●リプレイ本文
●薄暗き下水道
「下水道ねえ、せまいし暗いし、めんどうだな」
進む足音が、反響する。
マンホールから入り込み、歩くこと数十分。
臭いは鼻が曲がりそうになるほどで、足場もどこかびちゃびちゃとした細い道。
そこを、これからキメラ退治に向かうものたちは歩いていた。
一番後ろを歩いている神無月 翡翠(
ga0238)は懐中電灯で前を照らす。
翡翠の前にはスパッツとランニングシャツ、そして目隠しの男、エリク=ユスト=エンク(
ga1072)。彼もまた灯りを手に進んでいく。
「‥‥初に出会うは鼠か獣か、はたまた異形か‥‥」
漏らす言葉は、これから起こることに向けての気持ちのかけら。
「不安を残さないためにも、1匹残らず殲滅したいわね」
脚元を注意しながらシャロン・エイヴァリー(
ga1843)は呟く。
相手のキメラの数は多い。漏らすことなく、退治することはひとつ安全を確保することへも繋がっていく。
そしてシャロンを後からみつつ、ふと笑みを漏らすのはコー(
ga2931)だった。
「今回の任務はなかなか悪くない‥‥」
女好きのコーとしては、華があるのは、嬉しいもの。
ライク(
ga3089)は瞳を、暗い下水道にめぐらす。
自分がどれだけ戦えるか、それを知りたかった。
篠原 悠(
ga1826)、聖・真琴(
ga1622)、そして江崎里香(
ga0315)は『放課後クラブ』の仲間同士だった。
兵舎での雰囲気そのままにここにいる、というわけではない。
やはりどこかぴりぴりとした緊張感をもっていた。
「くさっ! うわ、くっさ!! さすが下水道‥‥臭い移らんかったらええんやけど‥‥」
と、下水道突入時にいっていた悠は今は違う言葉を言っていた。
「早く倒して金欠状態を打開!」
「汚いしじめじめしてる上にちょっと寒い‥‥さっさと片づけて戻りましょ」
「少しだっていいョ‥‥みんなを苦しめる『キメラ』を減らせるンなら‥‥」
それぞれ思うことは違いながらも、することは、同じ。
彼らの負担にならないようにとUPC側からの協力で安全なルートを通り、地図片手に進めば、もうすぐその場所だ。
出入口はバリケードで閉じられ、灯りもほのかに持っていてくれるとのこと。
それでも暗いことには変わりないが、真っ暗、よりかはましなものだ。
「ついた、みたい」
エリス・セプテンバー(
ga1824)はほのかな明るさを道の先に見つけて、後へと声をかける。
その先からは、どこか不穏な空気が、漂っているのを誰もが肌に感じていた。
●駆除開始!
ばしゃっと水音がする。
一歩踏み出せばそこは、キメラの巣窟。
上から横から、ドーム型のその空間は照らされその姿がぼぅっと見える。
「‥‥ゆくぞ」
静かに言葉を発し、エリクは覚醒する。
はらりと目を隠していた布をとれば、そこにはいくつもの傷痕が。
そしてまた、一つ傷を負う。それが覚醒の代償であるように。
「危ない時は呼んでね、駆けつけるわ。じゃあ‥‥戦闘、開始!」
背中のコンユンクシオを手に、腰にはヴィアを下げたシャロンは長い髪を靡かせながら、覚醒に入る。
手の甲が青白く発光。常に攻めの姿勢のアタッカーであるシャロンは、そのままビースト系のキメラの元へと走り込む。
「戦闘は、まかせたぜ? くれぐれも無理するなよ。死体の後片付けなんか、俺嫌だからな?」
走り出る前衛たちに、翡翠は声をかける。
口が悪いが、その中にはしっかりと頑張れという想いを詰めて。
「害虫駆除開始‥‥」
ふと感情を消した淡々とした声が響く。覚醒へと入った里香だ。
小さな敵から狙い、行動していく。深く体を沈めれば、その長い髪が、動きに合わせて動いていた。
「広さ的にちょっとしたライブハウスやね‥‥さぁっ! ライブの始まりやっ!!」
ドームに入り、少し周りを見回し、そして悠は覚醒へ。
「あたしが相手したるわ!!」
テンション高めに、闇に動くものを見つけて銃を向ける。
