417）、矢幡麗佳（gc4795）、ちゃっぴぃ（gc4798）、ベルマリア（gc4815）の顔が赤らんだので当たりを引いたようだ。それに気づき、４人に日本酒とおつまみセットを進呈。

「さーできたよー」
　お手製冷凍チョコバナナを配布する慈海は、誰が当たるか楽しみだった。
　審査員の僕が食べるのにゃー、と白虎が一本手にしパクリ。
「むぐっ‥‥！」
　口元に手を当て、辛そうな表情を。
「おめでとう、当たりだね。アントリウムもどきをプレゼントするよ☆　ＫＶの中とかに飾って、癒しを得てくれたらおぢさんは嬉しいよ♪」
　白虎のしっとアイスは、後でラブラブな２人達に振舞われることに。

「けひゃひゃ、齧れば口が凍傷になりかねないドクター印アイスキャンディーの完成だ〜！　さあ、アニー君、持っていきたまえ〜」
　自信満々に見せて渡したアイスキャンディーは、釘が打てそうなくらいカチコチに凍り、外気中の水分を凍らせ霜を纏いまくっている。
「虚飾を廃した至高の一品、さあ、存分に味わいなさい」
　昼寝作の水アイスも手渡され、これ、どうしましょう　と悩むアニーだった。

「経験は見聞に勝る、だしな」
　過食による胃腸障害は事前警告せず、自身は摂取量をきちんと自制して完成した各アイスを食べるアルヴァイム。

　いつもいろいろとお世話になっているので、とリゼットは神撫にハート型スイカシャーベットをグラスにいれ、ソーダも入れて可愛らしくしたものを差し入れる。
「これ、アニーさんとどうぞ？」
　１つのグラスに２つのストローなので、一緒に飲んで、ということだろう。
　真琴にお説教していた叢雲だったが、アイスを作り終えた時点で冷静になり、一つ食べて満足したようだ。

「皆さん、カクテルをどうぞー」
　成人にカクテル、未成年にノンアルコールを勧める航三郎。
「あ、アニーさんはお酒大丈夫なんでしたっけ？」
　初対面ゆえ「飲ませるな危険」を知らない。
「アニー、飲みすぎて記憶無くすなよ〜」
　神撫は心配になり、アニーが飲みすぎないよう注意して監視を。その甲斐あり、アニーは酔い潰れなかった。

●アイス三昧の終わりに
「アイスが冷たい分、飲み物は紅茶やコーヒーといった温かいものを準備しますね」
「サンドイッチのような軽食も用意しましょう。冷たいものの食べすぎでお腹を壊しちゃわないよう注意、ですね」
　リゼットとソラ、片眼鏡付のシルクの手袋、執事服な衣装に着替えた無月、悠季はお茶会の準備を。

　それが終わると、アニーを交えてのお茶会が催された。
「我輩は先に帰っているよ〜」
　能力者はバグアに対抗できない地球が持つ武器だという自覚があるため、ウェストはお茶を飲み終えるとさっさと立ち去った。
「アンドレアス？　食べてくださいますわよね？」
　力作のシフォンケーキをアンドレアスに試食してもらおうと迫るロジー。
　芸術作品ともいえるロジーのシフォンケーキ。「怖い物見たさ」の心理でついつい作成を見守ってしまったユーリは、是非カメラに納めようとシャッターチャンスを狙う。
「あら、ユーリ、記念撮影？　これでよろしいの？　でしたら是非♪」
　試食シーン撮影はニッコリ笑ってＯＫしたので、芸術作品と微妙な表情のアンドレアスの図をパシャリ。
（頼むから、せめて食い物にしてくれ‥‥。アイスは好きなんだけど、これ、味見っつーか実験台だろ）
　胃腸は人並みに丈夫（なはず）で、食は細いが酒で鍛えているとはいえキツイらしい。そんな様子を「良いものが撮れる」と満足気なユーリ。
　何だかんだと言って試食した後、リュドレイクが自作の抹茶アイスを持ってきて試食させた。
「へー、抹茶味って初めて食ったわ。旨いと思うぜ？」
　まともなものが食えたと内心で感謝するが、これはロジーには内緒だ。
　やっとで終わった、と安心した時、
「アスお兄ちゃん、色々作ってみましたっ！　食べてください！」
　ジェラートを持ってクラウディアがやって来た。
「こっちは手作りジェラートで、こっちは、溶けたアイスを凍らせたものですっ！　神撫さんもどうですかっ？」
　神撫だが、リゼットのシャーベット、海のハート型アイス、クラウディアのジェラートと頂き物が多かったのでどうしようと悩む。

「ふふーん、好みでしょ」
　アルヴァイムは、悠季が別枠で作っておいたキリマンジャロ・コーヒーから抽出したエッセンスを練りこんだ特性のほろ苦アイスを受け取ると、女子会が始まりそうだと空気を読み、手短に礼を言ってその場を離れた。
　女の子達とあまり会話する機会がないリゼットは、恋の話に恵まれたことを嬉しく思う。特に海とは、別人ではあるが大尉との話で盛り上がっていたようだ。
「海ー、あの大尉との仲はどうなのよー」
　悠季に割り込まれてドキッとなる２人。

　お茶会がお開きになると全員で後片付けを‥‥の前に、全員が被写体のユーリ撮影の記念撮影を。
「こういうのも悪くないですね」
　フレームの端のほうで、頬を紅潮させつつ呟くリズレット。

　アイスやデザートで全部使ったかと思われたが、甘い水はまだ少し残っていた。
「これを木に塗って、カブトムシとか捕まえたらいいんぢゃないかな！　まだ夏休みの宿題が終わってないお友達は、ぜひこれで自由研究をするとよろしかろう」
　慈海の提案は、まだ宿題が終わっていないお友達にはいいかもしれない。
「甘い水を分けてくれるかな？　煮込み料理の隠し味に使いたいんだ」
　タッパーを用意したユーリ、ペットボトルを持ち込んだリュドレイクは料理に使うと残りをお持ち帰り。これにより、甘い水はすべて使い果たしたことに。

　後片付けがすべて終わると「アイスを食べ終えたのでプールに行かないか？」という流叶の誘いに応じ、水着を用意していたヴァレスはバイクで向かった。

　雨音が塞ぎこんでいる様子なので、瑠璃は少し心配して声をかける。
「あたしは馬鹿だから、雨ちゃんが色々難しい依頼に参加してもアドバイスできないけどあんまり無理しちゃダメだよー？　何でも一人で抱え込むのは雨ちゃんの悪い癖なんだからねっ」
　依頼を含め、最近ままならないことが多く、知らず知らずのうちに気分が塞ぎこんでいたのを心配されたようだ。
「瑠璃に心配されるってことは、私、よっぽど酷い顔をしていたのかしら？　ありがとう、瑠璃」

　冷たいアイスを食べたことで、皆、まだ続きそうな暑さを何とか乗り越えることができたようだ。
（代筆　：　竹科真史）