タイトル:【NF】陥落の記憶マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/23 14:08

●オープニング本文


 2009年6月。ナトロナ都市キャスパーは、敵の奇襲を受けて陥落した。
 その戦闘ではエース部隊『レッドバード』が呆気なく全滅させられ、ナトロナの形勢が一気にバグア側へ傾く原因となった出来事でもある。
 当時キャスパーマウンテンより侵入したと思われる敵部隊だったが、寝耳に水の都市陥落で敗走を強いられていたUPCナトロナ軍にとってはその戦闘については長く謎に包まれていた。
 だが、先の作戦でナトロナ軍はキャスパーを奪還。それに伴ってUPCナトロナ軍への新規部隊の配属を決定し、全兵科で慢性的に不足気味だった人員を補充する。
 ナトロナ機甲中隊‥KV部隊も八機編成の一個中隊が新たに到着し、第六機甲中隊、通称『ブルーバード』の名が与えられた。
 レッドバードと対照的なその名前は、その運用の仕方も主に都市や後方基地の防衛といったやや地味な位置付けになる予定である。
 残る急務はキャスパー基地の機能を完全復帰させる事、そして――この都市が陥落した当時の状況を調べる事だった。

「一年前と同じ轍を踏むわけにはいかん。何としてでもキャスパーの盲点を潰さねばならんのだ」
 作戦室。
 長い会議机の上座に着いたポボス大佐が、各将校を前に言い放つ。
 それは全員が同感である。ヒータとライトは頷き、バルトとカスピも耳を傾けていた。
 その様子を見ながらポボスは話を続ける。
「詳細に当時の状況を分析してみた結果、ある一つの可能性が浮上してきた」
「ここからは私が説明させて頂きます」
 ポボスの話を引き取り、隣に座っていた情報士官が立ち上がった。
 同時に部屋の照明が落ち、白いスクリーンにキャスパー周辺の地図が浮かび上がる。
 キャスパー基地、その数km離れた場所にキャスパー都市部。
 そしてさらにその都市部から十キロほど南下した場所に、地図を横切るように小高い山が表示されていた。
「ここがキャスパーマウンテン。当時の通信記録などから、約一年前に敵がキャスパー侵攻時に使用したルートと断定しています」
 情報官が手元のパソコンを操作すると、そのキャスパーマウンテンが拡大されて詳細な地形を映し出す。一年前に破壊されたレーダー基地が×で表示されており、その周囲が円状に赤く塗り潰されていた。
「キャスパー陥落の前から、このキャスパーマウンテン付近上空では不可思議な光点が市民達によって指摘されていました。当時のレーダー基地からは『誤認である』という報告を受けていましたが、その時にはもうこの基地はバグアに支配されていたのでは、というのが我々の見解です」
 情報士官は一旦言葉を切る。
 薄暗い作戦室のせいで一層青白くなった表情を神経質そうに歪め、「さらに」と言葉を続けた。
「最近、再びその光点が再び市民から報告されるようになりました。その度に、近くを哨戒中だった偵察部隊がそちらへ向かいましたが‥‥それらしき原因は発見できず」
 情報士官は溜め息を吐くと、スクリーンに映った地図に視線を移した。
「ですがそれは市民の誤認というよりも、むしろキャスパーマウンテンにはバグアが隠蔽した前線基地‥‥とまではいかなくても、ワームが一時待機できる駐屯地のような物があるのでは無いかと考えています」
「その駐屯地のある可能性が高い場所が、あの地図上の赤く塗られた範囲内というわけだ」
 ポボスが結論を言い放ち、机の上に組んだ腕を置く。
「敵に何らかの動きがある以上、先手を打たねばならん。上空からの偵察部隊ではキャスパーマウンテンの異変は発見出来なかったが、地上から直接捜索すれば何かしら見つけられるだろう」
 そう言い放つと、ポボスは身体の向きを変えてイカロス隊とクロウ隊へ目を向けた。
「そこでイカロス隊とクロウ隊。――お前達の出番だ。リスクは高いが、何としてでも敵拠点を燻り出せ」

