●リプレイ本文
「ではまず、自己紹介から‥‥と行きたいところですが、時間が少ないので省略させていただきます。それでは早速複合装甲の耐久試験に入りたいと思います」
ヨハン・アドラー(gz0199)がそう言うと、傭兵たちが乗ったKVが次々と起動する。そして廃棄寸前のM1戦車と装甲を強引に新型複合装甲へとり替えたM1戦車が2台ずつ、計16台並んでいるテスト会場へと移動する。 各KVの武装の威力は、綿貫 衛司(
ga0056)の提案によりアストレイアの主砲と同威力まで射撃諸元が調整されている。
綿貫曰く
「戦車ないし戦艦の装甲の条件として、『自身の砲、もしくは自身の砲と同等の威力に耐えうる』と言うのがあると聞いたことがあります」
とのことであった。
まずはその綿貫が雷電に取り付けたP―120mm対空砲を発射する。
未改造のM1は最初の数発で大破したが、新装甲のM1改とでも呼ぶべき物は、それからやや遅れて中破した。
「ふむ‥‥確かに防御力は上のようですね」
綿貫はKVの中で一人呟く。
その次が九条・命(
ga0148)であった。
九条はバルカンを発射し強度比較をすると、次いで10mまで近づいてショルダーキャノンを発射する。
これはさすがに新装甲でも耐えられなかった。
「やはり接近されればもろいか‥‥」
ドロームの上役と九条の言葉がシンクロする。
「まあ、戦車は基本的に接近戦向けではありませんから」
アドラーがそう言うとドロームの上役も確かに、と頷いた。
「昔からM1を友軍として戦ってきた身としては思うところがないこともないですが‥‥」
里見・さやか(
ga0153)はそういうとグレネードランチャーの銃口を戦車に向けた。
「前線の皆さんのためにも、よい結果になるといいですね」
乾 幸香(
ga8460)も同じくグレネードランチャーの銃口を向ける。
二人の違いは、さやかが面制圧兵器に対する防御力の試験に対して、幸香が爆発に対する耐久性の検証である点だ。
まず里美がグレネードランチャーを発射した。爆発の瞬間、戦車内部に取り付けられたセンサーが急速な温度の上昇を告げるが、M1の50度に対して新装甲の戦車は30度前後でおさまった。少なくとも乗員の焼死ということはなさそうであった。
今度は乾がグレネードランチャーを発射した。爆炎によって装甲の表面がどうなるかカメラによって詳細に記録される。表面装甲の剥離や亀裂に違いがはっきりと出ていた。
シリウス・ガーランド(
ga5113)は、「正面からの比較はすでに結果が出たたようなので、我は側面からの射撃比較を行おう」と言うと、P―115mm高初速滑腔砲を二発ずつ戦車の側面から撃ち込んだ。ちなみにこれも射撃諸元が調整されている。
結果としては正面から攻撃されたときよりはダメージは大きく、乗員の生存確率は三割前後という見込みであった。
「戦車は装甲が大事だからね。どれ位堅くなるかよく分かるようにしないと」
フィオナ・シュトリエ(
gb0790)はスナイパーライフルを正面から同じ場所に同じ弾数を打ち込むという技を魅せ、車両に使われている素材自体の強度のテストを行った。その場では大差が無いように思われたが、後の検査で新型装甲はM1の装甲と比較して約2割増し程度の強度であることが判明した。これは大きな成果だった。
テト・シュタイナー(
gb5138)は一箇所へのレーザーの照射後、その場所にバルカン砲を集中して発射すると言う試験を行った。
これはシュタイナー曰く
「知覚兵器を食らった後に、物理攻撃を食らうとどーなるかって試験」
とのことであったが、知覚兵器には弱いという弱点が露呈した。
やはり量産前提で、物量で押し、時には使い捨てとなることも考えると、知覚兵器に対する防御機構は戦車に搭載するには割高だったのである。
シュタイナーはそれらのデータを、ほかの傭兵の試験項目も含めて、借り受けたコンピュータに入力していく。そして長所と短所を割り出していった。
