●リプレイ本文
「ハッチ開放。‥システムオールグリーン、カタパルト射出準備OK。いつでもKV射出できます」
「了解。パイロット、準備は良いか?」
西部米国の荒涼とした赤土。そのはるか上空を、八機の輸送機が飛んでいた。
「‥‥了解。一号機、KV射出!」
輸送機群から次々に機影が飛び出していく。機種はおろか、カラーリングもエンブレムも統一されていない八機のKV。
ナトロナの空に現われたのは――ULTから派遣された傭兵部隊だった。
「ふぅ‥‥間に合ってくれたみたいだな」
「毎回、この目で確かめるまではヒヤヒヤですね」
イカロス隊、ライト・ブローウィン(gz0172)副長とヒータ隊長が数km後方からそれを視認する。
『お待たせ。ギリギリ間に合ったみたいね』
同時に傭兵の一人、ラウラ・ブレイク(
gb1395)から入る通信。それにヒータが応答した。
「どうもイカロス隊隊長ヒータ・エーシルです。今回はよろしくお願いしますね」
『ええ、こちらこそお願いね』
和やかながら緊張感のある会話。当然、彼らがコックピット内で気を抜けるはずが無かった。
『‥‥やれやれ、久しぶりに来てみれば、随分とヤバイ状況になっちまってるじゃねぇの?』
「その声は‥シンか。久しぶりだな」
ライトがニヤリとほくそ笑む。
顔は見えずともそのキザな男、風羽・シン(
ga8190)が笑ったのは見えたような気がした。
『ま、あの司令の事はどーでもいいが、少尉達に死なれちゃ目覚めが悪いからな。しっかり護ってみせますか』
『うん、隊長さん達は下がっててね。ここは‥ボク達が止めるからっ』
「この声はヴァシュカさん? 来てくれたのね‥。二人とも、助かります!」
ヘッドセットから響いたヴァシュカ(
ga7064)の声も聞いて、ヒータもさらに顔を綻ばせる。
しかしその二人だけでは無い。他にもイカロス隊と共に戦った仲間達がそこに居た。
「レッドバード隊のようにはなれませんが‥‥同じ機体乗りとして、ここで負けるわけにはいけません! みなさん、お願いしますっ!」
S−01H『ホワイトナイト』を駆るファイナ(
gb1342)が、その純白機を加速させる。
「何としてもここで食い止めないと‥‥。でも、このままじゃいずれ――」
疲弊しきったベッセマーベンドを見て、夕凪 春花(
ga3152)は物憂げに操縦桿を握る。
その彼女の不安に応えるように、水上・未早(
ga0049)が客観的かつ希望的に言葉を紡いだ。
「‥LHを出る直前にレッドビュート方面への救援要請も出てましたし、この局面さえ乗り切れば僅かでも光が見えてきます。キャスパー‥ひいてはアコルヴァ奪回の為にも今べッセマーベンドに手出しさせる訳にはいきません」
「基地にはもう余力が無いみたいですからね。せめてここは俺達だけで切り抜けないと‥‥」
遠方の敵影を数えながらそう語るソード(
ga6675)。その搭乗機、シュテルンには物々しいほどミサイルコンテナが搭載されている。
そのソードとペアを組んだ獅子河馬(
gb5095)も力強く頷いてみせた。
「やってやりましょう! 俺達の力で!」
その声に傭兵KVが二機ロッテを組みながら加速していく。
前方では白い入道雲を背景に――十二の敵影が迫る。
世界各地に火を降り注ぐHWと、それを狩る傭兵達。
両者が今――会敵した。
同時、ヴァシュカが全機への通信回路を開く。
「‥交戦空域突入! 距離は約千五百、戦闘開始まで十数秒だよっ」
「了解。兵装1、2、3発射準備完了。PRMをAモードで起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
「ソード機、支援します。思いっきり暴れて下さい!」
