●リプレイ本文
●門前
「‥‥ニンニン、か」
黒装束に身を包んだホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)はその建物を見上げて呟く。
「‥これが噂の忍者屋敷‥」
ゴクリと唾をのむミオ・リトマイネン(
ga4310)は、胸元の大きく開いたくノ一姿だった。
「うっひょー! ミオちゃん良いねぇ!」
マクシミリアン(
ga2943)は諸手を挙げてその衣装に喜びを隠さない。
「え? くの一ってこういう格好するものなのでは? 兄がやってたゲームのくの一はもっと露出多かったですし‥‥」
ミオのその言葉に、
「うん、そうだよな。それで普通だよ、うん」
マクシミリアンは嬉々として同意している。
「忍者屋敷とはなかなか楽しそうだね♪ おまけに能力者用の特別版ときてるし」
黄忍に化けた御凪 由梨香(
ga8726)はワクワクと目を輝かせながら忍者屋敷を仰ぐ。
「ふふん、まぁ楽しみね」
挑戦的に言い放つ藤堂 紅葉(
ga8964)は、超ミニスカートと、上着は肩口までしか無い袖、おまけに色は銀色とゴージャス&セクシーなアレンジが加えられている。
「ふふふふ、拙者も張り切ってニンニンするでおじゃる」
最年少の純白くノ一、芹架・セロリ(
ga8801)は不敵に笑う。‥‥が、微妙に語尾が忍者ではなく麻呂である。
「赤色は‥しっかりしなければっ! が、がんばります‥‥」
赤の装束を着て、赤=リーダーの図式が成り立っているらしい月夜魅(
ga7375)は緊張した様子だ。
「よし、行こうぜ! It’s a showtimeだ!」
マクシミリアンの声に乗って、七人の能力者達は門を潜ったのだった――。
●キャッチフレーズ
『忍者屋敷』『隠密する』『チャンコ』
『のこった』ホアキン
『色仕掛け』ミオ
『美味しいご飯』月夜魅
『輝ける』由梨香
『死屍累々』セロリ
『アナタのハートに』紅葉
『〜でござるの巻』マクシミリアン
●放送
日曜日。
三人の親子が退屈にテレビを見て過ごしている時――。
ふと『スタンプラリ〜忍者屋敷』と画面一杯に映し出されているチャンネルに行き当たった。
?と首を捻る家族。
構わず画面は切り替わると、
『のこった!
隠密するアナタのハートに美味しいご飯!
輝けるチャンコ、その色仕掛けに死屍累々する忍者屋敷でござるの巻!』
ババーン、と音を立ててそんな文字が映った。
「‥‥おいママ。何だこりゃ」
「さぁ、私だって聞きたいわよ」
「死屍累々って何?」
三人の混乱をよそにCMは進行していく。
●試練一
カメラは広い道場と一人の忍者、三蔵を映していた。
「ふふふ、さぁ七忍達よ! 我がニン術の数々、とくとその身で味わうがニンニンッ!」
その言葉を追うようにカメラは動き――七人の能力者を映す。
「どんな忍術が出てくるか楽しみだね!」
その一人、黄忍の由梨香が無邪気に応じていた。
「忍術、忍術と申したか! 任せるでおじゃる! 秘密道具その1、煙玉!」
白忍セロリは懐から怪しげな包みを取り出す。ふふ、と不敵に笑うと、三蔵へ向かって思いっきり投げ付け――――。
‥‥ようとしたら、途中ですっぽ抜けて煙玉は真上へ飛んだ。
あれ? という表情をセロリが浮かべた二秒後――、その頭上にブファッと広がる大量の胡椒。
「こ、これが忍法、秘密道具返しの術!? 敵ながらあっぱ、っぱ、‥‥パックショイ!!」
「わわ、ハッ、ハックシュン!」
「ブェーックショイ!」
七人に広がるくしゃみの嵐。
「ニ、ニン?」と三蔵も首を捻る。
「大丈夫なのか‥‥これ」
「能力者ってマヌケなのね‥‥」
テレビを見ながら、夫婦は能力者のイメージを一新させた。
「ゴホ‥‥。ったく、何やってんだ。‥‥私に任せな」
涙目で咳き込みながら、今度は紅葉が前に出る。
「む、来るニンか!」
身構える三蔵。それと同時――銀色の紅葉は地面を蹴った。
「これでも食らいな――お色気の術!」
言うと同時、スルスルッと紅葉の服が滑りおり、花柄ピンクのブラ紐食い込む肩と鎖骨が露出する。
