タイトル:補給部隊壊滅!マスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/05 04:18

●オープニング本文


 北米大陸南部。
 競合地域後方に、UCPの物資集積基地がある。その基地から前線各地や物資の行き届いていない町へと向かう補給部隊が出発し、またドローム社の製造プラントや他の生産拠点などから物資が運ばれてくる。
 後者は特に問題ない。一応護衛もついているし、非戦闘地域からの輸送なのでキメラなどに襲われることはほとんどない。だが、前者の場合、補給路を断つためにバグアによる攻撃が行われることがある。無論彼らの部隊にも護衛がついているが、危険な地域へ向かう部隊ほど当然危険度は高くなる。
 そして、輸送に3日かかる前線部隊への輸送行程の2日目、襲撃はいつものように突然始まった。

「敵襲! ライオンのようなキメラです!」
「撃退せよ!」
 号令とともに戦車の砲塔が、歩兵のロケットランチャーや対戦車ライフルが火を噴く。だが、キメラは彼らの攻撃を無視し、ダメージを受けてもなお、補給物資を積んだ輸送車目がけて突撃してきた。
 キメラは体当たりをし、あるいは口から炎の弾を打ち出して輸送車を攻撃する。集中攻撃を受けた輸送車は瞬く間に破壊され、爆発・炎上した。そして、目的を果たしたキメラたちは兵士たちには目もくれず、走り去っていった。

 ラスト・ホープ。最後の希望と名付けられたその組織の本部で、オペレーターは依頼の内容をモニタに映し出しながら言った。

「それから3回、同じルートを行く補給部隊がライオン型キメラに襲われて、そのキメラは3回とも輸送車両だけを破壊して逃走していきました。
 幸いにも人的被害は少ないのですが、このままでは前線の兵士の方々の弾薬や食料が無くなってしまいます。今回、補給車両の中身を空にして、キメラを殲滅するためだけの作戦が立案されました。
 皆様への依頼はこの作戦においてUCPの護衛部隊と協力し、キメラを殲滅することです。よろしくお願いします」

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
エドワード・リトヴァク(gb0542
21歳・♂・EP
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG

●リプレイ本文

●補給部隊長
「よく来てくれた、能力者諸君。私が今回の依頼を出した第八補給部隊の部隊長だ」
 応接室でそう言った人物は、白髪が交じった初老の男性だったが、彼の体を鎧う筋肉がただのデスクワークだけをやっている後方の士官ではないと物語っているようだった。
「あの、あなたが今回の依頼主ですか?」
 そう尋ねたのは鳳 湊(ga0109)だった。依頼自体はキメラ討伐だが、内容が少々特殊だったのでいろいろと確認したいことがあったのだ。
「ああ、そうだが、どうかしたかね?」
「まあ、いろいろと聞きたいことがあるのは確かだよね。敵のこととか現場の地形とか」
 煙草を吹かしながらそう言ったのは御影・朔夜(ga0240)である。
「それもそうだな。まあ、あとで護衛部隊の連中と一緒に打ち合わせがあるから、その時にまとめてやろう。それまでは、狭いところだがどうかくつろいでいてくれたまえ」
「そうは言っても、作戦を立てるための時間と話し合いは多い方が良いのだがな」
 少しでも時間が惜しいというようにファファル(ga0729)が言う。
「まあ、そういうな。奴らにも整備や訓練がある。そうだ、それじゃ、補給ルート上におけるキメラ殲滅計画の立案の足しになりそうな情報を提供しておこう。ラスト・ホープでも確認したと思うが、赤い毛皮のライオン型のキメラが五匹。襲ってくるのは行程で言うと二日目の夜。今までの計四回、全部とも同じ場所だった。そして輸送車だけを狙って、輸送車を破壊すると撤退する。対戦車ライフルや戦車の砲撃を当てればある程度はダメージは与えられるんだが、いかんせん、敵にはバリアみたいなもんがある。で、こっちの火力だけじゃ間に合わずに輸送車を破壊されておしまいだ。おかげで前線には一週間以上補給物資が届いていない。それでおまえさんたちに白羽の矢が立ったって訳さ」
「なるほど。確かにそれならば納得がいく。ところで部隊長殿、輸送車の荷物を空にするということは、輸送車は完全に囮でかまわないのよね?」
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)、愛称「ネル」が隊長に尋ねる。
「そうだな。もっとも、輸送車を破壊されて逃げられちまっても困るんで、輸送車は死守する必要がある」
「ふむ。了解しました。それと、できれば今回の作戦に同行する護衛部隊の詳細も知りたいのですが」
 今度はエドワード・リトヴァク(gb0542)が質問をする。
「おいおい、なんだか質問攻めだな。まあいい。今回の作戦には主力戦車5輛と随伴歩兵20人が護衛部隊としてつく。装備の質も練度も全く問題ない部隊だ。どうだ、少しは安心したか?」
「そうだね。戦車が5輛もあれば何とか作戦が立てられそうだね。んー。なんとしてもこのルートをまた使えるようにしないとね。前線の人たちは大変だろうし」
 そう言ったのはフィオナ・シュトリエ(gb0790)である。彼女の言葉を聞いて部隊長は頷いた。
「そうだ。何しろ私たちの所有する武器では、大口径のものしか効果がないからな。ネズミ一匹始末するのにも戦車やロケットランチャーが必要になる。だから物資が不足した前線はあっという間に崩壊するんだ」
「物資の輸送は戦線の維持には欠かせませんからね。なんとしても守らないと‥‥」
 セレスタ・レネンティア(gb1731)が呟くと、部隊長は頷いた。
「そう言うところを分ってくれている人間が多いのはありがたい話だな」
「そうだな。戦争に関する書物は数え切れないほど読んだが、兵站が機能しなければ部隊が壊滅するというのもよくある話だった。安全確保をなんとしても成功させなければな」
 淡々とそう言ったのはキリル・シューキン(gb2765)である。彼は部隊長に戦場となるポイントの周辺の地図をくれるように要請した。
「了解だ。ほかに何か質問はあるか? 答えられるものであれば答えよう」
「いや、特にない。我々はこれから作戦を練って護衛部隊との打ち合わせのときに進言することにする。拘束してすまなかった」
「まあ、気にしなくて良い。わざわざ呼び立てたのはこっちだしな。それじゃあ、少し上と話をしてから護衛部隊を連れてきて打ち合わせに入る。そうなだ、一時間前後で戻ってくる」
 部隊長はそう言うと応接室を出て行った。
 能力者たちは次々に意見を出し合い、作戦を固めていく。。
 そして数時間後、作戦を詰め終わった補給部隊は、自らを囮にしてのキメラ討伐へと旅立つことになったのである。

