タイトル:【NF】都市威力偵察マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/06 20:43

●オープニング本文


 北米。赤土の荒野が広がるワイオミング州ナトロナ郡で繰り広げられる戦火は日増しに人類を駆逐していった。
 敵の支配地域は広がり続け、遂にはナトロナの大部分が支配される状況に陥る。
 しかし、それでも。
 最後の砦パウダー・リバー基地に残った人々は諦めていない。否、諦めるなど出来ようはずが無かった。
 パウダー・リバー基地のナトロナ軍は敵の攻撃を耐え切り、今はイカロス隊と傭兵部隊が『獣の住処』作戦を開始。敵拠点の捜索に向かっている。
 さらにその結果を待たず、ナトロナの地にもう一度傭兵達が集められた――。

「それでは任務説明の方に入らせて頂きます」
 ナトロナ方面担当オペレーター、マヤ・キャンベルが作戦会議室の一室で集まった傭兵達を見回した。
 薄暗い部屋の前面スクリーンにはナトロナの広域地図が表示されており、それぞれ主要な町や地形にだけ線が引かれ名前が書き込まれている。
 そしてマヤはその中の一つ、一際大きな街に指示棒を突きつけた。
「今回、皆さんに依頼するのはココへの威力偵察です」
 地図上の一点を指し示しながら、マヤは滔々と語る。
「ナトロナの最大都市『キャスパー』。‥‥ここがバグアの手に落ちてから、既に半年以上が経過しています。その事からも、現在このナトロナの最大都市キャスパーが敵の大型拠点に作りかえられている可能性は容易に想像が付くでしょう」
 苦虫を噛み潰したように渋い表情でマヤは首を小さく振った。
 それから神妙な顔付きで傭兵達へと向き直る。
「正直に言えば‥‥半年という時間を経たキャスパーがどうなっているのか。それはもう誰にも分からない‥‥むしろ考えたくも無いです。しかし、ナトロナ解放の為にはこの地の奪還は不可欠な事なんです」
 声に力を込めてマヤが傭兵達に呼びかける。
 それからもう一度地図に向き直り、指示棒でパウダーリバー基地からキャスパーまでを直線的になぞった。
「そのキャスパー奪還の第一歩として、敵戦力を調べる為の威力偵察です。皆さんは飛行形態のKVに搭乗し、キャスパーの手前まで赴いて敵迎撃機と可能な限り戦闘をして下さい。その規模によって敵都市の戦力規模を図ります」
 そう言った後でマヤは指示棒をしまい、深々と一礼する。
「――それでは、皆さんの健闘を祈ります」

 最大都市『キャスパー』。
 埃の積もったバグア製機材が散乱する薄暗い作戦司令室に、適度に音量が絞られた警報音が響き渡る。
 キャスパーに張り巡らされたレーダー警戒範囲を超えて複数の機影が進入してきた信号だ。自動でメインモニタに映像が回され、パウダーリバー方面から飛来するKV群が映し出された。
「‥‥来るか、我らの支配に抗う人間共よ」
 暗がりから響く声。その声に絡みつくように、作戦司令室には獣のような荒い息遣いが幾つも響き渡っていた。
 それを心地良さそうに聞きながら、崩れ落ちた机に腰掛けていた一人の男が立ち上がる。その唇を僅かに吊り上げて。
「サビーニの『置き土産』を見て帰るつもりだったが‥‥丁度良い。新機体を持て余して退屈していた所だ‥‥」
 その男はゆっくりと歩き出し、作戦司令室を出て行く。
 そのドアの外はワーム格納庫が繋がっており、キャスパー警戒地域に侵入者を迎撃する為に無人ワーム達が起動し始めた所だった。
 HW、CW、ゴーレム、タートルワーム、様々な既存ワームが並ぶ中で一機――異質のワームが鎮座する。
 ――本星型ヘルメットワーム。
 その大きさは数十メートル。本星HWの中型機だった。
 男――ナトロナのバグア支配地域『アルコヴァ』の王アイアスは、その中型HWに歩み寄るとおもむろに頭上を仰ぐ。
 格納庫の屋根が展開しナトロナの空が広がっていた。
 その空を攻め立てるかのように、何機ものHWとCWが舞い上がっていく。
 その光景を眺めながらアイアスはポツリと呟いた。
「場合によっては――相手してやらん事も無い」

