●リプレイ本文
●Aパート
チェスター・ハインツ(
gb1950)は射撃訓練をしていた。
「くそ!」
だが、何か胸騒ぎのようなものがして訓練に身が入らない。そこにサラ・ディデュモイ(gz0210)演じる藍・カレンがやってきた。
「どうしたのチェスター? 何か訓練に身が入っていないわね」
「なんだろう、嫌な予感がする‥‥気のせいかな?」
妙に弱気なチェスターをカレンは笑った。
「大丈夫、きっと気にしすぎよ。最近バグラムとの戦いが激しいから疲れているのよきっと」
「そうかな‥‥きっとそうだろうな」
チェスターはその嫌な予感を頭から振り払うように訓練に没頭していく。
「研究の、引継ぎですか?」
月影・白夜(
gb1971)は軍から届いた辞令を見てしばらく悩む。だが、皆のためにとそれを承諾すると研究室に移動し、白衣を着用して失踪した博士が残したレポートやエミタとAUKVや新開発のKVの資料を読解していた。(古い資料にはルーイの名もある)
「僕達もあの最初の運命の日以来随分強くなりました。でも‥‥」
そう言って白夜はあの日、ドラグナイツになった日以来右手の甲に輝く金属を見つめながら考えた。
「コレについては、核心の殆どがブラックボックス。意図的に抹消された痕跡すらある‥‥」
そう考えたときだった、研究室にドニー・レイド(
gb4089)演じる藍・祥龍がやってきた。
「やあ、調子はどうだい?」
「さっぱり‥‥ですね。エミタのほとんどがブラックボックス化されていて、かろうじて拾えたのがこの詩‥‥『心の扉開きし時、大いなる竜は目覚める、されど‥‥』」
「されど?」
「さあ? 最後のほうはインクが滲んでいて読み取れないんです」
そう言って白夜は溜息をつく。
「それに、別の問題もあります」
「別の問題?」
「今迄の状況をみても此方の情報が洩れているのは確実だということです」
「それは確かに俺も考えた。でも、一体どこから‥‥?」
祥龍の顔に苦渋の表情が浮かぶ。彼も信じたいのだ。だが‥‥
「信じたくはないですが‥‥情報が漏れているとしたら線は一つしか考えられません」
白夜も苦しい表情をしつつ、脳裏に優しい女性の姿を浮かべる。
「そうか‥‥君もそう思うか。白夜君、俺はこれから喫茶店に行ってくる。皆への伝言と後のことは頼む」
「わかりました」
祥龍はそういうと研究室を出て行く。
「お気をつけて‥‥」
何を気をつけるというのだろう。白夜は自分の考えが馬鹿らしいものに思えて一瞬苦笑した。
キャプテン・エミター(
gb5340)演じるニュクス・アイオーンは自分のドラグーンに跨り、星屑を散りばめたようなイヤリングを弄んでいた。それは祥龍から誕生日プレゼントとしてもらった物だった。
「‥‥良いんですか、こんなもの?」
「ああ。誕生日プレゼントだよ、ニュクス君。是非、受け取ってほしいな」
若干照れながらそういう祥龍に対し、ニュクスは耳元まで真っ赤になっていた。
「あ、あの‥‥大切にします! 大切にするから‥‥とっても‥‥」
安住の地を見つけた様に安らいだ、とても嬉しそうなニュクスの笑顔。その時、ピシッと言う何かが砕ける音がした。
その音で回想から現実に引き戻されるニュクス。
何の前触れもなく、祥龍からもらったイヤリングが割れていた。茫然としつつも嫌な胸騒ぎを覚え、基地内を祥龍の姿を求めて探し回る。カレンとチェスターに当たったが居場所はわからなかった。そんな時白夜が研究室から出てきて、祥龍が喫茶店に行ったことを告げられる。
「祥龍さん!」
漠然とした不安は決定的な不安に変わった。ニュクスは自分のドラグーンに乗り込むと喫茶店へ向かって走り出した。
