タイトル:【エル】空挺降下訓練マスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/28 04:13

●オープニング本文


「さて、今日は空挺降下訓練と、降下してそのまま建造物に突入しての要人救出訓練を行なう」
 空挺降下――輸送機からパラシュートを使ったり、ヘリからロープを伝って降りたりして、地上の目標にピンポイントで戦力を送り込む物のことを言う。
 敵の司令中枢を破壊したり、先ほど教官が言ったように要人の救出などもしたりする。
「武器はもちろんイミテーションで、銃器もペイント弾だが、重量や操作感などはほぼ一緒だ。これから空挺降下の説明を行なった後、直ぐに訓練に入る。まず君たちに、救出すべき要人の顔写真を配ろう」
 教官は人数分の写真を渡すと、次に軍用無線機や、ガスマスク、閃光弾等の軍事用具一式を傭兵達に貸し出した。
「目標の建造物は、地下二階、地上三階のビルだ。どこに要人がいるかは教えられんのでしらみつぶしに探してくれ。なお、敵役はセンター所属の能力者教官だ。熟練の能力者が揃っているから気をつけるように。なにか質問はあるか?」
 その言葉に、エル・ウッド(gz0207)は手を挙げる。
「スキルを使っても良いですか?」
「もちろんだ。だが教官達も覚醒して相手をするからな、怪我しないようにな。それじゃあ、今回はヘリボーンと言うことで、ヘリ降下のやり方をまず教えよう。注意して聞くように」

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
白岩 椛(gb3059
13歳・♀・EP
御神・夕姫(gb3754
20歳・♀・GP
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
セシル シルメリア(gb4275
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

 屋上――
「今のところ敵の気配はないわね」
 御神・夕姫(gb3754)そう言うと緑川安則(ga4773)が「普通なら屋上も警戒しているもんだろうが、これは訓練だからな‥‥だが、実戦で屋上に敵戦力がいた場合は対空攻撃には注意しろよ。ヘリボーンは対空攻撃に弱すぎる」
 とエル・ウッド(gz0207)にレクチャーする。そして安則の言葉を白岩 椛(gb3059)は一生懸命メモしていた。
「今回は味方同士ってことで、頑張ろうねっ! 教官たちに一泡噴かせるチャンスだよー?」
 美崎 瑠璃(gb0339)はそういって「にしし」と笑う。
「そうですね」
「そっかーエル君もしっかり訓練とかしてるんだね。ボクも負けてられないなぁ‥‥というわけでエル君、今回もよろしくね♪」
 鷲羽・栗花落(gb4249)が声をかけるが、若干返事が固い。
「え、あっ、はい」
 そんなエルに緊張を見出したのであろう。鳴神 伊織(ga0421)がエルに穏やかに話し掛ける。
「余り固くなっていると、思うように動けないですよ。ほら、こうやって緊張をほぐして‥‥」
 伊織のおかげでエルは緊張がとれたらしく、真剣な表情で今回突入する予定の建物を見つめた。
「一緒の依頼ですね、とてもうれしいです。あの、いろいろ勉強させてもらいます」
 セシル シルメリア(gb4275)が伊織に向かって声をかける。
「そうね、お互い頑張りましょう」
 伊織がそう返すと、セシルは嬉しそうな表情で頷いた。
「そろそろ降下の時間だよ!」
 フィオナ・シュトリエ(gb0790)がそう言うと場の空気が一変した。
「さて、行きますか」
 安則がそう言って一番最初に降りていった。

