●リプレイ本文
●素敵な招待状
ジングル・ベルの音色が優しくあたりを包む『聖夜』。年に一度の素敵な出会いがあるかも知れない一夜。
恋人と、友人と、家族と、思い思いに過ごす一夜。
そんなクリスマスも近いこの時期に届けられた傭兵達へのしゃれたクリスマスプレゼント。それが今回の『招待状』である。思えば、日々戦う彼ら達にとって、安らぎや癒しを求めるのはなかなかに難しい。そういった彼らへの感謝の意味を込めてのこの『招待状』。そしてそれを受け取ることができた幸運な傭兵達の甘く、切なく、ちょっぴりセンチなパーティーが今宵静かに幕を開ける。
素敵な音楽、楽しいダンス、おいしい料理、芳醇な酒。つかの間の夢を今宵味わってもらうために。
これはそんな傭兵達の思いと共に語り継がれるであろうダンスパーティーになるであろう。
三々五々、色鮮やかににドレスアップし集まってくる参加者達。ちょっと覗いてみよう‥‥。そう邪魔をしないようにそっと。
●ダンスに込める思い
「あれからもう2年か。あの時はうまくつたえられなかったけど」
と初めて告白した時の事を思い出している、月森 花(
ga0053)。そして今そのとき告白した相手、宗太郎=シルエイト(
ga4261)が彼女の目の前にいる。だがそれはとてもロマンチックな2人を醸し出すムードではない。
そのことが軽い苛立ちとなる彼女。こともあろうにその初告白の彼の『女装』を手伝うことになろうとは!なんでこんな場所でこんなことを、との想いがその手に動きに如実に現れる。
(キュ)
とそのきついコルセットを締め上げながら、
(「何故?」)
と思う。そのことが余計な力となって宗太郎を締め上げる。痛そうなそぶりの宗太郎にたいして思わずきつい一言を発する。
「我慢だよ。少しの辛抱だから」
だがその目に宿るのは笑顔。その女装の出来に満足したのか、自分の身支度を整え始める。胸元の開いたドレス。それは少し大人へ成長した証。そしてその胸を密かに自慢するかのように上げてポーズを決める花。
そして見た目にはごく普通の『女性』に見える人物像が出来上がったのである。
会場前で燕尾服姿でセシル シルメリア(
gb4275)を待つ柚井 ソラ(
ga0187)。今日のダンスのリード役を務めるべく、エスコートすべく彼女を待つ。そんな待ち人のセシル。
(「とーっても楽しみですけど、とってもドキドキなのですー。無事踊れるようになるかなー‥‥」)
と不安を胸に待ち合わせ場所に。その水色のドレスに映えるアクセサリーの花。夜目にも映えてあざやか。
その胸の不安、『ダンス』に対してなのか、それとも柚井、と『一緒』であることの胸の高鳴りにたいする不安なのか。それは柚井の姿をその視界にいれたときにさらにマックスに近づく。
「あうぅ、えとえとこちらこそよろしくお願いしますです!」
と柚井の前にあらわれたそのお姫様のセシル。しどろもどらになりつつも軽く会釈。そして顔がまっ赤なセシル。その表情のキュートさに、思わず抱きしめたくなるほどのいとおしさ。その姿に思わず微笑み、相好を崩す柚井。
「お似合いですよ。お姫様」
とそれは彼女に向けた精一杯の賛辞。こんな可愛いお姫様と踊れることの喜びに満ち溢れた表情。きっと幸せをかみ締めているに違いない。
だがこんな思いの傭兵もいる。
「あ〜あ」
と何故か気が重いのは如月・由梨(
ga1805)。別に体調が優れないとか、ダンスが苦手だとか言うわけでもなさそう。せっかく終夜・無月(
ga3084)に誘われたのに乗り切れないのである。決してソレを相手の前で表情として出すことのないように気を使う。プチな鬱が彼女の心に影を作る。だがたぶん気がつかれているだろう、と思いつつ。
その終夜。さる依頼で受けた傷も十分にいえぬまま。重体の体に長時間のダンスはつらい。薬と気力で痛みをこらえ、その全身に巻かれた包帯を決してみせぬようにして、笑顔で如月に話す。
