●オープニング本文

　――――よく来た、傭兵諸君。

『‥‥エマージェンシー！　エマージェンシー！　広域レーダーに巨大エネルギー反応が出現！！　これは‥‥！？』

　これが私の送る最後の任務だ。

　この報告書が公開される頃‥‥私はもうこの世には居ないだろう。


『っ、北米の西海岸より超大型の敵性反応が出現！！　エマージェンシー、発令！！』
『サーッ！　エマージェンシー、発令！』


　――本当の事を言えば、少し心残りもある。

　世界の果てに君達が何を掴むのか？

　‥‥それを、私も一緒に見届けたかった。

　最後まで共に歩みたかった。


『何という大きさだ‥‥。奴はキメラか‥‥？　それともワームなのか‥‥？』


　――――だが残念ながらそれは叶わない。

　私は、ここで消える運命なのだ。

　――だから今。

　――あえてもう一度言おう。


『ッ、超巨大反応上陸、動き出しました！！』


　　　　　――――最終任務だ、傭兵諸君――――


『各基地の即応隊、出撃！　三秒後に交戦距離に入ります！』


　――打ち克て。敵では無く、自分の心に。


『アルファ１から全機へ。標的はデカイ。攻撃を外す事は無いだろうが‥‥一撃貰ったらKVでもタダじゃすまない。絶対に当たるな‥‥全員で生きて帰るぞ』


　――――恐怖を乗り越えて、迷う心を叩き壊せ。


『これが‥‥敵の姿か‥‥？』
『ふざけた外見しやがって‥‥。ただのスモウレスラーじゃねぇか！！』
『無駄口を叩くな！　行くぞ、全機――ミサイル一斉発射！！』


　願わくば私の想いを越えて、――――走り続けてくれ。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA！！！！！！」
『うお、怒ったのか！？　――がッ！！』
『何だよアレ！！　奴の目から光が――わあああああッ！！』
『デルタ２、デルタ３！！　脱出しろ、脱出するんだああ！！！』


　――がむしゃらな君達の手がいつか勝利を掴むのだ。


『マゲが輝いて‥‥！？　全機、緊急回避！　散開――ッ！！』
「DOOOOOSCOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOI！！！！！！」
『うあああああああああ！！！』
『避けきれなっ――！！！』
『クソォ、化け物めッ！！！　状況報告！　何機落ちた！？』
『ダメです、損害は半分以上！　これ以上――ぐぁッ！！』


　――――――――そして。その時は共に見上げよう。


『ダメだ！　全滅する！！　嫌だ！　死にたく無い！！』
『後続の部隊はまだかよ！？　俺達を見捨てる気か！！』
「DOOOOOOOOOOOOOOSXOOOOOOOOOOOOOIIII！！！！！」
『あああああッ――！！！』


　人類の、誰しもの頭上に――果てしなく広がるはずの。


『撤退命令をっ‥‥！！』
『ダメだ――間に、合わない‥‥ぐぁッ！』


　どこまでもどこまでも、ただひたすらに青い――――（激しいノイズ）。

「本隊はまだか！？　傭兵は！？　誰か来てくれ！　援軍をッ――！！」
「――DOOOOOOOOOOOOOOOOOSXOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOIッ！！！！」
「ダメだ！！　RIKISHIの咆哮が聞こえるッ！！　咆哮が！」
「誰か、助けてくれえええええええ！！！」


『すまない――――遅くなった』


　真っ黒な超巨大人型ワームの頭部で、一際大きな爆炎が閃く。なし崩し的に崩れる即応KV部隊と入れ替わるようにして、編隊を組んだ多数のKV部隊が高速で飛来。超巨大人型ワーム『RIKISHI』を一斉攻撃して通り過ぎていく――。

「おいジョージ。ジョージ！」
「あ‥うん、どうしたの？　おじさん」
「お前こそどうした？　ボケッと突っ立って‥‥羊が逃げちまうぞ」
　その言葉に我を取り戻したジョージは少し慌てた。放牧している羊達の一部が、群れから離れようとしているのだ。
「マズイ！　いけ、ボダ！　群れに戻せ！」
「ワンッ！」
　傍に控えていた牧羊犬が主人の指示に従って走り出す。前に飼っていた牧羊犬と変わらず、良い足を持った愛犬だ。
　息をついたジョージは、曖昧な笑みを浮かべて振り返った。
「ごめん、おじさん。‥‥なんだか、胸騒ぎがしたんだ。二年半前、羊達がキメラに殺されたあの時みたいな‥‥」
「‥‥ジョージ」
　おじさんが、悲しげに微笑むジョージの肩を抱えた。

「北米で超大型の敵出現‥‥。なんだかマズイ事になりそうですよ、ホフマン司令」
「そうは言ってもな。南米のジャングルに根を張る俺達にはどうしようも無いだろう」
「ま〜、そうなんですけどねぇ」
　テントの中のラジオに耳を傍立てながら、マーム中尉は頷く。
　突如、どこからか銃声が聞こえ、直後に爆発音が響く。
「早速問題発生だ。中尉、状況把握！」
「了解です！」
　中尉がテントを飛び出していく。

「大スクープでござるよ！！」
「どうしたニン？」
「食糧の配給が増えたでごわすか？」
　ちゃぶ台を囲んだ三人の黒装束が、各々に声を上げた。
「何やら北米で今、物凄い事が起こっているそうでござる！」
「ふむ、どんな事だニン？」
「肉が降ってるでごわすか？」
　二人の忍者に聞き返されて、スクープを知らせに来た忍者は冷や汗を浮かべる。
「それは、えーっと‥‥良く分からないでござるが‥‥」
「ガッカリでごわす。本当にガッカリでごわす」
「もう良いニン。テレビでも見る――」
　そう言ってポチッとテレビを点ける。
　すると番組のテロップに――北米西海岸地域に、超巨大バグア出現という情報が流れていた。

「やれやれ‥‥。前から感じてたけんど、相手はデカけりゃ良いと思ってるべさ！」
　操縦席で不敵に笑い、武者装束に桃の鉢巻をした男がスロットルを絞って降下していく。
　彼が駆るはシラヌイ。地面に着地して変形すると、侍ソードを振り上げた。
「オラこそは村一番の力持ち、桃太！！　やいやい、皆を苦しめる太った鬼め！！　オラが成敗してやるべさ！！！」
　機体の背中に村の皆が寄せ書きしたのぼりを差し、桃太は巨大な『RIKISHI』を見据え啖呵を切った。

