タイトル:【NF】獣の住処の捜索マスター:青井えう

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/28 17:17

●オープニング本文


 北米ワイオミング州ナトロナ郡。
 その戦域において厳しい劣勢下に置かれているナトロナUPC軍。
 最後の砦であるパウダー・リバー基地にまで追い詰められたナトロナ軍はつい先日も、敵の大攻勢を受けてあわや壊滅か――という所で、傭兵部隊によって守り切られた危うい経緯がある。
 だがその敵の大攻勢を乗り切った事が、‥‥ナトロナ軍にとって今、大きなチャンスに変わろうとしていた。

 パウダー・リバー基地、作戦司令部。
 そこで各将校や参謀官達が顔を突き合わせ、難しい顔でナトロナの詳細地図に向かっていた。
「‥‥という事は、だ。やはり我々の知らない所に敵の拠点があると見て間違い無いのか?」
「‥‥ええ、恐らく間違いありませんな。なぜなら‥‥」
 重苦しい空気の中、声も潜めがち‥‥しかし、そこには常ならぬ熱っぽい雰囲気があった。
 誰の目も真剣に細められ、鋭く地図を睨みつけている。様々な情報が書き込まれたその地図が、ナトロナにおける宝の地図だとでも言うように。
「‥‥前回の攻勢で基地が襲われた時、BCの発進までにはタイムラグがありました。まぁそのお陰で助かったわけですが‥‥」
 ある参謀官が話し、それに各々が頷く。
 時には誰かの話に疑問が投げかけられ、議論に発展し、様々な可能性が潰され、また見つかっていく。
 そんな状況を見守りながらポボス司令は黙って座っていた。渋い顔で所々自分も頷きながら、ようやくの事で各人の難しい話に決着がつくぐらいを見計らい――口を開く。
「要するに、だ」
 もったいぶった口調でそこに集まった各々を見回し、今までの会話の内容を頭の中で吟味して纏めた。
「我々の為すべき事は――この隠された敵拠点を発見して、破壊する。まぁ‥‥そういう事だな?」
 集まった全員が大きく頷くのを見ると、胸を撫で下ろしつつ平静を装って「ふむ、そうか」とポボスが紫煙を吐いた。

 パウダーリバー基地より25km東、ペトリーヒル。
 その地下に隠蔽されたバグア基地にある巨大バイオタンクの中で――二機のタロスがたゆたっていた。
「‥‥チッ、ひどい破損だぜ。まだ完全に修復するまでにはちっと掛かるな」
「それよりもワームの補充の方が問題ね。しばらくは‥‥小休止を挟む事になりそうよ」
 バイオタンクを見上げ、話し合う二人。
 ガリアとオリージュが忌々しげに押し殺した声を出していた。
 先の襲撃は何の成果も挙げられず、ただいたずらに被害を出しただけに留まっている。それというのもナトロナ正規軍がどうこうというより、戦力の掴み辛い傭兵部隊がいつもしゃしゃり出てくるからだった。
 ‥青筋を立ててタロスを睨んでいたガリアは、ふいにその入れ物であるバイオタンクを殴りつけて叫ぶ。
「くそがぁっ! このタロスでさえ奴らに圧倒されるなんてどうなってんだ‥‥!? 欠陥品を掴まされてるんじゃねぇか!?」
「‥‥そんな事無いわ。この二機は量産型タロスにしてはかなり強化されているぐらい‥‥」
「チッ‥‥じゃあ、俺達の腕が悪いってか?」
 ガリアが拳を下ろす。亀裂の入ったバイオタンクから僅かに液体が漏れ出していた。
 それを静かに見やりながら、冷然とオリージュが呟く。
「そうね。――そうかもしれないわ」
 ギリッとガリアが歯を食いしばる音が響いた。
「俺は負けねぇ‥‥。次は倍のワームを集めろ、オリージュ。何としても勝つ‥‥。あの虫ケラどもを――完膚無きまでに叩き潰す!」
「‥‥そのつもりよ。私達は負けられない。この地を統べるアイアス様の為に、私があの愚かな人間共の基地を――灰塵に帰してみせる」
 オリージュは眉一つ動かさずに、強く噛んだ唇から一筋の血を流す。
 基地の内部では――様々に作業する無人機械、工業用ワームが、不気味に蠢いていた。

