●リプレイ本文
赤土の荒野を――悪夢が駆けていた。
『標的捕捉。10秒後会敵』
「――ァアアア!! イカロォオオスッ!!!」
ワームと融合を果たし、変わり果てたアイアス。
キャスパーを背にライト・ブローウィン(gz0172)少尉が砲を構えた。
その怪物を前に、しかしイカロス隊長ヒータ大尉は――静かに笑みを浮かべる。
『‥‥皆さん。来てくれると信じていました』
言葉と同時、砂埃を舞い上げて着陸する八機のKV。鋼を軋ませて変形する彼らは――この地で絆を築いた戦友達。
ナトロナの最後の希望だった。
「作戦参加各機に告ぐ。恐らくこれが本当に最後の戦闘となる。状況を開始する‥‥終わらせよう」
言いながらリヴァル・クロウ(
gb2337)の心に浮かぶのは、地獄と化したいつかの東京。
――再現させはしない。
誓い、御守りを握り締めた。
「それがお前の絶望の偶像か。なら叩き潰して‥‥希望を再び見せてやる」
醒めた半眼でアイアスを一瞥し、月影・透夜(
ga1806)は鼻を鳴らす。
だがその胸を支配するのは――激しい熱情。
「アイアス‥‥今度こそ絶望劇に終止符を打たせてもらうぞ!!」
ディアブロが機槍を構えて正対した。
「黙れぇえええ人間風情ガァ!! 我ハ死なン‥‥こんナ僻地で、コンな銀河の片隅でえエエェ!!」
叫喚する本星中型HW。その前面に浮き出たアイアスの顔面は醜悪に歪んだ。
その喉奥。
骨肉の機械砲が低く唸り始め――ドス黒い連続閃光を放った。
KV機群内の雷電に直撃。機盾「ウル」を構えて数メートルを後退する。
「ったく、ようやく全快したってのに‥‥もう一度無茶する事になりそうだな」
衝撃に立ち直りながらブレイズ・カーディナル(
ga1851)は苦笑した。
「なんとしても止めるぞ。今度こそ終わらせるんだ!」
敵の次弾も盾で受け止めながら、半円状に側面へ走り出すブレイズ機。
「醜いね‥‥やれやれ。そう簡単には死ななかったか」
鳳覚羅(
gb3095)が長距離バルカンで牽制する。
アイアスは火線を跳んで避けると同時に標的を変えた。こちらへ砲撃を放つ破曉『黒焔凰』へ――光条を発射する。
「ッ‥‥鋭い‥!」
敵の命中精度は尋常ではない。緊急回避する破曉の肩装甲を黒い閃光が抉る。そのまま衝撃に弾かれつつ、着地。
覚羅機は弾幕を張った後、ブレイズとは反対側へ走り出した。
「ナトロナの暴君、アイアス。貴方はここで終わりです」
覚羅機に続きながら、セラ・インフィールド(
ga1889)も敵を照準。膝立ちの姿勢から引き金を絞る。
しかしそれは――アイアスの残像を貫いただけだった。
「速い‥‥。ですが、必ず止めてみせます!」
前衛を援護しながらセラも側面へ。
KV群はα班とβ班に分かれ、両翼に展開。
両側面から走る火線の中を、アイアスは一直線に駆けて距離を縮めた。
「的はデカイけどお互い射線に気を付けて!」
α班、ラウラ・ブレイク(
gb1395)が全機に通達し、機関砲を撃ち切った。
それに釣られるようにアイアスはラウラ機へ疾駆する。
「身体ヲ寄越せぇエエイカろろスの傭兵ぇええ!!」
「喰らいなさい――怪物ッ!」
ラウラ機が兵装交換、高分子レーザー砲をその喉奥へ撃ち込んだ。
「――ッ!?」
だがレーザーは地面を抉り――獣のように跳んだアイアスが、黒い光条を暴力的に叩き付ける。
「クッ――!」
被弾、よろめくフェニックスへ迫る異形の巨体。
しかし激しい弾幕が横から飛来し、アイアスは触手でそれを弾き落とした。
「陽子さんの様に人類の守護者、何て無理だけど‥‥。
RBが、皆が守ろうとした――このナトロナだけは、守ってみせます!!」
真紅の機体を駆るのは、いつものルノア・アラバスター(
