●リプレイ本文
●事前準備
能力者達の何人かは、エルドラドに到着後、先ずユイリーの元へ向った。
UNKNOWN(
ga4276)が持参した花束を渡す。それから、彼が自費で購入した機材や資料の目録を渡す。
「‥‥また来たよ。元気かね?」
ベッドで上半身を起こしながら、ユイリーはその言葉に「ありがとうございます。それから、お久しぶりです。おかげさまで何とか回復してきました」と答える。
「ごきげんよう。ノーマ・ビブリオ(
gb4948)ですわ。ノーマとおよびくださいませ」
こちらは見舞いにとチョコレートを渡す。
「ありがとう、ノーマさん」
ユイリーは微笑む。顔色も良いようだ。
「ユイリー、依頼を受けた身でこんなことを頼むのも何だけど‥‥住民に向けた君の声を録音させて貰えないかな?」
終夜・無月(
ga3084)が微笑を浮かべながらそう頼むと、ノーマが「お姉様のおからだにムリがないはんいで結構ですわ」と補足する。
ユイリーはそれに応じ、住民に今伝えたいこと、思っていること、エルドラド復興への協力を依頼する声明などを録音した。それからノーマは彼女の写真を撮影するとそれをKVサイズにプリントするために、礼と別れの言葉を告げてから駆けていった。
アースクウェイクが穴を空けたあとに出来た広場のスペースに一機の飛行機が垂直着陸する。それは見るものが見ればシュルテンだと分っただろう。
そのコクピットから出てきたのはアーちゃんことアーク・ウイング(
gb4432)であった。
「うまくいくか不安はあるけど、やれるだけのことはやらないとね」
彼女はそう呟くと飛行機形態のKVから調理器具などを取り出す。
「何はともあれ、お腹がすいていたら落ち着いて話を聞いてもらえないよね」という前提の元に炊き出しを始めると、好奇心と匂いに誘われ人が集ってくる。ちなみに作っているのはシチューである。
「炊き出しをします〜。よろしければご協力御願いします」
アークが一生懸命そう呼びかけると、腕に自慢のある女性陣が集ってきて「こんな小さな子がねえ」「ちょっと手伝ってあげましょ」などと言いながら参加してくる。
「お嬢ちゃん、お名前は? ちなみにあたいはレティーシアっていうよ。この炊き出しがどういう目的かは知らないけど、お嬢ちゃんは傭兵さんだろ? きっとこの国に関わりがあると見たね。まあ、それはともかく手伝っていいかい?」
「はい、アーちゃんとお呼びください。ご協力感謝します」
「はいはい、アーちゃんね、よろしくよ。それじゃあ、あたいのことはレティと呼んでおくれ」
姐御風の女性、レティはそう言うとその場を仕切り始めた。意外と有名人なのか協力してくれている女性陣も大人しく彼女に従った。
正装のUNKNOWNは優雅に市街中心部を移動しながら、役所の建設地となりそうな場所を探していた。そして市民を見かけるとユイリーとUPCから依頼を受けたことを告げた上で役所の予定地や施設に対しての要望を聞いて回る。そしてそれらを纏めてアルヴァイム(
ga5051)に伝えると、アルヴァイムは事前に書面化しておいた設計思想と設計図に変更を加えて無月に送付し、必用な資材を発注あるいは直接買い付けしてKVで輸送する。アルヴァイムは事前準備の段階では一切表立って行動せず、裏方に徹していた。
常世・阿頼耶(
gb2835)は『やりくり自慢募集』や『あなたの生活の知恵がこの国を救う』等を謳い文句にしたビラを、バイクを使いながらエルドラドのあちこちに移動して配って回る。
「おねがいしまーす! おねがいしまーす!」
阿頼耶は必死に呼びかける。無視する市民、手にとって興味深そうに見る市民。
「お嬢ちゃん、これは公務員募集という事かしら?」
一人の50代くらいの女性が阿頼耶に尋ねる。
「はい。そうです。特に経理とか事務とかですかね」
「年齢制限はあるのかしら? あたしは昔ニューヨークのコンピュータの会社で経理とかをやっていったから、この国の薬に立つのなら面接を受けてみても良いんだけどねえ‥‥」
「年齢制限なんてないです! この国を愛する人なら!」
阿頼耶の言葉に、女性は破顔一笑した。
「そう。じゃあ、募集が始まったら応募してみるわ。あたしはフランシスカ。貴女は?」
「常世・阿頼耶といいます。カンパネラの生徒です。ありがとうございました!」
それからフランシスカと二言・三言交わして分かれると、阿頼耶はバイクで移動して道路や空港等の交通インフラのの破損状況を見て回った。
走路もそれなりに使えるし空港は軍が使用しているので完全に整備されていた。無論彼女のKVもそこを利用しているので問題はなさそうだった。
白鐘剣一郎(