「よぉこの前ぶり！　案外早い再会だったな！！」
「血が滾りますね、バルト隊長！！」
　クロウ隊全機を引き連れて、ナトロナからバルト大尉とカスピ少尉が参戦する。
「タローよりクロウ隊へ。俺もこの戦いでは原隊復帰しても良いッスかね？」
「遠慮すんな！　来いよ、タロー！」
　別の方面から飛来したタロー機を、バルトが受け入れて自分の隊に組み込む。綺麗な編隊飛行を見せて、『RIKISHI』へ接敵していく。
「よぉ、タロー。奴等も来てるんだろ？」
「‥奴等ッスか？」
「ほら、あの人達の事ですよ！　忘れるわけないですよね！？」
「‥‥ふふ。当然じゃないッスか！！　来てますよ――イカロス隊も！」
　雲を貫いて片翼章を付けた二機が降下し、全機の先頭に位置を取った。
「行きますよ、ライト！！」
「了解！　あちらに傭兵達も来てる‥‥負けるわけが無い！！」
　二機は加速、敵へ吶喊する。


　‥‥それでは傭兵諸君。

　――――――――――健闘を祈る。

●参加者一覧

/ 水上・未早（ga0049） / 須佐　武流（ga1461） / 聖・真琴（ga1622） / 月影・透夜（ga1806） / ブレイズ・カーディナル（ga1851） / ＵＮＫＮＯＷＮ（ga4276） / カルマ・シュタット（ga6302） / 聖・綾乃（ga7770） / 山崎　健二（ga8182） / 風羽・シン（ga8190） / ユーリ・ヴェルトライゼン（ga8751） / 瑞姫・イェーガー（ga9347） / 仮染　勇輝（gb1239） / 鹿嶋　悠（gb1333） / ラウラ・ブレイク（gb1395） / リヴァル・クロウ（gb2337） / 依神　隼瀬（gb2747） / 鳳覚羅（gb3095） / アンジェラ・Ｄ．Ｓ．（gb3967） / ロアンナ・デュヴェリ（gb4295） / 鹿島　綾（gb4549） / ルノア・アラバスター（gb5133） / ゼンラー（gb8572） / 柳凪　蓮夢（gb8883） / エイラ・リトヴァク（gb9458） / ヘイル（gc4085） / ドゥ・ヤフーリヴァ（gc4751） / 北村　聡（gc5463） / 立花　零次（gc6227）

●リプレイ本文

『悪魔だ！　地獄から悪魔が這い出てきた！！』
「落ち着いて、戦闘領域から離脱を！」
　地上に降りたロジーナから立花　零次（gc6227）が先任部隊へと告げていた。
『『りょ、了解！！』』
　即応部隊がRIKISHIを離れていく。即座に零次はエマージェンシーキットを引っ掴んでキャノピーを開放。飛び降りて地面を駆ける。
　あちこちに、KVの残骸が火を上げていた。
「しっかりして下さい！　大丈夫、死なせはしません‥！」
「‥‥ぁ‥誰だ‥？」
　残骸の下から軍能力者を引きずり出す零次。

「――DOOOOOOOOOOOSXCOOOOOOOOOOIIIII！！！！！！」

「ヒィ‥‥！！　ば、化けも、物‥咆哮が‥ッ！」
「大丈夫です！　だいぶ離れました！！」
　言いながら零次は振り返る。
　すぐそこでRIKISHIがこちらを見ていた。
　いや、巨大すぎて――そう錯覚したのだった。

「‥やれやれ、見た目がふざけた奴程、始末に手間取るのは何時もの事だが‥今回のは、また輪を掛けて酷ぇもんだねぇ？」
　低空から敵を視認して風羽・シン（ga8190）がぼやいた。
　すぐにシンはスロットルを押し込み、青いシュテルンを最大加速させる。
　その主翼に描かれているのは、一段青い片翼章だった。
「ヒータにライト、ちょっとぶりだな。また一緒に飛べて嬉しいよ」
　イカロス隊二機に翼を並べるのは銀片翼章を付けたディアブロ、月影・透夜（ga1806）機。
「低空部隊の援護を受けながら、頭周りへ攻撃を集中する。二人にも協力頼めないか？」
「もちろんです！」
「心強い味方だ。よろしく頼む」
　ヒータとライトは当然の如く透夜へ頷く。
「えっと‥‥何アレ？　何で力士？　色々疑問はあるけど‥とりあえず、でかいね」
　さらに真珠色の片翼章を付けた依神　隼瀬（gb2747）機が合流するが、彼女は困惑していた。バグアには謎が多い。
「こうやって駆け付けるのも何度目かしらね？　‥‥だけど新型移動要塞の投入かと思ったら、何よアレ‥‥」
　ラウラ・ブレイク（gb1395）も呆れてRIKISHIを眺める。このバカバカしさに既視感があるのだが、少なくとも今回の敵は弱く無い。
　陽光色の片翼を付けたフェニックス『Merizim』は臨戦態勢に入ると、遊撃機としてイカロス隊に先行する。
「こちらHolger、イカロスOceanWing。敵は、飛行していない以上その両脚部で自重を支えていると思われます」
　後方から水上・未早（ga0049）は淡々と敵を分析する。標的の並外れた巨体を考えると、その重量が一体どれほどのものなのか想像も出来無い。
「つまり膝・足首などの関節部への攻撃は、擱座させる有効な手段かと思われます」
　さらに兵装の集中する頭部も。と彼女は付け加えて、兵装射出ボタンの安全カバーを親指で弾き上げた。
「了解です。さぁて‥‥空気を読まないバグアにお仕置きと行きますか！」
　急降下を掛ける濃紺の雷電。鋼鉄の片翼章を付けた鹿嶋　悠（gb1333）機が敵に機首を向けた。重装甲機が風を切り裂いてRIKISHIへ迫る。
「おまたせ。‥‥Blackflame、これよりイカロス隊を援護する‥‥なんてね」
　さらに微笑みを浮かべた鳳覚羅（gb3095）がイカロスへ加勢した。
　黒炎の片翼章を付けた破曉はRIKISHIの死角へ回りこむようにして低空へ移行。長距離バルカンをスタンバイさせる。
『ザ‥。コチラ、G−00【Nemesis】、微力ながら助太刀するよっ♪　各機、気合いぶちカマそぉ☆』
『同じくG−05【Isis】、クロウ隊の皆さん、お久しぶりですぅ〜☆　今日は私も頑張っちゃいますよ♪』
　戦闘空域に進入してきた聖・真琴（ga1622）機と聖・綾乃（ga7770）機が高空と低空に分かれる。
　しかしそれらの飛行部隊を、RIKISHIは険しく眉を寄せて睥睨した。
『DOOOOOOOOOOOOOOSSSSXXXOOOOOOOOOOOOOOOOOOI！！！！！！！』
　RIKISHIのマゲに赤い光が集束し――主砲級大光条を発射。
　咄嗟に散開したKV各機の間を断ち切るように、大出力の光柱が空を薙ぐ。
　全機が攻撃を回避していたが、直撃すれば――ただではすまないだろう。
「Blitz1よりクロウ隊へ、これより支援射撃を行う。タイミングはいつも通り、後は‥‥良いな」
　だがリヴァル・クロウ（gb2337）は怖気づく様子も無く淡々と、低空の彼らへ言葉を投げた。
『クロウ１、了解。‥‥派手なの頼むぜ！』
『クロウ２、兵装射出準備完了』
『クロウ３、同じくッス！』
　次々に応答するクロウ隊各機。
　さらに加えて、綾乃機とユーリ・ヴェルトライゼン（ga8751）機までその両翼端に加わった。
「‥クロウ隊。すまない、俺達も編隊に加えてもらえないか？」
『ほぉ‥‥面白ぇじゃねぇか！　よし、片翼に負けんじゃねぇぞ、クロウ７、クロウ８！！』
「「了解！」」
　クロウ隊が編隊を組んで、低空から敵へ接近していく。
　そしてふいに、高空のリヴァル機がK−02の噴煙で空を染め上げた。
『クロウ隊全機ブースト起動、突撃！！　BLITZ（稲妻）を叩き込め！！』
『『了解！！』』
　大量の小型弾頭がRIKISHIの頭部へ着弾、爆炎に包まれる。
　直後、クロウ隊各機が放つ砲火。その中心へ、ユーリ機の重機関砲と綾乃機のスラスターライフルも激しい弾丸を見舞っていく。
「マヤ氏、キャスパーのポボス司令に繋げるか！？　データを転送する、動力炉の特定を求める！」
『‥！？　了解です！』
　全弾放出した後、リヴァルが後方のマヤ・キャンベルへ要請した。
　電光石火に被弾したRIKISHIは、不快そうな咆哮を上げて目から光線を振りまく。
「全く。こんなふざけたデカブツが居たのではおちおち空を見上げる事も出来ん。さっさと退場いただいて、広い空を取り戻すとしようか！」
　低空から背後へ回り込んだヘイル（gc4085）が、敵の右膝裏へUK−11AAMを連射。爆炎を噴き上げた。
　さらにその同じ箇所へ――別の方位から飛来したロケット弾が着弾、二度の爆炎が膝裏を焼き抉る。
「これ以上、誰かの血を流させてたまるか！　もういやなんだ‥誰かを失ってしまうのは‥」
　北村　聡（gc5463）が叫び、その操縦席からRIKISHIを鋭く睨みつけた。

