タイトル:【NF】ナトロナ解放作戦マスター:青井えう
シナリオ形態: イベント |
難易度: 難しい |
参加人数: 50 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2010/11/22 12:22 |
●オープニング本文
――血と油の染み付いた赤土の荒野。
北米ワイオミング州、ナトロナ群。
キャスパー基地。
「‥‥経歴詐称。不自然な昇進。ライバルの突然の更迭。少し強引な方法で貴方を調べたら、こんな情報がゴロゴロと出てきましたよ――大佐」
司令室のドアの前でプリントアウトした紙の束を軽く叩くのはクロウ隊、カスピ少尉。
サイエンティストである彼に掛かれば司令室に忍び込み、低レベルの機密にアクセスできるパソコンのロック解除ぐらい、何でもない事だったのだろう。
「‥‥それで、どうするつもりだ? 告発したいのならしても構わんが」
落ち着き払った声でポボス大佐がカスピに背中を向ける。
平均年間降水量10インチ。砂漠とほぼ変わらないナトロナは、いつもと変わらない青空を窓ガラス越しに映していた。
「しかし‥‥全てが終わってからにして貰えんかね。ナトロナ軍にとっても、今司令官が不在になるのは不都合なはずだ」
「それはこの場の言い逃れでは無く、ですか?」
一切遠慮の無い勘繰りの言葉に、振り返ったポボス司令が厳しい目をカスピ少尉へ向ける。そして重々しげにその顎を動かした。
「――断じて違う。私はこのナトロナ解放の為に、命を賭ける」
「‥‥‥‥」
針に刺されるような緊張感が司令室を支配する。
その静寂を切り裂いたのは、――電子的なコール音。
ランプを灯して鳴り響く内線電話の受話器を、ポボスは三コール目で取り上げた。
「どうした」
手短な言葉を放ち、後は耳を傾けるポボス司令。
最後に労いを受話器の向こうの相手にかけると、静かに電話を切った。
「アルコヴァにビッグフィッシュが着いたようだ。敵戦力が増強されたようだな」
「‥‥ッ! どの程度の――」
「タロスが10体以上」
遮るようにポボスが吐く。
そのまま作戦室へ移動する為に部屋を横切りながら言葉を続けた。
「その他、既存ワーム・キメラも多数アルコヴァに降りている。あの街を落とすのは並大抵の事では無いだろうな。‥‥どうする、ワシを告発するかね?」
ドアノブに手を掛け、そちらを見ないままでポボス大佐が囁く。
カスピ少尉は苦笑しながらポケットを探った。
「‥‥告発する気なんてありませんよ。ただ貴方の覚悟を試しただけで」
ライターを取り出し、紙の束に火を点ける少尉。黒く燃え上がる灰を手の中で握りつぶした。
横目でそれを見ながらポボスは口の端を緩めて頷く。
「それでは出撃だ少尉。‥‥ナトロナを解放する」
「――了解です、司令」
「アルコヴァ、か」
「一年半しか経って居ないのに‥‥もうずっと昔のように感じますね」
アスファルトで舗装されたエプロン上を歩く片翼章を肩に付けた二人。
イカロス隊ヒータ大尉とライト少尉はヘルメットを脇に抱えて格納庫へと向かっていた。
「頼むぞーーー!!!」
「私達の平和を取り戻して!!」
基地には一大作戦の決行を知ったキャスパーの住民達が押し掛けている。敷地を隔てるフェンスに指を絡ませ、自分達の片翼の騎士へ声援を送っていた。
ライトとヒータは決意を込めて頷き、民衆に手を振り返す。
「敵の戦力はかなりのモンらしいッスよ。気合い入れないと」
二人が第三機甲中隊格納庫前を通りかかった時、ふとそんな声が掛かった。
開いた大扉の前でタロー軍曹が最近咳き込まなくなった煙草を地面に捨て、分厚いパイロットシューズで踏み消す。いつか上官が吸っていたのと同じ種類の、傭兵から貰った煙草だった。
「すみません!! 遅れました!!」
「おう、やっと来たかカスピ。‥‥総力戦だ、ボヤボヤすんじゃねぇ」
部隊の格納庫にクロウ隊副長カスピが息を切らしてやって来たのを隊長のバルトは珍しげに見やった。だがすぐに、重要な作戦を前に緊張してトイレにでも篭ってたんだろう、と一人納得する。
ライト少尉が慌ただしそうな格納庫内へ目をやり、その部隊長へ声を掛けた。
「準備はどうです、バルト大尉」
「おう、バッチリだ」
豪快な笑顔と共に親指を立て、それからふとイカロスの二人を見て目を細める。
「‥‥にしても、頼もしくなりやがったな。てめぇら」
厳ついクロウ隊長が独り言のように吐く言葉。
だがそれにヒータが答える前に、滑走路に十機の戦闘機が降り立った。
――――偵察部隊ホークスアイ。
彼等は最終偵察を完遂し、精一杯の敵本拠地『アルコヴァ』の情報を持ち帰ったのだった。
『――ナトロナ解放出撃部隊に告ぐ。今任務の情報がアップデートされた、各情報端末にて必ず確認せよ』
すぐさま基地に流れるアナウンス。格納庫の脇に付いた端末へライト達が走り、一刻も早くその新情報を入手する。
「‥‥やはり要塞化されている、か。迎撃砲火網『オルバース』に自律迎撃装置『シュバルツシルト』‥‥大規模作戦の報告書で軽く読んだが、実際に相手した事は無い相手だ」
「町の中央に立つ監視塔を中心に要塞化されてるようですね。外側の住民が居る区域はそれほどでも無いので、比較的救助がやりやすいでしょうが‥‥」
イカロスの二人がモニタを睨んで敵本拠地の状況を飲み込んでいく。クロウ隊の各員も食い入るようにモニタへ目を凝らしていた。
