タイトル:【NF】敵影マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/10 14:52

●オープニング本文


 北米ワイオミング州、ナトロナ郡。
 幾多の激戦を潜り抜けながら、軍は多くのモノを失った。
 その度に結束を固め、さらなる戦いに身を投じる。敵を押し返しながら少しずつ反撃の狼煙を上げていった。
 ――しかし今、かつてのナトロナ軍エース部隊『レッドバード』が敵に回り。さらにナトロナ軍司令官ポボス大佐が情報収集の名目でワイオミング州を離れた。
 キャスパー奪還作戦の最中にあって柱を失ったナトロナ軍を襲うのは絶望。
 前線に布陣した兵士達はもちろん、後方のパウダーリバー基地の人員にも動揺は広がっていた。
 眼前に現れたというレッドバードの姿こそ見ていないものの、司令部は優秀な士官の何人かを引き連れてこのパウダーリバーから飛び立っている。
 基地人員はおろか、パウダーリバーに疎開している一般住民達にも――飛び立っていく司令専用機の姿は、自分達を見捨てて逃げていくように見えていた。

「司令官の逃走か‥‥軟弱なモノだな」
 ナトロナのバグア本拠地『Alcova(アルコヴァ)』。その町に聳え立つ監視塔の中で壮年の男が鼻を鳴らす。
 奇しくも敵味方両方で『情報収集の為の後退』という司令部の行動は、『戦線からの離脱』と解釈されていた。
 そんな敵の情勢を見ながら壮年の男――アイアスは可笑しそうにしながらも、ややつまらなそうに眉をひそめる。これで終わりなら余りにも呆気ない幕切れだ。
 一つ息を吐く。
「まぁ良かろう。もし可能ならパウダーリバーを落としても構わんが‥‥とりあえず様子見だ、死んで来い」
 無造作に言い放つ。
 その声に返事するものは無かった。しかしその背後から、スッと一つの気配が確かに消える。
 耳を澄ませば、微かに格納庫へ向かう靴音が聞こえるような気がした。
「さて、どの程度やれるのか‥‥それとも、基地を落とすか」
 そうあって欲しくは無いものだ、と。
 背後に消えた気配へは一抹の未練も無いように呟いて、アイアスは傍らの酒に手を伸ばした。
 空中投影された幾つかのモニタには――キャスパーとパウダーリバー、そしてアルコヴァから出撃するワームの様子が映し出された。

『エマージェンシー! 敵接近警告! 総員、第一種戦闘配置!!』
 レーダー網に引っ掛かった敵影にパウダーリバー基地全体が慌ただしく動き始める。
 だがそれは整然とした行動、とは言い難い騒ぎだった。
 ほとんどの兵士が前線のキャスパー奪還作戦に参加し、パウダーリバー基地は最低限の守りで固められている。
 だが司令部がカリフォルニアへ飛び立ったという報に怯えていた住民達が、敵襲の知らせに恐慌状態に陥って騒ぎ出した。パウダーリバーから出てキメラの徘徊する荒野へ脱出すると言う住民が続出する。
 幾つかの隊がそちらへ向かい、住民達を宥めつつ外へ出さないように配慮しなければならなくなった。
 さらに、それぞれの持ち場に駆けつけない兵士達も居た。指揮系統の混乱、命令伝達が行き渡らず、部隊、個人がそれぞれの裁量で行動を始める。
 極限のストレス下で今にも崩れそうだった兵士達の中には、レッドバード襲来と司令部離脱の事実を聞いて、任務を放棄して隠れる者まで居た。

「くそ、どうなってる!? ここは本当に軍事基地か!? 幼稚園じゃないだろうな!」
「状況がマジで混乱している状態です! 全く統制が取れません!」
 今にも戦闘が始まろうとしている時に、司令部は数人の士官とオペレーターが怒声を張り上げるばかりだった。そこに喧騒は無く、イライラとした声の応酬が交わされるばかりである。
「ダメだ、基地の兵士達に構うな! 傭兵だ、とにかく傭兵を出せ!」
 誰かの言葉に各員は即座に頷く。この状況でまともに対応できるのはもう傭兵ぐらいしか居ない。
 様々な行動規定に縛られた正規軍では現状の収拾がつかない。迎撃行動に移る前に壊滅される恐れがあった。
「よし、傭兵の出撃を最優先で良いんだな‥‥!? そういえば、敵種は?」
「その‥‥良く分かりません!」
「良く分からないっていうのは、新型か!?」
「いえ、私の管轄外なので‥‥。処理できるオペレーターはまだ来ていません!」
「な、何だって!? 何とかしろ、割り出せ! 出来る奴は居ないのか!?」
 何人かの士官が首を巡らすが、オペレーターは全員首を横に振った。見ればその他にもオペレーター席の空席が目立つ。命令を出す士官も複数人が居り、司令部は混乱の極みだった。
「と、とにかく傭兵を出撃させろ! 全速で出撃準備するんだ!」
「今やってますよ! ‥‥たぶん!」
「敵の数は!? 七‥‥いや八か!?」
「違います、十一です! 恐らく陸戦ワーム‥‥いや、この速度は空戦‥‥?」
「ああもう、しっかりしろよ!」
「そう言う貴方も何か手伝って下さい! 階級は同じなんだから!」
 誰のモノとも分からない声が交錯する作戦司令室。それはそのまま、基地全体の縮図でもあった。
 しかしそんな中――緊急待機していた格納庫の扉が開く。

