●リプレイ本文
●挨拶
コーチ役の傭兵達が到着すると、エイシャ(gz0282)は早速武装して飛び出した。そして同じフェンサーである鷲羽・栗花落(
gb4249)を見つけると、飛びついてから両手を握ってブンブンと大きく振った。
「栗花落君来てくれたんやな。うち嬉しいわ」
「やあエイシャさん、挑戦状受け取ったよ! 訓練だからって手加減はしないからね」
「もちろん。こっちも全力で挑むよ。まけたくはないからな」
エイシャが訛りの強い英語で答える。
「お久しぶりです皆さん。そしてはじめまして。ビーストマンのエル・ウッド(gz0207)です。今回はエイシャさんと一緒に訓練をすることになりました。よろしくお願いします」
「よろしくね、エル君、エイシャさん。一緒に頑張ろうね」
栗花落が二人に挨拶をする。どこまでも元気な人だなとエルは思った。
「よろしく。セラ・インフィールド(
ga1889)です。練力管理の重要さをアドバイスしたいですね」
そう言って二人に握手をした。
「緑川安則(
ga4773)だ。久しぶりだね、エル君。エイシャ嬢ははじめまして。エル君とは空挺降下訓練以来だね。さて、これから教える技は意外と使えるから覚えておくといい」
そういうと、安則は二本の剣を構えた。
「さあ、行くぞ!」
覚醒し、肌の表面に龍の鱗が現れ、顔が龍みたいになり、性格と口調もより過激で攻撃的になった安則が真音獣斬をエルの左右に飛ばす。
いきなりのことに立ち尽くすが、本能的に危険を感じ取り一瞬にしてネイティブアメリカンの神聖な獣ジャガーの特性を持った姿に変身するエル。
安則はすぐさま瞬速縮地を使ってエルに迫ると、接近して二段撃を放つ。受動防御に失敗しもろに攻撃を受けるエル。
衝撃を受けて大きく吹き飛ぶ。
「ぐはっ! ‥‥っきっつうう」
なんとか受身を取って立ち上がる。
「いきなりはひどいですよ、安則さん」
「実戦に待ったはなしだぞ。こいつは相手が高機動型のグラップラーなどは回避するだろう真音獣斬を左右に展開させることで行動できる場所を前後に制限させ、混乱に乗じるというものだ。以前、とある報告書で見て参考にさせてもらった」
「なるほど‥‥俺も参考にします。ありがとうございました」
エルが礼を言うと安則は「こんなもんで満足するなよ。スキルコンボは自分で色々と考えてみるもんだ。あとは、一対一の戦いが何戦かあるから、それを見ながら盗めるところは盗むといい」
と言った。
「はい!」
エルは元気に返事をすると、サイエンティストの教官に呼ばれて練成治療を受けにいった。
「あの技便利そうやな。エアスマッシュで代用できるかな?」
エイシャが一人呟くと、エレノア・ハーベスト(
ga8856)が
「エアスマッシュであれをやるには時間をロスするから、上位のフェンサーじゃないと無理やな。いまのあんたではエアスマッシュを一回がいいところどす」
と答えた。
「まあ、エル君もまだあのコンボは無理だろうけどね。応用は利かせられるだろうけど」
とは美崎 瑠璃(
gb0339)の言葉だ。
「おっと、自己紹介がまだでしたなぁ。うちはエレノア・ハーベスト。うちは何かを教授する事はでけんし、自身の向上に努めまひょか。まあ、団体戦のパートナーぐらいは勤められますけどなぁ」
「あたしは美崎 瑠璃。エル君久しぶり。そしてエイシャ君はじめまして。精一杯がんばろーね!」
治療を終えて戻って来たエルと、エイシャに挨拶をするエレノアと瑠璃。
「ダークファイターのアセット・アナスタシア(
gb0694)だよ。あまり参考にはならないと思うけど、精一杯やるからよろしくね‥‥」
