●リプレイ本文
エレナ・クルック(
ga4247)はケイ・イガラス監査官に面会を求めると、まず最初に野菜ジュースを手渡した。
「ユイリーさんが体調を崩されてると伺ったので、差し入れです〜早く元気になるといいですね〜」と言いながら。
それに対してイガラスは微笑んで礼を言うと「もうすぐ皆さまとの面会も出来るようになると思いますわ」と答えた。
「そうそう、上の方から現場周辺の地図と航空写真を用意してもらいましたので、後で皆さんに渡してください」
イガラスはそう言って人数分の地図と航空写真をエレナに手渡した。軍は何に備えてこんなに詳しくエルドラドの地形を把握しようとしているのかエレナは不安に思ったが、今回はそれが役立つのだから仕方がないと彼女は考えた。
アンデス方面にある農村――畑を荒らすというキメラが出現するという村までやってきた能力者とAEEの戦車部隊は、戦車が住民の刺激にならないように指揮車両以外を森林部にカモフラージュしてから村を訪れていた。
「今回は偵察に出られるとのことですので、ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)さん、貴方には軍用ヘッドギア一式をお貸しいたします。通信距離は10kmほどありますので、偵察の範囲内なら大丈夫でしょう。ナイトビジョン等もありますので、暗い場所でも行動には不自由しないでしょうしね」
戦車部隊の兵士がそう言ってヘッドギア一式を渡した。ちなみに、訓練を積んだ軍人が普通に徒歩行軍しても10km歩くには2時間弱かかる。今回は足跡や排泄物の跡を追跡しながらの偵察となるので2時間歩いても通信限界距離は超えない。そう判断されたのだ。
「分りました。ありがとうございます」
ハインは礼を言うと、村の住人に話を聞いたり説明したりしている仲間を尻目に単独で偵察へと出かけた。
「単独行動は久しぶりですね」そう呟きながら。
愛輝(
ga3159)は地図と航空写真、そして村の人間の言葉と周囲を探索した結果を総合して加味し、戦車部隊を展開させるのに丁度良い場所をヨハン・アドラー(gz0199)と相談していた。
「一般人に被害が出ないようにするにはここが一番なのじゃないかと思いますが‥‥」
「そうですね。ここで良いと思います。この辺には人里もないようですしね‥‥」
そして30分ほど経過したころだろうか? ハインから連絡が入った。
「キメラの巣を発見しました。外見的にもアタックビーストの亜種と思われます。数は6。現在は睡眠中です」
「了解した。キメラを刺激しないようにしながら戻ってきてくれ。改めて誘導班で戦場まで誘導する」
「了解」
ハインからの連絡が切れると、指揮車両のオペレーターは隊長とアドラーにキメラ発見の報を伝えた。
「分った。能力者達に準備するように伝えてくれ。キメラの巣が分りました。これでもうキメラが畑を荒らすことはないでしょう」
隊長が村人を安心させるように言う。それを受けてアルクトゥルス(
ga8218)と嵐 一人(
gb1968)、ロレンタ(
gb3412)そして美空(
gb1906)が村人達にキメラの巣を見つけた事、確実に退治することを告げて村人達の不安と不満を抑えようとする。そしてそれはうまくいったようである。
ハインからの連絡があってから15分後、ハインは戻ってきた。ハインからの情報を元に誘導班は作戦を組み上げ、戦車が待機するポイントまでの誘導作業に入った。そして直衛組は指揮車両に乗り込み戦車を隠してあるポイントへと向う。
「こっちです‥‥」
ハインの誘導でエレナ、一人、愛輝、アルクトゥルスはキメラの巣へと進む。そして15分後、キメラの巣へと辿り着く。
「さて、おやすみのところ悪いが、起きてもらおうか。ここは俺の銃がアラーム代わりだな!」
一人はそういうと覚醒してAU−KVを装着。瑠璃瓶を睡眠中のキメラの群れに向って放つ。それは一匹のキメラに命中し、そのキメラは苦悶の叫びを上げる。そしてその悲鳴で他のキメラも目を覚まし、すぐさま警戒態勢に入る。そして一声吠えると一瞬にして能力者達に接近し、突撃をする。そして吹き飛ばされる能力者達。