V字編隊の中央、ソード機・獅子河馬機の二機がアフターバーナーを噴き上げて加速する。最前列を追い越してHW群へと急速接近。HWとKV、互いの距離が1000mを切る。
直後、その二機を狙ったプロトン砲が閃いた。
「‥‥――っ!」
突出するソード機は容赦なく光条の嵐に晒され、それを辛うじて避けていく。
しかし、五撃目まで避けた所で――光に閉じ込められるようにシュテルン被弾。六撃目、七撃目がソード機装甲を溶かしていく。
「‥‥それ以上、邪魔させるかぁっ!」
そのソード機と入れ替わるようにして、獅子河馬の雷電が前へ出た。
各HWから次々に放たれる五条の光。
それを獅子河馬機は超伝導アクチュエーターを起動してなお、避けきれない。強烈なプロトン砲撃が雷電を貫いた。
「くっ‥‥。ロックオン全て完了。獅子河馬さん、退避をっ――!」
「りょ、了解っ――!」
ボロボロになった雷電は咄嗟にブースト。敵のキル・ゾーンを抜け出した獅子河馬機は、一瞬にして機体損傷率が80%を越えていた。
そして、その身を呈して守ったソード機は今――単機で敵部隊と真正面に対峙する。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
ソードが操縦桿を握り込む。
直後、女神が描かれたシュテルン『フレイア』が、その翼を広げるように――ミサイルコンテナを開放した。
蜂の巣のような無数の小穴から一斉に飛び出す小型ミサイル。千五百の弾頭はただ『フレイア』一機から飛び出すと、大きく膨らみながらHW群に襲い掛かる。
その圧倒的物量を前にHW五体はなす術が無かった。先頭の一発に被弾すると、それを皮切りに次々とミサイルが着弾。
小さな爆炎は重なって大きくなり、まるで大爆発を起こしたように空を明るく染め上げる。
それが静まった後、三百発ずつ被弾したHW五体は――破片も残さず消し飛んでいた。
その初撃の間、他の各員は敵の両側面へ回りこむ。そして爆発が止むと同時に遠距離兵装を一斉射撃を開始した。
「勝てる戦いでもお遊びは抜き。確実に仕留めていきましょう」
「同感ですね。早期決着で悪い事はありません」
左翼でラウラ機・未早機ペアがUK−10AAMを敵へ照準する。
白銀黒尾のフェニックスがスタビライザーを起動、ブルーグレーのワイバーンと共にUK−10AAMを連続発射した。
その計十発のミサイルが左翼側HW三体へ均等に着弾、強烈な爆発が亀型装甲は大きく吹き飛ばす。その内の一体はオイルを噴き、内部機関が露出するほど致命傷を受けた。
――そして、その反対方向でも轟音と共に雷炎が上がっていた。
「‥確かに倒れちゃ再戦は出来ない。けど、下の皆を見捨てて逃げる程には落ちぶれちゃあ‥いないんだよね、これが」
敵に対して好位置を取ったヴァシュカ。春花へと合図を出すと同時、二人でUK−10AAEMを発射する。
ミサイルは揺れながら次々に敵を襲い、HW四体へ全弾直撃――青白い炸裂が空に稲光りした。
「手応えありですっ‥!」
春花が離脱機動を取りながら後方を振り返る。
それと入れ替わるようにして、S−01Hとシュテルンの二機がループしながら加速していく。
「弾幕展開、風羽さん、いまのうちに‥‥」
「おぅよ! 続くぜストライプッ!」
一直線に敵へ切り込むファイナ機、やや遅れて続くシン機がUK−10AAMを撃ち放った。
ミサイルは敵列中心のHWに着弾、そこに僅かな空間をこじ開ける。シン機は自らそこへ滑り込んで――敵を分断した。
それを見計らってファイナ機の砲口が火を噴き上げた。敵を掃射するように敵に浴びせかけるレーザーガトリング。百五十発の光の雨はHW二体に降り注ぎ、無数の弾痕がその身に刻まれていく。