「潜入や人質救出では敵に発見されないことが重要だ。発見されたら人質が処理される可能性があるからな。特に今回みたいにバグアに捕まえられた要人の救出ってミッションなら、その可能性は高くなる」
 安則がエルにレクチャーしながら慎重に歩みを進める。
「こちら椛です。トラップを発見しました」
 エキスパートの楓が屋上から下に降りる階段でトラップを発見する。椛は慎重にトラップを調べながら解除をしていく。皆が手に汗握って見守る中、椛は無事にトラップの解除に成功した。
「原始的なトラップでした。引っかかると上からなにか落ちて来るみたいですが‥‥」
 そう言って椛が見上げると、そこには金ダライが吊されてあった。
「なんか、すごいトラップだね‥‥」
 瑠璃が呆れながら金ダライをみる。そして、一同が呆れかえった時だった。天井から声が聞こえてきたのは。
「ようこそ、訓練生諸君。ます、第一のトラップは突破したようだね。解除に失敗したら金ダライが落ちて催涙ガスが流れ出す予定だったんだが、ガスマスクはしてるかな?」
 能力者達の様子を何処かでモニタしているのだろう。そんな言葉が聞こえてきた。
 そして、能力者の中にはガスマスクを装備していなかった者達がいた。
「おやおや、駄目だな。減点1だ。だがまあ、そのトラップを解除したことで君たちは侵入を気付かれなかった。そう言う筋書きだ。下の階の教官達はその筋書きに従って行動する。教育士官からは説明されなかっただろうが、現在このビルを含めたバグアの町はUPCによる一斉攻撃を受けているというシチュエーションだ。だからヘリの音には気がつかなかったが、教官扮するバグアの兵士は緊張している。その事を頭に入れて行動してくれ」
 言いたいだけ言って無線が途切れた。
「なんだか、やりにくそうなシチュエーションですね」
 セシルがそういうと、栗花落が「でもまあ、一番ありそうなパターンではあるわよね」と言った。
「訓練だからと言って失敗はできないわ。真面目に行きましょう」
 夕姫がそう言うと一堂に再び緊張感が戻った。そしてB班=安則、フィオナ、エルを先頭に慎重に階段を下りていく。
 安則がシグナルミラーで先の通路の安全を確認すると、GO!のハンドサインを出す。
 それに従って突入役のA班=伊織、椛、セシルが静かにひとつの扉の前に辿り着く。そして後方警戒役のC班=瑠璃、夕姫、栗花落が周囲を警戒しながら扉の左側に陣取る。最後に援護役のB班が扉の正面に陣取る。
「人、いる。います」
 ネイティブアメリカンの直感かビーストマン=狩猟者であるジャガーの化身としての直感か、ともかくエルは室内に人の気配を感じ取ったようである。
「良し、A班、これから閃光弾を投げ込むから、それに紛れて侵入してくれ。すぐに援護する」
 安則がそう言うと、伊織が扉を一気に開け放ち、閃光弾が投げ込まれる。
「今です!」
 椛がそう叫ぶと、A班の3人が突入した。そしてB班が後に続く。そして中でみたのはガスマスクとアイマスクをして武器を装備しているバグアに扮した教官達だった。
「あ‥‥」
「え?」
 突入した一堂がそのシュールな光景に呆然としていると、教官達がアイマスクとガスマスクを取って武器をおろした。そして耳栓も外す。
「OK。君たちは閃光手榴弾を使ったから、しばらくの間我々は行動できない。まあ、この格好を説明するとだ、いくら訓練とはいえ毎回毎回閃光弾や催涙ガスを受けていては我々の身が持たない。理解できたかな?」
「それはわかったけど、あたし達どうすればいいの?」
 フィオナが教官に尋ねると、「準備が出来たら攻撃を仕掛けて来たまえ。20秒間の間だけ我々は無防備だ。そろそろ良いかね?」と答えてきた。
「う〜ん。他の部屋に待機している人たちも同じ感じなんですか?」
 今度は瑠璃が尋ねる。
「そうだな。閃光弾や催涙弾を君たちが使ったら、それを受けたという設定で20秒ほど無防備な状態を演じる。無論、今回のように君たちは待たなくても良い。すぐに攻撃を仕掛けて構わないよ」
「わかりました。では、行きますよ、教官殿!」
「どうぞ!」
 教官がそういうと同時に安則は一気に距離を詰め、さらに側面に回り込み、愛剣を模した武器で教官の一人に攻撃を仕掛ける。
 ほかのメンバーも慌てて攻撃を開始すると、なんとか20秒の間に教官演じるバグア兵を排除できた。そうするとまた天井から声が聞こえてきた。
「よし、何とか制圧できたようだね。あと30秒経過したらこの部屋の騒動に気がついたバグア兵がやってくる。すぐに戦闘準備を整えたまえ」
「了解です。行きましょう、みなさん!」
 伊織が部屋から出て太刀を構え直す。その途端廊下の向うから足音がしてきた。
「来ましたね。C班の方、御願いします!」
 伊織の要請を受け、C班のメンバーが行動を開始する。警戒するべき後方がないからだ。
 まず、レーザーサイト付きの小銃を持った瑠璃が射撃を開始する。発射されたペイント弾は先頭のバグア兵の急所に命中し、彼らは死亡判定を受ける。
 夕姫は一気に間合を詰めて左右の剣を抜刀する。
「眠りなさい『抜刀双牙』」
 煌めく二本の閃光。イミテーションとはいえそれなりに痛いので、攻撃を受けて教官扮するバグア兵はうずくまる。が、怪我はすぐに控えていたサイエンティストの教官が治療した。
 栗花落はリボルバー拳銃でペイント弾を4発発射する。うち3発は二人のバグア兵に当たり一人は死亡判定がでたが、もう一人がまだ生きているので反撃を受けた。イミテーションの斧で肩を殴られる。
「いたたた‥‥」
「大丈夫ですか?」
 エルが飛び出し両手の爪で攻撃を仕掛ける。それでそのバグア兵には死亡判定がでた。
「ありがとうね、エル君」
 栗花落が礼をいう間にも、バグア兵は迫ってくる。
「何人いるんだ!」
 安則が先ほどと同じように、一気に間合を詰めて側面に回り込み、剣の当て身でバグア兵を倒す。
「エル、これと同じ要領でやってみろ」
 その言葉に頷くとエルは迫り来るバグア兵に近付き、体を地面と並行に回転させて一撃を叩き込む。
「決まった!」
 その一撃は見事に胴の部分を殴打し、バグア兵は死亡判定を受ける。
 その間に、アサルトライフルを連射してくるバグア兵に対して、フィオナは盾でそれを受け止めると、隙を見て剣で反撃する。フィオナは盾を有効活用しながらバグア兵の体力を削っていく。数回それを繰り返してバグア兵を倒すと、フィオナは味方のカバーに回った。
「がっちりガードしてみせるさー」
 そういってバグア兵の攻撃から味方を守る。