「俺は大丈夫。こんなときだからこそ無理をしてでも」
だが彼はわかっていた。今日踊れるのは1回限り。だからせめてラストダンスまではパーティーを楽しもうと。
そしてラストダンスになった時には思いっきり踊ろうと。それが如月の為、そして自分のため、だとはっきり言い聞かせる。
会場に向かうまでにダンスの練習とパーティーマナーの復習に余念がないのはアルヴァイム(
ga5051)。百地・悠季(
ga8270)との仲の良さはその醸し出す雰囲気でわかろうかというもの。常に妻の体調を気遣い、人酔いするという妻のために過密な場所は避けるべく、事前に会場内での立ち居地まで下調べする念の入れよう。黒のダークスーツがよく似合う。普段の『黒子』の印象は今日はまるでない。それは洗練された『いい大人』のイメージである。
そしてその妻である百地。まだ新婚の域といえなくもないが、その落ち着いた印象はどこか『落ち着いた円熟(失礼!)の夫婦』のような雰囲気があるから不思議である。膝までの赤いワンピースに茶色のカットソーという一見シックではあるが映える服装である。大規模を終え、一息つきたい按配のこの時期、気軽に参加できるとあって旦那同伴での参加である。かつて重傷の体を押して、船上パーティーに参加した夫の心遣いを思い出す。
「貸衣装借りられます?」
と事前に相談を持ちかけたのがドニー・レイド(
gb4089)。妹のアーシュ・オブライエン(
gb5460)と参加。
直接的な血縁関係はないのだが、実の兄妹関係以上の深い心のつながりをもった兄と妹。まだ未成年のアーシュをエスコートする。貸衣装でリクエストしたそのフォーマルないでたちは、妹のファッションにあわせコーディネイトしたもの。黒の燕尾服のドニーと黒のロングドレスのアーシュの中むつまじい姿が、ダンス会場では見栄えよく映えるであろう。そんなアーシュ、
(「叔父様には無理をお願いしてしまって」)
もともとは相賀翡翠(
gb6789)から受けた誘い。昔を懐かしみ、叔父であるドニーに無理を言ってエスコートしてもらったのだが、まんざらでもない表情の叔父様を見て、ほっとした様子である。
(「まあ、翡翠とは面識あるしな」)
とドニー。今回は彼もパーティーに参加している。会場での出会いが楽しみなのだろう。妹の誘いを喜んで受け入れた彼もまたよき参加者なのである。
やはり翡翠が今回パーティに誘ったのが沢渡 深鈴(
gb8044)。パーティー経験のない彼女の為に、服や香水まで翡翠がチョイスしている。そこは恋人同士の関係の2人。お互いに相手のことは誰よりもわかっているはずである。いつもと違う深鈴の姿に改めて惚れ直す翡翠。少しでもいい思い出作りができるようにとのさりげな心遣いが憎い。センスのよさがところどころに顔を出す。アーシュもそうだが、深鈴にとってもまたよき『パートナー』なのである。
その誘われた本人の深鈴はといえば、
「俺が誘ったのだから」
気にするな、という表情の翡翠にホットする反面、なにぶんダンパなどはじめてのことで何をどう振舞えばいいのかよくわからないという困惑の表情を浮かべる。衣装自体似合うかどうかが終始気になる様子。
「似合い、ま、す、か、‥‥」
と会場に来るまでの間しきりに気にする深鈴。それは翡翠に対する心の思いを伝えているかのようである。
「大切な妹の頼みだから断るわけにもいかないしな」
と黒のタキシードにばっちりと決めた髪形で颯爽と向かうのが麻宮 光(
ga9696)。いつも以上に身だしなみには注意する。なにせフォーマルのパーティーだから、それなり気配りは必要というわけである
その麻宮にエスコートされた妹の星月 歩(
gb9056)。血のつながりこそ無いが、まるでお互いを本当の肉親であるかのように思い、いたわる。