「冗談みたいな相手だな‥‥こいつは。だがその姿‥‥正々堂々と真正面から勝負する意思と見て判断する！！」
　一方、地上からはシラヌイに乗り込んだ須佐　武流（ga1461）が、霞むほどに高いRIKISHIを仰いでいた。
「‥‥。なんて言ったは良いが、規格外すぎるだろ‥‥。そもそもこれが動けるほうが俺は凄いと‥‥」
「DOSXOOOOOOOOOOOOOOOOOOI！！！！！」
　突然、RIKISHIがしこを踏み出した！
　高く振り上げられた右足の裏（五十ｍ前後）がシラヌイへと高速落下する。
「うおおぉああああッ！？」
　武流機は瞬時に各部の高出力ブースター起動、全速で回避。
　直撃は避けたものの、衝撃で地面から飛翔した岩石のつぶてが襲い掛かった。被弾して装甲がひしゃげる。
　だが、その中を機盾を構えて片翼章を付けた真紅のルノア・アラバスター（gb5133）機が駆けた。
　その後ろで屹立するのは――巨大な二砲身を真っ直ぐ構えた、曙色片翼章の鹿島　綾（gb4549）機。
「きついのを二発、ブチかます！　その間に突っ込めぇ！！」
　機体の重心を落とした綾機がM−12と『ミネルヴァ』、両大口径砲の引き金を連続で引く。
　迸る二撃が着弾――大量の血肉を撒き散らして右足を深く喰い破った。
「GUUUUOOOOOOOOOOOOO！！！！！！」
　RIKISHIにとっても軽傷ではなく、苦悶の咆哮。しかしその右足を動かすより早く、ルノア機が吶喊する。
　傷口を機刀で一文字に斬り広げると、さらに身体を捻って突き立てる『ルーネ・グングニル』。
　直後――足の肉を吹き飛ばす爆発が起こった。

「ぬぅ、こやつは‥‥」
　薄暗い操縦席の中で、裸刹と化したゼンラー（gb8572）は憤怒の表情でRIKISHIを見上げていた。
「どぅにも‥‥中途半端なんだよねぃっ！！」
　金色の機体に金色の片翼章を付けたヘルヘブン750が高速二輪モードで駆け、マルコキアスを頭上へ連射する。
　弾幕は次々に敵の上半身に着弾、空戦班を支援する。
　さらにその三十ｍ隣からも、カルマ・シュタット（ga6302）機がツングースカを全力射撃していた。
　だが、ダメージを与えている実感は全く無い。RIKISHIの動きを鈍らせる事も出来無いのだ。
「‥‥これじゃあ、本当に豆鉄砲だな。くそ‥‥」
　敵の姿を見上げながら、カルマは呆れ顔でボヤく。
　そんな地上へRIKISHIはうるさそうにしこを踏む。地面が大きく揺れ、態勢を崩した各機に岩つぶてが降り注ぐ。
　だがその揺れを跳んで避け、そのまま着地すると同時に駆け出す機影があった。のぼりをはためかせた桃太機。
　ふいにその先、RIKISHIの足へと高分子レーザーが飛んだ。
「お久しぶりです、桃太君。姫子さんや村の皆さんはご壮健ですか？」
「その声‥‥！　久しぶりだべさ、ロアンナさんっ！！」
　桃太を援護するのは、紅赤に彩られたロアンナ・デュヴェリ（gb4295）機だった。彼女は頷き、敵の足を見据える。
「私が表皮を穿ちます‥‥桃太君はそこへ一撃を！」
　敵の踵を狙って、ロアンナはただひたすらレーザーを重ねた。
　さらに桃太機が侍刀を構えて吶喊。身体ごとぶつかるように刃を突き刺した。
「GOWAAAAAAAAAAAAAAASUUUUUUUUUUUUUU！！！！！」
　RIKISHIは咆哮を上げ、自分の足元へ張り手を打ち込む。桃太機は回避したものの派手に転倒した。
「桃太君！！」
　彼の危機に叫ぶロアンナ。
　だが手を挟んだ反対側で、ドゥ・ヤフーリヴァ（gc4751）機が手首に対戦車砲を叩き込んで身を翻す。
　RIKISHIは攻撃だけして逃げるドゥ機を反射的に追いかけた。
　一方、ドゥは逃げながら物思いに耽る。
　年初めに見た夢とこの現実を対比させながら、変わらず戦い続けている自分の事を漠然と考えていた。
　だがその機動はやはり甘い。彼が我に返った時には既に回避不可能なほどの近さから――RIKISHIの掌が振り下ろされる。
　しかし直後。自分の眼前に誰かのKVが飛び出すのをドゥは見ていた。
「あ、貴方は‥‥？」
「‥‥なに、通りすがりのナイトフォーゲルだよ」
　各部から激しい火花と蒸気を噴き出し、下半身はほぼ地面にめり込んだK−111。漆黒のＵＮＫＮＯＷＮ（ga4276）機は両手をクロスさせてRIKISHIの掌を受け止めていた。
　鳴り響く各種警報・警告音。機体は決して無事ではない。だが彼は微笑んでみせた。
「‥面白い。なかなか、パワーがある」
　K−111は掌を支えていた片手を抜くと――思いっきり掌を殴りつけた。
　４５ｍはある掌が轟音を立てて吹き飛ぶ。UNKNOWN機はブースト、掌へと機槍『グングニル』を手首に突き立ててRIKISHIの身体へ這い上がろうとした。

