タイトル:【NF】新部隊、初任務マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/17 23:11

●オープニング本文


 乾燥した赤土を舞い上げる砂埃。
 なだらかな山が遥か遠くにそびえ立ち、雄大な大自然に取り残されたかのような場所。
 ――ワイオミング州。
 アメリカ西部に位置し、バグアとUPCが頻繁にぶつかり合う前線競合地帯。人口密度1キロ平方メートルに約2人、そこに居る住民は顔見知り以外と会う方が珍しいという田舎州ではあったが、その後方にはUPC支配地域のアイダホ州とモンタナ州、さらに奥にはワシントン州が構えている。
 ここを敵に抜かれれば自然、戦場は山や荒原から徐々に街の中へと移行していく事になり、いわばワイオミング州は人類の平和を守る為の前線拠点の一つだった。

 砂っぽい空気にオイルの匂いが混じる。
 州中央に位置するナトロナ郡、その中でやや南東に位置する最大都市『キャスパー』。
 UPC軍はそこの基地を本拠に最南部、堕した町『アルコヴァ』から北上してくるバグア勢力と戦闘に明け暮れていた。
「――ロッキー第三臨時基地よりこちらへ異動となったライト・ブローウィン少尉です。ただ今到着いたしました」
 ナトロナ基地司令部にライト・ブローウィン(gz0172)少尉が姿を見せる。彼はロッキー山脈付近で巨大キメラ掃討の任に当たっていたが、その終了と同時に第三臨時基地は解体、この前線基地に異動となったのだった。
「ご苦労ライト君、まぁ楽にしてくれ。ナトロナ基地は総出を挙げて君を歓迎する。
 さて、早速だが少尉には第五機甲中隊の副隊長の任に付いてもらおう。そこのヒータ・エーシル大尉が同隊隊長、つまり君の直属の上官に当たるというわけだ。‥‥彼女もこの基地に配属されてから日が浅い。二人で協力しながら任務にまっとうしてくれ」
 司令部の司令官が横柄な口調でライト少尉に語りかける。その話し振りや言葉の端々から何となく嫌な予感がしたが、ライトはそれをおくびにも出さず体の向きを変えた。
 自分の上司となるヒータ大尉を真正面に見据えると、敬礼を送る。
 大尉は敬礼を返しながら涼やかに微笑んだ。
「よろしくね少尉。頼りにしています」
「ハッ、全力を尽くします」
 こちらの上司に問題は無さそうだ。だが、問題は――。
「‥‥あー、そうそう。一つ言い忘れていた事があった」
 こちらの上司だった。
「はっ、お伺いしてよろしいでしょうか?」
「うむ。君の所属する第五機甲中隊‥‥長いからイカロス隊と名付けているんだが、その部隊だ。ウチでは一つの中隊にKVが十機配備されるんだが、君の所には二機しかなくてね」
「二機‥‥」
 それはつまり、大尉と自分の分だけという事である。これはいよいよ嫌な予感が的中した、と痛感するライト。
「だが心配しなくて良い。代わりに通常兵器‥‥戦車や戦闘機を多く回しておいた。また、任務内容によっては傭兵戦力の使用も許可している。君達はこれを上手く運用して与えられる任務を遂行してくれ」
「はっ、‥‥了解しました」
 思わず気の抜けた返事をするライト。
 それを目敏く見つけ、副司令官がこの新参少尉を睨めつける。
「‥‥司令官の決定に不満か?」
「いえ、とんでもありません! 素晴らしい待遇に感謝しております」
 精一杯の皮肉だったが、司令官は満足そうに頷いた。

