タイトル:墜落兵員の救助マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/12 02:09

●オープニング本文


 先の大規模輸送作戦で、北米全体でバグアとの熾烈な戦いを繰り広げたUPC北中央軍。
 その作戦でのUPC軍側の被害は決して少ないものでは無く、特に能力者では無い一般空兵、KVを扱えない戦闘機乗り達は、その貴重な人生の終局を北米の大空へ幾つも飾っていった。
 しかし、機体を大破させた兵士達全てが死んでしまったわけでは無い。
 戦闘機の緊急脱出装置で生き長らえたものも、中には少なからず居る。その数はほんの一握りに過ぎないかもしれないが、それでも彼らは生き延びて待っているのだ。
 ――仲間の救助を。

 五大湖近くの原生林上空を哨戒中の戦闘機部隊が、ふいに一発の照明弾が森から放たれるのを見た。
 そこは先の輸送作戦で激戦区だった地域の一つであり、バグアに撃墜された生存者の可能性もある。
 部隊は高度を落とすと、照明弾が放たれた辺りを出来るだけ低速飛行で捜索してみた。
 よく見ると、森の所々でUPC北中央軍所属の戦闘機の残骸が見られた。更に捜索を続けると、森の少し開けた場所にパラシュートの布を空へ向かって振っている五人以上の集団を発見。
 低速とはいえ、ある程度の速度を出さざるを得ない戦闘機で、しかも木々に覆われて視界も悪い。戦闘機部隊は夜間ライトで集団に合図を送ると一旦撤退した。
「‥‥とそんなわけで、救助部隊を編成し救出へ向かえ、という任務が出たわけだ。とはいっても大作戦の後はどうもゴタゴタしててね。こういうイレギュラーな任務に対応するとなると各部署に混乱が起こっちまう。よって、諸君ら傭兵が召集されたわけだ」
 説明役の男は、集まった傭兵達を見回しながら言葉を続けた。
「ちなみに俺はライト・ブローウィン少尉。説明役兼同行役だ。一応俺も能力者でね、救急医療仕様のリッジウェイに搭乗して同行する。ちなみにこのリッジウェイは医療設備を積んでるから、乗せれる人間は六人まで、しかも兵装は突撃仕様ガドリングだけだ。戦闘力は期待しないでくれ。‥‥それと、他に同行するのは、兵員輸送用のジーザリオ三台とその運転兵。救出対象が何人か分からないから多めに車を用意したのと、今作戦は生身とKVに分かれるから生身の移動用だ。ただし、諸君らでリッジウェイに乗っている者が居れば、ジーザリオは連れて行かなくても良い。敵の襲撃が予想されるし、そうなるとハッキリ言って邪魔だからな」
 そう言って難しい顔をするライト少尉。
 その少尉自身、まだ任務を完全に呑み込んでいないのか、パラパラと手元の資料に目を落として溜め息を吐く。
「しかし、厄介な任務の担当させられたもんだな‥‥。救出に向かった頃にはもう生きてないかもしれないってのに、無駄足覚悟の決死隊なんだからそりゃ他のヤツらが嫌がるはずだぜ‥‥」
 ブツブツとそんな文句をボヤいた後、ハタと気付いて傭兵達に目を向ける。
「あ、えーっと、ゴホンッ。ちなみに場所はかなり激しい競合地域で、敵の襲撃が予想される。ワーム、キメラの両方の襲撃が、だ。もちろんKVの出撃許可も取ってあるから、適当に分けてくれ。場所が視界の悪い森な為に、キメラに対してはKVよりも生身の方が上手く立ち回れるだろう。ジーザリオが襲撃を受けた場合や、救出対象が襲撃を受けている場合は、KVからじゃ細かい対応が出来そうに無いからな」
 そう言うと、ライト少尉は「えーっと、他に何かあったかな」と少しだけ眉をひそめてから、そうそうと頷いた。
「後、細かい作戦は傭兵諸君で詰めておいてくれ。まぁちょくちょく顔を出すぐらいは出来るが、俺も色々とゴタゴタが溜まっていてな」
 ライトはそれだけ言い終えると、うむ、と頷いて手元の資料を閉じた。
「それでは失礼する。投げっぱなしみたいで悪いが‥‥勘弁してくれ」
 そうライトは苦笑して傭兵達に振り返ると、そのまま会議室を出て行った――。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