 基地は出撃に備えてにわかに慌ただしくなった。
 格納庫への通路を、ライト、ヒータ、バルト、カスピ、タローがぞろぞろと進んでいく。
 しかしふいに、バルトが不機嫌そうに舌打ちをした。
「どうした、中尉?」
「‥‥どうしたもこうしたもあるかよ。ライト、お前は腹が立たねぇのか?」
「ん‥‥何の事だ?」
 ライトが不思議そうに聞き返すと、バルトは盛大に溜め息を吐いた。
 それから足を止めると、声を潜めて口を開く。
「あのなぁ‥‥あの偉そうに命令してる司令官様は、俺達をほったらかして逃げ出した臆病者なんだぞ? そんな奴が命張ってキャスパーを奪還した俺達へ『何としてでも敵拠点を燻り出せ』だと? ハッ、何のジョークだ‥‥」
「ああ、とはいってもな‥‥」
「とはいっても、なんだイカロス? オメェらはどうしてあんな野郎の肩を持つんだ?」
 目に怒りを滾らせるバルトの気迫に押されて、思わず黙りこくってしまうライト。
 それをフォローするようにカスピが暴走気味の隊長を抑えた。
「ま、まぁまぁ。気持ちは分かりますけど隊長、ライト少尉に当たってもしょうがないですって」
「ああ、そりゃそうなんだがな‥‥。すまん」
 バルトは肩に力を抜き、軽くライトの背中を叩く。
「私達は、レッドバードの遺志を尊重したいだけです」
 黙っていたヒータが、釈明するようにポツリと言い放った。
 しかしその後ろからタローが小さく首を振る。
「レッドバード‥‥。確かに彼らは偉大ッスけど、司令が戦線放棄したのはまた別の話で事実ッスよ? あんな無責任な事をされたら‥‥実際、他の兵士達だって気分は良くないッスよ」
 煙草の煙を気だるげに吐き出しながら、タローが沈痛な面持ちで言う。
 まるで、ヒータとライトがどうして平然と動けるのかが分からないようだった。
「‥‥とにかく、目先の任務に集中しよう。彼らも来るんだし。あまり内部のゴタゴタを見苦しくやるわけにもいかん」
 ライトが軽く視線を先に向ける。
 格納庫から響く轟音は、援軍を頼んだ傭兵達の到着する音だった。


「全機揃ったか?」
 中型HWの中、アイアスは不敵な笑みを浮かべて通信網に声を掛ける。
 返って来るのは――声ではなく、肯定を示すグリーンランプ。一番機から順番にそれが点っていく。
 全機、問題無し。
「良いだろう。出撃まで体を休めて――」
 ふいに、機体のレーダーが警告音を立てる。
 敵キャスパー基地から十数機のKVが飛び立ち、『ここ』キャスパーマウンテンへと向かっていた。
「‥‥ふん、予定変更だな」
 アイアスは通信回線を再び開き、全機へ通達する。
「正規軍は他のワームに任せておけ。我々の相手はイカロスの傭兵達‥‥初舞台だ、存分に楽しむが良い」
 モニタ上に一瞬で点るグリーンランプの群れ。
 それを満足そうに一瞥し、アイアスは暗闇の中で息を潜めた。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

