●リプレイ本文
●沼との遭遇
「沼に潜む謎の生物ね‥‥正体はなんなのかしら。沼から何か飛び出したではなく沼そのものが食べたという事は‥‥っぽいけど‥‥」
賑やかな、件の沼の付近にある街について江崎里香(
ga0315)は呟く。
何の変哲もない沼。だがそこでおかしな出来事が起こったことも確かな事実だ。
「さて鬼が出るか蛇が出るか。何であろうが殲滅するだけだがな」
月影・透夜(
ga1806)は冷静に言い放つが、胸の内では静かに燃え盛る気持ちを抱いていた。
「何にせよまずは聞き込みかしらね」
沼が動くのを見たという人物に会って情報収集を、とシャロン・エイヴァリー(
ga1843)は言う。
「どう獲物を捕えたのかを特に詳しく聞けたらいいわね」
ファルル・キーリア(
ga4815)は目撃者の元に行きましょうと促す。
傭兵達が調査に来るという連絡は事前に入っており、目撃者とのコンタクトは簡単に取れた。
「鳥をぐあっと伸びてしゅばっと捕まえて、そのまま鳴くことも許さないまま飲み込むように引きこんでいきました。底なし沼と言われている場所なので、人間は近づきませんが動物たちは別ですからね‥‥結構俊敏で、立ちあがるような感じで‥‥」
「沼が立ち上がった?? 本当なの、それ? くっ‥‥楽な仕事にはなりそうにないわね」
ファルルは声を抑えるように笑う。
「肉食底なし沼か‥‥こいつぁ、どこのC級映画の話かねぇ? ‥‥あっはっは」
明るく佐竹 優理(
ga4607)は笑って本心を悟らせない。けれど、しっかりと心の中には、やるべきことを理解していた。
「沼か‥‥何かいるのは間違いないが、それが何かを特定できればいいな。何かといってもキメラなんだろうが」
その方法には色々考えられるな、と神無 戒路(
ga6003)はいくつか作戦を考える。
「沼の調査‥‥いそうなのはスライムかな。また引きずられるとなると、やっかいです」
神森 静(
ga5165)は微笑みのまま言う。
そして、鯨井起太(
ga0984)は話を聞きながら、心のそこから信じていることを口にだす。
「バル君がもちをいっぱい食べてしまったから。食べてしまったから、もちもちお化けが現れたに違いない」
と、真剣に言っている傍で話は進んでいく。
「餌となるもので沼にいるものを誘いだしてみようか」
「OK、じゃあひとつキメラ釣りといきますか」
一行は町へ出て、餌となる肉などを安く買い込む。
「調査のまま、戦闘もありえるが、準備がもし必要なようであれば街へ一度戻ることも考えよう」
透夜は一つ、提案をだす。
作戦をどうするかをもう一度確認するとともに、引き際のラインもしっかりと決定。
「正体が分かった所で、準備が必要なら一度町に戻って翌日出直すってぇ事もあり得るね」
うんうん、と優理は頷き同意する。
「爆薬、使うことになるかどうか‥‥わからないけど」
ファルルは出発前に本部より支給された爆薬をちゃんともっているか確認する。
もし、水中にキメラがいた場合に、びっくりさせたりなど使いようはたくさんある。
準備を整え、傭兵たちは、沼へと向かった。
その沼は町から歩いて20分程度。
だが、閑散としていた。
「さて‥‥正体は調べてみないと分からないけどスライムなら捕まって食べられないよう気をつけましょ。服溶かされるの嫌だし‥‥それどころじゃすまないかもしれないけど」
過去、スライム型キメラに服を溶かされた経験のある里香は、それを思い出す。
この前は小型だったが、大型が潜んでいるなら、そんな状況になればただでは済まない。
「じゃあ、第一投、いくわよっ!!」
沼に向かって渾身の力で、シャロンは投げる。
ぴゅーっと綺麗な放物線のラインをもって飛んでいくさっき買ったばかりの新鮮な魚。
それが、沼の上へとたどり着いた瞬間。
ぞばあっ! と水の立ち上がる重い音とともに、にょっと魚をとらえていく半透明の、ぶよぶよした質感のもの。
濁った色の、濃い緑色。
どこからみても、スライム型キメラと思しきその、様子。
それは魚をとらえて、またすぐ沼へと戻っていく。