 パウダー・リバー基地。
 作戦司令室のドアをノックして、呼びつけられたイカロス隊の二人は中へ入室する。
 深々と椅子に腰掛けたポボス司令がヒータ大尉とライト少尉の姿を認めると、おもむろに言葉を投げ付けた。
「よく来た。任務だ、イカロス隊」
 二人は不動の姿勢を保ったままでチラリと怪訝そうに眉根を寄せる。
 それに構わずポボスが灰皿で葉巻の火をもみ消す。灰を散らして、独特の匂いを放つ葉巻が沈黙した。
 それから神妙な顔を作り、二人をひたと睨み据えた。
「今回の任務で、君達がこのナトロナの命運を握る事になるやもしれん。かのレッドバード無き今‥‥どうしてか君達は機甲部隊のリーダーのようにもなっているしな」
 解せない様子でポボスは顔をしかめる。
 ヒータの階級のせいか、はたまたライトの苦労性のせいか。
 いや恐らくは傭兵を運用する部隊、というそのコンセプト故にイカロスが活躍出来ているだけだろう。
 そんな事を思いながらさほどの興味も無く、ポボスはとにかく任務を上手くやってくれさえすればそれで満足‥‥とはいかなくても、この小生意気な二人を容認はできた。
「‥‥それで、具体的にはどんな任務なんでしょうか?」
 ふいに悩ましげに黙りこんだポボス司令へライトが訊ねた。
 態度にこそ出さないがさっさと任務について話せと言われたような気がして、ポボスがムスッと険悪な表情を浮かべる。
 ライトへと見下すように半眼を向け、ゆっくりと二本目の葉巻に火をつけた。
「重要な任務だ。貴様らには‥‥敵拠点の捜索任務を命ずる」
 たっぷりもったいぶって放たれたその言葉は、ポボスの狙い通り二人の表情を僅かに強張らせた。
 その任務の重大さを知り、イカロス隊のヒータ大尉とライト少尉が表情を引き締める。
「先の襲撃を受けてBCの展開具合などから‥‥我々が認知し得ていない敵拠点が存在する可能性がある。司令部の分析では、この基地より約25km東へ行ったペトリーヒルが怪しい」
「それを調べに行くわけですね‥‥。方法は?」
 ヒータの問いかけに、ポボスは小さく頷いてみせる。
「KVで乗り込んでも敵は尻尾も見せないだろう。しかし生身ならば詳細に調査できる上に、隠密行動が可能だ。生身で向かえ」
「二人だけでですか?」
 劣勢の競合地域を25kmも生身で駆け抜けるなど自殺行為にも等しい。
 そう暗に言っているライトへポボスは首を横に振り、皮肉げな笑みを浮かべた。
「無論、ワシもそんな無茶は言わんよ。君達イカロス隊と共に傭兵部隊も投入する。‥‥傭兵を上手く使い、何としてでも敵拠点の所在を割り出せ」
「「‥了解!」」
 二人は少し安堵したように表情を和らげ、敬礼の姿勢を取り――。


 ナトロナの命運を握る一つの任務が、発令された。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

「ペトリーヒルか。確かに前回奴らが攻めてきたのも大体その方向からだったな。‥‥戦闘の跡がハッキリ残ってる」
 装甲車の銃眼から外を覗いてブレイズ・カーディナル(ga1851)が呟く。その視線の先には道路の弾痕やKVハンマーで陥没した地面などが見受けられた。
「ま、こっちばかり襲われ続けるのはいい加減ウンザリだしな。何とか決定的な証拠を見つけて、逆襲に転じたいもんだわ」
 風羽・シン(ga8190)も頷きながらごちていた。
 その反対側の銃眼では鹿嶋 悠(gb1333)が外を覗いている。このナトロナの普遍的な風景を記憶している所だった。
 車輌はそのまま二方向に分かれる。
 傭兵の発案により、班は四人ずつの二班に分けられる。来た方を南とし、ペトリーヒルの東と西3km地点でm二班が展開した。