『傭兵達の出撃準備が完了した! 許可を!』
 誘導員のリーダーが無線で呼びかけるも、どこからも応答は無かった。
 基地の人員は相変わらず慌ただしく動き回っているが、その誰もが混乱している。
 傭兵達はそれを目で追い、機内で静かに声を交し合う。
 そして――重大な判断を当たり前のように下した。
 KV群は小さく誘導員に合図した後、突如として滑走路を加速する。
 混乱する兵士や住民達が轟音と風に目を上げると。

 傭兵達のKVが――空へ舞い上がっていた。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
不破 霞(gb8820
20歳・♀・PN
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 傭兵部隊は一斉に空へ。
 八機のKVは轟音を響かせ、混乱する基地の頭上を通り過ぎていく。
「RBが敵に回っただの司令官が不在だの‥そんな事で浮き足立つんじゃない! 襟を正せ、職務を全うしろ! そんな事では‥墓の下で君達と戦った彼らが嘆き悲しむぞ!」
 眼下の基地へ鳳覚羅(gb3095)が一喝する。混乱していた兵士達は立ち止まり、過ぎ去っていく破曉を呆然と目で追った。
「あの様子ではまともな迎撃戦力は我々のみでしょうな。‥‥何としても、止めねばなりますまい」
 飯島 修司(ga7951)が目を細めて呟く。
 その見つめる先、レーダーには11機の不明機が基地に接近してきている。
「じゃあ私達がいいとこ見せて、士気上げないとね」
 冴城 アスカ(gb4188)が奔放に言い放ち、僚機のクラリッサ・メディスン(ga0853)機へ親指を立てた。クラリッサも頷き返す。
 銀と真珠の二機のシュテルンは、空陸に柔軟に対応する予定だった。
「でも敵の情報がこれだけ少ないというのは、正直怖いですわね。
 もっとも戦場ではハプニングは付き物ですし、このくらいの事で怖じ気づいている訳にはいきませんわね」
 クラリッサは念入りに整備を頼んでいたスラスターライフルがちゃんと稼動するのを確認し、それだけで少し心強さを覚える。
「でも遭遇するまで戦力が分からないのは嫌ですね‥」
 不破 霞(gb8820)が眉をひそめて不安を口にする。
 だが自機竜牙『ゲマトリア』の獰猛なエンジン音は、そんな不安も吹き飛ばして空を駆った。
「‥‥私、緊急出動には良い思い出が無いんだよな‥」
 シクル・ハーツ(gc1986)も苦ったように首を振る。
 以前似た状況で、トラウマ持ちの敵を相手にした事があったのだ。
「ともかく、一体も、通し、ません‥‥!」
 片翼を付けた真っ赤なS−01HSC。『Rote Empress』の機上からルノア・アラバスター(gb5133)はたどたどしく言い放つ。
 前方、空陸両方に点々と敵影が見え始めていた。
「指揮官が逃げ出したタイミングなんて敵からすればいかにもいい的だよね‥‥!」
 青いロングボウ『アジュール』の内側で、鷲羽・栗花落(gb4249)も敵を捕捉する。

