●リプレイ本文
●ふわふわもこもこキメラの生態
そのふわふわもこもこしたキメラは、廃墟で本当にきゃっきゃとじゃれ合っているだけだった。
だが無害にみえてもキメラ。
そこはどんなにふわふわもこもこしていて無害そうでかわいくても、線引きをしなければいけないのだ。
写真でみるだけでもかわいいものが好きな人にとっては凶悪な姿をしているこのキメラ。
実際にみて、心がはやるのを抑えられないのは可愛いものスキーたちなのだった。
「‥‥‥‥可愛い」
まずは実地調査、と遠くから観察。双眼鏡を覗きこんでクロード(
ga0179)は呟く。
「うひゃぁ〜〜!? あれが、ふわもこですかっ?! とってもラヴリーですっ! 未早さん、どうしましょ? どーしましょぉ〜?!」
はしゃぎつつも小声で宇佐見 香澄(
ga4110)は水上・未早(
ga0049)の袖をひっぱる。
「香澄ちゃん、落ち着いて、落ち着いて」
ルームメイトをどうどうとなだめながらも未早の視線はふわふわもこもこのキメラたちへ。
双眼鏡は手から離れない。
「様子見というか行動調査というか‥‥しばらくはふわもこが何を考えているのか何かを想像してみるニャ〜」
アヤカ(
ga4624)はむー、とキメラを見つめた後瞳を閉じて想像してみる。
きゃっきゃきゃっきゃ。
はしゃいで遊んでいるような雰囲気。
「キメラについて調べる機会、調べつくすですネ。環境の変化はなさそう‥‥」
赤霧・連(
ga0668)はその生態のレポートをつづっていく。
可能である期間をとってもらい、その生態を調べようと周りへの人払いへの手配などのお願いは連が担当し、準備はばっちり。
「辛いわ、苦しいわ、切ないわっ! 何が哀しくてあんな可愛いらしい子達を退治しなくちゃならないのかしら」
智久 百合歌(
ga4980)は手にカメラ付携帯電話をしっかりにぎりキメラを見つめていた。
と、情報収集をする彼女たちに危険があっては、とレヴィア ストレイカー(
ga5340)は周囲への警戒を行っていた。
人払いなどを頼んでいるとはいえ、何があってもおかしくないと思われるこのご時世。念には念をいれて悪いことはない。
「資料を読む限り大きな脅威は無いようですし、退治もスグに済むでしょうが、万が一資料に無い凶暴性や攻撃性があるかもしれませんしね」
じりじりと距離をつめつつ未早は言う。全員で散らばりつつこそこそと距離をつめていくのだが、まったくキメラたちは気が付いていないようだった。
「どんな愛らしさなんでしょうね〜‥‥はぇっ? 誰も居ません?!」
と、距離を詰める間にふわふわもこもこー、と想像していて遅れた香澄は急いで未早を追いかける。
近づくたびによくわかる、あのふわふわもこもこ具合。
抱きしめたい、スリスリしたい、モフモフしたい、とクロードはひそりと思っていた。
「今回のキメラは弱いのよね? そして無駄に‥‥いえ、可愛いものに無駄なんてないけど! とにかく可愛い」
すでにふわふわもこもこパワーに屈しかけている感が漂う百合歌。
『調査』という名目でふわふわもこもこと戯れようなんて思っていない、と言いつつもどこかるんるんとしている。
と、ある程度近寄るとふわふわもこもこキメラたちの動きがとまる。
何か異変を感じたのか一つどころに集まりもふもふとその身を寄せ合い始めた。
「あの行動なにかしら、写真‥‥目の保養とか心の栄養補給とか決して考えてませんよ?」
未早はデジタルカメラのシャッター音を切って写真をとる。
集まったふわふわもこもこキメラたちは、どうやら眠っているようだった。
ときどき漏れるキュー、という鳴き声。
ときどきもぞもぞと動く白いふわふわ。
