●オープニング本文
前回のリプレイを見る 北米ワイオミング州ナトロナ郡。
その戦域において厳しい劣勢下に置かれていたUPCナトロナ軍。
しかし最近――、パウダー・リバー基地はにわかに興奮を隠し切れないように慌ただしく将校達が動き回っていた。
数日前にペトリーヒルを偵察して持ち帰った傭兵達の情報が核心を突いていたのである。
‥‥いやむしろ今回の情報を分析して分かったのは、敵の拠点は司令部の予想を上回る規模という事だった。
「‥‥つまり、丘の一部ではなく丘全体が敵拠点として機能しているという事か?」
「はい。ペトリーヒルの直径は約2km。そのほぼ全てが拠点として機能し、逆にごく一部だけが丘のまま残されていると思われます。詳しくは資料をご覧下さい」
狭い会議室で説明する情報士官に促されて、作戦会議に参加する数人の将校が資料をめくっていく。
傭兵達によって全周を撮影されたペトリーヒル。様々な角度からの写真が資料に掲載されており、さらに写真周辺の細かな地形や距離なども書き加えられている。
ワームの出入り口と見られる箇所は、その丘の内の三箇所。
そしてその内の一枚、丘の内部を撮影した写真に行き着いて、将校達が手を止めた。
写真の中の丘の内部。そこに並んでいるのは管に繋がれた自走自爆型ワーム『ボアサークル』である。
「この写真のコイツは‥‥ボアサークルに見える。詳しい分析結果はもう出ているんだろうな?」
コツコツと指で写真を叩きながら、苛立たしげにポボス司令が言い放つ。
このワームはナトロナ軍が何度もてこずらされている憎き相手だった。前線基地ベッセマーベンドもこのボアサークルが原因で今は壊滅状態のはずだ。
ポボスの言葉に反応して一人の色白の士官が立ち上がる。
「その画像の件ですが‥‥詳細に分析してみた所、驚くべき結果が分かりました」
「ええい、‥‥焦らすな! 結論を先に言え、結論をっ!」
ポボスがイライラと癇癪を起こして怒声を張り上げる。
士官は思わず肩を竦めながら、見るからにオロオロとして口を開いた。
「は、はい‥‥。実はペトリーヒルはただの敵の前線拠点ではないかと‥‥」
「ああいい加減にしろ! ハッキリ言え! つまり、なんだッ!」
「ひっ‥‥つ、つまりっ、ペトリーヒルはボアサークルの‥‥その生産基地と見られます!」
「なにぃ‥‥!?」
ざわっと会議室を喧騒が包み込んだ。
「生産基地‥‥つまり、そこを叩けば――?」
ポボスがギロリと睨むように士官の方を振り向く。
気の弱いその男は冷や汗を掻きながらも後を引き継ぐように頷いた。
「このナトロナ方面におけるBC展開量を考えると‥‥恐らく、この基地でのみ生産されていると予想されます。だからここを叩く事が出来れば――BCの脅威は無くなる‥‥でしょう」
会議室を包む喧騒が、にわかに大きくなる――。
二時間後、作戦司令室。
「よく来た。任務だ、イカロス隊」
出頭を命じられたイカロス隊の二人、ヒータ・エーシル隊長とライト・ブローウィン副長へすぐさま声が掛かる。
立ったまま窓の外を覗いていたポボス司令は、小太りの体をゆっくりと二人へ向けた。
「先日の偵察により、ペトリーヒルは敵の拠点‥‥しかもボアサークルの生産基地という事が発覚した。イカロス隊は傭兵部隊と通常爆撃部隊を率いてコレを制圧する」
「ボアサークルのっ‥‥!?」
思わず上げたヒータの声に頷きながら、ポボスは話を続ける。
