タイトル:基地へ迫る黒円マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/31 00:09

●オープニング本文


 山を飛び越え、森を押し潰し、平原を走破する黒い塊。
 一見するとそれはただのタイヤ。しかし、その大きさにはかなりの違いがあった。
 目測10m。
 しかもそれは平均であって、一番大きいモノは15mを超える個体も居る。それらが地面に一直線の跡を残しながら、十数体の群れでやってくるのをUPC軍基地が捉えた。

「なんだアレは!?」
「あんな敵は見た事が無いぞ‥‥!」
 作戦司令室で戸惑うような声が響き渡る。喧騒のほとんどが他基地やULTにワームの情報照会をするものだが、その記録はどのデータベースにも登録されていなかった。
「完全に新種という事か‥‥」
「戦車部隊、展開前に突破されましたッ!」
 オペレーターの一人が基地司令に振り向きながら声を上げる。
 モニターに映し出される敵は変わらずに前進を続け、ほぼ垂直な丘の斜面を速度も緩めず駆け上っていた。スパイクでも付いてるのか慣性制御なのか、全く曲がろうとしないその姿はイノシシを連想させる。
 自分より大きい木や岩程度なら踏み壊してでも突破していく。そのワームが通った後には雑草も生えていなかった。
「くそ、なんて奴だ‥‥。KV部隊を出撃させろ! 何としてもアレを食い止めるんだ!」
 命令を下しながら司令は映像モニタと別の方向へチラリと目を向ける。白衣を着た複数の人間がキーボードとディスプレイとの間で必死に格闘していた。
「予測できたか!?」
「大まかな到達時間は」
 一人がコツコツ、とボールペンの後ろでシミュレーションモニタの右端を叩く。”18’48”という表示は、48の方から一秒毎に減っていた。
 さらにモニタには敵の進行方向が矢印で表示されており、その先には――『base』――とシンプルな文字が光点と共に出ている。
 その光点こそが、この基地だった。
「KV部隊展開!」
 オペレーターの声が作戦司令室に響く――。


「射撃開始ッ!」
 隊長機の指示に従って、KV各機は両翼から猛烈な火線を展開した。浴びせかける集中砲火。その中央をタイヤ状のワームが突破を試みて駆ける。
「ちきしょう、速い――!」「ブラボー3、突破されるぞ!」「弾幕だ、弾幕張れ!」「リロード!」「バカ、武器を変えろ!」「うおおおおお!」
 様々な通信が飛び交い、それを掻き消すようにKVの手から銃声が沸き起こる。ガトリング砲、P−115mm高初速滑腔砲、レーザーバルカン、ミサイルポッド、スナイパーライフル、高分子レーザー。弾丸、砲弾、光線が束となって敵へ襲い掛かる。
 しかし――。
「ああ、ダメだ! 突破された!」
「諦めるな! 各機変形! もう一度仕掛けるぞ!」
 全力で撃ち放った攻撃は一体どれほどの効果を与えたのか。地面に転がっているワームは三体。敵の半分も押し留められていなかった。
 今では旧式機となりつつあるS−01とR−01が五機ずつ、更に岩龍が一機加わったKV全機が変形する。その間にも、突破したワームは人型形態では追いつけない速度で視界から消えつつあった。
 隊長が歯軋りしながら全機に離陸の指示を出そうとした時、逼迫したような声が響き渡る。
「――隊長! 倒したワームが動いてます!」
「なっ、まだ死んで無かったのか!?」
 隊長が振り向くと、一体のワームが支えも無しに起き上がった所だった。それに続いて他のワームも起き上がり、基地の方へ回転しながら方向を修正し――。
「アンディ、マーク、ポール、阻止だ! 奴らにトドメを刺せ!」
「「了解!」」
「他の者は離陸だ! 追いかけるぞ!」
 そう叫びつつ隊長機は滑走を開始した。