「それでは――」
「偵察部隊『ホークスアイ』より入電、敵襲です!」
 突如、部屋の一角で電子機器と向かい合っていたオペレーターが叫び声を上げる。全員の注目がその一点に集まった。
「襲撃だと? 良い度胸だ、敵詳細を報告しろ」
「了解! 敵HW9CW10で編隊を組んだ二個部隊が方位230、200から北上中。進路から察するに、狙いはキャスパー中枢及びここナトロナ基地、到着予想時刻は約二十分後の1420時!」
 急襲報告を聞きながらも、しかし司令官は全く動揺を見せなかった。むしろ余裕の表情でライトを振り返ると、唇の端を吊り上げて口を開く。
「運が良い。君は新任早々任務に恵まれたようだ」
「‥‥‥‥」
 まさかKV二機で出撃しろとでも言うつもりなのか。ライトの背中に冷や汗が流れる。
「第五機甲中隊に出撃を命じる。ナトロナ基地に北上してくる敵一個部隊を撃破せよ。‥‥ただし今回は初出撃であるし、敵に対して戦力不足は否めないので傭兵の使用を許可する。共同で敵に当たれ」
 傭兵と共同で、と聞いて内心安堵するライト。そこまで無茶は言われなかったらしい。
「ハッ、了解」
「了解!」
 ライトと同時にヒータ大尉も敬礼する。
 頷いて司令官は体の向きを変えると、オペレーターの一人に命令を出した。
「キャスパー方面の敵部隊に関してはレッドバードを出撃させろ。キャスパー市民にHWの影すら見せるな」
「‥‥レッドバード?」
 司令室から退出しながら、ライトは聞いた事の無い単語を怪訝そうに繰り返す。
 前を歩くヒータ大尉がそれを聞きつけて振り返った。
「このナトロナ基地のエース部隊です。彼らのお陰で優勢に戦闘は進んでいて、司令部からの信頼も厚い‥‥。まぁ私たちは私たちの任務に専念しましょう」
「なるほど、了解です」
 ライトは頷き、そしてふと自分の上官へ質問してみた。
「‥‥ところで、大尉はここへ来てまだ日が浅いと聞きましたが、ここに来る前はどこで?」
 言うと、ヒータ大尉は少し顔を赤らめて俯いて、
「えと‥‥実は内勤でした。パイロットになったのは最近で‥‥これが初任務になりますね。ですから傭兵の皆さんに作戦案を提出して頂こうと思っていたり‥‥」
 と、言い難そうに告白した。
 笑顔が少し強張るライト。基地内に響くエマージェンシーコールは鳴り止まない。
「俺もそれが良いと思います。‥‥一緒に頑張りましょう」
(「まぁ‥‥なんとかなるさ」)
 傭兵の実力を知っているライトは自分に言い聞かせたのだった。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

「KV格納庫A1からA4まで解放! レッドバード01から07最終チェック異常無し! 第一機甲中隊、出撃せよ!」
『了解。レッドバード、出撃』
 殺風景な赤土。その中に建つ基地から、轟音を響かせて七機のS−01Hが空へ舞い上がっていく。
 このナトロナ戦線において最も華々しい功績を上げるエースKV部隊――『レッドバード』。
 ‥‥その真っ赤な七機は、兵士達の羨望の眼差しを浴びて南東へ飛び立っていった。

「KV格納庫M1からM5まで解放! 第五機甲中隊機の最終チェック!」
 ズラリと並ぶ十機のKV。
 勿忘草色、ガンメタル色などの自由なカラーリング、桜、天使、すずらんなどのエンブレムを付けて個性を出す機もあれば、買ってそのまま機。
 しかし、ここまでてんでバラバラの機体で編成する部隊というのも珍しいあろう。
 それもそのはず、第五機甲中隊は傭兵主力の部隊なので、多様性があるのは当然の事だった。
「初任務、なんだって? それはぜひとも白星で飾ってあげないとね。
 という訳で、頑張って仕留めに掛りましょう!」
 ナイチンゲールに乗り込みながら元気良く声を上げる依神 隼瀬(gb2747)。
 その明るさにつられて、部隊長を務めるヒータ大尉は微笑んだ。
「よろしくね隼瀬さん。ふふ、ちょっと緊張がほぐれました」
 やはり初の実戦とあってそれなりに緊張しているらしい。
 そんな大尉を横目に見ながら、クリス・フレイシア(gb2547)は入念に電子系統をチェックする。
「初陣か‥‥。苦い思い出にならない様、華々しいものにしたいね。敵に有人機がいないからといって、手は抜く訳にはいかない」
「そうですね。大尉の部隊は通常戦闘機が多めの編成‥‥HWの相手はやはり厳しそうです」
 夕凪 春花(ga3152)は閉じていくキャノピーを見上げながら思案げに呟く。
「ライトさんも、新任早々大変な事態になったものですね〜‥」
 ファイナ(gb1342)が声を掛けると、ライト・ブローウィン(gz0172)少尉は眉をひそめて肯定した。
「全くだ。慣れない事だが、‥‥やるしかない」
「難儀だねぇ? ま、何時だかのドラゴンに比べりゃ何てこた無ぇから、気を楽にして行こうや」
「ああ。今回も頼りにしている、ウインドフェザー」
 何度か共同で任務をこなした事がある風羽・シン(ga8190)が軽く手を振るのを見てから、ライトは機上でのチェックを終える。
 整備員達もチェックを完了した機から大声で伝えていった。
「‥さって♪ ひっさびさの空戦〜心躍りますね〜♪」
 ヴァシュカ(ga7064)が水色のアンジェリカを転がしながら、ワクワクした声を上げる。
 出撃準備完了。
 十機は格納庫を出て、――陽光の下に姿を見せた。
『離陸許可確認。それでは‥‥第五機甲中隊、出撃!』
 ヒータ大尉の号令の下、十機は格納庫から直接繋がっているKV用滑走路を加速する。
『グッドラック、イカロス隊』
 管制塔の声を背後に、戦闘機とKVの混成部隊は南へ機首を向けた――。