 ‥‥再び、ナトロナに戦火が噴き上がる。
 最大都市『キャスパー』の攻防を巡って――。

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 赤土の荒野上空に傭兵各機は編隊を組む。
「今回の任務は敵情の視察、強さ、保有戦力を調べるための威力偵察か‥‥」
 R−01改のコックピット、時任 絃也(ga0983)が呟いた。
「ですがキャスパー周辺に敵のエースクラスは確認されているのでしたか?
 小型や中型であれば、このメンバーならばよほどまで問題無いと思いますけれど」
 月神陽子(ga5549)が今回参加した傭兵達の機体を見回して首を捻る。
「んー、キャスパーの兵力、‥‥か」
 山崎 健二(ga8182)は少し不安げに唸った。いくらメンバーが揃っていようと、もし想定外の数が来れば‥‥。
 嫌な想像を振り払い、操縦桿を握りなおす。
「さてさて、どれほどの歓迎を受けますやら。まぁ連中を侮るつもりはありませんが、叩ける敵は叩きましょうかね。
 微力なれど‥‥、全力を尽くすと致しましょう」
 対照的に飯島 修司(ga7951)は不敵に笑みを浮かべた。
 その隣に翼を並べるホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)も神妙に頷く。
「率先して藪を突く役も、時には必要か」
 キャスパーの戦力規模は不明。今回の威力偵察で攻略への道筋を付けたい所だった。
「目標まで残り15kmです」
 セラ・インフィールド(ga1889)が全機に報告する。
 荒野の向こうには薄っすらとナトロナの都市「キャスパー」が建造物の陰を落としていた。
「この先が、キャスパー、か‥‥」
 呟く鳳覚羅(gb3095)の脳裏に、パウダーリバー基地の墓標群が思い起こされる。
「あそこで、RB隊が――」
 唇を噛むルノア・アラバスター(gb5133)の瞳も、射抜くようにその都市を見据える。
 彼女が憧れ、機体と塗装までもを似せていったエース部隊――レッドバードが全滅した街。
 八機のKVは空を切ってその都市へ近付いて行った。

「来たか‥‥」
 薄暗く乱雑な司令室で、一人椅子に腰掛ける男。ナトロナ地方バグア司令官――アイアスだった。
「‥‥貴様らの実力。この目で見せてもらおうか」
 不敵な笑みを浮かべ。
 キャスパーが――唸りを上げた。

 各機のレーダーにノイズが走る。傭兵部隊の前方に、HWとCWの群れが上がってきていた。
「気合い入れて行くぜッ!」
 健二が叫び、ブーストを掛ける。周りのKVも続いて吶喊。
 両者の距離が急速に縮まった。
 直後にHWのプロトン砲が閃き、それを掻い潜ってKV各機が一斉に砲撃を開始する。
 CW影響下にありながら、圧倒的な弾幕と命中力でHWを連続撃破。次々に炎を噴き、黒煙を上げてHWが落ちていく。
 さらに妨害電波を出すCW群へも、健二、ルノア、覚羅の三機が攻撃を加える。
「数が増えると厄介だからね‥‥早々に退場してもらうよ」
 抉るように突入する覚羅機が、焔刃でCWを両断する。小爆発と共に怪電波が一つ鳴り止んだ。
 CWが減ると、さらに各機の撃墜率が上がる。
 戦闘は一方的。傭兵各機は迅速に敵を鉄塊へと変えていった。

 その映像を拡大し、食い入るようにアイアスが見つめていた。
「想像以上か‥‥。八機だけなのが幸いしたな‥‥虎の子を出す必要はあるまい」
 言いながらもコンソールを操作し、キャスパーの最大展開能力を発揮させる。
「今暫らく‥‥観察させてもらおう」
 アイアスは呟き、目を光らせた。

 キャスパーから上がってくる三度目のワーム部隊が、傭兵達の苛烈な攻撃を受けて再び全滅する。
 だがまたすぐにレーダーは敵影を探知。‥‥しかもその中の一つは、異様に大きな光点も混ざっていた。
「‥中型機だ。小型は任せて迎撃に当たってくれ」
 弦也が淡々と呟く。それに呼応して、即座に八機の編隊が変化した。
 小型はセラ機と弦也機が当たり、ホアキン機、陽子機、修司機が中型へと機首を翻す。
 不快な怪電波が鳴り、直後敵部隊が一斉に噴き上げる閃光の嵐。
 だがその渦を切り裂いて――全機は一直線に吶喊する。

