タイトル:今世紀KV伝説マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/30 06:43

●オープニング本文


時は200X年。
世界は、バグアの恐怖に包まれた!


●彼の頭に落ちてくる
 北米某所。
 同地の小さなバグア基地指揮官が、日本某所に居る司令官からある話を聞いた。
 悲劇は連鎖してしまう。


●あまりの光景に鼓動早くなる
「なんだ‥‥あれは‥‥」
 ある前線競合地帯で廃墟の警戒に当たっていた軍曹が呟いた。
 双眼鏡で覗く世界。その中には十体程度のゴーレムが居た。
 しかし、問題はそこでは無かった。
 いや、廃墟をバグア拠点の一つに作り変えられかねないのでゴーレムが居るのは十分に問題なのだが、しかし軍曹が危機を感じたのはその部分では無かった。
 それはゴーレム達の異様な風貌。
 明らかに標準的なゴーレムでは無い。そう、亜種だ。
 頭部にはモヒカン状の突起、肩と肘にはプロテクターを着けて、やたら物々しいドクロの装飾などがあらゆる部分に見られる。
 そんな似たようなゴーレムが――十体ほども居るのだ。
「‥て、敵の新型か‥‥? 出来るだけ情報を集めねば‥‥武装は‥‥?」
 軍曹は双眼鏡の倍率を最大にする。
 ゴーレム達が手に持ってるのは、基本的には重火器。
 なぜか廃墟であるはずの建物や空に向けてやたらに射撃しているので、大体の判別は出来た。
 ショットガン、ボウガン、火炎放射器、さらに近接用に斧のような物を持っているようだ。

●真実求めさ迷う心
 他に兵装は無いかと観察を続けていると、ふいにゴーレム達の様子がおかしい事に気付いた。
 お互いに顔を向け合い、人間で言えばそう‥‥まるで喋っているような‥‥。
「‥‥何か会話を‥‥?」
 本来ならば有り得ない。ゴーレムなどのワームともなれば、無線などで会話できるはずだ。
 しかし念のために軍曹は指向性マイクを向けてみる。
 距離が遠い為に音が入り辛かったが、必死に微調整を繰り返すとそれらしき音声が鼓膜を叩いた。
「これは‥‥何か喋っているぞ‥‥」
 重要な情報かもしれない。
 そう直感した軍曹は、一字一句聞き漏らすまいと耳を澄ます。
『ザザ‥‥ザ‥‥。ジジイ‥‥そこをどけぇっ‥‥!』
『‥‥ザザ‥‥。なぁにぃ〜? ‥‥聞こえんなぁー? ‥‥ザザ』
『‥‥ザ‥‥ヒャッハッハァー! このゴミどもがぁっ‥! ‥‥ザザ』
 ――軍曹はイヤホンを外す。
 そして目頭を抑えて視覚を閉じ、いくつか音を立てて自分の聴覚が正常な事を確かめた。
 ゴーレムの外部スピーカーから発せられるのはごく機械的な合成音声。恐らく有人機は居ない。
 しかもやたらと憎たらしい男の声だった。
「‥‥一体あれは‥‥どういう事なの‥‥」
 軍曹の思考は混乱を極めた。

●全ておかしくて無惨に飛び散る常識
「クソッ。ともかく、基地にこの事実を伝えないと‥‥」
 軍曹が双眼鏡を最後まで覗きながら、後退しようとする――。
 とその時、彼の目に新たなる異様な光景が飛び込んできた。
 建物の脇からふいに姿を見せた三体のゴーレム。
 両手に銃を構え、胸の前でクロスさせるように給弾ベルトを身体に巻きつけ、一見してかなりの重武装が伺える。
 しかし異様なのは――真っ黒に塗り潰されたようなゴーレムの頭部。
 いや、違う――アレは。
「――――アフロだ」
 アフロゴーレム三機は怒り狂ったように空へ向けて機関銃を乱射する。
 そしておもむろに背中のバズーカを持ち上げると、無意味に廃墟のビルへ強烈な一撃を見舞った。粉々に砕けるビル。まさに怒りのゴーレム。
 余りに異様な光景だった。
 観察を続けていた軍曹は気がつくと身体が震えていた。
 キメラやワームで溢れ返る戦場、地獄のような血の海を見た事も一度や二度ではない。
 それでも歴戦の軍曹の背中には冷たい何かが通り過ぎたのだ。
 ――何かとんでも無い事が起こっている。
 ――――言葉では言い表せないような、何かが――。
「状況だ‥‥、誰か状況を報告してくれ‥‥アレは一体‥‥」
 軍曹はうなされるように辺りを見回す。
 もうこの状況は、彼一人には処理しきれる問題では無かった。