 KV部隊は空に上がって敵を追いかける。上空を飛行していた偵察機から「基地到達まで後十四分!」という声が飛んだ。
「300‥‥いや、400キロは出てやがるな‥‥」
 副隊長が眼下に目を向けながら呟く。猛烈な勢いで地面を駆けるワームは、実際それぐらいのスピードが出ていた。
 隊長は忌々しげに舌打ちする。相手の五倍以上の速度で追い抜くが、それでもKVの速度がもどかしく感じてしまう。
 なにしろ部隊が着陸、変形、展開する時間も稼がなければならないのだ。引き換え、相手はまだ十体以上居る。時間も無いのに、こんなやり方で数体ずつ倒すのはじれったくて仕方が無い。
 隊長は十分に距離を取った場所に部隊を着陸させるなり、叫んだ。
「‥‥ここで何としてでも止めるぞ! 全機、敵の正面に展開しろ!」
「正面!? 危険過ぎませんか!?」
「速い相手に横から撃っても効率が悪い! 倒して止めろ! 避けるなとも言わん!」
 言いながら、隊長機は膝撃ちの姿勢でP−115mm高初速滑腔砲を正面に構える。その姿を見て他の機も覚悟を決めて配置に着いた。
 それから数秒もしない内に盛大に舞い上がる砂埃が見えた。さらに高速で迫る十数機のワームを視認。隊長の操縦桿を握る手に力がこもる。
「イノシシめ‥‥」
 思わず呟いてから、隊長は大声でカウントダウン。ゆっくりと、正確に、ファイブから落としていき――。
「――撃てぇッ!」
 ゼロの代わりに強烈な怒声。KV全機が兵装の引き金を絞る。爆発のような発砲音が連続で響き渡り、再びワームの群れに強烈な火線が走り出す。
 それらの砲撃は先ほどと比べ物にならない命中率で敵に直撃、――――ほぼ弾かれた。
「なっ――!?」
 驚愕しながらも全機は引き金を絞り続ける。しかし、赤いFFを突き破れはするものの、弾丸はワームの表面でことごとく弾かれた。
 辛うじて通っているのは知覚兵装ぐらいである。だがそれも複数機でやっと二体の敵を倒せただけで、ほとんどの敵は止まろうともしなかった。
「くそ、止まれ、止まりやがれッ!」
「隊長、回避を!」
「中央の俺はもう間に合わん! お前らだけ回避機動を取れ!」
「まともに食らうよりマシです! 隊長、失礼します――!」
 ワームの群れが目前に迫った所で、副長機が隊長機に体当たりした――。


 全員が唖然としてモニタの光景を見つめる。
 悪夢。
 まさにそんな形容が相応しい画面の中は、KV部隊の半分以上がワームに轢かれて押し潰された後の惨状を淡々と映していた。
 全く無傷の機もあれば、半壊の機、‥‥全壊している機。
 生死はともかく、部隊としての活動はそれ以上不可能だろう。
「なんて事だ‥‥」
 逼迫した危機に迫られながら、作戦司令室は奇妙に沈黙する。一瞬で部隊が壊滅した事にショックを受けて、誰の頭も真っ白になっていたのだろう。
 その中でふいに、出撃を管理するオペレーターのコンソールに緑の光が点灯した。
「傭兵部隊――出撃準備完了!」
 オペレーターの声に全員が振り向く。
 全員の瞳に微かな希望が浮かんだ。

「出撃だ」
 基地司令が呟く。
「この状況で奴らを止められるのは――彼らしか居ない」
 その言葉にオペレーターは頷き、コンソールに向き直る。
 反対側から「あと十分だぞ!」という声が上がった――。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG

