●リプレイ本文
赤土の大地上空を二つの編隊‥調査部隊が飛行していた。
「‥‥こちら骸龍。現在順調だ、撤退してくる部隊の為にも拠点物資をしっかり確認して来ようぜ」
索敵に集中しながら、Anbar(
ga9009)が各機に檄を飛ばす。
「うん、この状況だもんね。とにかく敵に秘密拠点の存在を気付かれないように、周辺警戒は怠らないようにしよう」
アーク・ウイング(
gb4432)もAnberに同意しながら索敵に力を入れた。
作戦では五つの秘密拠点を二手に分かれて調査する。だが途中までは同じルートだ。
現在敵影は無し。雑談する余裕まであった。
「‥‥そん時だ、俺がゴーレムを一刀両断‥」
「ウヒュー、スゲェ!」
山崎 健二(
ga8182)の滔々とした語りに、偵察部隊が歓声を上げる。
思わずライト・ブローウィン(gz0172)が浮かべる苦笑。
ふとそこへ、通信ランプが光る。
「ライトさん、お体はダイジョブですか〜? 無理してヒーターさん泣かせたらダメですよ〜? ふふ‥」
「な、何をっ!?」
ヴァシュカ(
ga7064)の言葉に物凄く焦るライト。墓穴である。
そんな中、風羽・シン(
ga8190)は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「‥‥チッ、新しいオモチャが手に入りさえすれば、壊れたオモチャは用済みってか? あそこを護る為にどれだけの人間が血を流したと思ってるんだ‥‥あー、マジでムカつくわ!」
誰がとは言わないものの、差している人物は明白。その怒りも正当なモノである。
(「なんだか独特な雰囲気だな‥‥気を引き締めないと」)
水上・未早(
ga0049)が胸元のHolgerバッジに何となく触れる。
集中の仕方は人それぞれ。臨む心構えに絶対は無い。そして、それで良い。
全員がプロなのだから。
ずれた眼鏡を外すと同時、未早の顔から表情は消える。
「‥‥全機へ。第三拠点、SB3まで残り10kmです」
即座に各機から「了解」の応答。
部隊前方に、最初の目標が見え始めていた。
九機の編隊がSB3頭上を通り過ぎていく。
それにやや遅れて来た十機編隊が、SB3上空を緩やかに旋回した。
周辺に敵の気配は無い。念入りに索敵した後、健二機を除いたKV三機が地上へ降下する。
「降下完了‥これより周辺警戒しつつ拠点へ向かいます。‥[鷹の目]さん? 空からの索敵お願いしますね☆」
聖・綾乃(
ga7770)機はSBの川を挟んだ反対側2km地点に降り立つ。
未早機とユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)機の二機は、SB3のすぐ直近に降下した。
「確認、だけで良いのかとりあえずは」
冷静を装いつつ、「秘密基地」の響きに胸をワクワクさせるユーリ。
‥だが彼が目にしたのは、ポツンと川岸に立つ監視所だけだった。とはいえ、メインは川底に沈められた物資。
二機はすぐに川へ侵入して、捜索に入る。
「‥ありました」
川底に隠された物資コンテナを未早が発見した。
ユーリ機が近付き、未早機が物資に前足を掛けた瞬間。
――突然、二機は強烈な閃光に包まれた。
轟音と共に幾本も立ち上がる水柱。
震動を与えた物資は大爆発を起こし、さらに周辺にも大量の地雷が仕掛けられていたのだ。
「くそ、なんてこった!」
「大丈夫ですかっ!?」
健二機が空から、綾乃機が陸から声を掛ける。
その呼びかけに応じて、水の中から二機は無事に立ち上がった。装甲の一部が吹き飛んでいたものの、稼動に支障は無さそうだ。
しかしSB3の物資は――跡形も無く消え去っていた。
「通信だよ。‥‥えと、SB3は敵の手に落ちてたみたいだね」
「了解。こっちも問題発生だ」
