タイトル:【初夢2】ジャム祭り☆マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/21 01:59

●オープニング本文


●傭兵諸君、油と火薬の匂いが煙る戦場へようこそ。


 タイトルからしてほのぼの感が漂っているように見えるが、だが申し訳ない。落ち着いてよく見て欲しい。
 初夢2――つまりは夢オチ。
 私の夢オチに、ネタはあってもほのぼのは無いんだ。すまない。
 だがもし良ければ、釣られたついでに最後まで見て行って欲しい。
 うん、有名な格言にも「毒を喰らわば」という言葉があるしね。
 どうか怒らず冷静な思考で、この依頼について検討して見てくれ。


『※ このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません』


●OP本編
 さて、戦場におけるジャムといえば、アレである。そう、あの鬱陶しい奴である。
 銃を取る者ならば、誰もがあの忌々しい出来事に嫌な思い出の一つや二つはある事だろう。いや、逆に命拾いした記憶なのかもしれない。
 だがどちらにしろそれは、全く予想外の出来事。滅多に無い事のはずだ。
 そのはずだったのだ。
 しかし今、なぜか急に戦いの神様がご乱心になった事により――その常識は覆されたのである。

戦神「うおおおおあああああああああ!! 戦いの果てに何があるんだよ!! 畜生、戦争なんて大嫌いだよッ!! 畜生畜生畜生うううひゃあああああううええええええおおおおおおッッ!!!!」

 戦いの神様――ご乱心。
 これにより宇宙の法則は乱れ、戦場には敵味方関係なく暗い影が落ちたのだった。


●凶夢、悪夢。
 その日、その戦場では怪奇が相次いだ。
 空は紫に染まり、夕陽が緑色に変わる。
 まるで世界の終焉――ラグナロクが訪れようとするかのように。
 誰も望まない悪夢が、新しい夜明けと共に世界を包み込んだ。

「奴らだ! また奴らが現れた!! 誰か本部へ連絡を! 早くしろおおお!!」
 斥候班の軍曹が、遠くへ見える異形のワームを見て声を張り上げる。
 つられて他の隊員達が目が向けた先には――。

『ヒャッハー!』
『‥‥‥‥‥‥』

 周囲を威圧するように腕組みして立っている、モヒカンゴーレムとアフロゴーレムの一群。
 呆気に取られる隊員達を尻目に、軍曹は自ら基地本部へと通信を試みる、――が。
「くそ! ダメだ、ゆ、指が震えて、上手く打てん!」
 あまりの恐怖からか何度も通信に失敗する軍曹。
 その声を聞いてようやく我に返る周囲の隊員達。すぐさま軍曹の怒号が飛ぶ。
「敵に見つかるぞ、頭を下げろ!」
「りょ、了解うわああああああ!!」
 隠れようとした隊員の一人がつんのめり、ゴロゴローっと丘の斜面を転がり落ちていく。
 その様をモヒカンゴーレムの一体がしっかりバッチリ捉えていた。
『ぬぁんだぁ〜? 随分と楽しそうな奴ぐぇえッ!』
 一歩を踏み出そうとしたゴーレムが岩に躓いて思いっきり転倒。それに巻き込まれて他のゴーレムも次々に転倒する。
「今だ、今の内にジョニーを助けに行くぞうわああああああ!」
「りょ、了解うわああああああ!!」
「隊長、トーマスーーーうわああああああ!!!」
 次々に丘から転がり落ちる斥候班の隊員達。厳しい訓練を積んだはずの熟練兵達が、わずか十度かそこらの緩やかな斜面をゴロゴロと転がっていく。
 戦況はまさに泥沼化。
 しかしどうにか、斥候班の一人が本部基地へとKV要請を送った。