しかし、今度はHWのフェザー砲による反撃が空を閃いた。
「被ロックオン確認‥‥もっと、もっと、もっとだっ‥!」
コックピットに響くビープ音を聞きながら、熱に浮かされるようにファイナが吼える。S−01Hは最小限の動きで軽々と六本の光線をかわした。
すぐ側では突撃してきたHWに対して、弾幕を張りつつ回避行動をとるシン機。
ミサイル回避で姿勢を崩し、照準の定まりきっていない一撃目、二撃目をシュテルンが回避する。しかし――三撃目は完全に後ろを取られたのが分かった。
「チッ‥‥!」
即座にシンはPRMを作動、機体抵抗にエネルギーを送り込む。直後にフェザー砲撃が直撃して装甲が溶けた。
さらに反対側でも未早機、ラウラ機へ向かって激しい光の束が降り注いでいた。
「ラウラさん、十一時、四時方向から敵です!」
「了解、助かるわ!」
正面から来る敵砲撃に合わせて右ロールするラウラ機。フェニックスの腹の下を光条が掠め、さらに二撃目、三撃目もかわす。
さらに真後ろに喰らい付いているHWも、全力減速によってオーバーシュートを狙い――。
「っ、しまった‥!」
HWは慣性制御で易々と付いてきた。動きの鈍ったラウラ機を格好の獲物とばかりに、フェザー砲を三連射する。
二被弾の後、三撃目をオーバーブーストで回避するラウラ機。どうにか危機的状況を脱する。
「ダメね‥‥。まだ有人機戦闘の癖が抜けないのかしら‥」
苦笑いしつつ、気を引き締めるラウラ。
一方の未早機はHWと一対一の状況で堅実に敵の攻撃をいなしていた。マイクロブーストを使用してフェザー砲の光条に触れさせもしない。
「‥! 支援班、HWが一体抜けようとしてます!」
ふと未早が反対方向のHWの動きに気付いて、警告する。それをヴァシュカも後方で視認した。
「‥あ、夕凪さん。九時方向ですよ〜」
「え、‥‥あっとっと――?」
しかし突然、運悪く乱気流に入り春花機は一瞬制御不能になる。
それを狙いすましたようなタイミングで‥HWはフェザー砲を発射。
春花機は一撃を被弾。しかし制御回復すると他二発は回避した。
「いたたた‥‥。なんだか納得いかないですね‥‥モードセレクト、アタック!!」
春花はPRMを二割使用、そのHWへ突貫する。
「‥あらゆる状況を考えて、動じぬ心の手練れたれ‥Sleight of Mind」
ヴァシュカも自分へのまじないのように呟き、スタビライザーを起動する。そしてHWの一体へDR−2粒子砲を――三連射。
大口径の巨光が凄まじい威力で敵装甲を消し飛ばす。一撃毎にHWは形を変え、最後には半サイズほどの黒炭に変わった。
だが、落ちるそれを見届けもせずにヴァシュカ機は方向転換する。
「‥夕凪さん、援護しますっ」
もう一方のHWへ高分子レーザーを発射。三本の光線に貫かれたHWは、‥‥さらに別方向からも三本の光線を被弾した。
鈍色の翼を翻して飛来する春花機。
HWは二方向からの攻撃で動きを鈍らせた。その一瞬の隙へ――。
「そこですッ!」
天使エンブレムを付けた春花機の翼が振られた。HWは真っ二つに両断され、一瞬のちに――爆発する。
残り五体。
その状況から、ラウラ機と未早機がブーストの勢いを活かして敵陣深くまで切り込んで行った。
ラウラ機、黒尾のフェニックス『Merizim』が半円状に並んだHW達を撫でるように重機関砲、AAMを撃ち放つ。重い掃射を受けて咄嗟に砲口を向けるHW達。
「お掃除お願いね、holger!」
「了解です」
しかしHW達が狙いをつける前に――その背後から『J』マークのワイバーンが高速で飛来していた。