　足元だけではなく、空戦班によりRIKISHI上半身部へも光条・火線が奔っていた。
「Dame　Angelからクロウ隊、左胸に重点攻撃をお願い！　――高空班、主力砲が来る！！」
　後方に位置取り、アンジェラ・Ｄ．Ｓ．（gb3967）が刻一刻と変わる状況を全機へと管制していた。
　これにより組織立った攻撃が可能となり、さらにRIKISHIの攻撃をある程度予測する事により、戦闘に大きく貢献している。
　アンジェラはRIKISHIのダメージ加算箇所を順次ナンバリング、数箇所を重点的に攻撃しているが‥‥それでも、RIKISHIはまだ倒れそうに無い。
「オレはイカロス隊が一翼、DarkWing！　挨拶代わりに喰らいやがれぇ！！」
　暗灰の片翼章を掲げて山崎　健二（ga8182）機が急降下、RIKISHIへ超接近してスキル起動のM−12砲を撃ち放った。
　巨大光条はRIKISHIの頭部を抉り――顔まで醜く焦がす。
「しかし、とんでもねぇ奴が現れたもんだ。‥‥倒し甲斐があるぜ！」
　ブレイズ・カーディナル（ga1851）もそのイカロスの一翼に加わり、AAMを怪物へ浴び掛ける。愛機の雷電『ダイダロス』が唸りを上げて、敵を捉えていた。
　ダイダロス。イカロスと共に飛んだ父親の名前を、翼を並べて飛び続けるという意味を込めてブレイズが愛機に付けていた。
「おっしゃー！　こういう相手を待ってたんだ‥‥、ふざけたデカ物だけどな」
　エイラ・リトヴァク（gb9458）が意気揚々と叫びを上げる。イカロス隊と反対側から接近、死角からAAMを全力射出した。
　頭部で爆ぜる三発のAAM。RIKISHIの髪が焼き切れ、ほつれる。
「アレー、なんか変なの居るよー。おっきなお相撲さん」
　RIKISHIを見たショックか瑞姫・イェーガー（ga9347）は幼児退行を起こしていた。
　敵の頭上に飛来し、ガトリングを掃射。
「あはは、おもしろー。ばぐあってこんなだっけー？」
　無垢な言葉とは裏腹に、果敢に攻撃を挑んでダメージを重ねている。
　さらにそれと連携を取るように、柳凪　蓮夢（gb8883）も別方位からマルコキアスの弾幕を張った。四連砲がRIKISHIの頭部を穿っていく。
　RIKISHIがそれら高空班の攻撃を嫌がるように頭を振る。と同時に、肩を揺らした。
「何か来る‥‥？　全機、散開するんだ‥‥！」
「DOSXOOOOOOOOOOOOOOOI！！！！」
　突如RIKISHIの肩から数機の砲台がせり上がり、空に放射される幾条の光線。
　KV各機は避けきれずに被弾する。威力は通常ワーム攻撃よりやや強い程度だったが、動きは鈍らざるを得ない。
　敵はさらに両腕を振り回す。必殺の一撃を回避するために全機が攻撃行動を中断した。
「対空兵装！？　あの無駄な形状、護衛機も付いていない事からすると‥‥まだ他にも？」
　ラウラが不審を強める。敵の体表面積的に言って、まだ他に対多兵装や大型爆弾を備えている可能性がある。
　ラウラ機は出来るだけ接近すると肉眼で敵を探査していく。
「‥標的は頭上に気が逸れてるわ。今よ！　関節攻撃開始！！」
　アンジェラがタイミングを見計らって後方から掛ける号令。直後、地上と低空から強烈な砲火がRIKISHIの両膝へ一斉に噴き上がった。
「お前が！　orzとなるまで！　撃ち込むのをやめない！！」
　綾機がバルカンを全力射撃する。敵右膝に八十の鉛弾を叩き込んだ。
　さらにクロウ隊が膝関節へ吶喊。各機が砲火を浴びせて散開していく。
『今だ！　行けクロウ7、クロウ8！！』
「了解っ！　行っきますよぉ♪　シビレちゃいなさい☆」
「合わせる‥‥！　目標膝下、パンテオン発射するッ！」
　散開したクロウ隊の中央からユーリ機と綾乃機が吶喊。――ドゥオーモとパンテオン、二百発の弾頭を全弾射出する。
　RIKISHIの右膝を雷光と爆炎が包み込み、圧倒的な破壊力を噴き上げた。
「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA！！！！」
　絶叫を上げるRIKISHIの身体が、初めて揺らいだ。
「チャンスだ！　ドゥ、北村、オレに合わせろ。攻撃タイミングと目標ポイントのデータを送るッ！」
　ヘイルがドゥ機と聡機へデータを送信する。狙いは右膝の裏。
「‥いくぞ！　『セリア』、スキルをアクティブ！　全兵装をロックオン！」
　ヘイル機のサポートAIが応答し、機体に搭載された兵器全砲門がRIKISHIの膝裏へ照準する。
「持っていけ！　――――これが俺達の『切り札』だ！！」
　引き絞った引鉄に連動して、主兵装から副兵装２まで連続発射。光条と砲弾と弾頭が一斉に着弾し、敵表皮を焼き穿ち焦がした。
　そしてその火線に追随するように低空で聡機、地上からドゥ機が疾駆する。
「傷口を抉り込む。滑腔砲、ロケット弾発射！！」
　聡機から噴き放たれる高速の火線。超高速のワイバーンから僅か0．05秒で着弾した攻撃が、右膝裏を抉るように切り裂いた。
　しかし、RIKISHIはまだ倒れそうに無い。
「くそ、さっさと倒れてくれよっ」
　聡が巨体を見上げて悪態を吐く。
　そこへ、――ブーストを駆けたドゥ機が地上を蹴った。
　跳躍する『ウォード・スパーダ』。ブーストの推進炎を吐きつけながら膝裏へ接近。
目標までの距離、三十、二十、十――。
「そこだああああああ！！！！」
　インパクト。
　アサルトフォーミュラAを起動し、機体ごとぶつかるように機剣『グラディウス』を膝裏の抉れた傷口へと突き通す。
　さらにドゥ機が手首を返して機剣を捻ると、夥しい血が傷口から噴き出した。