ga0184)は建設場所が決定するとリッジウェイを使って作業を始めた。ヘッジローをドーザ(排土板)に変え、メトロニウムシャベルも使って整地作業をしていた。作業を中断してリッジウェイから降りてきた剣一郎に、一人の男が「KVって戦争だけじゃないんだな」と話し掛けると、剣一郎は「こいつは元々戦う為だけに造られた訳ではないからな」と言って微笑みを浮かべた。
阿頼耶もリッジウェイでUNKNOWNが持ち込んだ資材を運んだりエルドラドの予算で買い付けられた資材を運んだり、瓦礫を撤去したりと色々と忙しい状況であった。
また、UNKNOWNとアルヴァイムは農地開拓の際に切り倒された木を材木圧力乾燥機にかけて乾燥させ、建築資材として使えるように加工していた。
●演説
ノーマは広場でロングボウに拡大プリントしたユイリーの写真を持たせ、ソニックフォンブラスターを使って録音したユイリーの声明を流した。勿論ボリュームは騒音にならないレベルに絞ってある。
ユイリーの声明は真摯で、丁寧で、一生懸命で、エルドラド復興のための協力を求める言葉は市民の琴線に触れたようであった。
「なるほどねえ、この炊き出しはこいつのための根回しみたいなものかい」
レティがそう言って一人納得すると、「じゃ、あたしもこの国のために頑張るかねぇ。ほらほら、みんな、たんと食いな。お代りはたくさんあるよ、慌てなくて良いよ」できあがったシチューと、パンを集った市民に配って回った。
ユイリーの声明が流れ終ると、無月が演説を始めた。
「‥‥‥‥ユイリーは、元気です。そして本気です。でも、彼女一人では限界があります‥‥支える人たちが必用です」
人々は、真剣に聞いている。
「彼女の頑張りは‥‥俺よりも皆の方が知り‥‥見ているから‥‥」
そうだ。あの小さい背中でこの国の千人もの人々を支えている。
「特に俺から言う事もないし‥‥俺が言う事でも無いのかもしれないけど‥‥」
だから、力になれるならなりたい。
「ユイリーを‥‥助けて下さい‥‥」
無月が頭を下げる。
拍手はない。
その代りに、一人の女性が無月の前にやってきた。炊き出しを仕切っていたレティだ。
「アーちゃんにはもう自己紹介したけど、改めて名乗ろうか。あたいはレティーシア、元海軍の兵士さ。今は故あってエルドラドにいるけどね。どうだいみんな、今更言われるまでもないことさ。でもきっかけが欲しかった。違うかい? あたいはユイリーの手助けのためにこのとっぽい兄ちゃんの話に乗ろうと思ってるけどどうだい?」
賛同の声、戸惑う声、色々ある。だが、手を挙げた者は確実にいた。
「ユイリーお姉さまのためにわたしもがんばります。いえ、いっしょにがんばらせてください! だから、みなさんもおねがいします」
ノーマが頭を下げる。そして次に鹿島 綾(
gb4549)が演台に立った。
役所を建築するための人手を募集する内容の演説だった。概要を説明し、最後に勢いよく啖呵を切る。
「建設に技術は必要だ。しかし、それ以上に必要なのは‥‥技術を覚えようとするやる気、そして根気だ。裏を返せば、その二つさえあれば技術は後から付いてくる! 知識はこのUNKNOWNやアルヴァイムが持ってる。教えることは出来る。俺達も手伝う。だけど主役はこの国のあんた達だ。さぁ、国の為に頑張ろう、一肌脱ごうってー気概のあるヤツはいないかい?」
綾の言葉に、この国にいる数少ない男性陣の内何人かが手を挙げる。特に、綾と年齢の近い10代後半から20代前半の、食事を目当てにやってきていたピアスをつけたりタトゥーを掘ってある、いかにもアウトローと言った感じの集団、そのリーダー格のスキンヘッドの男が綾に声をかけた。
「姉ちゃん、結構いいこと言うじゃねえか。俺達もいろんな理由があってこの国に流れてきたが、この国は嫌いじゃない。公務員なんざ柄じゃねえが、土木作業ぐらいなら手伝っても良いぜ」
男はそういうと、値踏みをするように綾を見る。
「あんた、名前は? 俺は綾だ」
「俺は元マフィアでな、タランチュラって名乗ってる。どうだ、この蜘蛛のタトゥー、イカスだろ?」
そう言うとタランチュラと名乗った男は服を脱いで背中を見せる。そこには毒蜘蛛のタトゥーが彫られていた。色彩豊かで、ひとつの芸術品と言って良かった。
「ああ、良いじゃないか。とにかく、手伝ってくれるってんならマフィアだろうが軍人だろうが関係ないさ。みんな、この国の国民。それで良いだろ?」
「そうだな。野郎ども、文句のある奴はいるか!?」
あるわけがない、そんな言葉をアウトロー集団達は投げかけてくる。
「よし。それからね、本の運搬・整理等の軽作業をこなす人も募集しているよ。どうしても建設作業に自信が無いって人は、こっちなんかどうだい? 勿論みんなに金は払う。飯もな」
「お姉ちゃん、わたしでも大丈夫?」
そう言ってきたのはノーマやアークぐらいの年齢の女の子。銅色の髪をした可愛らしい少女だった。
「ああ、やる気さえあれば歓迎するさ。名前は?」
「ラチェットっていうの。頑張るわね」