 そんなこんなで3階のバグア兵力を撃退したとき、椛がとある部屋でこの建物のMAPを発見した。そのMAPによると2階には3部屋で、1階は4部屋。地下1階は厨房。地下2階は司令室とあった。そして皆で集ってそのMAPを見ていた時、また天井から声が聞こえてきた。
「おっと、MAPを見つけたようだね。そいつを見つける確率は半々なんだが、よく見つけたね。さて、その小さなエキスパートさんに免じてヒントをあげよう。MAPをみてもらえればわかると思うが、地下1階と2階は完全にこの施設の維持のために使われている。ということで問題は地上階だ。っと、ヒントはここまでだ。訓練時間も残り半分を切った。時間内にターゲットを救出してこの建物の外へ出たまえ。そうすれば及第点だ。合格点に至る道は自分達で考えるように。以上」
 そう言って声は一方的に切れた。
「うーん。目標がいるのが地上階に絞れたのは良いですけど、残り時間も少ないのに7部屋も回るんですか? 大丈夫でしょうか?」
 セシルがそう言ってMAPをみると、伊織が「この階だって全部の部屋に敵がいたわけじゃないし大丈夫だと思うわ」と励ます。
「そうですね。さて、残り2階、頑張っていきましょう」
「ええ、そうね」
 セシルの言葉に伊織が答え、会話はお終いとなった。そして二階へと下りていく。

「開けますね‥‥」
 息を潜めてドアノブを握るセシルに、伊織が無言で頷く。そして、セシルが思いきってドアを開けた瞬間伊織が飛び込む。しかしその中には誰もいなかった。
「外れですか‥‥」
 椛がため息をつく。と、途端に隣の部屋のドアが開いた。そこから思い思いの獲物を持ったバグア兵が出てくる。数は5人。
「出てきてくれて嬉しいわ。探す手間が省けて」
 伊織が笑うと、まず銃器を持ったバグア兵が遠距離から攻撃をかけてくる。それを椛とフィオナが盾で防ぐとこちらも安則や瑠璃、栗花落が銃を手にとって反撃する。そして攻撃の途絶えた一瞬の隙を見計らって安則がエルに、「行け!」と、指示を出す。
 エルはすでに何度も繰り返した瞬速縮地から円閃を使ってのコンビネーションで一人を倒すと、さらに返す刀で銃を持っているバグア兵の手を狙って銃を弾く。
「それでは、私も参りますか!」
 夕姫が瞬天速から瞬即撃というコンビネーションで相手の急所を打つと、さらにそれを二度繰り返し、敵陣に大きな穴を開けた。瞬天速と瞬速縮地の能力の違いが、一見似たようなコンビネーションでも大きな違いを産むのだ。
 そしてセシルが椛とフィオナの盾の隙間をすり抜けながら接敵し、攻撃力を強化した一撃をバグア兵に叩き込む。
 最後に伊織が銃撃を躱しながら二本の剣を使って敵の持つ銃を全て弾き飛ばし、動きを止める。その動きはまさに幻影の如しであった。

