タイトル:【NF】孤立無援の町マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/11 06:52

●オープニング本文


「‥‥目標沈黙。周囲に敵影無し。掃討完了だ、大尉」
「ご苦労様です少尉。‥‥また一日、生き延びられそうですね」
 色褪せた片翼エンブレムを付けた二機の交信。やや疲れた声が夕暮れの空に響く。
 そこへさらに、別の野太い声が加わった。
「クロウ隊、被害報告。落ちた奴は居ねぇな?」
 カラスエンブレムに『1』という刻印がされた機が、他の機へ通信する。『2』〜『5』までナンバーを持つ各機が順番に応答して、損傷率を報告していく。
 一番ひどい機体でも中破、ほとんどが小破程度で済んでいた。今回は数で優る上、それなりに場数もこなしたイカロス隊とクロウ隊だ。楽では無いが、難しくは無い戦闘だった。
 地上の荒野には黒い煙を噴き上げている小型HWの残骸。
 四つほど散り散りに地表に埋もれているのを眼下に見て、両隊は基地へと帰還していく。

 アメリカ。
 ワイオミング州の競合地域の一つ、ナトロナ郡。
 その地域でのUPC軍は今、非常に劣勢な戦況を耐え抜いていた。
 ナトロナ群の最大都市キャスパーは、ほんの二ヶ月ほど前までは人類側の主要拠点だった。‥‥しかし、予想外のルートから出現した敵部隊の奇襲によって呆気なく陥落。そのまま占領されてしまう。
 しかもその際、エース部隊である第一機甲部隊――通称「レッドバード」が全滅。ナトロナ軍は地獄の底に叩き落され、希望の光すら失った。
 その時点でナトロナ軍の本拠地は、小規模な前線基地であるベッセマー・ベンドである。
 しかしそこは、南にナトロナのバグア本拠地「アルコヴァ」があり、北にはバグアに占領された「キャスパー」という、敵の二大拠点に挟まれた最悪の場所だった。
 もはやこの方面での敗北は必至――と誰もが思った矢先、思わぬ幸運が転がってくる。
 北米大規模作戦。
 これにより、両軍共に余剰戦力は全てそちらの援軍へと向かい(といってもUPC側に余剰戦力は無かったが)、ナトロナ方面の戦局は膠着状態に陥る。
 その間、ナトロナ軍は与えられた期間を最大限に活かして可能な限り戦力を整えた。一番問題だったレッドバード全滅からのショックからも抜け出して、どうにか軍としての体裁は整う。
 しかし北米大規模作戦も終息しつつある現在、敵の動きは再び活性化しつつあった。


