●リプレイ本文
●翻るその巨体とはいかなもの
雨が降り注ぐ。
その音は水に跳ね、また音を大きくする。ただその音だけがこの場所に満ちる。
退治すべきキメラがいるというその池の周りから少し距離を撮った場所に傭兵たちは集っていた。
「生き物の声が聞こえません‥‥。こんな日は‥蛙さんの合唱が聞こえてくるものですが‥」
薄く蔦模様が浮かぶ赤い和傘を差し、ちょっぴり寂しそうな表情であたりを見回しながら真田 音夢(
ga8265)は呟いた。
その指で着物の袖をあげた襷を少しいじりこれからに備える。
「大雨か‥‥問題ない」
梶原 暁彦(
ga5332)はそのサングラスの下にある黒い瞳で雨を捕えて呟く。
視線の先にあるのは、件のキメラがいるという池だ。
「魚なのに、肺呼吸出来るんでしょうか、そのキメラ‥‥」
レインコートを軽く羽織り濡れるまま、ヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)はリンドブルムに跨ってその緑の双眸を細めた。
あたりをみれば雨のおかげで少しぬかるみ始めた泥の地面。
足場が悪そうだとその顔をしかめる。
「跳ね回るキメラ、と言われてもあまりイメージが湧かないんですが‥‥でも、池から生物が消えた原因ですし、油断は出来ません。しっかり退治しないと」
きりり、と表情を引き締めてリゼット・ランドルフ(
ga5171)は空から池へと視線を落とした。
その時、たった。
水面が膨らみ勢いよく虹色が飛び出し、その尾鰭で水面をはじき、また水の中へと戻っていく。
雨を喜んではしゃいでいるような、その巨体。頭の、口の部分は大きく、目はぎょろりとしている。
そして尾鰭はその巨体を支えるためにか大きく、しっかりとしていた。
こちらに気が付いている様子もなく現れたのは一瞬の出来事。
「ガー‥‥に似ている。小さな牙、があるかもしれないな」
遠目に見た姿が、違いはあれど予想していた姿に似ており暁彦はあの一瞬で静かに観察をしていた。
「あれがそうか‥‥うまい酒の肴になるといいんだが」
鬼太鼓面を少しずらし、一瞬現れた姿を思い出しつつ鬼非鬼 つー(
gb0847)は持ってきた酒、スブロフの栓を開ける。
「UMAのネーミングは発見者達の意向が反映され易いと聞くが、間の抜けてる上に呼び難い名前を付けたな。まあ良い、仕事に大した支障は無い」
九条・命(
ga0148)はキアルクローがしっかり自分の手についているかを確かめる。
それは姿をみた敵に静かに燃えているようで。
「地上にあがってくる‥‥さすがキメラ‥‥食欲も旺盛‥‥か‥‥最悪の‥‥被害が出る前に‥‥斬る」
月詠をぐっと握り幡多野 克(
ga0444)は呟いた。
「視界が悪い上に敵に有利なバトルフィールド。敵は先ほど飛び出てきた麗しい虹色の魚型キメラ。皆さん、気を引き締めていきましょうか」
苦笑をしつつ、敵であるキメラの体と同じレインボーローズを持って、美環 響(
gb2863)は言った。
雨は弱まる様子もなく、戦いが始まる。
●雨走り、泥滑り、水打たば
響は雨の中を池の方へと歩んでいく。
近づくたびに感じる威圧感は先ほどの、虹色の体をもつキメラのせいだろう。
自分が囮となり、ひきつけることがうまくできれば有利に戦うことができる。
周囲を囲み、助けてくれる仲間たちを信頼し、池の淵へとたどり着く。
水を音をたてて鳴らしても、この雨。
そこでヴェロニクから貰った魚の餌を池へと落とす。
何を食べるのかさっぱり判らないので、釣好きの傭兵仲間から聞いて作ったエビや魚介のすり身の練り餌。
遠くから引っ掛かってくれれば、とヴェロニクは思う。
と、餌を落とした瞬間、水が盛り上がり逆巻く。
ざばりと水から体を持ち上げたキメラの目はそこにいる響の姿を捕える。