「‥‥おい、イカロス! 整備できたぞ、これ以上ねぇってぐらい万全だ。安心して行って来い!!」
遠くで整備長のグレッグが油まみれの手袋を外しながらイカロスの二人を見つけて叫ぶ。
しばらくモニタを見つめていたライトだったが、ふと小さく微笑むと溜め息を吐いて顔を上げた。
「敵戦力はどう考えてもこちらより多い。後は彼等に託すしかないですね、大尉」
「ええ‥‥。一体どれぐらいの人が駆けつけてくれるかは分かりませんが‥‥私は彼等を信じます。きっと――共にナトロナを解放してくれると」
滑走路を見下ろす、キャスパーの作戦司令室。その中でポボスはULTへ送った書類のコピーに目を落とす。
傭兵要請人数、五十人。
例えこの全てが埋まらなくとも――総力戦を戦い抜く人員が欲しかった。
押し掛けた民衆達の解放を望む声が聞こえる。
それはナトロナ軍の、等しく全軍人の悲願でもあった。
――アルコヴァ。
その中央の監視塔から、ワームの展開する町を見下ろす男が居た。
広いフロアの中央、玉座に上ったアルコヴァの主――アイアス。
「行け‥‥この地を死守しろ、下僕ども」
彼を取り巻く十数人の表情のない強化人間が王の言葉で一斉に動き出す。
一糸乱れぬ動きで、フロアの階段を下りてタロスの元へ向かった。
「人間どもが‥‥再びここまで来るとはな」
こんな筈では無かった。
どこかで自身の描いた計画に狂いを感じながら、それでもアイアスは町の守りを固める他に選択肢は無い。
「ふん‥‥不快だな。少々荒っぽくなりそうだ」
アイアスは席を蹴るように立ち、――強化人間達の後を追った。
●リプレイ本文
きっと、神すらも匙を投げていた。
救いを求めて伸ばす手の先に広がる青空。
地獄が永遠に続くように――――ナトロナは晴れ渡っていた。
「一年半‥‥やっと戻って来れた。あの時見せた真紅の翼じゃないけど、私はココに居る」
巻き上がる砂塵の中、髑髏付きの単車に跨る聖・真琴。
「――助けに来たよ」
サングラスを押し上げて、呟く。
鳳覚羅が軍用ヘリから跳び降り、ゆっくりと空を見上げる。
「アイアスは君達に任せるよ‥‥俺は、俺の仕事をするだけだからね」
上空のKV達を見やって覚羅は竜斬斧を担ぎ直した。
地上を行軍する鹿嶋 悠も空を仰ぎ、KVの一機へ回線を繋いだ。
「お久しぶりですヒータ大尉。‥‥今回こちらの大将は貴女ですし、一つ士気鼓舞の演説を願えませんか?」
『え、演説ですか!? りょ‥‥了解です』
小さな笑みを浮かべた悠とは対照的に、ヒータはドギマギして応えた。
だが一つ咳払いをした後、凛とした声を通信網に乗せる。
『――皆さん。今まで十分、私達は痛みを知りました。
これ以上はもう沢山なんです』
「‥‥バルト中尉。勝利の美酒、もちろん用意してくれてますよね? 『次』はここの広場ですよ?」
洋上迷彩のワイバーンから軍機ハヤブサ改へ。
水上・未早が『酒の好敵手』であるバルトへ言葉をかける。
「ヘッ、当然だ嬢ちゃん。この戦いが終わったら給金は全部酒に注ぎ込むッ!」
「‥‥お金は貸しませんからね、隊長ぉっ!」
『――ここに居るのなら立場の違いは関係ありません。
私は、今もまだ苦しむ彼らに見せたい』
「いつでも犠牲になるのは力ない民草だからな。可能な限りその救出に当たらなくてはなるまい」
榊 兵衛がリッジウェイを操り、コンテナハッチを開放する。
その隣でも同じく白鐘剣一郎がリッジウェイを駐機し、生身班を乗せていた。
「大掛かりな作戦になったな。だがこれだけの顔ぶれが集まったのだ‥やり遂げなければな」
彼が放つ言葉は――直通回線でコンテナ内にも響く。
「‥‥出来れば安全運転で頼む」
イレイズ・バークライドはオーダーしながら、それが無理難題である事に薄々気付いていた。
「早急な行動で味方の被害を少なくするためにも、がんばらないと」
アーク・ウイングが要塞兵器破壊の役割のプレッシャーに抗うように、頬をピシャリと叩いて気合いを入れる。
「貴女の作戦、‥‥期待してますわよ?」
無線機の周波数を合わせながら、ミリハナクは楽しげに言葉を贈る。三人はチームを組み、作戦を共にする事になっていた。
『――――絶望の中で空を切るその指が希望を掴むと。
恐怖に脅える心が歓喜に震える時がくると』
「住人だけでも無事助けないと‥」
「うん。なんとしてでも‥救ってみせるんだ」
イスル・イェーガーと瑞姫・イェーガーは同じバイクに跨り、アルコヴァへ。
「コールサイン『Dame Angel』。アルコヴァへ強襲をかけ空陸並びに機体生身にて、持てる力を全て発揮してのけるわよ‥!」
空を駆るKV機群の一端で、アンジェラ・D.S.は狙撃モードで敵を捕捉する。
「一度関わった以上は‥‥その終着をまた、見届けたいと思うのは当然でしょう?」
地上、愛機の中からアルコヴァを捉えて飯島 修司が――大きく武者震いした。
「ましてやこれだけ大々的に行われる作戦に、年甲斐もなく血が騒ぎますしね」
ナトロナ敵本拠地へ、KV十数機が荒野を駆け抜ける。
『一年半前に彼らへ見せた希望。
それが今日救いに変わる事を――――今ここに見せつけますッ!!』
「‥‥とうとうここまで来ましたね。散って行った方々のためにも、ここで全てを終わらせます!」
セラ・インフィールドが空色の片翼章を付けたシュテルンを駆り、口元から笑みを消した。
「アイアスの他にも結構手強いのがいる。でもボクも負けない。行くよ、エルシアン――!」
青色のソーニャ機がスキル起動、加速していく。
