タイトル:【闘】緑色☆変化マスター:玲梛夜

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/11 16:22

●オープニング本文


 ナイアガラの滝。
 その周りには雄大な自然が、広がっている。
 そんなナイアガラの滝付近にて、キメラが目撃されている。
 正しくは、存在をなんとなく確認されているといったほうが正しい。
「調査している軍からの情報では大型のカメレオン、のようだという情報があります。どうやら擬態しているようなのでそれを探すことから始めなければいけないようです」
 調査隊からはぎょろりと動く金色の目玉をみたということ、また舌で巻きつき腕をぎりぎりと締め付けられる攻撃をうけたと報告が入っている。
「擬態していない状態も一度だけ目撃されています。濃い緑色をした体長1メートルほどの大きさ、瞳は三つ、あったそうです」
 舌での巻きつき攻撃をうけたのは同時に二人。ということは2体は存在している、という風に予想される。
 だが、それ以上の頭数がいない、とは言えない。
「主にナイアガラの滝あたりの森で見られていますが、森でも緑が覆うところ、木が枯れてしまった場所、水辺などいろいろとあります。調査隊がそのキメラと遭遇したポイントを示した地図があるので、またそこからあたってみてください」
 一通りの説明をバルトレッド・ケイオンはし終わる。
 LH内でできることなら、何かあれば言ってくださいねと付け足して。
 傭兵たちは準備を整えて、現地へと向かう。

●参加者一覧

フィオ・フィリアネス(ga0124
15歳・♀・GP
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
遠見多哉(ga7014
26歳・♂・SN
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
小麟(gb1863
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

●囮は森へ
 ナイアガラの滝へと向かった小麟(gb1863)を始めとした能力者達は、アメリカ滝とカナダ滝の間にあるゴート島へと足を踏み入れていた。木々が生い茂り、3つの滝から響いてくる水の激しい音に、フィオ・フィリアネス(ga0124)はこれが世界三大瀑布の一つなのかと漠然と考える。彼女の他には藤村 瑠亥(ga3862)とシエラ(ga3258)の3名が其々ペイント弾を収めたハンドガンを手にしながら辺りを伺っている。
「調査隊が遭遇したのって、やっぱり森の中だよね?」
 フィオがシエラに尋ねると、彼女はそれはどうでしょうかと言葉を返した。
「小さい頃‥‥動物図鑑で見たことがあります。カメレオンの変色は隠れるためにある訳ではなく、個体間でのコミュニケーションの為にあるんだそうです」
 また、気分や体調にも左右されるらしいと彼女は付け加えた。とすると、一概に擬態を利用した狩りを此方に対して行うとは一概には考え辛い要素も有るという事だ。
「実は結構好きなんだがな、爬虫類」
 カメレオンも爬虫類だよなぁと呟く藤村にシエラは向き直り、
「‥‥」
 ――と無言のまま、表情すら然程変えずに顔を見た。すると藤村はどんな意図で彼女が自分を見ているのか分からず、首を傾げる。そう言えば、囮と本隊とに別れる前は真田 音夢(ga8265)と彼女は、不思議な事に互いに言葉を発する事無く意思疎通を取っていたように思える。
 当然それはテレパスと言った超能力めいた物ではなく、単にお互いに気と思考の波長が合うのが主なる原因であるのだが。そんな事に気を僅かに回しつつも、フィオ達は辺りの緑へと気を配る。擬態しているキメラがいつ襲ってくるかも分からないからだ。
 調査隊によって確認されている数は二体。しかし、それ以外の個体も存在する可能性もあり、今は良いけれども、今後森の奥へと入っていくには注意を怠る事は出来ない。自分達は囮役なのだ、なるべく後続のフィオナ・シュトリエ(gb0790)達にとっても戦い易い場所を可能な限り選んで見つかる必要もあったからだ。
「この先、枯れた木々があるよね。伐採地はこの近くだと思う」
「なら、その辺りを中心にして動いてみるか」
 フィオの意見に藤村が頷き、シエラもまた同意して森の奥深くへと進んでいく。