 空:HW*3、中型HW*2
 陸:ボアサークル(BC)*2、ゴーレム*1、RC*2、タロス*1

 全機のレーダー上で敵種別が判明。
 同時に敵は編隊を散開させて――戦闘行動に移った。


 空陸両方で敵ワームは傭兵KVとの会敵を嫌がるように広く散り始める。
 その中で地上の二体、――BCだけが基地へ向かって一直線に加速を始めた。
「速いですわ‥‥! 後退して迎撃を!」
 クラリッサがその速度を見て、即座に判断を下す。僚機のアスカ機、陸対応の霞機とシクル機もそれに頷いて機首を翻した。
 四機が後方に下がるのと対照的に、空班四機が前へ駆る。
 まだ遠い距離で――栗花落がスキルを全起動。
「簡単には逃がさないよ‥‥!」
 栗花落機がK−02を解放。鮮やかな青のロングボウから迸った500発のミサイルが、まだ散開し切らないHW群へ突っ込んで盛大に爆ぜる。
 HWは慣性制御の全力駆使と迎撃機銃で致命傷を避けていく。だが被害は大きく、爆炎と破片に全HWの装甲が焼き裂けた。
 HW群は火花を上げながら迎撃機銃をリロード。中型を両端にしてそのまま散開していく。
 その中心へと、ルノア機、飯島機、覚羅機、栗花落機の四機が空を切って機体を駆っていた。
「K−02射程、到達、です」
 ルノアがスキル起動――ロックオン。AIが相手の大まかな動きを予測して、大量のミサイルをHW群へ撃ち放った。
 同時、ミサイルの後を追うように赤いディアブロ――修司機がブースト。さらに覚羅機も追随して127mmロケット弾を連射していく。
 再びHW達の迎撃機銃が火を散らし始めた。
 銃弾が大量のミサイルを叩き、爆炎を次々に炸裂させていく。しかし黒煙の中から――さらに幾数のミサイルが飛び込み、HWへ着弾。
 迎撃機銃の音が掻き消え、代わりに爆音が空を震わせた。
「敵不明と言っても‥‥蓋を開けて見ればこんなものだね」
 覚羅が微笑み、自身の放ったロケット弾がHWの一体を炎塊に上げたのを確認する。
 さらにそのHW群の中心へ切り込んだ飯島機が――シャンデル機動で反転、敵へ向き直っていた。
「この距離で確実に、墜とさせて頂きましょう」
 スキル付与のK−02の五百発が、右翼小型HWと中型HWへ迫った。
 二体が断末魔のように光条を連射。修司機と覚羅機が被弾した直後――激しい炎に晒されて鉄片へと変わる。
 ただ計算外だったのは敵陣に突っ込んだせいで敵半分は視界外に位置し、K−02のロックオンを外れた事だっただろうか。
 敵は小型と中型のHWが一体ずつ残り――後方の基地を目指していた。

「さ、バレットバレェの開幕よ!」
 アスカが声を上げ、地上に着陸した四機が人型展開。
 その眼前へ、時速400kmのボアサークル二体が全てを踏み潰して駆けて来る。
 対応してアスカ機とクラリッサ機、霞機とシクル機を一体ずつ相手に分かれた。
「基地には近づけさせない‥!」
 シクル機のサイファー『Diamond Dust』がBCを捉えて、駆けた。高速で駆け抜けようとする敵へガドリングを連射。
 そのまま二又の白銀槍をBCの足元へ突き立てた。
 痛烈な衝撃と火花を上げ、跳ねるように態勢を崩しながらもBCは槍を弾いてそこを抜けた。
「正面に立ったら潰される‥でも、竜牙の速力なら!」
 減速したBC側面から霞機『ゲマトリア』がブースト加速。恐竜型のKVは高速で追い――真横から肩砲を炸裂させる。
 態勢を立て直しかけていた黒円が強烈な一撃に吹き飛ぶ。転倒したまま地面を十数メートル滑り、止まった。
 そこへ駆け寄る二機。白銀のサイファーが機剣の透き通る刃で黒円を貫き、竜牙がディノファングで貪るように喰らい付く。
 BCは身動きできないまま――大破した。

 BCもう一体。
 そちらへは二機のシュテルンが銃を構えて並んでいた。
「――今! 弾丸を叩き込みますわ!」
 クラリッサが即座に絞るトリガー。途端、スラスターライフルの表示残弾が高速で減っていく。
 二機のライフル弾を側面に被弾したBCが火花と破片を散らして態勢を崩す。
 滑りながら地面へ転倒する黒円へ、アスカ機が駆け出した。
「スピード違反よ。罰金は――命で頂くわね?」
 吶喊して突き出したアスカ機のガンランスがBCの中枢を抉る。
 起き上がろうとする敵を押さえ付け、PRMを起動。引き金を引く。内部へ直接砲撃を受けたBCは膨らみ――。
 激しく、爆発した。
「冴城さん‥!?」
 クラリッサが思わず叫び、機体を駆る。
 だがすぐに煙の中から‥‥煤けたアスカ機が姿を見せた。
「つつっ、‥さすがにやり過ぎたみたい」
 アスカはおどけるように首を振って、笑顔を浮かべた。

