●リプレイ本文
林から出てゴーレム三体がフェザー砲を連射する。
だが距離は遠く、傭兵達に命中するには至らなかった。
「始めっから随分な歓迎じゃないか? フ、フヒヒ‥‥。どちらにしてもお前達を生かしておく義理はボクには無い」
変わった笑い声を上げて、ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)はガトリング砲を装填する。
「ドレアドル――ううん、バグアは何であれあんな力を振るう限り倒す。その時の為にまず、お前らからだッ!」
ディスタン『ウサト・アティギリアピサンテ』が大量弾幕を張り始めた。
「シンディ機、弾幕展開開始。ドゥ機と共に敵を牽制する‥‥。チリも積もれば何とやら‥‥」
シンディ・ユーキリス(
gc0229)は緊張した面持ちで電子援護と攻撃を開始する。大規模作戦以外の初依頼、初めて顔を合わせる傭兵達との共闘。
不安と緊張の中に――心地良い高揚感があった。
「そういえば自己紹介してたっけ? アタシの名前はマリオン・コーダンテ、こないだガーディアンになったの。宜しくね〜♪」
通信装置から軽快な声が飛ぶ。
前進しながらショルダーキャノンを構えるディスタン。砲火の飛び交う中を、マリオン・コーダンテ(
ga8411)の機体が立ち止まり――砲撃の轟音を響かせていった。
「窮鼠猫を噛むの例えもある‥少数の無人機とは言え、油断は禁物‥だね。‥手間取れば増援が来る可能性だってある」
支援砲撃を受けながら、ヘルヴォール・ルディア(
gc3038)が突進。弾幕形勢に参加する。
両勢力の火線は拮抗して大地を抉り、林の木々をなぎ倒していく。
その中で次々と被弾していく敵と味方。しかし敵の攻撃の手は確実に緩み始めていた。
「さて‥‥数はこちらが有利ですが、嘗めてかかれる相手ではありませんね。
確実に墜としていく事としましょう」
隙を突いて左翼から榊 刑部(
ga7524)がアサルトフォーミュラA起動。スカイセイバー『隼鷹』の出力が跳ね上がる。
「どうぞ、挨拶代わりです‥ッ!」
ガトリングが火を噴き、ゴーレムを穿つ。一瞬怯んだゴーレムを分断すべく更に吶喊を掛けた。
「刑部様を援護する為‥‥敵を止めて下さい、フェンリス‥ッ!」
安原 小鳥(
gc4826)が引き金を引く。敵を注視し、刑部機を狙うゴーレムを見定める。
次の瞬間、アンジェリカ『フェンリス』はWR−01Cの銀光を――連射した。
それからふと、小鳥は視線を流す。
「ケイさんが今回も無茶をされないと良いのですけど‥」
『‥ありがと。小鳥さんこそ気をつけてな』
「あ、‥‥は、はいっ」
通信マイクに拾われ、思わず赤面する小鳥。
それを見やった後で顔を上げ、那月 ケイ(
gc4469)が敵を睨む。
「せっかく逃げ回ってた所悪いけど、わざわざ出向いてやったんだ。相手してもらおうじゃねーの!」
機剣を構え、敵へ突撃するパラディン『アイアス−S』。ドゥ機とシンディ機の援護を受け、被弾に耐えながら中央のゴーレムへ。
それと同時――右翼からも四足KVが高速で駆ける。
「手負いの者だとしても、油断せずにいかんとの。ポチ、準備は良いか!」
『ワン!』
Mブースト発動、自機AIの返事に満足げに頷く北斗 十郎(
gc6339)。
右翼のヘルヴォール機、マリオン機の弾幕横を一駆け抜け、ワイバーンの高い機動性で一気に敵へ接敵した。
「そぅら! わしが相手じゃ!」
十郎機の肩の砲身が火を噴く。咄嗟に回避するゴーレムを追撃する――双機槍『センチネル』。高周波ランスが敵を切り裂き、ひしゃげさせた。
だが即座にゴーレムの反撃も始まる。吶喊してきた相手へ機剣を叩きつけ、さらに後方の傭兵各機へ熾烈な光条を撃ち放ち始めた。
