タイトル:【BV】砲火散ル花束ノ海マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/25 20:42

●オープニング本文


 二月下旬から三月初旬に掛けて行われた一大作戦――バレンタイン強奪戦は、終わった。
 その結果たるや人類にとって華々しいものである。
 作戦において無傷の慣性制御装置を15個も敵基地より強奪。さらにハーモニウムの一人を捕虜に捕らえた。
 あわや撃沈の危機に陥っていた参番艦も無事に激戦を乗り切り、今はその傷を癒すために各基地へと向かっている。
 作戦は大成功。
 そう言って差し支えは無いだろう。

 人類が作戦成功に歓喜の声を上げる中で、ゴッドホープ海港から一隻の巨大な船が離れた。
 戦闘が終わったはずの北極圏へ舳先を向け、軽空母は海水を割って航海する。飛行甲板には幾機ものKV。腹の中には各国の海兵と傭兵。そして大量の花束。
「‥‥本艦はこれより、北極海へ向けて航路を取る」
 艦長の凛然とした声が軽空母全体に響く。
 しかし強奪作戦が終わった今、船はなぜ北を目指すのか。再びチューレ基地に近付き、危険を冒してまで遂行する任務とは――。
 しかも海上を航行するのは軽空母が一隻。護衛用に傭兵KVが搭載されているとはいえ、敵地へと向かうのにそれはあまりに異常だった。
 理由は二つ。
 一つは敵を混乱させて、惑わす理由から。
 もう一つは――むしろこちらが主要な理由だったが、この任務があまりにも危険‥‥というより無謀だった為に、その軽空母以外の出撃許可が降りなかった。
 むしろ、その軽空母だけでも出航許可が下りたのは僥倖に近い。
 なぜならこの任務には、費用対効果という言葉の『効果』に相当する部分が、少なくとも目に見える部分では無かったのだから。
「‥‥名目上、我々の任務は陽動という事になる。だが総員、それぞれの準備を怠るな。先の作戦は成功に終わった。しかし人類を勝利に導き、我々を生かす為に散って行った仲間がいた。生き残った我々はそんな戦友達を称え、丁重に弔う事が義務だろう。‥‥本艦は敵と彼らに不屈の海軍魂を見せつける為に、このまま北極圏手前まで航行し――」
 ブリッジの中から艦長は前を向き果てしない海を見つめる。
 その瞳には一点の曇りも迷いもなく、いかにも冷静な態度で仁王立ちしながら。
「我々は命懸けで。海底へ沈んだ英霊達の、艦上追悼式を行う」
 いかにも軍隊にはそぐわない――非合理な言葉を吐いた。
 沈黙する艦内。
 そこへ叩きつけるように、艦長は言葉を繋ぐ。
「本艦には激しい敵の襲来が予想される。総員、怯む事なく――甲板に整列せよ」
 艦長の言葉が船全体に響き渡る。
 同時、各員は走り出した。そこに乗っているのは人種も国籍も様々な海軍の兵士達。彼らは廊下ですれ違い、頷き合いながら甲板を目指す。
 北海に一隻浮かぶ空母の上、ぞろぞろと人の群れが姿を見せて途切れる事は無い。
 やがて甲板に集まった兵士達が各国の旗を掲揚する。ロシア、イギリス、アメリカ‥‥幾十も揚げられる旗。
 そしてその中から一際大きな旗――『UPC』軍旗が掲げられた。

 チューレ基地は、戸惑いと共にその艦を捕捉した。
 北上してくるのは――軽空母が一隻。
 ただ一隻だった。
 しかもその航路はこのチューレ基地ではなく、今はもう戦闘の傷痕だけを残して沈下した氷上基地『ゼロレイリー』の方角へと向かっている。
 まさかゼロレイリーに何かが残っているのか。‥‥否。かの基地は完全に海の底へ沈没し、文字通り『消滅』したのだ。残る物など何も無い。
 そもそも何かがあったとして、なぜ軽空母一隻だけなのか。
 その艦を捕捉しながらもチューレ基地はしばらくの間、思案に暮れた。
 そしてバグアは明らかに今大規模作戦の前と比べて慎重になっていた。 
 なにしろ今回の作戦では、人類側に裏の裏を取られて一本取られている。そして軽空母が向かっている氷上基地こそ、その敗北を喫した場所だった。
 気持ち的にも、明らかに怪しいその船へ簡単に噛みつけるものでは無い。
 逡巡の結果、チューレ基地は迎撃部隊として水中ワームではなく、無人HWの一団を向かわせる事に決めた。
 撃沈を第一目標としつつ、上空からその艦の目的を探り、罠であるならそれを発見する為だ。
 もちろんそれは罠である可能性が高い。というよりも罠だろう。
 余裕の無い人類が、理由もなく貴重な戦力を消耗させるはず無いのだから――。