「‥‥迷ったら鈍る‥‥だけど‥‥ぽっ」
この愛らしい姿。この姿に心迷えば殲滅は難しくなる。
だが、かわいい。クロードは頬をちょっとだけ染め、ふわふわもこもこキメラたちを見つめた。
「ほむ、寝てしまうとは‥‥」
連はさらにじりじりと近づく。
あの短い間にぐっすりすやすやお休み状態なのか、起きる気配がなさそうだった。
「ふわもこが何故ふわもこなのか、ふわふわ素材は何なのか、もこっとした感触とか、つぶらな瞳とかしっぽとかが可愛くて、もう気を失いそうだけど‥‥って何言ってるか自分でも分からなくなってるけど、とにかく調査と殲滅同時は無理。暫くお待ちなさい‥‥というか待て?」
近づいて、今にも名乗りをあげて飛び出しそうな伊達正和(
ga5204)を百合歌はさわやかな笑みで抑え、じりじりと至近距離へと近づく。
そして、むんずっと一匹を掴み、ぎゅむあああ! と抱きしめた。
「‥‥身体特徴トカ反応調ベテルンデスヨ?」
それを皮切りに、動画撮影をしていたクロードは静かに覚醒。瞳の形が四角になり、虹彩が紫水晶色へと変化し前髪が一房だけ紫色に。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
キメラにちょっとふれ、その感触を感じる。一匹抱きあげ抱きしめ、すりすりもふもふと思いつくままに行動。
触られても、このキメラたち、爆睡を続行中。
「眠っている間に触られても目が覚めないのですネ」
またその様子を連は書留めてレポートは増えていく。
「キュー!」
と、それぞれふわふわもこもこ具合を堪能、というなの調査を行っていると一匹が目を覚ます。
じっとつぶらな瞳で、自分たちを見上げてくるキメラ。
ぴたっと空気が固まり、動きが止まる。
この状況を理解しているのかしていないのか、目覚めたふわふわもこもこキメラは跳ねつつ転がりつつ足元へとじゃれついてくる。
「‥‥く!? 何て‥‥なんて‥‥なんて凶悪に‥‥かわいい」
足元にじゃれじゃれしてくるのは、キメラ的には体当たりのようだった。
だが、痛くもなんともない。
むしろその一生懸命な姿がかわいらしい。
やがてそのキメラの声に他のキメラたちも目を覚ます。
目を覚ませば行動は同じ。
傍からみればふわふわもこもこしたものがぴょこぴょこと飛んではねているようにしか見えない状態だった。
「その仲間を離してほしいのかもしれないわね」
「‥‥仲間を助けようと‥‥ほむ」
試しにクロードが抱きあげていたキメラを話すと、ぴょこぴょことキメラは移動し百合歌を集中的に攻撃し始める。
百合歌は手にしていた一匹片手にカシャカシャと撮影をしていた。
こうしてふわふわもこもこキメラたちとある種の戦いを繰り広げつつ、やがてその時はやってくる。
●心を鬼に
「私には彼等の生活を奪う権利なんてありません。キメラだからだと言う理由だけで彼等の全てを奪う私は彼等の敵であり、彼等の悪なのでしょう。それだけは忘れてはならないと思いました‥‥」
連は想いを口にしてスイッチを切り替える。
ふわふわもこもこしたキメラたちは、傭兵たちがいることに慣れて、体当たりではなくじゃれついてくるほどになじんでいた。
このままなら殲滅しなくてもよいのでは、とも思いそうになるがそうはいかない。
「あのぉ‥‥どうしても倒さないといけないんですよねぇ?」
控え目に香澄の言った言葉を未早は肯定する。
「無抵抗な小動物を殺戮していくのは良心が苛まれますけど‥‥そうも言ってられないですよね。仮にも相手はキメラだし‥‥」
「迷うな心、怯むな戦意、アレは‥‥斬らねばならぬ物体だ」
