タイトル:【NF】前線基地防衛 マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/06/11 04:52

●オープニング本文


 不気味な塔がそびえ立つその町は、バグアの支配地域に置かれていた。
 それによって道の至る所をキメラが巡回し、しかし人々の生存は放置されている。自由はおろか、満足な食事も与えられない日々。食糧を求めて外へ出た住民は、巡回するキメラに容赦無く襲われた。
 そのうち住民達は痩せ細り、ある者は餓死し、ある者は空腹で木の家具をも齧る。つい先週までは人々の目に生の光は欠片も宿っていなかった。
 そう、先週までは。
 しかし今、この町の雰囲気は変わりつつあった。住民達が飢えて死に掛けているのに変わりは無い。しかし二階の窓から、崩れた屋根から、衰弱した彼らはしきりに空を見上げる。細い手を組んで何かの祈りを空へ向ける。そうしてただひたすら待ち続けるのだった。
 ――数日前に見た、希望の輝きを。
「‥‥愚かだな」
 管理塔から人間達を冷然と見下し、壮年の男は呟く。
 さして広くも無い塔の最上フロア。そこに無駄な物は一切無く、中央の高台に据えられた椅子に男は収まっていた。
 ふいにそこへ階段を登る音が響く。下から誰かが上がって来るようだったが、男は振り向きもしなかった。まるで聞こえて無いかのように、横柄に頬杖を突いて町を見下ろし続ける。
 やがてその後ろへ姿を現したのは――髪を胸ぐらいにまで伸ばした若い女だった。
「失礼します。‥‥レーダー基地の占拠が無事完了いたしました。敵に動きは無く、まだ気付かれていないものと思われます」
「そうか‥‥先日の敵の強行が幸いしたようだな。被害は大きかったが、それが逆に良い演出になったか」
 男は微かに愉悦を混じらせて呟く。
 それから椅子ごと女へ振り向くと、厳めしい口調で言葉を投げる。
「急造にしてはなかなか順調のようだな‥‥良いだろう。そのまま貴様はHWで現地へ戻り、他機と合流したタイミングで作戦は開始だ。
 ――ナトロナの人類側最大都市キャスパーを陥落しろ」
「はっ」
 女は頭を垂れて一礼し、来たのと同じ足取りで階段を下りていく。
 男はそちらに興味を失くして、また椅子を回転させて住民達を見下ろした。
「‥‥夢から覚めて絶望を知るが良い」
 その瞳には、空を見上げる住民達の様子が映っていた――。


 ベッセマーベンド前線基地。
 ナトロナ戦線においてそこまで歩を進めた人類勢力は‥‥しかし今、未曾有の危機に陥っていた。
「どういう事だ! これは何かの間違いだ、もう一度確認しろ! CMレーダー基地にも連絡、今度は応答があるはずだ! 通信手がサボっていたに違い無い!」
 入ってきた報告を聞き、取り乱した口調でポボス司令が喚きたてる。幕僚達はそれをなだめつつも、しかしハッキリと断言した。
「何度も確認しましたが、これは紛れも無く事実です司令! 敵はこちらが気付かない内にCMレーダー基地を制圧、そのままキャスパーマウンテンを越えて――キャスパーに侵攻しました! 強行偵察、部隊の再編成などでこちらの警戒が緩んだ隙を突かれたんです! 現在第二機甲中隊が応戦中ですが、早く援軍をッ――!」
「くそ、そんな事は貴様に言われんでも分かっとる! 第一機甲中隊、それと現在北方哨戒中の第四機甲中隊をキャスパーに向かわせろ! 第三機甲中隊も三十分以内に出撃、第五機甲中隊もコックピット待機! 傭兵に召集を掛けるんだ! 早くっ!」
 苛立った様子でポボス司令がデスクに拳を下ろす。しかし、喧騒に包まれた作戦司令室でその衝撃音など微々たるモノである。
 それは基地に居る全員にとって寝耳に水の事態だった。
 先日の強行偵察で敵本拠地の写真を入手し、情報部による解析も完了し、綿密な攻撃作戦の計画が練られていた時――キャスパーからの緊急通信がベッセマーベンドに入電したのだ。
 その報は、キャスパーに大量のワームが出現し、現在市街地で交戦中。至急増援を送られたし、という旨の内容である。今まで優勢に戦闘を進めていたナトロナ戦線で入ったこの通信を、ポボス司令を始めとする各員が信じられなかったのは無理もない。
 しかし、その報は事実だった。
 リアルタイムで入ってくる様々な情報からそれが確かめられ、ナトロナ軍の主力を置くベッセマーベンド前線基地はその対応に迫られた。
 敵の数は不明だが、とりあえずエース部隊のレッドバードとキャスパー近くで作戦中だった第四機甲中隊を援軍に向かわせる。
 赤い七機を祈るような気持ちで見送った直後――オペレーターの一人が声を上げた。
「レーダーに敵機影多数探知、――――敵襲ですッ!」
「なんだとっ‥!」
 ポボス大佐が低い唸り声を漏らす。自らもレーダーに視界を転じると、――そこに数十の光点を見た。
 ポボスは目を見開いて思考する。最悪、この基地の放棄も考えなければいけない。アルコヴァ攻略への道は遠のいてしまうが、とはいえ背に腹は抱えられないのだ。何しろキャスパーはナトロナにおける最大都市。ナトロナ戦線における人類側の象徴として、落とされる訳にはいかない――。
 ふとその数秒の迷いの間に、新たな情報がポボスの元に届いた。
「キャスパーに侵入されたワーム数が判明! 約二十五体程度と思われます!」
 その報告を聞いて、ポボスは汗を滴らせてうな垂れる。
「‥‥二十五? 二十五か‥‥。微妙だがその程度なら‥‥レッドバードを交えた三隊が守り切れるはずだ! 第三機甲中隊、及び第五機甲中隊にはベッセマーベンドを防衛させろ! 全通常兵器部隊を基地周辺に展開、配置は――」
 結局、ポボス司令にベッセマーベンドの放棄は選べなかった。
 キャスパーの敵侵攻部隊は物量的にはやや劣るが、しかしレッドバードが向かう以上はキャスパーは守りきれる。‥‥ポボス大佐はそう確信してベッセマーベンドの放棄案を廃却。逆に、防衛の方向へ命令を下した。
「何としてでもこの基地を守れ! 絶対に、だ!」
 血走った目でポボス大佐が叫ぶ。
 モニタには大量のワームが迫る様子が映し出されていた――。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG

●リプレイ本文

 空には低く暗雲が垂れ込めていた。
 その下の前線基地は出撃を急かす怒号が響き渡り、編隊を組んだ戦車や自走砲が基地の南へと集結していく。戦闘機が滑走路を走り、空へ舞い上がる。攻撃ヘリが飛び立ち、歩兵すらも肩に対戦車火器を担いで走っている。
 総力戦。
 クロウ部隊長バルトは上空から地上へ目を向ける。
 そこへふと、基地格納庫からKVの機首が飛び出すのを捉えた。
「へっ‥‥今日に限って落ちんじゃねぇぞ、片翼」
 呟いた後、偵察部隊『ホークス・アイ』が三体のHWを引き連れて帰って来たのを発見。すぐに部隊を引き連れて救援へ飛んだ――。


「やれやれ、人間万事塞翁が馬ってトコか? ‥もっとも、思いっきり裏目な状況だけどな」
「ち、ホントこれからって時に‥。だけどこのエンブレムに賭けても‥この[門]は通しゃしねぇよ!」
 機体を滑走させながら、前回の偵察を成功させた風羽・シン(ga8190)と聖・真琴(ga1622)の二人はことさら悔しそうだった。
 その後ろで桜崎・正人(ga0100)はジャミング中和装置を起動して軽く息を吐く。
「‥いくら敵の突破は折込済みだってもな。結果は兎も角、心構えは全部とめるつもりで行くぞ」
 その言葉に六堂源治(ga8154)は同じ思いだった。隣で機体整備を受けているライト・ブローウィン(gz0172)に親指を立てると、一足先にタキシング。ライトも軽く頷き返して見送る。
「‥もう一度確かめよう。自分に何が出来て、何が出来ないかをね」
 蒼河 拓人(gb2873)が儚げに呟く。
「スマイル、スマイラー、スマイレージ♪ キャスパー防衛に向かった方々を笑顔で迎えるために!」
 須磨井 礼二(gb2034)は楽しげに声を上げる。
「ファイナのことは私が護るから。ファイナも私を護ってほしい‥」
「もちろんですよ‥伊達にナイトなんて名乗ってませんからねっ」
 アセット・アナスタシア(gb0694)とファイナ(gb1342)の二人は熱く語り合う。
 互いの言葉、想いを胸に、イカロス隊全機は空へと舞い上がった。
『頼むぞ、イカロス!』
 ふいにどこかの部隊から声が飛んだ。
 それを皮切りに、波紋のように広がってイカロスへ届く声援。通信装置から溢れんばかりの言葉がとめどなく流れ出した。
 予想外の応援にヒータはしばし呆然とした後で、頷く。
「イカロス隊、行きます!」
 全機が加速を始める。押し倒すスロットルに合わせてKVから噴き上がる青白いバーナー。
 火絵 楓(gb0095)がスゥっと息を吸い込んで、
「ハッピ→☆スタ→でぇ‥read‥GO====!!」
 高らかに上がる声。呼応して加速する十三機が、基地の上空を彗星のように飛び去る。
 最後尾、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)の黒に紅ラインが入ったシュテルンが後ろの者達へ軽く翼を振って声援に応えていた――。