「必ず、奪還、して、みせ、ますッ!」
「行こう、あの赤い鳥達の為にも!!」
ルノア・アラバスター機と鹿島 綾機が共に翼を並べ、同時に砲声を響かせた。
400m先の空に浮かぶCWを火線が貫き、先制で一体撃破する。
「ライト少尉、戦いの間それは君に預けておく」
『良いのか? これは‥‥君の大事なお守りなんだろう?』
二機の先頭でリヴァル・クロウは小さく頷く。そして微笑んだ。
「大事だからこそだ‥‥終わらせよう、これで。――――解放作戦、状況を開始する」
ロックオン、右手の人差し指を引き絞る。機関砲の震動と共に弾丸がCWへ吸い込まれ――敵の形を変えた。
『‥でしゃばるな家畜。貴様らなど――所詮バグアの容れ物に過ぎぬッ!!』
人類の通信網を切り裂く声。
ワーム群の先頭に進み出るのは、周囲のHWより攻撃的なフォルムの本星中型HW。
アルコヴァのバグア王――アイアス機が遠距離から閃光を放った。
「‥っ!」
リヴァル機が被弾。装甲が溶け、衝撃に揺れる。
「おっと、スカした親玉の登場か‥‥。こちらウインドフェザー、各機連携を密にしろ!」
出撃前にアイアス戦のデータを何度も見返した風羽・シンは自信を持って声を出した。
友軍への支援をメインに、機体のPRMを抵抗に振って空戦機動に移る。
「各機へ、こちら380飛行隊コールサイン『ドラゴン』。二機のF−196で敵航空戦力の対応に入る。‥‥いつもの言っときましたよ、先輩」
「よし、まずはCWを潰す。後方警戒頼む」
空域に侵入するスカイセイバー二機。
三枝 雄二機と伊藤 毅機がロッテを組み、バルカン砲で弾を吐き散らした。
「っ、ひでぇジャミングだ!」
空戦班後方から仮染 勇輝機が放つロケット弾は、しかしCWの怪電波のせいで照準が定まらず虚空を抜ける。
そのCWが密集する空域へ、ふいにブーストを掛けた阿修羅が接敵した。
「遠距離戦は肌に合わないんですよ。俺にはね‥!」
汗ばんだ飛行帽の下、井出 一真がCWマルチロックオン――スイッチを押し込む。
K−02のミサイル250発が周辺の空を瞬時に炎で染め上げた。
さらに残弾も放出しようとした時――しかし三方向から放つタロスの攻撃が一真の照準を妨害する。
「お得意の連携攻撃か、だがこっちは一機だけじゃない。それに動きが正確すぎる――!」
月影・透夜が言い放ち、ライフルを連射しながら自機を加速。
三体のタロスは一斉に銃を構え、『月洸弐型』を焼き裂く。‥が、被弾しながら透夜機は強引に前進した。
透夜機はブーストでタロスに高速接近、剣翼で切り裂く。
「行きますよ熾天姫! 雑魚を‥‥一体残らず蹴散らしますっ!!」
さらに真紅の赤宮 リア機もタロス排除に疾駆する。
「この片翼章の誇りに賭けて、今日ここで必ずピリオドを――!」
リアの射るような険しい瞳。
それは敵だけでは無くナトロナに住む地上の人々を、散って行った空の英霊達をも見据えていた。
「ライトさん‥‥まさか花とか基地に買って置いてないですよね?」
「バッ――死ぬつもりは無い!」
カルマ・シュタットの冗談に、思わずライトが声を荒げて言い返す。
そこへさらに、ヒータ大尉が笑みを漏らした。
「でも少尉、私への花束は買ってあるんでしょう?」
「う、た、大尉まで! 今は任務ちゅ――‥‥ッ!」
ふいに鳴り響く、ロックオンアラート。
直後ライトの視界を染めた爆炎は――カルマ機が受け止めていた。
「やれやれ‥‥この黒い片翼章に掛けて落とさせはしませんよ。イカロスはね」
カルマがPRM起動、――K−02を眼前のワーム群へ射出する。
「‥兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。ブースト作動。マルチロックオン‥‥‥完了!」
淡々と発射シークエンスを読み上げるソード。HUDを動き回っていた20個の標的捕捉ボックスが固定され、ディスプレイを赤く染める。
「『レギオンバスター』――――発射ッ!!!」
声に呼応するように全コンテナ開放。
爆炎が直近のHWから飲み込み、次々に20体を飲み込み尽くすまで視界を埋めていった。
‥‥半壊した家から覗く青空。
そこには確かに――翼が見えた。
どこの家のラジオからか、何年も聞く事の無かった人の声がノイズに紛れて溢れ出す。
『――アルコヴァの人達。この通信が届くようなら脱出の準備を。――』
「すべてを賭けて救援に向かう人類の力を信じ、手を取って共に生き延びて欲しい」
ハイコミュニケーターを通して、希望を街に響かせる斎。
人は、人を救える。
それを証明するために彼は戦場の声となり、解放の時が来た事を皆に報せる。
その前方でリック・オルコット機が低空に浮かぶCWへ銃口を向け、激しい発射炎を噴かせていた。
「へっ、俺は単純に報酬目当てさね。勿論‥‥金を払ってもらう以上、戦果は出さないとな――!」
足を止めてマシンガンフルオート、狙いを絞って対戦車砲をCWへ命中。撃墜した。
前線では大洋の片翼章と鋼の片翼章を持った二機が息を合わせてアルコヴァの真正面に立ち、襲い来る敵群に白兵戦を挑んでいく。
さらに違う方向のゴーレムとタロスの一部隊へ疾駆する――修司機。
稲妻のように繰り出したロンゴミニアトでゴーレムを吹き飛ばし、倒れた相手にトドメのエニセイを叩き込む。
「うおおおらあああ!! ‥‥つぅッ」
同部隊へ吶喊、巨大鎚でタロスの足を叩き潰したブレイズ・カーディナル機は、しかし直後に機体を硬直させる。KV戦の衝撃が重傷に強く響いていた。
