タイトル:【DR】制空【NF】マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/28 10:07

●オープニング本文


 UPC北米中央軍司令部は極東ロシア方面への派兵を決定した。
 すぐさま北米は海空を連動した大規模な派兵計画を立案。ユニヴァースナイト弐番艦を現地へ向かわせる事も決定し、計画はすぐさま実行に移される。
 もちろん、この作戦が遂行されるのを指をくわえて待っているバグアでは無いだろう。
 予想される障害はシンプルで厄介なモノだ。

 ――ワイオミング州ナトロナ基地。
 北米の西側、荒涼とした大地に佇むその中規模な基地で、そこに所属するライト・ブローウィン少尉とヒータ・エーシル大尉が司令室への出頭を命じられた。
 ナトロナは田舎州ではあるが、それでも北米本部が最近慌ただしいのは二人とも知っている。そして、そんな噂を聞いていた折の出頭命令。
 司令室の扉をノックしながら、まさかな、と懸念を払いつつライトはドアノブに手を掛けた。
 そして押し開いた視界の中央には、司令官が尊大にふんぞり返っていた。
「やっと来たか。‥‥うむ、楽にしてよろしい。
 さて諸君、良く集まってくれた。早速君達に任務を与えるわけだが‥‥、まず言っておく。非常に重要な任務だ。ナトロナ基地の名に恥じない働きをするように」
 なるほど、とライトは思う。
 司令室には先客として二人の士官が姿を見せていた。このナトロナ基地でエースの異名を取るレッドバード隊の隊長と副隊長。そして、司令官の重々しい口調。
 先ほどの『まさか』は、見事的中したようだ。
「君達も小耳に挟んだかもしれんが、いま極東ロシアにおいてバグアとの緊張が高まってきておるらしい。そこで我が北米中央軍は援軍を送る事を決定した。
 ‥‥我々はその下準備をする事になる。地味だが、ある意味では一番危険かもしれん」
 重々しい声で頷く司令官。
 思わず溜め息を漏らしそうになる口を、ライトは必死に引き締める。
「今回の作戦において、北米から航空輸送機団、UK弐番艦、海上輸送艦隊がロシアに向かう事になる。諸君らの目標は――どれの護衛でも無い。輸送機団、及び弐番艦の航路上の制空権を確保する。つまりバグア迎撃機を該当空域から掃討する事にある」
 そう言って司令官は全員を手招きし、デスク上の地図に指を置いた。
「目標はチュコト海上空域。
 輸送機団、弐番艦の空路と重なり、ロシア本土からのバグア迎撃が予想される。ナトロナ第一機甲部隊『レッドバード』、第五機甲部隊『イカロス』は輸送部隊に先行してここへ到着、その後に可能な限り敵勢力を排除せよ。後からくる輸送隊が退屈過ぎてあくびするぐらいにな。分かったか?」
「了解です、司令官」
 レッドバード隊長が事も無げに頷いてみせる。
 まるで機械のように感情を見せない瞳。副隊長は女性パイロットであり、ライトとヒータの関係とは正反対だった。
「‥‥返事が無いが、イカロス隊も分かったんだろうな?」
「あ、はい、了解!」
 ヒータ大尉が慌てて返事する。どうやらライトと同じく、レッドバード隊長に気圧されていたようだ。
 そんなヒータを見て司令官は不満そうに顔を歪めた。
「良いかイカロス隊長、君は絶対に落とされるなよ。せっかくの最新鋭機を無駄にされては困る。‥‥あぁ、ついでに言っておくと撃墜されたら真下は氷海だ。救助は間に合わんかもしれんから気を付けてな」
 司令官は台詞の前半部分にだけ力を込める。
 ヒータは青ざめた顔で返事した。
「よし。では任務開始は明日の明朝五時だ。レッドバード隊、幸運を祈る。‥‥それとイカロス隊もな」
 そうわざとらしく言い放った司令官へ向けて、ライトとヒータは敬礼で応えて退室した。