アセットが挨拶すると、エルは丁寧に、エイシャは訛りのある英語で元気に挨拶を返す。
「星井 由愛(
gb1898)です。個人戦には参加しませんけど、自分のできることをするつもりです‥‥」
由愛がおどおどとした口調で挨拶すると、対して白岩 椛(
gb3059)は丁寧な物腰で挨拶をした。
「白岩 椛です。私も個人戦には参加しませんけど、気がついたことはこのメモ帳に書き留めて、あとでまとめてお渡しする予定です。頑張ってくださいね」
椛はそう言って今までの依頼や日常生活で書き溜めた分厚いメモを見せる。いわば椛専用にカスタマイズされた百科事典のようなものだ。
「鳳覚羅(
gb3095)だ。少年に嬢ちゃん、よろしくな」
覚羅はまだ二人の実力を認めていないので、名前では呼んでやらない。果たしてこの訓練期間中に認められるか否か‥‥それは二人の努力にかかっていた。
「加賀・忍(
gb7519)よ。私もまだまだ新人みたいなものだし、一緒に勉強するつもりでやるわ」
忍はそういうと、エイシャとエルに握手を求めた。握手に応じ、挨拶を返す二人。そして挨拶が一通り終ったところで、能力者の教官が訓練の説明を始める。
●個人戦その1
「さて、今回の訓練は個人戦とチーム戦でいく。個人戦は4戦。チーム戦は時間が来るまでメンバーを入れ替えながら何回か行う。なお、戦闘が終了するたびに怪我はサイエンティストの教官が治療する。また、消耗した練力も十分に休養をとってから帰ってもらって、諸君の本業、すなわち対バグアとの戦闘に響かないようにするので、存分に力を発揮してほしい。それでは個人戦の第1戦目、セラ・インフィールド対鳳覚羅戦を始める。準備はいいかな?」
「私は問題なしです」
セラはチャクラムを巨大化させて途中に持ち手をつけたような輪状の刃の中にいた。その銘をエインガナと言う。
「俺も準備オッケーです。嬢ちゃんに坊や、よく洞察するんだね。そしてチーム戦で攻略の参考にでもするんだね」
覚羅は蛍火と脚甲を装備してセラに向き合う。
「では、はじめ!」
教官の合図とともに二人は走り出す。先に仕掛けたのはセラだった。覚醒したため全身が青白く光り、極端な糸目が開いて口元からは笑みが消える。
エインガナを回転させ体当たりするように覚羅に突っ込む。回避しようとする覚羅だが、ギリギリ間に合わなかった。
「くっ!」
髪の毛が飛び散り、額が軽く切れる。
深く踏み込み第二撃。下半身を狙ったその一撃は、だが脚甲によって弾かれる。
弾かれたまま角度を変えてエインガナの回転力を上げる。そのまま第三撃。
胴を狙ったそれは、覚羅の蛍火で弾かれる。
「鍛えが足りないか‥‥」
作ったばかりのエインガナでは覚羅の防御を打ち破ることはできないようだ。だが、取り回しについてはなんとかなっているようだった。
「今度はこちらの番ですね」
覚醒した覚羅は黒髪金眼となり、背中に炎を纏った漆黒の翼の幻影が現れ、身体の周囲には黒炎の羽根が舞踊ると言う幻想的な雰囲気を醸し出していた。。
「能力者の戦いを見せるために遠慮はしません‥いきます」
セラの第4撃が降り注いだ瞬間に目にも止まらぬ速度でセラの脇に移動し、脚甲で渾身の一撃を叩きこむ。
それはセラの膝の関節を砕く。
「うわあああああああああ!」
「勝負有り! そこまで!! 練成治療を!」
教官が勝負を止める。攻撃はなんとかなったエインガナだが、防御まではうまくいかなかった。覚羅の攻撃を防げなかったのだ。覚羅の攻撃がスキルを使った鋭い一撃だったと言うこともあるが‥‥
「大丈夫ですかセラ君!?」
覚醒を解いた覚羅が駆け寄る。
「きつい一撃だったよ‥‥でも、味方だったら心強い威力ではあるね‥‥」