●リプレイ本文

●緊急出撃
 スクランブル。一分一秒を争う状況で傭兵達はコックピットに駆け込んだ。
 敵は新種ワームと思われるボアサークル。KVを超える走行速度で、もうすぐこの基地へ到達する事が予想されている。時間との勝負、傭兵達は最終チェックを飛ばしてKVを起動する。
「‥またえらく原始的っつーか、力押しな奴が相手だな。つか、単純な分、逆に対処し辛そうかもしれん」
 今回のターゲットに対して、風羽・シン(ga8190)が戸惑うように漏らした。
 桜崎・正人(ga0100)もその隣のウーフーのコックピットに搭乗し、データ化された敵情報ファイルを睨みながらシンに同調する。
「確かに奴さんのスピードはマジで脅威だな‥追いつけるまでに時間がかかりすぎる上、有効射程内にいる時間が極端に短いんじゃぁな‥」
「厄介な敵ですが、それでも――やらなくてはなりませんね」
 閉じていくキャノピーを見上げる榊 刑部(ga7524)の黒い瞳が銀色に染まる。
 直後に目前の格納庫の扉が解放され、灰色の滑走路を映し出した。
「時間が惜しい。急ぐぞ」
「にひひっ、手前等、宜しく頼むな?」
 各機の出撃準備が整うとサルファ(ga9419)を先頭にKVは動き始めた。そこへどことなくワクワクしたような武藤 煉(gb1042)の声が全員の耳を叩く。
「スクランブルか‥‥150mmを積む時間が無い、135mmでいく」
 苦渋の表情をするウラキ(gb4922)。兵装残弾画面に表示される戦車砲は135mm口径、装弾数十発のモノだ。
 それを表示するHUDの向こうでは、白塗りのアヌビスが短距離滑走を始めている所だった。
「山猫ならぬ山犬、か‥‥存分に遠吠えを響かせるかね」
 コックピットで抹竹(gb1405)が不敵に言い放つ。
 そして空へ飛び立つ八機。その眼下で、基地は地面に張り付いたまま小さくなっていく。
 カララク(gb1394)はバイパー「シバシクル」からその光景を見下ろしていた。
「帰る場所を無くす訳にはいかない。‥全て堕とす」
 いつも変わらない無表情。しかし今は、その中に微かな何かが表れている。
 基地へ迫る黒円――。
 その到達までのタイムリミットは10分を切っていた。



●未知への初撃
 飛行を始めてから約二分、その僅かな時間で傭兵達は半分ずつ二班に分かれて最初の着陸予定地点に降り立った。
 先頭に立つA班は敵部隊の左翼側へ、B班はそれよりやや後方へ下がった右翼側に展開する。
 地平の彼方を睨むシュテルン、桜吹雪エンブレムのウーフー、剣翼エンブレムの雷電、白地に蒼ラインのアヌビス。
 人型形態で待機するそのA班四機は、ふいに巻き上がる土煙を視認した。
「来たぞ!」
 誰かの怒声が飛び、全員が武器を構える。
 土煙しか見えなかった地平にいつの間にかワームの群れが現れていた。そして豆粒のような塊達は、みるみる内に近付いてくる。
 数階建てのビルに匹敵するボアサークル達は、尋常でない速度で平原を走破していた。あっという間に細部まで見て取れるほどに近付き、傭兵達との距離一キロを切る――。
 ふいに一条の光線が地上を撫でるように迸った。
 サルファ機の射程600mを誇る88mmレーザーライフル。しかし、その一撃は惜しくもボアサークルの間を通過していく。
 ほぼ間を置かず、射程400mを誇る松竹のG−03ライフルが続いた。硝煙を吐き散らして撃ち出された弾丸は、ウーフーの電子支援の効果もあって見事にボアサークルに直撃。
 ――しかし、その黒い装輪部に弾き飛ばされた。
「‥‥ッ!」
 驚いたのも束の間、他のKVも一斉に引き金を引き始める。
 既にボアサークル達は猛烈な速度で各機の射程範囲内に入って来ていた。正人機とシン機の135mm戦車砲が噴煙を吐き散らし、次いでサルファ機のスラスターライフル、松竹機の150mm戦車砲が轟音を響かせて弾を振り撒く。
 その側面からの弾幕に、目の前を通り過ぎようとしていたボアサークルの二体が耐え切れずに転倒、他の数体も被弾。即座にトドメ役のサルファが立ち上がって走り出した。
 他の機は弾幕を張り続けるが、ボアサークル達は少々被弾しても速度を落とす事なく猛進していく。結局、ワーム達が射程外に出るまでに転倒させられたのは二体だけだった。
 各機は射撃の手を止めると、倒れたワームの方へ振り返る。
 そちらでは既にサルファが機槍ロンゴミニアトを振るっていた。立ち上がろうとするボアサークルに一撃を穿ち、さらにトドメの追撃を撃ち放つ――。
 その命中と同時、ボアサークルは突然激しく爆炎を噴き上げた。
「なっ‥‥!」
 炎がサルファ機の目前まで迫る。
 ‥しかし、雷電を巻き込む直前で赤い炎は霧散した。機槍の最大射程から攻撃していたのが幸いしたらしい。
「コイツ、まさか全部爆発しやがんのか‥!?」
 今の光景を見ていたシンは最大射程から高分子レーザー砲を連射、さらに正人機、松竹機も対戦車砲を中距離から発射する。
 倒れた状態から立ち上がろうとしていたボアサークルは、その強烈な集中砲火に叩き伏せられて――そのまま動かなくなった。
「今度は爆発しなかった、のか‥?」
 サルファが困惑したように呟く。
 しかし、それを確かめてる時間は無かった。
「行くぞ、移動だ!」
 正人機が変形しながら叫ぶ。まだ十体居る内の二体しか仕留めていないのだ。
 すぐに正人機に続いて他の各機も変形、滑走を始める。
 焼け焦げた平原と、ズタボロになった円形ワーム。
 それ以外、既にA班の視界からは見えなくなっていた。