「すみませんでした‥‥、少尉」
 食堂で食事をしながら、ヒータ大尉はしょんぼりとうなだれる。
 対面でパンを齧るライトは苦笑しながら首を振った。
「いえ、お気になさらずに。あの程度よくある事ですし」
 その言葉通りライトはあまり気にしていなかったのだが、逆にヒータの方が少々凹んでいた。
「そう言ってくれるとありがたいんだけど‥‥はぁ」
「‥‥あー大尉、まぁ任務に集中しましょう。とにかく可能な限り敵と交戦して無事に帰還すれば良いわけです。今回は戦闘機の代わりに傭兵部隊との共闘ですし、それほど難しい任務ではありません」
 ライトが必死にフォローに回る。
 その甲斐あってか、ようやくヒータに笑顔が戻りだしてホッと安堵しかけた時‥‥、おもむろにライトの隣へ誰かが腰を下ろした。
 驚いて反射的に振り返るライト。
 そこに座っていたのは――先ほどのレッドバード隊長だった。
「‥‥この少尉の言う通りだ。君達は適当に交戦して‥‥さっさと撤退しろ」
 突然、何の躊躇いも無くそんな事を言い放つ相手に、ライトとヒータは一瞬硬直した。
「え‥‥? 何を‥‥」
 唖然とするヒータが質問しようとするのを遮って、更にレッドバード隊長は口を開く。
「元々、‥‥君達はここの第一線部隊に数えられていない。今回の派遣は数合わせのようなものだ」
「待って‥‥下さい。さっきから何を――言ってるんですかっ!!」
 激昂したヒータが両手でテーブルを叩き付ける。その激しい音が響いた後、食堂は一気に静寂に包まれた。
「あー大尉‥‥」
「――隊長」
 ライトの声と相手の副隊長の声が被る。
 部下の言葉を聞いてレッドバード隊長は無言で立ち上がった。そうして静かになった食堂の出口へ淡々と歩き出す。
 ――しかし食堂を出る直前、隊長は立ち止まって軽く背後を振り返った。
「‥‥あの後、俺達にはノルマが出た。――――HW三十機だ」
 そう言い残して彼らの背中は廊下に消える。
 直後、食堂にざわめきが起こった。
「HW‥‥三十機」
 ヒータが呟く。
 レッドバードの二人が消えた出口をボンヤリ見つめながら、ライトとヒータは深く溜め息を吐いたのだった。

●参加者一覧

平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
月村新一(gb3595
21歳・♂・FT

●リプレイ本文

●12:40
「おー、イカロス隊副長、土産にウォッカ頼むぞッ! レッドバードにゃこんなコト頼めねぇんだわ! はっはっは!」
「‥‥。ったく、良い気なもんだぜ」
 第三機甲部隊員の野次を聞き流しながら、ライト・ブローウィン(gz0172)少尉は格納庫に向かっていた。
「ブローウィンさん‥いえ、少尉さん」
「ん‥‥? ああ、綾乃さんか」
 ふと声を掛けられて振り向いた先に居たのは聖・綾乃(ga7770)。
 彼女はライトを見ると微笑んで近寄ってくる。
「お仕事では初めてご一緒しますね♪ ご一緒するのが、お姉ちゃんじゃなくってゴメンなさい」
「え、いや、‥‥特に問題は無いが」
 てへ、と可愛らしく舌を出す綾乃へ、ライトは目を丸くして頷き返す。
 二人はそのまま、彼女の姉について話しながら格納庫へ向かった。

「隊長さん、久しぶり!」
 突然、傭兵の一人に親しげな声を掛けられる。格納庫で傭兵KVの妖精や天使、イニシャルのエンブレムを興味深く見上げていたヒータは、それに気付いて顔を向けた。
「あ、確か‥‥隼瀬さん! この前はどうも、本当に助かりました」
「うんうん。で、今回は弐番艦の露払いってわけだね。力の限りやってやりましょう。頑張ろうね、雪白!」
 ぽむぽむと自機ナイチンゲールを叩く依神 隼瀬(gb2747)。ヒータは微笑んで頷き返した。
 他にも続々とパイロット達が集まってくる。綾乃とライトも到着、他の傭兵達も整備士と話したり、傭兵同士作戦を確認し合ったりしていた。
「‥あ、ヒータ隊長、ライト少尉。今回はこちらも戦果を上げて、レットバード隊の人を驚かしちゃいましょう」
「ノルマは120pt、HW12機といった所のようですが‥‥もっといけるはずです。同じ基地の味方に実力を認めて頂きましょう」
 機体チェックを一通り終えた乾 幸香(ga8460)とセラ・インフィールド(ga1889)が、ヒータとライトに声を掛ける。
 セラの言うノルマとは、食堂での騒動の後にヒータが直訴して設定してもらったものだった。
「もちろん負けません。えぇ‥‥レッドバードになんてっ!」
 その名前を聞くなり、目を潤ませて拳を握るヒータ。
 ライト、セラ、幸香は苦笑しつつ、三人掛かりで彼女をなだめにかかった。