衣服を整えた祥龍が、小箱を抱えて定休日の喫茶店を訪れていた。彼の不安とは別に、いよいよウレキサイト(
gb4866)演じるウルに思いを告げる気でいたのだ。
喫茶店には閉店との看板がかかっているが、玄関を押すと扉は簡単に開いた。
「あら、祥龍さん?」
ウルが祥龍の姿を認めて声をかける。彼女は店の掃除をしていた。
「どうしました?」
「ちょっと、貴女に用事がありまして。その、よろしいですか?」
照れながら言う祥龍に、ウルも照れながら頷いた。
祥龍はカウンターに座りウルが出したコーヒーを一口飲むと、抱えていた小箱をウルに差し出した。
「これは‥‥?」
「指輪です」
祥龍は精一杯の勇気をこめて言った。
「‥‥どうか、これを貴女に受け取って欲しいんです。俺は何時倒れるかも分からない、だからこそ貴女に。俺は貴女に、自分を受け入れて欲しい」
そう言って小箱の蓋を開け、指輪をウルにみせる。
「祥龍さん‥‥有難うございます。大切にさせて頂きますわ」
ウルは小箱を受け取るとそれを大事そうに抱きかかえた。
祥龍はコーヒーを再び口に含む。だがその途端、ガシャンという音とともにコーヒーカップが床に落ちて割れる。
「なんだ‥‥? からだ‥‥が」
体が痺れて動かなくなっていた。ウルがコーヒーに痺れ薬を入れておいたのだ。そのことを告げられると、祥龍はなぜ? と尋ねた。
「それはね、あたいの本当の名前がウルじゃなくてドロマイトって言うからさ」
口調が急に変化するウルに驚愕する祥龍。よく見ると瞳も金色に変貌している。
「祥龍、あたいはお前を愛している。だから本当のことを教えてやるよ。あたいがなぜバグラムにいて、なぜ人間を憎むようになったかをな」
ウルは、いや、ドロマイトは人間を憎むに至った経緯も含め、彼を説得する。
「あたいはお前を殺したくは無いんだ。あたいと一緒にバグラムに来ないか?」
しかし祥龍は、ドロマイトの告白と誘いに葛藤しつつも拒絶した。
「俺の命は‥‥ウルさん、貴女になら捧げても構わない。しかし、世界も、俺の心も、ドロマイト、貴様には渡せない」
明確な拒絶な言葉。それを聞いたドロマイトは悲しそうに呟いた。
「そうか‥‥じゃあ、残念だけど、お別れだね」
ドロマイトは祥龍の殺害を決意した。
祥龍の目の前で小箱の中の指輪をはめ、彼の頭を抱きしめるようにキスをし、薬を飲ませる。
「Adieu une personne bien‐aimee.(さようなら、愛しき人よ)それは睡眠薬入りの毒薬さ。苦しまずに逝ける。あたいの、最後の愛だよ」
(「カレン‥みんな‥すまない」)
祥龍は、妹とドラグナイツのメンバーのことを思いながら、静かに事切れる。
「さよなら祥龍、愛していたよ‥‥」
ドロマイトは金色の瞳から涙を流しながら、彼の亡骸に再びキスをする。
「祥龍、さん」
ドロマイトがふと気がつくと、そこにはニュクスが立っていた。
●Bパート
ニュクス祥龍に駆け寄ると冷たくなった彼の体を抱きしめる。
「‥‥彼は‥‥心底貴方を愛してたのに‥‥何で‥‥なんでっっ‥‥」
ニュクスの叫びは、ドロマイトの冷たい言葉で砕け散る。
「あいつがあたいを拒絶したからさ!」
「ウルさん‥‥」
「あたいはウルじゃない。ドロマイトだ。バグラムのドロマイトだ!」
「彼が幸せなら‥‥それでよかった‥‥二人が結ばれるなら‥‥辛くても痛くても笑顔でいようと思った‥‥父さんも母さんも、お姉ちゃんも失ってから初めて得た大切な人だったのにっ!! 私だって、彼が大好きだったのに!! お前だけは、絶対に許さない‥‥」
