●リプレイ本文
空気を切り裂いて八機のKVは空を駆る。
彼らはUPC基地より発令された依頼を受けていた。今、その目が見据えるのは遥か斜め下前方を散開する飛行機群。レーダーの端に捉える十三の光点。
――その任務は、D飛空部隊を救出する事。
『‥‥援軍だ‥‥!』
ふいにD飛空部隊から発せられた声が能力者達の耳を叩く。
直後、僅かに動きの鈍った飛行機群の後方を太い光の柱が輝いた――。
『――プロトン砲回避! 急に機体レスポンスが良くなったぜ! 奇跡だ!』
『バカ、よく見ろ。電子戦機が来たんだ!』
被撃墜数ゼロ。攻撃より一瞬早く、竜王 まり絵(
ga5231)駆るウーフーと、シーヴ・フェルセン(
ga5638)駆る岩龍の二機がジャミング中和を開始したおかげだった。
リーゼロッテ・御剣(
ga5669)は、味方が全機回避したのを見届けて回線を開く。
「皆さん、聞こえますか? 基地の要請により援護に来ました。当空域は我々に任せて速やかに撤退してください」
「さぁパートナーチェンジだ。D飛空部隊、天使とのダンスは私たちに任せておけ!」
リーゼロッテ、そしてリディス(
ga0022)の言葉に十三人のパイロットは爆発したように歓声を上げた。絶望の中に希望を見出して兵士達の士気が最高潮に高まる。
すぐにまり絵から撤退作戦についての説明がなされた。真剣に耳を傾けるパイロット達。
「さすがに通常機でHW相手は分が悪いですわね‥‥。速やかに救出して差し上げないといけませんわ」
激しい猛攻を受ける友軍を目の前にして、クラリッサ・メディスン(
ga0853)の気持ちがはやる。交戦空域に入るまで、――あともう少し。
マリア・リウトプランド(
ga4091)もコックピット内で意識を集中する。レーダーと肉眼で敵位置を把握、作戦に備えた。
電子戦機岩龍に乗るシーヴが交戦空域突入までのカウントダウンを開始する。
祈るような想いでタイミングを待つ聖・綾乃(
ga7770)。まだあどけない少女の顔に笑顔は無く、――代わりに強い決意の色が浮かぶ。
「‥1、0! 交戦空域突入、作戦開始でありやがります!」
シーヴの声。
それを合図に先頭の赤村 咲(
ga1042)とリディスはブーストを点火、雷光のような速さで空を突き抜けた。
「撤退方向にスモークを焚きますので使ってください! ‥‥もうこれ以上、ワームの好きにはやらせない――!」
「行くぞ、まず一機消えてもらおう!」
D飛空部隊と超高速で交差するワイバーンとディスタン。HW群と真正面から相対する。
その中央一体へ向けて、稲妻のように飛来した二機は集中砲火を浴びせかけた。アハトアハト、AAM、デルタレイにことごとく被弾したHWは轟音と火花を散らす。
‥‥が、通常より装甲強化が施されているのか撃破には至らない。
――そこへKV部隊による第二波攻撃が敢行された。上空から接近したまり絵機がAAM発射、黒煙を上げるHWを、撃墜。
「‥‥いくよ、マニューバ! いっけぇぇぇぇ!」
続いてブーストを掛けるリーゼロッテ機ディアブロ。左翼HWに接近するとアグレッシブ・フォースを起動、ソードウイングで激しく切り裂いた。燃え上がるような火花が散る。
そこへマリア機も追撃しようとしたが――試作スラスターに不良発生。攻撃を断念せざるを得ない。
代わりにシーヴ機が『ドゥオーモ』で追撃。百発の非物理ミサイルが撃ち放たれ、HWへ大放電の嵐を巻き起こした。
「皆さんっコッチです! 私達を抜いて撤退をっ!!」
KV部隊がHWと交戦を開始したのと同時、やや高高度から綾乃機がラージフレアを展開しながら降下する。飛空部隊がそれを目標に上昇を始めた。