孤児として育ち、本当の名前も両親もしらない歩にとって光は実の兄に等しくかつ、唯一の肉親にも等しい存在なのだ。
「お兄ちゃんとしてそばにいてくれる。だけど本当の私の気持ちは」
それは決して光にはいえない歩の心の葛藤。たぶんお兄ちゃんがいなければ、このパーティに来ることもなかった、そう思うと余計にその存在がいとおしい。そう思う歩。それは光も同じ思い。それは戦災で愛する肉親を失った少年、自分の記憶を失った少女の決して揺らぐことの無い心の『絆』である。たぶんお互いの存在がなければこうして戦っていることも無いのかも知れない。
こうしてそれぞれがそれぞれの夢を紡ぎながらパーティー会場に向かう。そこは薬袋音(gz0033)やバルトレッド・ケイオン(gz0015)たちも待つ晴れやかな舞台である。
●まったりと雰囲気を
ダンスだけがパーティーの楽しみではない。もちろんパーティーのメインであることは確かだが、その様を眺めつつ、ゆっくりくつろぐ、いわばある意味「大人の遊び方」をするのもパーティーの楽しみである。ダンスは苦手、パートナーがいないあ、そんな者たちでも十分に楽しめる、これこそ理想のパーティーなのだ。
「この雰囲気を味わうのまたいいものですね」
幼馴染の不知火真琴(
ga7201)同伴で正統派タキシードスタイルの叢雲(
ga2494)。黒のバックリボン付ドレスがよく似合う不知火。柚井や朧 幸乃(
ga3078)、フォル=アヴィン(
ga6258)らといった知り合いも多数参加しているので、見知った顔を見かければ気軽に挨拶を交わす。
「あれ?どうしたの?」
とどこか浮かなそうな表情のフォルに声をかける。
「いや。誰か誘ってくればよかったかな、と」
予想以上のカップル率の高さに、残念そうな表情を浮かべるフォル。だが直ちに笑顔に戻る。
「音、さんに挨拶、にでもと思ったんだけど」
そう名指しされた音。会場準備やらなにやらで忙しそうなので、声をかけるきっかけを失っていたようである。
「とりあえず、パーティー会場でも手伝ってくるか」
と徐々に参加者の喧噪とざわめきに包まれつつある会場内に姿を消す。
「おや?あれは?」
場内のにぎやかな雰囲気とは対照的に、ポツンとやり場の無い様にたたずむ少女。フェイト・グラスベル(
gb5417)は、誘ったパートナーが急遽参加できないことになり、いわば取り残されたような格好。楽しそうなカップルや友人同士を横目にみやりつつ、なにやら物思いにふける。本来ならパートナーと2人、このパーティーをエンジョイするはずだったのだが、なんとも残念であろう。すると、
「どうされました?」
声をかける一人の男性が。彼、紅鬼(
gb8839)もまたパートナーが急遽参加できなくなり、一人どうしようかとたたずんでいたらしいのだ。お互いが同じ理由である事を知り、どことなく親近感がます二人。むろん親しい仲ではないし、それなりに遠慮はあるのだが、このパーティーの雰囲気と流れる素敵なBGM、楽しげな笑い声と喧噪ががそんな疎遠な感じを少しばかり溶融してくれるように思える。
「では今宵は雰囲気でも楽しませてもらうか」
と普段と変わらないが、決してラフではない服装の紅鬼。ゆっくりと会場内に溶け込む。そんな姿を見て自らも意を決して会場内に溶け込んでいくフェイト。本来であれば参加せずに引き返してしまうような状況ではあっても、それをさせないの何か独特な雰囲気をかもし出している今宵のパーティー。
どこかで小走りに走る足音。
「間に合ってよかったぜ」
綾河 零音(
gb9784)を引きつれ、大急ぎで場内に駆け込むジョー・マロウ(
ga8570)。同じ小隊の仲間ということだが、実際は保護者のような気分。その傍らでエスコートされている綾河。ワンピースがよく似合う彼女、年齢の割にはずいぶん落ち着いた雰囲気と口調で、なにやらジョーに話しかけている。