●自分の理性守るため軍曹遠のく
 ‥‥基地の守衛は、偵察に向かった軍曹が錯乱したように戻って来るのを見た。
「大丈夫か軍曹! しっかりしろ、どうした!?」
「‥‥しゅ、守衛‥‥も‥‥あ‥‥」
「なんだ、聞こえん!」
 守衛は熱病にうなされるような軍曹を必死に介抱しながら、その口元に耳を近づける。相手は何かを伝えたがっていたのだ。
 軍曹は辛そうに声を振り絞った。
「恐ろしい‥敵‥‥だ。頼む、KVを‥‥。アフロとモヒカンが‥‥十三‥‥脅威レベル――A」
「軍曹っ!? しっかりしろ、軍曹!?」
 守衛が軍曹の頬を叩く。だが、既に気絶していた。
「脅威レベル――A、だと‥‥?」
 呟いて守衛は無線のスイッチを入れる。
 脅威レベルA。
 KV戦闘、しかも傭兵の助けを借りねば達成できない作戦難易度という事だ。
『こちら作戦司令部。どうした?』
「緊急事態発生。偵察に向かっていた軍曹が錯乱した状態で帰還。脅威レベルAの敵と遭遇したようです」
『了解。敵の詳細は?』
「アフロとモヒカンです」
『‥アフロとモヒカン‥‥だと?』
‥‥一通りの事情を聞いた作戦司令部は傭兵の雇用を決定。

 No.666 オペレーション『HYAHHAA』

 ――――その書類に今、正式な判が押された――。

●参加者一覧

流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
藤堂 紅葉(ga8964
20歳・♀・ST
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
九条・嶺(gb4288
16歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

●ボロ布の機体

「ヒャッハッハァ〜〜!!」
 廃墟の街をヒャッハーゴーレム(HG)達が駆け巡る。崩れ落ちていくビル群。
 だがそんな彼らの前に、ふとボロ布を纏った機体が姿を現した。
『ね、燃料‥‥』
 よろめきながら現われたその機体頭部には、モヒカンが無い。
 当然HG達はそれを見咎めた。
「おい、ちょっと待て貴様ぁ!」
「ん〜〜? 貴様KVか? この街はバグア様が支配する街なんだがなぁ〜?」
『ね、燃料を‥‥』
「燃料だとぉ? よぉ〜し、廃液オイルをくれてやるぜぇ!」
「「ゲッヘッヘッヘ」」
 HG達にとっては最低に下劣な仕草で、先頭のHGが廃液タンク放出口を開ける。
 そして下卑た笑い声を上げながら目の前の機体を取り囲んだ。
 一方のその機体は諦めたように立ち止まり、ボロ布の中で俯いていた。
「ほらぁ、ちゃんと顔を見せやがれぇ! あ〜ッ!?」
 HGがボロ切れを掴もうとした、まさにその時。
 素早い動きでボロ布のKVがその腕を掴み上げ、逆の手でHGの横っ面を殴りつけた。
「ぶべらぁッ!?」
 雷光が炸裂してHGが倒れる。
 一瞬唖然となった後、他のHG達は騒ぎ出した。
「て、てめぇ〜〜!?」
「舐めた真似をしやがってぇぇ〜!」
『‥‥‥‥』
 だがそのKVは落ち着いた様子でボロ布を剥ぎ取る。
 そこへ吹き抜ける一陣の風。
 ボロ布は風に流されて消え、ポーズを決めたKVが姿を見せた。
『微笑み忘れた人々の痛み。今、その身に刻みます』
 毅然と腕を組んで立つ流 星之丞(ga1928)のナイチンゲール。
 あまりに堂々としたその姿にHG達は異変を感じた。