脂汗を浮かべながらセラが言う。そして心配しなくても良いと言った。
「もともとエインガナの実験みたいな物だったからね、あなたが気に病む必要はないよ。それにもうすぐ治る」
実際セラの怪我はすぐに治療が終った。
「良かった。遠慮しないとは言ったもののこんなことになるとは‥‥」
覚羅が安堵しながら言うと、サイエンティストの教官が超機械を仕舞いながら言った。
「強化人間やバグア相手の予行練習だと思うといい。実際にバグアと戦った者の話によれば、バグアの一撃で瀕死の重傷を負った者もいたと言う話だ。能力者同士の戦いは、レベルにもよるが、強化人間と戦うには丁度良い訓練だと考えている」
「そうですか。私も覚羅さんも相当修羅場をくぐってきてはいるはずですが、さすがにゾディアックレベルの、生身でKVと渡り合える化け物みたいなバグアは相手にしたくないですね‥‥」
セラはそう答えると自力で立ち上がった。
「あ、お水どうぞ‥‥」
由愛が試合を終えた二人にミネラルウォーターを渡す。
「ありがとうございます」
「ありがとう由愛君」
セラと覚羅が由愛に礼を言う。二人が水を飲み終えるのを待って教官が口を開いた。
「では、次の対戦だ。エレノア・ハーベスト対加賀・忍。準備が出来次第フィールドへ」
●個人戦その2
「ほな、よろしゅうに」
エレノアが二本の剣を手に覚醒する。髪が銀色から金色に変わり、瞳は深紅に染まる。
「胸を借りるつもりでいく。よろしく頼む」
忍は外見的には変化はないが、覚醒した途端に戦闘行動を開始した。忍は覚醒すると殺戮戦闘狂と化すのだ。
「試したい技の為に今回は慣れへん二刀やけど‥‥上手く立ち回れるやろか? とにかくまあ、いきますぇ!」
エレノアは二段撃にソニックブームを併せた合成技でソニックブームを二発放てるか試す。
しかし二段撃とソニックブームの発動のタイミングが考えていたものとずれるために一撃目にしかエネルギーを付与できず、一発の衝撃波だけが忍に向かって飛んでいった。しかも二段撃の影響で命中率が下がっている状態で。
何とかそれを交わす忍。
「あっちゃー。やっぱり無理どすか。これは二段撃とスマッシュも無理そうやな」
その通りだった。スマッシュも同様の理由で一撃目にしか付与できなかった。
「なにやら実験は失敗に終わったようだが、今度はこちらから行くぞ」
忍はエレノアに切りかかると刹那を発動させた。力量差のあるエレノアとわたりあうにはこれしかないと思ったのだ。
しかしその一撃も薄皮一枚を切り裂いただけに終わる。
「やりますなぁ。ほな、最後の合成技をためさせていただきます」
エレノアはソニックブームとスマッシュの合成技を放つ。スマッシュの攻撃力をソニックブームに上乗せしたのだ。これは成功した。強烈な衝撃波が忍を襲う。
「かはっ‥‥まだまだ」
忍は大きなダメージを受けながらも唐竹・横薙ぎ・足払い等などを交えて果敢に攻め込む。その攻撃はエレノアを幻惑し、攻撃をためらわせる。
忍の攻撃をエレノアが受け止める。鍔迫り合い。
その時、忍が抜刀・瞬にてクロックギア持ち換えて刹那を使った強烈な突きを放つ。
「はっ!」
「くっ!」
その突きはエレノアの胸に命中し、呼吸を一瞬止めた。しかし力量差から決定打にかけるのも事実だった。千日手になろうかとしたそのとき、
「そこまで。この勝負は引き分けとする。練成治療を!」
教官が勝負をとめる。新人ながら忍は、その戦術で格上のエレノアと見事に戦い抜いた。このまま続けていればエレノアが勝ったかもしれないがそれでは忍のダメージが大きなものになってしまう。そこまで考えた上での引き分けだった。
