●リプレイ本文
雲を切り、ナトロナの空をKV隊が疾駆する。
「イカロス隊だけにカッコつけさせる訳にはいきません。彼らがその翼を休める場所、なんとしてでも守り抜きますよ」
モニタを睨む水上・未早(
ga0049)。そこに敵の情報と状況が羅列される。
それを確認しながらシフォン・ノワール(
gb1531)も眉をひそめた。
「‥厄介な兵器‥一機も抜かせない‥」
地上を超高速で駆けて自爆するBC。それを一体でも逃せば被害は計り知れない。
「‥真っ直ぐに猪突猛進してくるのがこれほど厄介なんてね。だけど抜かせない。いくよ――アジュール!」
鮮やかな青のロングボウ、鷲羽・栗花落(
gb4249)がその愛機を加速させた。
「レイヴン。兵装に合わせてFCSの調整を」
『Yes.Mymaster』
叢雲(
ga2494)の指示に機体AIが応答、シュテルンは各種センサーを微調整する。
間もなく全機は作戦戦闘区域へと突入。レーダーに敵光点が浮かび上がる。
「むむ、ナナハンの能力をフルに発揮できるのは‥‥ここだねぃっ」
ゼンラー(
gb8572)は上空から現地を見て、地上の走行ルートを絞り込んだ。
『‥クロウ隊も任務開始だ。おし、いっちょおっぱじめようぜ傭兵達!』
バルト隊長が朗らかに放つ声。
それに応えるようにハヤブサ機の前方へ、六堂源治(
ga8154)の黒いバイパーが躍り出た。
「クロウ隊かぁ‥‥俺もTACは【Crows】で鴉なんだ。仲良く行こうぜ〜」
『どうぞよろしくお願いしますー!』
源治機の前方で副長カスピが翼を振る。
そんなクロウ隊へ、ふと未早が声を掛けた。
「‥イカロス隊の成果次第では『次』が見えてきます。皆さん、ご無事で。‥特にタロー軍曹」
『え、はい。なんスか?』
「少佐の魂をキャスパーまで連れて帰るのは――貴方の仕事ですからね。‥なんて。すみません、生意気でした」
慌てて謝る未早に、タロー軍曹は思わず笑みを浮かべて頷いた。
『‥いや、大丈夫ッス。元々そのつもりッスから』
断言するタロー。全機、基地から40km地点に到達する。
そのまま栗花落機と源治機以外の傭兵各機が降下を開始。
前方、荒野の果てから――空陸のワーム群が迫った。
「あたしには失う物なんて‥もうないんだから」
猛速で迫るBC12体、相対距離1900m。
それを目前にして雪代 蛍(
gb3625)はポツリと呟き、操縦桿を強く引く。
KV六機は変形し、敵の進路を挟撃するように配置に着く。
「一次防衛ラインに着いた。目標捕捉」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)が報告し、高速で減っていく距離計を凝視する。
そのまま全機が配置に着いた時には――BC群は交戦距離の手前にまで来ていた。
雲を切り裂き、十ニ体のHWが飛来。
長距離からのプロトン砲は放たれず、まず戦端を切ったのは――栗花落機だった。
「全能力起動! いくよ、全弾叩き込めぇッ!」
蒼のロングボウが計千発の小型ミサイルを射出する。
標的にされたHW五体が迎撃装置を起動。しかし圧倒的物量にすぐ弾切れを起こし――その上からミサイル群が覆い被さった。
直撃に次ぐ直撃。HW五体は盛大な炎を噴いて全機落下していく。
『ナイスキル!』
「残り七体‥‥残敵を掃討するっスよ!」
編隊から突出する源治機。
煙を抜けて来たHWに漆黒のバイパーは接敵、スタビライザーを起動して機銃を連射する。
しかし、敵撃墜の一歩手前でリロード。
咄嗟の隙に、HWはフェザー砲で全力反撃する、が――。
「その程度、このバイパーにはぁ!」
被弾にも構わず、源治は再装填と同時にトリガーを絞った。
響く銃声、敵内部を噛み砕く弾丸。