「クソ、援軍はまだか!?」
「ハッ。本部からは‥‥現存の部隊だけでなんとかしろと‥‥」
「ふざけるなッ!」
 通信兵の報告に、ポボス大佐は荒々しく机を叩いて立ち上がる。苛立ちも露わに部屋を歩き回って、八つ当たり的な声を張り上げた。
「現存の部隊なんぞもう壊滅寸前だぞ! 物資も足りてる物なぞ一つも無い! KVだっていつまで稼動させられるか! そもそも戦力自体足りておらん! 違う、足りてないのは何もかもだ!」
 通信兵は首をすぼめてジッと耳を傾けていた。それから冷や汗を浮かべつつ、ポボス大佐の方をチラリと窺う。
 そこに居る敗戦直前の基地司令は、まるで狂犬病に掛かったブルドックのように苛立たしげに部屋を徘徊していた。
 それを見て通信兵は心底嫌そうに、どもりながら口を開いた。
「その‥、先の大規模作戦が思った以上に苦しかったせいで、どこも余裕が無いとかで‥‥」
「そんなもの知った事かっ! ここ以上に苦しい地域なんぞ何処にある! チッ‥‥オリム大将も所詮はドロームの傀儡、無能だな! ハッ、いや今では中将か?」
「し、司令っ‥!」
 青褪めた顔で通信兵が諌める。誰かに聞かれれば逮捕モノの暴言だった。だが、ポボス大佐は気付いた風も無く通信兵を睨み付ける。
「貴様、いつまでここに居るつもりだ! もう一度さっさと援軍を、せめて補給物資を要請しろ!」
「りょ、了解っ!」
 通信兵が慌てて踵を返す。そうして部屋の扉に手を掛けようとした時、ふと扉はひとりでに開いた。
「司令! ワーム級の敵影、上空から高速で接近中です」
 現われたのはイカロス隊副長、ライトだった。微かに表情を曇らせて部屋へ入ってくる。
「敵襲かっ! 敵の勢力は!?」
「サイズは小型のHWです。‥‥それが基地のレーダーで捉えているだけで――十体」
「十体‥‥」
 呻くように言ってポボスが机に手を突く。
「とうとうバグアも本格的に動き始めおったか‥‥っ! これ以上は無理だ、もう耐え切れん! いっそここを放棄して、他州の基地まで逃げ延びて合流した方が‥‥」
「‥‥それでは、ナトロナの住民達はどうなるのですか」
 ふいに響く、凛とした女性の声。入り口から薄汚れたパイロットスーツに身を包んだ声の主、イカロス隊隊長ヒータ大尉がポボス大佐を見据えていた。
「大尉か。‥‥しかしな、我々が全滅すれば同じ事だ。機会があればまた奪還できる事もあるだろう。今は戦力を温存したまま撤退するのが賢明なのだ」
「‥‥失礼ながら、私はそうは思いません。今退けばナトロナは完全にバグアの支配下になりますよね? そうなれば‥‥奪還するのはもはや不可能かと」
「ふん‥‥。しかし、こんな基地がいつまで耐えられる? 全滅しては元も子も無いぞ」
「‥‥耐えれます。耐えてみせます」
 強い口調で訴えかけるように断言するヒータ。
 しかしポボスは、それでも首を横に振った。
「ダメだ、わが軍は急ぎ隣の郡の基地まで撤退する! 今回の戦闘で全機が無傷で帰って来れるかね? KV隊はイカロスとクロウの七機だけだ! そんな戦力では到底基地一つを守りきれん!」
「いや、一応手はありますぜ」
 新たな声。入り口脇から姿を見せたのは大男のクロウ隊隊長バルト。彼は一同を見回して不敵に笑った。
「実はキャスパー方面の途中にあるレッド・ビュート付近で、キャスパーが陥落した時の生き残りが頑張っとるそうです。‥‥レッドバードは全滅ですが、他の部隊にはいくらか生き残りが居たらしいですな」
「そうか、その残存部隊と合流できれば‥‥」
「もう少しぐらい持つわな」
 ライト少尉の呟きに、バルトが頷く。
 だがそれでもポボスは渋面で難色を示した。
「しかし、今現在の敵襲に遭っておるんだぞ! 敵は十体以上。その残存部隊とやらに合流する前に全滅しかねん数だ!」
「‥‥その事ですが」
 ライト少尉が横から声を挟む。
「先ほど通信兵との話が聞こえたんですが、本部からの援軍は当てに出来ないそうですね」
「そうだ、援軍どころか物資すらも難しい」
「それなら‥‥お金だけ出して貰えば良いのでは?」
「金‥‥、傭兵を雇うのか?」
 ポボスは訝しげに眉をひそめる。
「しかし、その許可すら下りんだろう。何しろ‥‥」
「なあに、大佐! 簡単ですぜ!」
 バルトが親しげに声を上げて笑顔を浮かべた。
「後で請求書を本部に回せば良いだけです」
 沈黙。そして一瞬の逡巡。
 しかし、ライトの「敵はもう目前まで迫っていますが」という一言が、ポボスに決断をさせた。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
獅子河馬(gb5095
18歳・♂・AA

●リプレイ本文

「ハッチ開放。‥システムオールグリーン、カタパルト射出準備OK。いつでもKV射出できます」
「了解。パイロット、準備は良いか?」
 西部米国の荒涼とした赤土。そのはるか上空を、八機の輸送機が飛んでいた。
「‥‥了解。一号機、KV射出!」
 輸送機群から次々に機影が飛び出していく。機種はおろか、カラーリングもエンブレムも統一されていない八機のKV。
 ナトロナの空に現われたのは――ULTから派遣された傭兵部隊だった。

