タイトル:氷塊の一角マスター:玲梛夜

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/28 22:07

●オープニング本文


 まことしとやかに、ひそりと流れている噂がある。
『アメリカのどこかにバグアの何らかの施設が、いくつかあるらしい』
 その噂が本当かどうかのかは、まだわからない。



「今回の仕事はキメラの捕獲です。廃墟に住みついているところを、ということで‥‥」
 多少の怪我を負わせることは問題無し。
 だが生きたまま、捕獲をという要請がでている。
 捕獲のために必要なものは依頼主が用意。
 搬送用のケージも用意がすんでいるのでそこにキメラを追いこんでほしいとのことだ。
 ただ、それなりに強敵であることが過去のデータからわかっている。
 相手はケルベロス。超大型の猛獣で、3つの首があり、火を吐く。
「火を吐くこともだけど爪や牙、それに大型だから体当たりでもそれなりの重量がある。あと‥‥遠目からの確認だが今までみたケルベロスよりも牙や爪が少し、大きい‥‥というのかな。際立っているように見えるとのこと。捕獲ということで近づくということになるから注意してください」
 そして、と一度区切りを、バルトレッドは瞳を細めた。
「この廃墟付近でバグアの姿が目撃されています。遭遇も可能性としてはありえないことではないので、気を引き締めて‥‥でも、もしものときはキメラは放っておいてその身の安全を優先してください」
 何よりも一番大事なのは皆さん何の無事です、とバルトレッドは言った。

●参加者一覧

吾妻 大和(ga0175
16歳・♂・FT
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
シズマ・オルフール(ga0305
24歳・♂・GP
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
社 槙斗(ga3086
20歳・♂・FT
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC

●リプレイ本文

●三つ首の獣
 傭兵たちに課された仕事は一つ。
 今目にしている廃墟に巣くうケルベロスを捕獲することだ。
 だが、ただ単に捕獲という事態ではないと事前に予想されていた。
「索敵に情報収集は弓兵の本分‥‥ま、任せてもらうかね。捕獲はよろしく」
 伊佐美 希明(ga0214)はこれから捕獲へと向かう仲間たちへと声をかける。
「ケルベロス‥‥くっ! できれば戦ってみたかった!!」
 警戒班へとまわるシズマ・オルフール(ga0305)はすぐ先にいるその強敵の姿を想像して唸る。
「ケルべロス捕獲ねえ? なるべく傷つけずにやれ? また、条件厳しいな」
 呟きを漏らしたのは神無月 翡翠(ga0238)。強敵であると名前を聞いただけで思うような相手になるべくダメージを与えずというのは、難しい注文だった。
「頑張れよ〜くれぐれも熱く‥‥夢中になりすぎるなよ? それで、怪我しても自業自得だからな?」
 だがそれでもやり遂げるのが傭兵たち。
「小型のキメラの捕獲依頼は今までにもあったのですが大型というのは初めてではないでしょうか。また随分と無茶な依頼ですね」
 今更、詮無き事だと思いますが、と鳴神 伊織(ga0421)は続けていった。
「普段KVで戦うような相手に生身で挑むわけですか‥‥流石にゾッとしませんね」
 もらった廃墟の地図と遠目からみつ現地をセラ・インフィールド(ga1889)は見比べながら言う。
「でも、必ず成功させてみせるぜ!」
 ぐっと士気を上げるのは社 槙斗(ga3086)。
 どんな敵でも気持ちで最初から負けることはないといったようにだ。
 さぁいきますか、と吾妻 大和(ga0175)はぐっと体を伸ばす。
「いざバグアもうろつく鬼ヶ島へ、お供の犬を捕まえに‥‥いや何か違うか」
 冗談を言い合う余裕は、今ここにひとまず置いて、捕獲すべく廃墟へと近づいて行く。
「危険な任務だけど、あいつと『無事帰ってくる』って約束したしな‥‥よし、帰ったらあいつに告白する。だから絶対生きて帰る」
 霧島 亜夜(ga3511)は仲間たちと向かいながら、心に強い思いを抱いていた。

