●リプレイ本文
上空から迎撃に向かうKV群。
「あのタコ親父、いくら我が身が可愛いからって友軍見捨てかけるってのはどうしようもねぇな。‥‥わざわざ奴の言い分に付き合う義理もねぇ」
風羽・シン(
ga8190)が小さく鼻を鳴らして、レーダーに目を落とす。
「休む暇なしか‥未早、連戦だがKVの調子は問題ないか? 終わったら何か美味いものでも食べにいこう」
小さく溜め息を吐きつつ、リディス(
ga0022)が僚機に声をかける。
水上・未早(
ga0049)はそれを快諾した後、気持ちを戦闘へ移していった。
(「防衛戦を強要されるだけの現状ではベッセマーベンドが落とされるのも時間の問題‥どこかに反撃の糸口を見つけないと。
奴等がその驕りに胡坐をかいている今、エースを落とす数少ないチャンスである今回は絶対に逃さない‥!」)
決意を燃やす未早。その横で雑賀 幸輔(
ga6073)のディスタンが戦闘モードへ移行する。
「‥数的不利を覆すのは、確かな連携力と奇策。敵を自由にはさせない。俺が戦域を作る。任務は確実に遂行する。‥作戦開始」
そして両者は、とうとう視認できるほど近付いた。
「これ以上、暴れるのは許せませんっ」
小さく眉をひそめた夕凪 春花(
ga3152)が、シュテルンのコックピットからワーム群を見下ろす。
「ああ、好きにやらせるかよ。――ここで行き止まりだ」
月影・透夜(
ga1806)がFCSを起動、臨戦態勢に入る。
「この機体に、乗ろうと、思った、切っ掛けは、レッド、バードの、方々に、憧れて、です。
あの方達、には、遠く、及び、ませんが、必ず、守って、みせ、ます!!」
メタルレッドのS−01Hを駆りながら、ルノア・アラバスター(
gb5133)が必死に言葉を紡ぐ。
「執拗なまでに破壊を尽くす‥貴方達には‥‥。
さすがの私も我慢の‥限界です。
これ以上の破壊は――私達がココで止めるっ」
怒りに震える聖・綾乃(
ga7770)の瞳が、氷よりも冷たく――敵を捉えていた。
腕を振る黒ゴーレムに合わせて、空に光柱が打ちあがる。KV群は散開して回避。前後に四機ずつ分かれた。
「タートルが鬱陶しい‥舞台に乗らなきゃ始まらねえんだよ!」
幸輔機が上空から牽制射撃。TWの一体はそちらへ反撃した。
敵前面では綾乃機の滑腔砲による支援を受けながら、三機が着陸。最後に綾乃機も続く。
「着陸、成功。状況、開始、しますっ‥!」
SSライフルで敵へ牽制しながら、ルノア機「Rot sturm」は味方機と共に前へ走る。
「えっと、モグラは‥‥」
春花はディスプレイ上で敵を数え、足りない分を地表走査して探す。
綾乃機は後方四機の着陸支援の為にCWとTW方面へ射撃。
透夜機は前面に展開するゴーレムへ弾幕を張る。
「亀とCWは任せるしかないな。‥頼む」
透夜の視線の先。
敵の後背で、残りのKVが降下していった。
「雑賀機、着陸完了。これよりダンスを始める!」
地上に着陸した幸輔機、未早機、リディス機が、敵の背後へブースト突撃していた。
三人を襲う不快な怪電波。そして――二体のTWが砲身を動かす。
「‥‥ッ!」
閃光。
二手に分かれた内、CW班の未早機と幸輔機が巨大な光条に叩きつけられる。
「チッ、――貴様らの相手はこちらだ!」
一機、TW鼻先に迫ったリディス機が跳躍。大型プロトン砲へ――剣の一撃を叩き込んだ。
悲鳴を上げて形を変える砲身。
さらに着地したリディス機は振り向きざま機槍を振るう。
‥が、機槍ブースターが不作動。「ジャム」った愛武器にリディスが舌打ちした。
「‥おいおい、大丈夫かよ姐御ッ!」
「ああ、問題ない!」
TW二体の頭上を飛行して牽制するシンは、別の理由で舌打ちした。