「ふぅ‥‥間に合ってくれたみたいだな」
「毎回、この目で確かめるまではヒヤヒヤですね」
 イカロス隊、ライト・ブローウィン(gz0172)副長とヒータ隊長が数km後方からそれを視認する。
『お待たせ。ギリギリ間に合ったみたいね』
 同時に傭兵の一人、ラウラ・ブレイク(gb1395)から入る通信。それにヒータが応答した。
「どうもイカロス隊隊長ヒータ・エーシルです。今回はよろしくお願いしますね」
『ええ、こちらこそお願いね』
 和やかながら緊張感のある会話。当然、彼らがコックピット内で気を抜けるはずが無かった。
『‥‥やれやれ、久しぶりに来てみれば、随分とヤバイ状況になっちまってるじゃねぇの?』
「その声は‥シンか。久しぶりだな」
 ライトがニヤリとほくそ笑む。
 顔は見えずともそのキザな男、風羽・シン(ga8190)が笑ったのは見えたような気がした。
『ま、あの司令の事はどーでもいいが、少尉達に死なれちゃ目覚めが悪いからな。しっかり護ってみせますか』
『うん、隊長さん達は下がっててね。ここは‥ボク達が止めるからっ』
「この声はヴァシュカさん? 来てくれたのね‥。二人とも、助かります!」
 ヘッドセットから響いたヴァシュカ(ga7064)の声も聞いて、ヒータもさらに顔を綻ばせる。
 しかしその二人だけでは無い。他にもイカロス隊と共に戦った仲間達がそこに居た。
「レッドバード隊のようにはなれませんが‥‥同じ機体乗りとして、ここで負けるわけにはいけません! みなさん、お願いしますっ!」
 S−01H『ホワイトナイト』を駆るファイナ(gb1342)が、その純白機を加速させる。
「何としてもここで食い止めないと‥‥。でも、このままじゃいずれ――」
 疲弊しきったベッセマーベンドを見て、夕凪 春花(ga3152)は物憂げに操縦桿を握る。
 その彼女の不安に応えるように、水上・未早(ga0049)が客観的かつ希望的に言葉を紡いだ。
「‥LHを出る直前にレッドビュート方面への救援要請も出てましたし、この局面さえ乗り切れば僅かでも光が見えてきます。キャスパー‥ひいてはアコルヴァ奪回の為にも今べッセマーベンドに手出しさせる訳にはいきません」
「基地にはもう余力が無いみたいですからね。せめてここは俺達だけで切り抜けないと‥‥」
 遠方の敵影を数えながらそう語るソード(ga6675)。その搭乗機、シュテルンには物々しいほどミサイルコンテナが搭載されている。
 そのソードとペアを組んだ獅子河馬(gb5095)も力強く頷いてみせた。
「やってやりましょう! 俺達の力で!」
 その声に傭兵KVが二機ロッテを組みながら加速していく。
 前方では白い入道雲を背景に――十二の敵影が迫る。
 世界各地に火を降り注ぐHWと、それを狩る傭兵達。
 両者が今――会敵した。