クラッと頭が揺れるニンニン。効果は抜群のようだ。
しかし、その行動で火が付いたのは――ニンニンだけでは無かった。
「‥‥負けません」
ミオは前に進み出るなり、衣装の前に手を掛ける。ゆっくりな動作で焦らすように、白い肌の胸の谷間、鳩尾、へそを露出させていく――。
「‥‥あれ、お父さん、鼻血出てるよ?」
「ななな、俊司! 出てない! パパ出てないぞ!」
しかし慌てて鼻の下を拭うと、言われた通り鼻血がべっとりと付く。
だがテイッシュはテレビの上。
こんな映像を見せられたパパは、立ち上がる事が出来なかった。
三蔵は比較的落ち着いていた。
咄嗟に目を閉じて、そのまま後ろの壁まで飛び退る。
「ニンニン流、水遁の術!」
叫んでバッと壁の板をスライドさせると――太いホースを取り出した。
「「なっ‥‥!?」」
紅葉とミオへ放たれる激しい水流。常人なら骨折しかねない水圧が二人に襲い掛かる――!
‥‥十秒後、そこにはビショビショに濡れて倒れる二人の姿があった。
「‥‥不覚」
服の乱れを直しながら、ミオが悔しそうに呟く。
「‥‥あぁん、もっとイジメて‥‥」
紅葉はイケナイ回線が繋がってしまっている。
「よーし、良いぞもっとやれー!」
同行者のマクシミリアンは嬉しそうにはやし立てる。
「‥‥」
対照的に、ホアキンは顔を逸らして意識しないよう努めていた。
やがてミオと紅葉は仲間達の元へ戻って来ると、
「相手は危険だ‥‥気を付けるんだよ」
「‥‥私達の仇を‥‥とって下さい」
そう言い残して――ガクッと力尽きたように倒れた。
「嫌、嫌だよ! 紅葉、ミオーーーーーっ!!」
二人の側に駆け寄って由梨香が泣きそうな顔で叫ぶ。
「くそっ‥‥なんてこった‥‥!」
ホアキンはやり切れないように壁を殴りつけた。
「やってらんねぇな‥‥」
深く嘆息するマクシミリアン。
「良い奴らだった‥‥でおじゃる」
セロリが天を仰いでシミジミと呟く。
「皆さん、行きましょう‥‥! 二人の死を無駄にしない為にも!」
月夜魅が瞳に涙を溜めて高らかに叫ぶ。
そうして残された五人はキッと三蔵を睨みつけた――。
「うぅ、良い話だなぁ‥‥」
純情小学生の俊司は素直に感動している。
テレビ画面は現在『事情により、音声のみでお楽しみ下さい』となっており、チュドーンとかズドーンとかいう効果音が鳴っていた。
一体何が起こっているんだろうか。
俊司の両親は思ったが、それは誰にも分からない。
●試練ニ
『ニの試練、罠の間』
七人はなぜか全身煤だらけで大きな扉の前に立っていた。
「咄嗟に水弾きの術を使わなければ即死でした」
「えぇ、正直ギリギリだったわ」
いきなりそんな説明をしだすミオと紅葉。
しかもそれ以上の説明も無く、七人は次なる扉を開く――。
細長い部屋の奥――部屋の主、拙者二の助が座っていた。
「ふっふっふ、よくぞ来られた。さぁ、この罠の間の餌食になって果てるが良いでござる」
「ふっ‥‥笑止。右も左もトラップばかりの人生を歩んでいる拙者の前に、生半可な罠など通用しな、ぎにゃあああああ!?」
余裕綽々で一歩を踏み出したセロリの頭上から、大量に落ちてくる――タライ。
頭を両手で覆いながらセロリが涙目で叫ぶ。
「不意打ちとは卑怯なり! ならば秘密道具その2、ネバネバ玉!」
懐からまた秘密道具を取り出すセロリ。
それを思いっきり振りかぶって、踏み込む――と同時に罠を踏み、タライがゴーンっとセロリの頭に当たった。
衝撃でネバネバ玉は真上へ。
――そして二秒後、予想通りの結果になった。
「うぶわぁ! ま、まさか再び秘密道具返しの術!? ぐへぇ、たまに見かけるバカップル並にベタベタしやがるぜ!?」
「む、むむ?」
ニの助は戸惑っている。
一連の流れを離れた所で傍観していた六人達の見た限り、入り口に配置されているタライ起動スイッチはとても避けて通れそうには無い。
だが――。
「罠を気にしながら進むのは性に合わないのだ!」
黄忍の由梨香が高らかに宣言すると、あえてタライ地雷原に飛び込んでいった――!