 基地が後方へ流れて数十秒後、イカロス隊は第二防衛ラインへと到達。
 遥か前方では黒煙と白閃を振りまいて敵と交戦するクロウ隊が見える。劣勢か優勢かは遠目に判断できないが、戦闘が激しいのは確かだった。
『クッ‥こちら空戦班だ、敵に突破された! 後は頼むぞ、俺達はこのまま第二波の迎撃に向かう!』
 そう言い残してクロウが機首を翻して東の方へと飛んでいく。
『こちら陸戦班、そちらの現在地よりやや西方に敵が向かいます、迎撃準備をッ!』
 相次いで入る通信。イカロス隊の面々はヒータの号令の下、空陸に分かれて敵を迎え撃つ。

 そして先に戦線を開いたのは空戦班だった。
「挨拶代わりだ、全弾もっていけ!」
 紅い線が入ったシュテルン両翼コンテナから五百発もの小型ミサイルが射出、空を赤く焦がして敵へ殺到する。間断無い小爆発が空を覆い、煙の間から青いキューブが砕け散って落ちていく。五体居たCWの内の三体が早々に空から掻き消えていた。
「流叶、楓。仕掛けるぞ」
「良いねーヴァレスん♪ 敵さんハロハロ〜ハッピーか〜い♪」
 サポートの流叶と合わせて三機は簡易小隊を組む。
 直後に六体のHWから放たれる赤い閃光。しかしKV群は難なく回避、そのまま接敵を試みる。その中から髑髏ディアブロとバイパーのロッテが頭一つ飛び出し、前方ディスプレイ上にHWをロックオンした。
「一緒に組めるなンて光栄だよ、ライトさん♪ 本職パイロットの腕前、見せて貰うね☆」
「了解だ、全力で期待に応えよう。‥‥背中は任せろ」
 ニヤリと笑った真琴がスロットルを押し倒す。意思を反映して急加速するディアブロ。反転してHWが砲の照準を合わせるが――、バイパーから放たれたAAMを被弾して姿勢が狂う。
 直後、接近したディアブロが咆哮を上げるように火を吐いた。HW表面を薙ぐように弾痕が走る。
「風羽、行くッスよ!!」
「おぉよッ! 支援頼むぞCrows!」
 HW達は紫光を放って真琴機・ライト機へと反撃していた。そこへ漆黒のバイパーが250発の小型ミサイルを射出。もう一度爆炎の渦に包まれたCW二体は耐え切れず爆散し、HW三体も小爆発の連続を受けて外殻が吹き飛ぶ。
 反撃に放たれたHWの紫光が飛び回るKVの装甲を焼き削る。ライト機、シン機、源治機が被弾。真琴機とヴァレス機は急機動で回避した。
 そのまま突破を試みようとするHW達を、しかし七機のKVが喰らい付いて抜けさせない。錐揉みしながらワームとKVは熾烈な集団ドッグファイトにもつれ込んでいった――。


