●リプレイ本文
「さて、これで3回目? それとも4回目だったかしら。とにかく、AEEの戦車開発コンペに集って下さってありがとうございます。所長のジャンヌ・ライラックです。よろしくお願いします」
珍しく所長のライラックが先陣を切る。
「副所長の如月・孝之です。改良型試作戦車が二両、バリエーション車両の試作機も一両ずつ完成しました。皆さまのおかげです。ありがとうございます」
そういって如月は頭を下げる。
「兵器運用アドバイザー兼窓口係のヨハン・アドラー(gz0199)です。開発中だった煙幕弾、グレネードランチャー、クラスター型ロケット、多弾頭式ミサイルもおかげさまでそろそろ完成というところです。それでは、能力者の皆さま、軽い自己紹介をお願いします」
「霧隠・孤影(
ga0019)です。やっぱり副兵装はやっぱり軽量コンパクトがいいと思うです」
「九十九 嵐導(
ga0051)だ。どこまで力になれるかは分らないが、やってみますよ」
「綿貫 衛司(
ga0056)です。今まで何やかんやと提案して来ましたが、機銃についてはKVとはすっぱり切離して考えた方がいい結果に繋がるのではないかと思うようになってきましたので、その方面について意見を提出したいと思います」
「戌亥 ユキ(
ga3014)です。懲りずにまた来たよっ♪ お茶とかお菓子とか持ってきたから、お茶でも飲みながらじっくり考えましょう」
「Dr.Q(
ga4475)じゃ。新型戦車を見てみたいと思ってやってきた。案もそれなりに出すつもりじゃ」
「イスル・イェーガー(
gb0925)‥だ。‥‥兵器開発、か‥‥やったことないけど、興味はある‥‥」
「オリビア・ゾディアック(
gb2662)です。開発車の皆さまに敬意を‥‥」
そう言ってオリビアは握手を求めた。ライラックが、如月が、アドラーがその手を握りかえした。
「こういう依頼に参加するのは、アーちゃんは初めてだね。緊張するけどがんばろう‥‥」
アーク・ウイング(
gb4432)は一人そう呟き、それから自分の名を名乗って挨拶をした。
「はい、それでは早速コンペに入りたいと思います。今回は副兵装に特化した依頼ですが、副兵装以外でも何かあればよろしくお願いします」
アドラーが恒例のごとく仕切ると、最初に綿貫が発現した。
「機銃についてですが、最初にも言いました通りKVとの共用化は諦め、別途開発、あるいはすでにある物を流用した方が良いのではないかと思います。というのもKVの機銃と戦車の機銃とでは求められる口径に違いがありすぎるからです。12mm〜15mmの口径の機銃が最適かと思われます。如何ですか、如月副所長?」
「綿貫さんの仰るとおりですね。現状でも副兵装にはM1の機銃を流用していますし、「それより性能の良い機銃の開発」程度にとどめておいた方が無難でしょう。それから以前綿貫さんに指摘された主砲の短砲身化ですが、かなり切り詰めました。射程距離と攻撃力が多少落ちましたが、弾頭にも改良を加えましたのでM1の主砲の15割程度の威力は保持しています」
「それは何よりです。飛行HWの相手は対空車両やKVに任せるべきだと考えていますが、今回完成したバリエーション車両の中に対空車両はありますか?」
「ええ。自走砲、自走対空砲、指揮車両の3機種が完成しました。長距離・曲射射撃、対空攻撃、指揮管制及び情報処理についてはそれらのバリエーション車両に任せることになりました」
「そうですか。私からは以上です」
綿貫が言葉を収めると、次は霧隠が発言をした。
「やっぱり軽量コンパクトがいいと思うです。小型の散弾砲とか‥針を沢山打ち出すような感じのマシンガントゲトゲ! とか‥‥そういう感じが良いかもしれないです」
「散弾砲については問題ないでしょう。ただ、後者はキメラ相手ならともかく、HWやゴーレム相手では装甲に弾かれてお仕舞いでしょうね」
ライラックがそう答えると霧隠は「それじゃあ、散弾砲の開発をお願いしますです」と言った。
「分りました。KVと共用ですので、射程距離は長めにとれるようにしておきます」
「はいです」
霧隠が頷くとそのつぎは九十九が意見を出した。