「けっ、にしてもこっちはガン無視かよ‥‥良い度胸してらぁ!」
TW達は攻撃が命中し難い空中のシン機を、脅威度が低いと判断していたのだ。
それに気付いたシン機はすぐさまTW近くへ垂直着陸、地上からTWへ攻撃した。
『うぜぇ‥‥。前後から挟撃かよ、ボケがッ』
前後で飛び交う火線。そのただ中でガリアは無人機へ指示、操作する。
そして黒ゴーレム自身はモグラ五体を率いて後方へと駆け出した。
「CW二機撃破ですっ」
未早機の機槍は、瞬く間にCW二体を爆散させた。
同じく後方から弾幕を張って幸輔機がCW一機を撃破する。
しかし幸輔は未早機へ声を荒げた。
「木偶人形が近付いているぞ、Holger!」
「ッ――!」
警告とほぼ同時、二連射された紫の光が未早機を溶かす。
さらに、地中から姿を現した五つのドリルが突撃した。
『CWはこっちの要だぜぇ!? 簡単にやらせねぇよぉッ!』
「くっ‥」
未早機はモグラ二体までを機盾で防いだが、残りの攻撃を被弾。
「ふん、相方を途中退場させるつもりは無いんでな!」
幸輔機から放たれる肩砲。それがモグラの一体を吹き飛ばす。
しかしすかさず黒ゴーレムが応射。幸輔機は避けきれずに被弾する。
火線と刃が交錯しあい、CW班はやむなく対応に追われた――。
その様子を前面班の四機が苦々しく確認する。
四機が交戦するゴーレム達とは距離を取った撃ち合いになっていた。
「攻撃、回避!」
ルノアの報告。全機の機体損傷は軽度だ。
しかし――戦果も芳しくなかった。
シュテルンが全弾を撃ちつくす。だが春花はリロードせず、全機へ呼びかけた。
「このままじゃ‥‥各個撃破されますっ。突撃しましょう!」
返事の代わり。三日月マークのディアブロが剣を抜き放った。
「綾乃、モグラは頼む。数は相手の方が多い、連携で死角をカバーするぞ」
「はい、邪魔者は排除します。月影さんはゴーレムを叩いて下さい!」
アンジェリカがその背後に着いて、体勢を整えた。
――全機一斉ブースト。
高く砂を巻き上げて四機は敵へ肉薄する。
真っ赤なS−01Hが400発の弾丸を豪雨のように撃ち放った。
「彼らの、代わり、には、少し、でも!!」
ルノアの心に焼きついた『赤いエース達』の姿。
それをなぞるように機体特能を発動させて機動、目の前のゴーレムへ――機槍黒竜を突き出した。
だがそれを、ゴーレムは辛うじて急所を外す。被弾しながら反撃のフェザー砲を三連射した。
「つっ‥‥」
咄嗟にPフィールド展開、ダメージを軽減するルノア機。
しかしその背中へ、不意に地中から現われたモグラの巨大ドリルが突進を掛ける。
激しい衝撃。
火花が散り、甲高い金属音が響いて――春花機のヒートディフェンダーが敵のドリルと拮抗していた。
「背中は私が守りますっ!」
そう叫んで力を押し込むと、剣とドリルは弾き合う。
さらに振るった春花機の一撃。しかし、それはCW電波に妨害されて空を切る。そんな二機へ降り注ぐゴーレムの弾丸。
それでもなお、二人は戦闘行動を継続する。
別のゴーレムへ吶喊する透夜機と綾乃機。
そこへ不意に地表を突き破って現われたモグラが、透夜機へ襲い掛かった。
だが、透夜機は敵を無視する。敵ドリルが今にもディアブロを貫く――その瞬間。
後ろからブースト突進する影。淡色の青と白のアンジェリカが、その敵へ体当たりを掛けた。
きりもみしてドリルに機体を削られながらも、――モグラの背中へ剣を刺し貫く。
しかしそれだけでアンジェリカは止まらない。別方向からもう一体のモグラが出現していた。
「次々とっ‥邪魔だ! そこで悶えていろ!」
ブーストの残り香を使いつつ、数mの距離を一瞬で踏破する。