「その通りだ。しかし事態は一刻の猶予も許さん。前回の偵察で敵はこちらの事も察知した。襲撃に備えて準備を整えている事だろう」
「確かに‥‥そうですね」
ポボス司令は厳めしい顔で二人を一睨みすると、小さく溜め息を吐いた。
「まったく、貴様らに任務を託すたび不安を抱く。目の前に居るのがレッドバードだったら‥‥とな」
「‥‥‥‥」
嘆息して首を振るポボス。
だがライトは気にも留めずに顔を上げた。
「しかし、我々イカロス隊は二人だけではありません。協力してくれる仲間が居ます」
「仲間‥‥ふん、傭兵の事か? そんなモノ、奴らは金で動いているだけだろう。相手は大して仲間とも思っておらんだろうよ」
「‥っ! そんな事はありません!」
「ふん、どうだかな」
険悪に睨み合うライトとポボス。
その横からヒータが割って入った。
「‥では、傭兵達が希望すればイカロス隊の一員として迎え入れても構いませんかッ?」
「そんな事ワシが許せるわけ無かろう」
首を竦めながら嘲笑するように唇を吊り上げる。
「まぁ名目上というだけなら構わんがな。勝手にやりたまえ、どうせそんな希望者は居りゃせんよ」
「そうですか、司令とは意見が合わないですね! 失礼します!」
ヒータは早々と敬礼すると、部屋を退室する。慌ててライトもそれを追った。
肩を怒らせて格納庫の方へ足早に歩いていくヒータへ、ライトはすぐさま肩を並べて、恐る恐る声を掛ける。
「‥‥あんな事を言って大丈夫か、ヒー‥‥大尉」
「‥良いの! 本当にあの司令はいつもいつも‥‥!」
少し瞳を潤ませるヒータの肩を軽くライトが叩く。
「まぁ‥‥彼らと共に今回の任務も成功させましょう、大尉。司令の鼻をあかしてやらないと」
「そう、ですね」
頷き、二人は背筋を伸ばして出撃待機室に入る。
既にそこに召集された、爆撃部隊と前回の偵察任務から残ってもらっている傭兵達へ出撃命令を伝える為に――。
薄暗い基地の中。
壁全体が微弱な光りを放つ空間で、二人の影が休眠カプセルの中から目を覚ます。
直後、空中に浮かび上がる重力波レーダーのモニター画面。警報が鳴り響き、レーダー索敵範囲内に――数機のKVが進入して来ていた。
「ふん、来やがったか。オリージュ、ワーム共は?」
「既に配置に着いてるわ。せめてBCも発進できれば良いけど‥‥完成してるモノが無い」
「くく‥‥じゃあ後は俺達のタロスだけか。ここでハッキリさせてやるぜ‥‥どっちが上かってのをなぁ!」
「えぇ。この基地を簡単に潰されるわけにはいかない」
二人はゆっくりと立ち上がり、格納庫の方へ向かう。
丘の上には幾多の無人ワームが配置に着き、敵を待ち構えていた。
上空を進入してくるのはイカロス隊のKV群。
それを迎撃する為に二体のタロスが起動し、動き出す。
両者は獣の丘で――再び。
●リプレイ本文
●『獣の丘』作戦
嵐の前の静寂。丘の上に展開するワーム群が、荒野を見据える。
突如。厚い雲切り裂いて高速で飛来する――砲弾。
それを捕捉して黒タロスは空を仰ぎ、両腕を広げた。
『来やがったな糞野郎どもォッ!!』
ガリアの咆哮と同時に、着弾。丘が震え、衝撃が襲う。
『‥砲撃待て』
反射的にワーム群が構えた砲を、オリージュ機が押し留める。眼下の荒野、その遥か向こう。
――KV群が迫っていた。
「第二波砲撃、いきます!」
鹿嶋 悠(
gb1333)が目標に十字線を合わせて、トリガーを引く。
轟音と共に機体が僅かに後退し、大型榴弾が発射された。
その直後にも、耳を聾する爆音が続く。真紅のS−01H、ルノア・アラバスター(
