●リプレイ本文
「すぐ出ます。アイドリングのまま給油だけお願いします。それと司令室のほうへ繋いでください。状況の確認を―‥」
水上・未早(
ga0049)が機上から指示を送っていく。
「‥‥チッ、まぁーた七面倒臭い奴が来やがったもんだ。前回の失敗で懲りなかったのかよ」
その間、風羽・シン(
ga8190)は今回の敵へ悪態を吐く。それから通信装置に手を伸ばした。
BC戦闘経験者の言葉に耳を傾け、ラウラ・ブレイク(
gb1395)は眉をひそめる。
「車輪爆弾って前大戦の失敗作だと思ってたけど、異星人が実用化したなんて嫌な現実ね」
「‥たく、また厄介なブツが出て来たって訳? けど、‥‥ココは[彼らの巣]だ‥堕とさせないっ!」
「真琴、無理はするなよ。‥無茶はやるべき時にはするけどな」
基地を振り返って言い放つ聖・真琴(
ga1622)へ、恋人の月影・透夜(
ga1806)が冷静になだめる。
それと同時、『補給完了』の通信が入った。
早速、流星の描かれた天城(
ga8808)機が動き出す。
「夏の終わり‥夏休みが終わっちゃったー! あ‥もう秋休み‥うぅ‥練習してたインメルマンターンで気晴らし‥って気楽にはやれないなぁ‥‥。ロンゲのイケメンの未来の為に、基地は防衛だー!」
悶々な天城を、ヒータは「気合い十分」と頷く。その後ろにライト・ブローウィン(gz0172)機もあった。
ふとブレイズ・カーディナル(
ga1851)はその二機を見つける。
「久しぶりだな少尉、大尉。‥以前会ったときとはまるで状況が変わっちまったな」
「ああ、久しぶり‥ブレイズか。全く、こっちも戸惑ってるよ」
『‥BC活動開始! 急げ!』
「っとのんびり話してる場合じゃ無かったな。まずは目の前の危機から乗り越えるぞ!」
その声に、リディス(
ga0022)がレーダーを注視。
「文字通り猪突猛進、か。
未早、ブレイズ、今度は猪狩りだ――抜かるなよ。8246小隊、出撃する!」
「「了解!」」
KV群が空へと舞い上がる。
彼らが向かう方角には――不気味な影が迫っていた。
「敵KV捕捉‥‥十機。戦闘空域、突入」
青いHW内部で淡々と響く声。
その一キロ先でKV群が二つに割れた。
「下は頼む。上のCWはなるべく早く片付けてくる」
「了解、任せました!」
透夜からの通信に答えて、ヒータ達は着陸態勢に移る。
空班はライト・真琴ロッテ、透夜・天城ロッテに分かれて加速。
対するワーム群は超低空、地上200mほどを直進してきた。
意図不明だがKV部隊もその高度で迎撃する。
そしてある一線を越えた時、全機に怪電波が襲った。
「来るぞ‥!」
叫びと同時に奔る――四つの巨大光条。
CWの影響でKV全機が被弾。閃光が各機を貫く。
特にライト機と天城機は損傷が大きい。それでも、CWを照準に捉えていた。気付いたHW達が射線内へ動く。
「邪魔すンじゃねぇよ、このガラクタぁ〜! くず鉄にしてやンぜ♪」
真琴機が8連装ロケット弾を発射するが、HWは回避。
だがおかげでライト機の射線が通った。
ライト機は特能も使ってCWを攻撃、撃破。
それと同時、もう一方でも透夜機が牽制、天城機がCWへ攻撃する。
しかし、被弾したCWは空中に留まった。
そんなKV達へHW三機から反撃。天城機が一被弾で揺らぎ、ライト機が二被弾して傾ぐ。
だが真琴機と透夜機には大したダメージではない。
それを見た青いHWは、仕留めやすそうな天城機へ砲口を向ける――。
『‥‥ッ!』
慣性制御で青HWが回避運動。白尾を引くミサイルを避けると、オリージュはその飛来方向にフォトン砲を三連射。
一瞬遅れて、フォトンの爆発がそこに居た機体を包み込んだ。