 東地点、A班の四人が車輌を出る。
 ルノア・アラバスター(gb5133)は周囲を見回し、もう一度自分の姿をチェックした。
 装備の金属部分は全て布で隠され、さらに全身に現地の土が擦り付けてある。匂いを消す為だ。
 スナイパーに相応しい完璧な擬態である。
 悠がルノアに頷きかけ、軽く屈んで丘へと進んでいく。
 さらに100m程の距離を取って、シンとブレイズペアも丘へ接近していった。

 西地点にもB班が展開していた。
 リヴァル・クロウ(gb2337)が双眼鏡を片手に地図と照らし合わせながらルートの策定を行う。
 そのすぐ側に聖・真琴(ga1622)が屈みこんで周辺警戒に当たる。
 さらにもう一方のペア、カルマ・シュタット(ga6302)とラウラ・ブレイク(gb1395)も警戒しながら丘を目指す。
 双眼鏡から覗く視界の隅に、時折キメラらしい異質な生物がゆっくりと徘徊していた。

 隠密潜行で気配を消したルノアが、身を隠せそうな大きめの窪みを発見してそこに潜り込んだ。
 そしてそのままジッと耳を澄ます。
 近くに生物の気配は無い。Sミラーを取り出すと、太陽の向きに注意しながら周辺を探る。
 右手方向約150m先にキメラ。
 ルノアはミラーをしまうと、10m後方の悠へ手信号でその旨を伝えた。
 悠はしっかり頷く。姿勢を低く屈めてキメラに発見されないように進み、ルノアの居る窪みへと入り込んだ。
 同時に悠は微かな異変を感じ取っていた。
 今まで周囲の景色を観察してきて一度も見なかった地面の筋。移動痕にも見えるそれが、キメラの居る方角についている。
 悠はカメラをズームし、数回シャッターを切った。潜入用カメラは音も無く地面の筋を記憶。
 悠は地図にマーキングした後、ルノアの方へ頷く。

 移動の手信号を受け取り、ブレイズとシンも別方向をフォローしながら移動を開始する。
 だがふと、左の岩陰に気配。二匹の赤い獣がのそりと這い出て――二人と目が合った。
 直後、両者が動いた。
 激突する人と獣。接敵。牙と刃、剣戟音と火花が一斉に空気に散る。
 戦闘は人間側が優勢だった。シンが長い爪に切り裂かれたものの、軽傷。二人は連携してすぐに一匹を仕留める。力の違いが歴然とし、背中を見せて駆け出すキメラを――しかしブレイズが追った。
「逃がすものかっ‥‥!」
 豪力発現を使い、キメラの首根っこを押さえて地面に叩きつける。
「チキン野郎がぁッ――!」
 シンが駆け寄って獣の心臓を刺し貫く。キメラは硬直し――絶命した。
 それを確認して二人は即座に身を屈め、辺りを見渡す。
 荒野に異変は無い。遠くでルノアと悠が問題ない旨の手信号を送ってくる。
 今の戦闘が他のキメラに気付かれた様子は無かった。

 喉を引き攣らせたような呻き声を上げて、硬い皮膚に覆われた爬虫類のキメラが硬直する。
 その体に何本も突き立った長い矢。さらに鋭く空を切る矢がキメラのFFと首を貫いた。
 B班、カルマが握るクロネリアの弦が豪破斬撃の名残で震える。
 即座にラウラがキメラの死骸に近付いた。岩陰に引きずり込んでスコップで埋める。
 それからおもむろにスコップを突き立てて柄に耳を押し当てた。地面に伝わる音に耳を澄ます。
 その隣に、砂で血痕を消し終えたカルマも屈み込む。
 やがてラウラが薄く目を開け、丘の一端を向いた。
 一見すると何の変哲も無い風景。しかしよく観察すると、良く生い茂った植物の中に変色した岩がある。
 その岩と向かい合う形で、丘の表面に少し不自然に空いた穴。さらに双眼鏡で観察すると、切り立った崖に沿って一部分だけ小石が積もっており、その周辺の植物はなぎ倒されたような跡が見える。
 格納庫の開閉痕の可能性が高い。
 二人はカメラを取り出し、さらに丘へ近付いて数度のシャッターを切った。