 北極圏に近付き、減速していく軽空母。その甲板上に乗組員がほぼ全員揃おうとしている。
 だが直後、警報が鳴り響いた。
「‥‥チューレ基地方面より、敵性の機影多数! HWです!」
「そうか、丁度良い。――全員甲板へ。我々も追悼式に参加するぞ」
「っ‥! 了解!」
 軽空母は最大減速、一定航路を自動で周回するように設定し、ブリッジに居る各員も甲板上へと出て行く。
 艦長はそこに最後まで残り、通信ボタンを押し込んだ。
「――我々のわがままに付き合ってくれて感謝している。この艦と乗員の命は預けたぞ、――傭兵諸君」
 言った後で通信を切り、艦長も身を翻した。甲板へ向けて。

 それに呼応するように飛行甲板が二つに割れ、その下から鈍色の機体がせり上がって来る。
 ナイトフォーゲル。
 各機は完全に艦上に展開すると同時、空へ舞い上がった。

 それに煽られてUPC軍旗が大きく空にたなびいた。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG

●リプレイ本文

 低速航行の軽空母。その甲板には艦長も含み、肌の色も母国もそれぞれの海軍兵士達が整然と並んでいた。
「まったく‥‥バカな事をするものですね」
 眼下を見やり苦笑する奉丈・遮那(ga0352)。
 だがそんな彼の瞳は海上を突き抜けて、大規模作戦中に沈んでいった各国艦隊を記憶に映し出す。
「ですがこの追悼式は――何の犠牲も無く成功させませんと」
「‥うん。でも大事な人のために、あるいは‥顔も知らない誰かのために命を託されるって‥‥。それはそれで結構重いかも‥‥」
 明星 那由他(ga4081)が表情を強張らせて無防備な軽空母へ一度振り返る。操縦桿を掴む手は微かに汗ばんでいた。
 だがその言葉に、乾 幸香(ga8460)は柔らかく頷く。
「追悼式を無事完遂させるのがわたし達の任務ですからね〜。まぁ任された以上微力ながら尽力させて頂きます、ね」
 幸香は火器管制装置を起動。同時に覚醒し、空を見据える瞳を赤く染めた。

 空と海が交じり合う向こう、チューレ基地の方角から砂粒のようなHW達の姿が見え出した。
「こぉ言う時‥‥お姉なら何て言うンだろ‥‥」
 ポツリと呟き、目を閉じたまま聖・綾乃(ga7770)は小さく苦笑する。
「ん。誰一人、傷一つ、付けさせやしねぇよ‥かな♪ ‥それじゃあ――行って参ります☆」
 英霊達が沈む大海原へ笑顔で敬礼し、綾乃が迎撃態勢を整えた。
「戦乙女として、英霊たちを送る儀式の邪魔なんてさせないんだからっ!」
 ヴァルキリーエンブレムをつけた雷電を駆り、『護りの戦乙女』――御崎 緋音(ga8646)が自身に相応しい戦場に身を投じる。愛機『ヘルヴォル』が、その主人に応えるようにエンジンを唸らせて加速した。
「‥行くよ。死んでいった仲間達に安らぎを、そして此処に散る者を――もう一人も出さない為に!」
 クリア・サーレク(ga4864)が強い意志をそのまま言葉にして、フェニックスの翼を空に拡げる。
 それに続くのは、キャノピー脇に赤い一本傷をつけたダークグレーのシラヌイ。
「そこら辺で仲間が見守ってるからな、情けない姿は見せられないって!」
 紫藤 文(ga9763)がコックピットで猛々しく笑んだ。
 ‥直後、全機の電子機器反応が良好になる。レーダーが敵をより正確に捕捉した。
「Air warning red weapons safe‥‥対空警戒を厳となせ」
 里見・さやか(ga0153)がジャミング中和装置を起動。海の向こうから飛来するHWを瞳に捉えて――管制を開始した。

 軽空母甲板上、整列した兵員達の先頭で艦長が深く頭を垂れた。
「‥‥地球のため身を呈した幾多の英霊に、謹んで哀悼の言葉を捧げます」
 頭を上げると同時、海へ向かい追悼の辞を力強く流々とした声で送り始める。
 その背後の頭上で――KV群とHW群が高速で会敵した。

