タイトル:【8人】勝ったのは‥‥ マスター:碧風凛音

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/28 03:12

●オープニング本文


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「子供達の隠れ家?」
 村人の言葉に、能力者は尋ねた。
「ああ。キメラがいなきゃこの洞窟は格好の遊び場だからな。この先に分かれ道があって、その一つが隠れ家に続いている。子供にしか入れない大きさの穴があって、村の子供達は代々そこを隠れ家‥‥秘密基地にしてきたんだ。あそこならキメラが来ても安全だろうからな。どうする?」
 村人の問いに、能力者たちは顔を見合わせた‥‥
 先に隠れ家に向かって少女――レジィナを確保すべきか、キメラを探して殲滅してからにするべききか? そのほうが確実だが、洞窟で一晩を過ごしたレジィナの体調も気にかかる。
 そもそも隠れ家にいる保証もない。それでも、何の手がかりもなかった今までよりはましだ。
 さて、どうする。
 キメラは陸戦なら恐るべき相手ではない。
 だが、洞窟内の水の流れに沿って自由に移動できる以上、いつどこから襲ってくるかもわからない。村人とレジィナ、三人の足手まといを抱えてしまうことになりかねない。
 それでも彼らは何らかの決断を下さねばならない。依頼を無事遂行するために。

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD

●リプレイ本文

●血痕
 全員が集まった所で、一行は再び洞窟の奥へと進んで行こうとしたが、なぜかテト・シュタイナー(gb5138)だけが歩を進めない。
「ん? どうかしたのか?」
 鈍名 レイジ(ga8428)が、青褪めた表情のテトの様子に気付く。
「わ‥‥わりぃ、水中戦の事しか考えてなかったせいで、超機械の事を忘れてたわ‥‥」
「ありゃ‥‥そいつは難儀だな。考えてる余裕は無いだろうから、気を付けて行ってきな」
「その方が助かるけど、危険なら戻って来てね? テトが傷ついたら、きっと皆悲しいと思うから‥‥」
 トリシア・トールズソン(gb4346)もテトの単独行動を懸念したが、同じ理由から黙って見送る事にした。
「急いで取ってくる。本当に申し訳ねぇ!」
 テトはそう言い残すと、全力疾走で、元来た道を戻って行く。
「では、こちらも急ぎましょうか。話し込んでる暇は無さそうですな」
 綿貫 衛司(ga0056)は、すっかり歩みの止まった一行を促す。

 洞窟も奥に行く程単調化していき、隠れ家の分岐点まで迷う事も無かった。
 途中水辺を通ったが、特に怪しい所も無く、一行はカイトとスミスの民間人二人を護衛するようにフォーメーションを組み注意深く進む。
「待って下さい」
 先頭を歩くナンナ・オンスロート(gb5838)が異常に気付く。
「見て下さい、血痕です」
 ナンナが指差す方を凝視すると、所々に赤い斑点が道なりに落ちていた。
 フェリア(ga9011)は嫌な予感に囚われた。キメラが一般人相手に負傷する事は考えられない――となれば得られる回答は一つしかない!
「レジィナどのが危険なのです。皆急ぐのです!」

●水中戦
 一行は血痕の後を辿りながら、早足で進む。急ぎたいのは山々であったが、能力者が本気で急げば、二人の民間人は付いて来れない。
 実際早歩きの強行軍でもカイトとスミスは息を切らし、足並みが遅れ気味であった。
(「二人を連れて来たのは、ミスったかもしれないな‥‥」)
 レイジは、少しだけ自分の判断が甘かった事を後悔した。

 もう少しで隠れ家との分岐点と言う所で、水が跳ねた――
「わあ!」
 遅れ気味で水辺に近かったスミスが、足を引っ張られて水中に引きずり込まれる!
「わわわわっ」
 カイトは恐怖で腰が抜けてしまい、その場に座り込む。
「くっ! 油断した」
 諫早 清見(ga4915)は、試作型水中剣「アロンダイト」を手に、間髪入れず水中に飛び込んだ。
「援護お願いします」
 そう言ってナンナも清見に続いて飛び込む。
「任せるであります」
「了解!」
 美空(gb1906)と衛司の二人は、試作型水陸両用アサルトライフルを手に持ち、水面に向けて照準を合わせる。
 キメラの仲間が清見とナンナに近づかない様に牽制する為である。
「本当は銃は使いたく無いんですが、この状況じゃ仕方ないですかな」
 衛司は銃器の使用を躊躇ったが、全員が水中に潜るのも又避けるべきと思い、銃器の使用を決意する。