そこに動いていたのは、ネズミのキメラ、ボンバーマウス。
「悠! 殺っちまえ!」
攻撃的な強い言葉で後押しするのは真琴だった。瞳の色は金へと変わり、その腕の、肘から手の甲へ幾何学的な文様が浮かび上がっていた。
エリスはまだ、覚醒せずにキメラと闘っていた。使いどころはまだ、少しのダメージは構わずに、付近にいたスライムを倒していく。
コーはバリケードを抜けようとするラット系キメラ、ボンバーマウスを見つけ、アサルトライフルで狙い打つ。
小さな叫びが聞こえ、ボンバーマウスにヒット。バリケードを支えていた方から無事だと声が返ってきて、一瞬だけ安心して表情が緩む。眼光鋭く、右目の青白い輝きは覚醒中の印、わずかに、表情に変化がでるようになっていた。
「瞬天速!!!」
と、ドームの中央あたり、スライムに囲まれたライクは叫ぶ。
狼に似た動きは、能力の使用によってさらに素早く。
敵を翻弄しファングで切り裂く。
ドームの中に響くのはキメラの声と、しょぼしょぼと流れる水音、その上を走る音。
今ここにいるのは小型のものばかりで、それほど苦戦することもなく、彼らは倒していった。
●攻撃の手
しばらく小物を相手にしているとざばりと水音がした。
流れる水から出てきたのは2体のウォータビースト。体は1メートルほどと、この種族では小さな方であるがあなどってはいられない。水色の馬に魚の下半身がついたような、そのビースト。
近くにいたシャロンがまず最初の一撃を繰り出す。それに続いてエリスも。
「まだ、あたしのターンは終わって無いよ!」
瞬天速で回り込んだエリスはファングをつけた拳で容赦なく一撃を。
そしてひるんだところをエリクがすかさず鋭覚狙撃。
波状攻撃を繰り返し、じわじわと体力を削っていく。
と、キメラもただやられているだけでは、もちろんない。
冷たい気配を感じ、シャロンは後へ一歩下がる。
それと同時に、放たれる冷弾!
寸でかわし、きっとウォータビーストをにらむ。
「‥‥ッ! 霜焼けになったらどうしてくれるのよ!」
一歩下がってまた距離を詰め、大剣を振り下ろす。
見事クリーンヒットしたその一撃で、残るビーストはもう一体。
こちらはエリスと、そしてライクが挟み打つ形で攻撃を仕掛けていた。
そんな彼らを助けるように後方からの支援。
翡翠が練成強化を行い、武器の威力がそれぞれ増す。
重くなった攻撃によって、倒れるのはウォータビーストの方だった。
ウォータビースト2体は情報にあったもの。これ以上でてこないことから、どうやらこの種はこの二匹だけだったらしい。
残るはマウスとスライム。
ボンバーマウスはせわしく走り回り、そしてさまざまな弾丸を発する。
里香は連射をばらまき動き回るマウスを抑える。
そして動きが止まった瞬間に、悠がうつ。
自分の一番打ちやすい距離をとりつつ、的確に。
もちろん、カバーしきれないものもいる。
里香の包囲弾幕から逃れたものはコーが見逃さずに狙い打つ。
鳴き声と思しきものが、だんだんと弱くなっていくのは暗闇の中でもわかる。
ボンバーマウスも確実に数を減らしていき、最後の一匹と思われるものは里香の一撃だった。
もちろんこの間にスライムの数も減っている。
暗闇の中でぐにゃりとした感触を受けつつ、少しずつ減っていた。
「カエルと蜘蛛とか、壁にいるか? 降りてきたり‥‥」
ふと、翡翠は周りの壁、そしてドームの中央あたりの天井をみた。
そこで、もそもそと動く、少し大きめな存在。
それは上から下へと、落ちていく。
「!!」
そこに現れたのは、今まで相手にしていたスライムよりも一回りおおきなスライム。
それが現れたと同時に、残っていた数体のスライムがそばへと寄ってくる。
そのスライムの元へといこうとする一体を真琴は里香の方へと蹴り飛ばす。
「里香!!」
ぶにょりとした感触、それとともにじゅわっと音がして、ブーツが溶ける。
蹴られ間際の、スライムの酸攻撃だ。