「東南東の方角より小型8、中型2飛来!」
 さやかの声に呼応して、八機のKVが迎撃態勢を取る。直掩班のさやか機と緋音機以外が敵へ前進。
 距離が縮まると無人ワーム達は戦闘モードに入り、散開。海に浮かぶ軽空母と上空のKV群を包み込むように展開する。
 そしてふいに、――紅色の巨大光条がKV群へ閃いた。
 迎撃班の六機は散開し、プロトン砲撃を回避。
 しかし乱れたKV編隊へ敵群は迅速に突進、接近戦を仕掛けた。二機ずつになったKV群へ、それぞれが砲を向ける。直後、通信回線にさやかの声が切り裂いた。
『電子妨害、開始を!』
「は〜い、今からぶんぶん飛び回るカメムシに【殺虫剤】を散布しますわね。弱った所を思いっきり叩いちゃって下さいませッ!」
「中型同士が離れてる‥‥僕は左翼へ」
 飛び交う通信。二機のイビルアイズ――幸香機と那由他機が電子の砂嵐を吹き荒れさせた。HWが放つF砲の照準がぶれる。
 反撃、AAMを撃ち放つ幸香機と2連ロケットを撃ち放つ那由他機。両翼から放たれる弾頭が、次々と敵に炎を浴びせる。
 その二機頭上をすり抜ける紫の光条。敵の照準はいまいち精彩を欠いて空を穿つ。
 群れるHWの中へ、さらに二機のKVがスラスターを小刻みに噴いて吶喊した。
「これ以上‥くれてやる命はない。‥‥散れ」
 綾乃機。傷ついたHW一体を捉えてレーザー砲を連射する。弾痕が敵の表面を走った直後――。
 アンジェリカの剣翼がその内側を切り裂いた。
 通り過ぎた綾乃機の後ろで爆炎。機体を分解させてHWが海へ墜落する。
「ナイスキル。良い腕だ」
 目の端で僚機の戦果を確認して、文が称賛した。だがその横から――HWが急速接近、砲撃。
 空を奔る閃光は‥‥しかし何も貫かなかった。
 増設過多のスラスターを噴かしてシラヌイは空中で水平移動、光条をかわしている。文機はそのまま稲妻のような機動で、複数目標へAAMを連続発射。
 爆炎と黒煙で敵を染めた。

 青い空に明滅する閃光。その中を乱舞する高速の機影。
 その中から一際大きな影――中型HW二体が群を切り裂いて軽空母へ進路を取る。
 だが、それを押し留めるように降り注ぐアテナイの弾幕。さらに重機関砲と、AAEM&レーザーカノンの火線が迸った。
「‥‥あちらへは行かせませんよ。確かに彼らには呆れていますが、――その無理を通すための僕達傭兵ですからね」
 中型対応班。
 機体下の重機関砲を全力射撃しながら、遮那機が中型へ高速接近していく。
 アテナイと合わせて千発以上の弾丸をばら撒き、その巨大なHW装甲には激しい着弾の火花が上がり続けた。
「その通り! 全力で止めて見せる!」
 クリア機が放ったAAEMとレーザーの閃光が、もう一方の中型を黒く焦がす。
 だが強烈な砲火を浴びながらも、HW二体は動きを止めない。
 それぞれへフェザー砲を乱射。小型よりも強力なフェザー砲撃を、二機は危うく散開してかわす。
 その中心を強引に突破しようとする二体の中型HWを、――しかし遮那機とクリア機が喰らい付いて離さなかった。
「此処から先は仲間達を弔う鎮魂の場。魂を持たない機械人形は遠慮してもらおう!」
 後方へ抜けようとする中型HWの側面へ高らかに宣言して、クリア機が加速する。
 アテナイの弾幕を張りながら、敵機へ体当たりするように一直線に飛ぶ。だが相手に激突する直前、空中変形スタビライザーを起動。
 赤い力場を発生させてフェニックスは変形すると、――敵へ強烈な閃光を振るった。
 光の刃に中型HWは内側まで焼き斬られて爆炎を噴き上げる。その焔の中から飛行形態に戻ったクリア機が突き抜けた。
 中型、残り一体。
 そちらへは遮那が激しい弾幕で蜂の巣にする。相手の砲撃を掻い潜り、撃墜も時間の問題――かと思えた時だった。