「やりますなぁ、加賀はん」
エレノアが忍を賞賛する。
「エレノアこそ、さすがだな。あのまま続けていれば負けたのはこちらだろう。だが、おかげで勉強になった。感謝する」
「うちも勉強になりました。おおきに」
治療を終えた二人は握手を交わしてフィールドから出ると、次の試合の観戦に備えた。この二人にも由愛は水を渡す。また、ハンカチで汗を拭いてやった。二人が礼をいったのと同時に、教官が次の対戦者を呼び出した。
「では次だ、美崎 瑠璃対アセット・アナスタシア。準備が出来次第フィールドへ」
●個人戦その3
「今回はちょっと新しいコンボを考えてみたので試してみるね。よろしく」
瑠璃がそういうと、覚醒して髪と瞳が瑠璃色に染まる。
「同じ能力者との模擬戦は貴重な経験だからね。自分自身を磨くにはどんな相手よりも勉強になる‥‥全力でいかせてもらうよ」
とアセットが答える。アセットも覚醒して、両目が赤くなる。
「では、はじめ」
まずアセットが仕掛けた。アセットはソニックブームを放つ。だがそれは牽制のため瑠璃にかわされる。しかしその間にアセットは間合いをつめていた。
互いの間合いに入ると瑠璃の猛攻が襲う。アセットがおもわず間合いを開けたところに瑠璃の小銃から銃弾が飛ぶ。しかもそれは布斬逆刃で知覚攻撃に入れ替わっていた。
その銃弾はアセットの肩を掠め、肩から血を流す。
「まだまだ!」
瑠璃の銃撃は続く。だがアセットはそれを回避する。しかしそれが瑠璃の罠だった。
「行くよーっ! 新・必殺っ! 『瑠璃色の牙・疾風怒濤編』!!」
回避したところにソニックブームが飛んでくる。命中はしたが、それはアセットの硬い防御の前に阻まれる。そして反撃が始まった。
足払い、蹴り、剣での攻撃等を交えながら瑠璃にできる隙を見つけ、スマッシュと両断剣を合成した一撃を放つ。
「一撃必殺‥‥それが私の形だ!」
瑠璃は何とかそれを剣で受け止め威力を殺ぐ。しかし剣で受けたことで、衝撃によって腕の骨にひびが入ってしまう。
「きゃああああ」
悲鳴。
「勝負あり、そこまで! 練成治療を!!」
教官がストップをかける。
「さすがアセットさん‥‥一撃必殺可憐少女の二つ名は伊達じゃないね。あいたたた」
治療を受けながら瑠璃が言うと、アセットは気遣うように大丈夫かとたずねた。
「平気へいき。サイエンティストの教官がいてくれるんだから、思いっきり戦わないとね」
「そう言ってくれて安心しましたわ。それにしても能力者同士の戦いはキメラ相手の戦いとは勝手がかなり違いますね」
「そうだね。やっぱり勉強になるよ」
練成治療が終わり、瑠璃は腕をいろいろと動かしてみた。痛くない。
「お疲れ様です。お水どうぞ‥‥あ、汗もお拭きしますね」
「ありがとね」
「感謝する」
かいがいしく汗を拭かれ、二人は由愛に礼を言う。
「よし、それじゃあ最後の個人戦行くぞ。鷲羽・栗花落対エイシャ・アッシュフォード。準備が出来次第フィールドへ。
●個人戦その4
「それじゃ、よろしくね。とりあえずは回避に専念するから打ち込んできてみて」
栗花落が覚醒すると両腕を銀の輝きが篭手のように包み込む。
「わかった。本気でいくで!」
エイシャが覚醒をすると、背中に妖精の羽のようなオーラが現れた。銀色の光を放っている。
栗花落がガードの姿勢をとっているのでエイシャが迅雷で接近して突きを放つ。
軽く回避する栗花落。
「うん。剣筋はいいね。強いのは間違いない」
「じゃあ何であたらんの!?」
エイシャの繰り出す攻撃を紙一重でかわし続ける栗花落。
「単純に僕の身体能力が高いから。後はエイシャさんが能力者として強化された体の使い方に慣れてないからかな?」