「KV準備完了。さて、厄介な任務の始まりだ」
 部屋に入るなり、ライトは苦笑を浮かべた。
「無駄足にせんよう――急げばいいだろ。
 1秒でも早く駆けつけてやろうじゃないか、なぁ窓際少尉」
 クスリと笑いながらリュイン・カミーユ(ga3871)が応じる。
 クラリッサ・メディスン(ga0853)も真剣な顔で頷いた。
「共に北米の空で戦った仲間なのです。
 必ず‥‥救出して差し上げましょうね。
 きっと帰りを待っている家族が居るはずなのですから」
 二人の言葉に、少し驚いた顔をするライト。
 それを見た寿 源次(ga3427)は微かな笑みを浮かべる。
「助けを待つ戦友がいる。迎えに行くのに理由は要らない、だろ?」
 ライトは、十人の傭兵達を見回し――無言で頷いた。

「無茶、しないで下さいね」
 KVハンガーで、水上・未早(ga0049)がベル(ga0924)に声を掛ける。
「‥‥未早さんも。俺は大丈夫です」
 ベルは淡く微笑んで返すと、そのまま自機に乗り込んで行く。
「未早さーん、出発するみたいですよー」
 迷彩塗装のライト機に乗り込みながら、生身班の石動 小夜子(ga0121)が呼ぶ。
 未早はハッとしたように振り向くと、そちらへ駆けた。
 そのすぐ隣、十字架とドクロ翼のエンブレムが付いたディアブロ。
 聖・真琴(ga1622)はそのコックピットで決意を固めていた。
 ――絶対に、みんなを連れて帰ると。
「KV出撃!」
 整備兵の声と格納庫に鳴り響くアラーム。
「さ〜て『迷子』のお迎えに参りますか」
 リッジウェイに乗り込んだ赤崎羽矢子(gb2140)は、不敵に言い放った。

 未早の提案で部隊は川を遡りながら目的地を目指していた。
「ここから競合地域だ。各員、警戒を強めてくれ」
 ライトが通信で空のKV三機、地のKVニ機、そしてライトのリッジウェイ後部に搭乗する五人に伝える。
「上空了解や。今のとこ敵みたいなんは見えへんなー」
 ディアブロに乗る烏谷・小町(gb0765)は警戒しながら答えた。
「もう少し行けば目的地、か」
 事前に地図を確認しておいた山崎 健二(ga8182)は、現在位置を確かめながら呟く。
 地上を走る三機のKVも、ときおり飛び出してくるキメラを跳ね飛ばしながら進んでいく。
 そして予定ポイントに来て、川沿いから森へ進路変更した時――。
 ふいに全機のレーダーが、消滅した。
「敵襲かッ!?」
 リッジウェイのコックピットから源次が叫ぶ。
「‥‥! ‥‥‥ッ」
 しかし、激しいノイズが通信を掻き消している。
「‥‥二時の方‥敵だ‥!」
 辛うじてすぐ側の真琴機から通信は入った。
 それにライト機と源次機は同時に振り向き――向こうから迫るゴーレムと、超低空飛行のキューブワーム三体を視認する。
「自分等が引き受ける。迎えに行ってやってくれ!」
 言い放つなり、源次のリッジウェイはガドリングを撃ち放つ。怪電波の影響で砲弾は大きく逸れるが、ゴーレムの気は引き付けた。源次機へバルカンの応射が来る。
「無茶するなよッ!」
 ライトが叫び、そのまま医療用リッジウェイは単機で目標地点へ駆り出す。
 しかしその怪しい機体を見たゴーレムは、ふいに源次機から標準を変えて――ライト機にバルカンを向けた。
 ――轟音。
 同時にゴーレムは、――すぐ横のCWが大破するのを見た。
 そんな横っ面へさらに衝撃、二発の砲弾が装甲を砕く。

「よそ見してないでホラ来なよ♪ 木偶の坊、アンタの相手はアタシだ」

 ショルダーキャノンから硝煙をなびかせて、十字架ドクロのディアブロがゴーレムに中指を立てる。
 振り返り、そちらを向いたまま黙して立つゴーレム。
 だが、その右手がおもむろに巨大アクスを抜き払うと――怒れる獅子のように駆け出した。

