タイトル:【NF】獣の住処、波乱マスター:青井えう

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/22 06:27

●オープニング本文


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 北米、ナトロナ郡。赤土の荒野がどこまでも広がる、大地。
「どうやら間に合ったみてぇだなぁ?」
 丘に扮したバグア基地の中、顔を上げたガリアが広い空間を見据える。
 そこに整然と並ぶ幾多の影。仄かな光源に照らされて、脈動するようにボアサークル(BC)達が震えていた。
 それらの管理モニタに目を落としながら、オリージュも頷く。
「全機、‥‥いつでも出撃できる状態にあるわ」
「それで? アイアス様からの出撃命令はまだ来ねぇのか?」
「‥‥報告はしてあるわ。そろそろ――」
 オリージュが言葉を返そうとした時、突如管理モニタの画面が切り替わる。アルコヴァから通信が入った表示。
 モニタ前のオリージュを自動認証し、画面には――アイアスの姿が映し出された。
「っ‥‥」
 二人は深く頭を垂れる。画面の向こうの指揮官は小さく口の端を吊り上げて頷く。
 だが、すぐに表情を険しくした。
「その基地すらも落とせぬ、か。‥‥失望した、人間には」
 開口一番、アイアスの重々しく低い声が響く。
 ゾクリ、と。二人の背筋に冷たいものが走った。まるで――自分達が殺されるのを期待していた、とも取れる物言いに。
 だがアルコヴァの民衆の中から自ら選び、育てたアイアスが自分達を殺すはずが無い。二人の疑念はすぐに霧散する。
「アイアス様。俺とオリージュ、いつでも出撃する準備は整っています」
「その必要は無い」
 即座に、目前の王はガリアの言葉を退けた。
「そこで待っていれば、必ずや人間どもが兵を差し向けるだろう。それを迎撃しろ。だが‥‥BCに関しては移動させろ、座標を送る」
「‥‥ここ、ですか?」
 オリージュが目を瞠って呟く。
 だが、アイアスは不敵に頷いた。
「この方面の人間どもを滅ぼす。だが‥‥最後に希望も与えてやろう。――足掻け、人間」
 その瞳に嗜虐の炎を燃やして、アイアスが笑んだ。


「‥‥それで、どう責任を取るつもりだイカロス? 君達の爆撃任務は失敗した。それを受けて一度はあの基地を放置する事も考えたが、とても捨て置く事はできん‥‥。とはいえ、敵の基地は今頃要塞と化しているはずだ、これを攻略するのは簡単な事では無い! そして、元々の原因が君達だッ!」
 パウダーリバー基地司令、ポボス大佐が怒声を張り上げる。
 まるで作戦失敗の全責任を押し付けて糾弾するかのような言葉を、しかしイカロス隊の二人は張り詰めた表情でジッと耐えていた。
 それを良い事に、ポボス司令は流々と二人へ口を開く。
「ふん‥‥何が傭兵を正規軍扱いに、だ。その結果がコレだぞ! 結局は素人に毛が生えたようなものだろうが! 肝心な所で失敗する! それで今頃は笑いながら安全なラストホープで酒でも飲んでおる連中だッ!!」
「そんな‥‥ッ! いくら何でも言いすぎだわ‥‥彼らは命懸けでやってくれてます! ‥‥一緒に戦ってる私達がそれを一番感じて分かっていますからッ!」
 傭兵までこき下ろし始めた司令へ、イカロス隊隊長ヒータが噛み付くような表情で反駁する。そこには暗に、「前線に出ない司令には分からない」という皮肉を込もっていた。
 だが、ポボスは鼻で笑ってその言葉を退ける。
「一緒に戦っている? フン‥‥、それで馴れ合っておるんじゃ無いのか? 仲良し仲良しで結構な事だが――ここは戦場だッ! 仲良しごっこする奴らなんぞ軍人とは言わん!」
「戦場において‥‥信頼は必要です」
 ライトが険しい顔で口を挟む。その表情は司令を睨んでいるようにさえ見えた。
「‥‥ならば、司令はどうしろと言うんです? 幾ら喚いてもここには僅かな戦力しかない。結局‥‥、頼りになるのは彼らの力だけだ! 彼らの協力があればこそ、ベッセマーベンドからここまで撤退する事も出来たんですよ!?」
「黙れッ!! 傭兵だと!? 傭兵なんぞ‥‥くそ、レッドバード隊ならばこんな事にはならなかった‥‥レッドバードさえいれば、こんな任務など‥‥」
「‥‥司令ッ!! レッドバードは――もう死んだんです! 全滅したんですよ、キャスパーでッ!」
「っ――き、貴様ッ! ワシは黙れと言ったぞライト・ブローウィン少尉ィッ!!」
 声が作戦司令室に残響を残して、消えた。後には張り詰めた沈黙だけが残った。