●生命の行方は不運の名の下に
 KVを要請してから約五時間後の事である。
 出撃に掛かる様々なアクシデントを乗り越えて、ようやくの事で十機の正規軍KVが姿を見せた。
 その間に斥候班は当然の如くゴーレムに追いかけられたが、どうにか全員が生き延びていた。とはいえ何人かは骨折したり血を流したりしている者も居たが、全て銃が暴発したり転倒した時の負傷で、敵による攻撃のモノでは無い。
 むしろ、なぜかモヒカンゴーレムの方が一機大破していた。
「KVだ! KVが来た!」
 軍曹が空を指差して歓喜の声を上げる。
 それに答えるように、キザなパイロットの返答が空から降り注いだ。
「‥‥待たせたな同志。安心しな、一分で片付けてやる。まぁ本物のKV戦闘ショーを肴に酒盛りでもしててくれ」
「ひゃっほーーー!! 痺れるーーー!! 言ってくれるぜチクショーーーウ!!」
 斥候班はやんややんやの大喝采である。
 しかしそれもそのはず。彼らの視線の先で、不細工に折り重なって倒れるゴーレム達はどう見てもやられ役。何の反抗もできずにヒーローにやられる雑魚に過ぎない。
 KV部隊はゆっくりと降下を始める。
 そしてそのまま、華麗に着陸を――失敗。
 大破。
 炎上した。
「‥‥え?」
 呆気に取られる斥候班達の目の前で、着陸に失敗した八機のKVは大爆発を起こす。
 一瞬で大惨事へと様変わりした戦場で、辛うじて二機のKVだけが人型形態に変形してライフルを構えた。
「よくも仲間をぉぉ!!」
『ぬうぉぉぉぉぅ!!』
 KV、そしてモヒカンゴーレムが砲口を互いに向け――引き金を引く。
 直後、両者は同時にジャムった。
 二機は薬莢を強制排出して、もう一度撃ち直す。が、やっぱりジャム。
 それを二、三度繰り返した後、ゴーレムのライフルの性能が勝った。発砲成功。さらにKVのライフルが暴発を起こすというダブルパンチ。
 焼け焦げたKVはその場に崩れ落ちる。
「ま、負けるかああああ!!」
 最後のKVがディフェンダーを抜き払って駆け出す。
 ――が、仲間の破片に躓いて転倒。
 しかも運悪くディフェンダーの刃が上を向いて体の下へ――。
 胸から背中まで機関部を貫くディフェンダーの刃。
 KVは背中から血のようなオイルを噴き上げて、沈黙した。
『ヒャッハー! 虫ケラにも劣るゴミどもだぜぇ!』
 そう言って、動かなくなった機体を蹴りに行こうとするモヒカンゴーレム。
 が、破片に躓いたゴーレムはそのままKVに覆い被さるように倒れ込む。KVの背中から生えるディフェンダーに急所を貫かれ――機能停止。
「‥‥そ、そんな、まさか、全滅だと‥‥?」
 軍曹が首を振りながら一歩後退りする。
 それから、通信機に飛びついた。
「メーデーメーデー! 助けてくれ! KV部隊は――全滅した!!」
 軍曹は叫びながら、思う。

 ‥‥ああ、そうだ。忘れていた。
 戦場が、いつも報告書のようにクールだとは限らないって事を。
 本当の現実なんてこんなに不器用で、傾むいていて、見苦しくて――。
 それでも――なんとか回ってるんだ。

●参加者一覧

ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
ロアンナ・デュヴェリ(gb4295
17歳・♀・FC
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
井上冬樹(gb5526
17歳・♀・SN
夕景 憧(gc0113
15歳・♂・PN