gb5133)機の砲撃だ。
「‥命中、ゼロ、です」
戦果無しの報告を淡々と各機へ告げるルノア。
だが元より超遠距離射撃、期待していない。本命は――その支援を受けて前進するKV各機。
「まさかこんな所でBCを作ってたなんてな‥‥。それならここで――完全に叩き潰してやろうじゃないか!」
スレッジハンマーを軽々と担ぎ、ブレイズ・カーディナル(
ga1851)機が駆ける。
「OK。そんじゃあの忌々しいタイヤ共を纏めて廃品送りにしようかね」
明るい青と銀のシュテルンで並走し、風羽・シン(
ga8190)も口元を吊り上げた。
榴弾の射線を境に二手に分かれた左側、その二機の尾翼部には片翼エンブレム。いや、二機だけでは無い。
ほぼ全機がそれぞれ色も形も違うそのエンブレムを機体に掲げていた。
●分断
一定距離を越した途端、周辺の地面が爆発したように高く舞い上がり始めた。
KV各機は構わず前進。激しい弾雨の中を切り込んでいく。
「っ――!」
ラウラ・ブレイク(
gb1395)機の肩先、黒尾翼へ襲う火線。
だがその一撃は――間に割り込んだ黒金のシュテルンが身を呈して受け止めた。
「‥‥っ!? 平気!?」
「ええ、ウシンディならこの程度は」
ラウラの問いかけに、カルマ・シュタット(
ga6302)は事も無げに頷く。
「‥後で背中を任せる代わりに、今は俺が盾になりますよッ!」
カルマは愛機のPRMを最低レベル発動し、装甲を強化しつつ前へ進む。
降り注ぐ砲火。各機が丘へ近付くにつれて被弾率も上がり、火花と焦げた鉄片が地面に剥がれ落ちる。
その激しい砲火を押し留めようと、少しずつ前進しながら悠機とルノア機が大型榴弾を撃ち放つ。
その間に全速で進む各機。やがて『獣の丘』は近付き、すぐ目前となった時――。
突如、上空で戦況を静観していたHW八機が動き出した。
「なっ――!?」
「HWが‥‥ッ!」
レーダーにその反応を捉えたパイロット達が咄嗟に空を見上げる。
隕石のように飛来するHW。
この事態を警戒していたルノア機とラウラ機だけが、即座に対空砲と重機関砲で弾幕を張る。――が、二機の力だけではワームの強襲を押し留められなかった。
『敵分断‥‥成功』
オリージュの冷たい視線の先。
メインモニタに映し出された映像には、二機の後衛KVと前衛KVの間に――八体のHWが割り込んでいるのを捉える。
同時に、戦場に紫の閃光が煌いた。
●二班
激しいフェザー砲撃の渦の中に、ルノア機と悠機が包み込まれる。
そちらへ振り返ろうとする各機。
だがその背中へ丘からの砲撃が迸り、KV群の装甲を砕いた。
「ちっくしょぉ! こんままじゃヤバいッ!」
聖・真琴(
ga1622)が戦況の不味さに声を上げる。
危険な状況。即座に判断を下さなければならない時、各機は予め決めておいたニ班に分かれた。前後へと四機ずつ。
「先に行く! 援護お願い!」
「了解! 全力を尽くして支援する!」
リヴァル・クロウ(
gb2337)機『電影』がライフルを構えて腰を落とす。直後、その砲口から強烈な発射炎が連続した。
丘から降下してくるワーム群の血が噴き出し、肉が穿たれる。リヴァル機の弾幕にワーム達は僅かに怯んだ。
地面に降りたRC達がリヴァル機へとプロトン砲を向けようとする。
だがそちらへ――砲弾が叩きつけられた。
ブーストで敵群へと切り込むディアブロ『―悪夢―』。肩の砲が炸裂し、前方に展開するRCの照準を絞らせない。放たれる光条を補助スラスターで回避しながら敵へ接近。