「2階も外れか‥‥」
 念のため2階の全部の部屋を見回って敵も目標もいないことを確認すると、安則がそうぼやいた。
「まあまあ、1階と2階で挟み撃ちにならなくてよかったじゃない」
 フィオナが安則の肩を叩きながら言う。
「まあな。だが、残り時間も3分の1を切った。早いとこ探さないとな」
「そうですね。これが実戦なら、人質が『処理』されていることもあるんでしたよね‥‥それだけは防がないと」
「そうだね、エル君の言うとおりだよ。こんなところでぼやぼやしている暇あったら、早く1階にいこう」
 瑠璃の言葉に皆が頷くと、再び班編制を組み直して1階へと向かった。
 そして、一つ目の部屋は外れだったため、二つ目の部屋に突入し閃光弾を投げた。それは20秒の猶予を彼らに与える。そして部屋の奥に彼等が救出すべき人物がいた。写真通りの人物。顔も隠されていない。これで間違いないだろう。
 銃を持っている者達は即座に室内にいるバグア兵の急所に向かってペイント弾を発射する。そしてタイムリミットが次第に近付いてくる。
 夕姫とエルがスキルを使って一気に要人に近付き、夕姫が要人を抱えて1階の窓ガラスを割って建物の外に出る。
「大丈夫ですか?」
 立上がりガラスの欠けらを払ってから夕姫が救出目標である要人役の人物に尋ねる。
「いささか乱暴でしたが、まあ、及第点でしょう」
 その人物はそう答えると顔に手をやり、顔を剥ぎ取った。
「特殊メイク‥‥」
 合格の報が天井から響く中、窓を乗り越えた椛が見たのはフィッシャー先任軍曹だった。
「軍曹‥‥」
 エルも唖然としている。フィッシャー先任軍曹は割れた窓から部屋の中に戻ると、椅子に座った。
「まあ、私も人が悪いと思っていますよ。そして、今回の訓練の様子はそこのモニタでずっと拝見していました」
「それで、どうだったんですか、私達?」
 栗花落が尋ねる。
「まあまあ及第点という所ですね。フォーメーションとか作戦はよかったのですが、肝心な部分が抜けていました」
「肝心な部分ですか?」
 そう尋ねたのは瑠璃である。
「ええ。脱出計画です。私を救出して、その後どうやって基地まで帰るつもりだったのですか?」
「ああ、そっか!」
 フィオナが叫ぶ。
「納得していただけましたか? ヘリボーンですから、往路同様復路もヘリを使うのが一般的です。帰りのへりが撃墜される場合もありますが、そもそもヘリボーンが出来る状況なら航空戦力は整っているか、地上戦力が同時に侵攻していると考えなければいけませんでした。しかも暗殺や敵基地の破壊ではなく要人の救出ですから、ノーヒントでそこまで辿り着いて欲しかったですね」
「軍装殿、それは少し厳しいのでは?」
 安則の言葉にフィッシャー先任軍曹は首を振る。
「ヘリボーンだからヘリで帰るのが当然と思っているのなら、窓から飛び出るような真似はしないでしょう。万が一窓から飛び出して地上におり、ヘリに乗ろうとしていたのなら無謀も良いところです。今回の場合は、せっかく制圧して敵がいなくなった往路をそのまま利用して屋上のヘリに戻るのが正解でした。ということで、ミッションは成功ですが100点ではなく70点といったところでしょうか。では、そろそろ夕食時ですので、ここでステーキでも食べて帰りましょう」
 その言葉に、賛同の声が上がる。そして一同は特大のステーキを食べてからセンターに帰ったのであった。