 CW二体が激しい弾幕に砕け散った。
「二体撃破‥‥次の目標に移るね」
 覚羅の報告が各機に響く。粉塵と化したCW頭上を、真紅のS−01Hと漆黒の破曉が高速で通り過ぎていった。
 ‥そこへ、ふいにHWが飛来。二機の背後へ喰らいつく。
 だがその腹の下を――激しい銃火が襲った。
「やらせっかよ!」
 敵行動を阻害する健二機の弾幕。
 そこから苦し紛れに放たれるHWの紫光条。だがルノア機は高出力ブースターを噴かし、背面に光条をやり過ごす。
 入れ替わり弦也機がマシンガン連射で敵を撃ち抜き、直後にセラ機が剣翼を閃かせて交差した。
 HWは安定を失い、錐揉みして落ちていく。
「小型は数が多い、溜まると厄介だ。確実に潰すぞ!」
 弦也機が次の敵を狙うと、それに合わせてセラ機も機首を翻す。
「異存ありません。敵は増える一方ですからね‥‥!」
 二体がロッテを組んでHWへ襲い掛かる。
 ――直後、一際大きな爆炎が空を焦がした。
 数十メートルあるHWが火を噴き、バラバラに崩れていく。
 その黒煙の中から、剣翼を煌かせたホアキン機『inti』と陽子機『夜叉姫』が散開して現れた。
 少し離れた場所では、硝煙の尾を引く修司機がD−02の空薬莢を地面へ落とす。
 三機は別れ、直近のワームへも砲火を浴びせ始める。
 轟音。空を震わせ落下するワーム群。HWCW一体ずつが残り、それ以外は炎に包まれて四散した。
 新たにキャスパーから上がる敵部隊。
 だがこの傭兵達を前に、小型HWとCWなど物の数では無かった――。

「中型ですら10秒と持たん‥か。‥‥ふ、面白い」
 モニタを注視していたアイアスが立ち上がり、歩き出す。
 そのまま司令室を出ると、その先の格納庫で何かがせり上がった。それは起動し、赤い明滅を全身に走らせる。
「我に体感させよ。――人類の底力とやらを」
 くぐもった笑いを通路に響かせ、男は――ソレの待つ格納庫へ出た。

 火を噴き、地上に何十機目かのワームが落ちていく。空は煙だけを残して敵影を消え去っていた。
 直後、再びキャスパーから敵性反応。
 傭兵達が振り返った先に――異形の中型HWがゆっくりと浮上する。
「中型の‥‥本星、仕様?」
 敵部隊と対峙するルノアがその敵影を認めて、呟く。
 覚羅も柔らかに苦笑すると、小さく息を吐いた。
「‥‥ついに敵さんの真打登場といった所かな?」
『その通りだ、人間共よ‥‥』
 突如として傭兵達の通信に割り込む、男の声。
『貴様らの力は見せて貰った。次は我が直々に相手してやろう‥‥このアルコヴァの王【アイアス】がな』
 敵が言い放つと同時、敵部隊のHW全機が赤く明滅する。アイアスが各機の練力を消費して機体に一時強化を施したのだ。
『今までの相手とは格が違うぞ――?』
 CWが怪電波を発し、HW全機が砲口を構える。
 だがそれに臆する事無く――KV各機は敵へ向き直った。
「さてと。長口上は終わったか?」
 激しい砲声。ホアキン機のエニセイが牙を剥く。さらに修司機、陽子機も別角度からエニセイによる一斉射を加えた。
 ‥‥しかし、三機はここで初めてCWの影響を見せた。的確な照準の中の僅かな揺らぎを突いて――本星型は高機動で回避。だが反撃は牽制程度に留め、アイアスも積極的に打って出ない。
 そのKV三機と本星型以外が各所で激しい砲火を散らす。
 やがて数秒が経ち――キャスパーから、新たな光点が上がってくる。