「敵基地が予想範囲内にあるかもしれない、という以上の情報はない。自力で探すしかないようだ」
「OK、了解♪」
 作戦詳細に関するライト・ブローウィン(gz0172)の答えに、聖・真琴(ga1622)頷き返す。
「‥あの時は完全に想定外だった‥。でも今度は‥‥皆が命を掛けて取り戻したキャスパーを同じ目には遭わせない‥ッ」
 外界と遮断されたOGRE『凰呀』の内側で、表情を引き締める。
「さて、ようやっと反撃開始ってとこか。今まで散々やられた分、万倍返しにしてやろうじゃねぇの‥と言いたいが、どうも一致団結して事に当たるにはまだ無理そうだな」
 軍人達のポボス司令への怒りを感じ取って、風羽・シン(ga8190)は小さくこぼす。少し複雑そうに通信回線を開いた。
「‥クロウ隊、地殻変化計測器は持って来たか?」
『おう、持って来たぞ。お前さんの指示通りな』
 シンは頷くと任務へ集中する。
「にしてもポボスのおっさん、相変ぁらずカリスマ性が低いようだなぁ」
 山崎 健二(ga8182)も軽口を叩きながら苦笑する。
「まぁアレでも司令官なワケだし? オレ達が戦果を上げりゃ、もっと手を尽くしてくれるようになるさ」
 空を覆う厚い雲。その上側へ逝った赤いエース達へ「安心して見守っててくれ」と微笑んだ。
「折角取り返した街だからな。もう一度同じ事を繰り返すのはまっぴらだ‥‥原因は徹底究明しないと」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)の乗るR−01『ディース』も鈍色の雲の下を同じように翔ける。作戦領域に近付きつつあった。
「ナトロナに来るのも久しぶりですね‥」
 荒涼とした大地を見渡し、叢雲(ga2494)がこぼす。
 彼にとって二度目の戦場入り。その力を振るうべく鴉章をつけたシュテルンは加速する。
「進撃とはいえ後がないのは私達の方だから‥‥慎重に冷静に、ね」
『その通りですね。各機、行動は慎重に』
 ラウラ・ブレイク(gb1395)の言葉に地上班のヒータが応じる。
 岩肌が目立つ山とはいえ所々に植物や谷間の凹凸があるせいで、視界が十分確保されている――とは言い難かった。

「さすがに簡単には見つからないか‥‥」
 敵駐屯所の偵察と制圧を行動目標に掲げた雪代 蛍(gb3625)だったが、その前にまず『発見』をしなければならなかった。
 真琴機とバディを組み、探索に当たる。
 やや距離を取った別方向でも、黒灰の健二機と組んだ真紅のルノア・アラバスター(gb5133)機が、ゆっくりと飛行する。
「いよいよ、敵も、動き、出し、ました、か‥。絶対に、見つけ、ます」
 この近辺で多数光点が報告されている。対空攻撃に警戒して高度を取りながら、地表の違和感を探して目を凝らす。
 その時、全機の電子機器に異常が発生――CWジャミング。
「既に歓迎の準備は出来てるみたいね‥。敵の奇襲前提、カウンターを当てるつもりで構えましょう」
 ラウラがノイズ混じりの通信を各機に送る。頭痛はまだ無い。
 その視界の先に、廃墟化したレーダー基地があった。
「私が確認する、ユーリさんバックアップお願い」
「了解。気を付けてな」
 ラウラが先行して低空から接近。山頂に横穴を掘って造られた施設とほぼ同高度になった機体は――その中にCWを認めた。
『高速で接近する機体を確認。IFF反応無し』
「っ、違う方向から‥!? ラウラさん、そちらではありません!」
 だが叢雲の機体AIが示唆したのは別の光点群、遥か低高度。
 ほぼ地上スレスレ、タロス群が砲を頭上へ向けていた。
 だがそこへ――無数の小型ミサイルが降り注ぎ、炎の嵐が巻き起こる。
「援護を請け負ったばかりだ。そう簡単に奇襲はさせない」
 ユーリが黒煙に包まれた眼下を睨む。咄嗟に対応は出来たが、敵の出所までは確認できていなかった。
『交戦したのか‥!?』
『待って下さい! 地面が揺れて‥!?』
 地上班のノイズ混じりの通信が飛び交い、同時『EQ!』という声が上がった。