gb5133)では無い。
成長した肢体。その真紅の瞳は強い意志を受け継ぎ、この地を守るべく機を操る。
「ようやく終わったと思ったらこんな展開だもんな‥‥。
まあライトさんのフラグを再度叩き折るために――もう一働きと行きますか!!」
さらにルノアとは反対側で、盾を構えたカルマ・シュタット(
ga6302)機がツングースカの空薬莢をばらまく。
それをアイアスはかわしきれず、触手で受け弾いた。
「ハ‥‥挟撃ナどォオ! 下らンァアアア!!」
アイアスの瞳が充血し、巨体の内側から四方へ盛り上がる新たな砲口。それが二機へ向け、火を噴いた。
強烈な火線がルノア機とカルマ機に直撃、破損させる。
「速いな‥‥触手に砲撃も厄介だ。飛ばれる前にかたをつけよう」
敵戦力を分析して透夜が動いた。
機銃で牽制しながら、セラ機、覚羅機の援護射撃に合わせてジグザグに荒野の土を蹴る。
「よし、俺も前進する! 援護してくれ!!」
その反対側からも、ブレイズ機が盾を掲げて駆け出す。
ラウラ機とルノア機がその両側で並走、前進して火線を放った。
「チィイイ、ウルさいハエどモめッ‥‥!」
アイアスは両側からの砲撃を全てギリギリでかわすが、攻撃の手は緩まざるを得ない。
その隙を突いて――吶喊する二機が射程に踏み込んだ。
「喰らえ‥‥アイアス!!」
「そこだあぁ!!」
回避で体勢を崩していたアイアスへ不可避の二撃が叩き込まれる。
下から振るわれる透夜機の白刃と、頭上から振り下ろされるブレイズ機の巨大鎚。
だがそのニ撃は――強力なFFに遮られた。
「効かンわァアッ!!」
アイアスは全く怯まず、高速で触手を振るう。
二機が吹き飛び、鋼鉄の破片が飛び散った。二人は機体を立て直して距離を取とうとする。
「ドこへ行ク、見せテミろォオ!! 希望ォヲォオ!!」
「させんッ――!!」
アイアスの追撃を阻害すべくα班後衛リヴァルがマルコキアスを叩き込む。
シュテルン『電影』の四門砲が放出する弾幕をかわすため、アイアスは触手を止めて全力回避した。
だが二機と入れ替わりその巨体の腹に突き立つ――機槍の穂先。
「お前が希望を理解する事は無い! 人を見下し、下しか見ないお前ではな――ッ!!」
カルマが叫ぶと同時、突き立てたロンゴミニアトが爆炎を噴き上げる。
爆風で空を舞う数本の触手。
だが直後――動きを取り戻し、眼前のカルマ機に絡みついた。
「なに!? ‥‥くッ!!」
「下ラン戯れ言ォオ! 我らバグアに、理解デキん事など無いワァア!!」
強力なFFで無傷。HWの表面に浮かんだアイアスの顔はカルマを睨み、触手で機体を締め上げる。
『マズイ、カルマさんッ!』
ライト機が吶喊して振るう機剣は――しかし、赤光に弾かれて通らなかった。
「アアアアア!!! イカロオオオオス!!!」
『く‥そッ!』
ライト機へも触手が奔る。後退は間に合わず、拘束された。
「フハハァッヒャ!! 死ネ‥‥ナトロナの希望ォオオ!!!」
狂った哄笑を上げて、その喉奥から骨肉の機械砲がせり出す。
だが直後――アイアスに大量の弾幕が着弾。
その身を包んでいたFFが、消失した。
「‥‥困るな。俺達の事を‥忘れてもらっちゃね」
操縦桿を握りながら覚羅は苦笑する。
タイミングを見計らって仕掛けた全機の砲撃。二機を抱えた事が逆にアイアスの機動を鈍らせ、――決定的な隙となった。
「おのれェエエエエ人間風情がアアアア!!!」
いまだ手中にある二機を粉砕しようと砲を動かすアイアス。
だがその懐に――既に二機が入り込んでいる。
「貴方が所詮‥‥この世界は弱肉強食だと言うなら、それでも構いません」