直後、派手な爆発を起こしてHWは落ちていった。
『ッ、敵が後ろへ抜けました! こっちが眼中に無いのか!?』
他方でカスピ少尉が声を張り上げる。
残りのHW群はクロウ隊を強引に突破、――後方へと抜けていた。
ほぼ同時、地上展開するKV部隊眼前にBC群が高速走行する。
「‥ロックオン。敵を薙ぎ倒すぞ、レイヴン!」
『Yes,sir』
火蓋を切ったのは叢雲機のDR−2砲。
極大光条が地上を迸り、疾駆する先頭BCに直撃する。一瞬で溶解したBCが、――しかし速度を落とさずに光の中から抜け出た。
だがそれをゼンラー機と未早機の機銃砲火が待ち受ける。
「拙僧の出番だねぃ!」
「迎撃開始します!」
「走るよ‥シュヴァルツキューレ‥ッ!」
迎撃の銃火を放つ二機の隣から、シフォン機が駆け出していく。直後、アハトを換装した叢雲機も光条を発射した。
先頭BC被弾。突如爆炎が上がり、BCは減速しながら横へ転倒する。
その後方から高速で駆けてくるBC群。転倒したBCに巻き込まれるかに見えた、が。
その黒円を踏み潰して、――駆け抜けた。
「タイヤ如き障害にもならない、という事か」
ヴァレスは呟くと同時、大量のミサイルをBCへ発射。C−200の弾幕の餌食になった一体が転倒、激しく地面を滑った。
さらに敵の両翼へ駆ける二機。左から蛍機、右からシフォン機が走り――敵へ喰らい付く。
「‥一気に倒す‥‥ブチ抜けぇッ!」
シフォン機が神天速を使用して放つ『エグツ・タルディ』。
拳と共に射出された機杭がBC側面を貫き、激しい火花と轟音を上げて――黒円を叩き伏せた。
その反対方向では蛍機が練機刀でBCを斬り裂き、返す刀で内蔵雪村を叩き込んだ。
しかし、――BCは止まらない。
「そんな‥‥!?」
そのまま土煙を巻き上げて高速通過するタイヤの群れ。
物理攻撃より衝撃の少ない知覚攻撃では、敵の態勢を容易に崩せなかった。
だが、黒円の先へさらに『J』機章のワイバーンが駆ける。
「そう簡単にはッ!」
BCへ縋りついた未早機が、その側面へ全速吶喊。
突進から放った機刀の一撃で――BCを穿ち、激しく転倒させた。
その後ろを通り過ぎるゼンラー機『Milestone』。‥BCへ適正なルートと加速によって距離を詰めて、迫った。
「服を脱いで考えた甲斐があったねぃ‥ありがたやありがたや!」
感謝の言葉を吐きながら追いつき、さらにブーストで追い越すゼンラー機。直後、機体を横に捻りながら最高速の機槍を『虚空』へ突き出す。
だがその穂先へ吸い込まれるように、BCが飛び込み。
放たれた激烈な一撃は、――その側面を貫通した。
ゼンラー機は即座に機槍を引き抜き、再び加速。
その後ろで倒れ込んだBCには――駆け寄った未早機が機刀を突き立てた。
「皆さん、ここは任せて第二防衛線へ!」
「無力化できたのは‥五体」
蛍機も成果を確認しながら、倒れ込んだBCを仕留めていく。
「あと‥何機?」
変形しながら呟くシフォン。
レーダーに点る光点は、10。
BC群の基地到達まで――6分を切った。
空中で繰り広げられる追走劇。逃げるHWとそれを追うKVが猛速の中で砲火を交える。
「どーせ陸側にチョッカイ出そうとしてんだろ? そうは問屋が卸さねぇッスよ!」
源治機がピアッシングキャノンを連射。相手の速度の鈍った所に追いつき、苛烈に機銃を浴びせた。
さらに別のHWへはロングボウがブーストを掛ける。
「眼下のBCもある、できるだけ迅速に数を減らさないと!」
栗花落機はツングースカを放ちながらHWに吶喊、剣翼で敵を切り裂く。それを受けながらも、辛うじて耐えるHW。
そこへ、――突如ミサイルが飛来した。
『行け、こぼれたのは拾っていく!』
クロウ隊が最大射程の兵装で弾幕を張る。