だが扇型に展開したRCの一斉砲撃は近付く程に回避が難しくなる。不意に両翼の光条が奔り、真琴機が赤い光に消えた。
が、直後。
「――飛び道具持ってるヤツぁ、肉迫されるとビビるだろッ?!」
光の中から焼け焦げた十字髑髏のエンブレムが浮かびあがり、弾けるように接敵。
鋭く機剣を振るってプロトン砲を斜めに砕き切った。
だがその真琴機の背中へ放たれる、ゴーレムの砲撃。
‥それを、リヴァル機が身を呈して受け止めた。
「っ‥‥ダメージコントロール完了。まだ問題はない」
激しく装甲を散らしたシュテルンだったが、ファランクスでゴーレムを自動攻撃する。激しい弾幕が人型の敵へ降り注いだ。
リヴァル自身はそちらへ構わず、RCへ引鉄を絞っていく。真琴機が手負いにした恐竜達を撃ち抜いた。
さらにカルマとラウラの駆る二機がそこに加わる。
カルマ機がRCへ走破し、ロンゴの一撃を真っ直ぐに振るった。赤い肌のRCに突き刺さると同時、爆炎が敵を焼き焦がす。
「まずは一体、ですね」
機体を滑らせて急制動するカルマ機。
「ええ。後ろは気にせず蹴散らしてやって」
カルマ機の背中へ飛び掛かる別のRCを、ハイ・ディフェンダーを構えたラウラ機が割り込み、止めた。そのまま機剣の鋭い斬撃を振るい、RCは血と肉を撒き散らしながら地面に転がり落ちる。
だがふいにそんな四機へ――巨大光条が降り注いだ。
「っ! 上から――!」
地面に幾本もの光柱が突き立ち、KVごと土を溶かす。各機コックピットににレッドアラートが鳴り響き――直後、地面が揺れた。
突如丘の上から降って来たのはTW三体。
砲を構えたまま着地したかと思うと、即座にケルベロスエンブレムのシュテルンへ照準をつけた。
「させない――ッ!」
オーバーブーストを掛けたラウラ機『Merizim』がカルマ機を突き飛ばす。同時にTW全機が瞬時に輝きを増した。
直後、怒涛の如く迸る光条。
陽光色の片翼と魔犬エンブレムを付けたフェニックスは一瞬の内に光の中に包み込まれた――。
戦場に大粒の雨が降り始める。丘からやや離れた荒野を、四機のKVとHWが激しく火花を散らしていた。
真紅の片翼を付けた雷電が敵へ疾駆、巨大戦槌の柄を強く握りこむ。
巨大ハンマーが荒々しく振るわれ、重厚な金属音と共にHWが吹き飛んだ。
跳ね飛ぶHWを別のHWが横へ避け、ブレイズ機へとフェザー砲を連射する。
「‥うおおおぉォォ――ッッ!!」
だが装甲で敵の砲撃を弾きながらブレイズ機は接敵。敵の頭上にMステークを思いっきり突き立て――巨大ハンマーを打ち下ろす。
極大の衝撃に機杭は深く食い込み、HW内部を貫通して地面まで穿った。
その死角からフェザー砲を連射するHWへ、シン機が機銃を掃射して交差する。
青い片翼を振って通り過ぎたシン機の後方、HWが崩れ落ちて――爆発した。
さらにやや離れた別地点では、照準をややずらしたルノア機の弾幕がHWを追い立てる。HW達が回避させられ、巧妙な誘導によって辿り着いた先は――悠機が構える魔剣の先。
寄ってきたHW達を一振り毎に破断し、屠っていった。
戦闘は圧倒的に優勢。
だが、それ故に――。
「っ、友軍機、に、異常、反応‥‥!」
ルノアがレーダーでそれを捉え、そちらへ視線を向ける。
降り出した雨の中、丘の手前で繰り広げられる激戦。
強烈な砲火に包まれているのは――四機のKVだった。
●大破