「イカロスか。嫌な名前を付けられたもんだ」
「ん、そうかな‥‥そんなに悪くないと思うよ」
 ライトの溜め息に、サンディ(gb4343)が想いふけるように呟き返す。
「イカロスは太陽に挑んで落ちてしまったけど‥‥、でもその勇気は賞賛に値するよ。こんな時代には‥‥ピッタリだと思うな」
 そう言ってサンディは天を見上げる。
 どこまでも青い空の向こう、赤いバグア遊星がそびえるように佇んでいた。
 つられて見上げたヒータも、視線を戻すと小さく頷く。
「そうね‥‥、そう言われると悪くないかもしれない」
「まあ、私達は墜ちないように、ね?」
 サンディの言葉に、ライトは微笑みを浮かべて声を掛けようと――。
 突如レーダーが沈黙。通信に激しいノイズ。
 ――ジャミング。
『‥さて‥いっちょやりますか‥ウインドフェザー、‥よろしく頼むぜ』
『ああ‥、軽く‥ひねって‥るか』
 ウーフーに乗る桜崎・正人(ga0100)がカウンター・ジャミングを開始していた。電子装置が一応の回復を見せる。
『では‥HW1CW6を‥貰えば‥良‥んですね!?』
『そうです‥、HW‥はK‥を主軸に‥戦ってくださいっ‥!』
 ヒータの確認に春花が応答。
 直後、進行方向に虫型の機影と青いサイコロがハッキリと見えた。敵も砲口をこちらに向けて射撃体勢に入っている。ヒータ隊ダイブ。
 同時に――戦端は開かれた。

「‥隊長さん、何事にも場のツカミってのが必要だと思うんですっ。‥と〜いうわけでっポチっと♪」
 空に溶けそうな勿忘草色のアンジェリカがブースト先行、密集するHW群に向けて500発のK−01ミサイルを一斉発射した。
 既にヴァシュカはCWの射程内だったが、怪電波が届いていないCWも居るらしく影響は微弱。
 おかげで発射されたミサイル群はほぼ全てが命中、絶え間ない小爆発を空に巻き起こした。
「夕凪さん、援護をお願いします‥」
 僚機に声を掛けてファイナはブーストオン、S−01Hは敵陣の奥深くに潜り込む。シン機もそれに続き、隼瀬機はロケット弾の届く距離まで前進、後衛を合わせた全機が攻撃を開始する。
 ――同時にHWのプロトン砲も空を焦がした。
 激しい火線と光条の応酬。しかし、ヴァシュカ機含む前進したKVはCWの影響によって著しく命中・回避が低下している。撃ち合いはHW側に優勢に傾いていた。
 他方、サンディ機だけはCWに向かった為に敵の射線から外れていたが‥‥しかしやはり、攻撃となると怪電波の影響でまともに命中させる事が出来ない。
 HW達は悠々と砲撃、KV各機は被弾して装甲を焦がしていく。

『‥敵‥‥分断しま‥したッ‥!』
 降下していたヒータ隊が隙を付いて反転、敵後方を襲撃してCW6機とHW1機を分断。
 傭兵側に残ったCW四体へも水色のアンジェリカが接敵する。
「‥頭痛のムシは早めに駆除が肝心なんですよね〜」
 スラスターライフルの銃撃がCWを激しく揺らし、そこへ連携するサンディがアグレッシヴ・ファング起動、強烈なエネルギーをはらんだガトリング砲弾がCWを貫通、――大破させた。
「CWを一体撃破!」
 サンディの言葉に呼応するように、正人機のスナイパーライフルは雷鳴のような銃声を上げる。
 それに被弾してのけ反るHWの後方から、僚機のシンが襲い掛かった。タイミングは完璧。命中は必至――、
「‥‥あぁ!? どうなってんだ!?」
 しかし撃ち出されたのは――通常よりずっと希薄な高分子レーザー。
 知覚兵器はCWの怪電波に妨害されるため、ほとんど使い物にならない状態になっていたのだ。
『‥全員、知覚兵器は‥使うな! ‥無力化されてんぞ‥!』
「あ、そうなんだ‥。了解、と!」
 隼瀬はシンからの通信を聞いて兵装変更、HWへ127mmロケット弾を連続発射。同じ敵へ別方向からクリス機も狙撃する。
 すぐ隣でも春花、ファイナロッテが別の敵へ攻撃、HW二体を牽制していた。
 ‥‥しかしそれらの攻撃も前衛はCWの妨害で、後衛はリロードが重なったために打撃力に欠いた。直後、HW達による苛烈な反撃が空を赤く染め上げる。
 隼瀬機とシン機の装甲が削げ落ち、レッドアラートが明滅する。損傷率75%オーバー。
 光条を避け続けていたファイナ機ホワイトナイトも、HW四体目が放ったフェザー砲にとうとう直撃、主翼装甲が溶解。
 そして敵陣奥でも――、
「気をつけろ、狙われている!」
 サンディが叫ぶのと同時、HW二体のプロトン砲口が輝きを放った。
 ヴァシュカ機、サンディ機、被弾。特にサンディ機は――装甲の約70%を削り取られていた。