「だ、ダメだよ黄忍! タライがっ――!」
画面に食い入っていた俊司が思わず叫ぶ。
それを聞きながら両親は、たかがタライじゃないか、とは間違っても言えなかった。
しかし――、由梨香は無傷だった。タライが落ちるより由梨香の走る方が速いのだ。
「おお、続くぞ!」
後ろで立ち往生していた六忍も由梨香に続く。
「ふっふーん、どうだー! おぉっと!」
壁から勢い良く出てきた槍を、ヒラリと由梨香はかわす。
しかし、その本物らしい槍を見て、ピタリとマクシミリアンが動きを止めた。
「おいおい‥‥、ありゃシャレにならんよ。怪我したらどうする。おじさんは一時退避だ」
マクシミリアンは言って安全そうな場所へ退避すると――バカァッと足元の床が割れた。
「へ‥? うおぉっ――!」
「マクシミリアンさん!」
月夜魅の呼び掛け虚しく、べチャッとトリモチに落ちる悲痛な音が響く。
「――ダメだ、戻るな!」
咄嗟に助けに戻ろうとした由梨香が、罠を踏んでいた。天井から落ちてきた鉄球を――ホアキンが紙一重で弾き飛ばす。
「‥‥ちょっと燃えてきました‥‥」
複数の矢を避けて胸を大きく揺らしながら、ミオは言い放つ。
「――ああ、紅葉が!」
セロリの声に振り向くと、紅葉が荒縄に絡み取られていた。‥‥なぜかセクシーポーズで。
「みんなやられていくよっ!」
「早くゴールして止めましょう!」
由梨香と月夜魅は罠を回避しながら走り抜けて、二の助に肉薄する。
そしてもう手を伸ばせば届きそうな距離になった時――。
ニの助は不敵に笑った。
「――秘罠、跳ね床どんでん返し――!」
「なっ――!?」
「わわ――!?」
突然床が激しく跳ね上がり、抵抗もできないまま宙に浮く二人。
来た道を一瞬にして戻り――入り口の地面に激突して、二人はやっと止まった。
――――沢山の、タライスイッチの上で。
――時間が凍り付く。
――まるで、ビデオのスロー再生のようだった。
――無数に落ちてくるタライの下、仲間の視線を受けて。
――――月夜魅と由梨香は、ニコリと諦めたように微笑んだ。
「「「月夜魅ーーーーーーーーーーーーー!!!!! 由梨香ーーーーーーーーーーーー!!!!!」」」
仲間達の叫び声と共に、ドンガラガッシャーンと無数のタライに埋もれて見えなくなる二人。
「はっはっは、残念だったでござるなぁ!」
悪役さながらの笑い声を上げる二の助。
「‥‥天誅、です」
ミオが静かに言い放った――。
テレビ画面は再び、『事情により、音声のみでお楽しみ下さい』というテロップに切り替わる。
「うぅ、赤忍、黄忍‥‥」
涙ながらに嘆く心優しき俊司。
しかし担当忍者にタッチして終わりのはずが、テレビからは二の助の壮絶な悲鳴が響いていた。
●試練三
『最終試練』
テレビ画面には、七忍達が肩を貸し合いながら最後の扉の前まで辿り着く映像が流れていた。
何故か服が擦り切れており、全身が泥で汚れている。
その満身創痍の七忍が扉を押し開けると――最後の試練が姿を現した。
「よもやここまで辿り着くとは予想外ごわす。‥‥全力で、相撲を取らせていただくでごわす」
「「「ごっつぁんです!」」」
「く‥‥これはっ!」
怯む七人。部屋には三十人近い力士が各々チャンコを食している。グツグツと煮え滾る鍋は地獄絵図。力士達を既に汗まみれに変えている。
「土俵の上は男の世界なんだよ!」
全身が胡椒とのりだらけのセロリはそろそろ投げ出し気味。
「やれやれ、絵的にも俺の出番か」
その時、今まで後方に徹していたホアキンが前に出た。目前の力士の一人に掛かって来い、と合図する。
同時に、猛然と襲い掛かる力士――。
激突する体と体、弾け飛ぶ汗!