そして透夜機を狙うドリルに身体をぶつけて強引に狙いを外すと。
滑腔砲をモグラに押し当てて――引き金を引いた。
後方からの炸裂音。
それを耳にしながら、透夜機は目前のゴーレムに接敵した。
直後、敵から振り下ろされる斧の一撃。それに反応して透夜機も剣を振るう。
甲高い剣戟音。
だが両者の武器は伯仲――しなかった。
「一気に押し切るッ。穿たれて吹き飛べ!」
AF発動。ディアブロの赤熱を帯びた剣が、斧を砕いてゴーレムの胸を貫いた。さらに剣から手を離した腕に装填される、‥赤熱の機杭。
透夜機は即座に一歩踏み込んで右ストレートを放つ。FFに守られたゴーレムの顔面に拳が食い込んだ、直後。
電磁誘導された高速の機杭が――ゴーレムの頭部を吹き飛ばした。
一体のTWが擱座する。
休む間も無く、KV二機はもう一体へと肉薄していた。
「‥昔は苦労したが、今となっては梃子摺っているわけにもいかないのでな!」
「オラァ、ひっくり返してやんぜッ!」
機銃を撃ち放って接近するリディス機とシン機。その二機へ、TWは副兵装の戦車砲を連射する。
シン機は直撃しつつ反撃。亀の真正面に回ってロケット弾を頭部に撃ち放つ。十六発の爆炎がTWの顔周りを覆った。
「今だ! やっちまえ、姉御!」
即席の目眩まし。
それに気を取られたTWは、――側面から突撃を掛けるリディス機に対して反応が遅れた。
ディスタンの握るグングニルが柄後部から火を噴き上げる。
最大加速からの必殺の一撃。
全てを貫くその槍が――TWの甲羅をも深々と穿った。
灰色のディスタンは血のように噴き出す液体を浴びながら、そのまま両手を振り上げる。
「幾ら甲羅が硬かろうが、今の私には関係ないな‥!」
その手の中で吼える機刀『セトナクト』が、一閃。
それはFFも甲羅も切り裂いて、――TW内部機関を破壊した。
「‥‥ッ!?」
ガリア機の放つ一撃が未早機の盾に当たる。今まで直撃しか許さなかった、攻撃が。
戸惑うガリアが視線を巡らすと、TWと戦闘していた二機のKVが――CWを全機撃破していた。ジャミングが晴れたのだ。その他無人機も次々撃破されている。
撤退だ。
ガリアがコンソールに片手を伸ばす。無人機を盾にする命令を出そうとして‥‥動きを止めた。
ゴーレム達と乱戦を繰り広げるKV達が、ガリア機とワームの間に割り込んで立っている。敵が邪魔で呼ぶ事ができない。
明らかに対策された――敵の作戦だった。
『そこだッ!』
「ぐっ‥‥!?」
突然の衝撃がガリア機を襲う。
ジリジリ距離を詰めていた幸輔機が最後の10mをブースト接近。肩の剣翼を翻らせて黒ゴーレムを切り裂く。
体勢が崩れたゴーレムを、ディスタンはそのまま押し倒して馬乗りになった。
「幕は下りたぞ! チェックメイトだッ!」
肩を押さえつけ、敵の鼻先に肩砲を突き付けるディスタン。幸輔がトリガーに力を込める。
『‥‥チェックメイト、だと? ククク、なら――盤ごと引っくり返してやるぜぇっ!』
「ッ‥‥!?」
歴戦の幸輔にハッタリは通じない。
だから、確かに異常を感じた。
「っ‥‥! 全員、注意、を!」
ルノアが全機へと警告。敵が唐突に攻撃を止めたのだ。
だが傭兵達は、無人機が指揮官機の盾になる可能性を考慮して作戦を立てている。
「‥‥来るなら来い、それこそ俺達の計算通りだ」
透夜機が腰を落として突進に備える。同じように全機が身構えた、その瞬間。
動きが起こった。
「なっ‥!?」
予想外の行動。ワーム達は散開して身を翻すと、全速でガリアとは逆方向へ。
――パウダーリバーへ、進路を取った。
「わ、まずいっ‥! モグラを追跡しますっ!」