「‥‥ッ!? 別方位より敵性反応! 小型HW――八機が接近中、位置データ転送しますっ!」
 突如、管制のさやかが焦燥の入り混じった声を上げる。その指は素早くコンソールを叩いていた。
 全機に走る僅かな動揺。
 その隙を突いて、小型HWの二体が交戦域を振り切って――後方へ抜けた。
 そのまま軽空母へ一直線に接近する小型二体。距離はやがて1kmにまで縮まった。
 ――だが突如、HWの一体が爆炎を上げて傾ぐ。
「艦の最後の命綱‥‥護りの戦乙女の名にかけて、この務め全力で果たします!」
 緋音機「ヘルヴォル」の再び放った狙撃が、敵装甲を完全に貫く。HWは錐揉みしながら海へと落ちて行った。
 だがもう一体は強引に軽空母へと加速。
 それを、艦上空のさやか機が捉える。AAEM発射、敵を青白い放電に巻き込む。
 そしてその背後から――アテナイで弾幕を張りながら緋音機が接敵した。
「この連撃‥‥耐えられるものならっ!」
 火花とFFで赤く発光するHWへ、雷電が剣翼の一撃を叩き込む。断ち砕くような剣戟に敵は機体を抉られ――爆炎を上げた。
 眼下の海へと、その残骸は落下していく。

 交戦域からやや離れた空域に八体のHWが進入。その進路から標的は――軽空母である事が知れた。
「っ、アレを向かわせる訳には行きませんね‥!」
 中型を相手していた遮那機が機首を翻す。
 だが目前で見せた隙を逃さず、中型HWはその背中へ苛烈に砲撃を加えた。遮那機被弾、装甲を散らす。
 だが構わず全ブースト発動――小型編隊へと加速した。
 それと入れ替わるように、中型へと降り注ぐ熱線と銃弾の雨。
「そろそろ退場してもらおうか!」
 高速飛来したクリア機が牙を突き立てるように中型の全身を深く穿った。
 損傷の限界を超えてHWは錐揉みして落下。巨体は激しい波飛沫を立てて海に呑まれた。
『――K−01、全力発射します!』
 遮那の声が通信で走ると同時――新手のHW編隊を包み込むように、大量の小型ミサイルが大空に放射された。

 鳴り止まない爆音が空を焦がす。遮那機の500発のミサイルは、HW撃墜までには至らないものの大きく敵編隊を乱していた。
 その黒煙で大きく濁った空間へ――綾乃機と文機が突入する。
「神聖な式の最中だ‥無粋な真似は許さない‥!」
 ブースト加速して綾乃機の背面から放射されるドゥオーモ。百発のミサイルが一番遠いHWへ駆け――敵と共に爆散した。
 さらに先頭の二体へ、文機のAAMが高速で走る。着弾、装甲を吹き飛ばすHW。そこへ追撃の螺旋弾頭が一体に突き刺さった。
 轟音――赤い焔を上げてHWが粉々に砕ける。
『幸香機、新手の敵編隊を迎撃願います!』
 後方のさやかの管制。それに従い、幸香機は即座に身を翻した。標的――六機のHWへと接敵して、イビルアイズのスキルを起動する。
「追悼式が無事に終わるまであなた達の下手なダンスに付き合ってあげますわ!」
 HWのフェザー砲をかわして、幸香機『バロール』がAAMで敵に接吻する。HWは破片を散らして大きく揺れた。
「こんな美人と踊れるんですから光栄に思って貰わないと‥‥」
 幸香は当然のように言い放つと、殺虫剤を散布しながら格闘戦に入る。
 その後方で第一波の残党、小型HW二体は那由他機が相手していた。
「ドッグファイトで仕留めないと‥‥か」
 できるだけ動かず、電子妨害と砲台の役割に徹していた那由他。しかし今、状況は変わっていた。
 素早くロケット弾からツングースカに兵装変更。
 那由他機は砲口から発射炎を散らし、HW二体へと加速した。