「ここだけビミョーに何か違う気もするけど‥‥まあいいや」
由梨香も襲い掛かってきた力士の一人をいなす。力士は体勢を崩して後方に流れて――。
「――俺は嫌だぞ、相撲なんて。そもそも男と抱き合うなんて想像するだけで‥‥ぎゃああああああ!!」
ブツブツと文句を垂れていたマクシミリアンを押し潰した。
「この‥‥来るんじゃないわよっ!」
紅葉は部屋の隅にあった箒で力士をバシバシ叩いて抵抗する。どこか女王様の風がある銀忍に叩かれて、力士は心なし嬉しそうだ。
「美味しいご飯ですよ寄っといで!」
一方、月夜魅は懐から骨付き肉を取り出して地面に置く。
瞬間――、グルッと周りの力士全員が月夜魅を振り向いた。
「‥へ?」
「「ごっつぁんです!」」
「キャーーーー!!!」
逃げ遅れた月夜魅の叫びが響く。
その横では、突進してくる力士達をミオが機敏に避けていた。
「ふ‥この程度の罠(力士)で足止めなんて‥‥」
「ちゃ、チャンコが奪われたごわす!」
「捕まえるでごわーす!」
チャンコ鍋を強奪して逃げ回るのはセロリだ。
「忍者ちゃんこ、隠し味はまきびしだぜ?」
バラバラーっと黒いまきびしを撒く白忍。
「ご、ごっつぁんでーーーす!!」
まきびしを踏んだ力士達はバッタバッタと倒れていった。
――カオスに包まれた部屋で、黙々と鎮座する一ノ関。
その目前に、一人の漢が辿り着いた。
「さぁ、ハンコを貰おうか‥‥」
巻物を手に、静かに言い放つホアキン。肩で息しながら、全身(力士の)汗でまみれていた。
「おいどんを土俵から出せば、でごわす」
そう言って地面に手を付く一ノ関。
ホアキンも頷いて無言で構えると――、
チラリと、――懐の肉まんを一ノ関に見せた。
「むっ、それはっ――!?」
強烈な食欲に目を見開く一ノ関。
しかし、――既に取組は始まっている!
ホアキンは先手必勝で相手に飛びかかった――!
「関取忍法『押し出し』の術でごわす」
ホアキンの渾身の力を込めた突進。
直後、ズドーンという激しい効果音と共に、
「ぐおおおおおおおおおーーーーーっ!!!」
一ノ関はズザザザーと土俵の外へ一気に弾き飛ばされていった。
その映像は、カメラ視点を変えて三度も画面に流れる。
土俵外で呆然とへたり込む一ノ関。
「ま、負けた‥‥負けたでごわす!」
「ニンニン」
「ござる」
いつの間にか、現われた三蔵と二の助も加わると、巻物には最後のハンコが押された。
そして画面は切り替わる。
部屋の中央ではボロボロの姿になった七忍が笑顔でカメラに目を向けていた――。
『これにて、能力者七忍は免許皆伝!』
ドーンというテロップが出て、黒い背景に完という文字が写される。
テレビを見ていた三人は、それで我に帰った。
「うわー、面白かったー」
俊司はすっかりご満悦の様子。
「まぁ‥‥、色々アレだったが、悪くは無かったな」
お父さんも頷く。
「えぇ、そうね。‥‥ところで」
お母さんは首を傾げて呟く。
「来週もコレ――――やるのかしら?」
これを見た多くの人が、CMだと気付かなかったという。