 そんなシエラ達からやや離れた辺りから遠見多哉(ga7014)達が移動を開始していた。遠見は覚醒した後に己の気配を消すと、シュブニグラス(ga9903)らと共に囮役の面々の様子を伺っていた。フィオナが探査の眼を用いつつ、周囲の警戒に細心の注意を払う。
「この辺りは大丈夫かな」
「‥‥暑い」
 一応、隠遁している筈なのだが、シュブニグラスは夏の暑さに耐え切れず、扇を取り出して自らを扇ぐ。森の中なので、陽射しの下よりはマシなのであるが、時期が時期なので仕方の無い所であろうか。真田は真田で蛙や蛇が好きなので、敵であるカメレオンキメラに多少の興味があるらしく、何処となく瞳に期待の色を滲ませながら、後に続くの様子を気にかけていた。
「大丈夫ですか?」
「平気ネ。それにしてもナイアガラの滝は初めて見るアル」
 殿に付いた小麟(gb1863)が、ゆっくりと自然の中を散策したい衝動を抑えながらも、そんな事を口にする。
「滝を見るのはキメラを退治した後。まずはカメレオンを見れるようにしないとね」
 勿論、逆に囮に出ているフィオ達ではなく、こちらをカメレオンキメラが先に見つけて攻撃を仕掛けてくる可能性があるので、フィオナとしても周囲の警戒は怠れない。一向は囮役を担った彼らの後を追うようにして、また移動する。


●九つの瞳、三つの獣
 そうして三十分も経過し、囮班が敵キメラの姿を求めて探索していた最中に、青々とした茂みの奥から突然何かが襲い掛かった。襲い掛かった正体不明の存在はシエラの腕に何かを巻きつけると、強い力で彼女の腕を引き、茂みの奥へと引き込もうと試みる。
「‥‥Einschaltenっ!」
 瞬間的に覚醒した彼女は朱色へと瞳の色を変え、平時は弱まっていた視覚を取り戻す。次いで、腕の引かれる方角に向け、真っ直ぐにペイント弾を撃ち放つ。乾燥した火薬の音が鳴り響き、二射目で漸く、木々以外の何かへと着弾する。
 飛び散った塗料が形作ったのは、額の中央に本来無い三番目の瞳を持つカメレオン型キメラであった。目立つ塗料に濡れながらも、金の瞳は彼女を確かに捉えている。
 それを皮切りに、フィオや藤村もまた不可視の存在による奇襲を受けた。フィオは上方から左腕を、藤村は右足を捕られ、その動きを制限される。
「あたしに手を出したのが貴方の不運よ!」
 携帯していたハンドガンから銃弾を放ち、フィオもまた敵が居ると思しき場所目掛けて射撃する。一射目に放たれたペイント弾は敵の腰部に命中し、本来は緑色であろう筈の体色を鮮やかな色へと変えさせた。既に覚醒は済ませており、彼女の全身から鼓動に合わせて燐光が放たれる。
「使い古された手段だが、その類には有効‥‥か。そちらから掴んで来たんだ、離すなよ?」
 スコーピオンを携えた藤村が不敵な笑みを浮かべ、右肩から翼を生やしながら銃撃をする。足元から襲い掛かった敵の姿を捉えるのに手間取るも、額に命中したのか地面の色に紛れていた茶色いキメラの姿が浮かび上がった。
「ここじゃ聊か不利‥‥か?」
 五分も駆ければ、戦端を開く場所として考えていた開けた場所へ辿りつけるのだが、この場所では木々が多く、別動のシュブニグラス達が合流したとしても苦労は避けられないだろう。しかし、戦場とは常に己の思う様に選べない生き物のような物。今回は上手く回らなかっただけかと藤村は微かに舌打ちをする。
 巻きついた舌による締め付けによって、じわじわと彼等の体力は奪われていく。一度束縛されてしまえば、脱出するにはその舌を切り捨てるしかないが、別働班が合流するまではおいそれと逃がす訳にも行かない。みしみしと軋む嫌な音を耳にしながらも、目印をつけたシエラ達は何とか普段の得物へと持ち変えていく。