「クリスマスって、イタリア語で『ナターレ』っていうんだ」
口調とは裏腹にまだあどけなさの残る15歳である。
かたやジョー君。
(「なんというか子供が多いなあ、クリスマスパーティだからか?」)
その平均年齢の若さに多少驚きつつも周囲を見渡し綾河にこう告げる。
「わかっているとおもうが、酒は飲むなよ」
同じ事を、未成年に見える周囲にいた参加者に言いまわっていたらしいのだが、さて。
(「あれからもう2年か」)
会場内をうろうろしているバルトレッドをその視線の端でおいつつ、過去の思い出にしばしひたる朧。あれは2年前のこんなダンスパーティー。そこで起きた今日のような騒ぎの中での出会い、ダンス‥‥そういったことがすべてまるでつい最近の出来事のように脳裏をよぎる。
決して思い出にこだわるつもりはないのだが、純粋な気持ちで周りで楽しげに微笑んでいるカップル達に目をやる。今回一人で参加したことを後悔もしていないし、後ろめたい気持ちもない。
(「今日は一人年齢相応の女性として振舞ってみるのもいいかな」)
そんな気持ちを抱きつつ、パーティー会場の雑踏に飲み込まれていく。
そんな彼女の肩をポン、とたたく手が。
「やあどうも。今日は一緒に楽しみましょう」
見ればそれは貸し衣装に身をつつんだ五十嵐 八九十(
gb7911)。ひとり寂しくクリスマスを味わいたくないとの思いで、参加したらしい。あっというまに人ごみの中にまぎれてしまった。彼は彼できっと楽しんでいるだろうことが、その後ろ姿に見え隠れしている。
パーティー会場のBGMと歓声が大きくなった。そして華やかなベルのなる音。いよいよパーティーの開幕である。
ざわめきがひときわ大きくなる。
●シャル・ウィ・ダンス?
「え〜〜。今宵はこのダンスパーティーに参加いただきましてありがとうございます」
大きな拍手。沸き起こる歓声。目の前にはダンスパーティーにふさわしい色彩豊かな飾りつけとテーブルの上に並べられた様々なおいしそうな料理と飲み物。そしてパーティー会場の3分の2を占めようかというダンスの為のフロアがひときわ輝いて見える。絶妙な光量をもって灯された天井からのライトが参加者たちを照らし出す。
「では、これからしばらくの間、おいしい料理、かぐわしき飲み物、そしてすてきなダンスタイムでお楽しみください」
その声を待ちきれないかのように、テーブルやダンス為の空間やらに群がる参加者達。
「楽しまなきゃ‥‥ね」
と月森。見知った顔と見れば臆することなく場内で声を掛けまくる。あくまでも雰囲気を楽しみ、かつ壊さないようにである。特に朧やフォル、バルトレットを見かければ
「シャル・ウィ・ダンス?」
の一声を忘れない。ただ楽しむ。そのためにここにいるのだから。でも決して待ち人、のことも忘れない。
でその待ち人たる宗太郎は何をしているのかというと‥‥
「一曲、よろしいかしら?」
といきなり叢雲にダンスを申し込むうら若き女性一人。ハスキーな大人の女性の声である。それは一瞥すると
見た目はお年頃の少女の風にも見えるのだが。
「?」
と一瞬いぶかしがったもののすぐに同意する叢雲。だが立ち振る舞いは女性なのだが、何か違和感を感じる。それは腰に手を回した瞬間により確信に変わる。
(「この感じ。昔やってた、女装しての夜のお店での感覚に‥‥。そうか。これは」)
そこでハタ、とあることに気がつく。見れば相手の女性は体を密着させ、その体の詳細がよくわかる。
(「こいつ、オ、ト、コだな」)
何回かステップを踏む。そして離れ際に、
「またいつか踊りましょうね」
とキスを迫るその女性?から危うく顔をそむけることに成功する叢雲。すでに確信があるのだ。そして一言。
「楽しめましたか、お嬢様。もとい、宗太郎さん」
‥‥奇襲作戦失敗。というかばれない、とでも思ったのか?