 同時、ヴァシュカが全機への通信回路を開く。
「‥交戦空域突入! 距離は約千五百、戦闘開始まで十数秒だよっ」
「了解。兵装1、2、3発射準備完了。PRMをAモードで起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
「ソード機、支援します。思いっきり暴れて下さい!」
 V字編隊の中央、ソード機・獅子河馬機の二機がアフターバーナーを噴き上げて加速する。最前列を追い越してHW群へと急速接近。HWとKV、互いの距離が1000mを切る。
 直後、その二機を狙ったプロトン砲が閃いた。
「‥‥――っ!」
 突出するソード機は容赦なく光条の嵐に晒され、それを辛うじて避けていく。
 しかし、五撃目まで避けた所で――光に閉じ込められるようにシュテルン被弾。六撃目、七撃目がソード機装甲を溶かしていく。
「‥‥それ以上、邪魔させるかぁっ!」
 そのソード機と入れ替わるようにして、獅子河馬の雷電が前へ出た。
 各HWから次々に放たれる五条の光。
 それを獅子河馬機は超伝導アクチュエーターを起動してなお、避けきれない。強烈なプロトン砲撃が雷電を貫いた。
「くっ‥‥。ロックオン全て完了。獅子河馬さん、退避をっ――!」
「りょ、了解っ――!」
 ボロボロになった雷電は咄嗟にブースト。敵のキル・ゾーンを抜け出した獅子河馬機は、一瞬にして機体損傷率が80%を越えていた。
 そして、その身を呈して守ったソード機は今――単機で敵部隊と真正面に対峙する。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
 ソードが操縦桿を握り込む。
 直後、女神が描かれたシュテルン『フレイア』が、その翼を広げるように――ミサイルコンテナを開放した。
 蜂の巣のような無数の小穴から一斉に飛び出す小型ミサイル。千五百の弾頭はただ『フレイア』一機から飛び出すと、大きく膨らみながらHW群に襲い掛かる。
 その圧倒的物量を前にHW五体はなす術が無かった。先頭の一発に被弾すると、それを皮切りに次々とミサイルが着弾。
 小さな爆炎は重なって大きくなり、まるで大爆発を起こしたように空を明るく染め上げる。
 それが静まった後、三百発ずつ被弾したHW五体は――破片も残さず消し飛んでいた。


 その初撃の間、他の各員は敵の両側面へ回りこむ。そして爆発が止むと同時に遠距離兵装を一斉射撃を開始した。
「勝てる戦いでもお遊びは抜き。確実に仕留めていきましょう」
「同感ですね。早期決着で悪い事はありません」
 左翼でラウラ機・未早機ペアがUK−10AAMを敵へ照準する。
 白銀黒尾のフェニックスがスタビライザーを起動、ブルーグレーのワイバーンと共にUK−10AAMを連続発射した。
 その計十発のミサイルが左翼側HW三体へ均等に着弾、強烈な爆発が亀型装甲は大きく吹き飛ばす。その内の一体はオイルを噴き、内部機関が露出するほど致命傷を受けた。
 ――そして、その反対方向でも轟音と共に雷炎が上がっていた。
「‥確かに倒れちゃ再戦は出来ない。けど、下の皆を見捨てて逃げる程には落ちぶれちゃあ‥いないんだよね、これが」
 敵に対して好位置を取ったヴァシュカ。春花へと合図を出すと同時、二人でUK−10AAEMを発射する。
 ミサイルは揺れながら次々に敵を襲い、HW四体へ全弾直撃――青白い炸裂が空に稲光りした。
「手応えありですっ‥!」
 春花が離脱機動を取りながら後方を振り返る。
 それと入れ替わるようにして、S−01Hとシュテルンの二機がループしながら加速していく。
「弾幕展開、風羽さん、いまのうちに‥‥」
「おぅよ! 続くぜストライプッ!」
 一直線に敵へ切り込むファイナ機、やや遅れて続くシン機がUK−10AAMを撃ち放った。
 ミサイルは敵列中心のHWに着弾、そこに僅かな空間をこじ開ける。シン機は自らそこへ滑り込んで――敵を分断した。
 それを見計らってファイナ機の砲口が火を噴き上げた。敵を掃射するように敵に浴びせかけるレーザーガトリング。百五十発の光の雨はHW二体に降り注ぎ、無数の弾痕がその身に刻まれていく。