「クッ――!」
下から機剣を突き上げるタロスの一撃を、辛うじて機盾『ウル』で受け止める。
「ブレイズさん、余り無理しないで下さい‥!」
「そういうわけにもいかねぇよ、副長。俺もこの片翼を掲げてる‥。何より、ようやく辿り着いた決戦の場なんだ――!!」
重傷を案じる未早の言葉に、しかしブレイズは首を振った。
そのすぐ隣で、金属の軋む音を立てて別のKVが倒れ込んだ。
「‥負けるわけにはいかないんだよ、ボクはぁ。この手で殺すと決めたヤツがいるんだからさぁ!」
倒れたままにレインウォーカーが吼え、頭部へ振り下ろされた機斧を肩で受ける。お返しに機爪『セクメト』を振り上げてゴーレムの腹を抉り取った。
熾烈な接戦を繰り広げる各機。
しかしふとアルコヴァから一斉砲撃が放たれ――不意の攻撃に未早機と悠機、ニコラス・福山機が被弾した。
要塞兵器『シュバルツシルト』の起動。
街の各地の砲座へ自走砲台が走り回り、次々に火線を放ったのだった。
「こちらニコラス、基準点より東北200地点を進軍中! 各機遅れるなよ!」
ニコラスがブースト、シュバルツシルトの砲座の一つへ接近。
周辺のワームへ、全身のファランクス合わせ10秒間で2340発の弾幕を張った。
「さぁ我々の出番だ‥‥巳沢、今回は宜しく」
「おう、こっちこそ神棟さん。よっし、ちょいとお邪魔しますよ〜っと!」
神棟星嵐機ペインブラッド、そして巳沢 涼機ゼカリアが巨大兵器を構える。
最上級クラスの口径を持つM−181大型榴弾砲と、127mm2連装ロケットランチャー。機体コンピューターとエミタAIが連動し、両機が適切な弾道計算値を弾き出す。
「ターゲット、ロックオン‥‥爆ぜろ!」
星嵐の声に合わせて二機が轟音を響かせ、街に点在するシュバルツシルトの砲座を吹き飛ばした。
「蟻の一穴岩をも穿つ! 無敵の要塞など無いのです‥‥必ずや落として見せるのでありますッ!!」
その二機のやや前方で美空・桃2がテールアンカー使用、リンクスを固定砲台化させる。
だがその砲撃KV部隊に気付いて、タロス含むゴーレム部隊が高速接近。迎撃に向かっていた。
「要塞兵器と前方の敵に集中して下さい。細事は俺が請け負います」
同型機リンクスに乗り、CSP−1を掃射するエシック・ランカスター。
その弾幕も強引に突破しようとする敵部隊へ、エイラ・リトヴァク機が滑走する。
「任せな桃2! お前の邪魔はさせねぇからよ」
和槍を振るい、切り込んだエイラ機が先頭のタロスへ刃を突き立てた。
「はじめまして、美空さんから‥‥と、談笑している暇は無さそうだ」
エシックがエイラ機を砲撃援護。火花を散らす交戦が始まる。
その背後で、桃2が冷静にトリガーを引いた。
六連ロケット弾が白尾を曳いて砲座へ疾駆。次々に着弾――台座とその周辺を粉々に焼き壊していった。
ふと、別方向からも爆炎が上がる。
漆黒の機体がバルカンで砲座の一つを破壊した所だった。
「――――ナトロナ、か。これで人気者だ‥‥」
コックピット、自機と自分をそれぞれ模した人形とストラップを握り締めるのはUNKNOWN。
その後部座席には小さなダンボールが積まれている。‥‥どうやら同型の人形とストラップが詰まっているらしい。
前方を遮る敵部隊へ突っ込み、なぎ倒しながら先へ駆けていく。
目指すは、アルコヴァの王座。
‥‥空陸に燃え上がる炎。
総力を掛けた両者の戦いが、ナトロナの風を焦がした。
「気合い入れて頑張るとしますか」
アルコヴァ市内。
KVがワームを引きつけた後に出来る空白地帯を通って、生身班が街になだれ込んでいた。
クラーク・エアハルトは家の壁から道路側へ躍り出るなり拳銃『ケルベロス』を連射。前方を駆け始めていたキメラ二体が赤く染まる。
その間、付近の民家へと次々に傭兵達が救出に向かっていた。
「安心して下さい、絶対に守り抜きます!」
窓を破って入ってきた鼠キメラを薙刀で切り裂く瑞姫。その背後には、やせ細った一家が身体を震わせていた。
「皆さん、立って下さい‥‥! 救助車輌がすぐそこまで来ています‥‥!」
イスルが、膝立ちの姿勢からライフルで援護射撃を掛ける。
そうしてどうにかキメラを掃討し、二人は一家を大通りに待機する軍の輸送車輌へ移送した。
「こちらティナ、衰弱した住民を一人救助‥‥――あれは!」
女性を背中に乗せて報告を入れていたティナ・アブソリュートが無線機を放すと同時――薄緑の弓へ一瞬で持ち替える。
引き絞った矢を放つと、今にも男性を襲おうとしていた獣に命中。
そのまま女性を置き、迅雷で駆け抜けた。
「命を少しでも多く救うのデス、我輩のような思いはサセナイ!」
交戦の震動で崩れた瓦礫を、ラサ・ジェネシスが豪力発現で押し上げて反対側へ倒す。
その下には泣き喚く男の子とそれを庇って頭から血を流す父親が倒れていた。
「大丈夫‥、大丈夫ダヨ!」
子供に強い言葉を掛け、父親へ屈み込むラサ。
だがその頭上から――耳障りな鳴き声が響く。
振り仰いだ直後。民家の屋根に集った四匹の猿人が、眼下の人間達へ一斉に飛びかかった。
その時、鋭い銃声が横ざまに敵を襲う。
「流石に本拠地‥ですか。敵の数が少々多いですね」
着物に般若のお面。鈴の音を凛と鳴らして――鳴神 伊織が駆けた。
「ラサさん、負傷者の移送を――!」
「‥‥分かっタッ! 行くヨッ!」
ラサはWI−01で制圧射撃を掛けると、父親と子供を担ぎ上げる。その背後には自前のバイクが停めてあった。
