タイトル:【弐番艦】空中給油機団マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/22 01:03

●オープニング本文


 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。

「そして今回、諸君らには空中給油機団の護衛をしてもらう」
 UPC北中央軍基地の作戦会議室。
 そこに集められた傭兵達に向けて、今回の任務を中尉が説明していた。部屋はプロジェクターを使う為に暗く、スクリーンに映し出された画面には「ユニヴァースナイト弐番艦輸送作戦」から始まる無骨で飾り気の無い作戦概要が表示されている。
「この空中給油機団は三機編成で競合地域ワイオミング州までフライト、ラストホープより来る重力制御エンジン輸送部隊の給油を担当する」
 声を張り上げるように、しかし淡々と説明する中尉の表情はまるで前線の激戦区にでも居るように険しく、否が応でも集まった傭兵達に緊張感を与える。
「出撃予定時刻は○九○○時から一八○○時の間のどこかの時間帯となる。というのも、今回の作戦は機密性保持の為に我々にも輸送部隊の明確な出撃時刻は知らされていない。こちらの偵察機が輸送部隊を確認し、帰還した時点で給油任務は開始となる」
 中尉はスクリーンに書かれてある作戦概要を補足しながら説明すると、さらに傭兵達の方へ振り返った。
「また、任務の秘匿性を高めるために護衛には正規部隊ではなく諸君ら傭兵を起用した。軍の正規部隊を動かせばバグアの対応も早いが、傭兵部隊であればいくらかマシだ。また、UPC北中央軍としても今回の『弐番艦作戦』の実行と連動して、一時的に北米航空戦力全体を増強する。恐らくバグア勢力はそちらの対応に追われると予測される為、諸君らの護衛する給油機団へ向かう敵は多く無いだろう」
 少ないだろう、とは言わずに説明した。
 さらに続けて中尉は、「ただし」と厳しい目を傭兵達に向けた。
「もしも給油機団の一機でも堕とされるような事があれば、競合地域を突破する輸送部隊のリスクは跳ね上がる。心して任務に当たってくれ」
 それから中尉は腕時計にチラリと目を落とすと、すぐに傭兵達を見回して宣言した。
「――以上、現時刻○九○○時を持って、当任務は開始となる」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
佐倉祥月(ga6384
22歳・♀・SN
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
神浦 麗歌(gb0922
21歳・♂・JG

●リプレイ本文

 ブリーフィングを終えてもう一度集まった能力者達は、一応改めて自分の名前と機体を自己紹介する事となった。
「スナイパーの篠崎公司です。ウーフーにて参戦します」
 まず一番年長の篠崎 公司(ga2413)から簡単に告げる。
 それから順番は円を描くように回っていった。
「‥‥次は私ね。佐倉祥月、機体はワイバーン。TACネームは『HAPPY−CHERRY−MAY』よ」
「私は遠倉雨音、搭乗機体は黒鋼‥‥いえ、雷電です。TACネーム『rainy』と呼んで下さい」
 佐倉祥月(ga6384)と遠倉 雨音(gb0338)はこの機会にTACネームも申告しておく。
 そうして全員が終えると、自然と話題は作戦の話へと移行していった。
「ついに弐番艦が出来上がるのか‥‥。欲を言うなら、もうちっと早く出来上がってほしかったけどなぁ?」
 難しい顔をして須佐 武流(ga1461)がそんな本音をこぼした。
「確かに弐番艦の製造作戦の成否は、今後の戦況を大きく左右しそうですからね。‥‥僕も何もしないでじっと待ってるわけにはいかないな」
 武流に同意しながら神浦 麗歌(gb0922)が事前に渡された地図を広げる。
 隣に座る雨音は、輸送作戦全体の概略を頭に思い起こしながら頷いた。
「実際にパーツを運ぶわけではないですが、私たちの担う役割も重大ですね。‥気を引き締めて行きましょう」
 と、そんな風に全員で話し合いながら、任務の作戦を詰めていく能力者達。
 そうしてそれも大体終わった時、――にわかに基地内が騒然とし始めた。
「どうやら‥‥偵察機が帰って来たようですね」
 森里・氷雨(ga8490)が窓の外に目を見やりながら立ち上がる。
 それに少し遅れて、基地内放送が流れた。
『特別偵察機が目標を確認し帰還。空中給油任務担当の給油機パイロット及び傭兵各員はすぐに格納庫へ向かい、出撃せよ。繰り返す――』
 基地全体に響く司令部の声。
 しかし二度目を繰り返す頃には――――もう部屋に能力者達の姿はなかった。