 しかし、今度はHWのフェザー砲による反撃が空を閃いた。
「被ロックオン確認‥‥もっと、もっと、もっとだっ‥!」
 コックピットに響くビープ音を聞きながら、熱に浮かされるようにファイナが吼える。S−01Hは最小限の動きで軽々と六本の光線をかわした。
 すぐ側では突撃してきたHWに対して、弾幕を張りつつ回避行動をとるシン機。
 ミサイル回避で姿勢を崩し、照準の定まりきっていない一撃目、二撃目をシュテルンが回避する。しかし――三撃目は完全に後ろを取られたのが分かった。
「チッ‥‥!」
 即座にシンはPRMを作動、機体抵抗にエネルギーを送り込む。直後にフェザー砲撃が直撃して装甲が溶けた。
 さらに反対側でも未早機、ラウラ機へ向かって激しい光の束が降り注いでいた。
「ラウラさん、十一時、四時方向から敵です!」
「了解、助かるわ!」
 正面から来る敵砲撃に合わせて右ロールするラウラ機。フェニックスの腹の下を光条が掠め、さらに二撃目、三撃目もかわす。
 さらに真後ろに喰らい付いているHWも、全力減速によってオーバーシュートを狙い――。
「っ、しまった‥!」
 HWは慣性制御で易々と付いてきた。動きの鈍ったラウラ機を格好の獲物とばかりに、フェザー砲を三連射する。
 二被弾の後、三撃目をオーバーブーストで回避するラウラ機。どうにか危機的状況を脱する。
「ダメね‥‥。まだ有人機戦闘の癖が抜けないのかしら‥」
 苦笑いしつつ、気を引き締めるラウラ。
 一方の未早機はHWと一対一の状況で堅実に敵の攻撃をいなしていた。マイクロブーストを使用してフェザー砲の光条に触れさせもしない。
「‥! 支援班、HWが一体抜けようとしてます!」
 ふと未早が反対方向のHWの動きに気付いて、警告する。それをヴァシュカも後方で視認した。
「‥あ、夕凪さん。九時方向ですよ〜」
「え、‥‥あっとっと――?」
 しかし突然、運悪く乱気流に入り春花機は一瞬制御不能になる。
 それを狙いすましたようなタイミングで‥HWはフェザー砲を発射。
 春花機は一撃を被弾。しかし制御回復すると他二発は回避した。

「いたたた‥‥。なんだか納得いかないですね‥‥モードセレクト、アタック!!」
 春花はPRMを二割使用、そのHWへ突貫する。
「‥あらゆる状況を考えて、動じぬ心の手練れたれ‥Sleight of Mind」
 ヴァシュカも自分へのまじないのように呟き、スタビライザーを起動する。そしてHWの一体へDR−2粒子砲を――三連射。
 大口径の巨光が凄まじい威力で敵装甲を消し飛ばす。一撃毎にHWは形を変え、最後には半サイズほどの黒炭に変わった。
 だが、落ちるそれを見届けもせずにヴァシュカ機は方向転換する。
「‥夕凪さん、援護しますっ」
 もう一方のHWへ高分子レーザーを発射。三本の光線に貫かれたHWは、‥‥さらに別方向からも三本の光線を被弾した。
 鈍色の翼を翻して飛来する春花機。
 HWは二方向からの攻撃で動きを鈍らせた。その一瞬の隙へ――。
「そこですッ!」
 天使エンブレムを付けた春花機の翼が振られた。HWは真っ二つに両断され、一瞬のちに――爆発する。
 残り五体。
 その状況から、ラウラ機と未早機がブーストの勢いを活かして敵陣深くまで切り込んで行った。
 ラウラ機、黒尾のフェニックス『Merizim』が半円状に並んだHW達を撫でるように重機関砲、AAMを撃ち放つ。重い掃射を受けて咄嗟に砲口を向けるHW達。
「お掃除お願いね、holger!」
「了解です」
 しかしHW達が狙いをつける前に――その背後から『J』マークのワイバーンが高速で飛来していた。
 前進翼がHWに噛み付き、相手を叩き斬っていく。目にも止まらぬ勢いで一機を撃墜、さらに二機目にも喰らい付いて両断。
 通り過ぎた未早機の後方で、――二体のHWが続けざま爆発した。
 だがHW達も劣勢を覆すべく猛反撃する。フェザー砲の弾幕を展開、活路を見出そうとした。
 しかし――。
「敵1匹も後方には行かせない‥‥全て落としてみせます‥‥」
「当然だ、一匹残らず粉々にしてやらぁ!」
 ファイナ機がブースト、シン機も続いて加速すると光線を掻い潜って突撃していく。
「私達も援護しますッ!」
 春花機・ヴァシュカ機がHW達に負けじとAAEM、D−02で支援攻撃を展開する。
「俺達もッ!」
 さらにソード機がエニセイ、獅子河馬機が短距離AAMで別方向から攻撃。
 四機の支援射撃がHWのフェザー砲撃と青空で交錯する。
 その激しい砲火の隙間を掻い潜って、ファイナ機とシン機がスラスターライフルを発射した。
「ブレスノウ起動‥‥逃がしません‥‥」
 ファイナ機主軸の強烈な十字砲火。直撃したHW二体が煙を引いて地上に落ちていく。
 シン機はさらに加速して接近、対するHWがフェザー砲を放つ。
 しかし、シンは方向を変えずに直進、――PRMを全て抵抗に注ぎ込んだ。
「さっさとくたばりやがれッ!」
 フェザー砲撃を正面から三発被弾。しかしそのまま強引にシン機は加速してHWを両断、――爆発させる。
 残るは最後の一機。
 ――そのHWがシン機へ砲口を向けた。
「やらせるかッ!」
 砲撃直前、獅子河馬機がUK−10AAMを連続発射した。
 HWは被弾した衝撃に揺らぐ。そこへ――ブーストを掛けた未早機が一気に距離を詰める。スラスターライフルからソードウイングの連続攻撃。HWは小爆発――完全に息の根を止めた。
「掃討完了です」
「ふう、楽勝だな‥‥」
 最後の敵を仕留めた未早が全員に報告し、獅子河馬が胸を撫で下ろす。
 会敵から数十秒――辺りにKV以外の影は無くなっていた。