 新手の敵の強引な前進で、戦線が次第に後退する。
 追悼式も後半に差し掛かり、甲板では海軍兵士達が追悼歌を合唱する。
 ‥そのすぐ目と鼻の先。KVとHWは――爆炎を噴き上げて苛烈に交戦していた。
 不意にその砲火をすり抜けて、HWの一体が軽空母に接近。整列する兵士達の表情が一気に恐怖に引き攣った。それを一層煽るようにHWが砲口を、甲板に向ける――。
 直後。
 アクチュエーターを起動した雷電が急降下、剣翼の根元をHWにぶつけて緋音機が錐揉みして落下する。
 零距離で放たれる敵の砲撃。それに装甲を溶かされながら、緋音は操縦桿を操って完全に敵を切り裂いた。
 HWは火花を散らして落下。爆発する前に海へ沈む。
 同じ軌道を辿ろうとした緋音機は直前で方向転換。飛沫を巻き上げてギリギリで空に戻った。
「大丈夫ですから‥‥! 皆さんは安心して、追悼式を続けてください!」
 装甲を溶かして上昇する雷電が、外部スピーカーで軽空母へ呼びかける。
 艦長はそれに一つ頷いて返事した。
「コラァ! 立て貴様らぁ! 我々がそんな事でどうするッ!」
 その背後、思わず尻餅を付いた何人かの兵士へ士官が怒声を張り上げる。乱暴に襟首を掴み、その場に立たせた。
 艦長も振り返り、腹の底から声を絞り出す。
「儀杖隊、捧げ銃っ! 弔銃――撃て!」
 空へと向け、一斉に空砲三連射が響き渡る。それに撃ち落されたように――艦の目前にHWが落下して水飛沫を上げた。

 綾乃機が、文機に取り付くHWへ銃撃を放つ。
 その隙を付いて離脱する文機は――スキル起動。スラスターと併用して急回転すると、HW頭上に螺旋ミサイルを叩き込んだ。
「じゃじゃ馬慣らしって奴だな」
 撃墜確認。文が笑みを湛える。
 その僚機の遮那はG放電装置を連射し、幸香機が感電するHWを螺旋ミサイルで木っ端微塵にした。
 さらにさやか機がAAEMを連射し、被弾したHW二体を緋音機がソードウィングで叩き落していく。
 離れた空域ではクリア気と那由他機が二体のHWを格闘戦で殲滅。
 空を落下する幾多の炎塊が、英霊達の無念に引き込まれるように――海中へ沈んで行った。
「敵の殲滅を確認。戦闘終了です」
 上空からさやか機が、外部スピーカーで艦へと伝えた。

「Rippleより追悼式会場へ、終了は5分待って。‥みんな、行けるよね?」
 クリアの言葉に、全員が頷く。
「せっかくの機会、私達も亡くなった人達への慰霊をしたいですからね〜」
 幸香が悪戯っぽく微笑む。
 甲板上で不審げな表情をする軍人達を横目に、傭兵各機は低速で編隊を組んだ。
「さぁ参りましょう‥‥お連れ致します‥迷わぬよう‥‥」
 航路中心まで進んだ編隊の中から一機。天使エンブレムの綾乃機『Angie』が空を目指して上昇を始めた。
「どうか、安らかに‥‥」
 機内から眼下の海へさやかが厳かに敬礼する。元自衛官として心を込めて。
「‥‥私も祈ります。散っていった英霊達が無事に天国へと向かえますように――」
 緋音は空を。上昇する天使の機体とそれに導かれているであろう、魂の方へ。
「この任務を、サイエンティストとしての僕は‥‥非効率だと考える。でも‥‥、傭兵としての僕はそれこそ人類が戦えてきた一因じゃないかって‥‥思う。
 この問いにまだ答えは出せない。けど、今は――」
 那由他が右手を額に当てる。英霊達へ敬礼を。
 突如、編隊飛行していたクリア機がスキルを使って変形する。
「‥大丈夫だよ、世界は。だって‥人類はこんなにも一体になってるんだから。――だからお休みなさい。そして、ありがとう」
 フェニックスは空中に直立した姿勢で飛び、敬礼した。
 英霊を天国へ送り届けた綾乃機が、螺旋を描いてゆっくりと降下する。
「さぁ、艦へ戻りましょうか」
 遮那が着艦の合図を甲板へ送る。
 傭兵達の追悼飛行に合わせて敬礼していた軍人達は頷き、俄かに動き出した。追悼式は終了し、それぞれが持ち場へ走る。
『‥‥見事な追悼飛行だ。海軍を代表して、礼を言う』
 ブリッジに戻った艦長の声がKV通信機から漏れた。
 それぞれ翼を振って応える傭兵達。そのまま各KVが、一機ずつ軽空母に進入していく。
 甲板上に人だかりはまだ消えず、花束を海へ落として各員が思い思いに別れを告げている。そちらへ、着陸したKVから降りた文はゆっくり歩み寄った。
「後はこっちが引き受けるからゆっくり休んでな‥‥お疲れ様」
 海へウォッカを注ぎながら、敬礼。
 直後、同じ海域を旋回していた軽空母は転進。慰霊を終えた艦は再び基地へと帰っていく。

 ――いつか、この地に散った英霊達の悲願を果たす為に。