「‥‥敵機確認。HW3、CW3です」
 上空でベルが敵を視認し、通信と外部スピーカー両方を開いた。
「ラージフレア、投下やっ!」
「そンじゃ、派手にパーティ開始といこうぜ!」
 小町機が高性能フレア弾を周囲にばら撒き、健二が号令を掛けると、三機のKVは高速で敵との距離を縮め出す。
 しかし、それを迎撃するように――赤い閃光が空を奔った。
 三機は一挙に急旋回を掛けて回避を試みる。だが、CWの影響で反応が遅れた。
 ベル機と小町機が直撃。激しい衝撃と共に胴部装甲の一部が吹き飛ぶ。
 健二機だけが閃光に擦れるようにして、ギリギリで回避する。
「ったぁ〜。やりおったな、反撃や! CWは物理に弱いって聞くけど、どこまで弱いんかなー!」
 接敵した小町機は試作型スラスターライフルをCWに発射する。高速で放たれた六十発の砲弾は――、CWを文字通り蜂の巣にして完全破壊した。
 早々にCWを撃破した小町機を三機のHWが取り囲んだ。そして、後ろを取った一体が紫のフェザー砲を撃ち放つ――――。
 その空間を突然、一発の銃弾が割り込んだ。
「‥‥やらせません」
 後方からベルのスナイプ。被弾したHWは照準を狂わせ、小町機のすぐ横――ラージフレアを焦がす。
 ベル機のリロードと同時にもう一発の銃声が轟き、別のHWの照準も狂わせる。結果、小町機は三機目の砲撃を被弾しただけに留まった。
 そのやり取りの隙に――健二機が猛然とCWへ迫る。
 それに気付いたHWがフェザー砲を撃ち放つが、健二機は勢いを止めない。CWへ一直線へ向かい、高分子レーザーを放つ。そして――。
 すれ違いざまのソードウイングが、CWを真っ二つに切り裂いた。

「‥‥! 遭難兵だッ! 戦闘機の上で旗を振ってる、生きてるぞ!」
 ライトが内部スピーカーで、後部の傭兵五人へと通信する。
 その連絡に傭兵達は安堵の溜め息を吐く。
 しかし突如、機体に大きな衝撃が走り――停止した。
「ラ、ライト少尉、どうなさいました?」
 操縦席との連絡用受話器を取りながら、小夜子が呼びかける。
「くそっ、ダメだっ! この辺が侵入限界らしい。これがキャタピラなら‥‥。仕方ない、諸君らはここで降りて対象の救出に向かってくれ」
「了解しましたわ」
 小夜子は受話器を置く。
 傭兵達の準備は出来ていた。未早はリッジウェイから救急物資を取り出して背負い、羽矢子は塩の袋を持つ。
「よし、開けるぞ」
 瞳と髪を黄金色に輝かせて、リュインがリッジウェイの後部扉を開いた。
 生身班の目の前に原生林が広がる。
 そしてリッジウェイのなぎ倒した木の前方に――戦闘機の残骸と旗を振る遭難兵の姿があった。
「‥‥周囲にキメラの姿はありませんわね。救助へ向かいま‥‥」
 クラリッサの声を、突然銃声が掻き消した。
 振り返って見ると、遭難兵は旗を手放して下方へ拳銃を撃ちながら飛び降りていた。同時に響く何人かの叫び声と幾発かの銃声。
「まさかキメラ――!?」
「急ぎましょう!」
 駆け出す傭兵達。
 既に銃声も叫び声も無くなっている。聞こえてくるのは後方と上空で交戦するKV達の衝突音。
 そうしてようやく辿り着いた戦闘機の残骸の下には――、しかし、人の姿は無かった。
 絶命している異形の獣と、木と布で作られた旗、――それとおびただしい血。
「キメラの血なら良いんだけどね‥‥」
 羽矢子が言って辺りに視線をさ迷わせる。
 傭兵達は周りに遭難兵の気配を探したが、CWの怪電波の影響か、頭痛や不快感で集中できない。
「‥ナタデココに負けて堪るか。我ら以上に、待つ者は苦しいだろうしな」
 リュインは呟いて周囲に視線を巡らす。しかしキメラの姿も無いが、遭難兵の姿も忽然と消えていた。
「‥‥二手に分かれましょう」
 未早の言葉と共に、生身班は別れて捜索を開始する――。