「GGHHHHHHHHHOOOOOOOOOO！！！！！！！」
　RIKISHIが仰け反り、右手で膝裏の辺りを振り払う。
　だが既に三機は散開しており、何も捉えられなかった。
　それを見届けたカルマ機がスキルとブーストを起動して地面を蹴る。その両手が抱え持つのは――巨大剣『シヴァ』。
「はぁぁぁ！　これで倒れろぉッ！！」
　カルマ機が巨大剣へPRM注力――大薙ぎに振るった。
「GOOOOOWAAAAAAAAAAAAAAAASUUUUUUUU！！！！！！！」
　膝裏へ尋常でない痛みを感じて、だがRIKISHIは倒れない。
　代わりにカルマ機へその巨腕を振り下ろす。
「俺の機体が‥名前負けする訳には行かないんだよ――ッ！！」
　ウシンディ、勝利と名付けられたシュテルンは回避せずに身体を反転させる。
　巨大剣は超高速で回転し、速度と圧倒的質量を持って――破壊の刃を再度膝裏へ叩き込んだ。
「‥‥！　GOOOWAAAAAAASSSSSッッッ‥！！！！」
　振り下ろした巨腕は空を切る。
　RIKISHIは大きく態勢を崩し‥‥左足だけで踏み留まった。

　さらにその左足へ、武流機が疾駆する。
　RIKISHIは即座に反応、地上へ張り手を放った。
「そんな鈍い動きに捕まるかよ！　神話のタケミナカタのように、腕を引き千切られはしないぜ！」
　ブーストを噴かせ、高速で正面突破を掛けるシラヌイが跳ぶ。
（引き千切られる前に‥握りつぶされるな、こりゃ‥）
　と頭の片隅で思いつつ、機体制御。膝の辺りまで飛び上がった武流機は一気に落下を始めた。
　剣翼と熱翼を交互に反転させながら表皮へ押し当てる。
　RIKISHIの表情に苦悶の色が浮かぶ。右足が踏ん張れないせいで左足を小刻みに揺らして抵抗する事しか出来なかった。
　それでも揺れる足にぶつかる度、武流機の装甲は激しい火花を噴き上げて落ちていく。
　さらに地上からは高速で黄金のゼンラー機が疾駆する。
　敵に反応させる隙を与えず右腕部を後ろへ捻った。異様に巨大な拳塊――釈迦掌を。
「‥っっどぉぉぉぉっすこおぃ！！　――ってねぃ！！」
　足首へ放った超強力な一撃。キャバリーチャージの加速分を加えた打撃が、RIKISHIの軸足へ叩き込まれた。
「ッッッGUUUUUUUOOOOOOOWAAAAAAAAAAASUッッッ！！！」
　巨大なくるぶしの骨が陥没し、RIKISHIが悶絶する。そして――轟音を立てて両膝を地面へ突いた。
　それを見ながら、ゼンラーは呵々と豪快な声で笑い声を上げた。
「この相撲‥拙僧達の勝ち、だねぃ！」
　高々と勝利宣言。だが試合は決しても――勝負は続く。
「‥‥これは、やっぱり何かある！？　ターゲットを更新するから注意して、可能なら破壊を！」
　声を上げたのは、上空のラウラ。
　注意深く敵を観察していた彼女は、RIKISHIが今崩れ落ちた時の巨腹の動きが不自然だった事に気付いた。
　今まで頭部と下半身程度にしか目を向けていなかった全機が警戒し、そちらへ注意を向ける。
「HAAAAAAAAKEOOOOOOOOOOOOOOOOOOI‥‥ッ！！」
　ほぼ同時、両手を地面に付けてRIKISHIが唸りを上げた。
　それに反応するように各機――ほぼ全機にロックオン警告が鳴り響く。
「各機、敵腹部と距離を取って散開！　‥キャンセラー起動！」
　アンジェラの警告前後で、既にほぼ全機が回避機動に移っている。アンジェラは機体を加速させつつスキルを発動させた。
「NOOOOOOOKKKKOOOOOOOTTTTTTAAAAAAAAAAAAAAAAA！！！！！！」
　咆哮を上げながらRIKISHIが――腹を突き出した。
　押し出されるように、腹部が丸ごと前側へ開放。そして――蜂の巣のようにビッシリ詰め込まれた大量のミサイルが、次々に発射炎を噴き上げて外へ飛び出した。
　空を埋めつくす爆炎の嵐。
　全弾避けきれた者は居ないが、それでも損傷は軽く済んだ。もし不意を突かれていれば墜ちている機体もあったかもしれない。
　だがRIKISHIは俄かに勢いを取り戻した。マゲの主砲を薙ぎ放ち、目からの光線を地上にも注ぐ。