●リプレイ本文

●不吉な予兆
 七機の傭兵KVが空を滑る。正規軍KV部隊が壊滅し、再度の救援要請があった地獄の戦場へ。
「‥KV10機を一瞬で全滅させたゴーレム部隊? 一体どんなエースや新兵器が‥」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)は呟きながら、緊張で表情を強張らせる。
「敵はモヒカンゴーレムとアフロゴーレムだと聞いておりますが‥‥強化型、なのでしょうか?」
 ラルス・フェルセン(ga5133)も気を引き締めて地上を睨んだ。
 だがそのやや後方、どこか青褪めた顔のロアンナ・デュヴェリ(gb4295)が不安げに首を振る。
「‥‥何故でしょう、今回の依頼はもの凄く悪い予感がします‥‥この依頼を請けてから、部屋にある傘が何時の間にか開いていたり、鏡が全部割れたり、うっかり朝食のパンを裏返して置いたり‥‥etcetc」
 ロアンナは欧州における不吉な予兆をツラツラと挙げていった後で、「何事も無ければ良いのですが‥‥」と締め括った。
「‥‥ジンクスはジンクスなので余り気にしない事にしましょう。
 かくいう私も出撃前には黒猫が通り過ぎるのを見かけましたし、AU−KV装着時にハイヒールの踵が折れてしまったのですが――まぁ冷蔵庫で待っているパインサラダの為に頑張りますね」
 何か危うげなフラグを立てて、番場論子(gb4628)はスロットルを押し込む。
 そんな不吉な予兆の数々を気にしてか全く関係なくか、テト・シュタイナー(gb5138)は寒気に大きく身を震わせた。
「何だ‥‥この世紀末的悪寒はっ!?」
 今回の依頼では何かが――とんでも無い事が起こりそうな気がする。
 そんな危険な依頼を受けるにあたり、夕景 憧(gc0113)は彼女からお守りを装着していた。
 アフロカツラとスタイリッシュグラス。
 ついでにコンソール横にはモヒカンカツラも。
「‥マジ効果あるのかなこれ‥‥無いとただの痛い子だけど」
 ナイトフィーバー的外見の憧の懸念は至極もっともだった。
 だが効果は無い。
 そうこうする内、各機は地上の残骸群とヒャッハーゴーレム(HG)達を捕捉。
「‥個性的な見た目ですね。それでも正規軍KVは全滅との情報ですし、油断しません」
 淡々とした口調で言いながら、敵拡大映像を流し見る井上冬樹(gb5526)。
 その中にアフロサングラスの憧も混じっていた気がするが、冬樹はKV操作に必死でよく見ていなかった。

●軟着陸
『ぐへへへ、まぁたカモが来やがったぜぇ!』
 傭兵KV隊に気付いたモヒカンゴーレムが、合成音の下卑た笑い声を上げた。
「KV部隊、気をつけろっ! 今日は途轍もなく不運が続くんだーッ!」
 通信機に怒鳴りながら空を見上げる軍曹。
「不運? いえ、偶然では有り得ない‥‥バグアは一体どんな兵器を‥?」
 ラウラは軍曹の言葉に眉をひそめ、意識を眼下に集中させる。
「それにしても、なんて酷い有様‥‥」
 論子が呟く。戦場には惨たらしくKVの残骸が散らばっていた。
 全機はそのかなり手前の平地へ向けて着陸を始める。
「KV隊を全滅させた敵、‥‥油断いたしません」
「おうよ! さぁ、ショータイムの始まりdあ゛ーーーーーーーーーー!?」
 ラルスの声にテトが突然奇声が被さった。
 うっかりフェニックスの空中変形を着陸直前に起動。機体を軋ませてフェニックスが転がる。
 いや、テト機だけでなく、憧機以外の全機が着陸に失敗していた。車輪が出なかったり突風に煽られたりで、火花、装甲、土に草を辺りへ撒き散らして転がる。
 ‥そんな周囲を見回しながら、一機無事に着陸した憧は唖然として頭のアフロに手をやった。
「まさか、本当にお守りに‥‥?」
 だが偶然である。
 