「副兵装にするならやはり機銃系か散弾銃系になるんだろうが、既に言われちまったな。KVに積むだけならガンポッド方式が良いんじゃないかとは思うが‥‥」
「そうですねえ‥‥あくまでメインは戦車の副兵装ですから、ガンポッド形式にするメリットが見あたりません」
アドラーがそう答えると、それじゃあ、といって九十九は言葉を続けた。
「航空機銃として考えた場合、現状のバルカンでは威力が足りず、ガトリング砲では命中と射程が足りないんじゃないかと思うんだ。この2つの欠点を補い合う物が出来れば最高なんだがな」
「そうね。こちらとしてもそれが最良だと思いますが、そこらへんは産みの苦しみと言ったところかしら? 中々良いものが出てこないわね。あと、戦車には割高な機銃になるのが悩みかしら? 量産して傭兵さんがたくさん買っていってくれればそうでもないんでしょうけど‥‥」
「出たら買うさ。バルカンとガトリングの欠点を補える物が出たらな」
「では開発のリストに載せておきます。どんな物になるか想像できませんが‥‥他には何かありますかしら?」
ライラックのその言葉に、九十九が引き続き発言した。
「最後になるが、支援兵装としてフレア弾を使えるようにならないかな? それも真横に飛ばせるようだといい。そうすれば要塞攻略に少しは役立つんじゃないかと思うんだが」
「投下して使用する兵装を、真横にと言うのは暴発した際のことを考えると難しいですね」
「そうか‥‥」
如月がそう答えると九十九は若干残念そうに言った。真横に、と言うのが彼の主要なアイデアだったのだろう。
「えーっと、ちょっと質問があるんですけど、開発中の多弾頭ミサイルって興味あるな。重量とかどうなんだろ?」
そう戌亥が尋ねると、如月が「銀河さんのところの8式ミサイルより少々重いと言ったところでしょうか? 入れ子人形方式で子ミサイルを内包していますので、その分どうしても重量は出ますね」
「そっかー。やっぱり広範囲攻撃できる武器って魅力的だよ。あ、一応、私も考えて来た案もあるよ。ゴキちゃんを泡で固めるのってあったじゃない? あれ、あんな感じのを弾に詰めて空中でバーンって撒き散らして下にいるキメラをまとめて固めちゃうの♪ 飛行形態の時? えーっと‥泡で固めて回避力を落したり‥とか?」
そう言ってから自信をなくしたのか少し黙り、「もう少しチョコを食べて考えてみる」といってチョコレートを食べ始めた。
「あ、そのチョコレート私にもくださるかしら?」
「どうぞどうぞ」
戌亥はライラックにチョコレートをわたす。そしてライラックはチョコレートを一欠片食べると、「マドモアゼル・戌亥、それは素晴らしい兵装ね」と言った。
「完全に固めることは出来ないでしょうけど、回避力を落とすくらいなら出来そうよ。そうね、ネーミングはバブル・ボムとでもしましょうか?」
「‥‥え? ホント? 役に立つの?」
「ええ。チョコレートと一緒に、そのアイデアもいただくわ」
ライラックが微笑むと戌亥も破顔して、「やった、やった」と喜んだ。
「後、私のアイデアじゃないんだけど、スラッグガン? あれも良さそうだっな〜」
「ああ、それはうちのアイデアね。問題は遠距離では威力が落ちるからFRとかの敵の新鋭機に不向きな事ね」
そう言うとゾディアックは、徹夜で作ってきた設計図をライラックに渡す。
「さて、どう評価されるかってところね」
ライラックはその設計図を丁寧に見て、「凄いわね、これ」と感嘆の声を上げる。
「大型キメラとか相手に良いわね。あと小型キメラもまとめて潰せそうだし‥‥障害物の破壊にももってこいね。ただ、弾種の自動変更はちょっと無理かもしれないけど、これだけ作り込まれた設計図ならそれ程時間は掛からずに完成させられそうね」
ライラックはその場で設計図に何カ所か変更を加えると、近くにいた研究所の職員に渡して「これの制作にすぐに取りかかるように」と告げた。
「ふう。産みの苦しみとかはあったけど、採用されるとなると嬉しいものね」
「ありがとう、マドモアゼル・ゾディアック。貴女の設計図素晴らしかったわ」
ライラックはそう言って頭を下げる。それから、「貴女もお菓子は如何?」と戌亥が持ってきた菓子を勧める。
「そうね。うちもいただくわ」
そう言って食べた甘いお菓子は、徹夜で疲れた体と頭に心地よかった。