 大きな机を挟んでポボスとライトは対峙する。
 両者が交わす視線は険しく、今にも飛び掛らんばかりに相手を睨み据えていた。
「‥‥もう一度、傭兵を召集する」
 長い沈黙の後で、ポツリとポボス司令が言葉を吐き捨てた。
「そこまで奴らの肩を持つんだ‥‥。次は絶対に成功させるんだろうな、片翼隊」
 その挑発するような言葉に、ライトは即座に頷いた。
「‥‥もちろん、汚名返上させてもらおうじゃないですか」
「私も断言します。次は絶対に成功させます‥‥彼らと力を合わせて」
 イカロス隊の二人は声を揃えて主張する。
 それを聞くとポボス大佐は一つ頷き、憮然とした表情を崩さないまま後ろの椅子に重そうな体を預けた。
「良いだろう。‥‥だがもし仮に任務が失敗しそうになった場合、イカロス隊は帰ってこんで良い。敵基地内部に特攻し、敵施設と共に自爆しろ。――これは命令だ。良いな?」
 ポボス司令の行き過ぎた命令に二人は一瞬、息を飲む。
 思わず、ライトを見るヒータ。
 だがライトは小さく笑んで、頷いた。
「‥‥帰って来ますよ」
 ポツリと呟いたライトをポボスは睥睨する。
 だがそれに怯まず、ライトは悪びれないように肩を竦めて見せた。
「彼らと共に任務を成功させて、――イカロス隊全員で帰って来ます」
 言い切ってライトは司令へ敬礼。回れ右して、部屋のドアに手を掛ける。
 それからふと‥‥ヒータの方へ顔を向けた。
「‥‥行きましょう、大尉」
 唖然とした表情をしていたヒータがその声で我に返り、柔らかく微笑んで‥‥頷く。
 それからポボス司令の方へ敬礼した。
「‥‥では、司令。そういう事ですので、私達は出撃準備を整えます」
 言って、退室。
 呆然としている間に一人残されたポボスは、苦々しい表情で傭兵を召集する為に――受話器を取り上げた。


 パウダーリバーからの敵影を遠距離から探知して、生産基地ペトリーヒルが迎撃の為にワームを展開させる。だがそのワームの数は前回の襲撃から何日かの間があったわりには、それほど多くは無かった。
 HW10、TW2、RC6、ゴーレム8。
 そして、――黒と青のタロスが一体ずつ。
 ガリアとオリージュがその二機にそれぞれ搭乗し、敵を迎撃するべく空を睨んでいた。
「‥‥くくく、きやがったぜぇ――! 家畜どもがぶっ殺されによぉ!」
 咆えるガリアに、頷くオリージュ。
「キリがないわ‥‥。次は確実に――破壊する」
 やけに響く呟き。
 戦場はまだ、不気味な沈黙が支配していた。