前進翼がHWに噛み付き、相手を叩き斬っていく。目にも止まらぬ勢いで一機を撃墜、さらに二機目にも喰らい付いて両断。
通り過ぎた未早機の後方で、――二体のHWが続けざま爆発した。
だがHW達も劣勢を覆すべく猛反撃する。フェザー砲の弾幕を展開、活路を見出そうとした。
しかし――。
「敵1匹も後方には行かせない‥‥全て落としてみせます‥‥」
「当然だ、一匹残らず粉々にしてやらぁ!」
ファイナ機がブースト、シン機も続いて加速すると光線を掻い潜って突撃していく。
「私達も援護しますッ!」
春花機・ヴァシュカ機がHW達に負けじとAAEM、D−02で支援攻撃を展開する。
「俺達もッ!」
さらにソード機がエニセイ、獅子河馬機が短距離AAMで別方向から攻撃。
四機の支援射撃がHWのフェザー砲撃と青空で交錯する。
その激しい砲火の隙間を掻い潜って、ファイナ機とシン機がスラスターライフルを発射した。
「ブレスノウ起動‥‥逃がしません‥‥」
ファイナ機主軸の強烈な十字砲火。直撃したHW二体が煙を引いて地上に落ちていく。
シン機はさらに加速して接近、対するHWがフェザー砲を放つ。
しかし、シンは方向を変えずに直進、――PRMを全て抵抗に注ぎ込んだ。
「さっさとくたばりやがれッ!」
フェザー砲撃を正面から三発被弾。しかしそのまま強引にシン機は加速してHWを両断、――爆発させる。
残るは最後の一機。
――そのHWがシン機へ砲口を向けた。
「やらせるかッ!」
砲撃直前、獅子河馬機がUK−10AAMを連続発射した。
HWは被弾した衝撃に揺らぐ。そこへ――ブーストを掛けた未早機が一気に距離を詰める。スラスターライフルからソードウイングの連続攻撃。HWは小爆発――完全に息の根を止めた。
「掃討完了です」
「ふう、楽勝だな‥‥」
最後の敵を仕留めた未早が全員に報告し、獅子河馬が胸を撫で下ろす。
会敵から数十秒――辺りにKV以外の影は無くなっていた。
「‥‥終わったか。驚いたな、ほとんど被害無しだ」
「ええ、本当に彼らは強いわ‥‥」
後方。
ライトとヒータは固唾を呑んで空中待機していたが、敵は一体も抜けてくる事は無かった。
「あの中の半分でもウチに居てくれりゃあ、無敵なんだがなぁ‥‥」
クロウ隊のバルト隊長がシミジミ呟く。「まぁ無理ですねぇ」と即答する副長へ、バルト機は体当たりを敢行した。
『ったく、疲れたぜ。少尉ー、今夜の一杯はあんたの奢りな?』
「‥‥ふっ、ああ。何でも喜んで奢るぞ」
シンの言葉に笑いながらライトが答える。
「本当に今回はダメかと思ってたので‥‥皆さん、助かりました」
『‥隊長さん達も色々大変だね〜。ボクらも出来るだけ支援はしますからね』
ヴァシュカの暖かい言葉に少しホロリと来るヒータ。
『‥司令がもうちょっと‥ねぇ‥だったらマシなんだけど、とと‥ボクは何も言ってませんよ〜っと』
続いて漏れてきた言葉には青ざめるヒータ。
この通信はもちろん、作戦司令室を兼ねた管制塔とも繋がっていた。
「‥何か言ったかねッ!」
すぐさまポボス司令のだみ声が全員の耳で暴れる。慌ててヒータとライトが言い訳をしようとしたが、フォローの言葉が全く思いつかなかった。
その中からふと、ラウラが口を開く。
『‥‥危険を乗り越える為に私達が居る。もし軍部の総司令から何か言われたら、傭兵を遊ばせておくほどマシな状況では無いと答えれば良い。‥そう言ったのよ』
「‥‥。なるほど‥‥!」
感心して頷くポボス司令。
「‥‥はぁ。ま、何はともあれ今日も生き残る事が出来た。‥‥基地に降りたら英雄達に乾杯するか」
ライトがおどけた風に笑う。
きっとこの後は、小さなバーで傭兵達と祝杯を挙げる事になるだろう。
彼らにとってそれは、――久々に心休まる時間だった。