 ――そうしてそんなやり取りを交わす内、格納庫に出撃アナウンスが響き渡る。
「ポイント制‥‥妙な任務だが戦闘である事には変わりないか」
 新機体イビルアイズに乗り込みながら、月村新一(gb3595)は機体セットアップに取り掛かった。
 解放された格納庫の向こうには、赤土を照りつける太陽。しかし五時間もすれば、また真冬に逆戻りする事だろう。
『出撃許可確認。――イカロス隊、出撃!』
 ヒータの号令が響き、KV十機は大地を加速した――。

●翌日 12:26
「‥‥輸送部隊とUK弐番艦は、後三十分ほどで目標空域を通過するようですね」
『了解、いよいよね‥‥。傭兵の皆さんよろしくお願いします』
 赤宮 リア(ga9958)から報告を受けると、ヒータの声に緊張の色が混ざる。
 アラスカ基地で一晩休憩を取った後、イカロス隊とレッドバード隊は流氷の海上空を飛行している所だった。
『おーおー、可愛いねぇ声が震えてる』
『任務中だバード4。‥‥それとイカロス、落ちて救難隊に世話をかけるな。オーバー』
『む、余計なお世話です』
 チュコト海上空までは残り約100km。ケンカ別れするように、二隊は北西と南東に分かれて進路を取る。イカロス隊の作戦空域は南東エリア。
 そして早くもそこには、ロシア本土からバグア迎撃部隊が近付きつつあった。

「‥‥ノイズが‥。近くに居るのかな‥‥?」
「いえ。もう見えたみたいですよ。――四時方向、敵です!」
 結城加依理(ga9556)の言葉に、平坂 桃香(ga1831)が応答した。その視線の先には辛うじて見える――十体程度の機影。
 レッドバードならば百数十キロ北西であり、UK弐番艦か輸送機団にしては予定時刻と、そもそも方角が違いすぎる。
 西南――それはユーラシア大陸のある方角なのだ。
 イカロス隊は即座に機首を翻した。ジャミングで索敵距離の縮まったレーダーに光点が投影される。距離にして約1200m。HW2、キメラ5、CW3。
 ――目標10体。
『‥‥では、貴方達の作戦通りに行きます!』
「了解です。‥‥行きましょう」
 リアは真紅に塗装した愛機の操縦桿を強く握る。
 冷たく澄み渡るチュコト海の上空で今、敵部隊とイカロス隊は――ヘッドオンした。

 ――空を貫くプロトン砲の連撃。
 対するKV十機は、逆に全力で散開行動に移った。
 あえて初撃を敵に取らせておいて、自分達は回避行動に専念する。反撃を考えない事によってCWの効果範囲に踏み込む事も無く、最大限の回避機動を取れるメリットがある。その作戦は見事に効を奏し、砲撃に被弾する者は居なかった。
 赤い光線は、KVの間をすり抜けて虚しく空に溶ける――。
「――今ッ!」
 直後、桃香の叫びと反撃の銃声が高く轟く。
 スナイパーライフルの強烈な一撃にCWが弾け飛んだ。更にロングボウがK−02を発射、大量の小型ミサイルで空を埋め尽くす。
 苛烈な反撃。綾乃機と幸香機がHWへ127mm、84mmロケット弾によるクロスファイア。交差する火線に、ナイチンゲール『雪白』のスナイプが加わる。
 遠中距離攻撃で敵に猛烈な打撃を与える五機。
 その間に、残りのKVは接敵していた。

 火花を散らし、血を噴き上げる敵部隊へ四方からKVが接近。
 ライトとヒータが連携してCW一体を撃破し、セラ機は真正面から超至近まで接敵してCWを叩き落とす。側面からもリア機がHWへレーザーライフルを射撃。円形装甲を大きく穿って爆散させた。
「HW一機撃破です!」
 リアが戦果を報告する。
 しかしその猛攻に対して、残ったHWやキメラ達が、フェザー砲、体当たり、鉤爪を振るって前衛KVに反撃を仕掛けた。
 そのまま前衛KVとキメラ・HWは揉み合いのドッグファイトへ移行する。コックピットにキメラの影が差し、回避機動を取ると頭上を氷海が流れる。視界の端で僚機が兵装を発射し、後方からの援護射撃が乱れ飛んだ。常人では捉え切れない高速戦闘空域へ的確な支援与える後方KV。その目は硝煙の曇りさえ見透かして敵の予測位置を割り出す。敵機方向、味方機方向、敵残数、戦果報告、援護要請、警告、密な通信が留まる事無く空中を伝播する。熾烈、激烈な空中戦。数分の一コンマの判断を積み重ねて、強引、かつ慎重に、傭兵主力のイカロス隊は戦況を自分側へと手繰り寄せていく。
 ‥‥その中で一機、苦戦を強いられているKVが居た。
「チッ、しくじったな‥‥」
 新一機、イビルアイズ。乗り換えたばかりの新機体に気を取られて、空中では使えない近接武器を装備、更に行動制限の掛かる重量で出撃してしまっていた。
 しかし、それでもイカロス隊の優勢に変わりは無い。
 キメラ、CW、そしてHWは次々と墜落――流氷を砕いて海に沈んで行く。