 水面にライトを集中させる‥‥映し出された影は3つ。
 衛司は美空に掌を右側に2度振り親指を下向きにする。ハンドシグナルで向かって右側のキメラに対してターゲットを合わせようと言う意図だ。
 美空は親指を上に立てて了解の合図を送り、二人は右端のキメラに向けて発砲を開始した。

 陸上に残った能力者たちは、腰の抜けたカイトの肩を担いで立たせ、周囲を固めて防衛陣形を敷く。
「大丈夫ですよ。私達が必ずスミスさんを救出しますから。もちろんカイトさんもお守りします」
 トリシアがカイトを勇気づける。

 水中に潜った清見は、水中剣でキメラの腕を斬り落とそうと試みる。
 だが、もう1体のキメラが邪魔をして失敗。
 それを見たナンナは、邪魔なもう1体に攻撃を加え牽制。
 清見は、ナンナがもう1体を引き付けてくれているのを確認すると、キメラに再度斬り込んだ。
 水中では素早いとは言え、人間一人を捕まえているキメラの動きは幾分鈍重に見えた。
(「そこだ!」)
 確かな手応えと共に、キメラの二の腕から夥しい血が噴出し、水面を赤く染める。
「清見さん!」
 水中の様子が見えない為、浮かび上がってきた血の色にレイジが声を上げて叫ぶ。
「どうやらキメラはこいつらだけのようだし、俺も潜って援護に回るぜ」
 レイジは持っていた大剣を降ろし、携帯バッグからエアタンクと水中剣を取り出すと、そのまま水の中に飛び込んだ。

 美空と衛司の連携攻撃は、上手く試作型水陸両用アサルトライフルの持つ『連射性の脆弱』をカバーし合っていた。
 ここは地盤がしっかりしているのか、銃撃音に小石一つ落ちて来ない。
「二人には近づけないでありますよ」
 美空は、そう言いいつつ少しずつ距離を詰める。弾丸の威力が水中で減速される為、近距離の方が威力を増すからだ。
「美空さん、足元だけは注意して下さいよ」
 衛司も同じく距離を詰めながら、念の為注意を促す。
 キメラからすると相当鬱陶しい攻撃であったらしく、全身から血を滴らせながら接近して来る。そのまま水中に引き込むつもりだ。
「チェックメイトであります」
 美空は顔を出したキメラの顔面にありったけの銃弾を浴びせる。
『ギギッーーッ!』
 顔面に弾丸を受けたキメラは顔を覆って逃亡を図った。
「逃がしませんよ」
 衛司更に追い討ちをかけ、水中に沈んだキメラの影目掛け銃弾を浴びせる。
 ――数秒の後、キメラの死体が水面に浮き上がってきた。

 二の腕を斬った後、溺れて意識を失っているスミスを掴んだ清見も水面に顔を出して来た。
「清見さん、良かった」
 飛び込んだレイジが清見とスミスを迎える。
「キメラは?」
 レイジは用心深く周囲を警戒しながら訊ねた。
「自分の血を隠れ蓑にして逃げてしまったようだね」
「まるでイカかタコみたいな奴だな」
 ナンナも水中から上がって来る。どうやら残り2体は撤退したようだ。
「やっぱり、水中では向こうの方が有利ですね」
 ナンナは悔しそうである。
 スミスは幸いにも人口呼吸による応急処置で水を吐き出し、息を吹き返した。

●少女レジィナ
 カイトに肩を担がれて歩き出したスミスの歩調に合わせながら、一行は分岐点に差し掛かる。
「ここから隠れ家までは直ぐです」
 カイトの説明で能力者達は、ここで班を二つに分ける事にした。
「では、俺達は花園を目指しますね。あっ、フェリアさん、俺の救急セットを持って行って下さい」
 フェリアは清見から救急セットを受け取る。
「隠れ家班でありますか? それは困ったであります‥‥」
 美空はAU‐KV『ミカエル』のトランクに、装備などを入れっぱなしにする癖がある為、置いて行くような状況に狼狽を隠せない。
 そんな美空を余所に、隠れ家班はカイトとスミスのガイドの下、先を進んだ。