空で尾を翻しその体の向きを変え、響に向かってその口をあけて落ちてくる。
すぐさまその場所を離れるが、すんでの距離。
ずしゃりと重い音とともに泥が跳ねあがる。
「やはり雨というのは‥‥」
後に一歩下がるのと、キメラが体を震わすのは同時。
その尾で地面を叩き上げ、すぐさま向かってくる。
よけるのも紙一重、と判断した響はそこで自身障壁を使う。
身体から放たれるオーラの色はさまざま。キメラの巨体が落ちることで生まれる風が濡れる髪を巻き上げる。
キメラが地面に巨体を伏せたと同時に仲間たちの方へ走れば、追ってくるキメラ。
やがて待ち伏せるポイントに辿り着けば、わざとその攻撃を受けるように響は立ち止まる。
それを好機とみて、飛びかかるキメラ、だったが。
「目標発見、攻撃を開始する」
暁彦は合図を面々におくり、自身もキメラの正面へと出る。
「逃がしませんよ、ここまで来たのを後悔してくださいね」
すでに覚醒したリゼットが暁彦の後ろ、その尾鰭を狙い打つ。
黒に変わった髪が雨に濡れて顔にはりつくその間から青の瞳でその場所をきりりとした表情で定めて。
だが放たれたその弾丸は尾鰭の勢いにも負けて跳ねる。
この攻撃の間に踏み込んで、一撃を加えすぐさま離れる。
「! なかなか丈夫、だ」
暁彦は攻撃の手応えに確かなものをとらえきれず言葉を漏らす。
ばしっと地面を弾き、キメラが何度も飛びはね方向を変える。
それは周囲の様子を伺っているようだった。
だがもう、完全に周囲は傭兵たちで囲まれている。
「戦闘態勢に移行。対象キメラ1体、これより排除に移ります」
冷たい、無機質な声でヴェロニクは言う。
控えるのは敵のやや斜め後ろ。前衛のフォローと、キメラが逃げようとした時に阻止にはいれる位置に。
「何をしてくるかわからない‥‥油断は禁物」
金の瞳で敵をとらえ、呟きながら克は踏み込む。
その手には月詠。紅蓮衝撃とさらに急所突きを加えて、胸鰭を狙い振り上げる。
克の反対側からは命が挟み込むように攻撃を繰り出す。
攻撃はその身を装備した爪でえぐるように、その体に滑らされないように研ぎ澄まされた一撃を。
同時、と見せかけて少しタイミングをずらした連携攻撃はキメラの身体に傷を与える。
だがそれもキメラ自身にとってはかすり傷程度なのかまだピンピンとしている。
「さあ、まな板の上の鯛よ、おとなしく捌かれるがいい」
池とキメラの間に立つつーの体は赤く染まり、瞳は銀に鈍く輝く。額にある実態のない角と、手にした鬼棍棒が向く先は同じ。
跳ねるたびに力強く地面を打つそれを狙ってつーは棍棒を振り上げる。
尾鰭の付け根を横薙ぎに狙って打つ。その反動はずしりと重い。
「‥‥可愛い‥‥とは、思いますが、生態系を崩してしまうのでは、放ってはおけません‥‥可哀相ですが、退治させていただきます」
キメラが地に伏す前に、音夢は超機械『守鶴』を向ける。
その表情はキメラの跳ねる姿に少し表情を崩しながら、だ。
「猫さんの本領発揮ですにゃー‥‥」
雷属性を付与した超機械から放たれる攻撃がキメラの体を打つ。
この攻撃をうけ、まずいと思ったのかキメラは尾鰭で地面を打ち、つーの頭上を越えようとする。
鬼棍棒を振り上げるタイミングよりもそれは早かったのだが、ヴェロニクの小銃『S−01』での攻撃があたる。
その攻撃で一瞬気がそれた瞬間に。
「こいのぼりにはまだ早いぜ?」
にぃ、と笑いつつ出される攻撃は外れることなくその巨体に当たる。
その攻撃で態勢を崩し、キメラの生まれた隙。
それを見逃すはずもない。
前衛に立つメンバーが一気に畳みかける。
噛まれたりされないように、リゼットは顔を避けるようにキメラの横を走る。
ぬかるむ足場に気をつけながら、通り過ぎる瞬間に手の中のベルセルクで体を切りつける。