「那月さんだけに負担は掛けさせない! 僕達への攻撃は通さないと言ってくれたから‥‥僕もそれに応えるんだ!」
ドゥ機が、前衛ケイ機を援護するように対戦車砲を放つ。
轟音が響き渡り、身体を傾けたゴーレムのすぐ横を巨大砲弾が通り過ぎた。
ゴーレムは機盾でケイ機の剣を受け止めつつ、フェザー砲を後衛のドゥ機とシンディ機へと向ける。鋭い光条が地上に沿って奔り、二機に牙を立てた。
「くっ‥!」
ドゥ機が被弾。シンディ機は回避オプションを起動するもかわしきれず、敵光条がその右肩を抉り取る。
――間髪置かず、更にもう一撃飛来した。
「旧式KVだからって‥‥舐めたら、痛い目を見るよ?」
シンディがスキル再起動。
スカイスクレイパー『Gale』は加速旋回、光条を紙一重でかわす。そのまま側面へ疾駆しながら、光銃を射撃。細い光線群がゴーレムへ奔り、その一つが肩へ直撃する。
「おいたはそこまでだ――!」
ゼロ距離に居たケイ機が、ゴーレムへ熱剣を薙ぎ下ろす。ゴーレムの機盾を焼き斬り――腕部へ裂傷を創った。
だがゴーレムもすぐに反転し、鋭い一撃を振り下ろす。
「ッ――!」
ケイがパリング使用、咄嗟に盾で受け流して熱剣で受け止める。高い金属音と火花が散った。
しかし衝撃を殺し切れず、ケイ機の鎖骨部の表面が砕ける。
「やらせない!」
「離れて‥‥ッ」
即座に後方二機がゴーレムへ砲火を浴びせ、両者は距離を取った――。
「マリオン嬢ちゃん、ヘルヴォール嬢ちゃん‥‥よろしく頼むぞいッ!」
右翼。マシンガンで敵を惹き付け、十郎が二人へと叫ぶ。
しかしそのKVの足を光条がなぎ払った。
「むぅ‥‥!?」
バランスを崩し倒れこむ十郎機。
ゴーレムはそちらへ駆けながら追撃のフェザー砲を放つ。ワイバーンの腹に光条が直撃、装甲を溶解させた。
「くぅ‥‥堪えるわい」
十郎は思わずボヤき、計器類の異常を渋い顔で眺める。
さらに追撃をかけようとしたゴーレムは、しかしふいの被弾によろけた。
「ほらほら、余所見してる余裕はないわよ♪」
追撃で動きが単調になった所を、すかさずマリオン機が狙い撃ちしていた。
さらなる命中を狙って撃ち放つキャノン。だがニ撃目からはゴーレムも認識し、攻撃を回避していく。
「‥‥アサルトフォーミュラ起動。この一撃‥叩き込む」
だが死角からふいに接敵を掛ける赤い機体。
ゴーレムが振り返った時には――ヘルヴォール機『テュルフィング』が、光り放つ機剣を振り上げていた。
「く‥‥!」
だがヘルヴォール機の振り下ろす一撃は、ゴーレムの機盾に遮られた。
そのまま敵は地を蹴って鋭い機剣を振るった。
直後――ヘルヴォールの耳を叩くアラート。機体の肩に出来た生々しい傷痕が火花を上げる。
それでもゴーレムは追撃を止めない。
ヘルヴォール機の頭部へフェザー砲を突きつけて――。
「――ほれほれ、後ろががら空きじゃぞッ!」
前方へ揺らぐゴーレム。
その背中に、双機槍『センチネル』が突き刺さっていた。
立ち直った十郎機は更に二度双機槍を振るい、ゴーレムの装甲を切り裂く。
「畳み掛けるわよ!」
マリオン機が80発の弾丸を敵へ撃ち込んで駆け始める。
ゴーレムは弾幕に直撃、膝を突いた。
だがその状態から砲を上げ、接近するマリオン機へ光条を放つ。被弾し、焼き溶けるディスタン装甲。
さらにヘルヴォール機へも機剣を振り下ろす。
被撃――衝撃に揺れるヘルヴォール。だが彼女はスキル起動、機体の拳を敵の胸へと叩きつけた。
「ガトリング、ナックルッ!」
30発の弾丸が――ゴーレムの胸を抉り穿つ。
直後、ゴーレム出力低下。
後ろへよろめいた人型ワームは小爆発を起こし――その場に崩れ落ちた。