 分岐点から僅か5分ほどで隠れ家の入り口が見えて来た。
 例の血痕も入り口に続いている事から、これがレジィナの血である事は間違いない。
 入り口に着いて一同は驚愕する――。無数の爪痕で入り口付近が削られていたのだ。
 幼い少女の血肉に飢えたキメラ達が、爪で入り口を引っ掻いていたのだろう‥‥。
 どれ程の恐怖が少女の身に起っていたのか、容易に想像が付く。
 ナンナはAU‐KVを脱がずに、入り口で待機を志願し、美空はミカエルを脱いで、持って行く装備を検討中であった。
 まずトリシアとフェリアが入り口に入ってみる。
「ちょっと一人にするでありますが、おとなしく待っているのでありますよ?」
 美空も大至急揃えた装備でトリシア達に続く。

「レジィナ‥‥居る? 助けにきたよ」
 トリシアが叫ぶ。
「レジィナ殿〜、どこにいるですかー?」
 フェリアも叫ぶ。
 反響音が木霊するが、一向に返事が無い。
「いたでありますよ!」
 反対方向を探していた美空がレジィナを見つける――急いで駆け寄る二人。
 レジィナは肩口に深い傷を負っていた。血痕はその傷のものであった。
 出血によって意識を失っており、虫の息である。
「急いで応急処置を! 止血だけでもしないと」
「了解なのです。ここは任せるです」
 フェリアは、清見から預かった救急セットで消毒と止血を行った。
 どうにか一命は取り留めているが、出血による衰弱は激しく、体温も冷え切っている。
 その後4人はレジィナ救出を最優先させる為に大至急出口に向かうことになった。

●真打? 合流
 隠れ家班が分岐点に差し掛かった頃、超機械を取りに戻っていたテトと鉢合わせる。
「わりぃ、分岐の道を1本間違えて遅くなっちまった」
 地図と言っても手書きの略図なので、無理もない。
「テトさん、レジィナちゃんの傷を練成治療で塞いでくれませんか? 止血はしましたが練成治療の方が確かです」
「おう、俺様に任せとけって! 皆には迷惑掛けちまったからな」
 テトは包帯を解くと、露になった傷口を見て顔を顰める。
「小さい子にひでぇ事しやがる」
 そして超機械を使って治療を開始。細胞活性化により傷口がみるみる塞がって行く。
 テトが治療中も、残りのメンバーは陣を敷いてキメラの襲撃に備える。
「よし、きれいに塞がったよ」
「テトさん、お疲れ様」
「私達は出口を目指して先を急ぎますが、テトさんはどうされます?」
 と、トリシア。
「花園の方はまだなんだろ?」
「まだであります。この子を村人に預けたら直ぐに洞窟に戻るでありますよ」
「分かった。じゃあ先に行かせてもらうぜ。おいしい所は全部頂いておくけどな」
 テトは冗談笑いを交えて踵を返すと、奥へと走って行った。

●花園の死闘
 花園班は、分岐点から真っ直ぐ進んでいた。道はもう一本道である。
 道中水辺の近くを通ったが、敵襲も無くやり過ごす。
「そろそろ花畑が見えて来る頃だね。恐らくキメラもそこにいると見て良いね」
 先頭を歩く清見が、地図を見ながら呟いた。
「少なくても2体は確認してますから、それ以上いる可能性も念頭に入れて、用心して行きましょうか」
 アサルトライフルの安全装置は外したまま、いつでも即応体勢で臨む衛司が注意を促す。

 しばらく進むと、広い場所に出ようとしていた。恐らくこの先が花園だ。
「――!」
 清見がキメラの気配を察し、手で静止を掛ける。
 耳を澄ますと咀嚼音が聞こえる‥‥食事中のようだ。
 人数を確認すべく、そっと覗き込む。
 指で『6』と合図し、それから食事中のジェスチャーで状況を仲間に知らせる。

 突入するには今が好機と見た一行は、一気に飛び込んだ!
「オラッ! とっととケリつけるぜ!」
 大剣ユンユンクシオを手にしたレイジが手前にいたキメラの背中を斬り付けた。
 速度に全体重を乗せた一撃はキメラの硬い鱗ごと叩き伏せる!
『ギギーッ!』
 不意を付かれたキメラが振り返った所を更に切り伏せる。
「今度は普通の魚に生まれて来な。俺が食ってやるぜ!」
 レイジは倒れたキメラの鰓(えら)部分をメッタ刺しにして息の根を止めた。
「次はどいつだ! 今日は暴れさせてもらうぜ!」