 数分後、基地から飛び立った十一機が予定のポイントへ向けて飛行していた。
『こちら給油機団、これより競合地域へ入る。傭兵部隊、護衛を頼む』
「了解、任せておいて。【蕾】で培った護衛のノウハウ、どこまで通用するか試させてもらうわ」
 大規模作戦時、小隊『若葉【蕾】』で護衛任務に従事していた祥月は、今回の任務にも自信と自負を持っていた。
「勉強する事も多そうだし、頑張って全力で給油機を守りましょ」
 祥月は謙虚さも付け加えて給油機側面に自機をつける。
「私も全力を尽くします。‥‥私達が戦えるのも彼らのおかげだもの」
 KV戦での燃料の大切さを知っているミオ・リトマイネン(ga4310)は呟いて隊の先頭を飛ぶ。
「ああ、この給油機の到着を首を長くして待っている仲間が居るんだ。
 必ず護りきって、今回の全体のミッションを成功させようじゃないか」
 給油機の上方から敵を索敵しながら、威龍(ga3859)はウーフーの強化型ジャミング強化装置を起動した。
「1方向からしか来ないだろう、とは言われていますがね‥‥」
 威龍と同じくウーフーを駆る公司は、編隊の下方で広い空に目を走らせる。一方向からしか来ない、という油断が死に繋がりかねない。 上方の威龍も神経を張り詰めさせて警戒に当たっている。
「こいつのおかげでいくらかはレーダーが使える分警戒はしやすくなったとはいえ、どこから来るか分からない敵に注意を払い続けるのは正直しんどいよな‥‥」
 小さな愚痴と共に溜め息を吐く。
 ――しかしその無線には、微かなノイズが雑じっていた。
「‥‥レーダーにノイズ発生。どうやら”招かれざる客”の到来のようですね。情報連結及びジャミングカウンターを開始します」
 公司が言ってパネルを操作する。
 同時に、
「九時の方向に複数機影を発見」
 左方の警戒に当たっていた麗歌が敵を発見する。
 敵の機影数は約二十。
 ただし、その大半は大型キメラのようである。ワームは小型ヘルメットワームが五機、キューブワームが三機飛んでくるだけだった。
「他人の食事の邪魔はマナー違反よ。もっともバグアがマナーを守ってくれた事なんて今まで無かったかしらね」
 慈悲の消えた祥月の瞳が敵へ向けられた。
 能力者達はすぐさま迎撃編隊の三重防衛網を展開する。
 先頭の遊撃班はミオのワイバーンと武流のハヤブサのニ機。敵の分断と敵精鋭機を担当する。
 中列は迎撃の中核を為し、威龍のウーフー、祥月のワイバーン、氷雨のアンジェリカが迎撃班として編成されている。
 後列、というより給油機団のすぐ側で待機するのは、直衛班。公司のウーフー、麗歌のワイバーン、雨音の銀と黒でカラーリングを施した雷電『黒鋼』らが給油機団最後の砦となる。
 遊撃班、迎撃班の五機は敵へと向かう。相対的に二倍の速度で近付いていく両者の距離。点だった敵はいつの間にか肉眼で識別できる距離にまで近付き――約一kmを切った時点で。
 敵HW群から太い光線が一斉に放たれた。
 すぐさまKV五機は散開する。が、空間を埋め尽くすような砲撃にミオと祥月のワイバーンは装甲の一部を削られた。
「こちらミオ、損傷は軽微、問題無し。突入何時でもどうぞ」
「私も問題無し。このまま反撃しましょう」
 ミオと祥月は被弾を示すアラートを軽く一瞥した後、すぐに戦線へと復帰する。
 KV隊の速度は落ちない。プロトン砲を縫うように回避して武流のハヤブサは先頭を突っ切っていく。
「ったく、雑魚ばかりか。中型や大型でも出りゃ、ちったぁ張り合いも出るってモンだけどな。でもまぁ‥給油機落とされちゃあ終いなんだし、さっさと来るヤツ倒して終わらさせてもらうぜ!」
 武流は不敵に言い放つと、127mm2連装ロケットランチャーに兵装を切り替えて、発射。
 火焔を上げて放たれる八発のロケット弾が、密集する敵へ高速で襲い掛かった。鳥型キメラへ直撃し、次々に爆発。内の二発は間をすり抜けて後方のCWの装甲を吹き飛ばす。多くを被弾したキメラの一匹は羽を散らして早々に地面へ落ちて行った。
 それに続くミオも、遠距離からのホーミングミサイルを連続発射。
 キメラ群は飛んでくるミサイルを避ける事も出来ずに二発を被弾、最後の一発はキメラの隙間をぬって後方CWに一撃を与える。