ニュクスの悲しみと憎しみにエミタが反応し、腕が闇の爪を纏い同時に瞳が銀色に変化する。そして絶大な一撃が、振るわれる。だが、力任せなその攻撃はドロマイトに容易く回避される。
「そういえば、お前も祥龍の事が気になっていたようだったな? あたいの祥龍に色目を使っていた事が許せないんだよ!」
そして鞭でニュクスを甚振る。
――そのころ、UPC基地
「戦闘を感知!? 場所は‥‥喫茶店!? 拙い、中尉とニュクスが!」
白夜はドラグナイツの戦闘シグナルをキャッチし場所を特定するとチェスターとカレンを呼び出して出撃した。
「兄さん!」
倒れた兄を見てカレンが叫ぶ。
「ウルさん!?」
変貌したウルを、ドロマイトを見てチェスターが叫ぶ。
「‥‥!」
惨状を目視し白夜が絶句する。
「あたいはウルじゃない。ドロマイトだ。バグラムのドロマイトだ!」
「そんなこと無いと思いたかった‥‥でも、やはりあなたが‥‥」
チェスターがドロマイトの言葉に反応する。
「何故です‥‥信じて‥‥いたのに‥‥」
「あっははは。おかげで重要機密を容易く手に入れられて、感謝しているよ。お前らは間抜けだった。祥龍もな!」
白夜の言葉に、ドロマイトは嘲笑で答える。
「よくも兄さんを! 許さない!!」
カレンが剣と盾を手にドロマイトに突撃する。
「来い、アスカロン!」
ドロマイトが叫ぶと、虚空から黒地に白と赤のラインカラーの、バハムートを改造したと思われる凶悪なフォルムを持ったAUKVがあらわれる。
「くっ‥‥バグラムのコピーAUKV‥‥」
白夜がそのフォルムから敵の正体をいち早く察する。
「行け、アスカロン!」
ドロマイトの命令に、嵐 一人(
gb1968) 演じるバグラムの人造人間ADR−01 アスカロンが答える。
「‥‥‥‥ああ、やればいいんだろ?」
そしてアスカロンはカレンのレーザーブレードを受け止めると、銀の拳銃で彼女の腕を撃つ。カレンのAUKVに軽い爆発が起きる。
アスカロンの力は強大だった。
レーザーブレードと拳銃を巧みに使い分け、ドラグナイツの動き頭を抑えるような攻撃を繰り返す。
「てやああああああああ!」
白夜の槍斧も
「この! この!」
チェスターの銃弾も
「よくも、よくも!」
ニュクスの両手の剣も
「許さない! 絶対に!」
カレンの剣も、あるときは装甲の暑い部分で受け止め、あるときはその鈍重そうな外観とは裏腹の速度でかわす。
「人間は、同類が死ぬと少しは強くなるのか?」
祥龍の死に動揺するドラグナイツに対して、アスカロンはそんな言葉をかける。
「ならソイツは死んで良かったな」
真面目に言い放つアスカロンに、ニュクスが切れた。
「貴様!」
ニュクスの怒りと悲しみと言う闇の波動にエミタが感応し全員の体を闇が覆う。そしてそれはドラゴンへと変貌した。
『されど‥‥心せよ、黒き御魂は全てを呑み込むだろう』
白夜の頭の中にどこからともなく詩の後節が流れ込む。
「いけない!」
そう思ったときには遅かった。
(「私が彼らに利用された理由は、身体能力以外にも優れている物を持ち合わせていたからだ。それは霊感に近いもので、代々受け継がれてきた白銀の魔女の能力。その力を欲するモノ達に利用されてきたのは私の祖母の代まで。その為私たちの家族はその事を秘密にしていた。私が白銀の魔女の血が目覚めるまでは。ニュクスにはその兆候が見えなかったのが唯一の救いだった。
しかし、今いつ発現してもおかしくはない。
今の妹は抑える術を知らない。
いつまでも、逃げているわけにはいかない。彼らを倒さなければ自由になることなど有りはしないのだから。
何か嫌な胸騒ぎを感じる何か悪いことが起こりそうな‥‥」)
「あれは‥‥」
烏丸 八咫(