それを援護するようにクラリッサ機とシーヴ機が両翼に煙幕装置を撃ち放つ。
「援護しますね」
「これでちったぁ飛び易くなるだろう、です」
『恩に着る! 行くぞ、飛び込め!』
『みんな、方位を間違うなよ!』
厚い煙が友軍機を包み込んで隠す。追いかけるようにHWがフェザー砲を撃つが、当たらない。電子戦機と煙幕の援護で回避はかなり楽になっていたのだ。
――しかしその中でただ一機。
右端の戦闘機だけが、――煙幕の中に入れない位置を飛行していた。
「まずいですわ! どなたか右翼機の援護をお願い致します!」
「了解です、私が行きますわ」
まり絵の要請にクラリッサが応える。右翼を全て黒く塗りつぶしたシュテルンがブーストして右翼機のカバーへ。AAMを撃ち放って直近HWの注意を引き付けると、そのまま右翼機への進路を妨害する形に接近する。
「さて、しばらくダンスに興じて頂きますわよ。‥‥もっとも私のダンス相手にはてんで役者不足ですけれど」
そう言って不敵に敵を阻むクラリッサ。
だが右翼機を狙っていたHWは――その一機だけでは無かった。
『うわぁぁッ! もう一体がこちらに接近中、狙われています!』
通信機から上がる悲鳴。シュテルンの横を高速で通り過ぎていく一体のHWに、クラリッサの表情は険しく曇る。
しかし、そちらを止めようとすれば今自分が相手している敵にも抜かれかねない。フェザー砲を回避しながら、クラリッサはどうしようも無かった――。
拡散フェザー砲撃が右翼機に突き刺さる。
『ツッ‥! ホース2後部被弾、第一エンジン完全停止! まだ飛べますが、これでは次を避けられません! ――もうダメだ、スピードが出ないッ!』
そう叫ぶ側から迫るHW。次を被弾すれば確実に落ちるが、回避機動を取れるほどの推力も得られない。詰み。ホース2の頭は真っ白になって操縦桿を握る力も無くなる。視界の端で、HWの機体が大きく揺れた――。
「諦めやがるな! です。
シーヴ達が必ず食い止めやがるですから、
とにかくUPC軍空域へ戻る事を一番に頑張りやがれ、です!」
頭が殴られたような大音声が鼓膜に響く。その側から激しい銃弾の雨がHWに降るのが見えた。
「その通りです、私たちに任せて下さいっ! ここから先へは行かせない‥‥もぅ奪わせない‥!」
綾乃機もブーストで駆けつけて助けに入り、高分子レーザーは天使の槍のようにHWへ突き刺さる。
その二機に撹乱され、HWのフェザー砲は虚しく空を貫いた。
ホース2の手に力が篭もる。右翼機が二人の励ましに応えて一直線に飛行を再開した――。
「行かせるか――、さぁ死神とダンスだ!」
「失礼な方ですわね、目移りしていますわよ――!」
同じくKV部隊の突破を試みるHWに対して、咲とクラリッサは攻撃を加えて妨害する。
HW群とKV隊がもつれ合うように進む。激しい光条と火線の応酬が一直線に走りながら行われた。
「動きが鈍いな‥前の相手とのダンスで疲れたか? だがこちらは遠慮を知らないぞ‥!」
リディスが放つ荷電粒子砲。プロトン砲にも負けない大光条はHWを直撃、装甲を大きく融解させた。しかし、リディスはそこで攻撃の手を緩めると、前方の友軍機へ煙幕装置を撃つ。KV部隊の妨害で少し距離が離れたものの、まだまだHWの射程圏内である。リディスは優先順位を間違えなかった。
「早々抜かせないわよ‥‥」
さらにすぐ横で敵と相対するマリア機。慣性制御で抜きにかかるHWに対し、雷電は超伝導アクチュエータを使用して進路を阻む。
しかし見事に防がれたHWは、腹いせとばかりにフェザー砲、さらに淡紅色の巨大光線を直線上に撃ち放った――。