●廃墟に響く阿鼻叫喚
「遮蔽物確認、ルート地形算出‥‥砲撃地点、確認」
 上空のテト・シュタイナー(gb5138)機からデータを受け取り、夜十字・信人(ga8235)の迷彩仕様シュテルンは配置に着いた。
「囮にまんまと引っ掛かるか。個性的なゴーレム達の悲劇が始まったな‥‥」
 星之丞機がHGを攻撃した事で、各所に潜伏していた仲間達も行動を起こし始める。
 テト機から最終データを受信して信人は頭上を仰いだ。
「‥‥テト君、戦場のデータは受け取った。空に咲くか、煙幕の花、彼女はもう、降りている」


 テト機が地上へ向けて煙幕装置を発射、HG達のすぐ側の脇道から激しく白煙を噴き出した。
『俺様、空から〜降りて来〜る〜♪』
「なんだぁ!?」
「な、なんか降って来やがったぁ!!」
 騒ぐモヒカン達。イカれた外見とは裏腹にアクシデントには弱かった。
 そんなHG達を尻目に、白煙の中から薄っすらとその機体は姿を見せる。
「な、何者だ、てめぇっ!?」
 HG達の問いかけに――彼女は断固とした大声で答えた。
『敢えて言わせて貰おう! テト・シュタイナーであると!』
「「て、テト・シュタイナーだとォッ!?」」
 モヒカン達が訳も分からず反芻する声。
 ‥‥その驚きも冷めやらぬ間にふとその頭上に影が差した――。


『この時代は弱肉強食。弱い奴は強者に搾取されるのが運命なのさァ‥‥』
「「こ、今度は誰だぁっ!?」」
 叫びながらHG達は背後を振り仰いだ。
 砂まみれの廃墟を見下ろしてビルの上に立つ、一機のシラヌイ。
 胸にペイントで巧みに描かれた七つの傷が生々しく、機体頭部だけがヘルメットのように赤く塗られている。
 悪党めいた相手に一瞬沈黙するHG達へ、そのKVは不満げに声を荒げた。

『私の名を言ってみろ!』

「「‥‥え!?」」

 胸の傷(のペイント)を指差して放たれた藤堂 紅葉(ga8964)の言葉に、HG達が詰まる。
 すぐさま紅葉機は両腕を下へ向けて‥‥拳弾を発射した。
「ぶべらっ!?」
「ひ、ヒィ!?」
『バカどもがっ! ヒャーッハッハッ、ゴキブリは叩き潰すに限るぜぇ!!』
 悪魔めいた、いや悪魔の声が廃墟に反響する。
 その紅葉機の掃射が落ち着くなり、HG達は反撃態勢を整えて顔を上げる。
 だが、そこには新たな漢が降り立っていた。
「なっ、いつの間に――!?」
『軍曹をやったアフロにモヒカンども‥‥てめぇらに生きる資格はねぇー!!』
 劇画調に顔が濃くなった鷲羽・栗花落(gb4249)の憤怒の叫びが、大地を切り裂くように響き渡る。
 その野太い声に、HG達は武器を構えたまま明らかに怯んだ。
「う、や、やっちまえ〜っ!!」

『貴様らなどこの指だけで十分だ‥‥!』

 栗花落機はドラゴンヘッドスマッシャーを構えて宣言すると、炎と矢弾が降り注ぐ中へ跳躍。
 しかし着地すると同時、火炎放射器の業火が包み込んだ。
「ふへへへ、馬鹿めーっ!」
『‥‥むんっ!』
 だが栗花落機は炎をものともせず、HGの腕を粉々に砕く。
「な、な、なぁっ!?」
 戸惑うHGへ更なる螺鋼の拳を振るう栗花落機。
 連打、連打、連打。
 数秒も経たず、――HGはボロクズのように崩れ落ちた。
『貴様らの体、原型すらも留めぬっ‥!』


