●リプレイ本文
●まだ見ぬ鵺
「鵺でありますか‥‥餓鬼の時分に爺様に良く脅された物であります」
小さな頃を思い出し、鵺らしきキメラのいるという森を稲葉 徹二(
ga0163)は見た。
濃い緑の世界がこんもりとそこにはあった。
その森へと月森 花(
ga0053)も視線を向ける。
「鵺って伝説上の生き物だと思ってたけどキメラが真似をしてるだけとは言え、この目で見れるなんてちょっとドキドキ」
その表情は、好奇心にも満ちていた。
「和製キマイラ、ですね‥‥得体の知れない存在でいつまでも街の人の生活を脅かすわけにはいきません」
青の瞳をすっと細め、キーラン・ジェラルディ(
ga0477)はこの静かな街を見る。
いつもは平穏があり触れているだろうこの場所は、今、不安が見て取れるほどにざわついていた。
「今回は、まだこれといって被害が出ていないのは不幸中の幸いかしら」
皇 千糸(
ga0843)の言葉に南雲 莞爾(
ga4272)は頷いて、同意を示す。
「街への被害を出さないこと。キメラの殲滅は、二の次だな」
もちろん殲滅できればそれに越したことはない、と付け足しながら。
「森の地図とかあればいいんだけど」
長い銀の髪を揺らしながらリズナ・エンフィールド(
ga0122)は森から視線と足を街の中心へと向ける。
「空想の生き物を使ってくるとはバグアも考えたことで。それとも‥‥」
羅・蓮華(
ga4706)はふっと瞳を細めてその先の言葉を留め、続きを呟く。
「親バグア派の人間が入れ知恵でもしてるのかしらね。何にしても、近所迷惑な猿犬蛇を退治しに行きましょう?」
「その前に情報収集も」
クリストフ・ミュンツァ(
ga2636)は言って近くにいた住民へと礼儀正しく挨拶をし、話がどうなのかと聞いてゆく。
まだ日は高く、声が聞こえてくる時間帯ではない。
だが、できることはある。
まず街で情報を集め、何か手掛かりがあるかもしれない森へと向かうことになった。
現地での話は、昼間は声は聞こえないこと。
一週間くらい前より声が聞こえてきたこと。
その聞こえてくる位置は、常に変わっているような気がすると話は聞けば聞くほど出てくる。
あの声の正体が何かわかるなら、と彼らは友好的に対処してくれた。
そして、一言ずつよろしくと傭兵たちに言ってゆく。
手に入れた森の地図に情報を合わせて、リズナはマーキングをつけていた地図を広げる。
そのマーキングはばらばらであるようにもみえたが、ジグザグに進み、森の中を隅々まで移動しているようだった。
明るいうちに出来るだけ手がかりを、と時間が許す限り森の中を探索。
もしかしたら、出会うかもしれないと油断せず、気を抜かずあたりを巡ってゆく。
「森歩きはそこそこ慣れていますが‥‥化け物が潜んでおるとなるとまた格別でありますなぁ」
がさがさと木々を分け入って、徹二は足元に目を凝らす。
すると少し隠れた場所に、明らかにこの森に住んでいる動物に似つかわしくない足跡が。
「足跡であります」
足跡は、この付近にいると思われる証拠の一つ。
「街まで時間の問題の距離だったな」
キーランはその足跡を見た後に、街へと顔を向ける。
「まだ新しい‥‥」
莞爾はしゃがみ、その足跡に触れる。
土はまだ、柔らかいままだ。
「この辺にいるってことかな?」
「どこかに潜んでいるのでありましょう」
「じゃあこのあたりから重点的に‥‥声のする方向の範囲からみてもこのあたりは怪しいから」
おおよそ、夜の探索場所を定めて、一行は一度街へと戻る。
再び森に足を踏み入れるのは、夜になってから。
●夜闇に声
「さて、妖怪退治と行きましょうか」