 ゴーレムに向かって真琴機が体当たりを敢行、ほぼ直前まで迫ったソードウイングは必中かと思われたが――。
 ゴーレムは一切微動だにせず、――横へ体をスライドした。
 慣性制御を最大限に活用した回避行動。
 さらにゴーレムは真琴機の無防備な背中を狙い、アクスを思いっきり振り上げる――!
「――はン☆甘ぇよ!」
 真琴はブーストを点火。ディアブロ各部に取り付けられたスラスターが火を吐き、急速に真琴機をスライドさせて――アクスをかわした。
「似たような『真似』ぐらい出来ンだよっ!」
 外部出力で猛々しく叫びながら、ライトニングファングで切り裂く。青白い火花を上げ、ゴーレムはよろめいた。
「せいやぁっ!」
 そこへ源次機がレッグドリルをゴーレムに打ち込む。火花を散らして装甲が抉れる――が、そこから源次機はゼロ距離バルカン射撃食らう。
「‥‥損傷軽微だ! リッジウェイ、お前とならばやれる!」
 源次機は距離を取り、今度はCWを狙う。ガドリングが火を噴き、一体を損傷させた――。

「よし、最後のCW撃破だっ!」
 通り過ぎた健二機の後方で、CWが爆発して朽ちた。
 しかし、その健二機を狙って放たれる紫の砲撃。
「ちっ、浮いてるだけの的を射抜くのは簡単だが、でけぇハエが目障りだな」
 砲撃を避けながら健二は呟く。
 そのノイズが減った通信に、小町の焦れたような声が入った。
「あかんわ、地上にもCWがニ機居る! うちそっちの援護に向かってええかな!?」
「‥‥了解です、向かって上げて下さい」
 ベルは言って、小町機に取り付いているHWにG放電を三連撃放った。見事に被弾したHWは方向転換すると、フェザー砲で反撃する。
 ベルがHWの引き付ける間に、小町機は戦線離脱。
 浅い川へと強行着陸を図り――接地した。
 しかし川幅は狭く、直線でも無い。川沿いの木に幾たびも機体をぶつけながら、小町は機体を大破させないように必死で操作する。
「ええい、CWめ! 面倒なトコに陣取りよってからに!!」
 叫びながら30mほど滑走して――ボロボロの小町機はやっと止まった。

「‥‥居たッ! 見つけたよ!」
 草を掻き分けると同時に、羽矢子は遭難兵の集団を発見する。
 声に弾かれたように遭難兵は銃を向け――すぐに下ろした。
「やった、救助だっ!」
「おい、助かるぞ!」
 兵士達は口々に歓喜の声を漏らす。
「バカ、汝ら少し静かにせんか。まだ敵地だ」
 リュインは咎めるように言う。その声で、兵士達は押し黙った。
 兵士は全部で八名。無傷の者は居らず、全員がどこかしら負傷していた。内の二人は横になっており、傷が深そうだ。
 リュインは、遭難兵発見を伝える黄色の照明弾を上空に撃ち放つ。
 同時に羽矢子が塩袋を取り出して全員に舐めさせていった。
「今はこれで我慢しといて。帰ったらたっぷりスパイスの利いた料理とビールで乾杯といきましょ」
 それから怪我人の応急処置を始めようとした時、ガサッと草の揺れる音が届いた。
 仲間かと振り向いた先には――赤い瞳。
 キメラだ。

「マズイな」
「だね。囲まれてるよ」
 敵は四体。
 遭難兵を守るのはおろか、自分の身さえ危ない数。
 そしてキメラが、兵士に襲い掛かる――!
「うあああああああ!!」