 その漢の咆哮を皮切りに、四方から中心のHG達へ向けて苛烈な攻撃が始まった。
 前から星之丞機が拳を閃かせ、後ろから紅葉機が拳弾を撒き散らす。
 側面からはテト機がOBで接近、膝蹴りでよろめかせた後に零距離キャノン&レーザーを発射した。
『人呼んで、――シュタイナースペシャル!!』
 叫びと同時に、モヒカンがその場に崩れ落ちる。
 拳を握りポーズをつけるテト機。
 だがその背後へ影が迫っていた――!
「調子にぬぉりやがってええぇぇぇ!!」
 恐ろしい叫びと共にHGが振り上げる釘バット。
 しかし信人がその敵を捉えていた。

『スイッチ一つでシャットダウンさ』

 弾ける装甲。トリガーを引く度に、HGはダンスするように後ろへ下がっていく。
「野郎ぉぉっ!」
 その信人機へ別のHGが迫る。
 だが廃墟の影からクラーク・エアハルト(ga4961)機がマシンガンを構えて躍り出た。

『さて、野党狩りと行きますか? ‥‥汚物は消毒せねばならんな?』

「なんだぁ貴様ぁ!? そこをどけぇ!!」
 ボウガンを放ちながら突進してくるHGへ、逆にクラーク機も銃撃をあわせて――ブースト。
「ぬぉう!?」
『さあ、全力でいこうか? この一撃、貴様に耐えられるかな?』
 練機刀『月光』の白閃がHGのボウガンごと腕を斬り飛ばす。茶色のオイルが噴き出し、神経線らしきホースが火花を散らして傷口から飛び出した。
「うぎゃあああああっ!! こ、このヤロォ!」
『っ、ベラベラ喋るな‥‥。貴様らの様なゴーレムが居てたまるか』
 クラーク機がトドメとばかりに振り上げる刀。つられてHGも上を向く。
『おっと残念だったな? 本命はこっちだよ』
 刀はフェイント。
 シラヌイは腰のマシンガンをHGの腹に押し付ける。
「うぇっ!? ‥ひぎぶっ!」
 くぐもった炸裂音が響き、HGはくの字に体を折って倒れ伏した。


『ひゃっほー!』
 違う場所では、ガトリングナックルを撃ち放ちながら九条・嶺(gb4288)機が太陽を背に跳躍する。
「ち、ちくしょう! どこに行きやがったぁ!?」
 相手を見失い、デタラメにショットガンを放つHG。
 だがその背中を、衝撃が貫いた。
「ぬ、ぬあぁにぃ!?」

『Welcome to this crazy world(このイカレタ世界へようこそ)』

 振り返る先。
 嶺機の強化された徒手空拳の一撃が、HGの肩当を突き破り装甲を砕いていた。
「ぐそがぁっ!」
 HGが後ろへ薙いだ斧に手応えはあったが、そのまま流れるように嶺機は打撃。火を噴くガトリングの二重奏がHGの装甲を吹き飛ばす。
『わが拳は我流、ゆえに無型、ゆえに誰にも読めぬ――!』
 嶺の無軌道な攻撃はモヒカンを圧倒した。
 乱暴に振り回すHGの斧。それらは雲を切り裂くように受けられ、手厳しい反撃が飛ぶ。
 そして激しい肉弾戦の末、HGはとうとう大きくよろめいた。
『とったあ――!!』
 嶺が奥義の名を叫びながら、モヒカンの体へ繰り出す双掌打。
 同時にパルマとガトリングの砲火音が轟き、両手を置いたHGの腹がズタズタに裂けた。
「ふげばぅっ!!」
 貫通した背中からオイルを撒き散らして、HGは――大の字に倒れた。