鋭い斬撃を剣で受け流す。
「うん。腕もいいし思い切りもいいけど、能力者としての戦い方はまだまだかな‥‥?」
それでもエイシャの攻撃はだんだんと早くなっていく。
「うん。こんなものかな? それじゃあそろそろこっちからも行くよ。しっかり受けないと怪我するから気をつけてね!」
栗花落は少し切り結んだあとで、少しだけ距離を離す。そこから不意打ちのエアスマッシュが飛ぶ。
あわてて避けようとするが回避できるはずもなく、もろに受けて吹き飛ぶエイシャ。
「いっつー。体中のあちこちが痛いわ」
それでも受身だけはしっかり取ると、文句を言いながら立ち上がる。そこに迅雷でチャージしながら一気に接近し、即座に刹那で武器で受けられないようにしてから首元へ斬撃が――寸止めされる。
「勝負あり! そこまで! 練成治療を!」
教官のストップが入る。寸止めしていなければ首からの大量出血で重態になっていたことだろう。
「エイシャさん、まだまだ能力には慣れないと思うけど、一つずつ覚えていくしかないからね。今はエアスマッシュとか難しい技よりも、刹那、疾風、迅雷‥‥ここらへんを覚えて使いこなせるようになればいいと思うよ」
「ん‥‥わかった」
治療を受けながらエイシャが答える。
「まぁ元々戦ってたんだし、きっとすぐに慣れてくれるよ。ファイトだよ♪」
「ああ!」
栗花落を憧れの目で見上げるエイシャ。治療が終わると立ち上がり、礼を言いながら栗花落の手を握る。
この二人にも由愛は水を渡し汗を拭く。
「それでは、30分の休憩の後集団戦を開始する。なお、個人戦に参加しなかった4名は集団戦の為のパネル運びを手伝うように」
「あ‥‥は、はい!」
由愛が返事をしパネルを運ぶために歩き出す。
「あ、エイシャさん、休憩中にこれを‥‥」
椛はそう言い、破いたメモ帳の束を渡す。個人戦で気がついたポイントについて書き留めていたものだ。最後に渡そうかとも思ったが、個人戦だけでも得るものが多かったので、エイシャが休憩時間中に読むだけでもだいぶ違うだろうと考えたのだ。
「ありがとうございます」
エイシャは訛りの強い英語で礼を言うと、早速そのメモを読み始めた。
そして由愛と椛、エルと安則は集団戦の際遮蔽物として使うためのパネルを覚醒して力を上げ、すばやく運んでいく。
「‥‥南米の戦場は泥沼の持久戦も多いと聞きます。ですから練力管理が必要になってきます」
休憩中、セラはエイシャに練力管理の重要性を説いていた。
「覚醒するたびに練力を消費し、さらに覚醒し続けると十分単位で徐々に練力が消費されていきます。覚醒していないときの能力は覚醒時の半分、スキルも使えずアイテムの能力修正の恩恵も受けられません。練力の把握と管理を常に行い、スキルに頼り過ぎないようにしてください」
「わかった。ガス欠に気をつけろってことやな?」
「そうです。覚醒できない能力者はちょっと体が頑丈なだけで一般人と大差ありません。一番重要なのはエミタとSESを介して発揮される攻撃力です。命に危険が及んだときはAIが判断して自動的に覚醒状態にしてくれますので、それも忘れないでください」
セラの説明は続く。
「あと、フェンサーの君には関係のないことだけど探査の眼のように一定時間効果のあるスキルっていうのは、途中で覚醒解除をしたらそこで効果が切れる。持続時間が何分残っていようがね」
「意外と不便やな」
「そう、能力者も万能じゃない。能力者と練力は切っても切れない関係です。だから最後にもう一度言いましょう。練力の管理には気を使い、スキルに頼り過ぎないように、と」
「わかった。おおきにな」