 地上が騒がしくなり始めた頃、空でも爆煙の中からHWとタロスが姿を現していた。
「ナンバリング‥‥HW6体、タロス、6体、です」
 ルノアは標的に仮番号を与え、戦闘行動をしやすくする。
 ラウラ機はレーダー基地へロケット弾発射。着弾と同時、全員の頭痛が消えた。
 ワーム群は上昇しながら光条を撒き散らす。タロスの鋭い光条がユーリ機以外の全機を抉り、破片を空に散らした。
「チッ! タロスが六体も‥‥指揮官機は不在か?」
 機体を立て直しながら、シンは眼下の敵を睨む。
「全スキル、発動。K−02、発射‥! 援護を‥!」
「了解だ、やっちまえルノアちゃん!」
 迫る敵群へルノア機『Rote Empress』がミサイルコンテナを解放。250発のミサイルがHW三体とタロス二体へ着弾、爆炎を轟かせた。ブーストをかけていたルノア機がさらに剣翼追撃し、離脱する。
 それにあわせて健二機もトリガーを絞る。KA−01砲撃が別のHWを直撃、吹き飛ばした。
「ンじゃ、軽〜く突っ込もぉか♪」
「分かった‥‥REX、スキル起動」
 真琴機と蛍機ロッテが敵陣へ全速吶喊。『凰呀』と『REX』が翼下から吐き出すロケット弾がHW一体へ駆ける。
 直撃、HW外殻が爆発の衝撃で弾け飛ぶ。だがHWは被弾しながら、赤い光条を撃ち返した。
「あたァっかよッ‥!」
 真琴機は追加推力装置も発動し、ブーストを噴かして回避。背面を流れる光条へ逆らうように、HWへ加速する。
 もう一度照準を絞ったHWへ、後続蛍機が飛竜を射出。着弾の炎の中へ真紅の真琴機が飛び込み――剣翼で両断した。
「一体撃破だッ」
 蛍が声を上げて全機へ報告。
「っしゃあ! 負けてらんねぇ、突っ込むぜ!!」
「了解です。K−02で支援しましょう」
 シン機の突撃に合わせて叢雲が発射ボタンを押し込んだ。直後、空に渦巻く500発のミサイル。
 爆炎が轟きワーム砲勢が鈍り、吶喊する青銀シュテルンの接近を――許した。
「うらぁッ!」
 機銃掃射から銀の剣翼が煌めく。大量ミサイルを被弾したHWが銃弾を受けて破砕し、次のHWも中枢に刃を受けて撃墜された。
 だがそのシン機へ、大量ミサイルを回避したタロスがフェザー砲を連射。かわし切れず装甲が焼け焦げる。
 キャスパー山の上空は激しい空戦に移行していく。傭兵達は数で押されながらも、密な連携で互角以上の戦闘を展開した。

『ふん、なるほど‥‥ジックリ観察させて貰ったぞ』
 ふいに通信回線に介入する――低く威圧的な声。
 それを聞いた健二は苛立たしげに舌打ちした。
「‥‥どこに隠れてやがる。そろそろ出てきやがれってんだ、アルコヴァ王ッ!!」
 目前のHWを剣翼で叩き切りながら叫ぶ。
「手前ぇが親玉か? ‥オリージュ達の‥」
『オリージュ‥? ああ、大して役にも立たなかったアレか』
「っ! 手前ぇ、ンのヤロォ――!』
 歯を噛み鳴らし、真琴の瞳が怒りに燃える。
 だがその姿は見えない。ワームとの交戦下、緊張の面持ちで全員がワーム群の出てきた遥か眼下へ注意を注ぐ。
『‥何処を見ている? 我はここに居るぞッ!』
 だが敵は――全く別方向から現れた。
 空を迸る三連光条がラウラ機に直撃、尾翼を溶解させる。
「くっ‥後ろ!?」
 予想に反して斜め後方。
 レーダー基地が音を立てて瓦解し、本星中型HWが激しく砲を噴きながら姿を現した。
「態勢を立て直すんだッ! 行くぞ、α班全機で連携を掛ける‥!」
 本命の登場にユーリが各機へ声を掛ける。
 ルノアも健二機の援護できる位置に回りながら、一度交戦した記憶から敵機動を読もうとした。
 四機のα班に囲まれながら――アイアスは悠然とコンソールを操作する。
『‥‥頭数を減らせ。初めはあの機体だ』
 モニタ隅のランプが一斉に灯り、タロスは一斉に――蛍機へ振り向いた。