そう言って微笑むと少女は駆けていった。
●建設
「そう、水と砂利はそんな割合でね‥‥」
UNKNOWNは市民に優しく丁寧に指示を出しながら、作業の工程を見守っていた。
能力者だけでの作業にならないように、能力者の独り善がりにならないように注意しながら、作業を纏める。
基礎部分の工事が終ったあとは、あらかじめKVで運んできた建材をプレハブ工法によって、注意書きに従いながら突貫で作業を続けていく。
「危ないぞ。見ていても良いからもう少し離れていてくれ」
剣一郎がリッジウェイの動作に見とれていた人々に注意する。万が一の事故があってはたまらない。
「木材ができあがったよ」
綾は材木圧力乾燥機で作った木材をKVで運んでくると、UNKNOWNと協力しながら作業者に指示や助言をしたり、自分の手で椅子や机などの家具に加工をしたりしていた。また、建物の内装や補強のためにも加工したりと大忙しであった。
そして図書館と一緒になった役所、そして倉庫の大まかな完成を迎え、KVでの作業がなくなると、能力者達は覚醒状態を維持したまま内装などの作業に入った。覚醒した能力者達は常人では考えられない力や器用さ、体力を持つからだ。
剣一郎は主に力仕事を担当し、内装と倉庫内の整理を行なう。無論剣一郎も自分達だけで作業を進めようとは思っていない。作業に協力してくれている人たちに頬笑みつつ声をかけた。
「此処はあなた方が使っていく事になる場所だ。自発的に協力頂けるのであれば、それこそ願ったりです」
そんな剣一郎に市民もまた笑顔で返す。市民と能力者の間に、信頼関係が徐々に築き始められているようであった。
無月は豪力発現で重い物を持ち運ぶ仕事を自らの責務とし、汗を流しながら市民と一緒に働いていた。
「大丈夫。急がなくて良い。何か困ったことがあったら私に相談して欲しい」
UNKNOWNは市民の安全に気を配りながら、綾が作った交代表を元に作業者に休憩時間を割り振ったり、机や椅子の作り方を教えたりと、色々と忙しいようである。
アルヴァイムは覚醒すると口調が変わるために一切口を開かず、作業に没頭していた。どうしても会話が必用なときだけ覚醒状態を解除するが、主に無月やUNKNOWNと相談していることが多かった。
阿頼耶は図書館の作りたての本棚に本を分類しながら運んで入れていくという作業に没頭していた。その隣には以前出会ったフランシスカという女性がいた。
アークは工事期間中ずっと炊き出しを行なっていた。そして女性陣達のマスコットキャラ的存在になっていたりした。
綾は作り終えた家具を内装を終えた場所から順番に運んでいた。多少ガラの悪い連中を引き連れながら。
ノーマは阿頼耶と一緒に本を運ぶ傍ら、分類しリスト作りをする作業に追われていた。それが終ったあとは児童図書室の床にマットを敷いたりカラフルなクッションをおいたりと子供用の図書室作りに一生懸命になっていた。そして、全ての行程が終了する。
●完成
突貫工事で作業は続けられ、通常の工期の半分以下の期間で工事は終了した。
完成した役所には代表執務室や会議室、給湯室等基本的な機能が備えられ、そのほか要望を取り入れ仮眠室や休憩室などが作られた。
図書館にも司書室と、貸し出し管理用のコンピュータなどが置かれた。
また、水道も専用の設備が用意され、倉庫も役所と棟続きで有事の際に国民が避難できるように広めにスペースが造られた。
そして完成記念式典では、まだ病床にあるものの5分程ユイリーが顔を見せて国民に引き続き協力を訴えた。その後‥‥
「みんな、お仕事ご苦労さんだったね。タランチュラ、みんなを連れてきな。飯を奢るよ」
「了解です、綾の姐さん」
綾とすっかり打ち解けたタランチュラは、この工事に関わった者達を呼び集めると綾の言葉を伝えた。
「綾姐さんバンザイ!」
タランチュラの部下達が唱和する。
そしてアークのシュルテンが運んできたのはアメリカ産の大きなハンバーガーだった。
「こんなおっきなハンバーガーはじめて‥‥」
ラチェットが感激した様子でそれをしげしげと見ながらかぶりつく。
「おいしい?」
「うん、アーちゃん。おいしいよ」
普段魚と野菜ぐらいしか食べられないだろうからと綾が自費で購入してアークに運んでもらったハンバーガーは概ね好評だったようだ。
「これからこの国がどうなるかは分らないけど、やっぱり明るい未来が訪れてほしいよね」
アークは一人そう呟く。
「そうですね。この国に関わった者の一人としてそう思います」
その呟きに黒子姿のアルヴァイムが同意する。
「この国を愛する人間がこれだけいたんだ。大丈夫だろうさ」
「そうですね!」
剣一郎の言葉に、アークは喜ぶ。そして‥‥
「これで安心できますね、ケイさん」
「そうですわね」
ユイリーとイガラスはその様子を見ながら一抹の希望を見出していたのだった。