●ケルベロスとの攻防
 足音、気配はできるだけ沈めて廃墟へと向かう。スタート地点は檻の付近から。
 通信機器をそれぞれしっかりもち、捕獲班は廃墟の中へ、そして警戒班は適度に距離をもちつつ広がってゆく。
「緋色の閃光、始動」
 亜夜の髪と瞳は真紅に染まって、覚醒。
 廃墟の一角にあつらえられた檻。設置したことを勘づいているケルベロスならば、そこへは用心して近づかないだろう。
 大和は覚醒し、五感を研ぎ澄ます。
 一つの変化も、逃がさないように。
 光を飲み込むかのごとく真っ黒な瞳を一瞬だけ閉じて心落ち着かせる。
 風の音がきこえ、その風にはらいとほどけた長い髪が揺れた。
 槙斗もあたりを見つつそれぞれがどこにいるか、そしてあたりの様子にも気を配りながら捜索。
 いつ現れても良いように、伊織は弓を手に持って動く。弓での威嚇射撃で引きつけ檻へと追い込むための初手にも、なるように。
 セラは地図を思い出し、ケルベロスの隠れていられそうな場所を思い出す。
 こっちだ、と進んでいく方は、半分瓦解した建物が多い場所。
 そちらの方へ注意して進んでいた時、槙斗がストップをかける。
 止まって、あたりをうかがうが静かだった。
 静かだったか、どことなくプレッシャーを感じる。
 檻と、そのプレッシャーを感じる方向に挟まれた形となる傭兵たち。
 何かいるならケルベロス。
 後から追い込むのが一番なら、回り込まなければいけない。
 そして、ケルベロスに見つかるのよりも先に、ケルベロスを見つけなければいけない。
 すぐさま捕獲班のメンバーは一番良い、と思う方向へと動き始める。
 射撃を行う予定の伊織は自然と距離をとり、少し高い場所へ。
 亜夜は囮役となる大和をフォローできる位置へ。
 そして大和は囮役となるために、目の前に出ることを一番とする。
 だけれどもそれは自分が先でなくてはいけない。
 ふっと緊張が張り詰める。
 大和から少し離れて見守るセラ。その視界に黒い影が入ってくる。
 廃墟の影、まだ他の仲間からは見えない位置に、ケルベロスはいた。
 その場所を槙斗たちへと、言葉なく、身振り手振りで伝えてゆく。
 それぞれが、ケルベロスを囲うように配置へとつく。
「ワン公さん、どうして頭が3つもあるの? ‥‥それは1匹で3度美味しいからだよ、ってか」
 大和はケルベロスの前にたち、狙撃。スコーピオンの射撃範囲ギリギリの距離を保って攻撃する。
 ケルベロスはそれに三つの頭をあげ、立ちあがった。
 その瞬間、また伊織が後足付近を狙って狙撃。
 狙いの方向へと向かわせるよう一足目を向かせる。
「あれ‥‥傷だらけ‥‥?」
 立ち上がったケルベロス。
 その身には無数の傷があった。
 動きもどこか俊敏さを欠いている様子。けれども意識だけはこちらへとしっかり向いていた。
 大和は檻の方へと、走りだす。
 と、それと同時にそれぞれの元へと警戒班から連絡が入る。
 まだ遭遇したばかり。だが連絡があったということは、バグアがやってきたということ。
「これは早くやらないとな」
 槙斗は呟いて、サポートへと回る。もし撤退するとなった場合のことも、思考にいれながら。
 ケルベロスが動くことによって、もろかった建物が瓦解する。
 その瓦解にも巻き込まれないよう、まっすぐ檻へ。
 だがケルベロスは、そちらへと向かっているであろうことを感じとったのか、一度立ち止まろうとした。
「向かってもらいます」
 まだ弓から刀に持ち直していなかった伊織は、最後の弓からの一撃。動け、と思いつつその矢を射る。
 ケルベロスは自分が攻撃を受けているという事実に、獣の本能か、追うことをまた始める。
 先ほどよりも、スピードを上げて。
「まだ大丈夫ですね」
 ケルベロスに気がつかれないように、だけれどもいつでもサポートに入れる距離でともに動くセラは仲間の動きから目を離さずにいる。
 もうすぐ檻。
 今のところうまくおびき寄せることは、できている。
「あともう少しか」
 後から追い込むように動いていた槙斗。囮役の大和にすべての気を向かせないように注意しながら追っていく。
 やがてあと一つ、廃墟の角を曲がれば檻の前へ。
 バグアが付近へとやってきているとの連絡はない。
 このままいけば、うまく捕獲が終わる。
 角を曲がって、追い込まれていたことに気がつくケルベロス。
 だがもうこうなっては、と大和の方へと、ケルベロスは走る。
「けど、それも狙い通り! 喰らえ土壇場奥義・膝カックン!」
 スコーピオンから蛍火に持ち替え、まっすぐ進みその前足へと流し斬りと豪破斬撃をすれ違い様に打ち込む。
 振り下ろされる爪は、覚醒し、青白い光りを発するセラがレイピアでその起動を反らす。
 いつもより大きく開いたセラの瞳は、その大きな爪を怯むこともなく視界におさめていた。
 目標から外れた爪と、その前足への攻撃でケルベロスは前のめりに倒れる。
 そして一つの首を、後へと集まっている傭兵たちへと、向けた。
 その口には炎が、渦巻く。
「そうはさせません!」
 青白い、淡い光を纏う伊織は、後足へも攻撃。体勢を立て直そうとしつつのケルベロスの攻撃は始まることなく終わる。
「さて、ダンスのお時間だぜ!」
 サブマシンガンをもった亜夜は足元を狙い檻へと足を進ませる。
 逃げるには傭兵たちを倒すか、はたまた廃墟を壊し突っ切るかしかないケルベロス。
 ケルベロスのとろうとした行動は後者だった。ふっと身を返して体の側面を傭兵たちへと向ける。
「! 逃げる前に檻へ!!」
 槙斗は言い放ち、自分も豪力発現で筋力を高め突撃する。
「これで終わってくれよ、とな!」
 後から体当たりで力まかせに檻の中へ。
 それが可能なものはできる限りの勢いと力をのせて、ケルベロスへと向かう。
 タイミングを完全に合わせてのその後ろからの衝撃に体勢を崩したケルベロスは、檻へと押し込まれるしかなかった。
 押し込まれた瞬間、がしゃんと檻が閉じ、がちっと鍵がかかる音。
 檻から脱出しようと暴れるケルベロスだったが、檻が揺れるだけ、だった。
「なんとか‥‥いったな」
「かすり傷はあるけど大きな怪我はないな」
「ケルベロスの爪受け流して、ちょっと腕がしびれているくらいです」
 すぐさま警戒班へと連絡。そして捕獲後にケルベロスを運ぶべく待機していた者たちへも連絡を入れる。
「早く帰って、あいつに無事を報告しないとな」
 その間に亜夜はぽそりとつぶやいていた。