 陸戦班が空へ上がって来るのを、空戦班四機は戦闘しながらレーダーで捉えていた。
「エニセイが使えないとは‥‥不運ですね」
 修司がモニタ上に表示されたその武器を見る。メイン武装のつもりがそれは使えず、今はD−02のみでの攻撃を余儀なくされていた。
 さらにルノア機と栗花落機は機動が鈍く、覚羅機は装甲の一部が剥がれていた。
「‥‥整備不良か‥基地に戻ったら‥‥地獄のフルメンテ手伝ってもらわないとね‥」
 覚羅が黒い笑みを浮かべる。
 そのまま被弾警告を無視して、小型HWへ反撃の84mmロケット弾発射。それへ交錯させるようにルノア機が螺旋ミサイルを撃ち放つ。
 二方向からの着弾で激しく破片を散らすHW。
 吹き飛ぶそれを逃がすまいと、二機が退路を防ぐように次弾発射する。
「‥HW、撃墜」
 ルノアが報告。
 爆炎に包まれて――HWは落ちて行く。
 残った中型HWへは、修司機と栗花落機が仕留めに掛かっていた。
「援護は私にお任せを」
 ディアブロの狙撃。中型HWの機動する先で確実に命中させ、同じ座標に釘付けにする。
 そこへロングボウが駆ける。中型が放つフェザー砲にツングースカで応酬しながら、栗花落が――KA−01の引き金を絞った。
 轟音と共に放たれた火柱がHW中心を貫く。
 HWが落ち始める。最後に向けたフェザー砲は――狙撃弾に穿たれ、ロングボウの剣翼に寸断された。
「これで残るは‥‥」
 栗花落が地上へ目を凝らす。
 散開して基地を目指すワーム群が眼下を走っていた。

「煙幕射出します!」
 霞機から地上へ放たれた煙幕装置が激しい煙を噴き上げて視界を隠す。
 地上から空へ砲を向けるRC二体は標的を見失った。拡散砲撃のまばらな光条が空に翻る。
 それをすり抜けて――二機のシュテルンが降下を開始していた。
「先に私達が降下しますわ! お二人はその後でっ」
 クラリッサが地上のRC二体へロケット弾を射出。8連装の弾頭が地上で爆ぜる。
「まず私から行くわよ!」
 アスカ機がPRMを抵抗装甲へ回す。拡散砲撃に軽く引っかかれつつも降下。アスカ機、すぐ後に続いてクラリッサ機が垂直着陸で地上に降り立つ。
 二機は変形、スラスターライフルでRCへ弾幕を張った。
「降下ポイントの確保、感謝する」
 その二機の牽制のおかげで無事に地上へ降りたシクルが通信する。その横に霞機も降り立っていた。
 即座に二機は人型に変形すると、弾幕を張りながら煙幕の中へ吶喊していく。既に先行のシュテルン二機は接近戦に入っており、クラリッサ機の援護射撃を受けてアスカ機がガンランスで敵の砲台を突き抉っていた。
「クッ‥‥皮膚の色が変わったわよ!」
 アスカが叫んで僅かに後退。二体のRCは緑の強固な皮膚に変化していた。
 だが、四機に知覚兵装は無い。
 RCは激しい弾幕を掻き分けて、おもむろにアスカ機へ飛び掛かった。腕部を牙で砕かれながらも、アスカ機『Luzifer』は揉み合って相手する。
「冴城殿、単騎では時間が掛かりそうだ。挟み撃ちにするぞ!」
「そりゃ‥‥ありがたいねっ!」
 アスカ機がRCを突き伏せる。
 激しく暴れるその背中へ飛び込んだシクル機が――白銀の剣を振り下ろした。
 固い皮膚を切り裂く手応え。刃の下で血が流れ出す。
 その仲間を助けに走ったもう一体のRCを――激しい弾幕と、恐竜型KVの突進が食い止めた。
「貴方の牙か、この竜牙か‥――勝負!」
 霞が言い放つと同時、練力を集中させた竜牙の牙が青く光る。そのままRCとKVはぶつかりあい、互いの肩に牙を食い込ませた。
「良い的ですわねっ!」
 動きが止まったRCの背中へ、クラリッサ機『アズリエル』が冷静に弾痕を穿っていく。
 固い皮膚を強引に破る白刃と火線。
 二体のRCは徐々に弱り、四機のKVは一気に――二匹を仕留めた。