「セイッ――!」
左翼で、刑部機が真ツインブレイドで敵を切り払う。
ゴーレムは盾を構えて辛うじて捌くと、相手の二合目が来る前に機剣を突き出す。
脇腹を狙った一撃は――しかし硬い鋼鉄にぶつかり、僅かに貫通する。
刑部機の機盾『レグルス』が攻撃を受け止めていた。
しかしゴーレムは機剣から手を離す。代わり、ゴーレムはフェザー砲を盾に押し付けて連射した。
「刑部様‥‥! ‥‥フェンリス、必ず当てて下さい‥ッ!」
小鳥機が展開するG−193砲身。標的を指示し、機体AIが照準を補佐する。
その細い指が、トリガーを絞った。
空気を焦がして迸る火線は――しかし、咄嗟に飛び退いたゴーレムの鼻先を掠めるだけ。むしろ逆に、フェザー砲撃を小鳥機へ放つ。
「キャッ――!?」
温度上昇、被弾警報に身をすくめる小鳥。
「そろそろ終わりにさせて頂きましょう‥‥」
だがふいに刑部機が双剣を握り締めて機動する。
振り向いたゴーレムは咄嗟に盾を構えた。だが構わず刑部機『隼鷹』が跳ぶ。
刑部はアサルトフォーミュラ起動――機体が唸る。
「‥‥そこですッ!」
全体重を掛けたスカイセイバーが、ゴーレムを双剣で貫いた。
穿たれたゴーレムから噴出する黒い液体。
機動が鈍った相手へ、さらに小鳥機がレーザー砲を構えている。
「次は外しません‥!」
構え、撃ち放ったアンジェリカの砲撃。
ゴーレムはそれに直撃、頭部溶解。センサーが全滅した。
小鳥はゴーレムが倒れるのを確認して安堵の息を吐き――しかし不意に、ロックオンアラートがその意識を切り裂いた。
「増援‥‥!? ゴーレム二機‥‥っ」
中央班のシンディが全機へ通達する。
だがレーダー上に突如現れた光点は思いのほか近い。戦場の丘の下、レーダーの死角に居たのだろう。
直後、ゴーレムの弾幕がKV達へ熾烈に牙を剥いた。シンディ機、マリオン機、ヘルヴォール機、小鳥機が光条被弾。大破目前の機体が出始める。
「おいおい、冗談にならないな‥! まだこっち片付いて無いってのに‥‥ッ!」
ケイが苦笑し、ゴーレムと鍔迫り合いしながらジリジリと後方へ下がっていく。敵は損耗しているが、自分も同様だ。
そんな彼へ――新手のゴーレムは機剣を構えて疾駆する。
「‥こっちが相手だ!!」
だが危機一髪、ゴーレム側面に135mm弾が炸裂。
敵が振り向いた先、ドゥ機が仁王立ちで敵へ弾幕を展開していた。
「増援に対処した方が良いかは――ううん、しなきゃいけない。やってやるんだ‥‥!」
ドゥは前衛のケイ機、電子援護するシンディ機を守る為に自分を囮にした。スキルを発動したディスタンが、ガトリングで弾幕を張る。
だがゴーレムは回避してドゥ機へ急速接近――機剣をその胸へ刺突した。
「ッ――!」
ドゥ機に深々と突き立つ刃。警告音の中で敵のニ撃目、三撃目がその瞳に映る。
咄嗟にドゥ機は機盾で追撃を緩和した。だが装甲を砕く金属音は不快に耳を叩く。
「仲間は、やらせないよっ‥‥!」
シンディ機が後方から撃ち放つリボルバー。宙を貫く火線が二機を強引に引き離した。
直後――ゴーレムへ一斉に火線が叩き込まれる。
「ほっほ、どうじゃ? わしの鉛弾の味は!」
応援に駆けつけたC班、十郎機の弾幕。
さらに、ケイ機と交戦するゴーレムも熱線に貫かれる。
「損傷が酷くて‥‥援護しか出来無いけど‥!」
膝撃ちの姿勢で、黒煙を上げるヘルヴォール機が砲を構えていた。
「十分さ‥‥!」
ケイは微笑し、システム・ニーベルング起動。近域の友軍機の動きを効率化させる。
ヘルヴォール機の命中精度が上がり、ゴーレムはレーザー砲に連続被弾。体勢を崩した。
「さぁ、そろそろ落ちるんだな――ッ」