●後続
「見えた‥‥エンゲージまで五秒!」
 視認と同時、ウラキが全機に通達する。A班の後方、敵進路の右側面に展開したB班各機がそれぞれ武器を構えた。
 初手、ウラキがG−03ライフルを撃ち放つが、先刻の松竹の時と同じように弾丸は斜めに弾かれてしまう。長距離での射撃は命中させる事はできるものの、上手く側面部に狙いが定まらなかった。
 そしてリロードさせる間も無く黒円ワーム群はB班の中距離射程内に突入していく。
「行かせるか‥!」
 即座にカララク機が空戦スタビライザーを発動。バイパーは右腕でスラスターライフルを全弾撃ち放つと、左手の戦車砲を腕一本で撃ち放つ。普通なら転倒ものの無茶な射撃をスタビライザーが可能にした。
 そのカララクの激しい攻撃に一体が転倒。さらに隣に並んだ刑部機とウラキ機が、高速で通過しようとするボアサークルに戦車砲を計六発発射。135mmの巨大な砲弾が敵の白い側面に喰らい付いて破片を散らした。
「‥く、止まりませんか」
 濃い硝煙の向こうを見据えて刑部が呟く。被弾したボアサークルは大きく左右に揺れながらもそのまま走り続けていた。もう一度武器を向けた時には、既に射程外へと離れている。
 倒れたのは一体のみ。そちらへは既に――ブーストを掛けた煉機が突撃していた。
「手前等が作った花道、無駄にはしねぇッ! 吼えろヴィルト、叩き込めェッ!」
 どちらかといえば洗練された機体のシュテルンが、しかし操縦手の性格を反映して荒々しく駆け抜ける。立ち上がったボアサークルにボディブローを放つように、機杭ウガツ・タルディの一撃。赤いFFを輝かせて斜めに傾いた黒円に――さらにもう一発を打ち下ろす。
 その二撃を受けてボアサークルは地面に沈み、動かなくなった。
 ‥‥と、その直後にA班から入る「仕留めた時に敵が爆発した」という旨の通信。
 零距離で敵を倒した煉機がギョッとして一歩退いた。
「気をつけろよ煉」
「た、大した事ねぇ! 上等だぜっ!」
 機体を変形させつつそんなやり取りをするカララクと煉。
 しかし今の通信で最も顔を青褪めさせていたのは、他でも無いウラキだった。
「自走式爆弾なんて‥そんなものが基地に突っ込んだら‥‥。冗談じゃない‥!」
「早く次のポイントへ移動しましょう!」
 刑部は叫ぶなり、自機を滑走させ始める。
 既存戦闘機と比べ物にならないほど短いKVの滑走時間も、この状況ではやたらと長く感じられた。苛立つように全機がエンジンを全開まで噴かして滑走する。
 そのB班の頭上を、A班四機が高速で飛び去って行った――。