「人の強さは、幸せを願い命を愛する事。――それが希望になる」
セラ機が逆手に構えた双刀が宙を滑り、ラウラ機が大上段に構えた機剣を振り下ろす。
捕縛されていた二機は触手ごと地面に落ちた。
「ォォオオオオオオオッ!!!」
憤怒の声を上げるアイアスは懐の二機へ全力の火柱を放つ。激しい砲撃を受け、両機の装甲が破孔を開けてひしゃげる。
だがそれでも――目の前の巨体から目を逸らす事は無い。
「見ていてください‥‥。最後に勝つのは、我々人類です!!」
セラ機がPRMを知覚に全力注入。白雪の銀筒をその醜い顔面に突き立てた。
「グォアッ!!」
アイアスの顔面は赤く膨張し――骨肉が張り裂ける。
「命を弄ぶような奴には絶対理解できないでしょうけど、ね!」
追い討ちを掛けてOブーストを使用するラウラ機に対して、咄嗟に回避機動を取るアイアス。
だがラウラはSG9を連射、敵の機動を強引に制限して接敵――雪村の巨大光剣を振るった。
「グオオオォォオオオオアアアアアア!!!」
顔面を溶かすように抉り取られたアイアスが、その激痛に咆哮を上げた。
その状態でもアイアスは吶喊してくる覚羅機を見逃さなかった。
「ソこだァアア!!!」
高速で迸る触手。強烈な一撃と共に破曉を絡み取ろうとして――しかしトゲに刺さる。
剣翼装甲『黒翼』。
翼を開いた覚羅機は触手に被撃しながらも、超限界稼動。その奥へ加速する。
「アイアス‥‥。俺達にとっての希望はね。君にとっての――。
絶望だ」
覚羅が振るう、雪村の大光剣。
「フざァけルなアァアアアッ!!」
だがアイアスは大きく跳んでかわし――覚羅機へ全力砲火を撃ち下ろした。
火線が地上の破曉を貫き、その四肢を木っ端微塵に叩き折る。
「ガハッ‥! く、構わず、ゆけ! ‥君自身の思いを‥貫く為に‥ッ!!」
爆圧が襲うコックピットの中、薄れ行く意識で覚羅が声を絞り出す。
アイアスを追って走る――真っ赤なS−01HSCへ。
「‥仕掛けるぞ、ルノア!」
「はい! 希望を紡ぎましょう‥Rote Empress!」
リヴァル機とルノア機が、空を仰いで動き出す。
「良い的だ! これを喰らえ!」
さらにブレイズ機が反応し、対空砲を全力射撃する。
頭上でアイアスが回避しながら反転。眼下へ砲を向けた。
「小賢しイぞ木っ端ドモォオオ!!」
「‥‥PRM、OGRE起動。託された想いがある‥‥」
リヴァル機がブースト、PRM起動。友人の機動と同じ、回避重視の動きでアイアスへ接敵する。
「想いを背負い、護るべき仲間と共に繋げるべき明日を開く。それが『希望』だ。独りの君では――理解できん!」
最後の一撃を回避し、滑り込んだアイアスの直下。リヴァル機が掲げた四門砲が、頭上へ向けて轟音を噴き上げた。
「ゴォッ‥!?」
身を穿つ弾丸に、アイアスが苦悶の声を上げる。
さらにその怯んだ敵へ跳ぶ――ルノア機。
「散りなさい‥‥アイアス!!」
スキル起動、赤く輝く真紅の機体が空へ放つ――ルーネ・グングニル。
――――だが。
煌めきを発したアイアスが触手を高速で蠢かし、その槍を弾き返した。
「なッ!?」
渾身の一撃をかわされたルノア機へ黒い閃光が飛ぶ。着地すると同時、リヴァル機へも火線を叩き込んだ。
二機が吹き飛ぶのを横目に、アイアスは直近に居たヒータ機へも駆ける。
「下らン‥その希望ト共にくタバれぇえ! イカロオオオオスッ!!!」
ヒータ機へと伸びる触手の先へ――機盾を構えたバイパーが割り込んだ。
『させん‥‥!』
身代わりとなったライト機は機盾ごと叩き切られて大破、崩れ落ちる。
だがその後ろで――ヒータは照準器を覗いていた。
『イカロスは堕ちません‥‥。片翼を持つ皆が、支えてくれるから!!』