 CWの妨害電波により全員が頭痛を始めとする不快感を覚えていたが、敵のCWの数が少ない事とウーフーのジャミング中和効果もあり、深刻な状況では無かった。
 ただ、敵は数の暴力に訴えていくら攻撃を加えようと勢いを緩めようとしない。一体が落ちてもまだ敵の残りは十九体。
 それを遊撃班だけで抑えられるはずも無い。中列の威龍機も遠距離から試作型G放電装置を放つ。敵キメラ前方の空間が突如放電し、キメラを感電させた。CWの影響により威力は落ちていたものの――何とか一体を撃墜する。
 同じく中列、氷雨機もホーミングミサイルを三連発射。そのロックオンはCWだったが、その前に厚い壁を形成しているキメラ群に着弾、CWへは一発しかミサイルが届かなかった。
「あの時の敵とは違う個体かもしれないけど、あなた達量産雑魚には恨みがあるの。弟の仇、とらせてもらうわ!」
 ワイバーンを駆る祥月が叫ぶ。先の大規模作戦で、祥月の弟は集中砲火を受けて重体の身になっていた。優しき姉はその仇を取るべく敵との距離を淡々と測り――トリガーを引く。
 スナイパーライフルRの轟音が響いた。瞬間、キメラの血しぶきが空にあがる。すぐに祥月は次弾を装填、もう一度トリガーを引く。
 KV隊の猛攻勢を受け――しかし、それでも敵は止まらない。中距離まで接近すると、突如、大型キメラ群の無数の羽が弾丸のように五機のKVへ襲い掛かった。
 十八のキメラから放たれる無数の硬質化した羽が、ミオ機、威龍機、祥月機、氷雨機の装甲を小さく刻むように削っていく。
 しかしその嵐のような攻撃の真っ只中を、ただ一機――武流のハヤブサだけは全て避け続けていた。
 ――ふいに、KV隊の後方から六発の127mmロケット弾、ニ発のミサイルがキメラ群へ飛来し、――轟音と共に激しい爆炎を上げた。さらに続けざま空間に放電現象が起こり、キメラの一体が感電。
 ――直衛班の麗歌機、雨音機、公司機による援護射撃である。
 後衛の三機は給油機団に張り付きながらも、遠距離からその機首を敵へ向けていた。
 その予想外の援護攻撃にキメラの弾幕も薄れていく。敵の攻撃が弛んだ隙を――能力者達が見逃すわけが無い。
「行くぜミオッ!」
「了解です」
 遊撃班ニ機は敵部隊の中へ特攻。
 ミオが大量発射する高速のガドリング弾丸群が、ニ機の突入方向の進路を確保する。
 敵部隊の中へ飛び込んだ武流は、機体を包囲するように群がるキメラは相手にせず――その後ろに控えるHWの一匹へとMSIバルカンRを二十連射。HWの装甲は弾けて破片を撒き散らす。
「あんまりお前だけに時間かけてらんねぇんでな、さっさとやられてもらうぜ!」
 武流はドッグファイトに移行すると、高分子レーザーでHWの内部を抉る。大きく揺らぐHW。そこへすれ違いざまのソードウィングが――HWを真っ二つに両断して、爆発させた。
「よしっ!」
「‥っ! 武流さん、後方に敵機です」
 仲間をやられた仇とばかりにハヤブサの後ろにつくHW。ミオはそれを発見、警告すると共に――兵装発射ボタンを押した。
 放たれるミサイルがHWを直撃、ギリギリで敵フェザー砲はハヤブサ機の横を通り過ぎる。
 ――しかし、そこは敵部隊の真っ只中。
 ニ機はHW砲撃の嵐にさらされた。プロトン砲、フェザー砲がKVを破壊しようと四方八方から放たれる――!
 だが、――ハヤブサはその全てを回避し、ワイバーンも砲撃の幾つかを回避して凌いでいた。
 遊撃班の活躍で敵がキメラ群とHW群に分断されている。
「ここを抜けさせたら負けだからな。むさ苦しい男相手で悪いが、俺と付き合って貰うぜ」
 威龍は言うと、敵を減らすべく突撃仕様ガドリングでキメラ群を掃射。百五十発全弾が敵キメラ群をズタズタに切り裂き、一匹が空中で四散した。
 同じく迎撃班の祥月と氷雨は、CWを優先する。
 祥月は中距離からバルカン、近距離ヘ移行するとへビーガドリング砲をCWへ向けて叩き込んだ。CWは大量の弾丸をその身に受けて、あっけなく爆散する。
「こちらHAPPY−CHERRY−MAY、一機撃墜っ!」
「了解、俺も続きます」
 隣から、氷雨機も対戦車砲をCWへ向けて撃ち放った。機体の端を丸ごと持って行かれるCW。更に接敵した氷雨は、丁度その被弾部位にレーザーを射撃、爆発させた。
