タイトル:【8人】少女と赤い花マスター:碧風凛音

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/16 06:55

●オープニング本文


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「さて、何から話しましょうかの」
 高速移動艇の中で老人はそう言って口を開いた。
「まずは、なぜ地元の少女が危ないとわかっている洞窟に足を踏み入れたかだが‥‥」
「それには理由があります」
 そう前置きして老人は語りだす。
 老人の住むリゾート地のある村には、数年に一度奇病がはやる。胎児が母親と融合し、母体ごと死亡ししまうのだ。
 だが、それを治せる薬がある。
 それは海辺の洞窟の置く深くに咲く赤い花、ラーフラから作った粉薬だ。
 ワクチンの研究も行われているが、このご時勢で戦争にはあまり関係のない、感染力も低い病である。ワクチンの開発にはあと一年は待たねばならなかった。
 そして時期はずれではあるが、少女の母親が身ごもり、検査の結果この病の兆候が出たのだ。
 そこで少女は勇気を出して、キメラが住み始めたとされる海辺の洞窟へと潜って行った。
「一晩たっても孫は帰ってこなかったですじゃ。幸いあの洞窟は入り組んでいるので隠れる場所ならたくさんあるのですが、翌日になって10人の村の男からなる捜索隊が繰り出されました。しかし‥‥」
 しかし半数はキメラに襲われて死亡。三人が命からがら逃げ帰り、残りの二人はキメラから逃げて洞窟の奥へと進んだ。
「それで、逃げ帰った人たちの報告ではなんと?」
「キメラは半漁人のような、昔の安っぽいSFに出てくるような不気味なキメラで、水中から襲い掛かってきたとか。爪と牙が武器で、殺された仲間が食われているうちに彼らは逃げることができたのです」
「キメラの数は?」
「三匹ということでしたが、おそらく哨戒をしていたのだと思われますじゃ。ですから、奥にはもう少しキメラがいると見て良いと思います」
「なるほどな‥‥大体は判った。しかしコリャ緊急だね。現場に着いたらすぐに準備して洞窟に行かないと危なそうだ」
 しかし老人は頭を振った。
「あそこの洞窟は満潮時には入り口付近は水で埋まってしまいます。この時間帯だと、洞窟に着いたときには丁度満潮の時間でしょう。潮が引いてからのほうがいいと思います」
「しかしお嬢ちゃんの生死に関わることだろ?」
「ダイビンググッズもレンタルできることにはできますが、3000Cほどかかります。こんなことを言えた義理ではないのですが、報酬と比べて考えてくだされ‥‥」
 そう言って老人は言葉をとめた。
 高速移動艇の中に沈黙が満ちる。
 どうすればいいのか悩んでいるのだろう。
 そして、現地に到着した。

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD

●リプレイ本文

●移動の船内で
「成る程‥‥お孫さんがキメラが居る危険な所に行ったのは、そんな理由が‥! ‥お母さんを大事にするのは偉いのです! でも、それでお母さんを泣かせちゃ、意味無いのですよ!」
 フェリア(ga9011)は老人の話を聞いて興奮していた。
「だから、誰も泣かない世界にする為に、私達傭兵が居るのですっ!」
 そして正義に燃えていた。
「義を見てせざるは勇無き成り! 必ず村に笑顔を取り戻してみせるのです!」
「世の中はまだまだ美空の知らないことでいっぱいなのです。そんな病気聞いたことないのですよ。おじいさん、もっと詳しい話を聞きたいのでありますよ」
 美空(gb1906)が老人に洞窟のこと、少女のこと、ラーフラのことを尋ねる。特にラーフラについては細かく尋ねた。
「洞窟の奥の水辺に赤い花束がありますので、すぐにわかると思います。じゃが、孫さえ無事なら花は取れなくても構わないのですじゃ‥‥」
「娘さんと新しく生まれてくるお孫さんを助けてくれとは言わないんですね。報酬のことなら気にしなくてもいいですよ。散った命のためにも、助けるべき命は助けるよ」
 諫早 清見(ga4915)がそう言うと、老人は深く頭を下げて礼を言った。
「目覚めが悪いのは嫌いでしてね、全員助けられなくても二人、二人助けられなくても一人だけでも助ける事ができた方が少しは目覚めがよくなります。いわば私は自分が気持ちよく目覚めるためにこの依頼を受けたんです。いまさら気兼ねしないでください、ご老人」
 綿貫 衛司(ga0056)はライフルの整備をしながら老人に言った。
「請けたからには全力で解決してやるさ。後は何も気にすんなって。大丈夫、お孫さんを暖かく迎える準備をして待ってな」
 鈍名 レイジ(ga8428)がぶっきらぼうだが優しい口調で言うと老人は泣き出した。
「うう‥‥ほんとうに、本当にありがとうございます‥‥‥‥」
「私は母親というものを知らないけど、だからこそお母さんも必ず助けてみせる」
 トリシア・トールズソン(gb4346)が胸に秘めた思いを明かさぬまま、老人に決意を告げる。
 物心つく前にはいなくなっていた母親、傭兵の父親に連れられて戦場を駆け巡る日々、一度だけ「優しい女性だった」と寂しそうに語った父親の姿、そしてバグアに父が殺され、彼女は傭兵になった。
「私みたいに悲しい思いをする子供が出るのはいやだから‥‥」
 トリシアは一言だけそう言った。
「トリシア‥‥」
 ナンナ・オンスロート(gb5838)がそんなトリシアの思いを察して軽く抱きしめる。
「大丈夫よナンナ、私なら平気」
「ともかく、無事でいてくれればいいんだがなお嬢ちゃんも、村の男も」
 テト・シュタイナー(gb5138)がそう言ったころ、高速移動艇は村へとたどり着いた。