「なに!? 速い!!」
エレナが驚愕の叫びを上げる。只の突進にしては動作が速すぎるし距離もありすぎた。
彼等の特殊能力、それは火を吐くことでも空を飛ぶことでもなく、ただ高速に移動するだけである。
「まずいな‥‥」
愛輝が呟く。だがそれだけに今回の依頼には厄介な相手でもある。
「速すぎて誘導どころじゃないかもしれないわね」
アルクトゥルスがそれを理解して言う。
「それならばこちらも全力で移動するだけですね」
ハインはそういうと敵に背を向けて走りだした。
「ちょっと待って、私走るのは苦手なんですけど‥‥」
アルクトゥルスがそう言うと、エレナも同意する。
「大丈夫だ。俺が盾になる」
一人が文字通り盾を構えながら二人を援護する。
「ちぃっ! さっきは油断したが、攻撃力自体はたいしたことないな」
「ありがとうございます」
エレナはそう言うと、照明銃を上空に向けて発射し、戦車部隊に合図をする。それからハインに戦車部隊に無線で連絡するように言うと走り出す。そしてアルクトゥルスも一緒に走りだした。
「大丈夫か?」
愛輝がそう言って一人の隣に立つ。
「ああ、なんとかな」
愛輝は敵の攻撃を引きつけると、寸前で回避する。最初はその早さに目を奪われたが、慣れてくれば敵の攻撃は読めるようになった。そしてこの速度ならエレナとアルクトゥルスでも逃げ切れると判断する。
「よし、引きつけながら後退だ」
「了解」
愛輝と一人は敵を誘導しながら次第に速度を上げていく。そしてやがて戦車部隊が待つポイントへとたどり着いた。
「袋の鼠だな」
愛輝が呟きながら戦車砲の射程圏内から離脱する。そして能力者達はキメラを包囲する。
「今だ。主砲、っ撃てー!」
指揮車からアストレイアに指示が飛ぶ。
アストレイアはまず初弾を敵集団の先頭に向って放つ。それはキメラの肉を抉って弾き飛ばす。しかしその間にもそのほかのキメラ達は戦車に向かって肉薄する。
「そうはさせないのでありますよ!」
美空がAU−KVを装着しながら大口径ガトリング砲を持ち上げ、それをキメラに向って思いっきり撃ち放す。
元々KV用に開発された武器だけあってその意力は折り紙付きだった。その砲撃はキメラをただの肉片に変える。
「美空のガトリング砲は火力だけなら誰にも負けないであります」
その通りだった。
「射程にはまだ遠いか‥‥でも、戦車には近づけさせない」
ロレンタはそう言って前に出る。
ハインが副兵装のクロス・ボウでキメラを牽制すると、それを躱したキメラがハインに向って体当たりをしてくる。
「突撃しか能がないようですね。さしずめ、チャージ・ビーストとでも言ったところでしょうか?」
体当たりを躱すと至近距離からスコーピオンを3連射する。
「おっと、オーバーキルでしたか」
そして別のキメラの突撃を回避する。
「射軸修正! 第二射撃て!」
アストレアが後退しながら砲塔を動かし、迫り来るキメラに狙いを定める。第二射は先頭を走る二匹に命中し、それを弾き飛ばす。
「うわ、うわわわ」
美空にキメラが突撃する。
「っかぁ‥‥」
不意を突かれて弾き飛ばされた美空は、一瞬呼吸が出来なくなる。
愛輝は美空に攻撃したキメラに対し瞬天速で一気に近づくと、両手に装備した爪を振るいキメラを屠る。そして美空を助け起こす。
「ありがとうございます。助かったであります」
一人は形勢不利と見て逃げ出そうとするキメラに竜の翼を使って一気に接近すると機械剣を振るう。
「機械剣、ハイドロちゃぶ台返し! ‥‥なんてな」
それは戦車の砲撃でダメージを受けていたキメラを両断する。
「逃がしませんよ!」
エレナも逃げ出すキメラを追いかけ、一見プレゼントボックスにしか見えない超機械の射程にキメラを収めると、キメラの周囲に電磁波を発生させた。
「エルドラドでの試験を早く終わらせたいのです!」
これまた戦車の砲撃を受けていたキメラを一撃で葬り去る。
そしてロレンタとアルクトゥルスの攻撃のタイミングが重なり、最後のキメラを襲う。