●アクシデントが当たり前。
 不時着したKV部隊は、しかしすぐに態勢を整えて前進を開始する。
『ひゃっはあ! バカどもが、撃ち殺しちまえッ!』
 HG達が迎撃、一斉に引鉄を引く。
 ‥が、一発も砲撃は放たれなかった。むしろ逆に七体の銃が暴発、HG達の腕は焼け焦げる。
「今がチャンス、遊撃支援を開始します!」
 ラルス機がブースト全開で先行。敵味方の残骸に注意し、そもそも躓かなければ転ぶ事は無い――。
 ‥‥が、ひょこっと。不意に双子モグラキメラが地面に頭を出した。
「なっ、え――!?」
 ワイバーンの前足は二匹に突っ掛かり、機体は前のめりに転倒――激しい衝撃がラルスを襲う。
『転びやがったぁ! スクラップにしてやれぇい!』
 ゴーレム達が斧や棍棒を手にラルス機へ殺到。
 だが、その敵群を。
「これより援護に入ります」
 冬樹がD−02の照準に入れていた。
 慎重に、冷静に、機械のように淡々と――引鉄を引く。
 だが直前、微かな地震が一帯を襲った。
 そして銃声。
「はぁんッ!?」
 ラルスのコックピット真横をKV用銃弾が穿つ。
 それを確認して冬樹の顔からサァッと血の気が引く。
「あ、あれ!? すみません、照準し直します!」
 どうにかショックから立ち直り、もう一度敵に狙いを付ける冬樹。
 しかしふと、はるか後方から銃声が響く。その弾丸が――見事HGのアフロを貫いて砕いた。
「凄い‥‥アフロにしたら本当に絶好調だぜ!」
 240mという遠距離狙撃を成功させた憧が、自信に満ちた表情で叫ぶ。
 だが‥‥え、あれ? 偶然だよね‥‥?
 ともあれHG達は怯む。初めてまともな攻撃を受けて――撃墜されたのだ。
 その隙を逃す能力者では無い。ラウラ機がブースト。ゴーレムに接敵すると、フェニックスのOBを発動――。
 ‥‥したら、第一エンジンが異常加熱――爆発した。
 大きく傾いて膝を付くフェニックス。警報が鳴り響く中、ラウラは一瞬混乱する。
「嘘!? 基地でチェックした時は何とも無かったのに!」
 敵の目前で膝を付くラウラ機とラルス機。
 その二機へ殺到する敵群を押し留めようと、ロアンナがマシンガンを向ける。
 ‥が数発の弾丸が発射された直後、弾詰まりを起こす銃。薬莢を強制排出してもう一度トリガーを引くも、やっぱり数発で弾詰まりを起こした。
「くっ、なんという不良銃‥‥!」
 焦ったロアンナが荒々しく銃のボルトを操作する。‥‥と、不吉な音が響いて――ヘし折れた。
「あ」
 呆然とするロアンナ機。
 その横から次はテト機が躍り出る。とにかく友軍機の窮地を救うため煙幕銃で援護。
 ‥が、放たれた煙幕弾は勢い無く銃口からこぼれ落ちる。地面にポトリと落ちると同時、ドバァっとテト機の周辺を包み込む白煙。
「うわ何だコリャ!? くそ、敵はどこだ!? そこか!」
『ぬべぇっ!?』
 テト機が高分子レーザー砲で銃撃成功。光熱がゴーレムの装甲を焼き貫く。
 さらにテト機が撃ち放つ光条。
「ぐっはぁん!?」
 立ち上がろうとしていたラルス機が、光条に被弾してまた尻餅を付いた。
 それに気付いたテトは一瞬キョトンとなる。
「あ‥‥わ、悪ぃ」
 思わず苦笑い。
 その頃、友軍から少し遅れて論子機はズシズシと前進していた。
「みなさん、すみません‥‥。重量オーバーをチェックし忘れてました‥‥」
 ――出撃前に既にファンブルとは。最前線で壁になるつもりが、大きく出遅れてしまっていた。
 論子は激しく焦る。
「なんとか機体を軽くしなければ‥‥。そうだ、死蔵しているロケット弾をパージすればッ!」
 すぐさま論子はコンソールを操作して装備解除、地面へロケットランチャーを振り落とす。
 ‥が何を勘違いしたのか奉天製格安ランチャーは――直下の地面へと全弾一斉射出。
 そして直近に居たロジーナは。
「え‥‥?」
 地面を揺るがす震動と共に、盛大な爆炎に包まれた。