●8人の傭兵 参上
 傭兵一行は現地に到着するとまず情報収集を始めた。
 清見は衛司といっしょに現地の村人、探索に出たものの生き残りから詳しい話を聞く。
「洞窟内部の構造は――」
 かなり複雑であるとの答えが返ってきた。初めての人間がもぐりこんだら迷う確率が高い。
「あんたらも仕事とはいえ、厄介な依頼を引き受けたな。まあ、あの娘に同情しない人間はこの村には一人もいないが、短慮だったんじゃないかとは思うね。おかげで人死にがでた‥‥」
「あなたは‥‥いえ、何でもありません」
 村人の最後の言葉に衛司は一言言いたくなったが、時間が惜しいのでそれを我慢して付近の潮流の具合等を確認し、情報を傭兵達の間で共有化する。
 清見は生き残りに話を聞き、レイジが事前に得ていた地図からキメラに襲われた地点を教えてもらい、ついでに逃げた二人の名前を尋ねた。
「カイトとスミスといいます。お願いします。あいつらを助けてやってください。キメラに襲われて、村の仲間見捨てて逃げ出してきちまった俺が言えた義理じゃないですが、どうかよろしくお願いします」
 男は涙をこぼしながら傭兵達に頼み込んだ。
「勿論だよ。お母さんと赤ちゃんも含め、助けるべき命は助けるよ」
「ああ、ありがとうございます」
 清見は男からの感謝の言葉を受け取ると、村の男性のパソコンを借りて地図をスキャンしコピーして8人に手渡した。
 レイジは持ち物袋の防水処理をテトとともに行いながら作戦を練っていた。
「じゃあ、先発と後発に分けるんだな? だったら俺は後発組で行く」
「私は先発組に入るのですよ。それではダイビンググッズをレンタルして、ついでに水着も購入してきます。時にお爺ちゃん、私は持ち合わせが少ないので報酬の前借をお願いしたいのですが、よろしいですか?」
 フェリアがそういうと老人は財布からフェリアの分の報酬を取り出し預ける。
「本当に少ないですが、これで、どうか孫をよろしくお願いします」
 老人は頭を下げる。
「お爺ちゃん達が汗水流して作った、この金‥‥疎かには使わんぞ‥‥ッ!」
 フェリアは覚悟を決めるとダイビンググッズのレンタル場に走っていった。
 そして、トリシアとテトもそれに続く。ちなみにほかのメンバーは自前で用意していたものを使う予定だ。
「報酬うんぬんを気にしてる場合じゃねぇ。金で手段を買えるのなら、喜んで払うぜ?」
 そして、テトはその時こう漏らしていた。
 三人が帰ってくると作戦会議は詰めを向かえ、先発組が衛司、フェリア、トリシア、清見、テト。後発組が美空、レイジ、ナンナとなった。
「私も本当はトリシアと一緒に行きたいけど、こういう局面では退路の維持も重要な任務だからね」
「冷静だね、ナンナは。私は今すぐにでも駆けて行きたいのに」
 ナンナの言葉が気に障ったのか、トリシアは皮肉を言う。
「私だってそうだよ。でも合理的に必要と判断すればっ‥‥! 非情になるということは、感情をなくすことではないのよ!」
「だったらわざわざそんなこと言わなくたっていいじゃない!」
 二人の会話が売り言葉と買い言葉に化そうとしていた時、衛司が二人をとめた。
「何をやっているんですかお二人とも! 今はそんなことを言い合っている場合ではありません。一刻も早く救助に向かわなければ、助けられる命も助けられなくなります。時間が無いんですよ!」
「っ‥‥ごめん」
「ごめんなさい」
 トリシアとナンナが慌てて言葉を収め、謝罪をする。
「では、行きましょうか」
「応なのです。先発組は今すぐ出発するとです。後発組は、他の場所から入れないかの探索をお願いしますのです! さぁ、8人の傭兵の力、悪鬼羅刹どもに見せつけてあげませう! えいえいおー!」
 フェリアが鬨の声を上げる。
「時にフェリア殿、お金が入ったからにはつけは返してもらうでありますよ」
「ううっ! 美空殿のオニ!」
 そんなこんなで洞窟への突入と相成った。