『CW四体目‥撃破! 残り二体です!』
『よし、良いぞ‥! HWはこっちに‥任せておけ!』
 ヒータ部隊が通信に声を乗せる。傭兵側が掲示した作戦のおかげで被撃墜も無く、彼らの戦闘は優勢に進みつつあった。
 だが代わりに傭兵達の戦闘は厳しい。損傷率70%機が三つ、50%機なら五つにものぼっている。‥‥引き換え、敵撃墜はCW一体のみだ。徐々に全員の焦りは高まっていく。
「逃がしはしないッ!」
「‥落ちて下さいねー」
 サンディ機とヴァシュカ機がガトリング、スラスターライフルの砲撃を横薙ぎに降らせる。CW二体がそれらを被弾、爆発した。
 残るCWはあと一機。
 だが、――HWは全機が残っていた。
「‥劣勢ですね、敵の注意を引き付けます‥」
「了解。ストライプ、援護します」
 ファイナ機が敵の後衛へ向かうのを、春花機がスナイパーライフルで援護する。
 敵のプロトン砲はそろそろ打ち止めらしい。しかしそうなるとフェザー砲の射程の関係上、後衛四体のHWに狙われるのはヴァシュカ機と、――黒煙を上げるサンディ機。それは不味かった。
「回避‥‥当たるわけにはいきません‥」
 S−01Hは敵陣に突っ込んで牽制しながら、後衛HWの砲撃を自分に引き付けていく。
「クリス隼瀬ロッテ、――HW二機撃破!」
 一方、前方ではハイマニューバを使用したナイチンゲールとバイパー改の狙撃が、HW二体を穿ち、ロケット弾の小爆発で敵を粉砕した。
 HW達は小爆発を起こして大地へ吸い込まれていく。
 さらに別のHWへもシン正人ロッテが連携攻撃によって着実にダメージを与えている。
 損傷率が上がっているのは傭兵側だけではない。むしろ、最初に音を上げたのは敵の方だった。
 ――しかし、それでも光条の雨は止まない。
 後衛春花だけは回避するが、それ以外の各機は光条に包まれる。ファイナも七回避した末にとうとう被弾。
 ヴァシュカは身を呈してサンディ機への射線を塞ぐが、三被弾して――機体のバランスが崩れた。
「あ、マズイ‥‥」
 呟いたヴァシュカの瞳に、自機の隣をすり抜けるフェザー砲が見えた。その先に居るのは――黒煙を上げるR−01改。
「くっ! ラージフレア展開、回避機動――」
 サンディは砲撃にすぐさま反応しようと操縦桿を握る。
 しかしそれは、CW怪電波によって一瞬だけ遅れていた。ほんの刹那の間。
 ――それが致命的な遅れだった。
 機体を襲う激しい衝撃。フェザー砲がR−01改を貫き、――主翼を根元から粉砕。
「被弾! 機体制御不能‥すまない、脱出する!」
 機体の回転に合わせてサンディは緊急レバーを引く。脱出ポッド射出。
 サンディ機、――墜落。