 その乱戦の場から少し外れた場所で、三体のHGに骸龍が囲まれていた。
『本当にアフロとモヒカンですね。えっと、ひゃっはー』
 挨拶の如く棒読みで言うレイヴァー(gb0805)に、HG達は首を傾げて声を荒げる。
「カッコ良いだろぉがあ〜〜!?」
「土下座しろぉ!」
「焼却されてぇかあ〜?」
 敵の声を無視してレイヴァーは煙幕を展開。
 突然煙に包まれたHG達は、「ぬお!」とか「ぐわ!」とか怯みながらデタラメに引き金を引いた。しかしそれらは地面か、もしくは仲間に当たる。
『ふふふ、愚かな方々だ‥‥。よし、調子に乗るなら今のうち!』
 同士討ちするHG達の一体に突撃し、機槍で襲撃するレイヴァー機。
 ‥‥さらに近くの物陰で信人機が潜んでいた。
『俺の射線に味方はおらぬっ!』
 連射でゴーレムの体に風穴を空けると、コソコソと次の狙撃ポイントへ向かった。

 次第に晴れていく煙幕の中。
 その場に立つのはレイヴァー機とアフロ一体だけだった。
『おや、もう貴方だけですか』
「う、ウオオオオォォ!!」
 湾曲刀で激しい攻撃に出るアフロ。骸龍はそれを回避する。
 猛攻。回避。猛攻。回避。
 ――しかし、次第にHGの刃が掠め始めた。
「砕け散れぇぇぇぇ!!」
 完璧な手応えで繰り出す渾身の一撃。
 しかし、その瞬間――レイヴァー機は消えた。
『‥カウンターのコツは、タイミングとハートだそうですよ』
 ブーストを展開して敵の側面に回りこんだ骸龍が、アフロの脇腹へ槍を貫いていた。
 刀を振り下ろすと同時、HGは膝を突く。
「ぐふ‥‥。そんな、‥た、助けてくれぇ‥」
『‥‥いいでしょう、お逃げなさい』
「え‥!? お、恩に切るぜ旦那ぁ!」
 哀れっぽく立ち上がり、アフロは歩き出す。
「‥‥クッ、覚えてやがれぇぇっ‥‥」
 直後に小さく呟かれた悪態には、恩への感謝など微塵もなかった。
 しかしレイヴァーにその声は届かない。
 ただ弱々しく去ろうとする敵を見て、――引き金を引いた。
 蜂の巣になってHGは崩れ落ちる。
『逃げろとは申しましたが、逃がすと宣言した記憶はございませんよ』
 涼しい声を響かせて骸龍は身を翻した。


●地獄の掃討
『星之丞機の背後に敵機、テトお前が一番近い、走れ! また一人、アフロがやってくる!』
『OKだ! 足を止めてくれ、全力で突っ込む!』
 荒廃した十字路に硝煙が漂い、瓦礫の側から信人機が砲声を噴き上げる。反対方向からはテト機が走り出した。
 走りながらテトはグレネードを撃ち放つ。
『お前のアフロは倍になる!』
 炎が吹き荒れた後、そこには宣言通りチリチリになったアフロが居た。
「て、てめぇっ! てめぇっーー!!」
 アフロはHGの命だった。半狂乱になりながら、標的をテトへと変えてマシンガンを撃ち放つ。
 だがテトも冷静に迎撃した。
『今から、動力機関部を突いていく!』
 肩砲を展開、敵の胸に一撃を叩き込む。空気が震えた。
『‥ふむ、この箇所では無いみてぇだな。捨ててこい!』
 さらに強烈な轟音が響いて、火線吹き荒れる場所へHGを吹き飛ばす。
 その頭上にクラーク機が立った。
『チャンスを逃がすつもりは無い。ここが貴様の終焉だ』
「まままて、ま‥ぐげぁっ!」
 もがくアフロの胸へ月光の刀身が突き立つ。
 そこへさらに嶺機が両腕を振り上げた。
『このイビルアイズの目をもってしてもアフロという男を読めなかった』
 存在意義とかその他諸々、驚愕してそう呟き、嶺機はアフロの頭部を――叩き潰した。