●爽快って何だろう。
 激しい戦闘ダメージを負いながらも立ち上がったラルス機。
 孤立するHGへMブースト‥‥を掛けようとしたが、エンジンがモグラを吸い込んだらしくブースト機能は停止していた。
「くっ‥何という不運続‥き過ぎではありませんかっ!?」
 理不尽の連続に悲鳴を上げるラルス。
 しかしどうにか走る事は出来る。ラルス機は四足で駆け抜け、ソードウイングを煌かせると――HGを両断成功。
 激しい炎を噴き上げて、アフロは崩れ落ちた。
 別の場所ではモヒカンHGに合わせて、自らもモヒカンカツラを被った憧が敵機と交戦していた。
 侍ソードを振り下ろそうとした憧機だったが、態勢を崩して腕部侍フレームをHGに叩きつける。
「っ、フレーム攻撃とか‥‥第一回武闘大k――」
 ――割り込み、強制ファンブル発動。
 KV残骸の燃料タンクが突如大爆発。噴き上がる業火がアフロモヒカンヒートガイ(機体名)を炭にするべく包み込んだ。
 憧は脱出レバーを引き、カプセルに包まれて射出される。
 そこから数十m離れた前線で、紅いロアンナ機が突撃仕様ガトリングの引鉄を引きながらHGへ突撃。‥といっても、ガトリングはまともに弾を吐かなかったが。
 それでもロアンナ機は躓きながらどうにか接敵を果たした。
「たぁっ!」
 侍ソードの一閃。
 見事HG――の隣に居たラウラ機を切り裂いた。
「きゃっ‥!? あ、センサー類に異常が!」
「も、申し訳ありません! 大丈夫ですか!?」
 青褪めるロアンナを尻目に、突如ラウラ機のファランクス・テーバイが暴走。無差別に迎撃――というか、ロアンナ機を攻撃し始めた。
「コラ、無差別に迎撃しちゃダメだってば! パ、パージ!」
 兵装解除には成功するラウラ機。迎撃機銃は沈黙して地面へ落ちる。
『ぐへへ、隙だらけだぜぇ〜!?』
『ブッ潰すゥッ!!』
 しかしアタフタする二機を狙う、モヒカンとアフロの影。
 だがその様子を後方で――冬樹が捉えていた。
「敵の行動を阻止します。‥今度こそ」
 冷静に、慎重に、淡々と、照準を付けて――。
『すゎせェるかァーッ!』
 だが突如、別地点からショットガンを構えて接近するHG。
 が、物凄い不運を起こしてショットガンは前後逆だった。HGは自分の機関部へ大量の鉛弾をぶち込むと、そのまま倒れて大爆発を起こす。
 そのせいでわりと揺れる地面。
 直前、照準が定まったと思った冬樹が――引鉄を引いた。
「‥‥ようやく最前線まで辿り着きました。Witch of Logic、これより壁役を‥‥あら?」
 やっと激戦域まで辿り着いた論子機だったが、ふいに妙な衝撃が機体背後を貫いた。
 直後にビープ音。主モニタに表示される、『メインエンジン破損』の文字。
 みるみる出力低下し、機能停止。
 論子機は――擱座した。
「あ‥‥、あの‥! す、す、すみません‥! な、なんで、そんな‥‥!? 論子さん、脱出、を‥‥!?」
 視線の先で動かなくなったロジーナを見て冬樹はパニック。覚醒も解けて涙目で通信機に平謝りする。
 せめて脱出を支援しようと、煙幕銃を向けるが――ジャム。銃の中から噴き出た濃い白煙がモウモウと冬樹機を包み込んだ。
 直後、斧を互いの肩に食い込ませて機能停止したアフロとモヒカンのアーチ下からラウラ機が立ち上がる。ふと後方に白煙を視界に捉えると、ラウラ機の混乱した識別装置は『敵』と認識。
 反射的に引鉄を連射したラウラだったが。
「きゃあ‥‥ッ!?」
 明らかに声と煙の中のシルエットはHGでは無い。
「って味方じゃない! 友軍識別ができてないの!?」
 もう何を信じて良いのかも分からない。
 その目前で冬樹に近付く一機のHG。火炎放射機を構えて接近すると、トリガーを引いた。
 ‥やっぱりHGの方が火だるまになる。
 もがくHGは冬樹機の方へ近付くと、シュテルンを押し倒して――爆発した。
「次々に仲間達が‥‥許しません!」
 ロアンナが侍ソードをアフロの胸に突き立て、撃破。残るHGは三体。