 地上を駆けるゴーレムとタロスを追いかけて、空戦班四機が着陸する。突破を図る二体が移動しながら砲火を浴びせた。
「くっ、これ以上は基地に近づけさせないよ‥‥!」
 被弾、変形しながら栗花落機がツングースカで反撃する。修司機、ルノア機、覚羅機が次々に変形し、敵へと駆け出す。
「切り札使わせてもらう‥‥」
 覚羅機が超限界稼動――『黒焔凰』の名前の如く、鎧を脱ぎ捨てた破曉が黒い陽炎を身に纏う。
 赤い光条を素早くかわし、機銃の掃射を二体へ加えて走った。
 さらにルノア機も足を止めて弾幕を張る。激しい砲火に押されて二体は反撃しながら後退りした。
「ここで‥終わりにさせて頂きましょうか」
 一発の銃弾がゴーレムの右腕を貫く。敵の砲火が薄くなった所を――機剣を握った修司機が突撃した。
「陸戦班、今から降下します!」
 さらにRCを始末した四機が、地上へ降下。基地への進路に立ち塞がるように着陸する。
 だがふいにF砲で光条を乱れ撃っていたタロスが――武器を下ろしてゴーレムの影に隠れた。
「タロスの、様子、が‥‥注意を!」
 ルノアは叫びながらすぐに敵の意図を悟り、機銃射撃で敵を押し留めようとする。だが全てゴーレムに吸い込まれ――大破。
 崩れ落ちるゴーレムの後ろから、タロスが空に舞い上がった。

 着陸したばかりの陸戦班が再び離陸。垂直離陸したクラリッサ機とアスカ機がいち早く敵を追撃した。
 クラリッサ機が即座にUK−10を発射し――。
「‥射出されませんわ!」
 『兵装異常』の文字。整備不良により、その兵装が使えなくなっていた。
「クラリッサ、違う兵器を!」
「了解です!」
 即座にクラリッサは兵装変更。84mmロケット弾をスタンバイさせる。
 直後に二機が兵装を発射。
 アスカ機のG−02ミサイルをタロスが避けた後、クラリッサ機のロケット弾が命中した。
 だがタロスはよろめきながら、反撃もせずに前進する。
 やや遅れてシクル機、霞機が空に上がるが‥‥既にタロスの射程を外れていた。さらに残りの四機が上がってきた時には、かなりの距離があった。
 クラリッサ機とアスカ機が必死に追撃するも、タロスの目と鼻の先にパウダーリバー基地が迫る。
 だが遥か後方で、ディスプレイ上の敵をロックオンしている機体があった。
「行くよ‥‥アジュール!」
 青のロングボウ、栗花落機。
 スキルで射程を二倍に引き伸ばし、多目的誘導弾発射スイッチを――押し込む。
 解放される四発の弾頭。空に白い雲を引き1400mの距離を抜け――タロスへ直撃した。
 彼方で爆炎が上がる。
 直後、四散した鉄塊が燃えながら‥‥ナトロナの荒野に落ちて行った。

 基地は落ち着きを取り戻す。
 人々を安心させるように頭上を旋回していたKVが、ゆっくりと降下してくる。それを軍人は敬礼で、人民は拍手で迎えた。
「まったく、変なのがいなくて助かった‥」
「今度からはこんな状況で戦いたくないね‥ホント疲れたー」
 シクルと栗花落が安堵の息を吐く。直前まで敵が分からないというのは、やはり不気味な体験だった。
「しかし、機体のトラブルには弱りましたが‥‥」
 修司も苦い顔で呟く。メイン武装が使えない事がかなり辛い状況だった。
「でもどうにか任務達成できましたわね」
 あらかじめスラスターライフルだけは確実に整備してもらっていたクラリッサは、それなりに満足のいく戦いを出来ていた。
「‥‥それじゃ、地獄のフルメンテを手伝ってもらおうか」
 熱暴走した自機を降りながら、覚羅が恐ろしい笑みを整備班に振りまく。それに各員は頷くしかなかった。
 各々は任務を終えて別行動を取っていく。ルノアと霞は混乱でメチャクチャになった基地の片付け手伝い、さらに休息に向かう面々や整備を行う傭兵など。
 その中で食堂に向かったアスカは、浮かれて騒ぐ兵士達から酒を奢られていた。
 出発時とは打って変わって楽しげな彼らを見ながら、やれやれと呟く。
「‥‥無能な司令官でも蛇の頭、か」
 酒を傾けながら窓の外に目を向ける。

 司令官不在のその基地が――まるで檻のようだった。

NFNo.027