●バグアの影
 捕獲班と分かれて周辺へと気を巡らせる面々。
 ころり、と一つ石が転がる音でさえ気になってしまう。
 捕獲班がケルベロスを見つけていた頃、警戒班にも動きがあった。
 その動きの始まりは高いところから身を低くしてあたりをうかがっていたシズマから。
 明らかに、何かを探しているような動きをする者たち。それは仲間ではなくバグアたちだ。
 一人は明らかにバグア。もう二人は人間だった。一緒にいて、バグアの指示に従っている様子の人間たち。
 人数は三人、だが他にもいないとは限らない。
 すぐさま警戒班のメンバーへと連絡を入れる。
「このあたりには‥‥いなさそうだな」
 翡翠がいる場所はシズマからは遠く、だが捕獲班とは近い。
 翡翠はいつでも動けるように構える。
 そして、一番このバグアたちに近い場所にいた希明はじりじりとその距離を縮めていた。
 ゆっくり確実に、近づいてゆく。
「む‥‥このあたりが限界かな」
 覚醒しての隠密潜行。左顔は鬼のように、醜悪に変貌。自制しがたい自分を、今はと押しとどめる。
『‥‥ケルベロス‥‥‥‥逃げた‥‥‥‥』
『早くつ‥‥‥‥ゆそ‥‥』
 希明の耳へと断片的な言葉が入ってくる。
 それらを聞き逃さないように、そして何をしようとしているのか、希明はそれを探る。
「噂じゃ、なんかの施設がこの付近にあるようだけど‥‥キメラの研究施設か何かかな?」
 小さく呟き、持っていた鏡を使って物影からバグアの動向を映しうかがう。
 バグアたちは何かを探すようにきょろきょろとしながら、その手には武器を持っていた。
『キメラ闘技場‥‥‥‥こんな遠くまで‥‥』
『‥‥手傷を‥‥‥‥捕獲に多少‥‥』
 捕獲、との言葉。
 それを聞いてもしかして目的は同じなのかもしれない、と思う。
 つかず離れずの距離を保ちながら、廃墟の中へと進んでいこうとするバグアたちを希明は追う。
 その様子をシズマは少し離れたところからひやひやしつつ見ていた。
「まだ見つかってないな‥‥」
 もし見つかってもすぐ気をひいて希明が離れられるチャンスを作れるように。
「‥‥なんだか嫌な感じだ‥‥どうなっちまうかな‥‥こりゃ」
 シズマはケルベロスを捕獲しているであろう方向を見る。
 と、そちらから建物が崩れるような音が聞こえた。
 遭遇して、始まったのだろう。
 その音は、バグアたちの耳へも届いているはず。
 バグアたちもあちらか、と向かい始める。
 そしてその方向には希明。
 希明もそれを感じてか移動をする。
「チッ、見つかったか!?」
 まだそうではないものの、すぐにも見つかりそうな気配。
 わざと音をたててシズマは移動する。
 音で引きつけた瞬間に、希明はその場から撤退。
 翡翠もその様子を見ており、場を離れ始める。
 バグアたちと作戦中の場所へは距離がある。ギリギリのラインまでは作戦の邪魔はしないように。
 捕獲班へもバグアが来たことは知らせてあるので、彼らの行動にもちゃんと撤退の場合も組み込まれているはずだ。
「厄介なことになったな‥‥」
 翡翠は言って、バグアたちの動きをみる。
 彼らは作戦中の方向からの音と、シズマがたてた音、その二つによって敵がいるのか、と身構え動きも慎重になっていた。
 じりじりと進む彼らと、またじりじりと彼らを警戒する傭兵たち。
 短い時間なのに緊張でとても、長く感じる。
 と、静かに通信機が動く。
 それは、捕獲が無事に終わったという知らせだ。
 あとは輸送班がきて無事に出発したという知らせを貰うだけ。それが終わるまでは油断できない。
「何も起こるな、起こるな‥‥‥‥」
 祈るように希明は呟く。
 そして10分後に、もう一度連絡。
 無事に出発した知らせを受けて、警戒班たちは静かにその場を離れる。
 交戦はないものの、いつ見つかってもおかしくない距離。
 見つかれば攻撃を受けるのは必至だった傭兵たちも、やがて安全圏へと逃れ、捕獲班と合流した。