 ふいに螺旋弾頭が本星HWへ飛来し、分厚い赤光の壁へ突き立った。
「‥強力型、FF」
 ルノアが呟き、それでもあえて同兵装を連続射出する。スキル併用の弾頭は正確にアイアス機の巨体へ駆け抜ける。
「オレを墜とした事なんざ覚えてないだろうが、テメェを斃して雪辱を果たすッ!」
 さらに別方向から健二機の同時攻撃が火を噴く。
『本星型の性能‥‥その目に焼き付けるが良い』
 だがアイアスは練力を使って慣性制御を最大稼動させ、巨体にあるまじき回避機動を見せた。
 二機の同時攻撃を避け、高速回転しながら砲を連射。空に炸裂音が響き渡り、包囲するα班四機を高速の火線が撃ち抜いた。
『どうした? 我を退屈させるな』
 アイアスが嘲るように言い放ち、空中に静止する。
「そうやって‥‥あなた達の遊びで幾人が地獄を見たか‥‥!」
 バイザーに映る敵機を射るような瞳で捉え、ラウラがトリガーを絞り込む。重機関砲が震動を立てて砲弾を連射。
「Aファング起動――避けさせるな、ディースッ!」
 アイアスの退路を塞ぐように、ユーリ機もAAMを連射した。
 だがアイアス機は九十度垂直上昇、そのまま鋭角的な機動で火線を回避していく。
 慣性制御を最大限に発揮したその運動能力は、驚異的だった。

「‥このっ!」
 蛍機がタロスへ高分子レーザーを連射。直後に来た敵砲撃と交錯し、火花を噴いて機体を傾がせる。
 さらにその背後へ、別のタロスが回っていた。
「やらせッかよ――♪」
 Tブーストを掛け超高速の真琴機が飛来、タロス胴部に剣翼を疾らせる。
 血を噴き上げるタロスが反転、肩部のミサイルを『凰呀』へ射出。だが真琴機は辛うじて爆炎を避けた。
「こっちを見やがれっ!」
 タロス群が連携して蛍機を狙う動きを止めようと、シンがロケット弾をありったけばら撒く。
 砲を構えていたタロス三機が回避機動を取り、内の一体が青銀シュテルンへ激しく光条を撃ち放った。
 衝撃が走り、『アインヘリヤル』は被弾警告を鳴らす。
 だがそのタロスを――横様から奔った大光条が吹き飛ばした。
「DR−2、命中です」
 漆黒の叢雲機が赤熱した巨大砲身を向けたまま、プラズマライフルを追撃連射する。肉が溶け骨格まで覗くタロスが、機体を修復させながら回避機動を取った。
 その叢雲機へ別タロスが飛来し、深手を負った仲間を逃す。
 HWは既に掃討済みだったが、タロスの数はβ班を上回る。さらに敵は連携を取り――二体のタロスが隙を突いて、蛍機へ砲口を向けた。
「――ッ!」
 咄嗟に蛍が起動した超伝導DCで、超高圧電流が機体表面を覆う。
 直後――激しい砲撃が、『REX』の両翼をへし折った。
 蛍機は空中を錐揉みし、眼下の森へ落下していく。