 にわかにキメラの密度が濃くなったように思われた。
 棘のある植物の茂みに潜り込み、リヴァルが丘の観測を続ける。地図に精緻な情報が書き綴られ、各地点からの正確な距離などが計測される。
 しかし、その表情は険しい。決定的な基地の証拠が発見できないのだ。
 一見すると怪しい部分は無いのだが、実際には視界の悪さで十分な観測が出来無いのが現状だった。
 無意識に頭が上がりそうになるのを、横から真琴が止める。
「く〜ちゃん、伏せて‥‥」
 すぐ目と鼻の先で甲虫キメラが徘徊している。突き出した複眼の視界に今にも引っかかってしまいそうだ。
 それが通り過ぎたタイミングを見計らって、真琴が頷く。
 リヴァルは少し頭を上げてカメラのシャッターを数回切る。しかしすぐにまた別のキメラが近付いて来る気配。
 数が多い。リスクを考慮して真琴が撤退のサインを出す。
 二人は観測を諦めてゆっくりと茨の茂みを抜け出した。

 A班とB班は時計回りに半周し、とりあえず丘の全周の観測を終えた。
 傭兵達は一旦装甲車の元へ戻りイカロス隊と合流する。
「‥‥かなり怪しい部分は絞り込めたな。だが、まだこれだけでは弱いか?」
「ですね。でもこれ以上の活動はリスクが高い‥‥」
 デジカメの画像と位置情報を受け取り、一つの地図に統合しながら二人が眉をひそめる。
「では、特に疑わしい部分だけを再調査してみては?」
 悠がイカロス隊へ提案する。二人は名案だと言うように頷くと、再び地図へ向かい合った。
「‥‥そうですね。特に怪しいのはこの三箇所。内のラウラさんとカルマさんが発見した箇所はほぼ黒で確定ですね。よって、他の二箇所の再調査をお願いします」
 それは悠・ルノアのペアが移動痕らしき物を発見した場所と、リヴァル・真琴のペアがキメラの多さから詳細調査を断念した場所だ。
「‥さらに、ブレイズさんとシンさんの報告によると、一部のキメラに一定の行動パターンを取っているモノが見られます。周辺防衛の遊撃隊に対する本隊でしょうか。注意して下さい」
 傭兵達が頷くと、再び丘へと向かった。

「おい‥‥、オリージュ。なんだかキメラ共の様子がおかしくないか?」
「そうかしら? 私には何も」
「‥‥気のせいか?」
 基地に居るキメラに落ち着きが無いように見える。ガリアは首を傾げながら、なぜか胸を騒ぐのを感じた。
「チッ、気にし過ぎか‥‥。胸くそわりぃ、少し風に当たってくる」
「付き合うわ」
 一言だけ伝えて、オリージュもガリアの後ろをついて歩く。
 ――大型格納庫にある出入り口へと向けて。

 茨の茂みに身を潜り込ませるB班。そこには違和感があった。
 何の変哲も無い丘に、明らかに多いキメラ。
 リヴァルが写真を数枚撮ったのを確認して、真琴は近くのキメラから離れるように移動する――。
 と、ふいにキメラが小さな石を蹴り飛ばした。
 それは大きく弧を描き、‥‥真琴の体に当たる。その石の行方を周辺のキメラ達はしっかり目で追っていた。その終着点、――真琴の姿をも。
 直後、キメラ達が激しく吠えたてる。
「っっ――!」
 理不尽な不運を省みる暇もなく、真琴がそちらへと飛び出す。
 限界突破、疾風脚を使いキメラ群の中心へ。数で押されそうになるのを、リヴァルが割って入って優勢を取り戻した。
 二人は背中を合わせ、取り囲む狼達を次々に屠っていく。
 ほぼ同時、慌ただしく動き回るキメラに、ラウラとカルマの二人も発見された。
 すぐさまカルマがセリアティスを振るい、ラウラが弓でキメラ殲滅を図る。敵の規模が少し大きい。このままでは――。
 体当たりを受け、腕に噛み付かれながらも、二人はキメラの迅速な殲滅に尽力する――。
 だが、遅かった。