「少々派手に行く事にしましょう‥‥では、参ります」
鬼蛍を構える般若が、唸るようなSES排気音と共に猛撃を開始する。
向かってきた猿の首を刎ね飛ばし、違う猿人の心臓へ小銃弾を叩き込む。
着物の裾が鋭い爪に切り裂かれるが、肌には届かず。
ラサが二人をバイクに乗せて走り出す頃には――通りには四つの死骸が転がっていた。
「わらわらと鬱陶しい‥‥! 救助の邪魔はさせん!」
ヘイル機が激しく機関砲を連射。異形の獣達をミンチにする。
アルコヴァの広場は軍兵器と輸送車両が埋め尽くし、救助活動の拠点と化していた。
だが必然的に敵が集まり、ヘイルとリッジウェイの兵衛、剣一郎、クロウ隊が防衛に回っている。
そんな彼らへハイ・コミュニケーターを使用したクリアな通信が耳に届いた。斎により、救助完了したブロックが伝えられる。
「心得た。これで使える――!」
兵衛が眠っていたグレネードを解禁。走り寄るキメラを纏めて吹き飛ばした。
剣一郎もその防衛線へ参加し、全力射撃を行う。
「時間の無駄だけど‥‥止むを得ないか」
一方で生身、負傷者を背負ったソウマが超機械「グロウ」を振る。
周囲を取り巻く小型キメラをどう処理しようか思考を巡らせていると――ふいに辺り一帯に影が差した。
「いッ――!?」
空で撃墜されたHWが近くの民家へ高速落下。
衝撃が収まり、振り返った時には――キメラの姿は瓦礫の下に埋まっていた。
‥‥どうやら全滅したらしいと分かり、負傷者を庇って破片で全身傷だらけになったソウマは溜め息を吐く。
「さぁ幾らでも来なさい‥‥車輌に手は出させません」
後方へ走る輸送車の上で、腕の傷を舐める龍乃 陽一。
家々の屋根を伝って猛スピードで追いすがる猿へと、竜斬斧を高速で振るう。ソニックブームが家の屋根ごとキメラを圧壊させた。
「傭兵! もうすぐ戦域を出る、頼むぞ!」
「一時の方向にキメラの待ち伏せを発見。‥‥速度を維持して下さいませ」
武者鎧に身を包み、探査の眼で索敵に当たっていた如月・由梨が落ち着いた声で告げた。
そして眼前の獣達へ超機械「扇嵐」を振るう。
直後、竜巻が舞い上がり――軍輸送車の活路を開いた。
バグア基地内部。
分厚い鉄扉を蹴破るとその向こう、階段を守護する三つ首の巨獣が目を覚ました。
だがその懐へ終夜・無月が迅雷で吶喊、刀を一閃させる。
「オォオオオオオオォォ!!!」
切り裂かれた巨獣が痛みに退き、左の首がずり落ちた。
二つの首が咆哮を上げ炎と雷のブレスが吐き出す。
「クッ‥! 脚を引っ張らないようにやる‥。俺は、俺に出来る事を実力以上にやるだけだ――!」
炎の大気の中を、秋月 愁矢が迅雷で駆け抜ける。
さらにその背後で真琴が限界突破。疾風脚を使って部屋の壁を蹴り、敵頭上を飛び越えた。
「これでも――喰らぇッ♪」
「取れる‥‥やってやろうぜ!」
巨獣が両腕を振り上げようとした刹那、それより先に愁矢と真琴の攻撃が相手の両脇を抉り抜く。
苦悶の咆哮を上げ――巨獣は暴れた。
「‥受けてみるかい? 鳳凰の羽ばたきを‥‥」
怒りで狭まった視界の外から接近している覚羅。
二つの首がそちらを向いた時には既に――跳んだ覚羅が竜斬斧を振り上げていた。
強烈一撃が巨獣を斬り砕き、――その場に崩壊させる。
だが余韻もなく、後ろの階段を駆け上がる四人。
息を切らして辿り着いたのは――玉座の存在する監視塔頂上。恐らくは基地の、メイン制御室だった。
「ココにふんぞり返って全てを見下ろしてたのか‥‥オリージュ達を‥RBを‥‥多くの命を踏み躙って」
怒りの炎を燃やして、真琴がその拳で玉座の背を叩き折る。
システムが崩壊し、フロアに次々せり上がる制御装置と――侵入者迎撃装置。
「仲間がお前を止める。ならアタシは、お前の存在していたこの場所を消し去り、全てを否定するッ!!」
吼えて駆け出す真琴。
それに合わせて三人も散開、迎撃レーザーをかわし――手元の武器でフロアを破壊して回った。
「‥‥これでこの基地の防御はガタ落ちだ‥‥もう後は無いぞアイアス――!」
笑みを消した覚羅が、窓越しに空を睨む。
そこには激しい砲戦を繰り広げる――本星中型HWの姿があった。
「基地の機能が麻痺した‥‥?」
ギリッと奥歯を噛む、アイアス。
何かが狂っていく。それを止められないもどかしさに身を震わせた。
「悪いがあんたを踏み台にさせてもらうぜ。俺の目的のためにな!」
そんなアイアスの隙を突いて絶斗がブースト発動。
機体ごとぶつけるかのように吶喊して空中変形、腕の刃を振るった。
だが絶斗機が振るう斬撃は‥‥その悉くが空を切る。
だが最後の行動力まで使った捨て身の一撃がHW表面を僅かに抉り――直後、アイアスの至近砲撃が機体を穿ち、空中分解した。
「何故だ‥‥我ら同族より遥かに劣る下等生物がこれだけの脅威に立ち向かう――そこまで奴らを駆り立てるモノは‥?」
人間達へ、微かに苛立ちを見せるアイアス。
その視界の隅、地上の広場で――住民を救助する人間達が映った。
一瞬の空白の後‥‥中型本星とタロスが一斉に急降下を始める。
だがそれを、ソーニャは見逃さなかった。
「ここの強化人間も下僕? ただの捨て駒? いくら強力でも、――ただの暴君にボクは負けない!」
ダイブして放つAAEM連射。
被弾しながら即座に反転して放つタロス砲撃を、Mブーストで機動を増したソーニャ機がバレルロールでかわしていった。
「アイアスの元へは行かせない。全機ここでつぶさせてもらうぞ‥!」
