●リプレイ本文
●緊急出動
捕獲した手負いのキメラ、ケルベロスが暴れているという知らせを受けた傭兵たち。
「アイマイマイン。でっかいワンちゃんは私たちにお任せ☆ 君たちは人の道路の規制とお願い」
阿野次 のもじ(
ga5480)は連絡をうけ、周囲に逃げるよう促す。
そしてそんな彼女を途中まで送っていく、と兵士が名乗りをあげ、バイクの後へと乗った。
向かう場所は軍の基地内。
「移動するのに足が‥‥バイクか」
軍の基地内についてフォル=アヴィン(
ga6258)の目に映ったバイク。
所持者は兵士で、この緊急事態をもちろん知っている。話せば急いでと鍵を投げて渡してきた。
それをキャッチしてエンジンをかけたところで、同じように、その場所で向かうであろう蒼羅 玲(
ga1092)の姿がフォルの視界に収まる。
「乗ってください!」
かけられた声に玲はバイクの後へと乗り、現場へと向かう。
同じように駆けつけてゆく仲間たち。
そのバイクで走る姿をみて藤村 瑠亥(
ga3862)もバイクを借りる。
そしてすでに、戦闘は始まっていた。
先についていたものたちは、すでに覚醒をし、臨戦態勢。
「‥‥戦闘‥‥開始」
西島 百白(
ga2123)は静かに呟き覚醒。
その身は白く光り、目は獣のように鋭く、変わる。
「乗れ!」
そこへバイクを借りた神無 戒路(
ga6003)が声をかける。
ケルベロスの後に回り込むには、走るのでは速度が足りない。
「確り掴まっとけよ」
後へ声をかけると、捕まる手の力が強まる。
目の前には、暴れるケルベロス。
ケガを負っているとはいえ、その力はまだ脅威。
それぞれ散らばる傭兵たちを見つつ、逃走しようと方向を定めているようだった。
「手負いと聞いていたが‥‥なかなか元気印のようじゃないか、ワンワン君は」
鯨井起太(
ga0984)は言って、ケルベロスをまっすぐみる。
手負いの魔犬は、たとえここから逃げだせたとしても居場所などない。
逃げて逃げて、朽ちる運命はあまりに不憫だが、その一生の終わりに一つ、価値を与えられるとすれば自分に討伐された、ということしかないと起太は思っていた、
「古今東西、怪物の最後は英雄によってもたらせるものだから」
自分が倒すしかない、と起太は覚醒する。
「キメラは、意思がなく使われているだけの存在かと思っていましたが、自由のためには狡猾に動くのですね‥‥」
これ以上の被害がでないように、倒してしまいましょうと藤川 翔(
ga0937)は声をかける。
「おっきくても、一匹と九人、連携もありだし、なんとかなるでしょー、ってかするー」
薬袋音も、そこへ加わって、数の上ではこちらが有利。
ケルベロスを囲い込むように陣形はひとまず、組まれた。
だが、ケルベロスはぐっと身を低くして、構える。
そのまま勢いよく走り、傭兵達の頭の上を飛び越えてゆく。
「一筋縄ではいかないようですね」
ケルベロスに頭上を越えられ、フォルの乗っているバイクの上から足元狙って玲は牽制射撃を行う。
そのままバイクは再び走り出し、ケルベロスと並走。
逃がしはしない、ともちろん他の面々も追う。
ケルベロスは、しつこい攻撃に、このままでは逃げ切れないと思ったのか、足を止める。
その地をするようにブレーキをかける瞬間、砂埃が舞う。
「貴女の腕なら大丈夫だと思いますが、気を付けてくださいね」
「緋眼の戦士、玲まいります」
フォルの言葉を受け、黒い瞳は緋色に。玲はバイクから降り、そのケルベロスの前にたち気を引く。
仲間たちが追いつくまでの時間稼ぎと、攻撃をしやすい状況を作るための囮役。
双方の意識が対峙に向いて、戦い本番はこれから。
●爪と、焔と
「こちらです」
ケルベロスの足元をくぐりぬけるように玲が走る。
素早い動きに翻弄された瞬間に、他方からの攻撃。
腰まで長くなった髪をなびかせた翔は超機械γで攻撃を繰り出す。
それは低く、地を這うような電磁波で、ケルベロスの足へとダメージを与え方向を変えようとした一瞬を抑える。
その隙に瑠亥、のもじ、起太たちが側面の死角から攻撃。
「って、でか」
改めて近づくケルベロスにむけてのもじは一言、声を発する。
けれどもすぐ、それを押し込めて動く。
「猛獣注意! 怪我一生! 世を騒がすワンダフル・ワンコちゃん。ある種可哀想だけどこれも世の定め! おとなしくお縄につきなさいいざ、覚・醒! 尋常勝負☆」
ずびしっ、と音がしそうなほどの勢いで指さし覚醒。
ルベウスをつけた両手から攻撃。
「手負いが一匹、手早く終わらせるぞ!」
バイクから降りた瑠亥はその手に月詠と蛍火を持ち、ケルベロスへと向かう。
刀二つ、なぎ払うような斬撃はケルベロスの体にぶちあたる。
それに追い打ちかけるように起太の狙撃。
離脱する一瞬の隙を作って、攻撃のため振り下ろされる爪を避けることを可能とする。
それでも勢いに任せて繰り出された爪は、コンクリートの地面を叩き壊す。勢いで跳ね上がった破片が礫のように当たるが、直撃よりはまだまし。