「いきなりふわもこが状態変化とかして凶暴化したりしたら怖いニャから、その辺要注意ニャね〜。凶暴化とかこの後ないともいえないし‥‥殲滅ニャね‥‥」
クロードは自分を戒め、アヤカも戦闘態勢に入る。
「どうせ倒さなきゃならないなら、他の誰でもなく自分の手で恋人が他の女の物になるなら、殺めてでも渡さない女心と同じね!」
ゴメンナサイ、と繰り返しつつ百合歌は覚醒する。背には一対の純白の羽根、そしてメロディーを口ずさむ。
「少し、殺り辛いけれど‥‥目標を駆逐するわ」
香澄は覚醒をし、目つきが鋭く、なる。そして結んでいた髪を下ろしキメラたちから少し距離をとった。
「では、責任を果たしましょう」
未早は覚醒と同時に視力がよくなるため眼鏡をはずす。スナイパーライフルを手にもった。
「轟け、竜の叫びっ!! ドラゴン・オンッ!!」
今まで調査のためにと殲滅をとどまっていた正和は叫びとポーズとともに覚醒。
肌は紫色の鱗となり、角と牙、そして尾が生え紫色の竜へと姿を変えた。
「派出に俺流、我が道を行くっ!! ドラバイオレットッ!!」
名乗りをあげて戦いの構え。
明らかにとげとげしく鋭い雰囲気となるが、ふわふわもこもこキメラたちはどうしたんだろうと不思議そうな雰囲気を醸し出すだけだった。
「くらえ、竜角肘っ!!」
正和は雷属性のついたファングを装備し、肘打ちでの獣突に技名をつけて叫ぶ。
その一撃でキメラはキュー! と悲鳴をあげてくたりと動かなくなる。
容赦なく繰り出される攻撃にキメラたちは次々と打倒されていくのだった。
「一度剣を抜いたなら‥‥何事にも動じず‥‥刃圏に入りし悉くを‥‥斬る!」
クロードもかわいい姿をしたキメラへと蛍火を向ける。
そして一閃、心を抑えつつ戦ってゆく。
「今は戦闘中だ! 集中し考えるな! ‥‥考える時間は後で存分に有るのだから」
今まで護衛っをしていたレヴィアも前に立つ。
ほとんど抵抗がない、かわいらしいキメラに犬や猫がすきなレヴィアは良心を痛めつつ戦っていた。
アヤカは覚醒をし耳と尻尾が出、瞳が猫目になり光輝やいていた。
ルベウスを装備して、回転運動を加えた流し切りで確実に倒していく。
キメラと、というよりもある種の葛藤を感じながら、戦闘は終わった。
●ふわもこたちよ、安らかに
「任務終了ですネ?」
キメラたちの姿はもうないことを確認して連は銃を収める。
「後味が悪い‥‥」
初任務であったレヴィアには任務成功の喜びはなかった。
気分は晴れず、わだかまりのようなものがあった。
「ふわもこがどこからやってきて、何をしに来たのかも調査しなくちゃニャね‥‥と思ってたけど打ち捨てられたのかもしれないニャ‥‥」
アヤカは廃墟の中に壊れた檻のようなものを周囲を調べてきたときに見つけてきた。
それはこの場所には合わないもので、どこからか運ばれてきたような、檻。
そしてその檻のまわりにはふわふわもこもこキメラの毛のようなものが付着していた。
「ふわもこちゃん、安らかに眠ってね」
百合歌と香澄はお墓を作る。せめて、と思ってのことだった。
「ふわもこさん。アナタ達の愛くるしさは生涯忘れません。こうして目を閉じれば何時でも‥‥はぅ〜☆‥‥はっ?! 誰も居ません?! 皆さん置いてかないで下さいよぉ〜〜?!」
安らかにと思いつつ姿を思い描いていた香澄は取り残されかけているのに気がついて急いで皆の元へと駆け寄る。
依頼は終わり本部へと帰還。
「よろしくお願いします。周囲のことなども調べてありますから」
得た情報やデータは連からバルトレッド・ケイオンの手に渡り、また上層部へと提出されることとなる。
そしてこのレポートから、また新たに依頼が舞い降りてくる切欠になるのは数日後のこと。