 傭兵達は新たな敵部隊の対応に当たる。
 眼下から浮上する中型HW。そちらへ、青空の闘牛士――ホアキンの【inti】が電磁加速砲の初撃を見舞った。
 CWの援護で辛うじて回避する中型。
 しかし、一機だけで対峙するホアキンは涼しげに微笑む。
「始めようか‥‥真実の瞬間を」
 闘牛における生死を掛けた一瞬。荒ぶる中型HWへホアキン機は砲を向ける。
 直後、プロトン砲と電磁砲の大光条が――空を交差した。

 本星型と対峙する陽子機と修司機。しかし相手が二機になった途端、アイアス機は突如として激しい機動を見せた。
「――っ!?」
 陽子機と修司機の砲火を潜り抜け、アイアス機は加速。
 その二機には砲を向けず――横へ逸れた。

 紺と灰色の『Baalzephon』がCWを両断、爆砕させる。
 だが直後、健二は視界の端に――それを捉えた。
「っ本星型!? 狙われてやがんのかッ!」
 急旋回、高速で敵機を振り放そうとする健二。だが本星型は相手を冷酷に捉え、三連フェザー砲を鋭く雷光させた。
「っ――!」
 健二機が激しく震動。装甲が光条に添って捲れ上がり、内部機構が火花を散らす。
 しかし紺灰のディアブロは機首を本星型へ向けた。スキルPFを起動、集積砲の大口径弾を撃ち放つ。
「むッ!?」
 アイアス機は急制動で回避。足掻く健二機へトドメを刺すべく砲口をもう一度向ける。
「そう易々とやらせませんよ――!」
 そこへ修司機が接敵、レーザーガトリングの弾幕を張った。
 アイアス機が辛うじて回避した先――陽子機がエニセイの砲撃を浴びせる。被弾。本星型の燃え上がるようなFFが砲弾を散らす。
「‥後はわたくし共に任せ、撤退なさって下さい」
 あくまで今回は威力偵察。命を削る必要は無い。健二は頷き、機首を後方へ翻す。
 そんな健二機を逃すまいと接近するHW。だがそこへセラ機と弦也機が激しい弾幕を張り、密集するHW四体を貫いた。
 さらにセラ機と陽子機がK−02ミサイルを発射。HWは爆炎に包んで殲滅する。
 小型の全滅を確認して、弦也機が本星型へ砲口を向けた。
「有人機ならば‥‥多少なり癖の一つや二つあっても良いはずだが」
 敵機を凝視しつつ弦也がトリガーを引く。吸い込まれる銃弾は――しかし瞬間移動するように避けられていた。
『ふ‥癖か。あったとして‥‥貴様が落ちるまでに見破れるのか?』
 嘲笑うように鼻を鳴らし、三連フェザー砲を撃ち放つアイアス機。大きく抉れるR−1改へ、さらに接近。
 ――側面から張り出した剣翼で切り裂いた。
「ッ――!」
 避けた装甲内部で火花が散り、オイル漏れを起こす。
 だがその本星型の背中に陽子機と修司機が弾幕を張り、瀕死の弦也機は辛うじて戦域から離脱した。
 ‥‥一方、やや離れた場所で三体目のCWが爆砕した。ルノア機と覚羅機がノイズを駆除していく。
 だがそれを待たずに――次の光点群がキャスパーより浮上した。

 セラ機がK−01ミサイルを小型HW群へ発射。白尾を引き、小爆発が各所に起こる。しかし、撃墜までには至らないようだった。
「分が悪いとは言え‥‥、やるしかないんでしょうね」
 開いた目を細め、セラが操縦桿を押し込む。一対四の激しいドックファイトに突入した。
 その近くでは、修司機と陽子機の弾幕を掻い潜り、アイアス機が激しく機動を続けていた。
 しつこい二機へ、本星の代わりとばかりHW三体を引き寄せる。即座に陽子機が対応、二つ目のK−02まで解放して三体を撃破。
 同時、そのすぐ頭上でセラ機「ミモザ」も剣翼を閃かせてHWを両断していた。