 その頃、星之丞機はモヒカンと拳を交えていた。
『く、仕方ない。切り札を‥‥』
「何ブツブツ言ってんだあっ!!」
 重い一撃を星之丞機が両腕で受けた途端――
『あたぁ!』
 HGは何かに被弾した。
「な、何だ!?」
『食らえっ‥!』
 直後、星之丞機が繰り出す拳。
 HGの全身に絶え間ない拳弾が炸裂する――!
『あーたたたたたたたたた‥た、KV百烈拳!』
 よろめくHG。
「‥く、ま、まだだぁ‥!」
 だがそれでも立ち続けようとする敵へ、冷静な一突きを加える。
『無駄です‥お前はもう、壊れている』
 キュピーンと雷光が走りHGの頭部が吹き飛んだ。

 風に舞う砂塵。
 そこで栗花落機と対峙していたアフロが、僅かな沈黙の後に大斧を構えて突進した。
「ウオォ!」
『むんっ!』
 栗花落機はドラゴンヘッドスマッシャーで攻撃を受け止め、武器を粉砕。
 そのまま敵の体を受け止めて――背中を深く貫いた。
『鷲羽鋼裂把! アジュールの指は鋼鉄の装甲すら引き裂く!』
「ぐ、おぉ‥!」
 血を噴きながら膝を突くアフロ。
『貴様の残りはあと三秒だ、その三秒で自分の罪深さを思い知れ』
「‥ふっ、最期、か‥‥」
 余りのダメージの大きさに、抜け落ちたアフロが一塊となって砂に落ちる。
 しかしその声はどこか安らかだった。
 直後、栗花落機のドリルがHGの頭部を粉砕する。
 減速するドリルに絡み付く――真っ黒な繊維。
 栗花落は憂いを帯びた表情でそれを見た。
『フン、髪が泣いておるわ‥‥』
 良き宿敵の亡骸に、栗花落は黒塊の繊維を優しく落とした。

「み、見逃してくれぇ‥!」
『‥‥良いよ、行きな』
 紅葉に促され、残った二体のHGは走り出す。
 だが一歩も行かない内に、一体の背中をチェーンファングがなぎ倒した。
「ぐべぇ!?」
『ケケ、約束は破るためにあるんだよ‥っ!』
 無慈悲に拳弾を撃ちながら近付く紅葉機。HGの落としたショットガンを足で拾う。
『組織時代を思い出すねぇ。こりゃ幾らで売れるかね?』
 戦利品を分捕って悦に入る横で、HGは這って逃げようとする。
『‥‥ひゃっはー、ですよ』
 その頭上に槍を振り上げるレイヴァー機の黒い影。
「げぇ!?」
 直後、頭部への衝撃と共にHGの視界は暗転した。

 最後の一体は脱兎の如く逃げる。後ろからはKV達が火線を吐きながら追ってきた。
「くそ、くそっ‥‥。っ!?」
 不意に立ち止まるHG。
 前方の廃墟の影からゆらりと信人機が現われた。
『俺は‥‥俺は支援に疲れている!! ならば‥‥正面しかないっ!』
 叫びながら突き出した槍が――HGの腹部を貫く。
「ぐおお、俺様が! こ、こんな所どぅぇ〜‥え?」
 気合いと共に槍を抜いたまでは良かったが、その鼻先にも。
 砲口が突きつけられていた。
「へ、ほひ‥?」
『引き金はもう、引いている』
 信人の宣言と同時、HGの上半身は後ろへ吹き飛んだ。

●戦乱の果てに
 病室、ベット脇の無線機から‥‥彼らの声が響いた。
『脅威は無事、排除致しました。繰り返します。あの脅威は無事に排除致しました』
『悪は滅んだ‥軍曹よ、貴様もまた孤独。安らかに眠れ‥』
『俺様は、どんなKVでも誰よりも早く操縦できる天才だぜ‥!』
 それらを聞き、寝込んでいた軍曹が起き上がる。看護婦の制止を振り払い、窓際に駆け寄った。
 夕陽に照らされた荒野には、帰還する八つの影があった。
「‥明日だ、彼らこそ明日の希望だっ‥!」
 重き宿命をも叩き伏せる真の漢達の姿。

 絶望的な乱世を駆け抜ける彼らに、――軍曹の涙が光った。