 ‥‥前回敗戦をまみえたペトリーヒルへ、再び人類はコマを進める。
 この絶望にまみれたナトロナの大地に、希望をもたらす為に――。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 ペトリーヒルへ向けて空を駆るKV十機。
 その内のライト・ブローウィン(gz0172)機の隣にふとシュテルンが並んだ。
「‥君も律儀な男だ」
 リヴァル・クロウ(gb2337)がライト機に換装された機盾に目を向けて、小さな笑みを浮かべる。
「ああ、お互い苦労性だな」
 ライトのサムズアップに頷き、そのままリヴァルは前を向いた。
「これより戦闘区域に入る。我々の手で‥奪還しよう」
 その声に呼応し、十機は臨戦編隊を組み直した。
「せっかくこの翼を付けさせてもらったってのに、いきなり情けない姿見せちまったな。だが‥‥今回でその分を取り戻して見せる」
 緋色の片翼が描かれた雷電のコックピット、強く拳を握ったブレイズ・カーディナル(ga1851)が誓う。
「‥‥ああ、ポボス司令の言う事も仕方が無い。――今回こそ成功させよう」
 ケルベロスと黒片翼章を付けたシュテルン、カルマ・シュタット(ga6302)も強く言い放った。
「ま、結果がああだった以上、何を言われようとそりゃこっちの自業自得だ。だからって今度失敗したら少尉達に特攻しろなんて命令‥‥流石にそろそろキレる寸前だな」
 さらに瞳に殺気を漲らせるのは風羽・シン(ga8190)。
 激情を燃やす各員の目前、敵影が迫る。
 HWが10。
 そして――青と黒のタロスが。
『いよおッ! またノコノコやられに来たかぁ!!』
『対空砲‥‥発射』
「ッ、全機散開を!」
 言葉を交わす間すらない。ヒータが叫び、鋭く操縦桿を倒す。
 直後、KV編隊を――光条が切り裂いた。

 丘の上から、ワーム群が止め処なく火線を迸らせる。
 だがその地獄の釜が開いたような状況を縫い飛び、KV隊は敵へ近付いて行った。
「前回の雪辱はここで返させて貰う。俺達は‥こんな所で歩みを止める訳にはいかないですしね!」
 RCの拡散砲を雷電の装甲で蹴散らし、鹿嶋 悠(gb1333)はスロットルをMAXまで上げて前方へ煙幕を射出した。
『ハッ、そんな煙で避けられると思ってんのかぁ!?』
 空陸二方向から吹き荒れる大量の光条。KV各機は次々に被弾、紅い熱線に装甲が削られる。
 ――が。
「‥その程度か」
『んだとッ!?』
 装甲を焦がしながらも煙を抜けたリヴァル機が――即座にK−02を解放した。
『またコレね‥‥能が無い!』
 バグア式テーバイがミサイルの大半を叩き落していく。
 しかしその爆炎をブーストで貫く――シン機、続くカルマ機。
「バカが、本命はこっちなんだよ!」
『くっ、安い奇襲を‥!』
 言いながらも二機の砲火に被弾する青タロス。再生装置を起動しながらオリージュは反撃する。
 同じくガリア機へも――嵐のような弾幕が走った。
 接近するリヴァル機と、ルノア・アラバスター(gb5133)の駆る真紅のS−01HSC。
『ケッ、もう見飽きたぜお前らはよぉ!』
「‥以前の、私、とは、違い、ます」
 高速接近する二機へ射撃しながら、ルノアの言葉にガリアは小さく眉をひそめた。
『あぁ!? ‥ハッ、一緒じゃねぇか!』
 強烈な砲撃を乱射し、ニ対一でさえ全く引けをとらず――むしろガリア機は圧倒していく。
 ‥‥しかし、突如。
 側方、離れた場所から戦場をつんざく爆音が響き渡った。

『っ、HWが‥‥!?』
 レーダーに目を落とし、オリージュの表情が強張る。
「‥ッと、派手にヤリ過ぎちまったか?」
 HWを炎塊に変えた聖・真琴(ga1622)は鼻を鳴らし、すぐさま次の標的へと移った。
「諦めない限り‥人類は決して敗北しない」
 HWの光条を回避し、逆に敵を火の玉に変える――陽光色の片翼と魔犬エンブレムのフェニックス。
 急旋回、真琴機と交戦するHWをロックオンし、ラウラ・ブレイク(gb1395)はトリガーをきつく絞った。
「倒れる事のない相手を敵にしたのよ、貴方達は」
 ――轟く爆音。二機はそのまま散開する。
 さらに別地点ではブレイズ機が剣翼でHWを両断し、悠機が螺旋ミサイルで敵を吹き飛ばす。
 加えてライト機とヒータ機の連携がHWを落としていった。
 まさに猛攻。KV隊の攻勢でレーダーから急速に消えていく――HWの光点。