「よかったな‥‥僕もスラッグガンは推していたから。それと、ついでになるが‥‥多連装グレネードランチャー、つまりガトリンググレネードだな‥‥主に地上攻撃を目的として広範囲への攻撃が可能なもの‥こいつはどうだろう?」
イェーガーが採用を喜んだ様子で言う。そして多連装グレネードランチャーを提案する。そしてそれに対し如月が答える。
「開発自体は可能ですが、公範囲攻撃は無理ですね。あとは、かなり重くなることが予測されます」
「広範囲攻撃は無理か‥‥なら、後まわしでも良い‥‥」
イェーガーが案を引っ込めると、齢百歳のサイエンティストであるDr.Qが発言した。
「それじゃ、わしの番じゃな。まずはラージフレアの射出装置。こいつを提案しよう。こいつは複数の戦車が動いていることを前提にしておる。で、近づいてきた敵の動きを鈍らせて他の戦車の砲で仕留めるというわけじゃ」
「なるほど。戦術的には素晴らしいですが、技術的にはどうですか?」
アドラーが自分の上役二人にそう尋ねると、如月が答えた。
「技術的にも問題ありませんね。既存の物を改良すればすぐに戦車に搭載できるでしょう」
「そうですか。ところでドクトル、まずは、という事はまだあるわけですね?」
アドラーの問いにDr.Qは嬉しそうに答える。
「捕獲網射出装置じゃ。メトロニウム製の網で、相手の動きを阻害していく装置じゃな」
そこまで言ったところでライラックが難しい顔をした。
「残念ながらDr、戦車に回せるほどメトロニウムは潤沢にあるわけではありません。KVに使うだけで余剰は殆ど出ないでしょう。まあ、カーボンファイバーなどの安価で丈夫な素材なら可能ですが、動きを阻害する装置としての働きしか期待できない上に、他の火器を積んだ方が総合的な戦闘力は高まるので、開発は出来ますが売れるかどうかはわかりませんわ」
「そうか。残念じゃのう。ところで、エルドラドで演習をするそうだが、わしは反対じゃ」
「ドクトル、残念ながらそれは決定事項です。既に戦車を含めた車両群は空輸してありますし、この件で論議をするつもりはありません」
アドラーが氷で出来たナイフのような冷たい声で言う。参謀時代に周囲に怖れられた冷徹な声と表情で。Dr.Qはその迫力に怯んで、言葉を失った。
「失礼。では、他のご意見があったらお願いします」
先ほどとは打って変わって柔和な声と表情でアドラーは言う。
「えっと、支援系の副兵装という点からは外れますけど、防御用の装備を提案したいと思います。えっとですね、まずは不採用になるのは覚悟の上だけど、爆発反応装甲を提案します。それから、非物理攻撃に対抗するためにミラーフレームを提案します」
ウイングがそう言うと、それに対しライラックが「その2つは以前も出ましたけども、コスト面などの理由から廃案になっていますわ」と答えた。
「自分で提案しといてなんだけど、当然の結論かな」
ウイングは呟き、もうひとつ案がありますと言った。
「えっと、その、車体重量や費用の増加を避けるために、操縦室やエンジンと言った重要部分のみを守る追加装甲や小型の盾を提案します。えっと、どうでしょうか?」
ウイングはかわいらしく小首をかしげながら尋ねると、ライラックが目を輝かせた。
「それは考えつかなかったわ。防御系のオプション兵装というのは素晴しい案ですわね」
そしてその場で鉛筆を使って軽く設計図を描いてみる。
「十分に行けますわね。コストパフォーマンス的にも、防御力的にも最高です。きっとこの兵装を採用したアストレアの乗員の生存率は高くなると思いますわ。残念ながら良いネーミングが思い浮かびませんので、貴女の名前をいただいてアーク・ウイング守護機構と名付けます。よろしいかしら?」
「え、あ‥‥はい」
ウイングは驚きの余り言葉が出ないようだった。
「さて、能力者の皆さん、本日はありがとうございました。おかげで副兵装のラインナップも充実しそうですし、時間も迫ってきたこともありますのでそろそろお開きにしたいと思います」
如月がそう言って場を〆る。今回は案が纏まっていたためにいつもより早く終ったが、それでも昼に集って既に夕刻。腹の虫が鳴き始める頃であり、能力者達は急いでドロームの社員食堂に向ったのであった。