●突入 〜先発組の場合〜
 エアタンクを背負い洞窟の入り口へと飛び込んだ先発組は、まずはまっすぐにラーフラがあるという場所を、地図を頼りに目指す。そこに少女がいるのではないかと思ったからだ。しかし――
「参りましたね。こんなことなら無理を言ってでも村人に案内人をお願いしたほうが良かったですね」
 衛司がぼやく。洞窟は思っていた以上に複雑だった。水中は抜けたが、またいつ何時水に潜るともわからないのでエアタンクは手放せない。地図どおりに進んではいるはずだが帰路が心もとなかった。後発組に無線を入れようとするが入り組んだ地形の洞窟では電波が届かず通信できない。
「おーい、誰か居ませんかー? ‥‥中にだーれもいませんよ?」
 フェリアが大声で叫ぶと天井から小石が落ちてくる。
 しばらくして探索に出た村人たちがキメラに襲われた地点が近づいてきた。
「そろそろ用心しねーとな。皆、警戒しろよ。不意打ちには気をつけろ」
 テトがメンバーに警戒を呼びかける。それを受けて全員が警戒を強化し死角を埋めあうように動く。
 それが功を奏した。
 洞窟を横切るように水が流れている場所で、動く影を発見したのだ。
 その影が飛び出してきたのと、先発組のメンバーが武器を構えたのは同時だった。

●突入 〜後発組の場合〜
 潮がある程度引いてから突入した後発組は、洞窟を進みながらマッピングをし、壁に傷をつけて帰り道に目印をつけ、先発組の退路を維持する。それと同時に先発組が赴かないであろう場所も探索し、要救助者の発見の確率を高める。
 結論から言えば地図は正確ではあったが、分岐先を書いていない箇所が多く不十分な物であるということが判明した。それでも正確さは十分であり、ラーフラへと至る道や人が隠れやすそうな場所などの記載はしっかりとしていた。先発組が不安に感じた帰路も、後発組が確保しているから問題は無い。後は少女と村人に出会えるかどうかである。
 後発組は人が隠れていられそうな場所を探しながらあえて先発組とは違う経路でのラーフラへの道を探す。キメラの待ち伏せなどを考慮してのことであった。
 そして、水が流れている場所を通り過ぎてわき道を奥へ奥へと入っていくと、二人の男性が倒れているのを発見した。
「大丈夫ですか!?」
 ナンナがAU‐KVのアーマー形態を解除して男性達に駆けつける。脈と呼吸は正常だ。
「ううう‥‥」
 意識もあるらしい。それともうわ言か?
 揺り起こすと男は「化け物があああああああ」と叫んでからしばらくして、はっきりと意識を取りもどした。
「ここは‥‥」
「ラーフラの洞窟の中であります。私達は傭兵で、皆さんを助けにきたであります」
 美空もアーマー形態を解除して男達に言う。
「カイトさんとスミスさんだな? 無事でよかったぜ。洞窟の入り口まで送ろうか? まだキメラがいるからな」
「いや、あんた達はこの洞窟は初めてだろう? 迷うといけないから、俺達が道案内をしよう。レジィナもまだ見つけていないしな‥‥」
 レジィナとは、老人の孫の少女の名前である。
「ですがキメラが‥‥」
「それでもレジィナを探すのが俺達の仕事だからなぁ‥‥傭兵さん、あんた達だってそうだろう?」
 ナンナの言葉に男達は反論する。
「確かに‥‥そうですけど‥‥」
「だったら連れて行ってくれ。あの子さえ助かるなら俺達は見捨てられても構わないよ」
「‥‥‥‥」
 ナンナは絶句する。それは彼らが仲間を見捨てたことによる自責の念から来ているのだろうか?
「まあ、とにかく連れて行ってくれ。このままじゃ目覚めが悪い」
 衛司と同じことを言う。
「わかった。ただし、キメラが出てきたら安全なところに隠れてくれよ」
 レイジが言うと、男達は笑った。
「了解だ」