「‥‥おいおい、どうなってんだこりゃあ‥‥」
「どうやら‥ネズミが紛れ込んでいたようね」
 丘の上、ガリアとオリージュの二人が眼下で繰り広げられる戦闘に目を向けていた。
 キメラを蹴散らし、今にも撤退していきそうな傭兵達を。
 ギリッとガリアが歯を鳴らす。
「‥‥行くぞ、オリージュ」
 言い放つと同時、ガリアが丘の斜面へ飛び降りる。
 傭兵達を逃すまいとして。

 その騒ぎとは丘を挟んで反対側、A班が再び移動痕が付いた場所まで戻って来ていた。
「悠ちゃん、アレ‥‥」
 先ほどのキメラはどこかへ行き、お陰である程度近づけるようになっている。
 ルノアの指差す方に、悠が目を向けた。
「これは‥‥間違いないですね」
 移動痕の始まり。それは丘の斜面の一箇所から集中して出ていた。
 つまりそこが、出入り口という事になる。
 ブレイズとシンのペアもそれに気付き、両ペアがカメラを構えた時――。
 突如、か細い地響きが辺りを包み込んだ。
「何だ‥‥?」
 その発信源はペトリーヒル。
 まさに敵拠点の出入り口と今確信した場所が――せり上がったのだ。
 内側。薄暗い闇の中に電子的な光りが明滅する。そして管のような物に繋がれて並ぶ、ボアサークルが見えた。
 中からはコンテナを背負った地上ワームが数体這い出て来て、キャスパーの方角へと走って行く。
 ‥突然の出来事に呆然としながらも、傭兵達はすぐさまシャッターを切る。
 そして、さらにそちらへ近付こうかと逡巡した直後――突如上空に照明弾が打ち上がった。

「‥‥よぉよお! ご機嫌だなてめぇらぁ!」
 明々と照らす照明弾の下、傭兵達の目前に人影が立ち塞がった。
「その声は‥‥こんな所で縁があるわね。折角だからお互い名乗っておく?」
 しれっとした様子で振り向くラウラ。目前には二人の強化人間、ガリアとオリージュが立つ。
 ラウラのこめかみに汗が流れ落ちた。
「ハッ、良いぜぇ! 冥土の土産に聞け、俺がナトロナのガリアだ!」
 背中の巨大斧を振り放ち、有無を言わさずラウラへと切りかかるガリア。鋭く重い一撃が叩きつけられる。
「ツッ――ここで私達をどうにかしても、次は別の傭兵が待ってるわよ‥‥! もし誇りがあるならKV戦で決着をつけましょう。それが待てないほど飼主様は家畜風情が脅威かしら?」
「あぁ!? 屁理屈をベラベラと!」
 さらに振りかぶるガリアへ――横から槍の一撃が繰り出される。
「KV戦に自信が無いか。確かに他地方のタロスはもっと強かった‥やはり搭乗者の腕次第という事かな」
 斧の刃で穂先を受けられながら、カルマが肩を竦めて嘆息する。
 こめかみに青筋を立てたままガリアの腕が止まった――。