「地獄の番犬、ね、では地獄にお帰り願いましょうか」
両目を鮮やかな青に変えたフォルは朱鳳の刀身をやや寝かせて正眼に構え、狙いを定める。
ケルベロスが他方を見ている瞬間にぐっと踏み込んで。
「脚を狙います。音さん、よろしく!」
視線も一瞬だけ音に向け、言葉通り脚狙い。
刀を振り抜いて傷を負わせたそのすぐさま後に、音も攻撃を行う。
それに合わさるように、百白も攻撃。後からの気配にケルベロスは身を翻そうとするが、攻撃の方が早い。
そしてその後から、狙いを定めた射撃を繰り出すのは戒路。
打ち込む弾数をできるだけ減らし、その代り正確に撃ち抜いてゆく。
それもケルベロスの態勢を崩したりと仲間の力になるように。
「すまないな」
覚醒し白髪となり、赤く輝く有鱗目でもってケルベロスを狙う。
ライフルを持つ手、だけでなく全身には赤い呪印。
後ろ脚の関節を狙うように、打ちこむ。
ぐらっとその巨体が揺れれば、チャンス。
「わらわが武器を強化するでおじゃるから、猛攻を仕掛けるでおじゃる!」
翔が支援、と仲間たちの武器へと練成強化。
攻撃力をあげて、一斉に攻撃をケルベロスへと向ける。
と、口を少しあけ、熱がそこへと集まるような、雰囲気。
至近距離へと玲が近づき、ショットガンを放つ。
その攻撃は炎を吐こうとしていた頭の動きを止める。だが他の頭が玲に牙をむいて襲いかかる。
すぐさま飛びのくように退避。
かわりに瑠亥が、その首に向かう。
「どうせ三つあるんだ‥‥一つや二つなくなったところでどうということあるまい!!」
交差するように、振り上げる二刀。
首の付け根あたりにダメージが与えられる。そしてその衝撃で上を向いた頭へと、起太が小銃シエルクラインを向ける。
「冒険したいお年頃、ってワケでもないんでね。確実に一発決めさせてもらうよ!」
鋭覚狙撃で命中率と攻撃力をさらに上げ、その頭を狙う。
鼻先を潰すような銃弾に、ケルベロスは叫ぶ。
攻撃の手は止まず、ケルベロスも手がでない。このままでは、と思ったのか、本能か、地に伏せる体を起し、とび上がり頭上を越えようとする。
「浮島!!!」
だが、同じ手は二回も喰らわないとばかりにのもじが叫びつつ瞬速縮地で距離をつけ獣突を下から上へと喰らわせる。
飛びあがって浮き上がった身体を、さらに浮き上がらせる攻撃。
「逃がすか!」
そして百白がまたその胴へと流し斬り、すぐさま切り替えして豪破斬撃を繰り出す。
「これ以上苦しむ必要はない」
集中し、覚醒で感情を塗つぶした戒路は強弾撃のかかった弾で狙撃。
急所を貫き、そのままケルベロスは地に落ちる。
瀕死に近くとも、まだ立ち上がろうとするケルベロスにフォルが流し斬りを使う。
「いい加減大人しくしろっ」
かわるがわる、繰り出される波状攻撃の中、ケルベロスの視線の中に、翳りがある。
「そんなに切なそうな顔をしないでくれ。こっちまで悲しくなってくるじゃないか」
起太は、そう言いながらも攻撃を迷わず続ける。それが役目で、仕事なのだから。
その場所に攻撃が続くことと体力的にも立ちあがる力がなくなったケルベロスは、やがて叫び声も何もなく、静かに、ゆっくりとケルベロスは地へと倒れた。
●倒れ伏して
「すまないな。これが俺の仕事だ」
その、倒れる音にかき消される声は戒路のものだった。
傷つき苦しんでいたものを、この戦いでさらに苦しませていたかもしれない。
だがこれで、もう苦しみはなくなるのだと、ケルベロスへと伝えるように思う。
しばらくたっても、起き上がらないケルベロス。
再び動くことはもうなくなったその体。
沈黙の後に、もう終わったのだと気がつく。
「‥‥お疲れ」
ぼそり、と呟き百白は覚醒をとく。
今まで気を張り詰めて誰もが戦っていたため、少し、気の抜けたような雰囲気。
「終わりましたね‥‥被害がどれほどか今はわかりませんが、甚大でないといいのですが」
覚醒をといてあたりを見回す翔。
闘っていた場所は、銃撃などでコンクリートが粉砕されていたりする。
けれども、人命に被害がないこと、は今ここに全員立っていることからすぐわかる。
無事に誰もがいることに翔は本当に良かったと、思う。
そして倒れたケルベロスへと、視線を向けると、完全に動かなくなったケルベロスへと、起太が近づいていた。
「なかなかの強敵だった」
闘った敵に敬意を、というように呟きを落とす。
と、その横にのもじがたったかとやってきてしゃがみこむ。
「‥‥もうちょっと、ちいさければ一緒に遊べたのにね」
鼻先をちょいちょい、とつついて、そして近くに落ちていた牙に気がつく。
それを拾って立ち上がり、あたりをきょろきょろ。
コンクリートではなく、土を見つけてまたしゃがみ込む。
穴をぐりぐりどりどりあけ、ぽいっと放り込み埋める。
「おやすみなさい」
これでよし、とのもじは仲間たちのもとへ帰還。
捕獲され、本能のままに逃走をはかったケルベロスは傭兵たちの手によって終わりを迎えた。