しかし――。
「‥‥。変わった兵器だが、俺には効かないな」
爆炎の失せた空に、『三日月』マークのディアブロが浮び上がる。
一瞬目を見開いたオリージュは、ポツリと呟いた。
『‥‥問題ない』
「こちらも、あまり時間はかけられない。邪魔だ――速攻で落ちてもらうぞ」
僅かな沈黙の後、青いHWと赤いディアブロが砲を交錯させる――。
すぐ頭上で繰り広げられるドッグファイト。
今、バルカンを撃ち放ちながら天城機が喰らい付くように三体目のCWをソードウイングで切り裂く。小さな爆炎を上げて、残骸がすぐ側に落下した。
「実際に見ると本当に出鱈目だな、こいつらは。まぁ‥やりがいはありそうだ。押しだけが強いのは女に嫌われる事を教えてやろうか」
黒円進路上に展開する六機の中心で、リディス機が機銃を構える。
8246小隊とラウラ機が正面で迎撃態勢を取り、シン機とヒータ機は側面に着く。
その地上部隊の視界に、高く砂塵を巻き上げて迫る――黒円。
「目標、射程距離に入りますっ!」
通達と同時、未早がトリガーを絞った。リディス機、ブレイズ機も射撃を開始し、三丁の機銃が火を噴き上げる。
次々と着弾する火線は弾かれたが、――その衝撃はワームの装甲をも強引に穿った。
しかしBCは速度を落とさず接近。ラウラ機が射程に捉えて、射撃を開始する。400発の弾丸を受けて、ダメージを殺しきれない黒円がまた穿たれていく。
だがBCさらに接近。
すぐさまラウラ機がグレネードを構え、両側面のシン機とヒータ機はロックオン。三機が各々の兵装で攻撃しようとした、――刹那。
突如、目前にHWが出現した。
「なっ――っ!?」
地上班と、空班が同時に上げる声。
そのHW四体は空から急降下、高度『0』地点まで降り立ったのだ。
対HWの真琴機と透夜機は当然着陸態勢など取っておらず、墜落手前で旋回。ライト機と天城機はCWの掃討を継続、
「えーい、IRSTで絶対命中だぁっ!」
‥丁度ミサイルとエルロンロールからのソードウイングで、天城機が最後のCWを撃墜した所だった。
だが突然現われたHW達を見て、地上班の全機が一瞬だけ――硬直する。
それはほんの一、二コンマ。
だがBCが迫る時に見せた――僅かな隙。
『‥‥‥‥Your defeats』
オリージュが、あなた達の負け、と呟いた。
その瞬間に撃ち放たれたHW群の砲撃を、各機は反射的に避けた。戦闘慣れした傭兵達の当然の行動。
だがそれが今、仇となった。
砲撃の止んだ迎撃陣へ――ボアサークルが突進する。
「まずい、突破されるぞッ!」
一機、HWから攻撃を受けなかったブレイズ機が、通り過ぎようとするBCにスレッジハンマーを横なぎに振るう。
轟音。
強烈な金属音を響かせると、BC一体を吹き飛ばして地面へ叩きつける。
――しかし、他の三体までは手が回らなかった。
「チッ、何が何でも止めてやんぜッ!!」
シン機がバーニアをフル稼働して垂直離陸、ブーストを掛けて稲妻のように後方へ駆る。
ラウラ機も変形、空高く舞い上がる。
未早機はWブースト、機動力を活かしてBCに並走を試みる。
しかし、リディス機だけが背中を見せずに――ハイ・ディフェンダーを抜き放って対峙した。
「幾ら全てを蹴散らす突進だろうが、このディスタンは越えさせんッ‥!」
アクセル・コーティングの燐光を放ちながら、リディス機が剣を構えて腰を落とす。
そして一拍を置き――両者インパクト。
「クッ‥‥!」
電光のような火花が上がり、ハイ・ディフェンダーが悲鳴を上げる。真正面なら折れかねない衝撃。
しかし、リディス機は角度を付けていた。BCはすぐ真横へ跳ね飛ぶ。その側面へ機刀『セトナクト』を叩き込もうとするリディス。