『‥まずいわ。ガリア、これ以上保たない!』
『チッ! 孤立する前に地上へ降りんぞ!』
 オリージュとガリアは声を荒げ、フェザー砲で眼下への突破口を開く。
 しかし――能力者達は引き下がらなかった。
「対象は‥青。一斉射撃、開始する!」
「おぉよッ!」
「了解した!」
 リヴァル機の号令に合わせ、シン機とカルマ機との三機がタロスに追従。
 リヴァル機が地上へ火線を注ぐ。
 青タロスはどうにか避けるも――さらに二機が飛来する。
「ジタバタ‥すんじゃねぇッ!!」
 ブーストを駆けてパワーダイブを掛けるコバルトのシュテルン――『WF−01』が垂直降下、機銃の集中砲火を浴びせる。
『くっ――!』
 オリージュ機の肩を穿つ弾丸。
 間髪入れず、降下するカルマ機がそこを照準に合わせた。
「PRM50使用、傷を抉るぞ――ウシンディ!」
 アグニの大口径砲が轟音を上げる。高速の弾丸がタロスの装甲を砕き――風穴を空けた。
『敵を撃ち落せ‥!』
 被弾警報を無視して、無人機に指示を出すオリージュ。呼応してワーム群は一層激しく対空砲火を散らす。
「‥‥成果は十分であると判断する。後方と合流を」
 三機は機首を翻し、砲火に追われながら低空を東へと加速。
 そちらへ振り返り――オリージュは咄嗟に指示を変えた。
『‥ッ、撃ち方やめ! 全機、全速移動!』
『間に合うか!?』
 オリージュとガリアが見た、東の空。
 HW殲滅をほぼ終えたKV隊が――着陸のために降下態勢に入ろうとしていた。

『射程に入った奴から砲撃しろぉ!』
 言い放ったガリア自らが、丘の東端でフェザー砲を発射した。
 まばらに空へ撃ち上がる砲火。それをかわしながら黒尾翼のフェニックスとバイパー改が、地上へ煙幕装置を放射する。
『煙幕如きで‥‥着陸の隙はカバー出来無いわよ!』
 膝立ちで狙撃銃を構えるオリージュ機。
 だが――レーダー反応は、それより上方。
『ッ!?』
「うらァッ♪ ょそ見してンじゃ‥ねぇよ!」
 ブースト、翼を振って煙を突き抜けたのは――真琴機。髑髏章を付けた『悪夢』がそのまま丘上へロケット弾を乱射する。
『くそっ、煙幕は陽動か!?』
 無人機と共に即応するガリア。
 だが――。
『‥違うガリア! そっちが囮よ!』
 オリージュは叫び、別方向へ狙撃銃の引き金を絞っていた。
 白煙の中で起こる火花。だがそれに怯みもせず――砲を構えた二機のKVが薄っすらと姿を現す。
「敵前へ真っ先に降下して味方の橋頭堡を築く‥‥これが雷電の本来の役目だッ!」
 言い放ったブレイズが、前へ駆け出しながらツングースカを獣丘へと連射した。
 さらに同時降下した悠機『帝虎』も前へ出て、機銃で弾幕を張る。
 一歩下がった煙幕の中、ヒータ機がD−02で二機の前進を援護。
『無謀な事を!!』
 対するは敵の圧倒的多勢の砲火。距離があってもかわしきれない激しい弾幕の中を、だがブレイズと悠の駆る雷電が厳然と突き進んでいく。
 その間に――KV群が次々煙幕の中へ降下する。先行着陸した機体の援護を受けて全機が地上へ降り立つ。
 ふいにバイパーが前へ躍り出て、機盾『アイギス』と剣を掲げた。
「全機行くぞ――今こそ勝利を掴むためにッ!」
 そのライトへ応える全員の声。立場の違いを超えた――ただ戦友への応。
『‥‥っ、掛かって来いやあああああ!!!』
 触発されたように黒い獣が絶叫を上げた。
 直後、戦場の全ての機兵が地面を蹴る。
 丘を跳んで地上へ降りるワーム。
 そしてKV群は丘を目指して、――ブーストを噴射した。

