●リプレイ本文
●その指の先にある世界
「傭兵さんたちが、あのキメラを倒してくれるの?」
少女は自分の前に現れた傭兵たちの姿を見て、きょとんとした表情を浮かべた。
鹿内 靖(
gb9110)は少女と視線を合わせるように、膝をついた。
「俺はキメラを退治する事でしか貴方のお役に立てません。ただ、貴方と御両親の無念を晴らしてきます。これだけはお約束します」
「あのキメラがいなくなったら‥‥皆で街に、帰れるね‥‥元通り、にはならないけども‥‥それは、嬉しいことだって思うの」
苦しげに言う靖に少女は力なく笑んで答えた。。
「私達に出来る事は‥‥貴女の家族を奪ったキメラを討伐する事くらいです‥‥貴女の行く道に光があらん事を」
静かに言って、アリエイル(
ga8923)は少女の笑みを少し悲しげに見つめた。
こんな表情をさせているものをほうっておくわけにはいかない。
そしてクラリア・レスタント(
gb4258)も、かつての自分の姿を少女に重ねていた。
何て‥‥言葉をかければいいのだろう、何が私に出来るというのだろうとクラリアは黒い瞳を伏せて考えていた。
「キメラが原因で不幸になった人は世界中にたくさんいるけど‥‥何度見てもこういうのは慣れないもんだ。んで、放っておけないんだよな」
北条・港(
gb3624)は仇はとってくるから、これからの人生をうまく行くんだよっ、と肩をたたきながら少女の隣を通り抜けて行く。
「今はピアノが弾けないって聞いたわ。あたしもこの戦いで喉を怪我してね、歌えないのよ」
喉を軽く指し示しながら、篠岡 澪(
ga4668)は少女に話しかける。
「今は歌えない代わりに曲を作ってるのよ。それを誰かに歌って貰ったり、いつか歌えるようになった時まで取っておいたりね。あなたも今は弾けないのなら、自分の曲を楽譜にしてみるのはどうかしら?」
少しでも少女の励みになれば、と思いながら澪は嘘をついていた。澪は喉を怪我しているわけではなく、今も歌える。
「曲に‥‥」
「俺も同じ道を志したものだ‥‥もし街になにか忘れ物があればとってこよう」
ゴールデン・公星(
ga8945)のその言葉に澪の言葉を受けて何事かを考えていた少女はぱっと顔をあげた。
「いいんです、か? じゃあ‥‥もしあればでいいので‥‥」
少女はゴールデンへとあるものが家にまだ残っていればそれをとってきてほしい言う。
それを聞いたゴールデンは、笑みを浮かべ少女の頭を軽くぽんと叩いて任せておけと、告げた。
と、仲間とともに敵のもとへ赴こうとしてたブロンズ(
gb9972)は少女の方へと戻ってくる。
「もし俺がキメラを倒して君の怪我がなおったら、どんな曲でもいい俺に君のピアノを聴かせてくれないか?」
約束だ、と言われて少女はこくり、と一つ頷いて返す。
その頷きをブロンズは受け取り、仲間たちに続いた。
●白き狼のすみか
「ねえねえ、少女はどうだった〜?」
先にキメラがいる街付近にきていた八尾師 命(
gb9785)は仲間の到着に振りかえる。
「色々約束してきた」
「ひとまず、キメラを倒すのが先ですね」
「能力限定‥‥解除‥‥導きの天使アリエイル‥‥行きます!」
アリエイルは街が見える場所から覚醒する。青い瞳は金となり、背中に光の翼を、そして頭上に光の輪を冠した。
作戦はキメラを誘き出す班、待ち伏せする班とにわかれ、一気にキメラを叩く予定だった。
白い狼の姿をしたキメラがいるという街は、今は瓦礫ばかりとなっているのが遠くからでもわかった。
事前に決めておいた誘い出しのポイントはいくつかある。
周囲を警戒しながらそこへ向かうのはゴールデン、港、命、そして靖。
対して見つけたキメラを誘い出すのは澪、アリエイル、クラリア、ブロンズの役割だった。
「見つけたら、連絡の取り合いね」
それぞれが手に持つのはトランシーバー。
彼らは気配をできる限り絶って、荒れた街へと足を踏み入れる。
「とりあえずよろしく‥‥」
ともに行動するアリエイルにブロンズは一言。
「キメラは何処に現れやすいか‥‥それが鍵ですね」
何箇所か事前に絞った場所へ、探索組は向かう。
そして一番日当たりのいい場所で伏せっている白く大きな狼のキメラをすぐに見つけることができた。
発見を待ち伏せ班に知らせ、そしてそこへ追い込むべく探索班は一度集まる。
待ち伏せ班より準備ができたと連絡がはいれば、行動開始だ。
クラリアが少し離れたところで照明銃を打ち上げると、キメラはぴくりと耳を震わせ起き上がる。
「言葉が通じるとは思わないけど、あたしは篠岡澪。アナグラムにすると、シノオオカミになるのよ。同じ狼同士、仲良く殺し合わない?」