リズナは言って森へと入る。
「聞こえるね」
『ヒョー、ヒョー』
これから向かう方角から、鳴き声が、聞こえてくる。
その鳴き声は思っているよりも、近くから響いているようだった。
暗視スコープを持つ莞爾とキーランを中心に二手に。
二手といっても離れ過ぎるわけでもなく、すぐ双方何かあった場合にフォローに回れるほどの距離だ。
闇の中を進み、昼間見つけた足跡の付近へとたどり着く。
その声のするほうへ、ゆっくり確実に向かう。
「大分近づいたな‥‥」
なるべく音を立てないように気をつけながら。
と、鳴き声が、止まる。
いつもと違う森の雰囲気を感じ取ったのか、しばらくしても鳴き声は聞こえない。
「近いってことかな? よし!」
花はその場で覚醒する。
瞳は金色へと変わり、仄かに腕が光る。
すぐさま隠密潜行。
ナイフで邪魔な木々を切り払いつつ、気配を殺して、鳴き声がしていた方へと進む。
また同じようにクリストフも斥候へと出ていた。
花と息を合わせ、少しずつ。
しばらく、距離を静かにつめていくとがさり、と茂みの動く音が二人の耳へと入った。まだ少し距離がある、と花が双眼鏡を構えると、そこに暗闇の中で動く蛇の頭が入る。
「実際、目の前にすると気持ち悪いものね」
小さく花は呟く。
クリストフも敵がいることにしっかりと気が付き、静かに、仲間の元へ。
そしてこの先に鵺がいることを知らせる。
「鳴かぬなら、殺してしまえ、何とやら‥‥と。初撃は俺が決めよう」
その声を合図に、一斉攻撃。
暗視スコープをしっかりつけ、キーランは覚醒する。
昏い銀に変る髪と少し伸びる犬歯。
隠密潜行を使い、キメラの方へと向かう。
そしてそれに続くように、静かに他のメンバーも。
その頃、花はキメラの後へと移動していた。退路を作られないようにするために。
鵺が、首をあげる。
トラより少し大きな体。その顔はサル、体はタヌキで手足はトラ。そして、尾は蛇。
囲まれた気配に、鵺は身構える。
そこへ、キーランの鋭覚狙撃。
それを間一髪でかわした鵺にさらに攻撃が放たれる。
瞳は真紅に染まり、エミタを中心に腕を侵食するかのように、浮かび上がった黒い紋様。
千糸のスコーピオンから放たれた弾は鵺の右足を貫く。
「ヒョー!」
そこへリズナが覚醒し、全身を覆うように青いオーラを纏い、豪力発現と豪破斬撃を発動し蒼白い雷光を四肢から放ちながらヴィアで切りかかる。
その攻撃は鵺の左足に。
「‥‥始めるか」
静かに莞爾は呟く。何も変わりのない莞爾は、すでに覚醒していた。
瞬天速を使い懐へ入り、その体に傷を負わせる。
その前足が振り下ろされそうになれば、回避し、木々の後へ隠れ攻撃をいなす。
莞爾が引いたと同時に蓮華の攻撃。
金色の髪の中から同じ金色の狐耳と、ふさりと尻尾が現れ人妖狐化をした蓮華は瞬速縮地を使い一気に距離を詰める。
そして、胴へと蹴りを入れ、その鵺の体をぐらつかせる。
「さっさと消えてくれる?」
ぐらつき、動きが止まった瞬間、花は後より鵺の尾を狙って弾を打つ。
前へと視線が向いていた尾の蛇はその突然の攻撃に身をくねらせる。
一段貫通、そして尾が自分の方を向いた瞬間に二弾目、三弾目と連続攻撃。
尾はそれをもろに受けてへにゃりと垂れ下がり動かなくなる。
「‥‥よっしゃ、いっちょやってやるか平成の頼政っ!」
尾の機能を失い、鵺は逃げようと身を翻した。だがそこには徹二がいた。
すらりと蛍火を抜き、豪破斬撃を繰り出す。
鵺の顔面をかすり、さらに右足へとダメージを募らせる。
取り囲んで行われる攻撃。近接攻撃が行われている間も、援護射撃はそれぞれの邪魔にならないよう行われる。