「――プロトン砲、D飛空部隊避けて下さい!」
『了解ッ!』
まり絵が叫ぶと同時、射線上に入っていた戦闘機が散開した。大光線は煙を貫くが――そこに戦闘機の機影は無い。被弾はマリアが体を張って受け止めた二撃のみ。
左翼ではリーゼロッテが敵を仕留めに掛かっていた。AAM、そしてトドメのG−02をHWに直撃させるのと、同時。
――爆炎を上げるHWの砲口は、最後に赤く閃いた。
「プロトン砲ッ‥!」
叫ぶと同時、ディアブロは光に包まれる。
『ドック4回避! ‥‥被弾機無し!』
『攻撃を知らせてくれたアヒルは大丈夫か!?』
その声に応えるようにリーゼロッテ機は光条の中から姿を見せる。
ホッと胸を撫で下ろすパイロット達。ただ、そのディアブロのアヒルエンブレムは黒焦げに変わっていた。
しかしKV部隊の網の中からふいにHWの一機が抜けた。
そのまま高速でD飛空部隊に追いつくとフェザー砲を発射、戦闘機に命中させる。
『クソッ! ドック3被弾! 左翼一部破損、エンジンに異常発生。奇跡的にまだ制御できるが‥‥、スピードを上げたら分解しそうだッ‥!』
必死に操縦桿を握るドック3。しかし、激しい減速によって背後のHWをとても振り切れそうに無い。死の気配に絡み取られていくように感じた。
「どこで油を売っている? 貴様の相手はこの私だ‥!」
そこへ黒虎のディスタンがブーストで駆けつける。ドック3に付くHWへ荷電粒子砲を二度砲撃する。激しい光条がHWを包み、装甲が剥がれて内部機関がむき出しになった。激しいスパークを上げながら、しかしそれでもフェザー砲を構えて――。
「お前達に‥全てを奪う権利などない!」
突然、遠い反対側から天使エンブレムのアンジェリカが飛来する。
超高速で敵に体当たりしそうなほど至近をすれ違うと、その剣翼がHWを真っ二つに切り裂いていた。
最後に放ったHWのフェザー砲は――、交差した綾乃機を微かに焦がして終わる。
「風穴、いっぱい開けてやるですよ」
綾乃機に任せられてホース2を守るシーヴ機は、激しい応酬を繰り広げる。ガトリングを撃ち放ち、弾が切れるとリロードする暇も惜しんでスナイパーライフルを一射した。
その猛攻にHWは破片と火を噴き上げる。ゆっくりと落ちながらもそのプロトン砲口が遥か前方の戦闘機を向く――。
その砲身を寸断する赤いソードウイング。
逆方向から飛来したリーゼロッテ機によって、HWは大破した。
「交戦空域中央、煙幕展開しますわ」
中央では、まり絵が温存していた煙幕銃を使用する。
すぐさま濃霧のような煙に包まれるHWとKV。それでもまり絵はレーダーを頼りにAAMをロックオン、白い弾頭をHWに命中させる。
しかし爆発した黄色の光の中から、反撃のフェザー砲が乱れ飛ぶ。まり絵機被弾、ウーフーの装甲板が剥がれて落下した。
それが合図だったかのように、KVとHWは煙の中で熾烈な戦闘を繰り広げる。
マリア機がガトリング弾とフェザー砲撃を交換し、クラリッサ機はAAMからレーザーを撃ってドックファイトに移行。そして咲機は一撃離脱法で敵の行動を掻き乱した。
残りHWは中央に三機だけ。しかも傭兵部隊の妨害によって、D飛空中隊との距離は少しずつ開き始めている――。
しかし、ここにきてHW達は焦るように加速した。
それに離されまいとするKV群。
そしてD飛空部隊の前方には――UPC基地が薄っすらと見えていた。
『基地だ! 帰って来たぞ!』
『頼む、俺達を全員無事に帰還させてくれ!』
「もちろんだ‥!」
咲が加速し始めたHWに追いついてレーザーを撃つ。被弾するHW。
しかし構わず戦闘機に接敵しようとするHWの前方を――マリア機が立ち塞がった。