 ――しかし突如、一発の銃声が獣の眉間を貫く。

 血しぶきを上げて、兵士に力無い体当たりを食らわす亡骸。
「――お待たせいたしました」
 森の奥から、小銃を構えた小夜子が微笑んで姿を見せた。
 続いて鳴り響く連続した銃声。
「兵士の皆さん、立ってください。怪我人には担架を‥‥!」
 シエルクラインで二体のキメラを仕留めて、未早は持ち出してきた救急物資を兵士の一人に渡した。中には水や簡易担架、モルヒネなどが入っている。
 さらに続けて放たれた光線がキメラを貫いた。それからクラリッサは重傷者に駆け寄る。
「私たちが来たからにはもう安心なさって下さい。必ず皆さんをご家族のもとに連れ帰って差し上げますからね。もう少しの辛抱です」
 必死で怪我人を励ましながら、錬成治療を施した。
「キメラが集まってきています!」
 小夜子が蝉時雨で敵を斬り払いながら叫ぶ。
「軽傷の方は担架で重傷者を運んで下さい!」
 クラリッサの声で兵士達も立ち上がり、行動を開始した。重傷者に痛み止めのモルヒネを打つと、担架に乗せて持ち上げる。
「こっちです!」
 未早が先頭を駆ける。キメラが飛び出してくる前に弾幕を張り、道を確保した。
「なかなか――キリがない。まぁ覚悟はしていたが、な」
 襲撃は絶え間無かった。リュインは弾幕を張り敵を切り伏せて兵士を守る。
 しかし、ふいに前方を二体のキメラが立ちはだかった――。
「このぉっ!」
 羽矢子がそのキメラに接敵、獣突で二体を無理やり脇へ弾き飛ばす。
 息も出来無い全力突破で、ライト機までの距離を一気に駆け抜ける――!

 空に上がる青い照明弾。
 ――遭難兵収容完了の合図。
 後は傭兵を拾って完了だが‥‥。
「良いよ、行って!」
「し、しかし‥‥」
 真琴の言葉に、源次は戸惑う。まだゴーレムが一体に、CWが二体残っている。もし戦線を離脱したら――。
「大丈夫、何とかなるっ!」
 真琴の力強い言葉。
 それに――源次は頷いた。
「すまん‥‥頼む!」
 源次機は変形すると、青い照明弾を目指して駆け出す。
「‥‥さぁ、あのCWを何とかしない、った!」
 アクスが機体に直撃。すぐさまの反撃も回避される。やはりCWが邪魔をしていた。
 ――と、そこへ。
「おりゃああああー!!」
 ブーストで射程範囲内まで接近してきた小町機が、スラスター砲を全弾射撃。
 九十発の弾丸が――CWニ機を瞬時に木っ端微塵にした。
 消えるCWの妨害。
 それと同時にゴーレムと戦うディアブロが、グッと屈んだ。
「よしっ。とっとと――逝っちまいな!」
 アグレッシブフォースを乗せた渾身の一撃が――ゴーレムの中枢部分を貫いた。

「走って下さい! 頑張って!」
「はあ‥‥、はあ、そんな‥‥」
 ライト機に乗り切れなかった兵士が喘ぐ。ずっと全力疾走だった。
「危ない――!」
 突然、未早が叫んで動く。キメラに飛びかかられた兵士の身代わりとなり、鋭い爪をその身に受けた。
 瞬間、各方位から銃弾が飛び蜂の巣になるキメラ。そしてトドメとばかりに――小夜子の蝉時雨が一閃する。
「未早さん、怪我を」
 クラリッサが錬成治療を未早に掛けた。
「もう少しだよ!」
 羽矢子がみんなに声を掛ける。数十メートル前方に源次機が見えていた。
 そこへ――立ち塞がるように飛び出すキメラ群。
「ええい、邪魔だ――!」
 発砲しながら鬼蛍で切り込むリュイン。さらに小夜子が、未早が、クラリッサが、羽矢子が――持てる力の全てをキメラに叩き込んだ――。

「こちら地上班――全員回収! 撤退する!」
「了解――こっちも適当に撤収するぜ!」
 そう言いながら、AAMをHWに発射する健二機。被弾して一瞬動きの鈍った所を――寸分違わずソードウイングが中枢部を壊す。
「‥‥置き土産です」
 ベルもスナイパーライフルを撃ち放ち――HWを大破、爆発させた。
 それだけやると、ベル機と健二機は方向転換をして基地へと引き返していく。
 一機だけ残ったHWはしばらくそこを飛んだ後、――ヨロヨロとどこかへ引き返して行った。