「‥ここの皆と約束しちゃったからね。必ずキャスパーを、ナトロナを奪還するって」
 陽光色の片翼章を煌かせ、魔犬を宿したラウラ機がTWへ駆ける。
 紅い大口径砲撃をかわしてなお接敵。
 その腕に、電磁を帯びた筒が装填される。
「人々の希望になれるのなら――喜んでこの身を捧げるわ!」
 『Merizim』が振り下ろす巨大光条。雪村の熱冷融合した一撃が、TWを裂き割った。
「ルノアさん、蛇足と思いますが‥‥気を付けて」
 悠が並走するルノア機に声を掛け、そのまま二手に分かれる。
 濃紺赤肩の雷電『帝虎』は、数多の魔王が彫られた剣を‥‥さながら引き絞った矢のように水平に構えた。
「敵陣を穿ちます、――迅雷ッ!」
 悠の叫びと同時に繰り出された最高速の赤い刺突。ゴーレムの胸を根元まで貫き、間髪置かず突進の勢いを乗せて身を捻る――薙ぎの斬撃。
 ニ撃を受けたゴーレムは紙屑のように両断されて、吹き飛んだ。
 入れ替わるようにRCが跳び、悠機へ大きく牙を剥く。
 ‥だがそれを遮り、その身ごと打ち返す――巨大鋼槌。
 ブレイズ機。
 背丈など優に越えるハンマーを握り締め、装甲も、機構も、武器も、盾も、骨も、肉も、全てを等しく打ち砕く。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!」
 一斉に飛び掛かるRC群へ、ブレイズ機は荒れ狂う暴風のようにハンマーを振るい、圧壊し、叩き潰した。
 その激しい戦意に呼応するように、すぐそこで噴き上がる焔。
 火を吹いて擱座する二体目のTW。その手前には、武器を再装填する魔犬と髑髏のKV二機。
 AF作動の熱で機体をより赤く発光させながら、真琴機がタロスへ一瞬視線を送った。
「‥とりあえずテメェら‥ツケ、払えや‥‥」
 呟き。
 呼応する――KV四機。

『しつこいッ‥!』
 苛立ちを含んだ声で機刀を抜き放つオリージュ機。
「ハッ、そうやって生き残って来たんだよッ!」
 シンが叫び、引き金を絞る。
 カルマもツングースカで援護しながら、その青タロスを睨みすえた。
「シュテルンで結構な戦いをしてきたが‥、大破させられたのは前回で2度目だ。‥‥覚悟は出来ているんだろうな」
 二機の連綿と続く掃射。適度に砲で反撃をしつつも、ジリジリと青タロスは押されていく。
『来いやぁ! その程度か豚どもはよぉッ!』
 一方で既に格闘戦となって奮迅するガリア機。ルノア機の鈍い機槍を弾き、その次に放たれた機刀『獅子王』の鋭い一撃を巨大斧で受け止める。
「ルノアッ!」
 機銃で突撃し、機剣を振るうリヴァル機。
 だが黒タロスは獣じみた動きで弾丸を避け、機剣を斧で打ち返した。

 対タロスは一進一退の攻防。
 しかし、ブレイズの声がそれを打ち破った。
「後のワームは俺達に任せろ! ――行け、奴らを倒すんだッ!!」
 激しい被弾警報を耳にしながら、真琴とラウラへ搾り出す叫び。
 自分と仲間を守り抜く雷電――今その真価を問わずして、いつ力を見せるのか。
 頷き駆け出す二機。
 しかしその眼前へゴーレム三機が回りこむ。その無人機もまた主を守るために全存在を掛けて武器を構える。
「っ‥‥!」
 が直後、――破壊的な衝撃を受けて一体が宙に吹き飛んだ。
「道は俺達が切り開きます‥‥行って下さい!」
 魔剣を振るう悠機は、体ごと斬りかかって敵を荒々しく叩き伏せる。
 ブースト、アクチュエータ、燃料を惜しみなく消費し、深紅の瞳に映り込んだ敵を確実に屠る――仲間のために。