「お前が最後だ‥‥ッ!」
 加依理のスナイパーライフルが火を噴き上げ、最後のキメラが海へ落ちる。それを確認して――全員は軽く息を吐いた。
 第一波掃討完了。
 すぐさまイカロス隊は隊形を整え直すと、ヒータが各機に損傷率の報告を求める。
 しかし、見て分かるほどに損傷は軽微。‥‥どころか『極』が付くほどかもしれない。
 半分以上の機体は無傷だった。
「ぜんっぜん余裕だね。楽勝楽勝☆」
「確かに、あまり歯応えがありませんでしたねー」
 隼瀬と幸香の表情には笑みがこぼれる。殲滅が早すぎたのか、まだ敵機の反応は無いほどだ。通信も好調。
 その僅かなインターバルで、各機は武器のリロードを済ませる。
『今ので大体30ptちょいか‥‥。ノルマぐらいは何とかなりそうだな』
「いえ、もっといけますよ少尉」
 ライトの呟きに、セラが自信ありげに答える。
『そうかぁ‥‥?』
『えぇ、セラさんの言う通りよ副長』
「そうですよ、副長さん☆」
「大丈夫そうですよね」
「ああ、行けそうだ‥‥」
「私も同意します」
『‥‥む、いや、そうか。了解』
 綾乃、桃香、新一、リアの順に同意され、ライトもすぐさま同意する。どうも彼は慎重過ぎるきらいがあるらしい。
 そんな戦闘中とは思えない数十秒の後、イカロス隊に再びジャミングの波が襲う。
「四時方向、敵機です!」
 リアが短く叫ぶ。イカロス隊が機首を翻す先に見えたのは、敵第二波。
 ――キメラ2、HW3、CW4。
『各機散開!』
 青空に扇状に広がる十機のKV。その中心を、紅色の光柱が突き立った――。

●12:34
 戦闘は激しさを増していく。しかしイカロス隊はいまだに善戦を続けていた。
「甘いな‥‥、人々の脅威となるお前達を――逃しはしないッ」
「CW掃討完了。これより味方機と合流する‥‥」
 キメラ・ワーム達は火と黒煙を噴き上げ、断末魔の悲鳴を上げながら落ちて行く。氷海に幾数の水柱が吹き上がった。
 猛烈な攻撃によって敵第二波は殲滅、そのままの勢いで敵第三波も撃破しながら、イカロス隊は撤退機、被撃墜機無し。快勝に次ぐ快勝である。
 しかしそれでも。
「遠距離兵装、残弾0!」
「ブースト稼動――っと、当たる訳には!」
『あうっ、被弾!』
 消耗しない事など有り得ない。
 僅かなダメージが積み重なり、的確な練力の使用すら真綿で首を絞めるように能力者達を苦しめ始めていた。
 だが一個部隊の敵数は増えていく。この第四波ではキメラ6、HW5、CW5。その全機が、真新しい状態でイカロス隊を迎撃しに来るのだ。
 もはや、圧倒的とは言えなくなっていた。
「‥‥つっ! こちらが黙って見ているだけだと思ったら大間違い!」
 幸香機がロックオンキャンセラーを起動。使わざるを得ない乱戦状態だった。
 しかしそれでも戦況が優勢に傾くほどでは無く、全機の消耗率はみるみる加速していく――。

『つっ、被弾! 損傷率80%‥‥すいません、皆さん撤退します。後をお願い副長!』
『了解!』
 戦隊の一角でヒータ機が最初に脱落した。
 隊長でありながら経験の浅い彼女はほぞを噛みながら撤退していく。
 しかもその四戦目は勝利の目前だったのだ。
 そのまま傭兵達の猛攻が第四波ラストのHWを落とす。‥‥が、直前に放たれたフェザー砲は、――新一機を穿っていた。
「くっ、機体装甲30%‥‥ここまでが限界か。任務完了、すまないが撤退する」
 第四戦目にして二機が撤退。イカロス隊の綻びだした糸。
 すぐにライトは敵撃墜数をザッと計算する。
『今でノルマ五割増しぐらいか‥‥。だがこうなったら行けるとこまで行くぞ。全機、落ちるなよ!』
「了解。少尉も気をつけて」
 桃香が答え、そこに走る強烈なノイズが――敵第五波の接近を伝えた。