第二班、Anberの通信が響き渡る。こちらの編隊はSB4に到着しようとしていた。
だが運の悪い事に、目標地点付近に敵を探知。辛うじて目視した所によると、HWが三機だった。
「相手も気付いたぞ。殲滅か?」
「‥あ、ボクに振っちゃって下さいな。囮で引き付けますんで〜」
言うが早いか、ヴァシュカ機はブースト。突出してHW三機へAAEMを掃射した。
直後、勿忘草色の機体に淡紅の光条が激しく連打される。後方で息を飲む仲間達。
しかしヴァシュカ機は光柱の中から飛び出すと、SBとは離れた方向へ移動を開始する。不調を思わせる不安定な飛び方だったが、反して機体の見た目は被弾前とほぼ変わらない。
ヴァシュカ機を追って動き出すHW達。囮は成功だった。
敵が離れたのを確認して、後方で控えていた本隊が動き出す。
すぐさまSB4付近をAnberが偵察カメラでチェック。
確認が済むとシュテルンの二機、アークとシンは地上の木を掃射でなぎ倒して垂直着陸。
降機してSBへ向かった。
「何か居るよ‥‥? 気をつけなきゃ」
ほの暗い木々の間に、時々動物の陰が映るのをアークの暗視スコープが捉える。
警戒を強めた二人は、SB4倉庫の前に辿り着く。手早く周辺に目を走らせてから、刀を構えたシンが倉庫の扉に手を掛けた――。
直後、アークが横へ超機械αの引き金を引く。
迸る雷撃。木の陰から飛び出した獣キメラが空中で爆ぜた。
その断末魔の代わり、扉を開けたシンの報告が、声帯通信機を通じて全機へ伝わる。
「チッ‥ここも外れだな。撤収する」
倉庫の中。
そこにある物資は散乱し、破壊され尽くしていた。
軽い失望を覚えたのも束の間、‥突如林に遠吠えが響き渡る。SB4周辺に集まり出す――危険な気配。
「逃げよう!」
二人は反転して駆け出した。
逃すまいと木々の間から飛び出すキメラ達。数体の群れが間断無く二人に襲い掛かる。
それらを払い除け、焼き焦がし、また駆け出す。
SB近くに垂直着陸したのが幸いした。二人はすぐにシュテルンの下に到達。
すぐさま乗り込むと、KVを起動。四連バーニアを噴かして二機は空に舞い上がり――キメラの包囲を脱した。
「HWニ機接近! 時間を稼ぎます。調査後、速やかに移動を!」
「俺も視認した。そんじゃちっとばかし寄り道してくるんで、後ヨロシク〜」
第一班。敵との遭遇に綾乃機と健二機が対応する。
後方に仲間を残し、綾乃機はブーストでHWに接近。叩きつけられるプロトン砲撃を、スラスター、緊急ブースターを噴かせて機敏に回避。
そのまま旋回すると、HWを引き付けてSB方面から引き離していく。
だが小さな丘を通り越した直後――その陰から不意に大型キメラが飛び立った。
「‥っ!」
三体のキメラの連続攻撃。怪鳥の爪に切り裂かれ、体当たりに綾乃機が揺らぐ。
ここぞとばかり、天使エンブレムを的にして狙いを付けるHW達。
だが二体の攻撃より一瞬早く――数十発の弾丸がHWを穿った。
「やらせねぇぞ、っと」
追いついた健二機の援護。
直後にHWは砲撃を放つが、態勢を立て直した綾乃機はスレスレで回避。
さらに体当たりを掛けてきたキメラを――逆に剣翼で切り裂いた。
「目障りだ‥消えて貰おうか‥」
SB2からは既に1km以上の距離。綾乃機は敵と対峙する。
その横から嵐のようにレーザーを連射して、健二機がキメラの一体を仕留めた。
「敵を選んでたらフラストレーション溜まるなコリャ。‥‥落としちまうか」
そう呟き、健二機もHWに狙いをつけた。
直後、激しい攻勢に出る二機。
レーザー、ライフル、砲撃の火線が飛び、キメラを切り裂き、HWを爆砕させていった。
‥その頃、後方SB2では未早機とユーリ機が調査を行っていた。