●戦闘
 半漁人が三匹、水中から飛び出してくる。
 それは昔のSF映画のような不気味な姿だ。
 水面を背にキメラたちは爪をとぐ。安全な陣地を後ろにしての余裕の現われだろうか?
「水中に逃がすなよ! 逃げられたらやばい」
 清見がそう言ってキメラの群れに突入する。
 スラストを構え、中央のキメラを引き裂く。
 蹴倒し、踏み倒し、両脇の二匹に獣突をかける。
 これで二匹のキメラは水辺から離れた。
 倒れた三匹のキメラが起き上がる。
 水中では俊敏なキメラだからこそ、陸上での動きは遅い。のろのろと清見に向かって集まる。
 中央のキメラは意外な怪力で清見に襲い掛かるが、清見は俊敏にそれをかわす。
「これでどうです!」
 衛司は中央のキメラに駆け寄るとスマッシュでキメラの急所と思われるエラ部分を潰す。
 キメラは呼吸ができなくなって倒れる。
 トリシアは小さい体格を生かし地面ぎりぎりを素早く駆け抜け、下段から右側のキメラのエラを衛司がやったように叩き潰す。
「‥‥ッ!!」
 そして呼吸できなくなって倒れかけるキメラの胸に円閃を使って一撃を叩き込む。それでキメラは絶命した。
 フェリアは左のキメラに駆け寄ると3メートルの長さの刀国士無双に突撃の勢いと全体重を乗せ突きを入れる。
「大立回りが出来ない狭い場所では、私の真価が発揮できぬとです。‥‥‥‥フツー逆ですか、そうですか」
 キメラは重傷を負ったがまだ生きている。
「とどめだな、二匹とも!」
 テトが前に出て両方のキメラを狙える位置に立つと、試作型水中用拳銃『SPP−1P』を二発発射した。
「人魚は人魚らしく、泡にでもなっちまえっての!」
 中央のキメラと、左のキメラ両方に命中してキメラの生命活動を絶つ。
 そしてキメラを倒した一行は、荒い息もそのままに覚醒を解除すると、5分の休憩の後にそのままラーフラを目指した。

●合流
 案内人を得た後発組はそのまま案内に従ってラーフラを目指すと、途中で先発組みと合流した。
「トリシア!」
「ナンナ‥‥」
 お互い駆け寄りたいのだが、一度喧嘩してしまった手前、二人はそれをためらっていた。
「良かった。村の方は見つかりましたか。あとは少女とラーフラだけですね」
 衛司が安堵した様子でそう言うと、レイジが「レジィナ」と言った。
「ん?」
「女の子の名前だよ。レジィナって言うそうだ」
「いい名前じゃないですか。なんとしても助け出さないと」
 清見の言葉に、フェリアが賛同する。
「その通りなのです。少女を見つけて花を持って帰る。ついでに悪鬼羅刹も撃ち滅ぼして、この村に平和を取り戻すのです。えいえいおー!」
「そうでありますね。美空もレジィナさんを助けたいであります」
「まったく‥‥どこにいるんだか。キメラを倒すのが先か、ラーフラのあることろまでいってレジィナがそこにいることに賭けるか‥‥どうしたもんかね?」
 テトの言葉に村人は、「レジィナなら子供達の隠れ家にいるのではないか?」と答えた。
「子供達の隠れ家?」
「ああ。キメラがいなきゃこの洞窟は格好の遊び場だからな。この先に分かれ道があって、その一つが隠れ家に続いている。子供にしか入れない大きさの穴があって、村の子供達は代々そこを隠れ家‥‥秘密基地にしてきたんだ。あそこならキメラが来ても安全だろうからな。どうする?」
 村人の問いに、能力者たちは顔を見合わせた‥‥

続く