――しかし、機体の反応は一瞬遅れた。
受け止めた衝撃は要塞化されたリディス機すら無傷で済ませない。装甲が破壊され、態勢を大きく崩す。
故に一瞬の姿勢制御後に振るわれた一撃は――高速のBCを捉えていなかった。
「外したかっ‥!」
リディスが歯噛みし、すぐさま黒円の背中へ機銃を射撃する。
BCは大きく揺らいだものの‥‥倒れるまでには至らなかった。
その隙にオリージュは再離陸して撤退に移る。しかし空では――四機のKVが待ち構えていた。
「ヨぉ‥不死鳥を狩ったのは手前ぇか?」
『不死鳥‥‥?』
オリージュは質問を発してきた機体を見る。
睨みつけるように機首を向けた、真っ赤なディアブロ。
その色はちょうど‥「あの七機」と同じ色だった。
『ああ、レッドバード』
微かに楽しそうな声音で、オリージュが呟く。
『そうよ。私も彼らを狩った内の――、一人』
「一人? ‥‥他にも居るようだな」
透夜が言葉尻を取って言い放つ。
しかし、目の前の青いHWは何も答えなかった。
「アルコヴァで見た時に潰しとくンだったよ‥後悔してる」
真琴が無念そうに顔を伏せる。
だが――。
『‥同じ事。勝つのは私達だから』
ポツリと呟いて、ゆっくりとHW達は加速する。
その進む方角はアルコヴァへ。
『‥‥じゃあね、間抜けな人間』
「ま、どっちにしろ――」
HUD上でLockonを示すシュートキーが点灯を続けている。真琴機は青HWへ向けてブースト吶喊。
「‥手前ぇを帰すつもりはねぇがなっ!」
バレルロールから――ドゥオーモを一斉発射した。
ほぼ全方位から放たれるミサイル群。それでもオリージュは、冷静に弾幕の切れ目を見つけて機体を滑り込ませる。
だがその先に――赤い悪魔ディアブロが先回りしていた。
『‥‥ッ! 01!』
青HWが急角度で上昇する。それにブーストと補助スラスターによる急旋回で真琴が喰らい付いた。機銃の火線を吐き出しながら、剣翼を閃かせる――。
だが、その両者の間に無人HWが割り込んだ。
HWは真琴の連続攻撃を受け止め、爆発。
だがその爆炎の向こうに――青いHWがすり抜ける。
「ちッ‥‥。透夜さん、お願いッ!」
「‥ああ、任せろ!」
請け負い、二発の八式螺旋ミサイルを発射する透夜機。さらに自らブースト吶喊して、機銃を撃ちながら接近する。
『02!』
対する青HWがパワーダイブ。それを追いかける透夜機との間に――またしても無人HWが割って入る。
透夜機の螺旋ミサイル、そして機銃と剣翼がHWに命中し、オーバーキルで爆墜。
青HWは危機を逃れる。‥が。
「そこだー! ロックオン、アターック!」
Wブーストで接近したワイバーンがUKミサイルを撃ち放つ。不意を取られて、青いHWを爆炎が包み込んだ。
『‥軽傷。――03』
オリージュは再度水平方向へ加速する。
追撃の手を緩めず接近していく天城機。ワイバーンの『目』はその相手を完全に捉えていた。
だが最後の無人HWが――両者の間へ強引に割り込む。
天城機のソードウイングはそのHWを切り裂く。破片が飛び散り、――爆発。
だがその向こうには、青HWが遠く撤退する姿があった。
「クッ、これ以上追撃は危険だ。‥いや、それよりも地上は!?」
ライトは眼下へ目を向けると、地上の戦場は場所を変えて。
ベッセマーベンド手前に移っていた。
先頭BC頭上を通り越したシュテルンは、すぐさまフルバーニア着陸。
人型形態に変形、BCと同方向へ全力疾走を始める。
すぐ後ろから猛スピードで追いつく黒円。
その巨体と並走した瞬間、シン機は剣翼を広げて――斜めに跳んだ。
「手前ぇは俺が止めてやるッ!」