「花園は傷付けないで下さいよ!」
 そう叫びながら手にしたククリナイフで白兵戦を挑む衛司。

 能力者の登場により、水辺付近にいた2体が早々に水中に身を潜める。
 清見は逃がさない様に獣突を試みたが、距離的に間に合わない。
「くっ」
 清見は獣の皮膚を使用して防御を固め、これ以上逃さないように水面を背にして残りのキメラと対峙する。
『ギッ』
 先程仕留め損ねた二の腕を斬られたキメラが眼前に現れる。
 動きが遅い上に片腕のキメラ相手に、後れを取る清見でも無いが、油断も出来ない。
「数は多いけど、俺達だけでここは凌ぎたいな」
 清見はキメラに獣突を加え、更に水辺から引き離す。
『ギギッ!』
 獣突を終えた清見の背後から、別の1体が襲いかかる! 
「いけ!」
 掛け声が上がった瞬間、電磁波がキメラに命中! ――キメラは不意打ちに体勢を崩されよろめいた。
「――!」
 背後に気が付いた清見がスラストでキメラの目を潰す。
『ギギーッ!』
 キメラは痛さのあまり、のた打ち回りながら水中に落ちる。
 1体逃したが、それよりも清見は声のした方向を見る。
「テトさん!」
 清見の言葉にレイジと衛司も振り向く。
「俺様、参上! ――とか言ってる場合じゃねぇな。すっかり遅くなっちまった」
「いえ、道中ご無事で何よりですよ」
「遅れちまった分、キリキリと働かせて貰うぜ‥‥!」
 テトが加わった事で数の上では4対2と形勢は有利であった。3体は水中に逃したが、今は構ってもいられない。
 テトが最も手前のキメラに電磁波を放つ。
 動きの鈍いキメラは回避出来ず直撃を受けてよろめいた所を、清見と衛司が左右から鰓を攻撃。
 怯んだ所をレイジの大剣が振り下ろされて、キメラは倒れる。
「残り1体。サクサクいくぜ!」

 一方レジィナを村人達に託した隠れ家班も、洞窟に再突入を開始。
 しかし彼らが花園に到着した時には、既に戦闘は終了。一同はラーフラの花を摘んで、キメラに殺された村人達の遺品を集めて戻って来た。
 花園でキメラが食事していたのは、残りの村人達であった。

●任務を終えて‥‥
「ありがとうございますじゃ。幸いレジィナも母親も、大事にならずに済みましたじゃ」
「良かったです」
 能力者達は喜び合った。

「あ‥‥あの、ナンナ‥‥」
「ん? トリシア、どうしたの?」
「あの時はごめんなさい。‥‥これからも喧嘩する事もあるかも知れない。でも‥‥私はナンナが好きだから‥‥」
 トリシアの言葉を聞いて頬を染めたナンナ。
「‥‥私こそどうかしてたわ‥‥ごめんなさいね」
「うん‥‥」
 トリシアとナンナの二人はお互いに抱き合って仲直りをする。

「美空どの、ツケの件――」
「忘れたであります」
「何と! さすが太っ腹ですじゃ」
「お腹は出てないでありますよ」
 とりあえずツケの件も決着をみたようだ。

「結局俺達勝ったんだろうか‥‥少し後ろ髪を引かれる気もするぜ」
 レイジはキメラの一部を逃した事を悔やむ。
「‥‥今回の戦いの勝者は、彼ら一般人達です。男達は犠牲になってでも、女の子を救い出そうとし、女の子は母親を救うために‥‥彼らこそが、真の勝者なのですよ」
 フェリアは今回の真の功労者達は彼ら村人達であると説いた。
「フェリアさん、上手い事言いますね」

「さあ、『8人の傭兵』に帰って食事でもしましょう。報酬も頂いてきたわ」
「あ、帰ったら、俺ハイボールお願いしますっ。衛司さんには負けないですよ」
「言うねぇ。そんじゃ飲み比べといきましょうか」
「カレーを振舞う予定ですから、楽しみにして下さいね」
「おお! カレー良いですね」

 その後洞窟は、村人達の手により入り口は完全に塞がれ、誰一人出入り出来なくしたとの事である。
 依頼の焦点である『少女救出』並びに『花の回収』で母親の命を救った事により、本部では今回の任務を『普通』として処理を行う事に決定した。

(代筆:水無瀬 要)