 さらに、CWのノイズも減少する。
 覚羅機とルノア機が次々にキューブを撃墜している。CW三体が粉々になり怪電波を止めた。
 だがそんなCW駆除に乱舞する二機の目前へ、――アイアス機が割り込んだ。
 五砲身キャノンを向けて、連射する。
 ルノア機『Rot Sturm』の尾翼が吹き飛び、制御が困難に陥った。
『赤いS−01H‥‥どこかで見た機体だな』
 含んだ笑いを篭らせるアイアス。
 必死に機体を立て直しながら、ルノアが本星型を睨む。だがアイアスはそちらへ目もくれず、次は覚羅機へと砲を向けた。
 ‥しかしそこへ追いついた修司機と陽子機が即座に十字砲火を浴びせる。
 本星型は被弾。激しいFFの光を散らしながらも強引に照準を取り――砲撃を放った。
 破片を撒き散らし、破曉『黒炎凰』が機体を軋ませる。蓄積していたダメージが噴き出す黒煙に現れていた。
 本星型はそのまま修司機と陽子機との交戦にもつれ込んでいく。
「く‥、今回は様子見‥‥次は必ず、ね‥‥」
 コックピットで苦しげに顔を歪め、覚羅が呟いた。
「撤退、‥‥します」
 操縦桿を小刻みに操作するルノア。そして二機は機首を翻す。最後にキャスパーを一瞥してから。
 その都市からは再び浮上してくる敵部隊の一群。‥‥それと同時、中型HWが閃光を上げて爆発した。
 爆炎を背に――ホアキン機が機首を翻す。

 残りKVは四機。
 それを見回して、アイアスが嗤う。
「群れが瓦解すれば恐怖は跳ね上がる。人間の持つ信念とやらが簡単に吹き飛ぶほどにな」
 新しく出現したワーム部隊が編隊を組み、四機と相対する。
 だがそんなアイアスの言葉を掻き消すように――大量の小型ミサイルが宙を舞い、ワーム群を包み込む。
「‥‥人はそれほど弱い生き物ではありませんわよ。短い生であるが故に苛烈に生きる我らが思い、貴方達には判らないかもしれませんわね」
 陽子機の最後のK−02ミサイルが空に炸裂する。炎に呑まれてCW全機が落ち、HWも一体が地上へ落下していった。
「手負いのHWの始末‥任せて下さい」
 セラ機がアテナイとライフルで直近のHWを蜂の巣にする。そのまま剣翼を翻し、残り二体のHWに超至近での格闘戦を挑んだ。
 そのすぐ側、本星型がFF強の眩い光を明滅させる。各機の弾幕が次々に命中して本星型の練力を削っていた。
『‥‥小賢しい』
 アイアス機は必死に位置取りを変え、三機に激しい旋回を強いる。しかしそんな小細工は時間稼ぎに過ぎなかった。
 やがて本星型を包むFF強の激しい燐光が消失する。
「ふ、覚悟はよろしいでしょうな?」
 見て取った修司機がスキルPFを併用したエニセイを二連射。FFを貫き、本星型が飛沫を上げる。
 その火線に混じるように、陽子機も頭上から剣翼を振って本星型と交差した。
「――月神陽子。わたくしの名です。覚えている必要はありませんけれど」
 火花を散らして眼下へ突き抜ける真紅の『夜叉姫』。
『ぬぅ――ッ!』
 アイアスが操縦桿を握り、機体を立て直す‥‥その正面。
「intiの最大威力だ。――持っていきな」
 粒子砲を構えた蒼と黄の雷電が本星型を捉え、――粒子加速砲を撃ち放った。
『ぐおおおぉ――ッ!?』
 激しい光の奔流に包まれ、アイアスの断末魔に近い声が響き渡る。
 閃光が瞬き、空は太陽の如き光が包む。
 ‥やがて現れた本星型は溶解し、機体各所に火花と黒煙を上げながら浮いていた。

 直後――新たな敵部隊が姿を見せる。
「一分半‥‥成果としては十分です。撤退しましょうか」
 セラが戦闘時間を見やり、全機に伝える。
 了承した三機が撤退準備に移った。敵部隊へ残ったK−02を浴びせ、迅速に離脱していく。
 それを見送り――アイアスは唇が吊り上げた。
『ふ、ふふ‥‥恐ろしい敵よ』
 ボロボロになって後退する本星型。
 この戦いによりキャスパーの戦力は分析され、いずれ本格的に攻め上がって来る事だろう。
『――だがこのナトロナ最大都市が、簡単に落ちるとは思わん事だな‥‥』
 不気味な言葉を、砂粒のように小さくなった傭兵達に送って。
 敵の司令官はキャスパーへと、――降りて行った。

NFNo.020