「これで!」
「終わり!」
超機械の電磁波の後に槍斧が続く。その攻撃でキメラを屠り、戦闘は終了した。
その後能力者達の男性陣と戦車部隊の軍人、そして意外にも筋肉質なアドラーが荒らされた農地を元に戻す作業の手伝いをしていた。女性陣は村人にスープを作り振る舞った。
「すまないねえ、お若いの」
それに対して老人が礼を言う。
このエルドラドという国は人口が1000人前後だがその大半を老人と子供が占めている。働き手が非常に足りないのだ。そこに今回の援助は非常に助かったと老人は言う。
そんな中、指揮車両のオペレーターが通信器機を調整をしていると、偶然会話中の無線を傍受した。しかもそれは戦闘中の部隊のもののようだった。
キメラの攻撃を受けて爆発する戦車と共に死亡する戦車兵の悲鳴。墜落するヘリの乗員の悲鳴。何事かとアドラーと戦車部隊の隊長が指揮車両に駆け寄る。
「‥‥アドラー氏、これは‥‥」
「ええ、近くのようですね。何があったのでしょう。エルドラドは平和だと聞いていたのですが‥‥」
二人が顔を見合わせながら唸る。
「現在のバンドは?」
隊長に聞かれオペレーターは通信機のバンドを見てそれを伝える。それは南中央軍の使うものだった。
「南中央軍か‥‥どうしますか、アドラー氏」
隊長がアドラーに判断を仰ぐ。
アドラーはエルドラドのイガラス監査官に連絡を取ると言い、指揮車両の通信装置を操作する。
「イガラス先輩! 近隣で戦闘が起きていますが何かあったのですか?」
「アドラー君? ちょっと待って、どういう事?」
イガラスも寝耳に水だったらしくアドラーが事情を説明する。
「待ってて、今軍本部に確認してみるわ」
それから待つこと数分、イガラスから回答があった。
「どうもアンデス方面他多数で同時に攻撃を受けているようなの。それ以上の詳しいことは分らなかったけど、よかったら‥‥」
「ええ。監査官からの正式な依頼と言うことでお受け致しますよ、先輩。ただ、通信を効く限りだと全滅しかけていますね、該当する部隊は」
「分ったわ、急いで頂戴。交戦しているポイントは‥‥」
イガラスが本部から受取った情報をアドラーに伝える。
「了解しました。では」
アドラーは通信を切ると、戦車部隊と能力者達に事情を説明した。
「これは正式な依頼になりますが、受けるかどうかはもちろん任意となります。今回はUPCからの依頼となりますので報酬は高いですが、旧式とは言え戦車中隊が壊滅しつつありますのでリスクが高いです。また、急ぎますので依頼を受けない方はここで軍の迎えをお待ちいただくことになります」
能力者達は顔を見合わせると、それぞれがそれぞれの表情で考え込んだ。
「私は受けます。急ぎましょう。エルドラド市内にキメラを入れるわけにはいきません」
アルクトゥルスがそう言うと、自分も依頼を受けると言う能力者と、村に残ると言う能力者に分かれた。
「分りました。では出発します。隊長、よろしくお願いします。実戦テストどころか最悪車両を破棄する結果になるかもしれませんが、このまま捨て置くわけにはいきませんので」
「了解です!」
アドラーの言葉を受け、隊長は部下達に指示を出す。一方で同行する能力者達にも指揮車両に搭乗するように依頼した。
「では、出発します!」
こうして、緊急出発した部隊であったが、友軍の全滅の前に戦場に到着することは出来なかった。
それからアドラーが仕掛けるタイミングを見計らっていると、軍本部から連絡があった。
曰く、エルドラドから出発した能力者及び半個中隊の戦車及び歩兵部隊を使い、キメラを殲滅すること。そのために必用な指揮権がアドラーに一時的に貸与されること、味方の部隊はハリウッド奪還戦で奮戦したリュウガ、ロウガ両スルギ中尉の部隊であることである。
「竜の牙と狼の牙が出てきますか。これは心強いですね‥‥ですが、それだけ敵も強力と言うことなのでしょうね‥‥」
アドラーは一人呟くと軍本部から受信したデータを見ながら考えを巡らせ始めた。そして、地獄の戦場が幕を開けることになるのである‥‥‥‥