と、説明が終わったころ設営も終わり休憩時間も終わった。
「それでは集団戦を始める。チームに分かれて配置についてくれ」
教官の言葉とともに、能力者たちはフィールドへと出て行った。
●集団戦
チーム分けは以下の通り。
Aチーム
セラ・インフィールド
エレノア・ハーベスト
アセット・アナスタシア
白岩 椛
加賀・忍
エル・ウッド
Bチーム
緑川安則
美崎 瑠璃
星井 由愛
鳳覚羅
鷲羽・栗花落
エイシャ・アッシュフォード
エルとエイシャを別々にしてそれぞれの思惑でチームに入った訳だが、それぞれの思惑とは別に訓練は進んでゆく。
「それでは集団戦、第一戦目、はじめ!」
戦闘の火蓋はセラが切った。
小銃「S−01」に持ち替えてBチームに牽制をかける。
安則に命中するがダメージは与えられず、そのほかのメンバーはそれを見て障害物の陰にかくれる。だが、敵をばらばらにできたことでセラの目的は達せられたと言える。
今度はその緑川だが、あえて自分のタイミングで行動はせず、味方の栗花落と行動のタイミングを合わせようとしていた。
「実戦ではタイマンなんぞありえん! やられたくなければ、必ず複数で囲んで確実に仕留めろ!」
味方に指示を出すことで安則の意図が筒抜けになるが構った事ではない。とにかく連携を組んでいくのが安則の狙いだった。
「いくよコンユンクシオ‥‥!」
そのタイミングを合わせるためにできた隙を狙って、アセットがソニックブームを放ち、障害物を利用しながら前進するBチームの動きを阻害する。
「エレノアさん、エル君、こちらもタイミングを合わせていきましょう」
椛が動くタイミングの近い二人に提案する。二人に提案は受け入れられたが、そのためにBチームの安則のグループ3人が先に攻めてくることになった。
安則の瞬速縮地と栗花落の迅雷という移動スキルで一気に接近され、覚羅は思いっきり走って30メートルの距離を移動し、椛に集中攻撃を仕掛ける。
椛は盾で防御し、その集中攻撃を防ぐ。だが完全にタイミングの一致した攻撃は椛の生命力の半分を一気に削る。そして第二撃が加えられ、立っているのがやっとの状態になる。椛が戦闘能力を失ったことを確認すると、三人はばらばらになって障害物にかくれた。
Aチームの連携組みは椛を失ったが、その分素早いタイミングで攻撃をすることが可能になった。エルとエレノアが瑠璃に向かって集中攻撃を仕掛ける。
エルは真音獣斬で、エレノアはソニックブームで離れた場所から攻撃を仕掛ける。立て続けに3発。その攻撃は瑠璃の生命力の8割を奪い取った。それでも椛よりは余裕がある。まだ戦闘に参加できた。
「援護するよっ! エル君に一泡吹かせてやれっ☆(にひひ)」
瑠璃はエイシャに向かってそういうと、小銃「S−01」で迅雷で接敵するエイシャを援護する。そしてエルに攻撃が加えられた。
瑠璃の射撃と、エイシャの円閃とスマッシュの併せ技がヒットしてエルは大きなダメージを受ける。
そして次いでエレノアに攻撃を仕掛ける。同じく銃撃と円閃+スマッシュの攻撃で、エレノアも大ダメージを受ける。
次に由愛が攻撃を仕掛ける。一瞬動きの遅かった忍を竜の咆哮で弾き飛ばすと、エイシャが相手取っているエレノアの側背から切りかかる。
「卑怯でも‥‥生きてさえいれば勝ちだと、私は思います‥‥!」
しかし、エレノアの防御力の前にその攻撃は弾かれる。
一方由愛に弾き飛ばされた忍は刹那で目にも止まらぬ一撃を放つと、スマッシュで攻撃力を増加させて由愛に攻撃する。
しかし、ドラグーンの装甲に弾かれ、わずかなダメージを与えたに過ぎなかった。
「そこまで!」