その後花に手伝ってもらい、そそくさと男装に戻す宗太郎の姿があった。どうやらまだまだだっだようである。女装を極めることの難しさを今回改めて痛感した様子。
「さて、マジメに踊りましょうか? お嬢さん」
と着替え終わるや否や花に声をかけ、改めて『レッツ・ダンス』である。
「今日はよろしくね。お姫様」
と柚井。だがダンス初心者の彼。当然はじめからうまく踊れるわけでもなし。ダンス会場の隅の方でセシルを巻き込み実戦練習である。事前にやっておけばよかったのにとか他人から見れば思えないでもない光景。
「せーの」
一歩ニ歩と恐る恐る踏み出す。だがやはり不慣れなのは致し方なし。セシルの脚を踏んづけることに。
「すいません。お姫様大丈夫ですか?」
だがそれはセシルとて同じで。彼女もダンス初心者なのである。ダンスはパートナーとの呼吸が合わなければとてもではないが踊れたものでないし、そのためにはステップも重要なのは言うまでもない。
「えとえとこうですかってわぁああ! すいませんすいません」
柚井の脚を踏みうろたえるセシル。あまつさえ転倒することも何回となく。だがぎこちないながらも徐々にどうにか格好がついてくる2人。徐々にホール中央へと繰り出す。時折見知った顔の仲間が踊っていれば、うまいなあ、とか思いつつ眺めているのだろうか?
「やった! やったのですー! 柚井さんのおかげですー!」
どうやらうまく踊れたようである。
ケガで無理のできない終夜はできるだけ体に負担をかけないように、ダンスタイム中は見知った顔である花や宗太郎、音やバルトレッドらと歓談に明け暮れる。
「楽しんでます?」
女装で一騒ぎ起こし、着替えてきた宗太郎と花に暖かい視線を送る。
「初めまして‥とも厳密には言えませんが」
相変わらず何かと忙しそうなバルトレッドと音に向かって軽く会釈を送る。
軽食と軽くノンアルコール飲料でリラックスした後に、妻と踊るアルヴァイム。体調を見やりつつマイペースで無理をしないように、である。妻が疲れたと見れば、直ちに休ませ、回復したと見ればまた踊る。
意外とステップが軽やかな百地。握りあった手と手の暖かさを感じながら、妙にイチャイチャした感じも垣間見える2人。それは夫と2人であるという心のゆとりのなせる業か?
「慣れたのかな。こんな生活と環境に」
アップテンポのアメリカンスタイルの曲調が、気分を高揚させ余計に気分が盛り上がる。疲れればバーで、軽くアルコール、ではなかったノンアルコールで喉の渇きを潤す。よく考えればまだ未成年なのだ。でもそうは見えないから不思議である。彼らも他のカップルと同じく立派なラブラブなカップルの1組であった。
「ジュースいかがですか?」
見ればいつの間にか貸衣装のウェイターの格好をしているフォル。ホールにて、トレイ片手にカクテルやジュース、ノンアルコールカクテル等の飲み物のサーヴなどしつつ会場の雰囲気を楽しむ。自分から進んでの裏方仕事であり、本人はこれで大いにパーティーの雰囲気を楽しんでいる様子。
知り合いの真琴や、叢雲に会えば、
「楽しんでますか?」
と笑顔で声をかける。何してるかと聞かれれば、
「んー、まあ、何となく。ですね」
と苦笑い。やはり誰か誘ってくればよかったと少しばかり後悔。それでも音やとバルトレッドと会話ができたことがうれしそうであった。音とは久しぶりの再開。気分が高揚しているのは何故?