そしてキメラの視界に澪が入る。
その姿は覚醒によって身体の大部分を白い毛並みに覆われたウェアウルフとなっていた。
同じような雰囲気をまとう澪にキメラは反応してじりじりと距離を詰め始める。
「かかったね、こっちよ!」
澪はそのままキメラを背にして走り始めた。
あわせてクラリアも澪に並走するように走る。
逃げる物は追わねば、とキメラその爪を大地に一度たて、強く駆け出す。
こちらの狙い通り、キメラは仲間たちの待つ場所へと導かれていく。
●トオボエ
「どうやらやって来たようです」
近づいてくる気配に靖は待機していた仲間へと声をかける。
仲間たちが走りこみ、そしてキメラとの距離が短くなる一番良いタイミングで飛び出し攻撃を繰り出すのみ。
「こっちだよ!」
港は疾風脚を使い、キメラを撹乱するように動く。その動きによってキメラが二の足を踏んでいる間に攻撃が加えられる。
「うわ〜‥‥ちょっと固すぎるんじゃないかな〜?」
命が射程ギリギリより放った攻撃。その手ごたえのなさに漏れた声は消えていく。
その発された言葉の通り、多数の攻撃を重ねてもキメラにとってはあまり大きなダメージに放っていないようだった。
命は練成弱体を使い、敵キメラの防御力を下げる。
それでもなおまだ、高い防御力に攻撃して押し切るしかない、とそれぞれが思っていた。
「‥‥少女の家族を奪っただけでなく‥‥多くの命を奪ったその罪‥‥償って頂きます!」
キメラの視界の中にアリエイルが飛び込む。
「眠いとかいってる場合じゃなさそうだなっと」
それに合わせて、覚醒しながらブロンズもタイミングをあわせ同時に攻撃をキメラに繰り出す。
「あのコと同じ傷を負いなさい!」
とん、と身軽に飛び上がり、澪は円閃を繰り出す。
落ちるかのように身を回し、装備したステュムの爪でキメラの肩から腕を斬り裂く。
回転する勢いは流れるように伝わり、キメラの身体へとそのあとを刻んでいく。
そしてその攻撃に続いて、アリエイルが槍を構えて突撃。
「側面から行きます! せぇぇぇっ!!」
アリエイルの行動にあわせ、逆からブロンズも攻撃を行う。
いつもの眠たそうな雰囲気は消え去り、ブロンズは機械剣αを振り上げキメラの足を狙った。
そしてキメラが一瞬後ろに後ずさり、動きが止まった瞬間を見逃さず、靖は影撃ちを使いライフルより弾丸を放つ。
「中々素早いですが、今なら‥‥止まりなさい」
多様な角度から繰り出される攻撃にキメラは受け身のままだ。
時折その爪を振り上げるものの、あたらなければ意味はない。
今やその巨体でも素早いと思う動きは攻撃のダメージによって無くなり、ただ耐えるしかないようであった。
「いくよっ」
【OR】キャンディーブーツを装備した足を振り上げ、港はキメラの身体を踏み台にして飛び上がる。
そして急所突きと限界突破を併用し、顔面らって回転回し蹴りを打ち込む。
ぐらり、と頭を攻撃されてキメラの態勢が崩れる。
それを好機、とみてクラリアはオルカを構え迅雷で一気に距離を詰める。
あごの下にもぐりこみ上に向かって身体を回転させ、二回連続で攻撃を充てた。
「お前ノせいで! また『私』が増えたんだ! 果てテ詫びろ!」
「人々の幸福を奪ったキメラに『純真の白』は似合わねぇ。染め直せや。お前自身の血でな」
クラリアに続き、ゴールデンも走りこみながら流し斬りを使う。
ゴールデンの言葉通り、いまや真っ白だった毛色は紅に染まっていた。
白から紅へと変わった巨体はさらに攻撃をうけその後地に伏すこととなる。
●一音の重み
「ほら、約束のものだぜ」
キメラを倒し、一行はまた少女のところへと戻った。
ゴールデンの手にはところどころ痛んでいるが、楽譜が握られていた。
「ありがとうございます‥‥半分あきらめてたけど手に戻ってきてとてもうれしい」
「あのキメラはちゃんと、退治したから」
港がそういえば、少女はよかった、と呟いた。
あのキメラがもう自分のようなものを生むことはないと言って。
「キメラは倒したから‥‥あとは君の怪我が治ったら、約束をはたしてくれよ」
ブロンズの言葉に少女は笑い返す。
楽譜をきゅっと抱きしめた少女の服をちょんちょんとクラリアは引っ張れば、少女の視線がクラリアへと向く。
「わたしにハ‥‥うまくいえナいけレど‥‥マけないで。あきラめないで。いきテいれば‥‥きっとなにカえられルはずだから」
メモ帳で追ったツル一つ。
それを少女の掌の上に置き、クラリアはぺこりと一礼してその場を去る。
そんな様子を少し離れたところからみていたアリエイルはふと瞼を閉じ祈りを捧げる。
「討伐‥‥完了‥‥失われた命達に安らかな眠りを‥‥」
やがて明るい未来が来るように、と。