 高速戦闘下、本星型がラウラ機の背後を取る。
 だがユーリは、――僚機の一瞬のハンドサインを見逃さなかった。
 Oブーストを掛けて大きく沈む機体へ、アイアスが鼻で笑う。
『ふんっ、無駄な足掻きよッ!』
 本星型は激しい砲撃を噴き、ラウラ機の後尾を吹き飛ばした。
「そこだ――!」
 直後ユーリ機が叫び、操縦桿を倒す。
 しかし本星型は即座に百八十度反転――砲撃。
『狙いが見え見えだ‥!』
 アイアスはラウラの囮に掛かったフリをして、僚機であるユーリ機が狙いやすい死角を逆に作っていた。
 そして振り向き様に放った砲撃は――だが何も撃ち抜かなかった。
 ユーリ機はアイアス機を狙わず、そのまま射線を回避。他の二機へ、サインを送っている。
「ようやく、動きが、読め、ました」
 ルノアが兵装スイッチを押し込む。四発放たれた螺旋弾頭の一発がアイアス機へ着弾、分厚いFFが発光する。
「ぶち当たれぇ――ッ!」
 スキル起動した健二機『Baalzephon』が、KA−01砲と8.8cm大光条を連続で叩き込む。
『クッ‥‥!』
 初弾を回避したものの、光条被弾。FF強で攻撃を散らした。
 攻勢から立ち直ろうとしたアイアス機へ、人型のラウラ機が剣を構えて接敵する。
『空中変形か‥‥小賢しい真似を』
 咄嗟に慣性制御を最大稼動させるアイアスへ、しかしOブーストで激しく炎を纏った『Merizim』が追いすがる。
「この身を燃やしてでも、焼き尽くしてあげるわ‥!」
 ラウラ機が放つ刃の嵐。鋭い機剣と雪村の光刃を本星型はかわしきれず、FFが幾度も輝きを放ち‥とうとう分厚いFFが掻き消える。
「この痛みを知りなさい‥!」
 そしてラウラの放った最後の雪村が――本星型を深く切り裂いた。
『くっ‥‥! だがその変形の隙、逃さん――!』
 火花を散らした本星型は即座に態勢を整え、再び変形するラウラ機へ三連フェザー砲を撃ち放つ。
 だがその頭上から、――ユーリ機が高速飛来した。
「よそ見してると足元掬われるぞ、ってね」
 ブースト、スキルを乗せた重機関砲でアイアス機に弾痕を走らせる。
 アイアスは舌打ちすると、次撃の剣翼を避け――砲撃をくれて距離を取った。
『くく、さすがに単機で相手するのは骨が折れる。‥‥お前達、初戦としては十分だろう。撤退するぞ』
 モニタ隅に応答の光が一斉に灯る。タロス6体が一斉に反転、本星型の周囲へ集まった。
「待ちやがれ! 逃げんのかよッ!!」
『もうこの場所に用は無い。ふ‥カードは他にもある』
 健二の怒声にアイアスは余裕の反応を返すと、ゆっくりと戦域を離れていく。
「‥ま、お互い今回はまだ挨拶代わりだな」
 冷や汗を垂らしながらシンが呟き、敵の背中を見送る。
 目下の目標は敵駐屯地制圧であり――実際問題として、タロス群と交戦していたβ班は満身創痍だった。

『EQ‥‥撃破!』
『くそ、まだ終わっちゃいねぇぞ!』
 地上軍KVは駐屯所から這い出てくる新手のゴーレム数体を目にして、舌打ちする。
「Raven、緊急降下! 着地時の姿勢保持を任せます!」
「チッ‥。損傷が酷いが、弱音を吐いてる暇は無ぇようだな‥!」
 叢雲機とシン機が援軍として飛来、粗い山肌へ垂直着陸を試みる。
「両機、援護するよっ♪」
「地上目標、ロックオン!」
 真琴機、ラウラ機が敵頭上へ残った弾頭を撃ち落した。
「K−02、残弾、発射‥っ」
 ルノア機が温存していた250発のミサイルを雨のように地上へ降らす。それを横目に、シンも着陸前に自ら弾幕を張った。
 だが‥それが裏目に出て敵の注意を惹いた。山への着陸に手間取り、シン機はゴーレムの一斉砲火を浴びる。
「グッ――!」
 青銀のシュテルンは爆炎を上げ、地面に叩きつけられた。叢雲機はどうにか着陸、数度の被弾を受けながら変形する。
『助かります‥‥!』
 ヒータが叫び、前へ出る。
 上空からの随時支援攻撃と地上KVによって、ゴーレムは瞬く間に殲滅。
 ‥‥後には人型の残骸だけが散乱した。

 敵駐屯地の内部から炎が噴き上がる。
 それを眼下に見ながらユーリが、小さく眉を寄せて口を開いた。
『任務完了だな。‥撃墜された二人は大丈夫か?』
「蛍さんは軽傷です。しかし、シンさんの傷は‥深いですね。すぐにキャスパーへ戻りましょう」
 シンを操縦席から引きずり出した叢雲が、二人で機体に乗り込んで声を掛ける。蛍もヒータが回収。
 炎を上げる山腹の駐屯地を各機は後にする。

 タロス群という新たな脅威に、一抹の――不安を感じながら。

NFNo.30