 ヴァシュカのバルカンが最後のCWを叩き落とす。それと同時、ヒータ機から通信が入った。
『R−01改が――彼女は脱出を!?』
「ああ、それは大丈夫だ。‥ったく、HWが。コイツの味を噛み締めな」
 正人機ウーフーが吼える。高速で放たれた弾丸がHWに直撃、火花を噴きあげた。そしてその背後から――、
「これで終わりだ、逝っちまいやがれ!」
 高速で通り過ぎたシュテルンのソードウイングがHWを両断。敵は黒い液体を撒き散らして――爆砕した。
 HW残り五体。
 突進してきた一体のHWに、クリスのバルカンが、隼瀬のロケット弾が前後から命中する。
 しかし、両方に被弾しながらまだ健在のHWへ、――シュテルンが振り向いた。
「落ちて!」
 春花機から放たれたレーザーが虫型の機体を貫通、直後に爆発。瞬く間にHW二体を撃破。傭兵達はまさに破竹の勢いだった。
 事実、仲間を落とされた彼らは、まるで獲物を狩る狼のように苛烈な攻撃でHWを一体、また一体と落としていく。
 徐々に、しかし確実に。――旗色は明らかになりつつあった。

「ミサイル、全弾発射する」
 クリスが呟き、バイパー改が白煙を上げるミサイルを打ち出した。その斜め方向からも隼瀬機のロケットを発射。
 狙われたHWはその二つを同時に被弾、外殻が吹き飛ばされた。
「‥そろそろ落ちて下さいね〜」
 トドメに放たれたヴァシュカ機の高分子レーザーが、HWの中枢を貫通――爆破させる。
「いい加減、目障りだぜッ!」
「同感だな」
 他方、シン機と正人機が叩き込む連撃。ライフル弾、ミサイル、レーザーがHWの表面を直撃し、破片を舞い上げた。
「これで仕留めるっ!」
 HWはまだ落ちていない。そう瞬間的に判断して、敵の破片が落ちるより早く操縦桿のスイッチを押す春花機とファイナ機。
 G放電、ミサイル、スラスターライフル弾がHWに連続命中、今度こそHWを粉々に粉砕する。敵が最後に打ち上げたフェザー砲が――天上の雲を切り裂いた。
 その断末魔を眺めながら、ファイナが通信に声を乗せる。
「‥HW撃破‥‥これで敵掃討完了です」
『こちらも敵殲滅。被撃墜KV1機、ライト少尉がポッドの回収に向かっています。‥‥無事で居て、サンディさん‥‥』
 祈るように呟くヒータ大尉。
 ‥‥その通信から五分後、ライトがポットを発見してサンディの生存を確認。
 第五機甲中隊は安堵に包まれて帰還した――。


 帰還後。
 パタン、と司令室の扉を閉めた後、ヒータ大尉は大きく息を吐いた。
 隣でライト少尉も顔をしかめる。
「初任務でこの成果なら大成功だと思うんだがな。まったく、小言小言‥‥二言目にはレッドバード、か」
 任務は成功したので叱責こそ無かったが、代わりにグチグチと嫌味をたっぷり聞かされたのだ。戦闘機ならともかく、KVを大破させたのが司令官には気に食わなかったらしい。
 溜め息を吐きながら二人は廊下を歩き出した。

 夕刻、軍病院の一室。
「‥‥サンディさん、傷はどう?」
 サンディの見舞いに訪れたヒータとライト。
 そこには今回依頼に参加した傭兵達の姿もあり、当のサンディも大した傷では無かったらしく、少し申し訳無さそうな笑顔で頷いた。
「うん、もう大丈夫。だけど私、落ちてしまって‥‥」
「まぁ仕方無いさ。手を抜いて落ちたわけじゃ無いんだ」
 ライトが苦笑して言う。サンディを包むみんなの空気は暖かかった。
「‥そういえば、今日紅茶シフォンが旨く焼けたんです。みんなでどうです〜?」
 ヴァシュカがニコニコと手荷物からシフォンを取り出す。
 それを見て大喝采で迎える傭兵達。そして自然、わいのわいのと病室の一角ではちょっとした祝勝会が開かれた。
 春花やファイナがコーヒーを作り、隼瀬はとても美味しそうに、正人はまぁ美味しそうに、クリスは淡々とケーキを頬張たりする。
「‥‥今後この隊が中枢になるか、味噌っカス扱いされるかは御二方次第だからしっかり頑張んな。ま、必要とあらば手は貸すからよ」
「ああ、助かる。‥‥またよろしく頼む」
 シンの言葉に、ライトは顔を綻ばせて頷き返す。
 その隣でサンディが、思い耽るようにコーヒーを啜った。
「‥‥イカロスは、本当は希望の明日へ飛ぼうとしたんだって、‥‥私はそう思う。彼には出来なかったけど、代わりに私達が引き継いで行こうよ?」
「‥‥そうね。イカロスも‥‥悪くないかな」
 ヒータの考えるように呟く声。
 そんな時間も、ゆっくりと流れていき。
 基地に明かりが灯り始めた頃、彼らの祝勝会も終わりを告げたのだった――。