翡翠や深鈴と楽しげにグラス片手に談笑していたドニー。未成年同伴なので普段より?酒の量は控えているらしい。頃合を見るや、アーシュを誘ってのダンスである。ダンスには多少の心得はあるし、女性のエスコートもうまい。燕尾服が優雅にゆれる。多少の心得とは思えぬ身のこなし。
「こうするのは何年ぶりだ?」
と踊りながら問いかける。
「3年ぶり程?」
やはり幼少時からダンスや社交の教養を身に着け、心得ているアーシュ。なれた足捌き手さばきで巧みなステップで洗練されたダンスを披露する。お酒が飲めればいいのに、とかちょっぴり後悔してみたり。今日は五十嵐も来ている。『お酒』談義に花が咲こうか、というところだろう。他の参加者の中でダンスがひときわ目立つのはやはり経験者の強みであろうか。
「踊らないんですか?」
と深鈴。ダンスは経験が無く、どうしていいのかよくわからない。
「‥踊ってみるか?」
と翡翠。だが人の多いフロアではなく、思いっきり人気のないバルコニーで背後から聞こえるBGMを頼りに踊る。
はじめから中央で踊るのは難しいだろうと思い、会場の隅に陣取ってアルコール片手にまったりしていたのだが、パートナーのお誘い、とあれば喜んで、というところであろう。
「よく似合ってる」
踊りながらそっとささやく翡翠。その言葉に思わず天にも昇る心地の深鈴。恥ずかしいのか人目を避けるようにバルコニーの隅の方でそっとレッツダンス。
(「この方にならすべて話せるような気がする」)
踊りながらふとそう思う深鈴。
(「俺でいいのか」)
そう思う翡翠。確実にゆっくりと言葉ではなく心で理解しあえるようになった2人。
(「これからも、そしてずっと」)
それは疑う余地のない、2人の同じ思い。それは決して変わることも色あせることもないだろう。2人の周りを
やさしく時間が流れていく。
「さあ、踊ろうか、歩」
音楽がゆっくりとしたものに変わる。手をとりそっとエスコートする光。小さくうなずく歩。さきに手を出そうとした歩だが、光がそっと手を先にだしたのであわてて引っ込める。
やわらかく、そして時にはコンパクトに歩をホールドしつつ踊る光。ダンスの自信は無いが、事前にレッスンしてきた程度のことは出来るだろうと思う。歩幅を合わせ左周りに回る。決してこの人数では広いとはいえないダンスフロア。他人にぶつかるのはマナー違反。だがもしぶつかってしまった場合でも歩に怪我をさせないように注意する光
青のパーティードレスがダンスフロアに鮮やかに浮かび上がる歩。決してかなわない、と思っていたこうして踊ることが今現実のものとなった事がなによりうれしい。
(「お兄ちゃん、私とでも、踊ってくれる‥‥?」 )
本当はそういってお願いするつもりだった歩。でもお兄ちゃんが自分から誘ってくれた。そのことが今は何よりうれしく思う歩。時間よとまれ、と今本当に心から願う歩であった。いままで探し続けてきた大切な『何か』。今はまだみつけられないけれど、いつかきっと見つかるかも知れない。そしてそれが、いえ、今はこうしていられることが何より幸せ。そう思う歩であった。
そんな彼女をやさしく見守る光。何かを失った者でなければ決してわからない何かが2人をつないでいた。
ダンスパーティーはまだ終わらない。
●パーティーは続く
パーティーテーブルのサイドで一人黙々?とカクテルを作る五十嵐。
自分用の物はアルコール入りの『カミカゼ』と女性用にノンアルコールカクテルの『シンデレラ』である。
こうして、だれか一人でたたずんでいる女性陣を見かけたら、カクテル片手にお誘いするというわけである。