●敵襲
 二日目の夜。いつも襲われるポイントに間もなく近付こうとしている。
「各員、警戒を強化。キメラの襲撃に備えよ!」
「はっ!」
 補給部隊長の命令が飛ぶ。そして能力者たちにも隊長からの『依頼』が届いた。
「能力者諸君、今回の頼りは君たちだ。頼んだぞ」
「了解!」
 能力者たちは各自の持ち場で短い答えを返す。
 輸送車の荷台で双眼鏡を手に周囲の警戒を行っている湊がそれに気づいたのは、探査の眼で警戒をしていたネルとほぼ同時だった。
「九時の方向に敵影らしきものありです」
 ネルが無線で全員に伝える。そしてそれを聞いたセレスタが隊長に停車の依頼を出す。
「よし、全員戦闘態勢。敵が襲撃してきたら当初の打ち合わせの通り動くんだぞ」
 それを受けて隊長が命令を下す。そして戦車と歩兵が展開し、能力者たちも各自の持ち場についたころ、狙い澄ましたかのようにキメラが襲撃してきた。
「やはりライオン型のキメラです!」
 兵士の報告を隊長は冷静に受け取ると、「蹴散らせ」と号令をかけた。
「来たか‥‥」
 煙草を咥えながら朔夜が呟いた。朔夜は隠れていた車両から飛び出すと、キメラに向かって走る。そして銃の射程内に入ったライオン型キメラを攻撃する。
「侮るなよ獣共。私を誰だと思っている‥‥!」
 解き放たれた銃弾は、吸い込まれるかのようにキメラの額に命中し、頭部を粉砕して、夜の闇に消えていった。それを見届けた朔夜は、再び車両の陰に隠れた。
 味方が死んでも気にせずに、残った四匹のキメラは輸送車両に向かってくる。
「そう、輸送車さえ壊せればいいのね。でも、そうはいかない」
 ファファルが戦車の上からスナイパーライフルでキメラに狙いをつける。そして足に照準を合わせ、撃つ!
 弾丸は違うことなくキメラの足に命中し、キメラはバランスを崩して転倒する。
「いまですっ! 弾幕を!!」
 セレスタがUPCの歩兵たちに合図を出す。20門のロケットランチャーが一斉に火を噴く。弾幕を張り、キメラの足止めをするのが狙いだった。セレスタ自身もライフルで攻撃し、キメラの一匹を傷つけた。
「輸送車、戦車部隊の後方に待避せよ!」
 指揮管制機能を搭載した戦車に乗る、戦車分隊の隊長が指示を出す。その指示に従い輸送車は当面安全であろう場所に移動し、直衛部隊であるネル、エドワード、フィオナは、戦車と輸送車の中間の位置に陣を取った。
 独特の音を立てながら戦車部隊は砲塔を動かす。それは、M1帯電子加速粒子砲だった。特殊なフィールドを持つキメラ相手でも、これならばそれなりに対抗できる。
 煙が晴れると、多少ダメージを受けた様子のキメラたちがそれを意に介さずに輸送車両目がけて突進をしていた。
「よし、狙点を一カ所に絞れ。あの傷ついているキメラだ。今までの礼を返すぞ!」
 そして粒子砲が発射される。
 一閃。そしてまた一閃。
 元々傷ついていた上に集中砲撃を受けたキメラは、抵抗する術もなく塵に還っていった。
 そんな中、湊は冷静に、そして慎重に狙いを定めながら、敵にできる一瞬の隙を待っていた。ファファルの攻撃で倒れたキメラが起き上がって、無防備な状態をさらす瞬間を。
「狙撃手は一発が命。全身全霊をその一撃にっ!」
 がら空きの急所目がけて、スナイパーライフルから放たれた銃弾が空を滑る。そしてその弾はキメラの体を貫通し夜の闇へと消えていった。
「手応えがいまいちね‥‥」
 湊の銃弾は確かにキメラの弱点を突いたが、それでもまだしぶとくそのキメラは生き残っていた。さすがにもう突進してくるだけの余裕はないようであるが、それでも攻撃をする意志は捨てていない。そのキメラは口から炎の玉を吐き出した。
「まずいっ!」
 標的にされた戦車に乗っていた兵士が叫ぶ。足を止めて砲撃していた以上、今からあの玉をよけることは不可能だ。
「脱出しろ!!」
 分隊長が指示を出すが遅かった。炎の玉は戦車に直撃し、爆発・炎上する。脱出できなかった以上、あの兵士が生きていることはないだろう。
「くそっ! ワシントン条約は貴様らの味方にならんぞ! 害獣は抹消するのみだ!」