鵺は一度低く身を沈めて、そして飛びあがる。
器用に木の枝へと乗り上がり、そしてリズナの頭上を越えてゆく。
リズナの後方は街とは反対側、街へ向かわれるよりもまだマシとそれぞれ逃げられたことから頭をすぐ切り替える。
鵺は迷うことなく崖のほうへと進んでいく。
だが、そのまま大人しく逃げさせるわけにはもちろんいかない。
リズナは持ち前の俊敏さを発揮して鵺に追いつき足止めをかけるべく攻撃。
それに徹二も追いついて、鵺へと攻撃をともに繰り出す。
崖へと駆け上がろうとするところを、足を狙いうち。
莞爾が投げたアーミーナイフは鵺の足もとへと硬い音をたてて突き刺さる。
それに驚いたのか、鵺はバランスをくずして崖をずり落ちてくる。
それは足中心にずっと続けられていた攻撃が効いている証拠。しっかりと鵺からその機動力を奪ってゆく。
「鵺に対しては『鏑矢』が正式なんでしたっけ?」
アサルトライフルを構えたクリストフが言うと、徹二が頷く。
「鵺はその昔弓で射落とされたとさ‥‥! 折角その姿で生まれたんだ、ラストまできっちり古典通り墜ちやがれ!」
勢いよく言い放たれる言葉と同時に、スナイパーたちは構える。
打撃攻撃を顔面へ、視界を一瞬奪った後の、攻撃。
「さぁ、これで終わりにしましょう」
そしてタイミングを合わせ、それぞれの攻撃を放つ。
食らえば鵺は、今まで街の人たちの耳へと届いていた声をぐしゃりと潰したような声色で鳴き叫んだ。
「チェックメイト、これでおしまいよ」
倒れかける身を起こす鵺。
最後のあがき、とばかりに、その鵺の身に紫電が、走る。
今まで使わなかった、雷撃。
ひときわ高い声とともに、雷撃が散るようにそれぞれへと向かってくる。
だが、ここは森の中で遮蔽物となる木々はたくさんある。
さっとその身を隠し、雷撃をやりすごす。
そしてその後に、計らずとも、自然とあう攻撃のタイミング。
スナイパーたちの一斉射撃。それを受けてもまだ動こうとする鵺。
「‥‥俺の勝ちだ」
一瞬で踏みこみ、そのままカデンサを鵺へとつきたてる。
その瞬間に大きく鵺の身は、跳ね上がり完全に動きを止めたのだった。
●静かな夜、賑やかな夜
夜の中、街へと戻る。
すると、戦い終えたものたちを迎えるように灯りがともっていた。
街の広場に明かりがともり、陽気な音楽と良い匂い。
「お帰りなさい! ケガとかはありませんか?」
「やっぱりキメラだったんですか!?」
詰め寄るようにわぁっと少年たちが駆け寄ってくる。
街は、皆の無事、そして不安を取り除いてくれると信じていたのかお祝いムードだった。
「無事に倒したであります」
自分と同じ年頃の少年たちからの眼差しに応えるかのように徹二は言う。
するとその話を聞かせてくれと、同じ年頃のクリストフとともにどこかへと連れて行かれる。
「可愛い子はいるかしら、うふふっ♪」
この街の雰囲気に、蓮華は楽しそうな声とともに小さく微笑み人の中へ。
「おいしそうー!」
良い匂いに食欲魔人スイッチがオン。花は街の人たちからこれもあれもと色々差し出されたものを堪能してゆく。
その傍で、今日だけはと夜更かしを許された子供たちとリズナは楽しげに、穏やかに話をする。
千糸も、人の中に引っ張られ労いと、そしていつも何しているのか等他愛のない話の輪に。
「なかなかいい音だ‥‥」
流れてくる音に耳を傾けるキーラン。その音に好きなUKロックが少し恋しくなり、そのリズムを口ずさむ。
そして莞爾は静かに、本当に被害がなくてよかったとこの街を見て思う。
傭兵たちは、また静かな夜を、街の人たちに取り戻したのだった。
今晩は賑やかな夜だが、また明日から、いつも通り。