暁彦はその逆側から、あらかじめ豪破斬撃を使い、流し斬り、そして紅蓮衝撃をもってエラのあるあたりをえぐるように、高い攻撃力を持ったシュナイザーを装備した手で拳底を放ち、すぐに距離をとる。
さらに胸鰭を狙い、克が踏み込む。
下から上へと刀を支え切り上げる、一撃。
「体を支えるのに必要だろうから、奪わせてもらう」
ざしゅりと雨音に混じり音が響けば、キメラはのたうちまわり、その口を地面へと打ちつけ泥を食べる。
何かが起こりそうな予感を感じた命はそうはさせまいとさらに攻撃をかける。
爪でその体を突き刺し、引き裂けば、その傷は背鰭にまで届く。
苦痛にびったんびったんと跳ねるキメラは、跳ねつつその口から泥を放つ。
それは水を吐き出すのと同じだが、泥と石混じりの攻撃。飛び散り、跳ねる泥が視界を一瞬隠す。
そしてキメラはその反動を使って、池の方へと後退するのだが、池との距離は広く、一度のそれでは届かない。
「そうはさせないっ!」
命は瞬天速で追いかける。
それにあわせて龍の翼を使い、ヴェロニクも援護しに走る。
キメラが止まる地点に先回りし、攻撃を加えてまた池から離す。
「雷属性の銃に特殊な弾をあなたの為に用意したんですよ」
と、距離をとって、片目を閉じて不敵に響は微笑む。
「痺れるような衝撃的な味を思う存分その身で味わってください」
ガンッと音を重ねて発された弾はキメラの体を打ち抜く貫通弾。
その衝撃と自身との力を重ねてキメラは高く飛び跳ねる。
落ちてくるであろう場所に暁彦とつーが陣取り、そのままただ斬り伏せるように攻撃。
攻撃をどうにか持ちこたえたキメラは体当たりするかのように池の方へとものすごい勢いで突っ込む。
それはもう、泥の上を這うように、攻撃を受けても気にせず池の中へ一直線だった。
「鬼と力比べしようなんていい度胸じゃないか」
「彼を知り、己を知れば‥‥百姓一揆」
池への突進を邪魔しようとするが、勢いのままの突進は止めることはかなわず、相応のダメージを与えつつも池の中へと入るのを許してしまう。
こうなると、手が出せず池の中へと入らねばなり、それは相手にとって優位な状況になる、と思ったのだが再びキメラは池の中から飛び出してくる。
雨脚は弱まり、池から飛び出す音が大きい。
「ごめんなさい‥‥貴方に恨みは無いのだけど‥‥」
両断剣を付与した電磁波攻撃は音夢から、そして。
「そろそろ終わりにしましょう‥‥!」
ちょうどキメラの向かってくる放物線上の先にいたリゼットは豪破斬撃と急所突きかけて、ただ剣を向ける。
その剣はキメラの体を貫き、言葉通り終わりを与えるのだった。
●それはいかなるものなのか
巨体が太陽のもとにさらされる。水から完全にあがり、晴れだした空を、その体に写していた。
きらきらとその体は輝いて、そわりそわりと音夢の傍にいる白猫のオーラが挙動不審。
「‥‥もしかしたら美味しいかもしれません。キメラとはいえ、失われた命‥‥せめて、美味しくいただくのが礼儀というものです」
すちゃっとアルティメット包丁を取り出し、音夢はキメラへとそれを向ける。
と、黒い影がすっと音夢の横を通り過ぎる。
見上げれば、それは影の主は暁彦。その手にはカトラスがぐっと握られている。
考えることは、同じなのだ。
「俺も、食べるなら一緒に‥‥興味あるし‥‥外見が‥綺麗だからといって‥‥その存在が‥‥美しいものとは限らない‥‥ありふれた物こそ‥‥本当は美しいのかも‥‥またこの池に‥‥魚や鳥が‥‥戻ってくればいいな‥‥」
そんなことを言いながらも、もしゃりと口は動く。
表情は変わらないがなかなかの美味に克の心はほくほくとしている。
「タタキもいけるかもしれません‥‥」
「うまい酒の肴になってお前も本望だろう‥‥」
スブロフを飲みつつ、つーは鬼太鼓面を少しずらす。
頂かれるキメラの姿、それを見て響は呟くのだった。
「‥‥汝の魂に幸いあれ」