「もちもちお化けが‥‥もちもちお化けが出た! バル君がもちばっかり食べるから!!」
「こんなに大きいの?? くっ‥‥」
「でかいな。狙わなくて済むくらいだ‥‥」
その大きさを目の当たりにして、起太は万歳状態で叫び、ファルルは一瞬眉をひそめる。
そして透夜は、呆れたような声を出していた。
「あっはっは、これはなかなかだね。でも何かいることはわかった。作戦通り、いこうか」
まず、沼からキメラを、引っぱり出さなければ攻撃はできない。
殲滅の前に引き上げ作戦の始まり。
●沼の中から這い出るもの
「作戦その1、沼に向かって機械系の武器で電気を流す『電流作戦』」
沼から、攻撃があってもすぐ対処できるように気を張りながら。
電流を流すのは超機械をもったファルル。
「くっ‥‥超機械は得意じゃないんだけど。スライム相手じゃ仕方がないですね」
紫の瞳は、深い青色へ。覚醒したファルルは隠密潜行を使い沼へ向かって幾度と電磁波を発生させる。
幾度となく行われる攻撃。
沼が、少し波打つものの大きな変化はあらわれなかった。
出てくる気配は見られない。
「ダメか‥‥」
合図を送り、ファルルは安全な場所へと戻る。
そして次の作戦へと移行。
「作戦その2、焼いた石を沼に投げ込む『焼け石作戦』」
ぱちぱちと火の爆ぜる音。
焚火を作り、そこへ手頃な大きさの石をたくさん放り込み、熱していく。
「こんなものかな‥‥」
焼けた石は赤い色となっていた。それらを、その熱が冷めないうちに沼へとどんどん放り込んでいく。
じゅっと音が幾度となく上がり、沼に潜むスライム型キメラが耐えられなかったのか少しだけ沼の外へとその体を引き上げる。
だがすぐさま、また沼の中へ戻っていってしまい、攻撃にまでは至らない。
「ダメか‥‥」
「これを使いましょう」
前衛へと立つものへとファルルは爆薬を渡す。
安全ピンを抜いてしばらくたつと爆発する仕様のものは、水の中でも効果のあるタイプだった。
これでびっくりして飛び出てくればいいんだけど、とファルルの言葉は続く。
「いくわよ」
「了解」
再び注意しながら沼との距離を縮め、タイミングを合わせて沼へと爆薬を放り込む。
放りう込んだあとは、どれほどの衝撃がくるかわからないので一気に安全な場所まで退避。
投げ込んで数秒後、ドォン! と水中より大きな音がし、水が逆に、上へと跳ね上がる。
「でてきたわよ!」
その衝撃に驚いたのか、スライム型キメラは沼より、這いでてくる。
「ミッションスタートだ」
覚醒する透夜。黒から銀へと変わる瞳、そして三日月状の紋章が額と両手の甲へと浮かぶ。
スパークマシンを持ってそれをスライム型キメラへと向ける。
「超機械は普段使わないがやってみるさ。奴は伸びる。間合いを読み間違うなよ」
仲間へと声をかけながら、透夜は攻撃を行う。
その攻撃は追い立てるように、沼からキメラを陸へと向かわせる。
沼と同化しており、まだ引き離すことのできないキメラ。
念のため、と置いておいた最後の爆薬を戒路は沼とキメラの繋がっていると思われる場所へと投げ、それを狙撃する。
爆音とともに、沼から完全にずるりと出てくるスライム型キメラ。
すぐさま回り込み、沼へと戻らせないようシャロンと優利が動く。
「スライムは動作が先読みしにくいから気をつけて、仕掛けるわよ!」
手の甲から青白い光を発行させ、シャロンはイリアスをスライム型キメラの体へと振り下ろす。
シャロンへと攻撃が向けば、それをさえぎるように起太が射撃を試みる。
「バックアップは任せてくれたまえ。さあ一気にカタをつけようじゃないか」
小さなダメージだが、スライム型キメラの動きを一瞬止めるには十分で、その一瞬で戦況は優位になる。
「死になさい。邪魔物は、排除するのみ」
茶から銀へと髪色を変化させる静。冷たい言葉を発し、戦闘へと向かう。
攻撃のタイミングはばらばらでも、動きは一致。
優里が攻撃をし、下がるとシャロンが別方向より攻撃。
さらに後方からはスナイパーたちの狙撃と、超機械による攻撃。