ブースト、ありったけの燃料でPRM剣翼強化。黒円へ真横からの体当たりを掛けた。
強烈な衝撃と耳障りな金属音。
「つっ――!」
激しい火花を上げて吹き飛ばされ、赤土を切り裂いてシュテルンが地面を滑っていく。
しかしその前方で。
同じく派手に吹き飛んだBCが――地面に横向きに倒れた。
その両者の間を風が通り過ぎる。
高速で走り続ける黒円と、Wブーストで追いかける四足のワイバーン。激しく揺れるコックピットで、未早が冷静に距離を測る。
「百、八十、六十‥‥」
長い長い距離をひた走り、基地の門が前方に薄っすら見えた辺りで。
ようやく未早機が頭一つ飛び出した。
「――今ッ!」
四足のKVが地を蹴って飛びかかる。
全体重を掛けてアイギスで突進、背中のソードウイングで黒円側面を切り裂く。耳障りな音と火花が辺りに吹き上がる。
そのまま未早機は回転に巻き込まれて地面へ激しく叩きつけられた。痛々しく転がるワイバーン。
だがBCもバランスを崩すと、円を描いて廻り――。
そして最後には轟音を響かせて――倒れた。
残るBCは一体。
リディスに受け止められてやや遅れたそれが今、ベッセマーベンドまで1kmを切った。
だが、その頭上を追い越してラウラ機「merizim」が基地三百m手前に到達。空中変形して――着地。
衝撃でラウラ機の全身が沈む。姿勢制御、衝撃吸収、各種システムが作動――十秒間レスポンス不可能。
「‥‥でもそれじゃ、間に合わないのよね」
BCは目前。数秒で基地に突っ込む位置なのだ。
ラウラは「Merizim」のブラックボックス、スタビライザー発動。
機体安定化が図られ、システムレッドからイエロー。同時、フェニックスが立ち上がる。
その時点でBCまで距離――五十。
素早く右手に射出される練剣『雪村』。それをラウラ機が強く握りこむと――。
「もう少しだったわね。‥ご愁傷様」
目の前を通り過ぎる黒円へ、強烈な光柱が横薙ぎに奔る。
高速のBCは真っ二つに割れて――強烈な閃光を放った。
帰還後。
交戦データを提出した空班が、廊下の休憩所でくつろぐ地上班を見つけた。
「あ、お疲れさまです」
ヒータが差し出す缶ジュース。
それを受け取りながら、透夜がイカロス隊の二人に目を向ける。
「指令と司令部があんな状態じゃ二人も大変だと思うが、手を尽くして頑張ってくれ。ここが落ちたら後がないしな」
「‥‥連中、何が何でもここを堕とすつもりの様だからな‥‥上等じゃねぇか、こう見えても俺は諦めの悪さじゃ人一倍って自負してるんでね。そう簡単に思い通りにゃさせねぇぜ」
胸の前で拳を叩きながらシンが吐き捨てるように言う。
そのすぐ隣から、ブレイズが困惑したように顔を上げた。
「だがレッドバードが全滅したって話、本当なのか。‥正直ちょっと信じられないな。一緒に戦ったのは一度だけだがあいつらの実力は確かだった。‥‥できれば、生き残ってて欲しいとは思うが‥」
少し途方に暮れたように顔を伏せるブレイズ。その斜め前方では、未早が窓からひしゃげた自機を見ていた。
「RB隊‥‥」
拳を握り締めて真琴が呟く。
「まぁ‥‥敵の口振りからすると、本当に全滅したようだ‥な」
ライトの言葉が一瞬の沈黙を生む。
だがすぐに天城が口を開いた。
「で、でもとにかく今日は勝ったし、大丈夫ですよっ」
「そうですね。あの青いHW‥‥次に会ったら叩き落としますが」
リディスが紫煙を吐き出して言い放つ。
「でも今回は制圧に向けた総攻撃、というには緩いわね。まるで猫が追い詰めた獲物をいたぶるみたいに。‥‥バグアらしいやり方だけど」
ふと漏れる、ラウラの言葉。
それが基地の空気に溶けて。
――消えていった。
NFNo.008