透夜がタロスを剣翼で切り裂き、噴き上がる血飛沫を浴びながら空中転換、集積砲を零距離で発射する。
タロス胴体を縦に砲弾が奔り、爆炎を噴いて大破した。
さらに残りへ、リア機がブースト。エンハンサー付与の熱線を容赦無く眼下へと降り注ぐ。
それに被弾したタロスが、思わず態勢を崩した。
「そこです、貰いました――!」
真紅の熾天姫がDR−2の巨大光条を撃ち放ち――胴部へ巨大な風穴を空けて、撃破。
だがアイアス機とタロス一体は追手を振り切り、低空へ降下する。
地上の人々が慄き、恐怖に脅えた。
しかしその中で一機が――激しく対空砲火を噴き上げる。
「やらせはしません‥‥。この為の対空砲2種ですから、ね」
万が一を予測していた修司機が、対空砲を頭上に向けて鎮座していた。
タロスが被弾。吹き飛んだ肉片部がゆっくりと再生していく。
だが再生を待つまでも無く、地上からセラ機が垂直離陸。タロスへ接敵し――空色の片翼章が付いた剣翼で、真っ二つに両断した。
そして護衛の消えたアイアス機へ、修司機の放つ火線が再び吹き荒れる。
「チィ‥‥!」
舌を鳴らして反転、高空へ上昇するアイアス。強引に突破するには頭上から迫るKVに対して無防備になりすぎた。
「‥‥なんとか護り切れましたか」
修司は微かに頬を緩める。
だが直後――眼前にシュバルツシルトが出現して表情が凍る。
瞬間、‥‥砲台は30m隣の『砲座』を攻撃した。
「っつつ‥! 凄く疲れるよ‥‥」
攻性操作によって動かなくなった超機械を放り出し、アークはぼやいた。
目の前の砲台は自分の施設の一部を破壊した後、次の場所へと走り始めようとする。
「あら。逃がしませんわよ?」
だがミリハナクが炎斧インフェルノを担ぎ上げ、ドレスの裾を揺らして走った。
地下へ消えようと加速する砲台を――黒赤の巨斧で叩き斬る。
「そろそろ撤退するぞ! キメラが集まってきたようだ!」
イレイズが脚甲で鼠を蹴り飛ばし、激しく甲冑音を響かせて叫ぶ。
二人を守護する騎士の如く、敵が振るう爪を火花を散らして受け流していた。
アークがピンを抜いてポケットに入れておいた閃光手榴弾を取り出し、思いっきりキメラ達の眼前に放り投げる。
一拍を置いた後、強烈に広がる閃光と音。
「ふーん、力押しではない戦闘行為‥‥それも悪くは無いですわね」
前線から退避しながら、ミリハナクはご機嫌な様子で呟いた。
累々と転がるワームの残骸と鋼の破片の中で、ペインブラッドがブラックハーツ起動する。
「こんな所で、ボクらは負けない。さぁ、まだまだ行くぞリストレイン!」
レインウォーカー機はゴーレム三体に向き直り、フォトニック・クラスターを放った。
「嗤え――ッ!」
高熱量の閃光が敵の装甲を激しく溶かす。
しかし被弾するゴーレムが全てレインウォーカー機へ攻撃を集中させる結果ともなった。
「オイオイ、サポートする気にもなれよ?」
弾幕を張りながらリック機が前進。被弾がかさむ僚機を援護する。
だがそのグロームの腹に突如穿たれる――弾痕。遠くの岩陰からタロスが狙撃していた。
「クソッ、動いて見せろよ――プチロフ製ぇッ!」
自機のコンソールを、リックが斜め四十五度から叩きつける。‥‥しかし機体は出力を回復させない。
タロスがトドメを刺そうと再び照準を向ける。
だがその頭上に――ふと影が落ちた。
「ぐっ‥‥この身にかえても仲間はやらせない!!」
ブレイズ機が脂汗を垂らして最速機動。
真紅の片翼章を付けた雷電が跳び、巨大鎚の推進装置を発動。勢いを付けた超質量の一撃を振り下ろし――岩ごとタロスを圧壊する。
同時に、ブレイズ機も崩れ落ちた。
「っ‥どうやら、限界みたい、だ‥‥。悪い‥一足先に休むわ‥‥」
「ブレイズさんッ!」
思わず足を止める未早機へ、別方向のタロスが熾烈に砲撃を加える。
未早機は回避機動を取りながら、ライフルで反撃。
受けに回ったタロスへ悠機が接敵していた。
「この鋼の片翼、伊達ではありませんよッ!」
悠機『帝虎』が疾走――巨大な魔剣を敵へと振りぬく。
タロスは避けきれず、左肩が折れ砕けた。それでもつんのめりながら右手の機剣を紅色の肩へ突き刺す。
だがその横から――ロンゴを構えたワイバーンが疾駆。タロスの頭部を刺し貫き、爆発で吹き飛ばした。
「Holger機、悠機、タロス撃破! ‥‥ブレイズさん‥‥貴方の事は忘れません」
「‥‥いや、軽く気絶しただけだから。‥‥勝手に殺さないでくれ‥‥副長」
呻くように、ブレイズは呟いた。
「砲座残り4、砲台2! 移動の予測まではできなかったけど‥‥残り砲座の座標を送るぐらいはできる」
味方の情報を纏め上げ、斎がKV部隊へ通信管制を行う。
「了解。粗方壊し終わったか‥‥これよりオルバースに砲撃を敢行する、付近の味方は気ぃつけろよ!!」
巳沢は次の標的を迎撃砲火網『オルバース』へ。
ゼカリアの大口径砲に徹甲散弾装填し、砲火を吐いた。
「さぁ‥‥黒き王者の力、その身で味わってみるのだな」
僚機の星嵐は前線を抜けてきたゴーレム二体をペインブラッドの射程に入れ、スキルを展開する。
「ブラックハーツ装填――フォトニック・クラスター!!!」
前方視界の全てを溶かす閃光が、敵を包み込む。ゴーレムの反撃が自機装甲を切り裂くが、星嵐は強引にスキル連続起動。
一体が崩れ落ち、そのままもう一体とも近接戦闘へもつれ込んで――撃破した。
「丸裸にして不安を誘ってやるであります!」
さらに桃2達もオルバースを攻撃していた。