「あれは‥‥。劣勢、なんでしょうか‥‥」
　零次が被撃墜兵の傷を手当てしながら顔を上げる。
　それでも負傷者が残されているここを離れるわけには‥‥。
　ふいに、その肩を誰かが掴んだ。
「‥‥傭兵、大丈夫だ‥‥。行ってくれ‥‥っ」
　小銃や剣を杖代わりにして立ち、血を流す能力者達が無理矢理笑って言葉を掛ける。弱々しい声で。
　そんな姿を見せられて、動くなという方が無理だった。
「すみません‥‥。――必ず、戻って来ます！！」
　零次は宣言し、KVへ乗り込む。操縦席では戦場の逼迫した通信が駆け巡っていた。
『くっ、ジリ貧ですねっ。こうなったら‥‥少尉！』
『了解。吶喊して奴の目を潰す！　続ける者は続けッ！』
　イカロス二機がRIKISHIへ吶喊。戦車砲とD−02の火線が敵の顔面――目の側で弾けた。
　だがほぼ怯まず、RIKISHIは目から反撃光線を放つ。それにバイパーが被弾。破孔から黒煙を噴いた。
　だがその二機の背後から、さらに未早機が接敵をかける。
　目を狙いAAMを全力発射。巨大な目標へ直進するミサイルは、しかし咄嗟に顔を振ったRIKISHIのこめかみに着弾、爆破した。
「隼瀬さん、右です――！」
　未早がやや後方から加速していた、真珠色のKVへと告げる。
「これなら――どうだッ！！」
　隼瀬機の腹部からせり出したオメガレイの長砲身が輝きを発し、強烈な光線を発射。放たれた六条の光条は――RIKISHIの片目へ吸い込まれた。
「GOOOOOOOOOOOWAAAAAAAAAAAAAAAAAAASUUUUUUUッッッ！！！！！！」
　RIKISHIが目を覆いながら悶絶する。マゲが輝き――KV群を消し飛ばそうと閃光した。
「ちっ！　そろそろあれを剃っちまおうぜ！！」
　健二はRIKISHIの頭部へと目を向ける。各機から了解の応答を聞くと、真っ先に健二機が吶喊した。
　巨大な砲塔であるマゲはそれだけに他の部位よりは狙い易い。両足を封じられている事もプラスに働いている。
「ならこちらは正面で惹きつけるか。もちろん‥ぶちかまさせてもらうがな」
　さらに苦笑する透夜機が、わざとRIKISHIの視界中心に飛び込んで吶喊を掛ける。囮だ。
　その隙を突き、第一撃の健二の剣翼が――火花と頭髪を巻き上げてマゲを通り過ぎる。
「UGOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA！！！！！！！」
　よっぽど大切な物なのか、RIKISHIは両腕を振り回して抵抗した。
　しかしそれをすり抜けて――未早機が敵の眼前で挑発するように翼を振る。
「こうして並んで跳ぶ戦友の翼がなんて心強いか。これだけの規格外の敵相手でも――負ける気なんてまったくしないですねッ！」
　敵の攻撃が作る乱気流に煽られながら、しかし未早は全ブーストを発動して強引に姿勢制御。さらに敵の目前を飛び続ける。
　その隙に、次々と剣翼を閃かせた各機がマゲを剣翼で引き裂いていた。
「さっさと髷落として、只のデクの坊になりやがれッ！！」
　シンが叫び剣翼を振るう。髪と頭皮の下の、鋼鉄砲身が火花を立てて抉れる。
　さらに続く綾乃機とユーリ機。低空から急上昇してマゲを攻撃する。その後ろへ蓮夢も高速で吶喊すると、頭皮ごとマゲ砲を削ぎ取った。
　やがてRIKISHIの頭髪は半分以上が削げ、頭皮がまばらに露出する。
　その頭上に飛来した真琴機、リヴァル機、瑞姫機。三機はそれぞれの着陸能力を駆使して――頭部への強行着陸する。
「GOWAAAAAAAAAAAAAAAAAAASUUUUU！！！！」
　しかしRIKISHIは異物が乗った事を認めて、激しく頭を振った。
「クッ――！」
　三機は変形を断念。代わりに弾幕で頭部を焦がした。
　直後三機は宙へ投げ出されたが、どうにか態勢を立て直して再び空に舞う。
　さらにブレイズ機と鹿嶋機が接近。二機も空中変形から頭部へ着陸を掛けるが――RIKISHIが他のKVを追いかけて頭部を動かした。
「マズイッ――！」
　降下する二機の下から地面が消える。
　焦った二機がブーストを噴かせて頭部を追おうとしたが、人型形態のデタラメな空力抵抗の中でさらに推力を掛けたためにバランスを崩した。機体は高速で激しく錐揉みしだす。
　直後、二機は肩部に激突。さらに胸、腹とぶつかりながら地面へ落ちていく。
「‥‥各機、頭上への降下は諦めて！　危険過ぎるわよ！」
「了解、降下しなけりゃ良いんだな！　さぁー、行くぜミスト！！」
　エイラ機が加速、頭部の主砲の直上でタイミングを見計い、タメを作って――降下した。
「いっけー！！　Magneettinen　kolminkertainen　hyokkays（磁力三連撃）！
Aichi（１）！　Oleskelu（２）！　Ystavat（３）！」
　スカイセイバーがスキル起動で空中変形。エイラは母国語を叫びながら真デアボリングコレダーの三連撃を叩き込む。
　盛大に火花を噴き上げる主砲。エイラ機は即座に再変形する。
「DOSXOOOOOOOOOOOOIIIIIIIIIIIIII！！！！！」
　怒りも露わにRIKISHIがそのKVへ主砲を向けた。
　だが入れ替わるようにして、別方位から隼瀬機が飛来する。
「あらら、だいぶ抜けたな‥‥。じゃあこれで――永久脱毛しちゃえ☆」
　もうマゲには髪がまばらにしか生えていない。
　そこへ隼瀬が――Gプラズマ弾を投下した。
「NOOOOOOOOOOOOOXXXOOOOOOOOOOOOTTAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA！！！！！！！！」
　何も残らなかった。青い爆風が頭部を不毛の大地に仕立て上げる。主砲も一際大きな火花を噴き上げて‥‥沈黙した。
　マゲを落とされたRIKISHIは途端に脱力したように、両手を地面に付く。