最初のターゲットは、朧。だが彼女の姿は視線には入らない。だがその視線が捕らえた先には音が。さっそくカクテル、を持参してお近づきになる五十嵐。
「あ、音さん、お一人ですか? 良かったらこれどうぞ、心配しなくてもアルコールは入ってませんよ」
とカクテルを勧め、踊らないかと誘う。が、あいにく先約があるのだという。あえなく作戦失敗、である。
「やっぱ駄目だったか。ま、あんまり慌てずゆっくりやれと言う天の思し召しかね‥‥?」
ひとりバルコニーにでて師走の夜景を楽しみながら自分用のカクテルをゆっくりと飲み干す五十嵐。どこか背中に哀愁のようなオーラが出ていたことに最後まで気がつくものはいなかった。
そんな五十嵐が探していた朧は、ひとりテーブルの方でダンスフロアの歓声に耳を傾けながら、乙女心にいろいろ回想中だったらしい。そこに何気なくちかよるひとつの影。
一方。
「あれ、叢雲君じゃ?」
とパーティーの雰囲気を楽しみつつ料理やカクテルを堪能していた不知火。柚井や朧、フォルら見知った顔が多数いるので談笑しつつのんびり楽しんでいたのだが、ふと叢雲が誰か自分の知らない女性と踊っているのが目にはいった。
瞬間、自分の体の血がす〜〜、とひいていくような奇妙な感覚を覚える不知火。もちろん幼馴染の2人。とはいってもまだ恋愛感情に発展する事も無く、純粋に『大事な人』思っていたのだが、それでも目の前でおこった事を直ちに理解するのは難しく。
半年前の夏のあの一言をふと思い出す。
(「自分ところへ帰っておいで」)
もちろんそれを完全に信じていたわけじゃないけど、もしかして彼が自分の側から離れていってしまうのでは、
そう考えるのがつらいのだ。理性では超えられない感情。無理に笑おうとすればするほど余計に心がグルグルと揺れて。その受けたダメージの大きさに改めて自分で驚く不知火。
そして。
「‥‥‥‥」
何気なく誘われるままにダンスを終え、その視線の先に不知火の表情を捕らえ困惑と動揺が隠せない叢雲。笑みの無いその顔にかけられる言葉などあるわけも無く、ただつかの間呆然と立ち尽くす叢雲の姿があった。
そんな傍らでは、元探偵だったというジョーがグラス片手にいろいろと談笑と称して、情報収集中?の御様子。職業柄、話題を聞き出すのがうまいのだ。だが、イザ自分の事を聞かれると
「俺は、運がよかっただけ」
と終始答えるのみ。
そんなジョー。くさいセリフを連発しながら、外見20歳以上(失礼!)と思しき女性たちを口説きはじめる。
「今年の一番の幸運は、キミとであったことかな」
などといいながらである。そしてそんなターゲットの一人が朧。先ほど物思いにふけっていた彼女にそっと近づいてきた影が、このジョーだったわけである。当の本人は単になかよくなるだけ、という風に簡単に考えていたようだが、声をかけられた当人はそのようには普通は捉えない。いや、気さくで好意的な人はそう思うかもしれないのだが、そうで無い人とっては、ただの『ナンパ』である。
結果どうなったかはここでは語るのは遠慮しよう。まあ想像の範囲内であることは確かだ。
がである。そんなジョーのある意味『不謹慎』な行動を知ってか知らずか、テーブルに上にところ狭しと並べられた料理に食指が伸びる綾河。ソフトドリンク片手に、目の前のムール貝を手にとるや、
「おーい、マロウ殿〜。美味しそうなムール貝があるぞ〜、食べるか?」
といたって暢気なものである。まあ同じ小隊仲間という以上の関係ではないので、これはこれでいいのかも知れないが、恋人以上の関係だったらさぞや大変なことになっていたやも知れない。その後もひたすらに食べ続ける彼女の姿が印象的であった。