●五分五十秒
 A班がブーストで上空を移動する。ボアサークル上空で正人機がダメ元でライフルによる射撃を試みるが、やはり命中しない。逆にその行動で速度が微妙に落ちてしまった。
 想定より幾らか遅れながらも、A班はボアサークルから二、三キロ離れた所に着陸、展開。‥その四機が人型へ変形するかしないかのタイミングだった。
 ボアサークルが土煙を巻き上げて射程内に突入。
 即座に各機は反応する。予測修正された照準円に敵を合わせて、一斉に引き金を引く。
 平原上を激しい弾幕が吹き荒れた。
「弾切れか‥‥次の兵装をっ‥!」
 サルファ機の両手に握られたスラスターライフルの動きが止まる。代わりに両肩に搭載されたキャノンの砲声が空に高く唸った。
 シン機と正人機の135mm、松竹機の150mm戦車砲が咆哮を上げて次々に敵へ着弾する。一体が被弾の衝撃で地面に叩きつけられ、違う一体は進路を逸れて円を描くように失速する。
 それでボアサークル群が射程外へ消えたのを確認して、サルファが失速した方のボアサークルへ駆け出し、続いて他の三機はもう一体の方を狙った。
 シン機が高分子レーザーを撃ち放ち、正人機の戦車砲が相手を起き上がらせない。その間に松竹機は至近距離まで接近、戦車砲の照準をピタリと合わせる。
「寝てろってんだよ」
 強烈な一発。なお起き上がろうとしていたボアサークルはそれを受けて、沈黙した。
 同時、違う方角で巨大な爆発が起こる。もう一体を仕留めに行ったサルファだった。
 機槍ロンゴミニアトを振るった途端にまたワームが爆発したのだ。しかし、先ほどと同じく炎はサルファ機に到達せず、手前を撫でて散る。
「ってなんで俺の時だけ爆発するんだ‥!?」
「分かんねぇがとにかく二体とも撃破だ、次行くぞ!」
 シンが声を掛けながら機体を変形させ始める。他の三機も応答より早く変形。松竹はその間にメインディスプレイに表示されたタイムリミットに険しい目を向ける。
「後五体‥‥なんとかいけるか?」
「だが、まだ追いつけるとか思ってたんじゃ絶対に撃ち漏らす! 次で全部ぶっ倒すつもりで行くぞ!」
 正人が荒々しく叫び、すぐさま滑走を開始した。