「さーて、この性能なら技術や理論や素材をKVに逆転用できるんじゃないのかな。んでもってKVにも転用できるってことは普通の航空兵器にも転用できるんじゃないかと思うんだけどどうだい?」
それに対して所長のジャンヌ・ライラックはAEEは複合装甲に関する技術情報の開示を積極的に行うことを明言した。
最後は孫六 兼元(
gb5331)の番であった。
「ワシらの初仕事だぞ!」
孫六はそういって操縦桿を軽く叩く。兼元は傭兵になって日が浅いために肩慣らしとしてこのコンペを初仕事に選んだ。
そして兼元は戦車にバルカンを一点集中で打ち込む。従来の装甲と比較して損壊状態からの脱出に余裕が取れる程度の時差が生じた。
「これなら戦車兵の消耗は避けられそうだな」
UPC北中央軍の士官がそれを見て頷く。
「兵器は量産できても兵士はそうは行きませんからね。日本のゼロ戦の教訓から、生存率を可能な限り引き上げるように設計しました」
AEE副所長の如月・孝之がそう説明する。ベテランの乗員が操る日本のゼロ戦は、戦争初期には強かったが、やがてゼロ戦を上回る機体がアメリカ軍に登場すると、機体もろともベテラン搭乗員の命が失われていった。そのため日本という国は制空権を失ったのである。二人乗りでベテランが新兵を指導するというコンセプトのもとに、如月は乗員の安全に最大限の配慮を置いたのだった。
「さて、次はペイント弾で打ち合いをしてもらいます。まずは静止状態での射撃テストです」
アドラーの言葉とともに、新造されたアストレイア3両が会場に入ってくる。その間に傭兵たちのKVの弾頭もペイント弾に取り替えられる。
まずは静止状態での打ち合いであるが、これについてはシュトリエの試験項目が特殊だったためそれに注目を受けた。
近距離、中距離、遠距離の三段階で距離を変えてその状態でアストレイアがどのような対処が出来るのかというものだった。
まず遠距離から次第に距離をつめていくように打ち合う。中距離までは主砲で対抗したが、近距離になると副兵装を使わざるを得なかった。主砲では弾丸が最高速度に到達する前に命中するため、効果はあまり期待できないということになったのだ。
その後走行間射撃という事になった。
地上のキメラと空中のヘルメットワームを想定した擬似戦闘に近かったために、全KVが同時に参加しての混戦となった。
演習場の端から端までを使い、ロボ形態のKVと飛行形態のKVが戦車に向かって接近したり離れたりしながら射撃を行った。(もちろんコンペに参加した軍人やドロームの社員に万が一にも危害が及ばないようにフィールドを設定した)
綿貫と九条、乾、シュタイナー、それに孫六が地上で追従性や追尾性を、あるいは死角からの攻撃といった項目を調査していく。そして里美が電子支援をかけながら、遠距離からKVステンガンで攻撃する。
対するアストレイアは一両が主砲で攻撃し、残りの二両が副兵装でフォローするという戦法で多数の敵と渡り合い、KVの動きにもある程度はついて行った。だがやはり装輪走行を行われるとそれ以上の追尾、追従は不可能だった。そして死角からの攻撃にはオプションとして搭載していたパラボラのリンクシステムがうまい具合に働いた。これにもやはり互いにフォローしながら戦うといった手法がとられた。
その反面、空中に移動して攻撃してくる九条と、空中から地上の移動目標に多弾頭ミサイルを撃ってみたいという要望が受け入れられたガーランド、ロケットランチャーを打ち込んでくる乾、ヒットアンドアウェイで攻撃を繰り返すシュトリエ。これらに対しては、やはり戦車の上には弱いという欠点をさらしながらも、主砲と機銃が効果を発揮した。といっても有効打を与えられそうなほどではなく嫌がらせ程度にしかならない。それでも低空を飛行するキメラ相手なら何とかなるだろうというのが観客たちの統一された見解だった。
そして最後は副兵装をアンマウントしてのKVへの取り付けと発射テストである。
実際にアタッチメントが可能かどうかを調べるために綿貫とシュトリエが各種兵装を取り付けようと試みるが、自分だけでは取り付けることが出来ず、ほかのKVの手を借りないと確実なアタッチメントは出来ないという欠点が露呈した。