負傷者が4名も出たことでこれ以上の試合の継続は難しいと判断したのだろう。教官がストップをかける。
「練成治療を、早く!」
そして傷を負ったものたちに練成治療を行う。
「椛さん大丈夫?」
栗花落が自分も攻撃に加わった椛に言葉をかける。幾ら実戦形式の訓練とはいえ、やりすぎたかもしれないと思ったのだ。
「練成治療のおかげで、なんとか‥‥でも、死ぬかと思いました」
「ごめん‥‥」
栗花落が謝る。
「すまなかったな、椛君。だが、これで連携の重要さと言うのは新人達にも理解できたはずだ。タイミングを合わせての攻撃は、強固なフォース・フィールドを持つバグア相手でも有効だと、何かの報告書で読んだ覚えがある」
「そうですね‥‥私も防御力では結構な自信を持っていたのですが、このような結果になってしまいましたし‥‥」
盾を使った椛の戦術はこれまでは有効に機能していたが、今回の連携攻撃の前に始めて敗北を喫してしまった。しかしそれは連携攻撃が重要な戦術であることを告げていた。
「ちょっと予定していた戦術を使う暇はなかったけど、個人では限界のあることも確認できたしよかったのかな?」
覚羅がそういうと、椛は「そうだと思います」と答えた。
「エル君、エレノアはん、大丈夫か?」
エイシャが自分が大きなダメージを与えた二人に駆け寄り言葉をかける。
「なんとか、大丈夫です」
「うちもちょっと厳しかったどすけど、まあ、なんとか生きておりますわ。それより、瑠璃はんはどうですの?」
同じく練成治療を受ける瑠璃に言葉をかけると、瑠璃は意外に元気よく答えた。
「まあ、あたしはなんとか大丈夫かな。エル君に一泡吹かせることもできたしね♪」
「そうですか‥‥」
なんというか、呆れたような様子で答えるエレノア。
「まあ、なんと言うか‥‥短期決戦ですんだから良かったものの、これが長期戦だったら練力が確実になくなっていましたよ。もう一度言いますが、練力コントロールには気をつけてくださいね、エイシャさん」
「ああ‥‥気をつける」
勝負を決めるためとはいえスキルを使いすぎたことをセラに咎められてエイシャは一人反省する。
「基本的なところはお嬢ちゃんもエルも出来ているな。後は経験を積んでいくこととスキル、アイテムの組み合わせを覚えることだ。しっかりとゆっくりとでいいから覚えていけばいい。閃光手榴弾を使うとか、やり方は色々ある」
安則がそういうとエイシャとエルは頷いた。
「やっぱり、能力者同士の戦いと言うのはどんな相手とやるよりも勉強になるね。私も今度は連携攻撃に参加してみようかな‥‥」
アセットがそう言うと、由愛が「私も参加してみたいです」と同調した。
「なかなか見所があるね少年と嬢ちゃん‥いや失礼だね。これからは名前で呼ばせてもらうよ」
覚羅はそう言うと、エルとエイシャを名前で呼び直した。うれしそうに頷く二人。
「まだ何度かチーム戦はあるけど、エイシャさん、南米に戻っても頑張ってね。同じフェンサーとして応援してるよ♪」
栗花落がそう応援するとエイシャは礼を言った。
「あの、また、絶対生きて会いましょう、ね‥‥?」
由愛もつられてエイシャにそう言う。
「ああ。平和になったら、一緒に遊びたいな」
エイシャは訛りの強い英語でそう答える。
「ノーサイド、で良いわよね」
忍がそう言うと、一同は頷いた。勝敗にはこだわらない。能力者としての成長が何よりの目的だからだ。
「さて、練成治療が終ったようね。チーム戦、二戦目と行きましょうか?」
忍の言葉に、一同はくじでチーム編成を決めなおすと、第二戦目へと臨んだ。
「それでは集団戦、第二戦目、はじめ!」
教官の言葉とともに、全員が一斉に動き出す。
訓練は、まだまだ続く‥‥‥‥