 やや離れた後方にB班が着陸する。四機は変形、すぐに武器を構えて右翼側に陣取った。
 接近してくるボアサークルは今では半数。しかし小さい敵から脱落した今、十メートル超えの五体が猛速で迫ってくる。
「これを使う事態だけは避けたいですね‥‥」
 ウラキが副兵装に装備したメトロニウムシールドを見て呟く。緊急の場合は正面に展開して受け止めるつもりだったが、あまりゾっとしない話だ。
「敵、来ます!」
 刑部が叫ぶのと同時、ワーム群が射程内に突入する。刑部機が先陣を切って戦車砲を放ち、続いてスタビライザー起動のカララク機、ウラキ機も続く。しかし火花を散らして揺れながらもボアサークルは耐え切り、B班の目前を通り過ぎようとした時――飛来した拳に直撃した。
「へっ‥‥そう簡単にいかせるかよッ!」
 煉機から放たれたロケットパンチ。さらに消えた両手首の先端から、ガトリングナックルの弾丸が豪雨のように降り注ぐ。初撃でバランスを崩しかけていたボアサークルの二体に着弾、転倒した。
「ナイスだ、煉。後は俺が叩き潰す‥‥!!」
 即座にカララクがワームに接近し、明けの明星を振り下ろした。ワイヤーに牽引されたメイスの打突部分が勢い良くワームに叩き付けられ、めり込む。
「逃がさない‥!」
 一方で中距離の射程から離れた敵へ、ウラキがD−03ライフルをリロード、射撃した。弾丸は神懸かった軌道を飛んで敵の側面部上方に命中、斜めに吹き飛ばされるように倒れる。
 対応して、刑部が即座にブーストを掛けて接近を試みた。
 しかし300m近く離れた場所に転がっていた敵は、近付かれるまでの間に起き上がっている。方向修正し、加速開始。
 その20m後方に――ミカガミが肉薄していた。
 瞬間、KVの腕が振られる。ワームへ向かって白いエネルギーの塊が迸流し、直撃。
 ボアサークルは紅の閃光を上げて、――爆発した。
「まさか、雪村を使うハメになるとは思いませんでしたね」
 刑部が呟く。副モニタに表示された残練力は既に半分も残っていない。
 後方では煉とカララクの掃討によって、転倒した二体のワームも仕留めた所だった。
「時間は‥‥あと何分だ!?」
 ウラキが叫んでモニタに目を向ける。
 数字は「3」に変わった所だった。

●三分五十秒
 後ろを振り返れば平原の向こうに薄っすらと基地が見えていた。
 A班の四機は人型に変形し、迎撃態勢を取る。やがて、土煙を上げて黒円が迫ってきた。
「二体か、‥‥これ以上は行かせねぇ!」
 正人が叫び、呼応するように全機が武器を構える。ロックオンサイトが捉えた目標指示ボックスの距離の数字がみるみる減っていく。十五メートル級が二体、射程に入った。
「行くぞ、ぶち込めッ!」
 松竹が言い放ち、トリガーを引く。150mm砲の高い砲声を皮切りに、次々に砲声が重なる。
「ゴールなんてさせねぇ、てめぇらはここでリタイヤだ!」
 シンが高く吼え、硝煙を絡ませた砲弾をボアサークルに連続で放つ。赤いFFを易々と突破し、撒き散らされた破片が地面に突き刺さった。
 四機の集中砲火。厚い弾幕にさらされて、一体が一瞬宙を浮いてから激しく転倒する。さらにもう一体の装甲も次々に穿たれ――しかし、耐え切った。
「チッ‥!」
 目の前を最後のボアサークルが通過し、射程外へと外れていく。そのまま完全に突破を許しそうになった時、‥‥サルファがブーストを点火した。
 ブーストした雷電は最高時速400kmを超え、ボアサークルのそれを凌駕する。それでも少ししか縮まらない距離を、ブーストの連続使用で強引に追い付き、やや後方斜め後ろからワームの巨体を捉えた。
「行かせるか‥!」
 サルファ機は機槍ロンゴミニアトを振りかぶり――真っ直ぐに突く。
 穂先がボアサークルを貫いた衝撃。引き抜くと同時に体勢を崩したワームは傾き、そのまま爆炎が閃いた――。


●一分三十秒、傭兵帰還
 激戦だったにも関わらず、格納庫に帰ってきたKVはどれも傷一つ付いていなかった。
 ただし、燃料は十分の間にかなり使い果たしていたが。
 傭兵達は機体を駐機してコックピット降りる。豪快な笑いを飛ばす者、クールなすまし顔、楽な仕事だったと肩を竦める者、表情は様々だ。
 ふと最後に下りた傭兵は自機の雷電に振り返る。
「‥お疲れ様、相棒」
 手を振り、歩き出す傭兵達。
 こうして今日も、傭兵達の手で一つの危機が防がれたのだった――。