春花機がすぐさまブーストで敵を追いかける。しかし、散開して走る敵は、とても少数のKVで叩けるモノでは無い。
「‥‥そんな。‥っ」
綾乃が振り返り黒ゴーレムへ険しい視線を投げる。
‥そして、振り切るように前を向いて敵を追いかけた。
「ッ‥‥! だが、お前は逃がさんぞ!」
幸輔機の肩砲が炎を噴く。
しかし黒ゴーレムは直前に思い切り身をよじった。砲弾は頭部を避けて、肩の装甲へ食い込む。
同時に射撃の反動でわずかに浮いた幸輔機を地面へ転がすと、黒ゴーレムはそのまま立ち上がる。
「‥‥っ、待て!」
幸輔機の射撃。黒ゴーレムも応射しつつパウダーリバーと逆方向、――撤退へと移った。
それに気付いたリディスが機銃を射撃する。
「臆病者が、逃げるのかっ!?」
『黙りやがれ! 次はブチのめしてやるぜ! ガリアだ、俺の名を覚えとけっ!』
言いながらガリア機が全速で走る。
「けっ、口だけは達者だぜ‥‥!」
シンが悪態を吐いてモグラを追跡。リディス機と幸輔機も黒ゴーレムを断念、モグラの後を追う。
しかし、一機。
「ダメージコントロール、完了。システム、稼動に支障無し。‥‥名前なんて覚える必要ありません」
ボロボロになった未早機だけが反対を向く。
「――Holger、敵指揮官機を追撃します!」
ワイバーンが駆け出し、Wブーストを発動して――加速した。
『あぁ‥‥!?』
ガリアは追跡されている事に気付き、全速で引き離そうとする。
しかし、機動力に誇るワイバーンは――その背中に追い縋った。
「――逃がしませんッ!」
未早機が飛びかかる。展開するのは全体重と速度を乗せた、ロンゴミニアトの一撃。
それが黒ゴーレムの肩を貫いて、――爆炎を噴き上げた。
『‥クソ、しつけぇんだよこの犬コロがぁッ!!』
慣性制御を最大使用したガリア機の反撃。
その斧の強烈な一撃で未早機の盾がひしゃげ、悲鳴を上げていた骨格フレームの一部が衝撃でヘし折れる。
ワイバーンは崩れ落ちるように倒れた。
「‥っ! あともう少しだけ‥‥動いて下さいっ‥!」
額に血を滲ませてコンソールを操作する未早。だが、次々にシャットダウンするシステム。
そして――機体は戦闘状態を終了した。
『チッ、‥‥トドメは刺さねぇでやる』
既に数機のKVが追いかけて来ていた。正直、トドメを刺す余裕は無いのだ。
‥‥しかし手を伸ばせば届く距離から、少しずつ遠ざかるガリア機の姿。
それを未早は‥‥唇を噛んで見送るしか無かった。
‥‥傭兵達がパウダーリバーへ帰還する。
満身創痍で機を降りた未早が、リディスに肩を貸されて立ち上がる。駆けつけた医者が軽傷の判断をすると安堵の空気が流れた。
それから帰還報告に向かう傭兵達へ、基地の人員は熱烈な歓声で迎えた。
アイドルで、今は英雄でもある春花へむさ苦しい男の声が飛ぶ。
その隣で愛機を本物のレッドバード機と間違えられて、ルノアは少し照れたように俯く。そんなRB隊を信奉する基地の兵士達へ何かを言いかけて――顔を背けた綾乃。
‥数時間後、一息吐いた全員がデブリーフィングで集まった。
戦果報告をしながら、透夜は黒ゴーレムに一太刀も浴びせられなかった無念に目を閉じる。
その横で幸輔も今回の戦闘を振り返って、問題点などを全て洗い直していく。
そして会議も一通り終わり、会話が雑談に変わり始めた頃――。
慌てたように入室してきた士官が、ベッセマーベンドで能力者のライト少尉が重傷を負った事を告げた。
静まり返る会議室。
いやその直後に、壁を叩きつける音が響く。
先ほどまで雑談していたシンが、険しい顔で無言のまま――会議室を出て行った。
傭兵達の活躍で危機を乗り越えた、パウターリバーの戦場。
しかし戦線は飽く事無く――次の場所へ移行していく。
NFNo.009