「やれやれ‥‥まだまだですね。取り回しにやや難あり‥‥ですか」
如月が頭を振る。これは思わぬ欠点だった。次回までには改良することを如月は約束すると、傭兵たちは早速副兵装を取り付け始めた。
孫六は煙幕弾を、シュタイナーはグレネードランチャーを、シュトリエと乾はクラスター型ロケットを、九条は多弾頭ミサイルを、里美は副兵装の試験は行わずデータ取りの手伝いを試験することになっていた。
まずは孫六が巡航速度から最大速度までの5段階の速度で煙幕装置の試験を行う。
巡航速度から通常の戦闘を行う中程度の段階までは煙幕は正しく展開したがそれ以上の速度になると自機も巻き込んでしまうことがわかった。
「それじゃ、いっちょド派手に試すとすっか!」
次にシュタイナーがグレネードランチャーを発射する。
このグレネードランチャーはリロードが可能なかわりに射程が短く、実質的に自爆的な使い方しか出来ないことを説明されて驚いたいたが、手持ちのグレネードランチャーと比較するためにあえてこれを選んだのだ。
地上におかれた複数の標的を、自機をも巻き込んで燃焼させる。そしてその次に手持ちのグレネードランチャーを発射する。攻撃力はシュタイナーが装備しているグレネードのほうが高いようであったが、リロードできる便利さがよかった。
シュトリエと乾は射程に入ったバルーンの群れに向けてクラスター型ロケットを発射する。
ロケット弾は複合信管で目標への接近を探知する。そして弾頭が割れて子爆弾を吐き出し、バルーンに接触した子爆弾が爆発しすべてのバルーンをなぎ払う。
命中精度は子爆弾任せのために必要とされていない。
一発一発の威力は低め。
有効射程は100メートル。
攻撃範囲は射程範囲内の敵味方すべて。
連射性能は極普通。
装弾数は4発。
戦闘中のリロードは不可能。また、発射時に無防備になるため回避性能がやや落ちる。
これが今回の試験で洗い出されたクラスター型ロケット弾の性能だ。
もちろん、戦車に取り付けているときとは射程は異なるが、量産型の戦車につける副兵装としては妥当なレベルだとライラックは言う。
「店売りのKV用の装備と違い性能は低めに抑えました。ですが戦車の装備であることを考えればこれが妥当なレベルで、あとはKVに搭載するには個人個人で強化をしてもらうのが良いでしょうね」
ライラックはそういってKVとも共有できるがあくまでも戦車用の装備であり、量産されるために性能とコストを抑えたと言った。これは多弾頭ミサイルも同様であると言う。
そして次に多弾頭ミサイルの試験が始まった。
九条が多弾頭ミサイルを発射し、発射から分離のタイミングと分離前とその後の速度の違いを観察した。
ミサイルの分離前の速度はKVの慣性も含めてマッハ1程度。分離は最大有効射程の半分まで加速してから。すなわち射程は200メートルであるので100メートルほど進んでからの分離となる。分離後の速度は計測する限りではマッハ2.5程度。グレネードやクラスター型ロケットと同じく面制圧武器なので、分離した後はそのまま進み、周囲の敵味方すべてを巻き込んでの攻撃となる。
その他里美が収集したデータは、攻撃力はクラスターロケットと同じ程度。また、回避行動に受ける影響はクラスター型ロケットよりやや上。ただし命中精度は若干高い。そして装弾数は2発。
そして、コンペは終了した。
「やはり問題点がいくつか見つかりましたが、概ね満足できる結果と言って良いでしょう。傭兵の皆さん、ありがとうございました」
アドラーがそう言ってコンペをしめるが、無論それで終わりではない。ライラックは軍人とドロームの上役の接待があり、如月は研究所の所員を総動員してのKVとアストレイアのペイント弾の清掃。そしてアドラーは傭兵たちをねぎらい、食事を振舞う。
リザーブしておいたレストランでのフルコースだった。
思わぬ報酬に舌と腹を満足させた傭兵たちはドロームの宿泊施設で一泊してから、ラストホープへと新たな依頼を受けるために高速艇で帰還していった。