ふと隅の陰に動く人影。そう、アルヴァイムと百地夫妻である。参加者の中で唯一、完全な夫婦関係にあるのである意味遠慮がない。よって、隅の陰で夫婦の証たるキスをしていたとしても誰も気にするものもなければ目に留める者もいないのである。ましてやこの照明華やかなダンスホールとは対照的な薄暗がりの隅の陰である。これからもお幸せに。
残念なことに、パートナーが急遽参加できなくなってしまった紅鬼は、さすがに落ち込んでいる表情は最初こそ隠しきれなかったものの、なんとか取り繕って表面上は落ち込むそぶりを見せず。赤ワインをじっくり味わいながらパーティーの雰囲気を味わい、時には見知った顔と談笑していった。
●ラストダンス〜そして〜
かくしてダンパは盛り上がりの中にフィナーレを迎える。
「俺と‥‥、踊って頂けますか?」
体力を温存し、この瞬間のために備えていた終夜。どうして断る理由などあろう。このときをはじめからずっと待っていた如月。とても重体の体とは思えない軽やかな足取り。だが、無理しているのがわかっているので心が痛む思いがするのが自分でもわかる如月。
「無理しないでくださいね」
とそのケガを気遣う彼女。終夜のこのような姿になれていってしまう自分がいることが凄く怖くかなしい思いの如月。そんな彼女の気持ちを察したのか終夜。彼女の心の『霧』を晴らすべく言葉をつむぐ。
「実際俺自身‥強くなる事を‥大事に思う全てを護る為の力を手に入れる事を‥望むと共に求め続けているので。だから、今の由梨の苦しみと同じモノを感じた事もあります‥‥」
さらにささやくようにこう伝える。
「其れに対する俺の出した答え‥其れは‥具体的に言葉で表すより‥由梨の見て来た俺の姿其のもの‥と言った方が分り易いでしょうか。そして、」
最後は甘く言い含めるような言葉。
「それに‥貴女の側には俺が居ます」
といってかすかに微笑む。それは終夜の精一杯の『告白』だったのだろう。そしてその一言がつむぐ『絆』という糸。その言葉に踏み出せなかった一歩を踏み出そうとする如月。
ラストダンス‥‥。それはある者達にとっては『新たなの始まり』への確かな証でもあったのだ。
●夢の宴の跡は
こうしてつかの間の夢の宴は幕を閉じる。ひとときの夢に酔いしれたカップル達やそうでなかった人々。だがその心を支配した満足感はみな同じである。日々戦いに明け暮れ、大切な人に『何か』を伝えれらぬまま日々をすごしてきた傭兵達にとって、それは天から与えられた貴重な瞬間。
遊び疲れた子供のように、ため息をつく花。カクテルグラス片手のその姿は『お迎えをじっと待つ子供』のような心境。
「シンデレラの魔法は12時で終わり」
とつぶやく。そう、魔法は解けるかもしれない。でも永遠に残るものもある。
喫煙コーナーでうまそうに一服するジョー。果たして成果はあったのかは彼の顔色がすべて物語っている。
「ありがとう」
と歩にいたわるように声をかける光
「これからもよろしくね、お兄ちゃん」
今日一番の笑顔の歩。彼女の『魔法』は決して解けることはない。
「さあ、帰ろうか」
寒い外気から守るべく、深鈴の体にコートをかける翡翠。
「今年は楽しいナターレだった、ありがとう」
綾河はうれしそうだ。それは他の参加者の気持ちすべてを代弁しているかのように思えた。そして今宵は彼女のLHでの最高のナターレになったに違いない。
メリークリスマス! 恋人達に幸あれ!
了
(代筆:文月 猫)