 HW同士でデータリンクされているのか、敵はヘッドオン時に遠距離攻撃を仕掛けて来なくなっていた。
 そうした作戦の無効化、機体の消耗、味方機の離脱‥‥。それらが既に優位性を消してしまっている。いや、むしろ――。
 プロトン砲撃に加依理機が包まれる。レッドアラート。不吉な火花が機体表面を走った。
 そこへ、ラージフレアを展開するリア機が近付いてくる。
「加依理さん、撤退を支援致します! 早くっ!」
「‥‥ありがとう。でも最後に――」
 黒煙を上げるロングボウがK−02ミサイルを大量に発射。それから機首を翻すと、加依理機はブーストで撤退していった。
 セラと幸香、隼瀬、綾乃が乗る四機は接敵してのドッグファイト。バルカン、高分子レーザー、ガトリングを撃ち放ち、ブレード、ソードウイングで敵を切り裂き下す。ライト、桃香も中長距離から援護。
 しかし数体を撃墜されながら敵も怯まずに反撃する。砲撃を連発し、キメラが肉弾戦を仕掛けた。――数機が被弾、嫌な音と衝撃が機体を走る。
「‥‥ごめん、ここが限界みたいだ」
 ナイチンゲール――損傷率85%オーバー。
 その状態から隼瀬はブースト点火、最前線からの離脱を試みる。リア機の支援もあり――どうにか退避には成功。
 だが戦闘は劣勢になり始めていた。
 こちらの手数は減り、変わりに各機への集弾率が上がった。激しい戦闘。第五波の敵がキメラ数体となった所で、ライト機・幸香機が耐久度の20%を切る。
『撤退する! 後は各自の判断で切り上げてくれ!』
「私の機体も限界が来ましたので撤退します!」
 離脱する二機を追おうとしたキメラを、残ったKV達が撃ち落した。それで第五波殲滅。辛くも勝利を上げて、残った四人は息を吐く。
 ――直後、ジャミング。
 ほぼノータイム。敵の第六波が既に接近していた。

「真後ろ、六時方向ですね。‥‥キメラ・HW・CWが6。中型HW――1。どうしましょうか?」
 セラは淡々と報告して機首を敵へと向ける。
 それを目端に入れながら、他の三人は軽く口元を弛ませた。
「さて、難しい所ですね。‥‥まぁ私の織天姫はまだ余力を残していますので」
 迷う事無く真紅のリア機も敵部隊へと機首を向ける。
「一匹でも多くアイツ等を落とす‥‥。そのつもりです♪」
 言い放って、綾乃機も180度旋回して敵を迎え撃つ。
「‥‥うーん、私も皆さんと一緒なんですよねー」
 桃香の雷電も反転、敵部隊を照準サイト内に収める。
 編隊を組むKV。その前方1000mにまで敵接近。これ以上距離が縮めば、安全に撤退できる保証はない。
 しかし四機はそれを承知の上で、――――敵を迎撃した。
「「「「戦闘開始!」」」」
 四人の声がハモり、同時に大量のミサイルや火線が空を埋めていく――。

●二日目 19:35
「レッドバード隊、撃墜ポイント313pt。被撃墜0。
 イカロス隊。撃墜ポイント、‥‥‥‥320pt。被撃墜、0‥‥。おい、この数値、合っとるか?」
「いいえ司令官。間違いありません」
 書類を持って来た情報官に聞こうとして、その前にヒータが誇らしげに答えた。
 その態度が癪に障ったらしく司令官は軽く舌打ちする。
「貴様には聞いておらん大尉。‥‥‥‥そうか、合っておるのか」
 ナトロナ基地。
 帰還したイカロス隊とレッドバード隊は、任務報告の為に司令官室に出頭した所だった。イカロスの上げた成果には、司令官だけでなく、他の幹部全員も驚いていたほどだ。
「‥‥まさか手を抜いて無いだろうな、マルケ大尉?」
「いいえ司令官。それが隊の全力です」
 レッドバード隊長が答える。
 それをヒータは、心底嬉しそうに聞いていた。
「‥‥。まぁ、レッドバードの方が人数が少ない。当然といえば当然の結果、だな。‥‥いや、両隊とも良くやった。作戦は成功である。次の任務があるまで休養せよ」
 苦々しく言い放ち、司令官は退室を命じる。
 部屋を出たヒータ大尉を、傭兵達とライトは微笑みながら。
 マルケ大尉を、レッドバード隊員が整列しながら、それぞれが出迎えたのだった――。