源治機と交戦していたHWも援護射撃で撃破。
「協力感謝、残り五体ッス!」
「この調子で殲滅するよ!」
気炎を吐いて加速する二機。
しかし先を飛ぶHW五体も――負けじと前進を続けた。
‥地上、基地から25km地点。
設定した第二防衛ライン上空にシフォン機、叢雲機、ヴァレス機が到達する。
「足並みは揃えなくて良い、とにかく一体でも多く止める!」
叢雲が言い放って自ら降下を開始。
その視界の果てには、狂ったように疾走するBCが現れていた。
「もうこんな距離を‥拙僧はここまでだねぃ!」
高速二輪でどうにかBCと並走し、少しずつ全体を掃射していたゼンラー機が最後の掃射を放ちながら失速。
そのたすきを受け取り、KV三機が続々と迎撃地点へ着陸した。
黒赤のヴァレス機がVTOL降下、C−200の残弾を全力発射。同時に、迫るBCへと駆け出す。
「‥ここから先は通行止めだ」
タイミングを合わせ、爆走する敵側面へ放つ――右腕。装填された機杭が圧縮射出され、黒円の側面部を撃ち抜いた。
衝撃に耐え切れず――BC転倒。
さらに後方でも神天速を使用した黒白のアヌビスが短距離着陸、次いで漆黒のシュテルンが着陸する。
二機は即座に変形、迎撃態勢に移った。
突っ込んでくるBC群のほぼ正面。叢雲機が先頭BCへ――巨大光条を連続で迸らせた。
「レイヴン、戦果確認を」
『Yes.敵機一体撃破』
応えるAI、その目前で炎を噴いてBC一体が倒れ込んだ。
直後にシフォン機もBC群へ吶喊する。
「せめて‥‥もう一体‥ッ!」
機杭ラスト一発。腕の振りに合わせて高速射出する、渾身の一撃。直撃したBCは大きく火花を噴き上げて――。
しかし、そのまま走り続けた。
「っ‥届かない‥」
第二防衛網を抜けるBC群。
その上空を未早機と蛍機がフライパスする。
「BC八体が第二防衛網を抜けました。‥‥半分以上ですね」
「止めないと、無茶してでも‥‥。あたしこれ以上、消えるのを見たくない‥!」
全速で空を翔ける二機。
そのままBC対応班全機は――最終防衛ラインへ。
HW群は空戦班に追われながら一心不乱に基地へと直進する。
基地までもう――数kmの距離だった。
『こいつら‥‥なんかおかしいッスよ!』
「‥‥システム起動。螺旋ミサイル、発射ッ!」
タロー軍曹の声に被せるように栗花落機がミサイルを四連射。
最後尾のHWは迎撃装置を発動させるも被弾――ミサイルの炸薬『以上』の盛大な炎を噴き上げて墜落した。
「うん‥‥やっぱり、敵本命はどっちかじゃない。――両方そうなんだよっ!」
『HWも爆弾だってか!?』
バルトが声を荒げて眼下の基地に目を落とした。
しかも、前方のHW群は次第に高度を下げ始める。
「そうと分かればさせねぇッスよ! 吼えろバイパーッ!!」
源治機がブースト加速、HW群へとK−02を全弾発射。
空を埋める大量の小型ミサイルが、直撃手前から迎撃弾によって炎を上げ始める。HW群は降下を中止して必死の散開機動を取った。
そこへ、源治機が高速接近。
「これで――どうだッ!!」
機銃の火線がHW上部を貫き、疾風のように通り過ぎた剣翼が敵中枢を切り裂いていく。
直後、空に撒き散る閃光と炎。
さらにクロウ隊各機も加わり、敵を降下させないように必死の弾幕を張った。
だがHWもフェザー砲の乱射で反撃。さらに二機を囮にして一機が降下するという、無人機と思えぬ機動で強引に活路を開く。
「行かせるかぁッ!」
高速吶喊した黒いバイパーが、HW後部を叩き斬ってそのまま通過。
態勢を崩して錐揉みするHWへさらに飛来する、機影。
「ボク達が――護りきる!」
青のロングボウが放つ剣翼の一撃。
HWは両断され、基地の手前上空で――爆炎を噴き上げた。
残ったHW二体にはクロウ隊があたり、ほぼ空の脅威は消滅。