 青白い閃光が走り、ゴーレムの胴体が崩れ落ちる。アセット機は剣を振って刃を引き抜く。
 しかし、その背後へ斧を構えた別のゴーレムが走り出していた。
「‥‥ッ!?」
 それに気付いた時には既にゴーレムが跳躍していた。巨体の重量を全て込めた一撃をディアブロへと振り下ろす――。
「アセット、危ない‥‥!」
 突如、コックピットの視界は純白のKVで埋まった。魔改造された高出力ブースターを噴かせて二機の間に割り込んだ、S−01H「ホワイトナイト」。
 その機はアイギスで敵の一撃を受け止めると同時、ゴーレムの腰部へドリルの蹴りを繰り出した。
 相打ちの形で両機は体勢を崩し、同時に地面へ倒れる。
「‥ファイナ! くっ‥一点ばかり見るな‥線を見て、周りに目を向ける‥!」
 そう自戒して視界を広げるなり、遠距離から倒れたS−01Hを狙うゴーレムを発見する。しかし、アセット機の装備で届く距離では無い――。
 その時、突如大量の弾丸がゴーレムに叩き込まれた。赤いFFを発光させつつ、よろめいて振り向くゴーレム。
 その先には、スラスターライフルから硝煙を上げるシュテルンが立っていた。
「ヒヤッとしてくれないと牽制になりませんからね」
 にっこりと笑って礼二はうそぶく。
 しかしそちらはあくまで牽制、本命はモグラ狩りだ。
 礼二機は地表下を走るモグラへ向けてライトニングハンマーを振り下ろしていく。
 さらに少し離れた場所では、正人機がレッグドリルを突き立ててモグラを地上に引きずり出していた。ワームのドリルとウーフーのドリルがぶつかり合って火花を散らし、最終的にモグラの胴体を深く貫き通す。
 だが直後レーダーは、少し離れた場所で新たな光点を捉えた。
「そっちに行ったぞ、通すな!」
 その正人の言葉と同時。蛇行して移動していた地面の盛り上がりの先端に光条が乱打される。続いて走る火線。土塊が高く舞い上がり、抉れた地面にモグラが覗く。
「CW殲滅‥少し遅くなったね」
 攻撃を受けて地上に這い出たモグラ群へ拓人機が接近、通り過ぎざま次々に玄双羽を振るう。さらに撃ち漏らした敵へ砲弾を放つヒータ機。CWを駆逐し終わり、遊撃に移った二機だった。
 そうして戦闘がやや優勢に傾きかけた時――、しかしクロウ隊から新たな通信がもたらされた。


「ちぃ、今から殲滅って時に第二波かよっ!」
 シンが忌々しげに舌打ちをする。第一波の残りはHW三体。しかし五百mほど西方に、クロウを突破した敵の第二部隊が既に迫っていた。
 ヴァレスは目を凝らしてそちらを見る。
「中型が混じってる。無視するわけにはいかない」
「‥くそ、ここは放棄! 全機方向転換だ!」
 ライトが後ろ髪を引かれる思いで指示を出す。それを受けて各員は歯噛みしながら第二波の方へ加速。
 ‥しかし源治・シンペアはふいにブーストを点火して逆に三体の方へ向き直った。
 集中砲火を叩き込む二機。HW一体が火を噴いて落ちていく。
「これが限界‥か。すまん、最終ラインにHW二体行くッス!」
『任せろ、暇を持て余してた所だ!』
 後方の言葉に頬を緩ませて、二機は仲間達の方へと続く。先行した五機は既に敵部隊との戦闘を繰り広げていた。
「敵機ロック! お釣りはいらないよ! 全弾持ってけえ!!」
 フェニックスの大量小型ミサイルが空を焦がす。連続する小爆発に巻き込まれてボロボロと空を落ちるCW。生き残った数体へ二機のシュテルンが接近を試みる。
 それを許さず中型2、小型4の一斉プロトン砲撃。強力な弾幕にKV数機が被弾、損傷率の平均が30%を超え始めた。
「突撃する! 支援をっ!」
「了解だ!」
 真琴機の中型機へのブースト突貫を、ライト機が弾幕を張って支援。
 ディアブロは光条を機体に掠めつつロケット弾を連射。接敵すると、慣性制御で回避する中型へスラスターを噴かせて半ロール、追随してソードウィングで切り裂いた。
 だが直後、真琴機はもう一体からのフェザー砲に被弾する。
 ‥高機動のドッグファイト、CWの殲滅、火線と光条の砲撃戦。
 ――空の戦闘は熾烈を極めていく。


「‥チッ、届いてねぇのか!?」
 地上。正人はレーダーに目を向けつつ苛立ちを抑え切れなかった。第二波で地中を動くモグラが増えた上に、攻撃を加えても光点は動きを止めない。地中の相手には攻撃の手応えが掴めなかった。
「それなら――!」
 ウーフーを変形させる。戦闘機形態で空中高くに舞い上がり、重力を利用して地中深くに一撃を加えよう、という意図は――しかし。
「いけない、ゴーレムに狙われてますっ!」
 同時、遠距離からのフェザー砲がウーフーに乱れ飛んだ。すぐにファイナ機、アセット機が妨害に走る。しかし既に放たれた光条を正人機はろくに回避もできずに被弾、――六撃目で大破した。
「‥止められませんでしたか‥」
「く‥一撃‥ひっさぁつッ!!」
 ファイナが全体へ牽制し、スキルを発動したアセット機が一体にガトリングを放ちながら剣を振るう。ゴーレムに数で劣るこの二機も善戦していた。
 しかし、それも七体目を撃破した辺りで終わりを迎える。長引く戦闘でついにアセット機の装甲がレッドラインに突入したのだ。
「ごめん‥ファイナ‥‥。これ以上は無理そうだよ‥」
「十分ですよ、撤退を援護します」
 すぐに頷き、支援体制に入るファイナ。
 自隊の状況に目を向けながら、ヒータが顔を曇らせる。
「二機離脱‥‥持つかしら‥‥」
「やるしかありません」
 拓人が敵をロックオンし続けながら言い放った。
 終わりの見えない戦闘が各機を疲弊させる。混迷する戦闘は、更に変化を見せた。