泥を蹴り上げ、黒いタロスが斧を振り下ろす。甲高い金属音。リヴァル機が機剣で受け止めていた。
『ハッ、どうしたぁ! 手も足も出ねぇかぁ!?』
「ぐ――ッ!?」
無防備な状況で、側面から機斧を構えたゴーレムが得物を振るう。身動きが取れないままリヴァル機は被撃。装甲を貫く嫌な衝撃が走る。
僅かによろめくシュテルンへ、――ガリア機の渾身の一撃がKVを破断した。
「く〜ちゃんッ!」
『‥‥どこへ行く気?』
僚機へ駆け寄ろうとしたディアブロを、鋭い斬撃が押し留める。機刀を振るう――青いタロス。
「そこを‥‥どけぇッ!」
真琴が怒号を響かせて激しく剣を振るう。その気迫に押され、剣戟を返しながら後退していくオリージュ機。
だがそこへ――、横合いから不意にゴーレムが砲を閃かせた。
真琴はそれを視認すると同時、スラスターを噴かせて回避。
だがそれは。
『‥貴方が、よく使う手よ』
「しまっ――」
回避した先に突き出された、銀色の刃。
真琴機はそちらへ加速する形で貫かれ――深々と背中に刃が生やした。
オリージュ機が刀を抜くと同時、飛び掛ってきたRCがディアブロを地面に叩き伏せる。
派手に倒れるKV。そのコックピットを噛み砕こうとしたRCを――高分子レーザーが貫いた。
「‥‥マズイ状況になって来ましたね」
自機の被弾警告に耳を傾けながら、カルマはトリガーを引き続ける。レーザー砲を連射し、RCの息の根を止めた。
しかし何度も死線を潜り抜けて来たカルマ機も、全身から火花を散らしていた。
さらにそちらへ、TWが横から巨大砲を向ける。
「いい加減‥‥がっつき過ぎよ」
ラウラが呟く。『Merizim』が駆け寄り、雪村で甲羅を斜めに切り裂く。
TWの装甲は豆腐のように潰れ、その場に崩れ落ちた。
だがそんなKV二機を包み込むゴーレムの砲火。砲を潰されたRC達が近接して爪を振るう。
さらに、タロスも動いた。
オリージュ機が刀を構え、ラウラ機へ疾駆する。
『‥‥確か貴方、ガリアに言ってたわね? 誇りがあるならKV戦で決着を、とかどうとか』
「ええ‥‥引き金を引いた結果、学ばせてあげるわ」
満身創痍。それでも迎撃するだけの力は辛うじて残っている。
刀を振り上げるタロスに合わせ、フェニックスも雪村を中段に構えて――。
その背中を、ゴーレムが撃ち抜いた。
『これで――満足って事ね』
袈裟斬りに振るわれた一撃。
倒れ込むラウラ機が遅れて放った雪村は――幾条かの雨を蒸発させて、消えた。
「くそっ、ラウラさん――!」
『お前の相手は‥‥そっちじゃねぇだろボケェッ!』
一瞬だけ意識が逸れたカルマ機へ、黒タロスが斧を叩きつける。裂き潰すような重い一撃がカルマ機の機関部を破壊した。
機体のバランス制御装置が壊れ、転倒する黒金のシュテルン。それでもその手に握る機槍だけは離さず――投擲するようにタロスへ突き出す。
しかしその両者の間に、ゴーレムが割り込んだ。
槍に貫かれて爆炎を上げるゴーレム。その肩を踏み台にして跳んだタロスが、空中の加速力を付けてカルマ機へ斧を振り下ろす。
嫌な音が響き――シュテルンの破片が辺りに散った。
『‥‥てめぇだよなぁ? 俺らが虫ケラぐれぇ弱っちいボケって言ったのはよぉッ!』
カルマ機の頭部を激しく踏みつけて、斧を引き抜くガリア機。
ほぼ機能停止したコックピットの中――カルマの薄い視界に、巨大斧を振り上げる黒タロスが見えた。
『その俺が‥‥てめぇの息の根止めてやらぁ!』
振り下ろそうとした、――刹那。