「来たアル!」
 骨身に響く傷みに堪えていた最中、掛け声と共にリンドヴルムをその身に纏った小麟が跳躍し、ペイント弾でマーキングされた個体――フィオを縛していたキメラへと襲い掛かった。竜の翼を用い、神速の速さで踏み込むとイアリスと名付けられた直刀で斬撃を加える。ヒット&アウェイ宜しく、引き際にバロックから銃弾を叩き込みながら彼女が引く頃には、入れ替わる様にして超機械へと持ち替えたシュブニグラスが森の草木を踏み締めながら間合いを詰める。
「ああ、そういえば今度、氷系の超機械も出るらしいけど‥‥今欲しいわ」
 額に浮かんだ玉の様な汗が流れるのを感じながら、小麟の攻撃で手傷を負った巨大カメレオンへと電磁波を放った。放出された一撃が止めとなったのか、シュブニグラスはぼとりと音を立てて落ちた敵の様子を一瞥すると、フィオ達の方へと意識を向ける。
「一匹片付いたわ!」
「それじゃ、巨大カメレオン退治といきますか!」
「よし、一気に行くぜ!」
 後を追ってフィオナや遠見達が手に得物を持って巨大カメレオンの横合いから殴りつける様に襲い掛かる。更に、木々の隙間を縫う様にしてラグビーボール大の機雷――更なる力を篭められた真田のワイズマンクロックが飛翔し、色の付いたキメラへと牙を剥く。
「‥‥!」
 シエラの腕を捕らえたキメラにワイズマンクロックが衝突し、爆発する。それにより敵の力が緩んだが故に生じた隙をついて、距離を詰める。彼女の支援をした真田もまた、シエラに向けて無言で頷き、再度の射出を試みた。
 真田の動きを感知した巨大カメレオンはそちらへ向き直ると、標的をシエラから彼女へと変え、再度舌を放つ。猫のオーラを付き従えた彼女の両腕諸共に纏めて体躯を捕らえると、にやりと口元が笑みを浮かべる様に歪む。しかし――
「独楽は‥‥回り続けます」
 鈴の音の様な声で真田が呟くと、放たれた機雷がまたも炸裂した。口元で生じた爆発にキメラは蹈鞴を踏むも、四肢を広げて建て直しを試みる。けれども、その時には既にシエラが必殺の間合いへと辿り着いていた。
「‥‥これで、止め」
 いつの間にか持ち替えていた鋭い爪を片手に持ち、大地に縫い止める様にシエラは突き立てた。大量の鮮血が吹き上がり、僅かな痙攣を見せた後にキメラはその動きを止める。
「残るは奴だけか‥‥!」
 足を縛された藤村が月読に得物を持ち替え、足に巻きついた舌を切り落とすべく斬り付ける。更に止めとばかりにフィオナの直刀が続いて振り下ろされ、断頭台に上げられた罪人の首宜しく、カメレオンの舌を寸断した。
 鮮血を噴出しながら後ろの藪へと回避行動をとろうとしたキメラを、遠見が手にしたスコーピオンで逃がさぬとばかりに追撃をかける。緑色と着色されたペイント色、更に銃撃による出血を伴い、カメレオンは持ち合わせていた擬態能力を実質的に無効化させられてしまう。
「少しは礼をしないとな!」
 片翼を生やした藤村が足止めさせられたキメラに向け、今までの返礼とばかりに月読を振るう。片刃の剣は右前足を捉え、宙に足を舞わせるのだった。


●ナイアガラ見学
「何とか片付いたな」
 三体目のカメレオンをスコーピオンで蜂の巣にした遠見は、動かなくなったキメラに近づき、確実に止めを刺した事を確かめると大きく息を吐いた。何だかんだでやり辛い相手だったのだ、彼の心的疲労も止むを得ないだろう。
「少し、ナイアガラの滝でも見ていくか? このご時世、そう滅多に来られる場所でもないからな」
 遠見の提案に、シエラと真田が無言で頷き。ふと視線を向けられたシュブニグラスも艶やかな黒髪を僅かに揺らしてフィオの方へと向き直り、
「せっかくだしねぇ。フィオちゃんも行く? こういうのは皆で行った方がいいだろうからね」
「そっか、そうだね。お姉さんが言うなら、あたしも一緒に行くよ!」
 声をかけられたフィオは金のポニーテールを揺らしながら小走りにシュブニグラスへと近寄っていく。
 一行はそうしてナイアガラの滝を見学する為に移動を開始した。すでに滝を観光する手筈は整っており、後は滝の良く見える位置へと渡るだけだ。
 もし滝を見るのならば、カナダ側に回ってからカナダ滝を見た方が迫力がある。また、水煙が派手に上がるくらいの勢いで滝の水が流れて、滅多に見れない光景を目の当たりに出来る筈だと詳しい人間からは耳にしており、雄大な滝の様子を堪能する為に一行は足を速める。
 そうして一向は岐路へ着く前に輸送機でカナダ側へと向かう事となった。輸送機による上空の観覧からナイアガラの全体像を楽しみ、カナダ側へ着陸した後は幅の長い、水煙を高く上げるその様に自然が齎した迫力を味わった。
「うわぁ、すごい勢い!」
「そうですね‥‥あんな大量の水が流れるなんて、自然とは何て雄大なんでしょうか」
 感激したフィオの声に真田が同意の言葉を紡ぎ、シエラもまた黙したままでありながらも、眼下の光景に目を奪われている。
「皆が楽しめてるなら何よりよね」
「だな。しかし、写真で見るのとはまた迫力が違うなぁ‥‥」
 仲間達の様子に笑みを零すシュブニグラスに遠見もまた、同意を持って答えた。彼もまた、真田の様に自然の素晴らしさを眠気まじりに感じられる瞳を持って堪能していた。
 そうして陽も傾き、きらめく赤い水の粒が闇の色に染まって溶け消えるかのに感じられる様になった頃、遠見達は帰路へと付くのであった。森林での戦いと、雄大な自然が育んだ大いなる瀑布をその想い出の一つとして――


代筆:磊王はるか