「援護する、叩き込ンだれっ!」
「頼んだ、全弾撃ち尽くすッ!」
 ライト機から螺旋弾頭ミサイルが白尾を引いて発射され、真琴機とドッグファイトを繰り広げていた中型HWに二発命中。ドリルが装甲内に食い込み、激しく爆発した。
 中型は空中に破片を吹き散らすと、ゆっくりと落ちていく。
 さらに他の五機も連携してもう一体の中型も撃破していた。敵部隊を殲滅――した直後。
 厚い雲の中から一条の光が降り注いだ。
 ライト機が被弾。
 機体が真っ二つにへし折れる。ライトは咄嗟に座席射出レバーを引き、ベイルアウトした。
 同時にクロウ隊からの通信が入る。
『すまん‥連絡が遅れた‥。クロウ隊の三分の二が許容損害率を超えたために撤退する。今からはお前らが最前線だ』
「なるほど‥‥、そうみたいッスね」
 現われた敵は中型一体を含めたワーム十数体。「やってらんねぇ」と呟くシンの声は切実だった。
「あいあい、みんなスマイル♪スマイル♪ ハピハピ笑顔で勝利をGETだよ〜ん♪」
 楽観過ぎるほどの楓のその言葉に、各員が思わず笑みを浮かべる。むしろ笑うしかない状況だった。変にテンションが上がってくる。
 ヴァレス機がスラスターライフルをリロード。
「行くぞ、突貫する」
 躊躇いも無くそんな事を言い放ち、高高度を突破しようとするワーム群に切り込んでいく。全機が一列に並んで上昇した。
 雲を抜けた青空に幾筋もの光条が迸る。それを回避、もしくは被弾しながら――複数のKVが先頭のHWをソードウイングで切り裂いた。
「‥通す訳ゃぁねぇだろ? お前らの行き先は[基地]じゃねぇ‥[地獄]だ♪」
 真琴の言葉を合図に、火線と光条が同時に空を埋めた。


「絶体絶命? 違うよ、千載一遇‥‥この時を待っていた!」
 敵の最終増援を受け、拓人は声を上げてブーストを掛ける。
 目標は敵部隊の最後尾。
 そこに居るゴーレムに急接近し、内臓「雪村」を発動、濃縮された光刃を二度振るう。かなり深刻なダメージを与えた。
 さらに逆方向前方からはヒータがCWを駆逐する。
「前回とは違う‥‥今度は避けきって見せます。――ブースト、ON」
 ファイナ機がブーストで肉薄、ゴーレムに牽制射撃を行って注意を引きつけていく。挑発的ともいえるほど部隊の中に突っ込むが、放たれる攻撃は次々とかわしていった。
「クロウのみなさん、モグラ叩きの準備をお願いします☆」
 礼二がそちらに通信する。一機だけで全てに対応するのは不可能だ。
 レーダーに目をやりながら的確に直近のモグラだけを攻撃していく。槍を地面に突き入れ、飛び出すドリルを盾で受け止めた。さらに地殻変化計測器で正確に敵の進路を後方に伝えていく。

 全機がズタボロになりながらの激しい戦闘。十分経つかどうかの戦闘は全員には数時間にも感じられた。
 地上ではゴーレム二体を地に叩き伏せ、CW四体を撃ち落した時、――拓人機が強烈な一撃を受けて動きを止めた。
 空ではヴァレス、楓達がCWを全撃墜して、中型も真琴機が何とか食い止める。が、数で優勢なHW二体に突破を許してしまう。
 だがその後はシン、源治機も踏ん張り、そのまま全機で盛り返した。
 後方防衛ラインも激しい戦闘は繰り広げられ、幾人もの一般の英雄達が基地死守の為に命を散らす。ほぼ通用しない弾幕を張り、数で強引にワーム達を殲滅。
 基地に被害はあったものの、重要施設の防衛には成功する。多大な犠牲を出しながらも基地防衛戦は終わりを告げたのだった――。


 ――そして。
「キャスパーが、――陥落だと‥‥?」
 まだ基地に煙が立ち込める中、ポボス司令は電報を握り締めて立ち尽くしていた。基地の事など眼中に無いかのように。

 手の中の電報には、
『キャスパー陥落。レッドバード隊――全滅』
 という文が表記されていた。