巨体で有る分スライム型キメラへの攻撃は当たりやすい、というか確実に当たる。
「なかなかしぶといわ」
里香は言葉に波もないように呟き、スキルを重ねて強力は一撃を生み出す。
その攻撃にスライム型キメラの体が跳ね、動きが鈍くなってゆく。
「なんて厄介なっ! だけどまだまだこれから、ってね!」
長期戦の予感を感じつつ起太はフォローと、さらに急所を狙っての攻撃をする。
肌の色は褐色になり髪色は明るさ増したブルー。自分は無敵! と思いつつ攻撃の手は闇雲、ではなくきっちり狙うとこを狙って行っていた。
「大きいけど、それだけね‥‥消えて‥‥」
超機械で攻撃し続けていたファルルは動きにキレがなくなってきたスライム型キメラに向かい呟く。
大きいけれども特別強力な攻撃能力はなく、なぎ払ったり取り込もうと動くだけのスライム型キメラ。
とりたてての攻撃がないからこその、擬態を含めての同化だったのかもしれないと思わせる。
やがてスライム型キメラは、その動きを止める。
巨体を地に伏すように、うごかないぶよぶよとなり果てた。
「死んだふりの可能性があるから‥‥注意しましょう」
里香がまだ生きているのでは、という可能性を示唆した瞬間、それが本当になる。
「エイヴァりー!」
一番近くにいたシャロンを捕まえるように動くスライム型キメラ。
「させるか」
「!!」
すぐさま戒路は攻撃を行い、その瞬間にシャロンは豪力発現をもって、そのスライム型キメラの体から自分の身を放す。
「悪いけど、まだ水遊びしたい季節じゃないの。お誘いはご遠慮するわっ」
再度の戦闘にそれぞれ出来るだけ一番強力な攻撃をスライムへと向ける。
「急所を狙っていこうか! ‥‥まぁ、急所があるのかどうか判らないけどねぇ‥‥あっはっは!」
あるかどうかわからない急所へ、八人の様々な攻撃によって当たっていたかもしれない。
スライム型キメラに攻撃の合間を持たせることなく攻撃の波は続く。
そして今度こそ本当にそのスライムの活動を停止させるのだった。
●決着
「本当に、大きかった‥‥」
沼から這い出たスライム型キメラの大きさを思い出して、誰ともなく呟きが漏れた。
今、目の前の沼は静けさを取り戻し、動く気配などはない。
沼から這い出たキメラは今はもう、その姿形を消していた。
「この手のキメラとはもう関わりたくないねぇ‥‥」
スライム型キメラがさっきまであそこにいたんだな、と思いつつ優理は呟いてその静かになった沼を見やる。波紋一つなく、先ほどまでの戦闘は嘘のようだ。
「まぁ、もうこれで敵はいなくなったことだし‥‥」
「無事に終了、ね‥‥今回は服に被害もなかったし、よかった」
里香はどこにも破れたところはないことを確認してほっとする。
誰も、大きな怪我はなく無事に作戦は終了した。
「あとは、町の人と本部にこの結末を報告するだけだな。戻ろうか」
敵を倒すことが無事に終わり、熱く燃えていた透夜の胸のうちは一時の静かさを得る。
「やっと、終わったかしら? さすがにあの大きさだと、疲れましたわ‥‥とりあえず、住人に被害が出るまでに対処できたので、良かったです」
街の方向を向いて、静は言う。何事もないのが、ここに住んでいる人たちにとっては一番なのだ。
戒路はまた一つ戦いを終えて、自分の存在を示せたのかと自分に問う。
その答えが今すぐに出ることはないが、重ねていけばきっといつか、と思う。
「一応、周囲の捜索はしておこう」
沼の周りを戒路は念のためと調査し、スライム型キメラの残骸があればそれを処理していく。
「もちもちお化けは見事退治された‥‥安らかに眠りたまへ、成仏しろよ」
チーンと効果音聞こえてきそうな雰囲気で起太はスライム型キメラの成仏を祈る。
これで自分の指名は果たされた、と上げた顔はどこか清々しい。
「お疲れ様。援護ありがとうね。お餅の分はしっかり働いたわね」
ぽん、とシャロンは起太の肩を叩いて戦闘時のフォローの礼を言いつつ笑顔を浮かべた。
ずっとこの場所にいるわけにも、いる必要もなくなった傭兵たちは、町へと戻る。
残るのは、平穏を取り戻した沼だけだった。