 兵士の死を見て怒りが許容量を超えたのだろうか、キリルのSESが急激に活性化し、そこからエネルギーがキリルの獲物であるアサルトライフルに流れていく。
 キミルは走りながらセミオートでアサルトライフルを撃ち放つ。それは炎の玉を吐き出したキメラの体に吸い込まれ、今度こそ息の根を止めた。そして、戦車が大破してできた隙間から、二匹のキメラが突撃してくる。
「行かせはしない!!」
 ネルが盾を構え、キメラの前に立ち塞がる。
 練力を高め、自らの強度を上げる。
 ネルの身体能力を考えれば、避けようと思えば避けれる突進だ。だがそうすればキメラは輸送車を破壊しそのまま逃げていくことだろう。それは作戦の失敗を意味しているのである。ここは、この突進を受け止めるしかない。果たしてネルはその突進を見事に受け止めた。そして、盾を前に出してキメラを押し返す。
「フィオナさん、援護を頼みます」
 エドワードはそう叫んで駆け出す。フィオナは多少驚きながらも銃でキメラの動きを牽制する。
 エドワードはもう一匹のキメラを二本の刀で切り裂いた。
 一撃目は喉元を、二撃目は胴体を切る。どう、という音を立ててキメラは倒れ、絶命した。
「これで、ラストだね!」
 フィオナは、残っている銃弾をすべてネルが食い止めたキメラに放つ。――オーバーキル。キメラは原形をとどめないほどに破壊された。
 ともあれ、これですべてのライオン型キメラ、ファイアビーストを倒した。熱気と硝煙と血の臭いが残る戦場に、一瞬の空白が訪れた。キリルが、大破した戦車へと歩いていく。
「これでこのルートは確保したが‥‥犠牲が出てしまったか」
 キリルは戦車に向かって敬礼する。
「彼は祖国のため、地球のために戦い、戦死した。彼に最大限の敬意を」
 それをみて随伴歩兵が、戦車から降りてきた同僚と分隊長が、そして輸送車両の面々や補給部隊長が敬礼をした。
「ありがとうよ、兄ちゃん。あんたのその言葉で、あいつも報われるだろうさ」
 戦車分隊長が、キリルに礼を言う。大柄で、だが柔和な表情の分隊長に、キリルは見たことのない父親というものを見た気がした。
「勝利の美酒を皆さんで‥‥とはいきませんね。これはせめてもの手向けです」
 湊が大破した戦車に酒をかける。
 朔夜は、なぜかこの光景に既視感を持っていた。
「あぁ、そうだったな――前もこんな展開だった。全く、度し難い話だ‥‥」
 一人、戦場の片隅で煙草を吹かしながら呟く。そしてこの感情は何だろう、と自問するのだ。
 ファファルも戦車に酒をかけ、自分も飲む。これが彼女なりの追悼だ。
 ネルはただ黙って敬礼をしていた。そんな彼女の思いを知るものは、誰もいない。
「なんとか‥‥なりましたね‥‥」
 セレスタが安堵のつぶやきを漏らす。
「そうですね。これで何とか、前線の人たちに物資を届けてあげることができます。補給が断たれて、彼らも必死の思いをしていることでしょう」
 エドワードは孤立した前線のことを思う。最前線の部隊にとって補給は心の支えだからだ。
「そうだね。でも、輸送車ばかりをキメラが狙うなんて野生のキメラじゃあり得ないよね」
 確かに、それもそうだとエドワードは思った。今回の勝利も根本的な解決にはならないのではないか? そんな気がする。そんなことを考えていたとき、補給部隊長の大声が響いた。
「よし、これで撤収だ。やつの亡骸は灰になってたが、ロケットペンダントが無事だった。分隊長、後でやつの家族にこれを届けてやってくれ」
「はっ!」
 分隊長が敬礼をして、それからロケットペンダントを受け取る。それが終わると補給部隊長は能力者たちに言った。
「今回の依頼はここまでだ。これから基地へ帰投する。君たちも輸送車に乗るように」
 それが締めの言葉になった。能力者たちは彼の言葉に従い輸送車に乗り込むと、二日かかった道のりを戻っていった。
 そして、途中で本物の補給物資を運ぶ部隊とすれ違った。
 敬礼を交わす。
 戦争は続いている。
 いつ終わるかわからない。
 それでもまだ人類はあきらめていなかった。
 希望はまだ残っているからだ。最後の希望が失われていないからだ。
 だからまだまだ戦える。能力者たちはそう思った。