苦し紛れに振り上げたゴーレムの機剣をパリングで弾き、銃弾を二度撃ち込む。思わずくの字に折れ曲がったゴーレムの背中へ、ケイ機は熱剣を突き立てた。
刃は胸を貫通し、ゴーレムは一度大きく反り上がった後――機能停止。
崩れ落ちた。
『ゴーレム撃破!』
その通信を聞きながら、しかし小鳥は返答する余裕も無く操縦桿を動かしていた。
新手のゴーレムが繰り出す機剣を、どうにかWR−01Cの砲身で受け止める。だがそれだけでは捌き切れない斬撃が二度、三度と小鳥機の装甲を抉った。
「このまま‥‥やられる訳には、いきません‥! 行きますよ、フェンリス!」
だが防戦一手だった小鳥機がSESエンハンサー起動、腕の金属柄を握り締める。
輝きと共に放出される超圧縮レーザー。青龍刀のように太い練剣「羅真人」の斬撃が迸った。
強烈な一撃にゴーレムの体躯が焼き焦げる。火花を上げるゴーレムへ、さらにG−193をニ連射した。
しかし敵は一歩後ろに足を付いて踏み止まり、再び小鳥機を睨む。
だがその瞬間――更に鋭い熱線がゴーレムを穿った。
「お待たせしました。さぁ、私がお相手しましょう!」
砲を上げ、一直線に吶喊する刑部機。数秒で距離を詰めて双剣を振り抜く。
被撃、よろめくゴーレム。だが刺さった刃を機剣で払いのけ、戦闘を継続する。
対応する刑部機はアサルトA起動。振り下ろされた一撃を避け、双剣を斬り付けた。
「ここが貴方の――墓場です!」
ゴーレムが振り下ろす斬撃を、あえて避けずに機盾で受け止める刑部機。衝撃が全身を走る代わりに――硬直した敵へ、双剣の連撃を振り抜いた。
背中まで突き刺さり仰け反るゴーレム。
――そこへ熱線の嵐が叩き込まれる。
小鳥機が放つ弾幕光条。
それが完全なトドメとなり――ゴーレム大破、爆炎を噴き上げた。
最後のゴーレムを、KV三機が包囲していた。
「ほら、こっちじゃこっちじゃ!」
十郎機のマシンガンが火を噴く。銃弾がゴーレムの体表で爆ぜた直後――。
「‥‥ねえ、いずれは直に会える? フヒヒ、待ち遠しいよ‥親愛なるバグア共――!!」
さらにドゥが別の敵を眼前に投影してトリガーを引く。対戦車砲が火を噴き直撃、ゴーレムの損傷率が上がっていく。
「さぁ、最後は派手に行くわよ――!!」
キャノン砲撃の轟音と共に、マリオン機が駆け出す。それを避けて振り向いたゴーレムは、接近する機へ砲を向けた。
だがフェザー砲の照準は――吶喊を援護する他KVによって揺らぐ。地を溶かし、空を貫きながら‥‥しかしマリオン機には当たらない。
みるみる距離は埋まり、目と鼻の先で放ったゴーレムの砲撃がディスタンの頭部を掠める。
だがそれに怯む事無く、マリオン機は懐へ駆け抜けた。
「いっけぇッ!!」
背中から抜き放ち、振り上げる光斧。
それをゴーレムに叩きつけると――鎖骨部分に刃はめり込んだ。
だが膝を付きながらゴーレムは辛うじて堪え、機剣を振る。それに被撃し、後ろへ跳んで距離を取るマリオン機。
直後。
ゴーレムへ他のKVによる一斉砲火が叩き込まれる。
そしてもう一度、振り下ろされたマリオン機の光斧で――ゴーレムは真っ二つに両断。直後、爆炎を噴き上げた。
『‥お疲れ様です。今回の戦闘で確実に敵戦力を減らす事が出来ました』
帰還途中、オペレーターから通信が入る。
任務を終えた傭兵達はその言葉で緊張の糸が切れ、達成感と疲労感が同時に襲った。
「大規模作戦は始まったばかり‥‥でもとりあえずは、これでまた次の作戦に進める事を喜ぼうか‥」
ヘルヴォールが微笑を浮かべる。
これから激化するだろう、大規模作戦。
今回の任務はそれに対応する為のステップアップとして――彼らに経験と自信をもたらしたのだった。