gb2661) 演じるエオス・アイオーンは空を見上げ禍々しい龍の姿を見つめる。
「いけない負の力が暴走している!」
闇の竜は喫茶店を破壊し、大きなうねりとなってアスカロンに向かった。
「くっ!」
その力を正面から受け止めるアスカロン。
しかし、いかなコピーAUKVと言えど、暴走した四人のドラグナイツの力に敵う訳はなかった。
「はははっ、いいぞ、ドラグナイツ。いいぞ、最高の戦いだ!」
アスカロンは笑いながら爆発した。
そして闇の竜は彼らから大切なものを奪ったドロマイトに向かう。しかしその時――
「穿て、シルバーファング!」
どこからともなくエオスの声が響き、奇形剣が闇の竜に向かっていく。
奇形剣は粉砕されるが、それと引き換えに彼らの暴走を止めることに成功した。
「ふん、出来損ないのクロウちゃん‥‥やっとのお出ましかい? お前の妹はこの通りさ」
ドロマイトは鞭でニュクスを羽交い絞めにするとエオスに見せ付ける。
「おっと、近づくなよ。縊り殺すぞ?」
そう言ってドロマイトはドラグナイツとエオスから十分な距離を稼ぐとバグラムの超技術で空間転移した。
「ま、待て‥‥」
去っていくドロマイトとを狙いライフルを構えようとするがチェスターは結局引金は引けない。
それが、自身が力尽きたせいか一瞬ウルとの思い出が頭を過ったせいか、自分では判らなかった。
「ニュ‥‥クス‥‥」
白夜は途切れ途切れに仲間の名前を呟く。
「ニュクスーーっ!」
カレンは大声で叫んだ。
バグラム本部
帰還したドロマイトを迎えたルーイ(
gb4716)は、ニュクスを捕らえていることに気がついた。
「そいつは確か、ドラグナイツの‥‥一体どうしたのだ?」
そう尋ねるルーイに、ドロマイトは一通り説明をする。
「そういえばアスカロンがいないな。敗れたのか?」
「確認はしていない。だがあの爆発だ。無事でいるほうがおかしいだろうな」
「こいつを俺に預けてみる気は無いか? こいつを素にすればアスカロン以上の兵器が造れるかも知れんぞ?」
ルーイはニュクスを素体にしたいと言い出すが、ドロマイトにすげなく断られる。その後ドロマイトが祥龍をバグラムに誘うと聞いていたため、ドロマイトに質問する。
「あ〜、ところで祥龍を説得するとか言っていた気がするが、あれはどうなったんだ?」
「殺しちまったよ。あっはははは」
その言葉に対しルーイはそっけない返事を返すが、ドロマイトの目に涙が浮かんでいることには気がつかなかった。
そして一人になったルーイは、友人の死を悼んで涙する。
「その‥‥大丈夫ですか?」
兄を失って悲しんでいるカレンを気遣いながら、チェスターはどうやってニュクスを助け出すかを考える。
「正直、大丈夫じゃないわ。でも‥‥シルバー・クロウ、助けてくれたことには感謝するけど、何しに出てきたの。バグラムの貴女が?」
「今の私は、もうバグラムのシルバー・クロウではありません。エオス・アイオーン。私はニュクスの姉。信じて貰おうとは思いませんが、妹を助けたいという気持ちに嘘偽りはありません。案内します彼らの場所へ」
決意に満ちた視線をドラグナイツ達に向ける。
「迷ってる暇はないですね‥‥あなたの話、今は信じます」
チェスターは仲間を助けるという責任感を持ち決意を新たにする。
「悔んでても仕方ないのは分かってる‥‥だから、僕は、僕たちは仲間を助ける!」
「行きましょう‥‥僕達の力で取り戻すんです‥‥全てを」
白夜がそう意思を定める。
「そうね。エオス、だっけ? 案内、頼むわね」
カレンの言葉に、エオスは頷く。
そして一向はエオスが身に着けたバグラムの超技術でバグラム基地へと転移した。
続く‥‥