両肩を赤く染めた雷電『帝虎』がブーストで急速接近した。
その左手には8mの刀身を誇る魔剣。左肩を引き、赤い刃に添えた右手を敵へ向け、アクチュエーター起動。
振り返ったガリア機へ――右手を引く反動を使って高速の平突きを放つ。
『ッ――チィッ!』
咄嗟に回避するも、肩の肉を抉られるガリア機。
「暫く俺とダンスを踊って貰いましょうか!」
さらに悠機は突きの勢いを殺さず、体を捻って魔剣を振るう。ガリア機の斧が激しい火花を上げてその刃を受け流した。
転がるようにして黒タロスは距離を取る。
●撤退
新しい乱入者に殺到するワーム群。だがそれを――激しい弾幕が押し留めた。
接近するシン機、ブレイズ機、ルノア機の射撃。
さらに、上空から片翼エンブレムのシュテルンが降り立った。
『皆さん、作戦中止です! 急いで撤退を!』
直近の敵へ射撃しつつ叫ぶのはイカロス隊ヒータ機。さらに遅れてライト機も少し離れた場所で着陸、合流する。
ルノア機の状況報告を受けた二機は、爆撃機を帰還させてKVだけで全速力でやって来たのだった。
『イカロス隊‥‥ここで仕留めるわ』
即座にオリージュがヒータ機へ向き直り、フェザー砲を撃つ。
だがライト機がそれを受け止め――。
「約束通り、遊びに来てやったぜッ!!」
盾と機銃を構えたシン機『アイン』が青タロスへと疾駆した。
反応するオリージュ機。その目前で、大振りにライフルを構えたシン機は――その盾とライフルを、手離した。
『ッ――!』
「喰らえぇッ!」
一見、振るわれたのは素手の拳。しかしその腕に――パイルバンカーが装着されていた。
射出される機杭は、咄嗟に体を捻ったタロスの左肩に突き刺さる。
‥‥だが同時に、青タロスの機刀がシン機を貫いていた。
『機銃を構えての突進‥‥警戒はしてたけど、そんな兵器があるのね』
言いながらオリージュは刃を横へ捻り、外側へ斬り放つ。火花と幾本の内部機構が散った。
『く‥そっ』
シンが即座に脱出装置を引く。が、ポッドで射出されるより早く――。
オリージュ機の二の太刀が機体を切り裂いていた。
『シン!』
大破した各機の自動帰還装置をマニュアル起動させながら、ライトがそちらを見上げる。
ゆっくりと、シン機が膝から崩れ落ちていった。
撃墜された各機は這うように撤退する。だがワーム群の追撃は容赦無かった。
「っ、機体が‥‥!」
ルノア機の装甲は完全に溶解。
直後にフェザー砲に撃ち抜かれ、真紅のS−01Hは――崩れ落ちた。
そのままなし崩し的に全滅か――と思われた時。
『‥‥よぉイカロス隊。こちらクロウ隊だ、苦戦してるみたいじゃねぇか?』
『クロウ隊‥‥!』
パウダーリバー基地から四機のKVが飛来する。
『見ろよオリージュ! カモネギだ!』
『いえ、私達も撤退するわよ』
『‥‥あ?』
不服そうなガリアへ、オリージュはワームの状況を指し示す。
幾らバグア側が優勢とはいえ、少なくない被害状況である。
『それに‥‥基地から少し離れたわ。これ以上の追撃は危険よ』
『‥‥フン、まぁ良いか』
鼻を軽く鳴らすと、ガリア機は背中を向いて丘へと歩き出す。
オリージュ機もワームを率いて続きながら、撤退していくKV達へ少し振り返る。
『‥‥‥‥Your defeats.(貴方達の負け)きっと――次は無いわよ』
その言葉は、果たして傭兵達に届いたかどうか。
帰還した彼らに辛うじて死者は無かったものの、負傷者八名。内六名が重体。
敵基地の制圧任務は、失敗に終わった。
NFNo.021