そして蹴られたスライムは声をかけられた里香が射程に入るなり連射を繰り出す。
蹴りとだんだんと威力のあがる連射により物理攻撃がききにくいスライムの体が果てる。
と、どこにいたのか、他にもまだスライムが、何対か現われてゆく。
悠と里香はそれに囲まれ、酸攻撃を受ける。
「いやーん! ‥‥とか言うと思ったかこの×××!!」
悠はジャケットにその被害を受ける。とけてちらりと見えるへそ。
しっかりそれをみた幸せもののUPC隊員はぐっと人知れず拳を握った。
そんな恥じらいに過激なことを多少いっていても耳にははいらない。
ボス的な一匹が現れたことで動きが活発になったらしいスライムは酸攻撃を続ける。
酸といっても弱いもので、大きな被害は、少し被ったくらいではでなさそうだった。
そして被害者その2、シャロンは盛大に、叫んだ。
「なっ‥‥お気に入りの青‥‥どれだけ苦労して探したと思ってるのよ!」
ぼろっと裾、そして袖にまでかかった酸。どうしてももう着れなさそうなジャケット。
もちろん、この怒りは目の前のキメラへ。
そして穴が広がる前に! と落ちる水へと飛び込み酸を洗う。
ジャケットに気がいっていたが、気がつけば太腿あたりも穴がぽっかり。
のこるスライムのキメラも、少しずつしっかりと、一部怒りをこめつつ撃破。
天井から落ちてきたスライムはその大きさから攻撃は当たりやすいものの、なかなか倒れない。
ぶにょんとした弾力ある体に、真琴が技を繰り出す。
蹴りあげ、振り下ろし踵落とし。身を引いて終わりかと思えば、回し蹴り。
連続攻撃によって動きが止まる。
瞬間的に後にさがれば、スナイパーたちの鋭覚狙撃。
ぶよぶよとした体に、打ちこまれる狙撃。
さらに、豪破斬撃がシャロンより繰り出される。
その一撃によって、スライムは崩れていった。
●太陽の下へ
「‥‥殲滅、確認」
キメラがいないことを確認し、エリクは再び目隠しをつけた。
「終わったかな‥‥ふう、あまり疲れるから、やりたくは、無いですが、しょうがありませんね? 傷があれば見せて下さい」
あたりは静かになり、キメラの気配が消える。
それを感じて、体は大丈夫かと翡翠はそれぞれに聞く。
紅の瞳と丁寧な口調で翡翠は言い、そして治療を。
キメラがいなくなれば、この場所に用はもうない。
通ってきた道をさかのぼり、明るい世界へと出る。
「ず〜と暗い場所にいたから、日の光が、まぶしいぜ」
暗闇から光の中へ。
翡翠は呟いて、太陽を見上げる。
眩しい、と目がくらむ。
そして、改めて自分たちの姿を知ることとなる。
「‥‥穴! やだやだ! もうっ‥‥」
戦闘に集中していた時は気がつかなかったのだがエリスの服にも穴が大小ぽつぽつとあり、健康的な赤褐色の肌が日の下にさらされていた。
「うぅ〜‥‥シャワー浴びたい〜‥‥」
「私も〜あぁ〜ン身体臭ぁ〜‥‥早くお風呂に入りたいよぉ〜」
「このまま戻っても、全然凱旋っぽくないじゃないのよー!」
自分たちのぼろぼろさがはっきりとわかると、早くここから離れたい乙女心もあり。
「俺も溶けてるな‥‥俺は服がどうなろうが構わないしな」
数か所の穴を見て、コーは言う。そして視線は自然にチラリズムの女性陣たちへ。
「服が溶けてるなら着るか? ほら」
と、被害の一番大きかったシャロンへと翡翠は自分の上着をかけてやる。
マンホールから這い上がりしばらくして、UPCから迎えが。
依頼の成功と報酬をこれから渡すとのこと。
そして、この身なりでは辛いだろうと、シャワーを貸してくれるとのこと。
匂いになれてしまった鼻にはわかりにくいが、どうやら少し、というよりもかなり強いにおいが染み付いてしまっているらしい。
それぞれ、身を綺麗にして、本当の本当に依頼は終了した。
だが下水道のあの場所にまたキメラが巣食うこともありえる。
UPCはあの場所をこれからも続けて監視することにした。
もしかしたら、また一掃作戦が、ある‥‥かもしれない。