●英雄達の死
 ポッドで射出された憧が、満身創痍で装置から脱出する。
「最悪だな‥‥」
 呟きながらすぐに戦域を離れようと動き出して。
 正面にワニキメラ、左に熊キメラ、右に狼キメラ、そして背後に――HGという風に囲まれているのに気付いた。
『ぐっへっへ、覚悟しr――』
 下卑た笑いを上げるHG頭部を流れ弾が吹き飛ばす。
 それから、巨体はグラリと大きく傾いて。
「ひ、ひゃっはー‥‥」
 頭上へ落ちてくるHGを見て思わずそんな声が出る憧。
 ズドーンと憧の居た辺りの地面が揺れた。
 ‥少し離れて擱座したロジーナの風防を、中からAU−KVが蹴り破る。
「機体がダメでも、まだドラグーンにはAU−KVがあります!」
 論子が生身でワームに立ち向かう。ザドキエル――「神の正義」の名を冠する槍を振るい、HGの足元を駆け回る――。
 そんな時、ふいにテトが全機に通達した。
「‥ブーストするぜ! 答えは聞いてない!」
 ウアスを振り上げてブーストを掛けるテト機。
 しかし、出鼻で思いっきり態勢を崩してHG近くにダイビング転倒する。
「え」
 そんな、論子の声が聞こえた気がした。
 ついでにプチッ、というかグワッシャーンという鈍い音がテト機の下から響く。
「大丈夫ですか!? とはいえ、ぶっちゃけ人の心配どころでは無いのですがっ!」
 ラルスが切羽詰った様子で叫ぶ。
 銃は排莢不良、さらに機動戦闘を心掛けようと走り出せば足が絡まってこける。
 それならと思いっきりHGへ跳ぶワイバーン――。
 ‥が、それと同時にロアンナも同じHGへ接敵していた。
「マズイっ!? 避けて下さい!」
「ラルスさん!? くっ!」
 剣翼を閃かせて降って来るワイバーンに対して、精一杯の回避機動を取るロアンナ機――。
 が、やっぱり無理だった。
 ラルス機がシラヌイを両断。代わりに、ロアンナ機が持っていた侍ソードにワイバーンは胴部を貫かれて――大破した。
「悪夢だわ‥‥これが奴らの特殊能力なの? 向こうも自爆してるけど‥‥」
 ラウラが次々にやられていく味方を見ながら、ぼんやりと呟く。
 そのすぐ側で、テト機が何かを決心したように立ち上がる。
「チッ俺もそろそろ限界だな‥‥。だがタダじゃ死なねぇ、テメェ等も道連れだぜ! ――逃げろ、ラウラ!」
「え、何を‥‥!? まさか!」
 ラウラが青褪めた表情で問いかける。
 通信モニタの向こう、テトが一つ笑顔で――頷いた。
「行くぞ!」
「くっ、そんな――!」
 テト機を止められない無力さに苛まれつつ、ラウラ機は後方へ。
 ‥下がろうとしたが、第一エンジンの破損で緊急離脱する為の出力は得られ無かった。
「うっ、いたた‥‥」
 その時、シラヌイのコックピットからロアンナが這い出る。ビリビリとKVの破片に全身を裂かれ‥‥なぜか紐パンの紐両側も切れた。
 そしてふと顔を上げると。
 HGへと突っ込む――テト機が見えた。
 爆発。
 誘爆。
 ――大爆発。



 ‥爆風に煽られ、ロアンナのパンツが空を飛ぶ。どこかへ帰っていくように飛んでいく。
 そして夕陽の中には散っていった傭兵達の顔が浮かび、その周囲をパンツが舞い飛んだ。
 ああ、それは何て美しい。
 見る者全ての心を震わせる感動の世界。
 だってこの景色が彼らの――初夢だ、なんて。

 どうかせめて。少しでも良い一年となりますように――――。



Lost The Sky
【初夢2】夕陽に消えた傭兵達とパンツ