中距離まで接近し、より正確に桃2機がLPM−1で狙撃。完全に破壊していく。
そんな彼女に襲い掛かる敵を――エイラ機とエシック機が露払いしていた。
「やらせねぇ、やらせやしねぇ、このあたしがなぁ!!」
桃2に対して小隊長という気概を背負い、エイラが吼える。
近付くゴーレムへ機槍を刺し、振り下ろされる機剣を受け止め、鋭い白虹の斬撃で敵を切り裂く。
だが。やがてゴーレムの一撃がエイラを止め、別のゴーレムに中枢部を撃ち抜かれた。
「エイラさん!? く、何て事だっ!!」
エシックがスキル発動、リニア砲のトリガーを引く。
ゴーレムの頭が吹き飛び、大破。そのまま弾幕を放ちながら自機に敵を引きつける。
「潮時です、撤退しましょう!!」
「了解、エイラ隊長確保であります!」
桃2はエイラ機のコックピットをこじ開け、本人を回収。直後にエシックが煙幕を放出――二機は後方へ振り返る。
別地点では、漆黒のUNKNOWN機が疾駆した。
台風のように進路上の敵と要塞兵器を叩き潰しながら崩れかけた塔へ。
破壊し尽された玉座の間へ『戦利品』と書かれたダンボール――恐らくストラップと人形入りの――を投げ込み、次の戦場へと去って行った。
「こちら破曉『大殺界』! 機体がもたない、私は撤退するぜ!」
装甲展開して全力で弾幕を張っていたニコラス機も、被弾がかさみとうとう撤退に追いやられる。
ブースト、各方向からのロックオン警報を読み取り、高機動で銃弾をかわして撤退路を駆け始めた。
「私がこの世界に望む事があるとすれば、‥‥全ての人が自分の翼で飛ぶ事だ」
それがきっと、このナトロナ解放作戦に参加した彼の理由。
この空ではその翼を手に入れた者達が――熾烈な交戦を繰り広げていた。
「この空は俺達イカロスが取り戻す。‥‥駆れ、ウシンディ!!」
黒の片翼章を振り、カルマ機がイカロスの二機を援護しながらツングースカを放射。周囲に浮かぶHWへ弾幕を張り、次々に撃墜していく。
「ドラゴ1タロスと接敵、支援求む‥!」
「ドラゴン2了解、そっちに誘い込むっすからやっちゃって下さい!」
前衛を雄二機が務め、激しいドッグファイトで敵を惹き付けた。
「榊さん、技を借りるぞ。榊流槍術――千鳥三段!」
白熱する二機の隙を突き、タロスの後ろに回りこんでいる毅機。
機体スキル起動、空中変形から繰り出す機槍を――激しく三度振るった。
斬り裂かれ、肩に刃が突き刺さったタロスが仰け反り――まだ砲を向けた。
「削りきれてない! 追撃に入るっすッ!」
雄二機が反転、毅機と同じスキルで空中変形、機剣を振り下ろした。
敵の胸に刃を貫通させるのと同時――タロスもフェザー砲の引き金を絞った。
――轟音。
雄二機は炎を噴き上げて落ちて行く。
「‥‥ドラゴン2!!」
毅は僚機の無事を祈りながら、限界の自機も撤退へ移行させる。
「被弾っ‥‥まずい‥‥ッ!」
一真が計器類に目をやり思わず呻く。序盤に負ったダメージが大きく響いていた。
撤退の判断を下そうか、一瞬だけ迷った時――全身を叩きつける激しい衝撃。
死角から放たれたHWの一撃が、一真機を撃墜した。
直後――そのHWも鈍い着弾音を響かせ、突如爆炎を噴き上げる。
「Dame angel、三体目撃破よ」
スキルを起動したアンジェラ機の狙撃。
だが耐久値に余裕があるにも関わらず、警報音がコックピットに鳴り響く。
「まさか、練力切れだなんて‥」
スキルを多用し過ぎた為に継戦行動が不可となり、やむを得ずアンジェラは機首を翻した。
「RPM『ツヴァイ』Bモード起動。ブースト作動――!」
「なに――!?」
全機動力を駆使したソード機が、アイアス機の攻撃を連続回避。
さらにアイアスへは――全身を揺さぶる衝撃が奔る。
「へっバカが! こっちは一人だけじゃねぇぞ!!」
機銃掃射して一撃離脱を掛けるシン機。
即座にアイアス機がフェザー砲を放つが、シンはPRMを抵抗に注ぎ被弾に耐えた。
さらにアイアス機へ集中する各機の弾幕。避けきれず、強化FFの光も消える。
「クッ‥‥小癪な人間どもめぇッ!!」
アイアスが苛立ちを爆発させて高速機動。
真紅のルノア機の後ろを取った。
だが直後に別方向から――OブーストBを掛けた勇輝機が高速で飛来する。
「全ブースター最大展開、オーバードライブ! ――そいつに手を出すんじゃねええ!!」
アイアス機の直下から繰り出される連続知覚攻撃。空気を焦がす激しい雷光はしかし――その分厚い装甲に弾き返された。
「ならば貴様から消してくれるわあッ!」
アイアスが吼えて急降下、剣翼を振り下ろす。
だが操縦席を狙ったその一撃は――激しい衝撃で逸れ、勇輝機の翼を両断するに留まった。
「何度戦闘記録を見直したと思ってやがる‥‥読めてんだよ手前ェの行動パターンはぁッ!!」
剣翼の一撃で勇輝の致命傷を阻止したシン機。
切り裂かれ揺らぐアイアス機の背後に――さらにKVが迫っていた。
「我々の結論を提示しよう。絶望を見せる‥‥、以前君はそう述べた」
リヴァル機が全PRM抵抗注力、ブースト。弾幕をアイアス機の周囲の空間へ張る。
だがアイアスは慣性制御を限界起動、その弾幕へあえて飛び込む。本命がその剣翼という事を本能的に察していた。
「‥‥では、俺達はお前が見たくないモノを見せるとしよう!」
「な――にっ!?」
だが不意にリヴァル機の死角から上下に現れる――二機。
上側の綾機が激しい弾幕でアイアス機を熾烈に穿つ。
その下側でルノア機が、スキルを起動した。