 一方、オリージュへはスキルを全て発動した真琴が襲い掛かる。
 二刀と四肢の爪が火花を散らして剣戟を打ち鳴らす。
 徐々に鋭さを増して真琴を圧倒しようとするオリージュの刀は――しかし突如、二人の間に割り込んだ月詠に受け止められた。
「っ――!?」
 割り込んだリヴァルが刀を一閃。
 オリージュはかわしきれず脇腹を切り裂かれた。
 さらにその間に真琴が背後に回り、手足の爪を無防備な背中へ振り下ろす。
 しかし、オリージュは後ろ手に刀を振り上げて一撃目を止め、そのまま振り返り二撃目も受け止める。二人の間に鳴り響く激しい金属音。
 そこへ真琴が相手に密着する。
「――っ!?」
 反射的に刀を振るオリージュ。同時、腹部に衝撃が走って後方へ吹き飛んだ。
 真琴の方も肩を切り裂かれ、後ろへ一歩下がる。
 自然とにらみ合う形となった。
「‥貴方達が、KVに乗る傭兵ね」
「その声‥‥アンタ、青タロスだな? ‥美人だな♪」
 そう言葉を掛けられ、オリージュは無表情に真琴へ顔を向ける。
「貴方がドクロのパイロット‥‥。そっちの男は――?」
「こちらを覚えていなくても無理はない。以後も記憶する必要はないだろう」
「そう、殊勝なのね」
 そう言うと、オリージュはまた刀を構える。
 しかし反対に‥‥真琴は構えを解く。
「ココが墓場じゃ冴えないよな‥‥もっとイイ場所でケリ付けてやるよ」
 暗にKV戦でと言い放つ真琴に、オリージュは眉をひそめる。
「せっかく逢えたンだ‥名前、教えてくれよ。私は真琴‥‥聖真琴だ」
「良いわ‥‥私はオリージュ。でも――」
 サッと横に向ける刀。いつの間にか、周囲を取り囲んでいたキメラが動きを止める。
「私がこのチャンスを逃がすと――思うの?」
 オリージュが言い放ち、刀を振り上げた。
 途端に周囲のキメラが傭兵達へ殺到する――。
『閃光弾、投擲する!』
 が、突如傭兵達の無線から声が響き、二つの手榴弾が戦場の中心に落ちた。
 眩い閃光が――辺りを包み込む。

 ルノアが銃型の超機械で怯むキメラを狙撃していく。その援護を受けて悠が切り込み、B班の退路を切り開いた。
「急いで撤退しましょう!」
「現在、敵と交戦中! 照明弾を打ち上げる、回収に来てくれ!」
『了解、すぐに向かう!』
 ブレイズが照明弾を打ち上げて後方の車輌隊へと場所を知らせた。すぐさま振り返り、飛び掛るキメラを機械剣で切り捨てる。
 A班の支援を受けてB班は後方へ走り出す。
「くっ、待て‥‥!」
 オリージュが追いかけようとした時、風の如くシンが懐に飛び込んだ。オリージュが足を止めて反応する。
 二刀と二刀が刃を走り火花を走らせた。
「悪いな、また今度遊んでやるよ」
 後ろへ跳ぶシン、入れ替わるように――今度はラウラが投げた閃光手榴弾が落ちる。
「――ッ!」
 閃光が浴びせられ、目を覆うオリージュ。
 さらに周囲から襲いかかってくるキメラにカルマが閃光手榴弾を投げ、傭兵達は迅速に撤退していく。
「逃がさないっ‥‥!」
 なおもオリージュが追いかけようとするのを、ガリアが腕を掴んで制止した。
「‥‥もう間に合わねぇよ。くく、逃がしてやりゃ良いじゃねえか‥‥タロスでぶっ殺して欲しいそうだからよお!」
 ガリアが激しい憤怒を咆哮に変える。
 ‥‥だがオリージュは唇を噛んだまま、悔しげに俯いていた。

 砂埃を舞い上げて停車する装甲車に、傭兵達が雪崩れ込む。
 さらに車内にまで飛び掛ってきたキメラを斬り捨て、弓と銃で牽制しつつ――装甲車はまた発進した。
 次第にキメラの群れとの距離が離れていく。
 それを確認して、ようやく全員が深い息を吐き出した。
「‥‥さぁて、やっと愉しくなってきやがった」
 座席にもたれながら、不敵にシンが嗤う。

 そして各員の腕の中には――埃まみれのカメラと地図があった。

NFNo.019