 更に後方から、麗歌機と公司機の援護射撃。三発のG放電と127mmロケット弾が、敵の進行を押し留めるべくキメラ群に振り撒かれる。もう無傷の個体も居ないキメラ群は三匹絶命する。
 丁度それでキメラ群は半数になっていた。だがそれでも六体居るキメラ達は、その内四体が迎撃班の隙間を抜けて給油機へと向かう。
 しかしその進路上に――猛然と立ちはだかる銀と黒カラーの雷電『黒鋼』。
「味方機の盾になるのは望むところ――――給油機に、手出しはさせません」
 二種類のバルカンを併用し、自ら盾となり敵の注意を引き付ける雨音機。キメラ群の体当たりを巧みに回避しながら応戦する。
 威龍は撃ち尽くしたガドリングをリロードせずに、高分子レーザーへ兵装を切り替える。すぐさま雨音機に群がるキメラをロックオン、発射。九発のレーザーが二体のキメラを貫き、即死させる。
 しかしそこへ、――ニ機のHWがKV隊の猛攻を抜けて後方へ姿を現した。
「HWターゲットNo.2、5が抜けて着ました。集中攻撃で確実に潰して行きましょう。協力をお願いします」
 すぐさま公司が対応に動く。遠距離からAAMを連続発射。抜けてきたHWは集中被弾を受け、黒煙を上げた。
「麗歌機了解、敵HWを迎撃する」
 麗歌は呟くと、遠距離から84mmロケットランチャーでHWを狙う。ワイバーンの命中率の高さに絶対的信頼を置いている麗歌は、何の乱れも無くボタンを押した。同時に、二十四連続で放たれる高速小型ロケット弾。それらは麗歌の期待に応えて、HWへ噛み付くように着弾していく。
 ――そして最後に公司のAAMが、そのHWを粉々に粉砕した。
 さらに抜けてきたもう一体のHWには、雨音がキメラとの交戦を中断して対応に当たる。
 だが、先手を取られフェザー砲を被弾。
 しかし、雨音はすぐに反撃に転じた。大火力を持つC−0200ミサイルポッドを解放。八十発の空を埋め尽くすミサイル群が、HWただ一機に向けて襲い掛かる。HWは全方位から迫り来るミサイルに、回避はおろか身動きすら取れない。そこへ接近した黒銀の雷電が三本のレーザーを放ち、装甲を削り取る。
 しかし同時に、そこに居たキメラ二体は劣勢を悟ったのか、ほぼ捨て身のように一直線で輸送機へ羽ばたき始める。
 しかし直衛班はHW対応に追われていたため、キメラの接近に反応できない。
 直衛班がそちらへ照準を合わせた時には、二体のキメラが猛スピードで給油機の一機に体当たりをしていた。強い衝撃を受けて給油機の側面が凹み、機体が空中で大きく揺れる。
 それを見て焦った雨音機、麗歌機、公司機が同時に兵装を発射する。手負いだったキメラ二体は直撃、空から跡形も無く消し飛んだ。
『こちら給油機、損傷は軽微――問題無い』
 その通信に能力者達はホッと胸を撫で下ろす。そして残りの敵の殲滅を続行した。
 直衛班の交戦中、同時に遊撃班がHW一機、氷雨機がキメラ二体、祥月機がCWを一機を落としていた。残る敵は手負いのHWがニ機。
 その一体、雨音に迫るHWへ威龍が螺旋ミサイルを撃ち放つ。火花を散らして食い込むミサイルが爆発。ダメージに失速するHWを、更にレーザーで追い討ちをかけて仕留めた。
 最後の一体、最前線に居るHWは武流機、氷雨機、祥月機、ミオ機が集中砲火を浴びせる。
 何本ものレーザーと祥月のヘビーガドリング弾がHWに激しく撃ち尽くされ、全方位から文字通りその機体を蜂の巣にしていく。
 そんな中、武流機がレーザーを撃ちながら高速で敵に接敵――。
 すれ違いざまのソードウイングがHWを真っ二つに――――両断した。

『――こちら給油機団、敵の殲滅、及び味方輸送部隊を確認。機団に被害は無し。これより給油作業に移る。‥‥傭兵達、護衛感謝する』
 敵を殲滅し終えた傭兵能力者達に、そんな通信が入った。
 見ると、向こうの方からKVの護衛を引き連れた輸送部隊が飛行してくる。
「他の作戦の成否が気になるところですが、僕たちのやるべきことはやりました‥」
 麗歌は呟きながら、また哨戒行動に戻っていく。
 こうして、傭兵達は給油機団を守りきり、輸送部隊への給油を成功させ――輸送機団と共に無事帰還したのだった。