湖の浅瀬に沈められた物資。未早機が機槍で突付いて、爆発しない事を確かめる。異常が無いと分かると、二機で岸の方へ押し出して行く――。
『‥おい、水中だ! 後ろ!』
「え‥うわっ!?」
だが偵察部隊の通信と同時、ユーリ機は衝撃を受けて水中に倒れ込んだ。
緑がかった薄暗い水中。そこには伏せつつユーリ機に槍を打ち込んでいる――水中用ゴーレムが居た。
「待ち伏せ‥!? ここもダメだったのかッ」
敵の武器を跳ね除け、立ち上がろうと水底の泥に手を突くユーリ機。しかし槍を引き、再度ゴーレムが槍を繰り出す。
だがそれと交錯する形で、機槍「ロンゴミニアト」がゴーレムの頭部を直撃。鈍い爆音が響き、大量の気泡が水中に散った。
「ここも放棄しましょう!」
未早が叫びながらトリガーを引く。ゴーレムは他にも複数居た。
ユーリ機も立ち上がると機関砲で水中へ牽制、そのまま岸へと向かう。
ゴーレムの攻撃をかわしつつ、岸に上がる二機。それでも敵は追ってきたが、陸では水中用ゴーレムは敵では無かった。
剣翼、機槍などを駆使した近接戦で早々に殲滅。そのまま二機は離陸すると、SB2も放棄。
最後のSB1へと向かう。
Anberの逆探知の活躍で、敵と会敵する事無く第二班はSB5に到達。
先ほど囮となったヴァシュカ機とも合流し、万全の態勢で上空を飛行する。
周辺に敵が居ない事を確認すると、ヴァシュカ機だけが偵察部隊の護衛に残り、他の三機は丘の麓に着陸。降機して調査に向かった。
SB5倉庫の扉は半ば開いていた。Anberが探査の眼を発動、注意深く周辺に目を走らせる。問題無し。
アークが暗視スコープで中を覗くが、生き物の気配は無い。
シンは入り口前で屈み込み、侵入者の気配が無いか埃の状態を確かめた。しかし特に痕跡は見当たらない。
三人は目配せをして頷く。
扉を開き、慎重に倉庫内へと進入した。
「‥おい、今――」
だが一歩入った途端、シンの耳を微かに叩いた機械の駆動音。
直後、探査の眼を使用したAnberが、天井に張り付いた小さな機械を発見する。
「アレは‥!? 点滅してる!」
「外へ出よう!」
アークの声で全員退避。
直後に起きた爆発‥‥は、想像以上に小さかった。爆竹が破裂した程度だ。
――しかし、異常は上空から。
「‥マズイですね〜、複数の機影がこちらに接近していますよ。みなさん、すぐに離陸をっ」
ヴァシュカが三人へ通達する。
‥仕掛けられていたのはバグアの警戒システム。侵入者を感知すると、周辺のワームにそれを伝える装置だ。
つまり――SB5も罠だった。
SB1。
健二機が上空で索敵、綾乃機はSB施設の後方20mで待機していた。
第ニ班から入る報告に、健二は歯痒そうに拳を叩く。
「‥くそっ、SB4と5は外れ。しかも敵部隊の襲撃を受けているらしい!」
「そんな‥‥まだ十五分も経って無いのに‥」
健二からの通信に、綾乃は表情を暗くする。
一方、生身でSB1を調査する二人は監視所を調べていた。
「ここに罠は‥無さそうですね」
ユーリが探査の眼で中を覗く。あるのはスクラップ機材ぐらいだ。
「あ‥そこを見て下さい」
だが未早が指差した物陰。
そこに目立たないように、ポツンと足跡が付いていた。埃を被り始めていたものの、他の場所よりは明らかに新しい。
「‥こちら調査班、罠の危険が高まりました。綾乃さん、援護をお願いします」
『了解です』
綾乃がキャノピーを開放して、機上から銃を構える。
後方から見守られながら、ユーリと未早は倉庫の前に辿り着いた。
中からは微かな物音。ただのネズミか、それとも‥‥。
「とにかく‥開ける」
しっかりと武器を構え、ユーリが引き戸に手を掛け。思いっきり――引く。
暗い倉庫内へ射し込む光。
直後、その中ではびこる――数十、百匹近い巨大ネズミが、入り口を一斉に振り返った。