「‥‥終わったか。驚いたな、ほとんど被害無しだ」
「ええ、本当に彼らは強いわ‥‥」
 後方。
 ライトとヒータは固唾を呑んで空中待機していたが、敵は一体も抜けてくる事は無かった。
「あの中の半分でもウチに居てくれりゃあ、無敵なんだがなぁ‥‥」
 クロウ隊のバルト隊長がシミジミ呟く。「まぁ無理ですねぇ」と即答する副長へ、バルト機は体当たりを敢行した。
『ったく、疲れたぜ。少尉ー、今夜の一杯はあんたの奢りな?』
「‥‥ふっ、ああ。何でも喜んで奢るぞ」
 シンの言葉に笑いながらライトが答える。
「本当に今回はダメかと思ってたので‥‥皆さん、助かりました」
『‥隊長さん達も色々大変だね〜。ボクらも出来るだけ支援はしますからね』
 ヴァシュカの暖かい言葉に少しホロリと来るヒータ。
『‥司令がもうちょっと‥ねぇ‥だったらマシなんだけど、とと‥ボクは何も言ってませんよ〜っと』
 続いて漏れてきた言葉には青ざめるヒータ。
 この通信はもちろん、作戦司令室を兼ねた管制塔とも繋がっていた。
「‥何か言ったかねッ!」
 すぐさまポボス司令のだみ声が全員の耳で暴れる。慌ててヒータとライトが言い訳をしようとしたが、フォローの言葉が全く思いつかなかった。
 その中からふと、ラウラが口を開く。
『‥‥危険を乗り越える為に私達が居る。もし軍部の総司令から何か言われたら、傭兵を遊ばせておくほどマシな状況では無いと答えれば良い。‥そう言ったのよ』
「‥‥。なるほど‥‥!」
 感心して頷くポボス司令。
「‥‥はぁ。ま、何はともあれ今日も生き残る事が出来た。‥‥基地に降りたら英雄達に乾杯するか」
 ライトがおどけた風に笑う。
 きっとこの後は、小さなバーで傭兵達と祝杯を挙げる事になるだろう。
 彼らにとってそれは、――久々に心休まる時間だった。