「チャンスよ！　全機、一斉攻撃を！！」
　アンジェラが叫び、自らも前進して火砲を叩き込む。全機が一斉砲撃をRIKISHIへ掛けた。
　だがさすがに、敵も全身を動かして抵抗を試みる。
「動力炉の位置はまだ特定できないか！？」
　リヴァルが回避に専念しながら、後方へ問う。
『ナトロナ基地のポボスだ！　すまん、こんな巨大ワームに関してはデータ不足だ‥‥分析し切れん！』
「‥‥クッ。ならば。グレッグ整備長はいるか！？」
『‥？　ああ、分析に参加してる！　だが‥‥』
「勘で良い。グレッグ、動力炉の位置は‥‥君ならどこに積む！？」
『俺なら‥‥？　俺なら――‥‥よし、言うぞ！！　慣性制御装置は、腹の中心だ！！』
　グレッグが半ば自棄のように叫ぶ。
　巨腹の厚い装甲の内側。そこが一番良い場所に思えたのだ。
「トドメを、刺したら、ちゃんこ鍋‥‥。約束、覚えて、ますね？」
　ルノアは地上を駆けながら、隣の綾へ声を掛ける。
「分かってる‥‥だが、俺は負けない！！」
　綾機がRIKISHIへと装輪で目指す。
「‥まったく。後で連れて行ってやる。
　全機、フォーメーション、――仕掛ける！」
　リヴァルの号令に合わせ、各機が地面に強行着陸して変形していく。
　即座にそれを狙おうとするRIKISHIの目を、強烈な弾幕が阻止した。
「GOWAッッAAッAASU――ッ！！」
　声にならない苦悶の声を上げるRIKISHI。とうとう片目から光線は出なくなった。
　それを地上から撃ち抜いたのは、各部から火花を立てるK−111。
「もう少し、派手に行きたかったのだが‥ね」
　UNKNOWNは頭から一筋血を流していた。巨体を駆け登ろうとしたが、あまりの激しい挙動に振り落とされたのだ。
　仰け反り、膝立ちの姿勢になったRIKISHI。
　しかし巨腹は今、ミサイルを全弾撃ち尽くしてハッチを閉じていた。
　だが――そこへ強引に吶喊する機影。イカロス隊、クロウ隊、そして綾乃機とユーリ機、ラウラ機。
　ハッチの継ぎ目を各機が掃射する。RIKISHIの腹を沿うように弾痕が穿たれていく。
　さらに中央から吶喊したラウラ機が、空中変形した。
「ハッチをこじ開けるわよ‥！」
　接近し、練剣『雪村』の柄を握りこむ。圧縮発射された巨大光剣が左脇腹の接合部を焼き裂いた。
　いや、その一撃だけでは無い。接合部に沿うように、白銀のラウラ機が空を翔ける。
「これで、最後――ッ！！」
　右脇腹へ雪村を振るい、ラウラ機は変形。高速離脱。
　直後――、接合部を全て破壊された巨腹の装甲が音を立てて外側へ開放された。

「‥！？　チャンスだべさ！！」
　桃太機が走り出す。しかし、振り上げた機刀は顔や腹にはとても届きそうに無かった。
「‥こんだけ体格差ある相手に、真正面からカチコミかけるなんざ‥ぶっちゃけ、桃太朗って言うより一寸法師じゃねぇか？」
　シンが上空から体格差を俯瞰して半ば呆れたように呟く。
　それを聞いた桃太の僚機、ロアンナがハッと顔を上げた。
「一寸法師‥？　なら、その伝説にあやかるとします！！」
「え、ロアンナさん！？　何をするだ！？」
　桃太に応答しないまま、ロアンナが変形して緊急離陸。そのままRIKISHIの頭上へと飛ぶ。
「‥‥！　駄目よ、空中変形からの着陸は――！」
　アンジェラが制止しようとしたが、遅かった。
　上空で推力を完全に切り、失速して奇跡的に人型に変形したシラヌイが、激しく機体を揺らしながら人型形態で落下する。
『早く変形を！　一度バランスを崩したら回復は困難よ！』
　通信機からアンジェラの声。だがロアンナの眼下には敵の無防備な頭頂部が見ていた。これほどの好機――着陸は無理としても。
　ロアンナ機が侍刀を高く振り上げる。だがその動作だけで機体は錐揉みに入った。
「くっ‥‥せめてこの一撃をッ！！」
　回転する視界の中で、ロアンナの集中力は限界まで高まっていた。侍刀を手にしたままRIKISHIにぶつかる。実力を超えた奇跡の一撃が空を切り裂き――RIKISHIの後頭部へ突き刺さる。
「GOOOOOOOOOOOOGAAAAAAAAAAAAA！！！！」
　後頭部を貫かれRIKISHIが地面へ両手を付く。
　それとほぼ同時、姿勢を回復できなかったロアンナが墜落――大破した。
　だがそれを見届ける間も無く、即座に敵両手へ二機の雷電が疾駆する。
　――先ほど墜落したブレイズ機と悠機。厚い装甲でどうにか大破を免れていたのだ。
「翼は折れてもイカロスは落ちない‥‥！　支えあう仲間が居るからな！」
「一つ‥‥ダルマ落としと行きますか――！」
　片翼はへし折れ、操縦席で血を流しながら、それでも二人は操縦桿を倒す。
　両手へ向けて二機が同時に振りかぶる――巨大ハンマー。
「「喰らえ――――！！！」」
　身体を支える両手に、二つの巨大質量が衝撃を加わった。
「GOOOOAAAAッッ！！！」
　骨を砕く音がしてRIKISHIの両手は外側へ跳ね跳ぶ。支えを失った上半身が地面へ崩れ落ちた。
　そこへピリオド作戦の地上KVが殺到する。腹下へイカロス隊とクロウ隊が潜り込むと、一斉砲火で腹部を穿った。
　さらにブーストを掛けたリヴァル機が接敵。腹下の傷へリニア砲を抉り込む。
「これが俺が掲示する最後の‥‥ピリオドだ‥！」
　リヴァルがPRM全力注入、リニア砲の引鉄を――締め上げた。
　砲弾が貫通し、背中から爆ぜて突き抜ける。青空へ。
　RIKISHIの慣性制御装置が腹部内で爆発し、辺りに肉と鉄片を撒き散らす。
「DDDDDOOOOOOOOOOSSS‥XOOOOOOOOOOッIII‥‥！！！！」
　身体を支えきれずに完全に巨体は倒れこむ。もがくように腕を重々しく振り、片目から直近のKVへ光線を出した。
　だがそれも最後のあがきに過ぎない。
「リミット解除‥‥」
　装甲展開、超限界稼動を発動する覚羅機。
　高速で駆け、放たれる光条を回避しながらRIKISHIへと接近していく。
「黒焔凰の全力攻撃‥受　け　ろ　ッ！！」
　高く跳び――機斧『パラシュラーマ』のブースターを起動。漆黒の黒焔凰が最大火力の一撃を脳天に叩き込んだ。
　深く食い込み、衝撃でRIKISHIの顎が地面へ叩きつけられる。
　一直線に並んだ各機が、真っ直ぐその顔へ殺到した。
「俺たちは負けない、鋼鉄の翼にかけて！　‥だから遠慮なく貰っていけ。俺の最大の一撃ッ――！！」
　ブーストジャンプで頭部より高く跳んだ透夜機『月洸』。
　ルーネ・グングニルを起動して、空から加速降下する機体が――赤く輝いて眉間に鋭い穂先を突き刺した。
　RIKISHIの頭蓋を直接吹き飛ばすような激しい爆炎。
　だがそれに反応するより早く、次機が強襲していた。
「私達姉妹には【必殺技】みたいなものは無いけどっ‥‥」
　銀筒を振るい綾乃機がスキル起動。
　各部スラスターを噴かせ、突進しながら回転する。それに合わせて、練剣「白雪」が高速でRIKISHIの顎から口を切り裂いた。
　直前、その後ろから真紅のOGREも跳んでいた。
「アタシら二人‥‥いや、皆で力を合わせりゃ、それが強力な【必殺技】になる！」
　ツインブーストBを起動した真琴機が両腕を振るう。
　綾乃機が切り裂いたRIKISHIの口から顎。そこから露出する骨を――真琴機『凰呀』が赤爪で砕き、削り取った。
「UOOOOOOOAAAAAAAAAA！！！！」
　血まみれの咆哮をRIKISHIが上げる。痛みに耐えかねて全力で仰け反り、地上から高度を取った。
　だがその先からも、仮染　勇輝（gb1239）機『Chronus』が飛来する。
「全ブースター及びスキル発動、エクシード・ドライブ！　デュアル・カラドボルグ！」
　空中変形の封印を解き、全ブーストを噴かせて蒼のフェニックスが人型へ変形。こちらへ目を向けた敵へ、練剣『メアリオン』の鋭い突きをくれる。
「OAAAッッ！！」
　攻撃を受け、RIKISHIが目から射出した光線は彼方へ飛んだ。
　そして勇輝機が右腕の本命『オートクレール』をその目へと叩きつける。
「OWAAAAAAAAAAAAUUUUUUUUUUッ！！！」
「まだ‥‥終わらせない！」
　勇輝は空中変形分の行動力すら捨てて――攻撃を続けた。
　RIKISHIの眼球から血飛沫が上がり、と同時に光条が奔る。
　光剣と交差する形で――勇輝機は被弾した。
「クッ！　‥‥俺の心にも奴等と同じ翼が宿ってるんだよ！　――超え行け、俺の屍をッ！！」
　墜ちていく勇輝機の後ろから――二機のKVが駆けた。
　高く跳んだ白いディアブロ『曙の雀』と、地上を疾駆する深紅のS−01HSC『Rote　Empress』。
　二機が天地両方から挟み込むようにして、RIKISHIへ殺到する。
「冥土の土産だ。天下御免の向こう傷、付けてやるよッ！！」
　綾機が上空から額へと振り下ろす――朱色の魔王剣。
　敵を切り裂くと同時に振り切った剣を手放すと、裂傷と交差するように――雪村の巨大光剣を刻み付けた。
　頭蓋を砕き斬る十文字斬り。
「GOWA‥‥AAAAッSUUU‥‥！！」
　震えながら、額へ手を伸ばそうとするRIKISHI。
　だがその前腕を機刀が貫く。それを取っ掛かりにしてルノア機が跳んだ。
「Rot、Wing、ルノア、アラバスターと‥赤の女帝‥。振るうは――大神の槍！！」
　掴んだ機槍『ルーネ・グングニル』が火を噴き、加速する。
　ルノア機がブースト、スキルを加えた機槍をその顎下から突き上げると――半ばまで穂先は貫通。
　液体火薬を放出した。

「GOTTTTUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNN！！！！！！」

　断末魔と同時に爆発の轟音が響き、RIKISHIの頭頂部から炎が噴き上がる。
　一瞬硬直する巨体。だが力尽きるように、巨体は地面に沈み。
　――そのまま二度と、動かなくなった。


●最終任務完了
「‥‥此処から、此処まで、全部、お願い、します」
　和食店でルノアがニッコリと、メニューを指差した。一番上から一番下まで。
「あの、えーっと。程ほどにしてね？」
　隣で引き攣った笑みの綾が財布を覗いて青ざめていた。
「任務、お疲れ様。ゴホン‥‥俺たちイカロスは――」
「かんぱーい！！」
　ライトの長話に割って入って、ヒータがコップを掲げる。全員が「かんぱーい！」と続く。
　ポボスなども含めて戦闘に参加した全員がその場に居た。
　立ったまま固まっているライトへ、綾乃と真琴が悪戯っぽい笑みを浮かべて近付く。
「お二人さん♪　結婚式にゃ呼んでね☆」
「下さいね☆」
「「‥‥う」」
　耳まで赤くした二人は言葉に詰まった。
「はい、トドメを差した記念よ」
　アンジェラがルノアへ奢る超巨大和風パフェに、ルノアは目を輝かせる。
　そうして、宴会の場は騒がしく盛り上がっていく。
　ちゃんこ鍋をつつくカルマと武流、バルトと飲み勝負をする未早、ご飯をお代わりするブレイズ、陽気に騒ぐ健二。
　黙々と食べる蓮夢、物思いに耽るドゥ、窓から空を見上げ黙祷する聡、瑞姫と共に歌いだすエイラ、それにハモるヘイル。
　肉体美を振りまくゼンラー、笑いが怪我に響く勇輝、ジュースを飲み干す隼瀬に緑茶を啜る零次。そんな宴を覚羅が微笑んで見守る。
　その一端で座る桃太の隣へ、包帯をぐるぐる巻きにしたロアンナが苦しげに座った。
「ふぅ‥。桃太君。全ての戦いに決着がついたら、また村に寄らせていただきますね。あの村が‥希望と未来に輝く光景を見てみたいですから」
「うん。待ってるだべさ。ロアンナさん」
　二人は温かい握手を交わす。
「さて――私は次があるから、これで失礼しよう」
　一升瓶を空けたUNKNOWNがふいに席を立つ。
　宴もたけなわを過ぎ、ゆっくりと終わりの気配を漂わせていた。まばらに、だが確実に、宴会場から人が消えていく。
　人が半分ほどになった頃‥‥会計へ向かった綾の後ろにスッとリヴァルが立ち、紙幣を差し出した。
　‥‥宴が終わり、外へ出た彼らの目に――ふと数機のKVが飛来する。
　イカロス隊の門出を祝って、悠やユーリをはじめとした数機が空のキャンバスにスモークを走らせているのだ。
「‥例えどれだけ離れていても同じ青い空の下だ。そこに‥希望の翼は羽ばたいている」
「‥ま、何処かの空でまた逢おう‥そして、バグアの連中を思う存分叩きのめしてやろうぜ！」
　透夜とシンはそう言ってライトとヒータの肩を叩いた。

　またどこかで――――会えると信じて。



LAST　MISSION　of　AOIEU
fin．