 ●新たなる可能性
 ケルベロスの乗せられた檻の後ろ。
 そこを走るライトバンの中に傭兵たちはいた。
 移動する間の時間はさしてやらなければいけないことはなかった。
 その時間は、得た情報を並べていくには十分すぎるほど。
 あたりで見かけられていたバグアとの遭遇は予想の範囲内。
 警戒班が息をひそめて得たバグアの情報は断片的なものだった。
 主に、意味として捉える事ができた言葉はいくつかあった。

『ケルベロス『逃げた』『キメラ闘技場』『爪と牙を強化し』『こんな遠くまで』『手傷を』『捕獲に多少』

 だがそれらの言葉を、合わせていくとなんとなく、その大枠が見えてくる。
 ああだこうだと全員で言葉の並び替え。
 そして最終的に、捕獲したケルベロスはバグアの施設『キメラ闘技場』へと輸送する途中で逃げ出した、今までお目にかかっていたケルベロスより爪や牙などが強化されていたキメラだったという可能性がでてくる。
 そしてケルベロスが受けていた傷もバグアの仕業なのだろう。
『キメラ闘技場』の場所は、会話から今いる場所よりも遠い場所にあるらしい。
 闘技場というのだから、キメラたちが戦いあっているのだろう。
 それが意味することは、より強いキメラがこれよりまた生み出されていく可能性があるということ。
「そのキメラ闘技場っていうのをみつけてどうにかする、っていうのも今後必要になりそうですね‥‥」
「ケルベロス級のキメラばっかりがいるんだろうか‥‥となるとかなり気合いれていかなきゃなんない場所だな」
「詳しい場所言ってくれたらよかったのに」
 もうちょっと近づいて聞くんだった、と結構ギリギリまで近づいていた希明は言う。
「何にせよ、今は無事に終わって良かったです。実はあのケルベロスに子供がいておいかけてきたり‥‥なんて考えてたんですが」
「おいおい、それはちょっと洒落になってないぜ」
 翡翠の言葉にまさか、と思いつつなんとなく後方を確認してしまう面々。
 見えるのは、先ほどまでいた廃墟だけだ。
「とりあえず帰って報告‥‥今回の情報が役立つといいですね」
 セラの言葉にそれぞれ頷く。
 得た情報は、この後本部にわたり『キメラ闘技場』についての対処が始まってゆくこととなる。