『‥早いッ、もう新手が来た‥!?』
 焦燥の声を上げるオリージュ。
 畳み掛けるようにシン機がブーストした。盾と機銃を構えて、前回と――ほぼ同じ奇襲の手。
「喰らえぇ!」
『愚かねッ、‥前回通じなかった手をまた――』
 突進に合わせて機刀を振るおうとしたオリージュだが、その言葉は途中で止まる。
 相手が急機動――シン機はレッグドリルを地面に突き立てて動きを変えた。
 前回と完全に同じでは、無かった。
「ナトロナは必ず解放してみせる! 俺達――、イカロス隊がだぁッ!!」
 RPM全力を注いで淡く発光する剣翼。そこに描かれたブルーの片翼章がブレ――タロスの片腕を宙へ斬り飛ばした。
『しまっ‥‥!』
 被弾警告。そして――敵の接近警報。
 即座にオリージュ機が、振り返った先。
「‥‥三倍返しだ」
 ブーストを掛けたカルマ機が既に放っている――ロンゴミニアトの槍撃。
 衝撃。肉を抉り、激しい爆炎が噴き上がる。煽られ、ウシンディの黒片翼章が赤く浮いた。
『オリージュ? ‥オイ、何やってんだよッ!』
 ルノア機の機槍を雑に払い、ガリア機は飛行ユニットを展開――しようとして。
 巨大な熱光がその飛行部を削ぎ落とした。
「再生可能なのは‥‥生体部分だけだったかしら?」
 ほぼ全ての特殊機能を起動、ラウラ機が背面に回っていた一撃を見舞っていた。
 思わず態勢を崩す黒タロス。その足を――リヴァル機が間髪おかずに地面まで貫く。
「ここだ、行けルノア!」
 返事の代わり、槍と刀を構えたルノア機が駆ける。
『ケッ雑魚がぁ! さっきから蚊ほども痛くねぇんだよぉッ!』
「‥これ、でも、ですか」
 ――ルノア機が刀から手を離し、槍を両手で握り締めてAFを加味する。
『何‥‥!?』
「これが、神槍の、本当の、一撃‥‥ッ!!」
 ルノアの言葉で目覚め、機槍後部から噴き出す激しいブースト。真紅のS−01HSCは加速、ROTの片翼章を翻らせて――。
 黒タロスへ放つ――ルーネ・グングニル。

『ぐぬあああああああああああああ!!』

 コックピットをも焦がす爆炎と衝撃。
 機体、各部機能停止。だが最後に振り絞る力――斧を握り、半壊したタロスは振り返る。
『‥‥逃げろ、オリージュゥウウ!!』
 オリージュ機の目前に立ち塞がる、赤いディアブロ。滲む視界に捉えて、ガリア機は巨大斧を投擲しようとする。
 だが突如割り込んだシュテルンの腕が――その刃を受け止めた。
「させん‥。意地があるのだよ、男にはなぁ!!」
 断ち落ちた片腕には目もくれず、リヴァル機が絞る――引鉄。
 血飛沫を上げて黒タロスが仰け反った。そして、その背中を――。
 ルノア機が繰り出す神槍で、――完全に穿孔した。

 噴き上がる爆炎。
 それを遠くにやりながら、銃を構えた真琴機と膝を付いたボロボロのオリージュ機が対峙する。
『まさか‥こんなに圧倒的だとはね‥‥』
 もはや諦観したようなオリージュの言葉。
 それに、表情の消えた真琴が照準を合わせた。
「これで勝ちだ‥‥。アタシ達のな」
『そうね‥‥強かったわ、貴方達』
 一拍後に響く――銃声。
 遠く高く。
 戦いの閉幕を――静かに伝えた。


『3、2、1‥‥爆撃開始』
 ‥‥爆撃隊により、ペトリーヒルに落とされる大量の爆弾。
 それを少し離れた場所から満身創痍の十人が眺めていた。
『‥‥任務完了。これで一旦‥お別れですね』
 少しだけ寂しそうにヒータが全員に声を掛ける。
『全員、基地帰還後に解散だ。だがまぁ‥‥』
 ライトが小さく咳払いし、微笑を浮かべる。
『‥生きてまた会おう。きっとな』
 約束を交わして頷きあう、十人の能力者達。
『――爆撃終了、帰投する』
『‥‥了解。イカロス隊も帰還します』
 そうして灰となった荒野を残し、各機は傷ついた翼でゆっくりと空へ戻って行ったのだった。

 この成功が――ナトロナ解放への大きな一歩となる事を願って。

NFNo.022