「それは、人類の、希望、です‥‥アイアス!!」
ルノアが強く言い放ち、十六式螺旋弾頭を残弾発射。
本星中型へ奔るそれらの後ろを、剣翼を翻して吶喊する。
「堕ちろ、忌まわしき記憶と共に――!!」
「貴様は確かに強い。だが‥それだけだ!!」
三機が最大火力を込めた攻撃を、――アイアス機へと叩きつけた。
しかし。
アイアス機の剣翼が真紅の輝きを発し、その全てを無傷で弾き返した。
「な‥‥っ!?」
「希望だと‥!? そんな曖昧なモノは生存に不要!! 必要なのは絶対的強さ! 弱肉強食のこの宇宙で――――それ以外に何があるッ!!」
アイアスが怒涛の如く吐き出す言葉は、揺らぐ信念の表れだったのかもしれない。
それに応えるように、通信装置へ声が響き渡った。
「なら今此処で、全てに白黒を付けようぜアイアス! 覚悟しやがれ――アルコヴァの王ッ!!」
暗灰のKVが、山崎 健二機が太陽を背にパワーダイブを掛ける。
目を細め振り仰いだアイアスが歯軋りし、空へ向けて迎撃の態勢を取った。
「良いだろう、幻想で無いなら見せてみろ‥‥その希望とやらをなァッ!!!」
「ああ、ナトロナで散って逝った人々が‥‥RB隊が、俺達の背中に託したこの想い! その重さを抱いて奈落の底へと墜ちやがれえぇッ!!!」
本星中型と漆黒の健二機がヘッドオン。
両者とも咆哮を上げ、一歩も退かず。
ただ相手への必中を狙い、二人は同時にトリガーを引き絞った。
空を白く染める――――閃光。
ヘッドオンした両機がすれ違う。
高速ダイブしていた健二機が‥‥炎を噴いて瓦解、墜ちながら四散していった。
「‥‥マルケ隊長。約束は‥‥果たしたぜ」
薄れ行く意識の中で、健二はそう呟いた。
直後、空に浮かんでいた本星中型は――轟音と共に炎を噴き上げた。
「これが‥‥人類の‥‥希望の、力だと‥‥? 認めん‥‥我は‥‥認め‥‥」
うわ言のように呟きながら、アイアスは重力に引かれ始めるのを感じていた。中枢を破壊され、制御を失った本星中型が地上へ加速していく。
やがて巨塊はアルコヴァの監視塔へ落下、激突し――――爆炎を噴き上げた。
「‥無理しすぎだよ‥‥瑞姫‥」
「ごめん、つい」
イスルが広場に辿り着き、安堵の溜め息を漏らす。
練力切れで覚醒の解けた瑞姫は子供二人を背負ったまま苦笑した。
「‥‥誰も居ませんか!? 救出部隊です!」
ティナが家の中を手早く確認しつつ、声を掛ける。すると‥ガタリと物置から音が響いた。
「‥‥‥ぁ」
「大丈夫‥‥怖かったんですね。もう、大丈夫ですよ」
戸を開け、優しく微笑みかける。
そこには恐怖で蒼白になった女性が入り込んでいた。
「うん、救出漏れは無いようだね」
ソウマが持参したビデオカメラを8倍速で回しながら、情報網と照会する。全ての区域に人が入り、可能な限りの全員を救出していた。
「自爆装置も無さそうダヨ。‥‥このまま我輩は撤退にはいるネ」
バイクで街の倉庫などを一通り調べたラサは、そう結論付けて反転する。
「被撃墜者の回収、完了しました。車輌にスペースはありますか?」
クラークが右手で拳銃「ケルベロス」の弾倉をその場で抜き、左肩に健二を担いだまま器用に再装填する。
ジャケットの下、軍用防護服まで切り裂かれた痛々しい傷が潜ってきた修羅場を物語っていた。
その他の被撃墜者も、クロウ隊などによって回収されている。
「そうと決まれば早く撤退した方が良いですね。キメラも殲滅できたわけではありませんので」
今また広場へ侵入しようとしていた異形の獣を斬り捨て、伊織が言い放つ。
紺色だった着物は今や返り血で朱に染まり、修羅の様相を呈していた。
「この方で最後ですね‥?」
車輌の護衛に立つ陽一が、車輌に救出対象が乗り込むのを見ながら担当兵士へ確認する。全身から血を滴らせながら、しかし笑みを絶やさないその様子は恐ろしげだ。
同じく車輌の護衛に当たっていた由梨が、この傷の酷い仲間へ必死に練成治療を掛けていた。
「重傷の者はこちらへ乗せろ。多少のキメラならビクともせんはずだ」
リッジウェイの『ヘッジロー』で障害物を除去した兵衛が、外の兵士達へ呼びかけて重傷者を兵員輸送スペースへ搭載させる。
そうして脱出の準備が整い、順次車輌が出発していった。
「ふぅ‥‥やっと着いたみたいだね」
「あら、もう着きましたの?」
ようやく広場に辿り着いて胸を撫で下ろすアークと、正反対にどこか不満そうに斧を振るミリハナク。
イレイズが今からでも間に合いそうな車両を探すが――。
「乗っていけ!!」
リッジウェイを車両形態でバックさせ、剣一郎機が止まった。三人を収容し、再び前進を始める。
「‥‥さて、送り狼は遠慮しておこう。代わりと言っては何だが置き土産だ。受け取れ!!」
剣一郎機が、前方を塞ぐキメラ群へ一斉掃射を叩きつけて進路を作る。
街の外れで甲高いエンジン音が響き、二台の単車が街を脱出する。
「‥大丈夫ですか‥愁矢さん」
少し心配そうに、無月がバイクの後ろを振り返る。
ぐったりした愁矢が、「すまん‥‥」と呟く。練力切れだった。
「いや、良く頑張った方だと思うよ‥‥。生き残って、俺達は勝ったんだからね」
もう一台の単車の後ろから、覚羅が慰めるように微笑みかける。
それを聞いて前で運転する真琴が、サングラスの中の目を細めて――空を帰還するイカロス隊を見上げる。
「そうか‥‥終わったんだね」
呟くその背中。
黒煙を吐き続けるアルコヴァを――人類は後にした。
NFNo.033