長い、一瞬の沈黙だった。
巨大ネズミが動き、ユーリが反射的に引き戸を閉める。衝撃音が響き、戸は大きく歪んだ。
「綾乃さん、砲撃をっ!」
未早が要請、同時に二人で後方へ駆け出す。
直後、倉庫を吹き飛ばす115mm砲弾。
しかし半壊した倉庫からは生き延びた幾十のキメラが溢れ出た。
未早が小銃を掃射し、ユーリが刀で払う。赤いFFが発光し、死骸を乗り越えて迫るキメラの群れ。
武器を振るい、止まらずに駆け抜ける。綾乃の援護も受けながら、どうにか二人はKVに搭乗。
登って来るネズミを振るい落としながら、二機はその場を離脱した。
第ニ班。
アーク機の螺旋ミサイルがHWに着弾、激しい炎を噴き上げて撃墜する。
「掃討完了だよっ」
「よし、方位280が一番薄い! 転進!」
Anberが逆探知を最大限に駆使、敵の隙間を探し出して部隊を先導した。
SB4上空を飛び越し、高速で九機編隊は帰路につく。
しかしそこへ襲い掛かる――HWと大型キメラの群れ。
「この方向以外無い、突破する!」
Anber機が正面HWの一体に火線を吐いた。
被弾しながら立ち塞がるHW三機。
その両端へとAAEMの雷光が閃光する。
「邪魔ですよっと。あ、ホークスアイの方々はくれぐれも無茶しちゃダメですよ〜」
SESエンハンサーと空戦スタビライザーを起動したヴァシュカ機が――荷電粒子砲、連射。
中心に居たHWは大光条に包まれ、溶解した塊となって大地へ落下していく。こじ開けた隙間を偵察部隊が通り抜ける。
アーク機、シン機は両翼を固め、近付こうとするキメラを容赦無く撃墜。
修羅場を切り抜けて基地へ急いだ。
だがすぐに――第二波接近。
「方位340へ! 三キロ進んだら、すぐに方位300に戻す!」
Anberが必死に帰投ルートを模索する。
だが敵の包囲網は狭まり、厚さを増していた。
時々戦闘機の近くを掠めていく光柱。偵察部隊は煙幕装置をフル使用、さらにライト機もミサイルを三発使っていた。
必死の努力もあって、未だ奇跡的に被害はゼロ。
しかし、残り三十キロ地点で。
‥Anberのレーダーは、全方位に敵を検出していた。
「おい、また正面突破すんのか!?」
「他に‥道が無いんだ!」
シンの叫びに、Anberも叫び返す。後方・側面からも敵が迫り、偵察部隊より先行する事もままならない。
「‥それじゃ、せめてボクが」
言い放ち、ヴァシュカ機が単独先行。しかし十対一、無茶だった。AAEM二発の応酬は――プロトン砲撃の十発。
三本かわした後、ヴァシュカ機は集中被弾した。目も眩む激しい閃光。さらにHW部隊がニ撃目の砲口をヴァシュカ機へ向ける。
だが突然――HWの一機が爆炎に包まれた。
「悪い、待たせたな!」
黄金の双翼エンブレムを付けたディアブロ。健二機が――炎を上げるHWの頭上へ舞い上がる。
さらに次々とHW達に衝撃が走り、爆砕。
その後ろから未早機ワイバーンが、綾乃機アンジェリカが、ユーリ機イビルアイズが――姿を見せた。
「管制終わりだ。こっからは力ずくで進む」
Anberは逆探知機能を切り、スロットルを押し込んだ。
「よっしゃあ、んじゃ突破すんぞッ!」
「うん、行くよー!」
シン機、アーク機が偵察部隊を援護して派手な弾幕を展開する。
加速する偵察部隊。KV八機がそれを援護すると、敵の砲撃は戦闘機を捉える事無く空を切っていく。
『イヤッホー! さすが能力者だ!』
『痺れますねぇっ!』
包囲網を抜けたホークスアイの通信は、割れんばかりの歓声で溢れた。
部隊は、広い空へ突き抜ける。
‥その後、敵勢力は減少。部隊は無事に基地へと帰り着いた。
被害は無し、調査も無事に成功。
不備は無かったものの――秘密拠点は全て敵に発見されていた、という不気味な結果を残して。
NFNo.012