「行かせないって――言ってるでしょ!」
二機は激突しかねない勢いでレーザーとフェザー砲を交換。そのまま絡みつくようなスレスレの距離を維持する。
さらに別の場所では、まり絵のレーザーとリディスの粒子砲で前後から挟まれ、HWの一体がロクに反撃もできずに撃破された。残り二体。
リーゼロッテ機がブーストで中央に戻ってくるとHWにソードウイング。さらに連携して、クラリッサが螺旋ミサイルを発射する。
「アズリエルの裁きの刃をその身で味わいなさい!」
クラリッサの言葉と共に螺旋弾頭が標的のHW後部に深く食い込み――そのまま爆散して大量の破片と化した。
「残り一体!」
「‥‥これで決めますっ!」
綾乃機が放った無数のロケット弾が、最後の一体を包んで――轟音。
HWは、火を噴いて地面へ吸い込まれて行った――。
「どうやら無事に、脱出出来たみてぇですね」
シーヴが敵が残っていない事を確認して、一息つく。
咲はそれに頷きながら、全速力で撤退する友軍に交信した。
「HW全機撃墜。もう大丈夫だ、D飛空部隊」
途端にヘッドホンから爆発したような歓声が上がり、戦闘機群は大空を散開する。
『すげぇ、生き延びたぜ俺達!』
『ざまぁみやがれH・W!』
『イーーーヤッホォォーー!!』
興奮冷めやらぬ声が延々と続く。
しばらくその交信が続いた後――、
「‥‥みなさん、提案があるのですが」
ふいに、まり絵の声が響いた。
UPC軍基地上空。
そこへ8機のKVと13機の戦闘機が、編隊を組んでゆっくりと進入してくる。
『良く戻ってきた、D飛空中隊、及び傭兵部隊。まずオマール部隊から着陸を許可する』
その管制塔の言葉を遮るようにして、D飛空部隊の先頭機は通信に声を乗せた。
『全く散々な旅だったぜ。だがもう少しだけ着陸は待ってくれ。
‥‥おいドック3、ホース2。先に着陸するか?』
『やるに決まってるさ』
『仲間外れは無しですよ』
被弾して煙を上げる二機は答える。まだしばらく飛行するつもりのようだった。ホース1は頷く。
『そうか‥‥。――ではホース1より全機へ、これより追悼飛行を実施する。
ホース1、上昇』
『了解。ドック2、上昇』
『了解。オマール5、上昇』
編隊飛行する21機の中から、各部隊を代表した三機が天へ向かって昇っていく。
落ちた戦友の魂が天国まで迷わないように。
仲間が地面に縛られないで済むように。
「‥空に散った魂に‥‥せめてもの安らかな眠りを」
「私達が‥もっと早く来ていれば‥ご冥福を‥」
そう呟き、黙祷するリーゼロッテと綾乃。各々がそれぞれの想いを込めて、もう二度と会えぬ仲間に空で別れを告げた。
見れば遥か眼下でも、整備員が、待機搭乗員が、オペレーターが、指揮官が――彼らに厳粛な敬礼姿勢をとる。
朱に染まり始めた大空を背景に、白い尾を引く21機がゆっくりと周回していく。
それを何周かした後で――式は終わりを告げた。
『よし、これにて追悼式は閉会。‥‥これだけやればアイツらも満足だろう。ったく、こんなトコで死にやがって‥‥バカ野郎どもが‥‥』
『見事なフライトだった、D飛空中隊及び傭兵部隊。下では酒と食事の準備が出来ている、全員で祝おう。君達の帰還と――仲間の新しい旅立ちを』
管制塔の言葉にパイロット達が沸き立つ。
『傭兵の皆さんも付き合ってくれるんでしょう?』
『バカ、当たり前だ。おい聞け、操縦は負けても酒じゃ負けないぜ』
矢継ぎ早に入る通信には傭兵達も思わず苦笑した。それでもその誘いを断る者は居らず、全員が夕食をご馳走になる事を快諾する。
こうして21機は地上へと降り立ち、今日の戦場に別れを告げたのだった――。