共に戦う片翼の傭兵達。称号を送った者だけではなく、この戦線に参戦してくれた全ての傭兵がその翼になってくれた。
それが力となり、ヒータの放つ鉛弾がアイアスを――穿ち貫く。
「アァァァァアアア!!」
だが巨体はまだ蠢き、ヒータへ反撃を放とうとしていた。
しかしそれを押し留めるように――強烈な火線がその脚をもぎ取る。
「現実に悪夢は要らない、ここで消え去りなさい」
「やらせませんよ、私にもこの片翼が付いていますからね‥!」
ラウラ機とセラ機の全力射撃が、巨体の六本脚を吹き飛ばした。
「これで決着をつける! ウシンディ‥‥フル出力だ!」
「絶望を貫け――グングニルッ!!」
さらにカルマ機、透夜機の二本槍が――同時にアイアスの巨体へ突き込まれる。
「小癪ナぁあああ!!」
だが触手が煌めき、再びその二本の槍を弾き返した。
「クソ、クソ、クソッ! 下等生物どもめ――我ハこんナ場所でェエエエ死にハセんわァッ!!」
焼け焦げ、切り裂かれた顔を歪ませ、瀕死のアイアスは宙へと浮き上がる。
完全敗北を悟った敵司令官は、バグアとしての自尊心をも捨てて撤退の決断を下そうとしていた。
――しかし。
「逃がしはしないッ! ここでお前を仕留めてみせる――アイアァアアアスッ!!」
ブーストで駆けるブレイズ機が、跳んだ。
「ッ――!?」
アイアスの頭上に機杭が打ち込まれ、――超巨大鎚が振り下ろされる。
空へ上がろうとしていたアイアスは衝撃に押し返され、地上へ叩きつけられた。
しかしその動きまでは止められない。鉄片と骨を覗かせる異形の巨体は、反撃の砲を放ちながら慣性制御で地上を滑っていく。
「これで――どうだあああああッ!!」
だがブレイズ機が、ブースト降下で叩き下ろすハイ・ディフェンダー。
醜い巨体を刺し貫き――さらに超巨大鎚を、その柄頭へと打ち込んだ。
「アアアアアアアア!!!!」
機剣は苦悶の咆哮を上げるアイアスの体内を貫通し、地面に刺さる。
「私は――誓ったんです。この地を、守ってみせるとッ!」
「‥もう少しで良い。動け‥‥立証せよ、電影ッ!」
ボロボロの二機が掛けるブースト。ルノア機が掲げる槍を、リヴァル機が支え持つ。
狙う先は――地面に固定され身動き出来なくなったアイアス。
「近ヅくなァアアアアアア!!!」
巨体は全砲門展開、激しい砲火を放つ。
「これが我々が持つ希望だ!!」
リヴァル機が抵抗にPRM全力付与。機盾でルノア機を庇って光条を受け止める。
「このナトロナから消え去りなさい――アイアス!!」
そして槍の射程内。ルノア機の握り締める槍がスキルの赤光を放ち、突き貫いた。
「ガアアァァァアアアッ!!」
歪んだ顔を――――穿つ一撃。
グングニルが敵体内で放出する、液体火薬。アイアスの瞳は空を見据えたまま、黒い血涙を一粒落とす。
「‥‥それが‥‥貴様等の‥持つ‥‥翼、か」
そう言い放った、直後。
アイアスの身体が膨らみ――――爆炎を噴き上げた。
噴き上がる炎は断末魔の如く。
ナトロナを弄び支配したアイアスは、赤土の荒野で燃え尽きていった――。
‥‥戦場に、ナトロナ軍の救助部隊が到着する。
戦士達は誰もが満身創痍だった。
その中で覚羅は重傷の身ながら、自分の足で救助ヘリに乗り込み軍関係者を驚嘆させる。
当然、KV各機の損傷も酷い。特にブレイズ機の機剣は完全大破。復元の為に一部負担を強いられたものの、一方で敢闘章も送られている。
最後にイカロス含め、この熾烈な激戦を戦い抜いた兵士全員へ――UPC銅菱勲章の授与が行われた。
そうしてここに‥‥ナトロナの戦いは幕を閉じる。
様々な苦難、絶望、想いの果てに。
――――人類が伸ばした翼は、希望に届いたのだ。
NFNo.034