だがその眼下には――BC群が迫っていた。
「Holger、絶対防衛ラインに着きました。敵群捕捉――距離1350」
「これまでの皆の努力を、あたしが無駄にしちゃいけない‥‥止めないと」
未早機と蛍機の二機が基地を背に武器を構える。その後方に他の各機が続々と着陸。
だが態勢が整うのを待たずに――BC八体は交戦距離へ突入した。
「迎撃、開始しますッ!」
「止まれぇッ!!」
迎撃ライン上から二機が浴びせかける砲火。火線が奔り、弾幕に耐え切れないBC一体が爆炎を上げて転倒した。
「くッ――!」
だが二機だけでは火力不足の感があった。BC群は被弾しながらも迎撃網を強行突破。
二機は即座に反転、数百キロの速度差がありながら追走を開始する。
「背中には幾千の命と希望‥決して諦められないよぅ!」
ゼンラー機も機銃連射。さらにシフォン機、叢雲機、ヴァレス機も迎撃開始、初撃一掃射で――BC三体が一斉に転倒した。
度重なるダメージでBCも弱っているのだ。
それでも残るBC四体は止まらない。
――ならばKVもまた止まれない。
叢雲機が全力疾走。Pリボルバーを一射し、練機刀を抜き放つ。
「空戦の三次元高速戦闘に比べれば‥‥遅いッ!」
タイミングを合わせて一閃する――月光。
BCが爆炎を上げ、一体脱落した。
ほぼ同時、違う個体へシフォン機が接敵、砲撃する。
「行かせない‥。これが私の‥意地ッ!」
弾切れ機杭の代わり――BC側面へ振り下ろすルプス。猛烈な火花と衝撃が双方から上がり、両者は弾かれた。
それでも走り続けようとするBCに――漆黒紅線のシュテルンが交差する。
「眠れ‥。ここから先は通さない」
ヴァレス機の剣翼が閃き、黒円の内部中枢に刃を貫き通した。
力尽きるBC、二体目脱落。
だがその絶対防衛線すら他のBC二体が、抜けた。
基地までの距離1100m、――残り十秒。
その一瞬に等しい時間でただ一直線に激走する、二機。
Wブースト、ワイバーンが辛うじて機銃の射程にBCを入れる。
「一掃射が限界。‥‥ですが、それでもッ!」
未早が渾身の思いで絞るトリガー。
弾着、敵は大きく揺らぐが、倒れない。BCは減速しながらも走行を継続する。
だがそれ故に、――もう一機が追いついた。
「お母さんお父さん‥守って!!」
体当たりと同時、練剣を突き立てる蛍機。
甲高い金属音が響いた後――激しい爆炎が吹き上がった。
BC14体目を撃破。
そして最後の一体は、基地のほんの目と鼻の先に突入。
しかしその高速の黒円を、一機のKVが超高速で追走する。
ヘルヘブン750。
そのコックピットに乗るゼンラーはいつになく神妙に操縦桿を繰る。基地の人々を救う為に、こうして全力で暴威を行使する醜さを自覚して。
「拙僧はまだまだ未熟。‥‥だから今は、こんな方法しか見つからないんだねぃっ!」
ゼンラー機が苦悩を穿ち砕くように放つグングニル。大きく振るわれた機槍が、敵の中心を刺し貫く。
同時、盛大な爆発が――荒野に吹き上がった。
「はぁ‥‥、本当によくやってくれたぜ」
駐機したコックピットから顔を出し、バルト中尉が傭兵達全員を労う。
砲撃や黒円の走行に巻き込まれた彼らの機体は、際立って損傷が酷かったのだ。
‥ふとその時、全機へ通信が入る。
『こちらイカロス隊ヒータです。同部隊はペトリーヒル攻略に成功、スタインベック大隊も敵を撃退しました。どうやら今回は――私達の大勝利ですね』
その吉報に、思わず各員が歓声を上げた。
ようやく基地を守り切った事を確信して、傭兵達も笑みを浮かべて機体を降り始める。
ふと目を転じれば荒野は夕陽に染まっていた。
彼らはいつか掴み取る平和を願いながら、ただ今日を守り切った事に――胸を張るのだった。
NFNo.023